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「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part9 (1002レス)
「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part9 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/
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945: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2013/10/06(日) 21:13:20.73 ID:Tx2K4C3AO コドクの人乙ですー タイトルそういう意味だったのか http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/945
946: タイムリミット [sage] 2013/10/08(火) 18:53:39.91 ID:f/KEkE1AO 彼女が歩くと、俺も歩く 彼女が止まると、俺も止まる 彼女が歩き出す・・・が、俺は止まったまま 「何してるのよ、紫鏡」 彼女・・・俺の契約者は訝しげに俺を振り返る 俺は「紫鏡」20歳まで俺の名を覚えている者は、20歳の誕生日に死ぬ呪い なんだってそんな俺と契約する奴がいるかって? 契約者・・・宮野シオリは複雑な家庭に育ち、そこでまあ色々あったらしく、二言目には 「オトナは汚い。あたしは汚いオトナになりたくないから、その前に死ぬ」 これが口癖。つまり、俺に間接的に自殺の手伝いをしろって事 人死にが避けられない特性の俺だけど、契約者が死んだら俺もどうなるかわからない ああ、もうこのまま逃げちゃおうか 「紫鏡」 契約者が俺を上目遣いで睨みつける 勘が鋭いんだよなあ 「あ、いや、別に」 「よかった」 契約者がにっこりする。笑うと可愛い 「紫鏡に逃げられたら、あたしすぐ自[ピーーー]るから。来月死ぬか、今死ぬかの違いしかないし」 待て 冷や汗が流れる 待てよ 俺、お前に死なれたくないんだよ ああもう、どうすりゃいいんだ! END http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/946
947: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2013/10/10(木) 00:16:58.22 ID:35Ch0SGzo 乙です 切羽詰まった状態から紫鏡さんがうまい回避方法を発見する事に希望を託すしかないですな! 幼児退行とか(手段? 知らぬ! http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/947
948: コドクノオリ「姦姦蛇螺」 [sage] 2013/10/10(木) 23:14:37.44 ID:35Ch0SGzo 姦姦蛇螺という怪談がある。 あるところに、呪術師の一族があり、一族の中でも特に強力な力を持っていた呪術師の女性がいた。 彼女は、あまりに強すぎる力をもつがゆえに、親族にもねたまれていた。 そんな呪術師は、ある時、山の神を討伐してくれという依頼を受けた。 依頼をしてきた村の住人は、呪術師の親族の手引きもあって、討伐に来た呪術師の女性の手足を切断して、弱った女性の身を山の神に捧げた。 その捧げものを以って神を鎮めようとしたのだ。 呪術師は山の神に食われながらも逆に山の神を乗っ取り、六臂に蛇の下半身を持つ異形、姦姦蛇螺として、自らを裏切った一族も、騙した村の住人たちも祟り殺した。 これが姦姦蛇螺の怪談。 修実の姿はまさに、村も親族も祟り殺した姦姦蛇螺そのものだった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/948
949: コドクノオリ「姦姦蛇螺」 [sage] 2013/10/10(木) 23:15:46.18 ID:35Ch0SGzo @ 何故修実はこうも、都市伝説になりきっていないような怪談に語られる化け物と似た姿になったのか。 その疑問に対して、久信は二つの理由があるのでは、という見解を持っている。 まず一つ目は、一族の中で異常ともいえるほどの力を持ち、それが元となって組織や町の人々に殺されかけ、 その過程で両手足を失ったという、修実が辿った人生が、かの怪談で語られる呪術師のそれと似ていたこと。 もう1つが、かごめかごめの童謡には、1人の子どもを何人もの子供で囲んで歌を口ずさみながら回り、 真ん中で目をつぶる子供が最後に自分の真後ろにいる人物の正体を当てる。という遊びがあり、この遊び自体に語られている都市伝説に曰く、 この遊びは真ん中の子供に神霊を降ろす呪術であるというものだ。 修実は、かごめかごめが作り出す結界の中、その場にいる全てのモノに取り囲まれて悪意を向けられ、襲われた。 