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花陽「死を視ることができる眼」 (1002レス)
花陽「死を視ることができる眼」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/
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1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga] 2016/12/28(水) 21:32:06.76 ID:Hhhi1HzW0 /1 きっかけは、ありふれた日常の狭間にありました。 多分、それは誰にも止めることなんてできなかったと思います。 今になって考えてみれば、ひょっとすると私がこんな眼になってしまったのも、避けられない巡り合わせだったのかもしれません。 花陽「凛ちゃん、今日はちょっと食べ過ぎだよお」 凛「ヘーキヘーキ、これぐらい腹八分目にゃ」 真姫「それ、ラーメン3杯平らげたアイドルが言うセリフじゃないわよ」 凛「あれ、もしかして真姫ちゃん……凛の心配してくれてるの?」 真姫「と、当然でしょ。もうすぐラブライブだっていうのに、花陽の次は凛がダイエットなんてことになったらたまったもんじゃないわ」 凛「うわあ〜、真姫ちゃん怖いにゃあ……」 花陽「この時期に落とすのは大変だから……凛ちゃんも気をつけた方がいいよ」 凛「二人に言われたら仕方ないにゃ……でも沢山食べたなら、沢山動けばいいんだよ。ほら、こんな風に──」 そう言って、凛ちゃんは横断歩道に飛び出しました。 信号の色は赤から青に切り替わり、私達は凛ちゃんに続いて歩き出そうとしたんです。 瞬間、視界の端に映ったのは、止まる気配を見せない鉄の塊。 信号の色は、確かに青だったのに── SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482928326 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/1
983: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:05:40.19 ID:/N7ys/NkO 花陽「凛ちゃん危ないっ!!」 気がついたときには無我夢中で走り出していました。 運動神経は良い方ではなかったけれど、幸か不幸か、最悪の展開だけは避けられたんです。 凛ちゃんを突き飛ばして、迫り来る鉄塊と対峙。 許された思考は一瞬。 みんな、泣いちゃうかなあ── http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/983
984: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:05:49.21 ID:aaofM3EPO /8 真姫ちゃんの両親が経営する病院で眼が覚めたあと、私は警察から簡単な事情聴取を受けました。 内容は思っていたよりあっさりとしたもので、拍子抜けするぐらいのもの。 それもそのはずです。 現場には犯人はおろか、死体さえなかったんですから。 真姫「残っていたのは血痕だけ……ね。例のペーパーナイフにも血液は付着していなかったし、他に凶器らしい凶器も所持していない……証拠不十分もいいとこだわ」 花陽「…………」 真姫「でも悪質なイタズラで済ますには不可解な点が多過ぎる……花陽、あなた本当に嘘はついていないんでしょうね」 花陽「……うん」 ベッドの横で悩ましそうに考え事をしている真姫ちゃんは、小さく唸りました。 真姫「馬鹿げてるわ……そもそも死体が独りでに消失するなんてあり得ない」 花陽「そ、そうだね。やっぱり私の見間違いだったのかなあ」 真姫「真面目に答えて!」 花陽「真姫ちゃん、ここ病室だよお」 個室とはいえ、隣は普通の部屋だから大きな声は響いちゃいます。 真姫「うえっ!?ちょ、ちょっと興奮しちゃっただけよ」 狼狽える真姫ちゃんはいつも通りで、視ていると少し安心します。 いつもと変わらないものというのは、思いの外に心の清涼剤となるようでした。 真姫「身体はどこも問題ないし、症状も疲労による失神だったから、明日には退院できるってパパが言ってた」 花陽「そっか……えへへ、嬉しいなあ」 真姫「なに呑気なこと言ってるのよ。自分がどれだけ大変な目にあったか、ちゃんとわかってる?」 花陽「それはそうなんだけど……最近は病院にいるばっかりだったから、早くみんなのところに帰りたくて」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/984
