[過去ログ] 古泉「ただいま」 (161レス)
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(4): 2010/06/12(土)15:10 ID:ODI5AAQ0(1/24) AAS
さて、敬愛なる皆様は最早お気付きだと思うが嵐ってーのはずっと一所に留まってるようなモンじゃあない。
ま、そりゃそうだ。明けない夜なんてモンは無いし、どんだけ繰り返しても、それこそ終わらない夏休みなんて夢のようなモンさえ世界には無かったんだ。
時は待たない、ってヤツだな。はて、これは誰が言ったんだったか。誰が言ったにしても含蓄有る言葉だね。うむ。
つまり、時間ってーのは宇宙人だろうと未来人だろうと超能力者だろうと、はたまた神様であったとしても、平等に過ぎ去っていくように出来ているらしい。ん? そんなんは常識だろって?
いやいや、その常識ってーのを疑っていたのが昨年までの俺だったりするんだ。もしかしたらループエンドだったりすんじゃないのか、とかも多少本気で考えたりもしたね。ああ。
こら、そこ。ゲーム脳乙とか言ってんじゃねえぞ。
もしもだ。もしも仮にアンタが俺と同じ状況に追い込まれてみろ。俺と体を入れ替わり、高一の八月であったり十二月であったり、高二の四月であったり七月であったりを経験してみろ?
俺は断言するね。今、画面の前でふんぞり返ってるアンタだって時間感覚ってヤツに多少の弊害を持っちまうだろうってさ。
SOS団で唯一の一般人であり、かつ、まあ自分で言うのもなんだが比較的常識人な俺でさえこの始末だ。その俺が語り部の、そんな物語を楽しんでるアンタらなんかは最たるモンだと思うね。違うか?
だがしかし。それでも俺達は順調にハルヒ出題の問題(一つ残らず難題で無理難題なのは、まあハルヒらしいっちゃらしいんだが)を解き明かし、潜り抜け、あるいは素通りして……。
省12
2: 2010/06/12(土)15:26 ID:ODI5AAQ0(2/24) AAS
「……非常に貴方らしい恥ずかしい独白ですね。ああ、ターンエンドです」
とは言え、俺達に限って言えば余りその日常風景が変化している訳でもない。残念だったな。だが、様子が一変してる事を期待したアンタらが悪い。
「うるせえよ、古泉。大体、原作中で乱立させた死亡フラグを残らず叩き折りやがったヤツが言えた義理か?」
言いながら俺はカードを引く。お、悪くない引きだな、今日は。
「一緒になって叩き折った人間が何を仰っているのですか。あんまりそういう事を言うのは止めて下さい。僕はこれでも、昨年の七月の貴方の台詞には少なからず感動しているのですよ?」
「さっさと忘れろ、んなモン」
俺が場に出したカードにもたじろぐ事の無い、古泉のポーカーフェイスは健在である。だが、内心の動揺が俺には手に取るように分かるね。
伊達に二年もお前とテーブルゲームをやってきた訳じゃないんだぜ?