まるで、裏切りにあって袋叩きに遭う呪術師のように。 まるで、唄を口ずさみながら、それと知らず降霊術の手順をなぞる子供のように。 奇跡のように状況が整い、その上で蠱毒という都市伝説が自然発生したか、 あるいは結界の中に閉じ込められていたモノのうちの誰かの都市伝説が暴走して、この異形は形成されたのではないだろうか。 また、都市伝説という存在が人々の思いの力に依って存在を確立、もしくは補強する情報生命体であると仮定できるのならば、 両手足を失っても尚生きる意志を捨てずに蛇を使役し続ける修実の姿に、結界の中の全員が姦姦蛇螺を想起したのではないかとも思われる。 その場に居た皆の総意によって、蠱毒呪法という明確な形を保たない力は、失われた修実の手足としての形を持ったのではないだろうか。 確信はないが、蠱毒という都市伝説と、その呪法に巻き込まれた者たちの状況を勘案するに、 怪談と似通っていたこと。 修実が怨念の溜まるアンテナ役になりやすかったこと。 修実が蛇を使役する能力者であったため、化け物のイメージを姦姦蛇螺に統一しやすかったこと。 これらの要素が互いに影響し合って、今の修実の姿に結晶した。というのが当たらずとも遠からずな答えだろう。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/949
950: コドクノオリ「姦姦蛇螺」 [sage] 2013/10/10(木) 23:17:54.53 ID:35Ch0SGzo ならば、郭に今こうして対峙する修実は、郭が偶然にも作り上げた呪術の被害者たちの恨みそのものでもある。 恨みの対象である郭は、修実から逃げる算段をつけようとするように、視線をあちらこちらにさ迷わせている。 対する修実は郭を見据えたまま、目線を動かす気配がない。 無慈悲ともいえる表情を浮かべる修実の姿は、久信も間近でまじまじと見るのは初めてだった。 以前この姿になった吉井を見たのは、姉が居た町へ彼女の安否を確認に居た時だった。 封印を破壊したばかりで意識も朧だった彼女。 久信はこの状態の姉を、姉と認識するところから始まって、修実が落ち着いて意思の疎通ができるようになり、 怨念によって膨れ上がった彼女の力を抑えこむために修実の中に根付いた新たな力を極力封印し、 蠱毒の影響で生成された手足も全て封じてダルマ状態になってもらうまでの間、一連の綱渡りのような事態がせわしなく続いたせいで、じっくりと彼女の姿を眺める余裕はなかった。 月光の下、改めて見る修実の姿は、美しかった。 長い髪が足代わりの蛇身と人の体の継ぎ目でさらさらと揺れて、六本の腕が、いずれも劣らぬたおやかさと、相手を逃す隙の無い力強さで郭を締め上げる。 「郭さん。私と、久くんの濡れ衣を晴らすために、捕まえさせていただきます」 自分たちの目的を突き付ける修実の体からは、周囲に向けて重苦しい瘴気が放出されている。 蠱毒の中を満たしていた、町一つを滅ぼした毒の発現だ。 「……くっ、!」 先程まで優位に立っていた郭が、蛇ににらまれた蛙のように為す術もない状態だ。 あとは捕まるだけに見えた郭だが、彼は止めず、今一度起死回生を狙ってか、唄を口ずさみ始めた。 「かごめ かごめ 」 「無駄です」 周囲を包もうとする結界を、もはや視線一つで打ち砕いて、修実は蛇身で都市伝説の体を絡め取った。 六つの腕で郭の東部を包み込むように締め上げて、指で喉を押えこむ修実に、郭が必死に声を絞り出す。 「ば、化け物……!」 「幼い頃からずっとあの町に居たのに、ご存じなかったのですか? 私は、ずっとそうでしたよ」 隻眼を見開いて叫ぶ郭へ、無理のない笑みで修実は言う。 「町の皆の仕打ちを非難なんてできませんね。今では逆に私があの人たちを皆殺しにしてしまったのですから。 そう、きっと、あの事件に関わった人は、誰にも誰かを非難することはできないのでしょう。 皆が被害者であり、そして、本人が意識しているのかしていないのかに関係なく、皆が加害者でもあるのですから。 当然主犯である貴方には、全うすべき責任があると、私は思いますよ?」 それなりの数はいたであろう、子供や、町の実態を知らなかった人間を無視した暴論を告げ、修実は軽く身じろぎした。 蛇身の下から骨が砕ける乾いた音がする。その音を背景に、彼女は続ける。 「そう、ですから。その残りの目も抉り出してしまいましょうか」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/950