985: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:05:58.39 ID:zSOyb1S7O 弁当箱から取り出したおにぎりを視ていると、我ながら会心の出来だと惚れ惚れします。 最高級の南魚沼産コシヒカリを贅沢に使い、先進の技術を用いて生み出された新型の炊飯器で炊き上げられ少し硬めに調整されたお米は、邪なものを寄せ付けない輝きを放っていました。 色、艶、香り──どれをとっても一級品であることに間違いありません。 もうこれだけで口の中が唾液だらけになるんですが、さらにここから一工夫。 お米からおにぎりに昇華するための工程を辿ります。 旨味が強い塩として有名な、石川県産・奥能登揚げ浜塩を使い、中まで握らず外側は形が崩れぬ程度にかためて、中はかるく、ふんわりと適度な力で握られたおにぎりは絶妙なバランスの上で成り立ちます。 それは、決して崩れぬ白色の黄金比── 私達日本人の心を掴んで離さない、美のホワイトトライアングル。 無垢な色をしたおにぎりを最後に飾り付けるのは、佐賀県産・初摘みの高級焼きのり。 仮にこのおにぎりがシンデレラだとすれば、私はさながらガラスの靴を拾う王子様というところでしょうか。 ああ───このおにぎりを口に運んでしまった瞬間、魔法は解けてしまうんですね。 けれど、わかっていてもこの口はあなたを求めてしまう。 海未ちゃん、私ようやくわかったよ。 これが孤独なheavenなんだね。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/985
986: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:06:07.89 ID:Jslf2fMYO /4 地獄のような冗談で、冗談のような地獄でした。 退院後、私は元通りに学校に通い始め、μ'sの練習にも復帰しました。 海未「花陽!ステップがワンテンポずれていますよ!」 花陽「は、はいっ!」 みんなの身体に刻まれた線が、動きと一緒に揺れる。 幼い子どもが描いたようなラクガキは、決して眼の前から消えることはありません。 躍る線を視ていると、強烈な眩暈に襲われます。 至る所に蔓延る線。 凛ちゃんにも、真姫ちゃんにも、穂乃果ちゃんにも、海未ちゃんにも、ことりちゃんにも、にこちゃんにも、絵里ちゃんにも、希ちゃんにも── そして私自身にも。 線、線、線、線、線。 身体に刻まれた線を視ていると、どうしようもない不快感が胸の内から溢れ出します。 はっきり言って、気持ち悪い。 花陽「うっ……!」 海未「花陽!大丈夫ですか!」 花陽「う、うん……最近ちょっと食が細かったから、そのせいかな、なんて……えへへ」 海未「冗談を言っている場合ですか。今日はもう安静にしていてください」 花陽「で、でもラブライブも近いし……休むわけには──」 にこ「ダメよ。さっさと帰って養生しなさい」 私の眼をしっかりと見据え、にこちゃんは言いました。 有無を言わさない態度には、強い意志が表れています。余程心配してくれていたのだと思います。 もちろん、他のメンバーも同じでした。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/986
987: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:06:14.82 ID:oNoCBsB5O さっきと同じことができれば、私はこの化物に勝てる。 ──この化物を殺し切れる。 そこまで考えて、私は我に返りました。 自分がどれだけ恐ろしいことを考えていたのか、気がついたんです。 [ピーーー]? そんなことする必要がどこにあるの? だって、仮に目の前にいるのがホンモノの化物でも。 生きてることには変わりないじゃないですか。 私がなんとかしなくても、きっと誰かが手を下してくれる。 今は逃げることだけを考えなきゃ。 花陽「……ごめんなさい。そこまで傷つけるつもりはなかったんです」 贖いの言葉は、きっと自分自身に当てたものでした。 路地裏から脱出するために全速力で走り出したあと、自分の言葉に強烈な違和感を覚えたんです。 それはおそらく、私の根底にある弱さに繋がること。 ──私、どうして殺しにきた人に謝ってるんだろう。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/987