「『SOS団は誰一人欠けさせねえぞ、ハルヒ!!』。……あ、今の似てましたか?」
「……古泉、お前なあ……」
省12
4: 2010/06/12(土)15:40 ID:ODI5AAQ0(3/24) AAS
さて、上の一文に不自然を感じた方は一体何人居られただろうか? その数少ない方々に俺は是非とも敬意と称賛の拍手を送りたい。ブラボー、名探偵になれるぜ。
三年五組。
まあ、つまりは俺の所属している学級だ。
さて、なぜそこに古泉が居るのかと問われれば。まあ、俺に会いに来ただけと言えるのだが。ああ、勿論放課後の暇潰し相手としてだぞ? 深い意味は無い。
って言うか。アンタ達が疑問に思っているのは「なぜ文芸部室じゃないのか」だろ? だが、その疑問に行き着いた時点で解答は出てると思うね。
わざわざ俺が言う事も無いような気がするが……ま、それでもあえて言葉にするならば。……簡単だな。SOS団……じゃねえ、文芸部が廃部になったからだ。
原因は、これも改めて言わなくても分かるだろうが部員不足。規定人数の五人に満たなきゃ原則として同好会は認めて貰えない。
ま、そんな訳で文芸部室は取り上げ、没シュート。てれってれってれー、ってか。
勿論、ハルヒは抗ったさ。そりゃもう、俺と古泉の二人掛かりであっても止まらない馬力でもって直接教師と生徒会に掛け合い。その挙句に一悶着、と。
右腕に貼られた絆創膏はその時にハルヒにやられた引っかき傷だ。やれやれ。アイツは彼氏相手であっても手加減ってモノを知らないね。
省6
5: 2010/06/12(土)15:51 ID:ODI5AAQ0(4/24) AAS
「やっぱり貴方の独白は恥ずかしいですよ。聞いているこっちが赤面物です。以後はどうか、自重して頂けると僕としては助かりますね」
振り返ればヤツが居る。超能力者改めおつかいクン一号ご帰還だ。
「聞き耳を立てるヤツが悪いに三千点だ」
「そう言わないで下さい。諜報活動というのは機関の主要任務でして、どうもまだ、その癖が抜けてないんですよ」
古泉はヘラヘラと笑いながら俺の机に缶コーヒーを置く。小指をクッションにして音を立てない、そんなさり気無い仕草が一々俺の癇に障るね。
「お前の天職はバーテンダーだな」
「ふふっ。考えておきましょう」
古泉は前の席に後ろ向きに座ると、自分用に買ってきたジンジャーエールの缶から小気味良い音を鳴らした。
「コーヒー党じゃなかったのか?」
「ああ、アレはキャラを作っていただけです。実は僕はコーヒーも紅茶も、苦手ではありませんが取り立てて好きという訳でもありません」
省8
6: 2010/06/12(土)16:02 ID:ODI5AAQ0(5/24) AAS
「絵になるな、アイツらは」
「ええ。お二人とも、北高屈指の美少女ですから」
俺達が揃って見下ろす、その視線の先では少女が二人、下校途中の生徒に対してビラ配りをやっていた。
ハルヒと長門だ。
「桜並木と少女。これが絵にならない筈もないでしょう?」
「そんなモンかね」
「そんなものです」
既に大半の生徒は校舎から撤退している。無理も無い。新学期おめでとうテストとか言う憎たらしい名称の拷問が終わった、その翌日である。
教師達は一心不乱に採点に追われ、部活の顧問なんてやっていられる訳もないから部活動、同好会その他の活動は今日明日と全面停止だった。
「さっさと帰れば良いのにな、俺達も」
省8
8: 2010/06/12(土)16:18 ID:ODI5AAQ0(6/24) AAS
舌打ちを一つして席を立ち上がる。
「あの馬鹿が犯罪行為に手を染めない内に、あの男子生徒を救出するぞ、古泉」
「ふふっ、了解です」
阿と言えば吽。促すよりも早く走り始めた古泉に追従して、俺達は揃って走り出す。急いで飲み干したコーヒーの空き缶はゴミ箱にストライク。当然、左手は添えるだけだ。
廊下は走るな? だったら動く歩道でも付けやがれってんだ。
「まったく、あの馬鹿は少しも成長してないな」
長門を見習え。アイツの急成長っぷりを隣で見ておきながら何の感慨も無いなんてのは、そりゃもう罪悪だぞ、罪悪。