951: コドクノオリ「姦姦蛇螺」 [sage] 2013/10/10(木) 23:18:24.15 ID:35Ch0SGzo 締め上げを徐々に強めながらそう口にする修実から本気の殺意を感じ取って、床に置いておかれた久信は慌てて止めに入った。 「待った修実姉! そいつからは証言を引き出さなくちゃいけないから、そこまでだ」 「多少痛めつけるくらいならばかまわないでしょう。証言ができるように、こうして喉だって潰さずに残してあるのよ?」 「修実姉!」 修実の蛇身を殴ると、修実はそれで初めて久信の存在に気が付いたように目を瞠った。 「――ぁ」 背をビクッと震わせ、瘴気を徐々に収めていく。 全てを収めた後、修実は久信に目を合わせて、眉尻を下げた。 「ごめんなさい」 「いいんだよ」 久信は正気を取り戻したらし姉の姿にほっとした。 クラブ跡全体を内側からコーティングしていた結界が砕けていく、ガラスをくだいたような音がする。 結界が砕かれたのを確認してから、修実が解放した郭は、気を失っているようだった。 「……これで、一件、落着か……」 郭を蛇でしっかりと縛り上げた久信の耳に、犬の吠え声と、よく知る男の声が聞こえる。 「おい、生きてるか!?」 「おかげさまで……」 警察が到着したようだった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/951
952: コドクノオリ「姦姦蛇螺」 [sage] 2013/10/10(木) 23:19:21.86 ID:35Ch0SGzo @ 昌夫が、かれが使役する犬と共に結界を取り払われたクラブ跡の内部に侵入した時、捕獲目標であた郭正吾は、大量の蛇に縛り上げられて気を失っていた。 目立った外傷は見受けられないことから、毒か何かで無効化したのだろう。 精根尽き果てたように床に座り込んでいる友人と、それに寄り添うようにして心配そうな顔をしている、多少外見が変化した友人の姉に、労いの言葉をかけた。 「おつかれさん。結界がいきなり出てきた時はどうなるかと思ったが、どうやら決着はついたみたいだな」 「おかげさまでね。幽霊船のほうはどうなった?」 「あっちはとっくに占領されてるよ」 相応の装備を整えていた幽霊船も、動物による奇襲に脆くも破れてしまったようで、 現在は昌夫が読んできた警察の人間が、幽霊船内で無力化されている乗船員たちを運び出している最中だ。 「しばらくはあの船にかかりきりだろうな」 昌夫は警察に対して、この建物の中に今回の最重要捕縛対象が要る事については伝えていない。 協力を要請した他の部署所属の人間に手柄が渡るのを避ける、というのが世知辛い理由の一つ。 もう1つの理由としては、昌夫も、友人姉弟を窮地に立たせた郭正吾という人物を一度直接見て起きたかったというのがある。 そして、これは今この場に踏み入って思い浮かんだ理由だが、修実の今の姿を大勢の人間に見せずに済んでよかった、というものがある。 いったい何の都市伝説の力で失った手足を補填したのかは昌夫には分からないが、何も知らない状態で見るには蛇身六臂の異形という姿は多少刺激の強い外見をしているのだ。 修実をこんな姿に変えた原因が、目の前で転がっている男だという。 「これが、郭正吾か」 「そう、修実姉を媒介にして、偶然だろうけど蠱毒を作り出した原因だ」 「んでもって、例の組織がやらかしていた人身売買やら密輸やらの元締めなんだな?」 「ああ……」 久信は、やけに疲れた調子で応じた。 戦闘を行っていたのなら、体もそれなりに疲労もしているだろう。 動作を見る限りでは、昌夫の目にはどうも久信はいくっつか骨を折っているようだ。 後で久信は医務室に放り込んでおこうと考えながら、昌夫は修実を改めて見る。 異形の姿は、確かに初見でこそ思わず身構えてしまいそうな威圧感のあるものだが、 相手が意思の疎通が可能なほぼ人間のような存在であるということを念頭に置いて、落ち着いた目で見てみれば、 「きれいなもんじゃないか。修実さん」 「そんなことないわ」 恥じ入るように修実は六本の腕で自分の体を抱いた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/952
953: コドクノオリ「姦姦蛇螺」 [sage] 2013/10/10(木) 23:20:40.96 ID:35Ch0SGzo ダルマのようだった時とのギャップが純粋に衝撃だ。 今の状態の方が、ダルマの時よりも、より人間らしい恰好と言えなくもない辺りもまた、出来の悪いジョークのようでもある。 「なあ、なんでずっとその姿で行動しなかったんだ? 修実さんも自分の意思で動ける分、そっちの方が何かと便利じゃないか?」 確かに高圧的な姿をしているので。この姿の修実が敵意を持っているのを見たら化け物の来襲に見えなくもないだろう。 普段から今の姿をオープンにするわけにもいかないだろうが、修実は、昌夫が知る限り、壊滅した町からここまで、一度も今の姿をとったことはない。 今の姿をとるためには、何かの条件が必要なのか、あるいは、ただ単に目立ちすぎるのを避けようとしたのだろうか。 修実の姦姦蛇螺状態がどのような経過を経て存在しているのかをしらない昌夫の純粋な疑問の言葉を切るように、久信が早口に言った。 「それよりも、早いところこの男をしかるべきところに連れて行って洗いざらい吐いてもらおう……。それまで安心はできない」 「おっと、そうだな。とは言ってもこいつが捕まればもうお前たちは隠れる必要もなくなるからな。 これで少しは楽な生活が送れるようになるだろう。完全に容疑が晴れるまでは俺が直接身柄を預かるように計らっておく」 「ああ……よろしく……」 応じる久信は疲れ顔だ。