988: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:06:24.19 ID:jmFmc9/iO /1 きっかけは、ありふれた日常の狭間にありました。 多分、それは誰にも止めることなんてできなかったと思います。 今になって考えてみれば、ひょっとすると私がこんな眼になってしまったのも、避けられない巡り合わせだったのかもしれません。 花陽「凛ちゃん、今日はちょっと食べ過ぎだよお」 凛「ヘーキヘーキ、これぐらい腹八分目にゃ」 真姫「それ、ラーメン3杯平らげたアイドルが言うセリフじゃないわよ」 凛「あれ、もしかして真姫ちゃん……凛の心配してくれてるの?」 真姫「と、当然でしょ。もうすぐラブライブだっていうのに、花陽の次は凛がダイエットなんてことになったらたまったもんじゃないわ」 凛「うわあ〜、真姫ちゃん怖いにゃあ……」 花陽「この時期に落とすのは大変だから……凛ちゃんも気をつけた方がいいよ」 凛「二人に言われたら仕方ないにゃ……でも沢山食べたなら、沢山動けばいいんだよ。ほら、こんな風に──」 そう言って、凛ちゃんは横断歩道に飛び出しました。 信号の色は赤から青に切り替わり、私達は凛ちゃんに続いて歩き出そうとしたんです。 瞬間、視界の端に映ったのは、止まる気配を見せない鉄の塊。 信号の色は、確かに青だったのに── SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482928326 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/988
989: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:06:33.46 ID:JGvzwpw5O そう言って、女医さんは渡したはずのペーパーナイフを私に差し出しました。 花陽「あの、これは?」 女医「名工が暇潰しに作った一品物にルーンを刻んだだけのものだけど、魔除けとしては一級品でね……きっとあなたを守ってくれるわ」 差し出されたペーパーナイフを受け取ると、女医さんは嬉しそうな表情を浮かべました。 ペーパーナイフは大きさの割にそこそこの重さがあるので、もしかしたら純銀で作られたものなのかもしれません。 花陽「こんな高価そうなもの……本当に頂いてもいいんですか」 女医「道具は持つべき人が使いこなしてこそ、真の価値が生まれるものなの。そのナイフは、君が使ってこそ輝ける……私はそう思った。大事に使ってね」 花陽「は、はいっ、ありがとうございます」 女医「そろそろ時間かしら……支払いは済ませておくから、君はゆっくりしていくといいわ」 腕時計を確認した女医さんは伝票を持って席を立つと、レジに向かって歩き出そうとします。 しかし、一度だけ立ち止まると、元いた席の方──つまり私がいるテーブルの方に振り返ると、一言だけ告げました。 女医「また会いましょう」 女医さんが店を出て行くのを見送ってから、もらったペーパーナイフに目を向けます。 外から差し込む日光に照らされ、ナイフが白く鋭く光ったのが、やけに印象的でした。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/989
990: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:06:43.26 ID:LnIbC7yVO 花陽「凛ちゃん危ないっ!!」 気がついたときには無我夢中で走り出していました。 運動神経は良い方ではなかったけれど、幸か不幸か、最悪の展開だけは避けられたんです。 凛ちゃんを突き飛ばして、迫り来る鉄塊と対峙。 許された思考は一瞬。 みんな、泣いちゃうかなあ── http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/990
991: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:06:53.20 ID:KOg2wFPfO /3 危惧されていた事故の後遺症もなく、私はすぐに退院することになりました。 μ'sのみんなも退院を心から祝福してくれて、誕生日でもないのに主役気分です。 凛「かよちん……かよちんかよちんかよちんっ!!ホントに良かった……かよちんが無事に退院できて、ホントに良かったにゃ!」 花陽「凛ちゃん、ちょっと苦しいよお」 凛「ご、ごめんね……痛かった?まだどこか悪いところあるの?」 花陽「大丈夫だよ。強く抱き締められたから、ちょっと苦しかっただけ。もうどこも悪いとこはないから、心配しないで」 唯一無二の親友に、私は嘘をつきました。 治っていない場所なら、ある。 私を抱きしめる凛ちゃんの身体の至る所に刻まれた、まるでツギハギみたいに蔓延る線を視ていると、心がざわつきます。 頭の奥がジリジリと焼け焦げるような感覚。 視てはいけないモノを、直視している恐怖。 その両方を抱えたまま、私は日常に戻ることになりました。 ──その先には、地獄のような非日常が待っているとも知らずに。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/991
