[過去ログ] 花陽「死を視ることができる眼」 (1002レス)
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(1): [sage saga] 2016/12/28(水)21:32 ID:Hhhi1HzW0(1/119) AAS
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きっかけは、ありふれた日常の狭間にありました。

多分、それは誰にも止めることなんてできなかったと思います。

今になって考えてみれば、ひょっとすると私がこんな眼になってしまったのも、避けられない巡り合わせだったのかもしれません。

花陽「凛ちゃん、今日はちょっと食べ過ぎだよお」

凛「ヘーキヘーキ、これぐらい腹八分目にゃ」
省11
2: [sage saga] 2016/12/28(水)21:33 ID:Hhhi1HzW0(2/119) AAS
花陽「凛ちゃん危ないっ!!」

気がついたときには無我夢中で走り出していました。

運動神経は良い方ではなかったけれど、幸か不幸か、最悪の展開だけは避けられたんです。

凛ちゃんを突き飛ばして、迫り来る鉄塊と対峙。

許された思考は一瞬。
省1
3: [sage saga] 2016/12/28(水)21:34 ID:Hhhi1HzW0(3/119) AAS
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眼が覚めると、強烈な頭の痛みに襲われました。

でも痛みは長続きせず、瞼を開いた先ではお医者さんとお母さんが、驚いた様子で私を食い入るよう見つめてます。

驚いた、信じられない、奇跡だ。

そんな驚きの声が耳に届く中、私には一つだけ、どうしても気になることがあったんです。

花陽「どうしてお母さん達は身体にラクガキしてるの?」
4: [sage saga] 2016/12/28(水)21:35 ID:Hhhi1HzW0(4/119) AAS
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危惧されていた事故の後遺症もなく、私はすぐに退院することになりました。

μ'sのみんなも退院を心から祝福してくれて、誕生日でもないのに主役気分です。

凛「かよちん……かよちんかよちんかよちんっ!!ホントに良かった……かよちんが無事に退院できて、ホントに良かったにゃ!」

花陽「凛ちゃん、ちょっと苦しいよお」

凛「ご、ごめんね……痛かった?まだどこか悪いところあるの?」
省8
6: [sage saga] 2016/12/28(水)21:36 ID:Hhhi1HzW0(5/119) AAS
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地獄のような冗談で、冗談のような地獄でした。

退院後、私は元通りに学校に通い始め、μ'sの練習にも復帰しました。

海未「花陽!ステップがワンテンポずれていますよ!」

花陽「は、はいっ!」

みんなの身体に刻まれた線が、動きと一緒に揺れる。
省17
7: [sage saga] 2016/12/28(水)21:37 ID:Hhhi1HzW0(6/119) AAS
花陽「にこちゃん……」

にこ「あんたが体調悪いと、こっちまで調子狂っちゃうじゃない……だからきっちり治して、とっとと帰ってきなさいよ。いい?」

花陽「う、うん。ごめんね、みんな」

凛「かよちん……早く良くなってね」

逃げるようにその場から立ち去っても、線は眼の前から消えてくれません。
省14
8: [sage saga] 2016/12/28(水)21:38 ID:Hhhi1HzW0(7/119) AAS
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ペーパーナイフの持ち主だと主張する女性は、落とし物を拾ってくれたお礼にと、私を喫茶店に連れて行ってくれました。

どうやら女医であるらしいその人は、早々に私の悩みを見抜いてしまったのです。

女医「聞いたことのない症状ね。網膜にノイズが映る病気ならいくらでもあるけど、生きてるものに限定して線がかかるなんて病気、聞いたことがありません」

花陽「そ、そうですか……」

病気を治す手がかりが掴めるかもしれないと期待していたけれど、やっぱりダメかな。
省13
9: [sage saga] 2016/12/28(水)21:39 ID:Hhhi1HzW0(8/119) AAS
花陽「…………」

女医「病は気からと言うでしょう。あれ、本当のことよ。あなたには悩みを打ち明けることができる人が、沢山いるんじゃないの?」

花陽「……いんです」

女医「ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。もう少し大きな声で言ってもらえる?」

花陽「恐いんです。悩みを打ち明けたら最後、この病気がμ'sのみんなを不幸にしてしまうような気がして──」
省9
10: [sage saga] 2016/12/28(水)21:40 ID:Hhhi1HzW0(9/119) AAS
そう言って、女医さんは渡したはずのペーパーナイフを私に差し出しました。

花陽「あの、これは?」

女医「名工が暇潰しに作った一品物にルーンを刻んだだけのものだけど、魔除けとしては一級品でね……きっとあなたを守ってくれるわ」

差し出されたペーパーナイフを受け取ると、女医さんは嬉しそうな表情を浮かべました。

ペーパーナイフは大きさの割にそこそこの重さがあるので、もしかしたら純銀で作られたものなのかもしれません。
省9
11: [sage saga] 2016/12/28(水)21:41 ID:Hhhi1HzW0(10/119) AAS
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日が沈みかけ、正に逢魔が時となった頃、私は穂むらで買い物をしてから帰宅することにしました。