戦いの怪我以外にも、ここ数週間の心労が一気に出てきたのだろうか。 時間が経つごとに目に見えて久信の疲労の度合いは強くなっているようにも見える。 「おい、俺の息のかかった医者がもうすぐ来る。それまで寝るな。……おい、聞こえてるか?」 「久くん……?」 昌夫と修実の言葉にもあまり反応を示さなくなった久信は、苦しそうに数回呼吸をした後、 「任せた」 小さく言って、ほっとしたように息を長く吐いた。 今にも眠りに落ちてしまいそうな久信に、昌夫は言い聞かせるように言葉をかける。 「おい、お前はよくやったよ。だからもう少しがんばれ」 「俺は……結局何もできなかった……でも、これで、追われることもなく、修実姉と、一緒に帰れる」 「そうよ久くん。一緒に帰りましょう」 「うん……」 久信は修実の手に触れた。 「一緒に帰りたいな……」 そう呟いた久信は、糸が切れた人形のようにその場に倒れてしまった。 「おい、久?」 慌てて久信の体を抱き上げた昌夫は、久信の体がありえない程に冷たくなっていることに初めて気付いた。 「おい?! 久、お前どうした?!」 呼びかける昌夫の横で、うめき声があがった。 「あ……あ……ッ」 「修実さん?!」 何事かと慌てる昌夫の傍で、修実は取り乱した上ずった声で言う。 「ど、どうしよう……私の……私のせいだ。ああ、どうしよう。私の、私の、わたしのせいだ……!」 呻きながら、修実は久信に取りすがる。 「久くん? 久くん!? ねえ、久くん、起きてよ、ねえ?!」 危うく震える声で何度も呼びかけられるが、久信は反応する気配を見せない。 かろうじて息をしている、というのは分かる状態で、昌夫は医者の早い到着を祈りながら、半ば茫然と、友人姉弟を眺めていた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/953
954: コドクノオリ [sage] 2013/10/10(木) 23:22:27.44 ID:35Ch0SGzo 中ボス戦が終了したところで、そろそろ本当のボスが真価を発揮しましたね?! そんな感じで >>945 タイトルにはいくつか意味がありますのでそちらも考えていただければ幸いです http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/954
955: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2013/10/13(日) 19:38:33.31 ID:8z6a3LAAO コドクの人乙ですー 真のボスって何!?修実ちゃんはなんか知ってそうだけど >>545 >タイトルにはいくつか意味がありますのでそちらも考えていただければ幸いです 俺が思ってたのは「孤独の檻」だったけどそれもあり? http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/955
956: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2013/10/14(月) 23:14:45.32 ID:5rYxM7zno >>955 >>タイトルにはいくつか意味がありますのでそちらも考えていただければ幸いです 俺が思ってたのは「孤独の檻」だったけどそれもあり? ありです! むしろサブタイでいつか使います! http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/956
957: コドクノオリ「寝起きの真実」 [sage] 2013/10/14(月) 23:15:55.71 ID:5rYxM7zno どこかで誰かが泣く声が聞こえた。 その声は、ただただ、何度もごめんねと謝り続けている。 久信は、その声を知っていた。その声の主がいつだって独りで泣いていたこともだ。 その人が他人に自分が開いている姿を見せることがなくても、彼女はずっと泣いていたということを、久信は知っていた。 ……泣かないで。 そう思うことも、もう何度もしていた。 ただそう思うだけでは無意味で、言葉にすればするほど、 彼女は完璧な微笑を身に付けてしまって久信にもやがてその真偽を見抜くのが難しくなってしまったから、いつしかそれを口にすることをやめていた。 ただ、泣かないでと、泣かせたくないと、泣かせなくても済むようにしたいと、そう思うことはずっとずっとやめることはなかった。 そして、それを実現するために努力を重ねてきた。 だが、そうやって一つ一つ出来ることを増やしていくうちに、その人もまた、出来ることが増えていく。 一向に近付くことのない背中。 近付くどころか、時間が経つごとに遠く離れて行ってしまうとすら感じていたその背中を、 それでも追うことを諦めきれず、久信はその人に追いつくための努力を続けた。 優しいあの人が壊れてしまう前に、その隣に居て、涙を拭って止めることができる家族になれればいいと、そう思った。 @ 目を覚ました久信は、仰向けの姿勢のまま、白い天井で煌々と輝く蛍光灯の光をぼやけた視界でしばし見つめた。 後をひくような、ねっとりとした疲れを感じる。その不快感に眉をしかめながら、久信は体を起こした。胸の辺りに走る痛みに小さく呻く。 「ここは……?」 「おはようさん」 声に続いて椅子を動かす音がした。 ぼうっと前方を眺めていた視線を音がした方に動かすと、そこには一仕事してきた後なのか、 薄汚れた白いシャツを着た、短髪の、久信と同じ年のはずなのに妙に老け込んで見える男、昌夫がいた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/957