992: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:00.37 ID:IgU+2cPLO 弁当箱から取り出したおにぎりを視ていると、我ながら会心の出来だと惚れ惚れします。 最高級の南魚沼産コシヒカリを贅沢に使い、先進の技術を用いて生み出された新型の炊飯器で炊き上げられ少し硬めに調整されたお米は、邪なものを寄せ付けない輝きを放っていました。 色、艶、香り──どれをとっても一級品であることに間違いありません。 もうこれだけで口の中が唾液だらけになるんですが、さらにここから一工夫。 お米からおにぎりに昇華するための工程を辿ります。 旨味が強い塩として有名な、石川県産・奥能登揚げ浜塩を使い、中まで握らず外側は形が崩れぬ程度にかためて、中はかるく、ふんわりと適度な力で握られたおにぎりは絶妙なバランスの上で成り立ちます。 それは、決して崩れぬ白色の黄金比── 私達日本人の心を掴んで離さない、美のホワイトトライアングル。 無垢な色をしたおにぎりを最後に飾り付けるのは、佐賀県産・初摘みの高級焼きのり。 仮にこのおにぎりがシンデレラだとすれば、私はさながらガラスの靴を拾う王子様というところでしょうか。 ああ───このおにぎりを口に運んでしまった瞬間、魔法は解けてしまうんですね。 けれど、わかっていてもこの口はあなたを求めてしまう。 海未ちゃん、私ようやくわかったよ。 これが孤独なheavenなんだね。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/992
993: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:07.68 ID:xy9gKVqIO /4 地獄のような冗談で、冗談のような地獄でした。 退院後、私は元通りに学校に通い始め、μ'sの練習にも復帰しました。 海未「花陽!ステップがワンテンポずれていますよ!」 花陽「は、はいっ!」 みんなの身体に刻まれた線が、動きと一緒に揺れる。 幼い子どもが描いたようなラクガキは、決して眼の前から消えることはありません。 躍る線を視ていると、強烈な眩暈に襲われます。 至る所に蔓延る線。 凛ちゃんにも、真姫ちゃんにも、穂乃果ちゃんにも、海未ちゃんにも、ことりちゃんにも、にこちゃんにも、絵里ちゃんにも、希ちゃんにも── そして私自身にも。 線、線、線、線、線。 身体に刻まれた線を視ていると、どうしようもない不快感が胸の内から溢れ出します。 はっきり言って、気持ち悪い。 花陽「うっ……!」 海未「花陽!大丈夫ですか!」 花陽「う、うん……最近ちょっと食が細かったから、そのせいかな、なんて……えへへ」 海未「冗談を言っている場合ですか。今日はもう安静にしていてください」 花陽「で、でもラブライブも近いし……休むわけには──」 にこ「ダメよ。さっさと帰って養生しなさい」 私の眼をしっかりと見据え、にこちゃんは言いました。 有無を言わさない態度には、強い意志が表れています。余程心配してくれていたのだと思います。 もちろん、他のメンバーも同じでした。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/993
994: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:16.51 ID:R5f9kjPfO /1 きっかけは、ありふれた日常の狭間にありました。 多分、それは誰にも止めることなんてできなかったと思います。 今になって考えてみれば、ひょっとすると私がこんな眼になってしまったのも、避けられない巡り合わせだったのかもしれません。 花陽「凛ちゃん、今日はちょっと食べ過ぎだよお」 凛「ヘーキヘーキ、これぐらい腹八分目にゃ」 真姫「それ、ラーメン3杯平らげたアイドルが言うセリフじゃないわよ」 凛「あれ、もしかして真姫ちゃん……凛の心配してくれてるの?」 真姫「と、当然でしょ。もうすぐラブライブだっていうのに、花陽の次は凛がダイエットなんてことになったらたまったもんじゃないわ」 凛「うわあ〜、真姫ちゃん怖いにゃあ……」 花陽「この時期に落とすのは大変だから……凛ちゃんも気をつけた方がいいよ」 凛「二人に言われたら仕方ないにゃ……でも沢山食べたなら、沢山動けばいいんだよ。ほら、こんな風に──」 そう言って、凛ちゃんは横断歩道に飛び出しました。 信号の色は赤から青に切り替わり、私達は凛ちゃんに続いて歩き出そうとしたんです。 瞬間、視界の端に映ったのは、止まる気配を見せない鉄の塊。 信号の色は、確かに青だったのに── SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1482928326 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/994