穂乃果ちゃん達からは外をうろついている理由を訊かれましたが、図書館でゆっくりしていたから帰るのが遅くなった──と答えると、渋々ながらも納得してくれました。

本当は違います。

家に帰ってじっとしているよりも、身体を動かしている方がいくらか気が紛れそうだったからです。

線を視るのは気持ちが悪いけれど──
省10
12: [sage saga] 2016/12/28(水)21:42 ID:Hhhi1HzW0(11/119) AAS
染みは路地裏に向かうよう、続いていました。

点々としている染みを追いかけていると、その色が段々と濃くなっていきます。

これ以上は良くない、人もいないし視界も悪い。なにより嫌な予感がする。

そう思っていても、足は歩みを止めようとしてくれません。

曲がり角の先にある行き止まりに辿り着いたところで、私は息を呑みました。
省17
13: [sage saga] 2016/12/28(水)21:43 ID:Hhhi1HzW0(12/119) AAS
大丈夫、問題ない、逃げられるはず。

一歩、また一歩と後退するごとにアレとの距離が離れていく中、曲がり角まであと少しというところで、砂利を踏んでしまいました。

血を啜るのに夢中だった女の動きが止まります。

まるで、時間が止まってしまったかのようでした。

人間とは思えない猟奇的な犯行を行っていた女は、ゆっくりとこちらに振り返りました。
省13
14: [sage saga] 2016/12/28(水)21:44 ID:Hhhi1HzW0(13/119) AAS
花陽「いや、離してっ!!いやああああ!!」

両腕を使って必死の抵抗を試みますが、女性とは思えない怪力になす術もなく、徐々に口元が首に近づいてきているのが肌でわかりました。

生暖かい吐息に鳥肌が立ち、必死に身を捩ります。

ですが、女の牙が私の肌に突き刺さるのはもう時間の問題です。

──ああ、私こんなところで死ぬんだ。
省10
15: [sage saga] 2016/12/28(水)21:45 ID:Hhhi1HzW0(14/119) AAS
花陽「ううっ……やああああああああっ!!」

何故そうしようと思ったのかは、わかりません。

しかし、その行動は間違っていませんでした。

まるでバターを切るかのようにあっさりと──

女の左腕は、線に沿って両断されたんです。
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16: [sage saga] 2016/12/28(水)21:46 ID:Hhhi1HzW0(15/119) AAS
さっきと同じことができれば、私はこの化物に勝てる。

──この化物を殺し切れる。

そこまで考えて、私は我に返りました。

自分がどれだけ恐ろしいことを考えていたのか、気がついたんです。

殺す?
省10
17: [sage saga] 2016/12/28(水)21:47 ID:Hhhi1HzW0(16/119) AAS
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路地裏から飛び出した私は、思いがけない人物と出会いました。

希「おっ、花陽ちゃんやん」

先ほどの出来事で混乱していたので、声をかけてもらわなければ気がつかずに通り過ぎていたかもしれません。

花陽「希ちゃんっ!?」

希「こんなところでなにやってるん?もう夕飯の時間──」
省17
18: [sage saga] 2016/12/28(水)21:48 ID:Hhhi1HzW0(17/119) AAS
極度の緊張から解放されたせいか、意識が段々と遠のいていく。

最後に視たのは、倒れ込もうとする私を支える希ちゃんの顔に刻まれた、白い線。

あの化物にも刻まれていた、線。

そこで漠然とだけど理解しました。

──ああ、そういうことなんだ。
省1
19: [sage saga] 2016/12/28(水)21:50 ID:Hhhi1HzW0(18/119) AAS
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真姫ちゃんの両親が経営する病院で眼が覚めたあと、私は警察から簡単な事情聴取を受けました。

内容は思っていたよりあっさりとしたもので、拍子抜けするぐらいのもの。

それもそのはずです。

現場には犯人はおろか、死体さえなかったんですから。

真姫「残っていたのは血痕だけ……ね。例のペーパーナイフにも血液は付着していなかったし、他に凶器らしい凶器も所持していない……証拠不十分もいいとこだわ」
省16
20: [sage saga] 2016/12/28(水)21:51 ID:Hhhi1HzW0(19/119) AAS
真姫「……花陽」

確かに大変で、おまけに凄惨でした。

それでもこうして生きているなら、また元の日常に戻ることができるはず。

犯人だって左腕を失っているんですから、好き勝手することなんて──

花陽「あっ──」
省11
21: [sage saga] 2016/12/28(水)21:52 ID:Hhhi1HzW0(20/119) AAS
真姫「しばらく練習休んだ方がいいんじゃないって話」

花陽「え、ええっ!?どうしてそんな話に!?」

真姫「病院ではお静かに」

思わず口を手で塞いでしまいました。

自分で注意した矢先のことなので、凄く恥ずかしい。
省10
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