「そうでしょうか? 貴方ほど涼宮さんの成長を感じていらっしゃらない方も、僕は他に存じ上げていないのですが」
「一々茶々を入れるな、古泉」
「ああ、なるほど。今のが世に言う『つんでれ』でしたか。失礼。僕とした事が至らない発言を」
省5
9: 2010/06/12(土)16:33 ID:ODI5AAQ0(7/24) AAS
「そこまでだ!」
「むむっ、何奴っ!?」
……コイツ、昨日、水戸黄門見てたな。
「お前の悪事は全て教室から見させて貰った! 大人しくその男子生徒を放せ!」
まあ、水戸黄門が昨日テレビでやっていた事を覚えているって事は俺も見ていた訳なのだが。
「悪事だなんて人聞きが悪いわね、キョン。これは勧誘よ、か・ん・ゆ・う。アンタ、目でも悪いんじゃないの? 今度、眼科に連れて行ってあげよっか?」
胸倉掴まれてつま先立ちしてる男子生徒の様子を見て、一体百人の内何人が「同好会勧誘」だと答えるのか。断言してやる。そんなんは零だ、零。
「ふーん……アタシの敵に回るっての、キョン。面白いじゃない」
「別にお前の敵に回るつもりは無い。っていうかどっちかって言えばむしろ味方だ、馬鹿」
このまま同じ事を繰り返していたら間違い無くハルヒと長門は愛の説教部屋行きである。ハルヒに説教はまだ分かるとしても、長門がとばっちりを食うのは正義の味方として見てられん。
省8
10: 2010/06/12(土)16:45 ID:ODI5AAQ0(8/24) AAS
「……古泉」
「はい」
俺の後ろでにこやかに待機していた元超能力者が隣に並び立つ。ズザツとか効果音がしたのは……まあ、気にしないでおく事にする。
SE(サウンドエフェクト)とかそんなもんは今時、珍しくも無いからな。
「長門に対してジェットストリームアタックを仕掛けるぞ」
「……あの絶技を使用しますか……本気ですね。了解です。タイミングは?」
「スリーカウント」
仁王立ちになって足元を確認する。締め上げられている男子生徒の顔が土気色になり始めていた。事態は一刻の猶予も無い。無論、俺達の方を向いて不敵に笑っているハルヒに男子生徒の変容が気付ける理屈も無く……くそっ。スリーカウントが長い!
古泉の靴の踵が地面を叩く。スリー……ツー……ワン!
「「イグニッション!!」」
省6
11: 2010/06/12(土)17:03 ID:ODI5AAQ0(9/24) AAS
同時攻撃。長門に向けて俺達は「分かり易い」「軌道を読むに易い」テレフォンパンチを放つ。当然ながらこれを手首を握って受け止める長門。インチキパワーはすっかり失ったとは言え運動能力はハルヒにも劣らない少女である。
だが。
これで両手は封じた。スピードを落とさずに更に肉薄する俺と古泉の両方をどうやって食い止める? 出来る訳はねえよな?
「……しまった」
ああ、そうさ。古泉が機関に居た頃の癖を忘れられていないように、お前も宇宙人だった頃の動きが抜けちゃいない!
どちらか一方を蹴撃しようとも、もう一人がお前に辿り着く。そして、長門。
お前にはどちらを攻撃するか、って感じの「咄嗟の判断」をするには年齢が足りな過ぎるんだ!
ニヤリと笑う少年と二人で長門を挟み込む。チェックメイトだ、急ごしらえの用心棒。
そして俺と古泉は少女の耳元で、勝鬨(カチドキ)を囁く。
「長門、マロンパフェDXを食いたくないか?」
省10
12: 2010/06/12(土)17:21 ID:ODI5AAQ0(10/24) AAS
「何がいけないって言うのよ?」
「そうだな。お前の勧誘方法はほぼ間違っているという点を除けば大体正解だ」
喫茶店からの帰り道、俺はハルヒと二人で並んで歩いていた。なぜ、なんて言うなよ? ここでそんな野暮な事を言う奴は退場だ。
ま、有り体に言えば古泉が気を利かせてくれたのであり、だが、もしかしたらアイツは長門に惚れているのかも知れんとかは……無いとは言い切れないだけに薄ら寒い。
いやいや、考え過ぎだろう。
そもそも、古泉はハルヒに対して好意を抱いているのであり……いやしかし、逆境を共にした男女の間には恋愛感情が芽生えやすいとも聞いた事が有る。
釣り堀効果、だっただろうか?