995: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:23.65 ID:9WKEuP5YO そう言って、女医さんは渡したはずのペーパーナイフを私に差し出しました。 花陽「あの、これは?」 女医「名工が暇潰しに作った一品物にルーンを刻んだだけのものだけど、魔除けとしては一級品でね……きっとあなたを守ってくれるわ」 差し出されたペーパーナイフを受け取ると、女医さんは嬉しそうな表情を浮かべました。 ペーパーナイフは大きさの割にそこそこの重さがあるので、もしかしたら純銀で作られたものなのかもしれません。 花陽「こんな高価そうなもの……本当に頂いてもいいんですか」 女医「道具は持つべき人が使いこなしてこそ、真の価値が生まれるものなの。そのナイフは、君が使ってこそ輝ける……私はそう思った。大事に使ってね」 花陽「は、はいっ、ありがとうございます」 女医「そろそろ時間かしら……支払いは済ませておくから、君はゆっくりしていくといいわ」 腕時計を確認した女医さんは伝票を持って席を立つと、レジに向かって歩き出そうとします。 しかし、一度だけ立ち止まると、元いた席の方──つまり私がいるテーブルの方に振り返ると、一言だけ告げました。 女医「また会いましょう」 女医さんが店を出て行くのを見送ってから、もらったペーパーナイフに目を向けます。 外から差し込む日光に照らされ、ナイフが白く鋭く光ったのが、やけに印象的でした。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/995
996: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:30.73 ID:2aSspihiO /9 病院から何事もなく退院したあと、私は普段より少し遅れて登校することになりました。 いわゆる、遅刻寸前というやつです。 普段は朝練に出てるからこんなことはないんだけどなあ。 遅刻したくなくて焦る気持ちと、早くみんなの待ってる学校に行きたいという気持ちとが重なり合って、自然と駆け足になります。 ですがこちらの気持ちなんて配慮することもなく、信号の色は変わるものです。 花陽「……もう、タイミング悪いなあ」 広くて見晴らしの良い交差点前で信号待ちをしていると、向こう側の方に見知った人物がいました。 いえ、人物と呼ぶのは間違いだったかもしれません。 ??「…………」 ──普通の人なら見落としていたかもしれない距離。 視力の悪い人なら、その表情をはっきりと確認するのは難しかったのではないかと思います。 でも、今の私にははっきりと視えました。 黒髪で、髪が背中にかかるぐらい長くて、女性で、肌が白くて、左腕がなくて── ニヤリと笑みを浮かべた口元には、鋭い牙が二本。 終わったはずなのに。 終わらせたはずなのに、彼女は向こう側から私のことをじっと見つめていました。 あの路地裏で人を食らっていた化物は、昼間の交差点に平然と姿を現したんです。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/996
997: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:38.50 ID:Dz8cU8RDO 花陽「凛ちゃん危ないっ!!」 気がついたときには無我夢中で走り出していました。 運動神経は良い方ではなかったけれど、幸か不幸か、最悪の展開だけは避けられたんです。 凛ちゃんを突き飛ばして、迫り来る鉄塊と対峙。 許された思考は一瞬。 みんな、泣いちゃうかなあ── http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/997
998: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:45.65 ID:w4YjGAgZO さっきと同じことができれば、私はこの化物に勝てる。 ──この化物を殺し切れる。 そこまで考えて、私は我に返りました。 自分がどれだけ恐ろしいことを考えていたのか、気がついたんです。 [ピーーー]? そんなことする必要がどこにあるの? だって、仮に目の前にいるのがホンモノの化物でも。 生きてることには変わりないじゃないですか。 私がなんとかしなくても、きっと誰かが手を下してくれる。 今は逃げることだけを考えなきゃ。 花陽「……ごめんなさい。そこまで傷つけるつもりはなかったんです」 贖いの言葉は、きっと自分自身に当てたものでした。 路地裏から脱出するために全速力で走り出したあと、自分の言葉に強烈な違和感を覚えたんです。 それはおそらく、私の根底にある弱さに繋がること。 ──私、どうして殺しにきた人に謝ってるんだろう。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/998