958: コドクノオリ「寝起きの真実」 [sage] 2013/10/14(月) 23:16:49.04 ID:5rYxM7zno 「おや、目が覚めたかね。肋骨数本にヒビが入っているのに五時間で起床とは、若いのう」 昌夫に気付いて、声をかけてきたのは、白衣を着た初老の男だ。こちらとは面識がない。 久信は自分の体が特に拘束されていないことを確認してから、昌夫に問いかけた。 「ここはどこだ?」 「ここは医務室。お前は郭をひっとらえた後でいきなりぶっ倒れたからな。 勝手で悪いが、ここに連れてこさせてもらった。今はもう深夜だな」 「ずいぶんと体温が下がっておったが、君の体に今のところは肋骨のヒビ以外の後遺症らしきものは見られない。 元々毒に耐性がある都市伝説とでも契約しておるのかな?」 医者が昌夫の言葉を引き継ぐ形で現状の久信の体の状態を説明する。 さしあたって、今のところは体に危険はないようだ。この体の疲れも危険なものではないらしい。 「こいつは爬虫類系だからな。体温が下がったくらいじゃ死なねえよ」 「なるほど、とはいえ、体力のほうがずいぶん下がっておるし、数日はゆっくりしておくことじゃな」 医者の発言からすると、どうやらこの疲れは体力を使い果たしてしまったためらしい。 と、そこまで考えて、久信は一つの疑問を感じた。 ……毒? 医者は元々毒性がある都市伝説と契約しているのかと言った。 ということは久信は毒に冒されていたということであるが、肋骨についてはともかく、何かの毒を郭に盛られたという記憶がない。 だとしたら、俺はいつ毒を盛られたんだ……? 頭の中で疑問を転がしながら、久信は、こうして自分たちの事情をよく知らない第三者が居ても自由を拘束されていないところを見ると、 自分たちに対する討伐手配が取り下げられたということでいいのだろうと考える。 ならば、と確認をとるつもりで問う。 「昌夫、討伐命令はどうなった?」 「おう、郭をとっ捕まえて組織≠ノ送り付けてやったからな。事情はもう報告してあるから、お前たちは討伐対象から監視処分に格下げだ」 昌夫は笑い、 「ちなみに、監視役は俺な。そうなるようにあの場にいた密輸組織を一網打尽にした功績とか、代々続く憑き物筋の家系の権力ってのを利用してやった」 「ああ、なるほど」 町一つを滅ぼした者に対する処分としてはやけに甘い決定だと思ったら、そういう裏があったようだ。 また盛大に動いてもらったわけだ。 その事も込みで、今回の件に対するお礼をしなければなるまい。もとより昌夫の仕事を手伝うつもりではあったので、監視役が昌夫というのは好都合だ。 ああ、これで、ひとまずなんとかなった。 自分たちの処遇が決まったことで、久信はようやく人心地ついた。 「何とかなったね、修実姉――」 言いかけて、自分が今いる医務室の中に修実の姿がないことに気付く。 「昌夫、修実姉はどこに行ったんだ?」 「修実さんはな……」 昌夫は質問に対して少し考える素振りを見せ、やがて伺うように質問を返してきた。 「なあ久信。お前、自分がなんで倒れたかってこと、分かるか?」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/958
959: コドクノオリ「寝起きの真実」 [sage] 2013/10/14(月) 23:17:48.88 ID:5rYxM7zno 「は?」 返された質問に怪訝な顔をしながら久信は正直に答えた。 「いや、いまいち分からない。さっき、そっちの医者は俺が毒にやられた。みたいなことを言ってたけど、俺はいつの間に郭に毒を盛られたのか覚えがないんだ」 怪しいとしたら、彼が持っていたあの手斧だ。刃に毒を塗ってあったのではないかと考えるが、その斧の攻撃は全て修実が盾になって受けていたため、これが原因で毒を盛られたということはありえない。 だとしたら、次に怪しいものは、 「そうだな。心当たりといえば、毒をあの結界の中に撒かれていたのかもしれないなってことくらいか」 郭が展開していたかごめかごめの結界の中に充満していたあの甘ったるい、香のようなもの。あの香の中に紛れて、あるいはあの香自体が毒だったのかもしれない。 能力の行使のし過ぎで体力が尽きてしまったために、毒が一気に体に回ってしまったのではないか。実際、体力を削られすぎたせいで現在も体が引きずるように重い。 「どう? 正解?」 訊ねると、昌夫は「いいや」と首を横に振った。 「お前、瘴気に中てられたんだよ」 「瘴気?」 