むう……古泉だけは止めておけ、と言ってやりたい気持ちが反面。しかし、古泉が表面上はともかくとして根っこの部分で良いヤツなのを知っている俺としては……それでもやっぱり古泉だけはダメだな。
「……ってワケで、次はこの作戦で……ちょっとキョン、聞いてるの?」
ハルヒの物騒な声音で思考の海から回帰する。ああ、返答を間違えたら俺、蹴られたり叩かれたりするんだろうな。
省8
14: 2010/06/12(土)17:38 ID:ODI5AAQ0(11/24) AAS
「いや、違う」
「へえー、どうかしらね。アンタの事だから、またどこかで出会った女の子カ・シ・ラ? 登校途中にトーストを口に咥えた美少女と出合い頭に衝突してパンツ見て、その子がクラス替えでたまたまアタシ達と同じクラスで……誰!? 三船さん!? 椎名さん!?」
……どうしてコイツの頭の中は一々王道ギャルゲ的なのだろうか。第一、いきなりそんなオリジナルキャラが出て来るようなSSにすんじゃねえって、馬鹿。
「あー……まあ、ハルヒになら話しても良いか。その……こういうのは第三者が口やら手やらを出したりする類じゃねえと思うんだけどさ」
「一々まだるっこしい前置きはしなくて良いの! アンタの彼女は一を聞いて千里を踏破する女なんだから、そういうのは無駄なだけよ」
へいへい、そうですか。よくそんな自信過剰にして傲慢不遜な台詞が言えるね。俺なら例え、口に拷問器具を付けられても言えそうにないぜ。
唯我独尊ってのはもしかしたらお釈迦様がハルヒの為に造った言葉なのかも知れんね。
「その……だな」
「キョン。男らしくないわよ。さっさとズバリ言いなさい! それとも吐くのにカツ丼が必要? なら、今から定食屋に入っても良いのよ!」
「今、俺は生クリームで胃液が逆流しそうなんだが、それを察してのその発言は籠絡じゃなくて拷問だよな?」
省10
15: 2010/06/12(土)17:55 ID:ODI5AAQ0(12/24) AAS
「ん? 何よ、キョン。鳩が迫撃砲食らったような顔してるわよ?」
……その鳩は間違いなく死んでるよな。うん。……なんだ、ゾンビみたいな顔だとでも言いたいのか? 死んだ魚のような目をしているとでも仄めかしているのか、お前は?
そんなんが彼氏で、お前は許せるってのかよ? 発言の撤回を断固求めるぞ、俺は。
「いや……ちょっと……違うな。大分驚いた」
寝耳にポカリスエットを二リットル注がれた気分だ。
「え? もしかしてアンタ、あの二人が付き合ってる事知らなかったの?」
「……初耳だ」
絞り出すような声で俺がやっとかっとその事実を告げると、ハルヒはにんまりと笑った。お前、今日はエラく意地の悪い表情が目立つぞ。
「って、ちょっと待て。一か月前って事は……『団内恋愛禁止』の撤回ってもしかしてアイツらの為だったってのか!?」
「もしかしても何もそれ以外に有る訳無いでしょ? 有希に相談されたのよ。このままじゃ意に沿わない返答を古泉君にする事になる、って。本当、変な所で真面目なんだから、あの子」
省11
16: 2010/06/12(土)18:16 ID:ODI5AAQ0(13/24) AAS
沈み込む夕日に向かって明日の古泉の打倒を誓う俺だったが、そんな渋い男の背中での叫びにも、まさかあのハルヒが耳を貸す筈もない。
「ほら、なんだってのよ。アタシ踏ん切りの悪い男って大っ嫌いなのよね。さ、可愛い彼女に嫌われたくなかったら、さっさと言いたい事を言いなさい」
……なんとか誤魔化さなければ……出来る限り自然に……この勘の良い少女にも気付く事が出来ないような反則的なまでの口から出まかせを。
……誰か分かるヤツが居たら今すぐここに飛んで来い!