999: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:07:52.83 ID:5eHlpcF2O /3 危惧されていた事故の後遺症もなく、私はすぐに退院することになりました。 μ'sのみんなも退院を心から祝福してくれて、誕生日でもないのに主役気分です。 凛「かよちん……かよちんかよちんかよちんっ!!ホントに良かった……かよちんが無事に退院できて、ホントに良かったにゃ!」 花陽「凛ちゃん、ちょっと苦しいよお」 凛「ご、ごめんね……痛かった?まだどこか悪いところあるの?」 花陽「大丈夫だよ。強く抱き締められたから、ちょっと苦しかっただけ。もうどこも悪いとこはないから、心配しないで」 唯一無二の親友に、私は嘘をつきました。 治っていない場所なら、ある。 私を抱きしめる凛ちゃんの身体の至る所に刻まれた、まるでツギハギみたいに蔓延る線を視ていると、心がざわつきます。 頭の奥がジリジリと焼け焦げるような感覚。 視てはいけないモノを、直視している恐怖。 その両方を抱えたまま、私は日常に戻ることになりました。 ──その先には、地獄のような非日常が待っているとも知らずに。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/999
1000: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [] 2016/12/29(木) 03:08:00.25 ID:SJFELXocO 染みは路地裏に向かうよう、続いていました。 点々としている染みを追いかけていると、その色が段々と濃くなっていきます。 これ以上は良くない、人もいないし視界も悪い。なにより嫌な予感がする。 そう思っていても、足は歩みを止めようとしてくれません。 曲がり角の先にある行き止まりに辿り着いたところで、私は息を呑みました。 花陽「──えっ?」 人が、人を食べてる。 髪の長い女の人が、スーツを着た中年の男の人の首筋に喰らいついてる。 じゅるじゅる。 じゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる。 なにかを啜るような音が聴こえる。 なにか──なにかってなんなの? そんなの見ればわかるに決まってる。 アレは、血を啜ってるんだ。 花陽「──っ!」 叫び声を上げそうなところを、間一髪のところで防ぎました。 まだ、向こうはこちらに気がついていません。 なら逃げられるはず。 逃げなきゃ。 逃げなきゃ! 逃げなきゃ!! その場で膝をつきそうなのを堪えて、震える足に無言で喝を入れて、一歩ずつ後退します。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/1000
1001: 1001 [] Over 1000 Thread ___, - 、 /_____) . | | / ヽ || 父さんな、会社辞めて小説で食っていこうと思うんだ |_| ┃ ┃ || (/ ⊂⊃ ヽ) /  ̄ ̄ ̄ \ ! \_/ ! ( ( (ヽ ヽ ,\ _____ /、 | −、ヽ\ ! ゝ/  ̄ ̄ ̄ \ /. \/ ̄\/ .\ | ・ |─ |__ / / _____ヽ | | _┌l⊂⊃l | | ┌ - ′ ) / | | / ─ 、−、! | | / ∋ |__| | | ヽ / ヽ < |__|─ | ・| ・ | | /`, ──── 、 | | ` ─┐ ?h ̄ ( ` ─ o−i ヽ / \ .ノ_ .j ̄ ̄ | ヽ、 ┬─┬ノ / ̄ ./ ヽ- 、\ /  ̄ ヽ\ // /ヽ─| | ♯| / i | ..) ) \ i ./ |\\ | | / `i'lノ))┘/ , ─│ !-l⊂⊃l┐__ヽ__/\ / | | | | | | ̄| / /| / ( (... .ヽ / |____|∈ __./ .| | | |_|/ヽ、_/ ./ ` ─ /\ /ヽ  ̄ \-──| \|_| | | |───/____i l=======l |_____ __\ |\ | | |/ ヽ── |______\ l二|^|二二|^|二l 丿______ |_丿 \| l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | | | |. | | | | | | | |  ̄ ̄ ̄ l | ̄| ̄ ̄ ̄ ̄.| |────| |. | | | | | |.──────| | ̄ ̄ ̄| ̄| SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々) http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482928326/1001
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