「ああ、修実さんの中から溢れた毒に、だ」 「――え?」 頭が、真っ白になった。 「どういうことだ? 瘴気はもう修実姉が収めたはずだぞ?」 昌夫に詰め寄ると、医者が横から久信を落ち着けるためにか、ゆっくりとした、落ち着いた口調で話す。 「君のお姉さん、だったかな? 彼女は強力な毒を持っている。 おそらくは君の方がより詳しいのだろうが、呪詛、という毒だよ。そして、弟の君にまで被害が及んでいるということは、 どうやら君のお姉さんはその毒を自分の思う通りに制御できていないとみて、まず間違いないだろう。 制御の利かない毒は君が言った通り、収められはしたようだけれど、結局のところ、一度は毒は漏れ出していた。 それは収められたからといって何もなかった事にできる類の事象ではない。そして、その溢れた毒はしっかりと影響を周囲に与えていた。 今回の場合は、お姉さんの近くに居たという君と、君や昌夫君が捕まえたという郭正吾という男。 それと、あの場においてお姉さんに敵意を向けられていた、密輸船に乗っていた船員たち。これら全員が瘴気に中てられておったよ」 「……抑えきれない……毒……?」 真っ白になった頭の中で、その言葉が頭の中で引っかかった。 そのキーワードで想起されるのは、修実の中にある都市伝説のことだ。 「……毒って、修実姉の中の蠱毒のことか?」 「ああ、お前が倒れた時、修実さんがものすごく取り乱していてな。 どうも、修実さんは自分の中にある抑えきれない毒についてはある程度気付いていたみたいだ。 だからこそ、ずっとダルマ女のような状態でいたらしいな。全部、修実さん本人が話してくれたよ」 あの場で倒れた後、事の顛末を見た昌夫が言うには、姦姦蛇螺としての正体を現した修実から漏れ出ていた瘴気は、 修実が抱いた敵意に反応してある程度の指向性をもって周囲に広がったらしい。 「指向性はあったとはいえ、まず瘴気が襲い掛かったのは近くに居た生き物だな。お前、蛇がほどんど死んでいたのには気づいたか?」 「そういえば、郭と戦ってる時、蛇の気配が周りから消えてたな……」 戦闘に集中していて蛇のことが意識から外れていたせいで蛇たちの気配を感じなかったわけではないらしい。 壊滅した町の中で修実を見つけてお互いを認識できた時あの姦姦蛇螺の状態からすぐに両手足を失った姿になって、 久信に自分の体を運んで欲しいと彼女が頼んできたことを思い出す。 姦姦蛇螺の姿はどうしても目立つのと、蠱毒の内で行ったことを喧伝しているかのようなこの姿をあまり晒したくないからと修実は説明していたが、 それ以外にも、制御の利かない蠱毒の瘴気の件が理由としてあったのだろう。 修実は蠱毒と契約しているわけではない。誰も意図しないままに生まれた毒を暴走させないように修実が自分の身の内に収めて抑え込んでいただけだ。 そうやって何とか抑え込んでいた毒を、修実はあのクラブ跡に侵入した時に久信や自身を守るために開放することになってしまった。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/959
960: コドクノオリ「寝起きの真実」 [sage] 2013/10/14(月) 23:18:58.83 ID:5rYxM7zno 極限状態で解放された蠱毒の力を制御しきることは修実にはできず、蠱毒から溢れた瘴気は近くにいた生き物に襲い掛かった。 当然、それは最も近くで修実の戦闘を見ていた久信をも蝕んだ。 そして久信は倒れたのだ。 ……なるほどな。 自分がなぜあそこで倒れる結果になったのかはこれではっきりとわかった。 驚きはしたが、今の修実の状況を鑑みればそのようなことが起こっても不思議はない。 それに、その蠱毒の力によって久信は今こうして生きていられるし、目を覚ました久信は特に後遺症のようなものもない。 ……早く会って、俺は元気だと言ってやらなくちゃな。修実姉はきっと心配してる。 早く姉に元気な姿を見せて気にすることはないと言いたい。 「なあ、昌夫、いい加減教えろ。修実姉はどこに居る?」 訊ねると、昌夫は悲しそうな顔をした。 「今、修実さんはどっかに姿を消そうとしている」 「え?」 「今回の件で自分が周囲、特にお前を害する危険があることを知って、思うところがあったらしい」 「な――」 久信の表情が凍り付く。 でも、と呟いて、久信は言う。 「それならまた両手足を無くした状態にもう一度なれば……」 「だめだ。そうも今回、一度溢れてしまったせいで蠱毒が活性化しているらしい。 もう制御がほとんど効かなくなっているみたいだ。気を抜くと毒が溢れてしまいそうで、 もう半分くらいは自分のものになってるあの腕を抑えることによって修実さん自身の力が抑えられると、蠱毒の制御どころか、蠱毒に自分の全てを乗っ取られるかもって話だ」 「そんな……」 「お前も、あと郭も、幽霊船の奴らもだな。どんな毒でも解毒できるユニコーンの角の粉末でなんとか命は繋いだけどな。 あのままだったらお前もあの男も死んでたし、結界を挟んでいたのに修実さんに敵意を向けられただけで瘴気に冒された密輸船の奴らもやばかった。 だからこそ、修実さんは自分の危険性を悟っていなくなったんだろうよ」 昌夫は諦めたように言葉を投げた。 「昔と同じだよ。制御できない力を自分の中に持っちまった修実さんの傍に居ることは、誰であろうとできない」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/960