「えっと……だな……」
「ふんふん」
いつもは俺の話なんかまるで聞き流す癖に、なんで都合の悪い時に限ってコイツはこんなに俺の発言に食いつくんだろうな。
性格が悪いのか、間が悪いのか。多分、両方だな。
「……お前は長門の相手が古泉で、それが許せるってのか?」
どっかから持って来て取って付けたような内容ではハルヒに簡単に真意ではないとバレてしまう。だからこそ、俺は思っていた事をそのまま素直に口に出す事にした。
省11
17: 2010/06/12(土)18:33 ID:ODI5AAQ0(14/24) AAS
さて、唐突にシーンをぶった切って済まないが、どうか聞いて貰いたい。
俺にはずっと懸案事項が有った。
それはつまり「長門が宇宙人じゃなくなったら、どうなるだろうか?」という事であり。
それはあるいは「朝比奈さんが未来に帰ってしまったら、どうなってしまうだろうか?」といった具合に。
それははたまた「古泉が超能力者という責務から解放されたら、どんな事が起こってしまうのか?」なーんて感じで。
それは集約すれば

「神様がただの女子高生に成り下がってしまえば、俺の世界は元に戻るのか?」
となる。

甚だ自分本位で申し訳無いがしかし、どうか察して頂けないだろうか。
俺はあの破天荒で型破りな日々を、それでも愛していたんだ。だって、そうだろ? あんな体験をして、あんな世界を見せつけられて。
省9
18: 2010/06/12(土)18:53 ID:ODI5AAQ0(15/24) AAS
さて、事件ってのは唐突に起きるもんだ。
歴史は繰り返すとは有名な言葉だが、つまり俺達が過去を学ぶのはそれを繰り返させない為である事に異論を挟む人はいないように思う。だよな?
……だってのに人間ってのは本当、救いようのない阿呆なモンだから繰り返しちまう。何度でも。何度でも。
それはもう、二年前の八月を引き合いに出すまでも無い。俺だって救いようのない阿呆だ。
思えば予兆は有ったんだ。いや、気付かない方がどうかしてる。つまり、俺はどうかしてたんだろう。無理も無い、ハルヒと付き合い始めて半月ちょっと。一番浮かれている時期だったのは間違いないし、事実として俺は浮かれていた。
だから、気付けなかった。
勿論、理由を並べ立てても、それで弁明出来る訳じゃないし、そんな事はしようなんて思っちゃいない。
俺は、最悪だ。
SOS団は誰一人欠けさせない。そう神様に宣言した去年の七月。だけど、結局の所はどうだよ?
朝比奈さんが俺達の隣を歩いているかい?
省12
19: 2010/06/12(土)18:55 ID:ODI5AAQ0(16/24) AAS
1時間ほど席を外します
20: 2010/06/12(土)20:03 ID:ODI5AAQ0(17/24) AAS
考える。あの古泉が、果たしてハルヒへの思いを吹っ切れるだろうか?
ああ、そんな事は分からない。そんな事は古泉本人しか知りはしない。
では、長門を好きになど、なるのだろうか?
別に長門に魅力がない、なんてそういう意味で言ってる訳じゃない。勘違いしないで欲しい。
そういう意味では無く。
あの古泉が。
五年も神様少女の幸福「だけ」を願って生きていた超能力少年が。
果たしてその想いを失うなど、捨てるなど、諦めるなど、そんなのは有り得る話だろうか?
……ああ、そんな事は古泉本人にしか分からない。だけど。
だけど、一つだけ。俺にだって分かる事は有って。
省25
21: 2010/06/12(土)20:28 ID:ODI5AAQ0(18/24) AAS
それから。俺とハルヒは教師に掛け合って古泉の転校先を問い質した。こういう時、ハルヒの猪突猛進ぶりは本当に信頼出来る。勿論、俺はハルヒのブレーキ役をこの時ばかりは丁重に辞退させて頂いた。まあ、事情が事情だ。仕方が無いとそう思って欲しい。
特進クラスのなんとかって数学教師はかなり渋っていたものの、しかしハルヒが全力で仲間の行方を捜しているのだ。その迫力は某怪獣映画もかくや、である。
もしも古泉の転校先を教師が吐かなければ、それこそストーキングもしそうな勢いの俺達の団長を前にして、まあ、生半可な覚悟で沈黙を貫き通そうというのがそもそもの考え違いである事を悟った彼は二時間の激闘の末にようやく学校名を口にした。
「誰にも言わないで欲しい、という古泉たっての希望だった……か」
俺の後ろに続いて職員室から出て来たハルヒに問いかける。
「だが、アイツの希望なんか知ったこっちゃねーよな、実際」
「当り前でしょ!? 古泉君は有希を泣かせたのよ!? その罪、万死に値するわ!!」
「……だよな」
俺の代わりに心の底から怒ってくれているヤツが隣に居る。その分、俺は冷静になれた。まったく、ハルヒ様々だ。敵に回せばこれ以上に厄介な相手はいないが、味方であればこれほど頼もしいヤツもそうはいないだろうよ。
「……ハルヒ」
省15
22: 2010/06/12(土)20:56 ID:ODI5AAQ0(19/24) AAS
神様はその力を失った。
願望実現能力、だったか。裏を返せば、そこから先は涼宮ハルヒの思い通りには行かないってそういう意味。もしかしたら古泉はそういうのを俺に教えようとしたのかも知れない。
自身が姿を消すという、荒療治によって。言い換えれば、ずっと夢に酔っていた俺の目を覚まそうとしてくれたのかも、分からない。
なんてな。
もしも俺の思った通りの理由だったとして。だけど、そんなんはお前さんに一々諭されるような事じゃ無い筈なんだ、古泉。俺が自分で気付くべき事の筈なんだ。違うか?
そして、それに少女の恋心を利用して良い、そんな道理はどこにも転がっちゃいないんだ。俺なんかよりもよっぽど賢いお前が、なぜそんな簡単な事に気付かなかった?
気付けなかった?

電車に揺られる事二時間弱。俺とハルヒと長門はその週の土曜日、古泉が転校したという二県先の高校に突撃していた。
いつぞやの中学侵入を思い出すね。なんて言ってはみても、しかし夜中と真昼間では勝手が違う。門が閉まっている事こそ無かったが、グランドでは運動部が部活中。校舎へ向かう道には吹奏楽部が屋外練習ときたもんだ。衆人環視ってヤツだねえ。
「どうやって中に入るんだよ、ハルヒ?」
省8
24: 2010/06/12(土)21:17 ID:ODI5AAQ0(20/24) AAS
「アンタ、喧嘩売ってんの?」
「いーや。褒めてんのさ。お前が味方で頼もしい、ってな? さ、そうと決まればさっさと入ろうぜ」
守衛小屋に向けて歩き出す俺に、トコトコと付いて来る長門。そして、俺達を速足で追いかけて来るハルヒ。少女はあっという間に長門を抜き去って俺の隣へ立ち並ぶ。
「アンタ、なんでそんなに堂々としてんのよ?」
いや、なんでって言われても。堂々と、ってのがお前のオーダーだろうが。何の問題が有るってんだよ。
「アンタらしくないわ」
「お前の中の俺らしさってのに関して、今度ゆっくりと話し合いの場を設ける必要が有りそうだな……っと。ハルヒ、ちょっと近い」
俺は半歩分、恋人との間に距離を取る。さり気無く。気付かれないように。
「は? 近くて何か問題が有る訳?」
こっちを睨み付けて分かり易く顔をむくれさせる。そんな所も可愛いとは思うが、しかし今日ばかりはそういった展開は無しだ。
省11
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