961: コドクノオリ [sage] 2013/10/14(月) 23:19:35.29 ID:5rYxM7zno さて、ここからラスボスはお姉ちゃんな展開です http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/961
962: コドクノオリ「コドクノオリ」 [sage] 2013/10/15(火) 22:58:19.16 ID:Wy4ZVU48o 修実を諦めろと言わんばかりの昌夫の言葉を受けて、久信は押し黙った。 制御することができない程の大きな力を不安定なままで自分の中に収めている修実の傍にいるのは、誰であろうと危険。 たしかに、蠱毒を制御できない修実は、毒を再現なく吐き出す危険な存在だ。 また、気を抜くと瘴気が漏れ出すというのも、程度によるが、久信が目覚めるまでの時間すら待っていなかったことを考えると 、一時たりとも気を抜くことができない――つまり、睡眠も急速すらもとれなくない程切迫しているということだろう。 そうなれば、そう遠くない未来。遅くとも数日後には、修実は蠱毒の制御どころか自分の生命の維持すらも難しくなる。 そして、修実が衰弱すれば、蠱毒は修実を飲む込みにかかる。 蠱毒に飲み込まれて瘴気ををまき散らすだけの化け物になれば、 修実は――修実であっただけのモノになったそれは、討伐対象として滅されるしかなく、蠱毒に乗っ取られずに修実が修実であることを貫くには、自分で自分を決着するしかない。 結局のところ、修実には生き残る道はない。そして、選べる数少ない道の中からならば、修実は迷わず自決する道を選ぶ。 その程度には久信は修実を理解している。今こうして彼女が出て行ったのも、自分の死に場所を見定めるためだろう。 それが分かるから、久信は奥歯を強く噛んだ。 また同じだ、と久信は思う。 諦めろ。 過去、修実が実家から里子に出される時、小野の一族は、久信と、そして彼らの両親を納得させるためにあらゆる理由を付けて、諦めを強要してきた。 結果として、家族では誰も修実を救うことはできず、修実は生まれ持った力のせいで実家を追放されることになった。 新しい居場所でやっと自分の力を御せるようになっても、その場所で裏切りを受けて独りを体験する羽目になって、 そんなボロボロの修実がやっと再開できた久信に対しても、今度は体内に憑りついた蠱毒が彼女の居場所を奪い去る。 ……また同じだ。 姉が遠くに離れて行ってしまう。 何とかしようにも、今の久信では修実の体内にある蠱毒をどうこうすることはできないし、修実から溢れる瘴気は、久信を毒するには十分すぎる。 ……あの毒を凌駕できるだけの力が欲しい。 もう二度と、修実を独りにしないで済むだけの力が。 ……そうしないと、修実は死んで、きっと俺も朽ちる。 修実が里子に出された組織が、それが所在していた町ごと消滅してしまったと聞いた時、 久信は姉を喪ってしまったのかもしれないと思い、発狂してしまうのではないかというほどの喪失感を感じた。 じっとしていられなくなった久信は、事の真偽を確かめるために、矢も楯もたまらずに家を飛び出してきたのだ。 喪うかもしれない。そう思っただけでこれなのだ。本当に死に別れてしまえば、久信は自分がまともでいられる自信がない。 異常だと自分でも思う。ここまで執拗なのは蛇神憑きという都市伝説を継いできた蛇の一族の性なのかもしれない。 ……じゃあ、これも性なんだろう。 半ば吹っ切る思いで、久信は内心で呟いた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/962
963: コドクノオリ「コドクノオリ」 [sage] 2013/10/15(火) 22:59:15.25 ID:Wy4ZVU48o @ しばらくの間黙り込んで何事かを考えていた久信は、やおらベッドを降りると、医務室の扉に向かって歩き出した。 ベッドから降りて自分の足で立ってみてようやく気付いたが、体が驚く程に重い。 瘴気自体はユニコーンの角の粉末で抜けてはいても、体の疲労が抜けているわけではないようだ。 ふらつく体を引きずっていく久信の肩を、昌夫が掴んで止めた。 「まだ安静にしていたまえ。体中が瘴気に蝕まれていたのだぞ」 「そうだ! それに、お前、そんな体で何をしに行くつもりだ?」 諭す医者と怒鳴る昌夫を押しのけ、久信は医務室の扉に手をかけた。 扉を開けると、廊下に一匹の蛇がいた。 主である久信の護衛についていた、おそらくは密輸船に放っていた蛇の生き残りだ。 昌夫から離れていたために、瘴気の影響を受けずに生き残れた一体だろう。蛇は、人語とは異なる言語を通して久信に一つの情報を伝えてきた。 「……そうか」 それを受けて小さく頷く久信に、昌夫が問う。 「なんだ? その蛇、いったい何を言った?」 「修実の近くに、俺がやった蛇の生き残りがいる。居場所は、何とか掴めてる」 蛇の報告では、修実は周囲を気にしながら移動しいているらしい。そのためか、彼女が進むペースは随分と遅いようだ。 ……今なら、まだ追いつける。 これで人気のない場所、この町の北にあった山の中にでも入られたら人目を気にする必要もなくなり、山を抜けて一気に遠くまで行かれてしまうだろう。 本気で修実が移動すれば、蛇たちでは見失ってしまい、久信ではもう追いつけなくなってしまう。時間はあまり残されていない。 「修実にたどり着くには、今追いかけるしかない」 蛇を拾い上げた久信は、そのまま外に出て行こうとする。その背へ昌夫が言葉を浴びせた。 「そのまま修実さんを行かせてやれ! あの人は元々都市伝説に好かれた人なんだ」 周りの人々が久信に言い聞かせてきた常套句を、昌夫は並べてきた。 「だから――」 「だから、もし都市伝説に呑まれたり、それが原因で死んでしまうようなことがあったとしても、 それは修実姉が都市伝説に愛されて連れて行かれた結果だから諦めろって?」 久信はいつもそう言われ続け、いつ姉がいなくなっても傷が浅くて済むようにと覚悟を決めさせられてきた。 「昔は、俺もその言葉に納得してたんだけどさ。今はもうだめなんだ。 どんなに覚悟を決めたつもりになっても、修実姉を亡くす人生なんて俺にはもう考えられない」 それに、 「修実姉に対する執着心は、都市伝説なんかに負けやしない」 蠱毒の呪詛に愛された姉を奪い返すことくらいできないわけがないと思う。 蛇の愛は執拗なのだから。仮に負けるとしても、挑まずに諦めることだけは嫌だった。 「都市伝説に俺の修実姉を奪われてたまるか」 姉が養子に出される時も似たようなことを言っていたような気がする。 まるで聞き分けのない子供の意見だ。だが、それは何ら飾る事のない本心でもある。 言葉を聞かされた昌夫は、一つ盛大な溜息をついた。 「あーやっぱりそうなんだな」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/963
964: コドクノオリ「コドクノオリ」 [sage] 2013/10/15(火) 23:01:11.98 ID:Wy4ZVU48o 吹っ切れたようにそう言う。長い付き合いでもある。久信が言うようなことにはもう気付いていたのだろう。 「でもな、そんな気持ちだけで修実を追いかけても結局毒に殺されるだけだぞ? そうだろ? 爺さん」 話を振られた医者が頷く。 「あの瘴気は呪詛と毒気の集合じゃ。 あの都市伝説自身がそれを制御しきれていないということは、近づくだけであの娘は自分の周りの全てを祟ることになる。 封印されていた荒御魂を解放するからこうなる。触らぬ神に祟り無しというのに」 医者は昌夫から深い事情までは知らされていないのか。修実をどこかで鎮められたいた蛇神か何かと勘違いしたような一言を付け加えた。 昌夫が医者を手で止めて久信をうかがう。 久信は特に気にした様子もなく、口元を緩めた。 「うん、確かに、修実姉は俺の女神だ」 昌夫の目が点になる。次いで壮絶な呆れ顔になって、最後は自分で自分を扇ぎだした。 「おーあついあつい。しかし、お前その態度ってことは、姉弟仲良く心中するってのよりは上等な結末を用意してるんだろうな?」 「ああ、もしかしたら、なんとかなるかもしれない」 そう答えて、久信は振り返り、昌夫に頭を下げた。 「だから、頼む。もう少し力を貸してくれ」 「……ああ、まったく」 付き合いの良い友人はしぶしぶと頷いてくれた。 「しょうがねえな。乗りかかった船だし、修実についてはお前から嫌ってほど聞かされてたから、家族よりも身近に感じてるし、それに、まあ友人の頼みだ。 犬はコミュニティーを大事にする。だから、もう少し、お前たちの決着がつくまで見送ってやるよ」 @ 修実は、隠形で姿を隠しながら、学校町の北にある山を目指していた。 山伝いに人が通常踏み込んでくることがない場所まで行こうとしていたのだ。 蛇の下半身で這い進むにしてはペースは随分と遅めだ。 それは修実の体内にある蠱毒の瘴気を全力で抑え込んでいる上に、可能な限り、生物に近付くのを避けているためだった。 修実が細心の注意を払って抑え込んでいる瘴気も、何の拍子に外へと漏れ出てしまうのか分からない。それだけ不安定な状態なのだ。 生き物を避けようとする修実の行動は正解だろう。 また、隠形も、修実が瘴気の抑え込みに集中するあまりに若干おろそかになっており、 敏い生物には修実の存在を気取られるような有様で、人目を避けようとするのは姿を隠す的な意味でも正しい。 ……せっかく郭を捕まえて疑いが晴れたのに、私がうっかり通りすがりの誰かを殺してしまったら元も子もなくなってしまうものね。 内心の呟きに、修実は自嘲の吐息をついた。 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361373676/964
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