[過去ログ] ToHeart2 SS専用スレ 4 (717レス)
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36: 0/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:33 ID:ssNEva170(1/12) AAS
 前回までのあらすじ
 貴明と愛佳が結ばれたことで、必然的に出会った雄二と郁乃。郁乃が雄二をいい男と言ったことを拡大解
釈した愛佳の後押しで、ふたりは友人となり、今は恋人関係。
 しかし二人が結ばれてすぐに郁乃の病状が悪化して、ついには面会謝絶に。
 責任を感じた雄二は父親に春乃と結婚することを条件に郁乃の治療への資金援助を取り付ける。
 郁乃の命は救われた。そして――

第一話から第十三話はこちらで。
外部リンク:www.geocities.jp
37: 1/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:34 ID:ssNEva170(2/12) AAS
 病院から帰ってくると、もう部屋に春乃はいなかった。代わりにテーブルの上に一枚の紙片。
 ――明日の準備のために帰ります。ほんの一週間程でしたが、幸せでした。ありがとうございました。
 それは春乃からの置手紙。一番の当事者であるはずの春乃が、明日どうなるかを知らないというのは奇
妙な感覚だった。もう何の温もりも残していないベッドに腰掛ける。
 それから顔でも洗おうと洗面所に向かったつもりが気がつくと雄二は環の部屋の前に居た。何故かは分
からない。ノックをしようとしていた手を下ろす。踵を返して自分の部屋に戻ろうとしたとき、ドアのほうが先に
開いた。
「……雄二?」
 環がすこしだけ心配そうに首を傾げる。
「風邪はもう大丈夫なの?」
省13
38: 2/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:34 ID:ssNEva170(3/12) AAS
 ネクタイをきゅっと締める。鏡の前でもう一度自分の服装に乱れがないか確かめてから玄関に向かう。幸
い昨夜あれだけ泣いたというのに、目は腫れていなかった。玄関にはすっかり正装に身を包んだ雄二の両
親と、見送りに出てきた環がいた。朝から家族がそろっているなんて何年ぶりのことだろうか?
「雄ちゃん、準備はいい?」
「母さん、頼むから、その雄ちゃんというのは止めてくれ」
「あらあら、そうね。雄ちゃんももう立派な男の人だもんね」
 何も知らない母親がにこにこと笑う。もう訂正する気も失せて靴を履いた。
「それじゃ姉貴、行ってくる」
「ええ、頑張ってらっしゃい」
 ほんの昨日の午前までであれば、このやり取りの意味はまったく違ったものになっていただろう。雄二は
省11
39: 3/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:35 ID:ssNEva170(4/12) AAS
 車はどこぞの大きな日本家屋の前で止まった。両親の後について門をくぐる。看板もなにもなかったが、
玄関をくぐって初めてそこが料亭であると分かった。敷地の広さはどれほどであろうか? 少なくとも向坂家
をゆうに越えていることは確かだ。もっとも普通の家庭では比較対象にすらできまい。
 仲居さんに案内されたのは日本庭園に面した部屋で、その雰囲気だけで緊張が走る。
「あれ? そういえば世話人さんは?」
 緊張をごまかそうとして聞いてみる。
「いないよ。公式な見合いというわけでもないしな。お互いすでに顔見知りなんだから大丈夫だろ?」
「まあ、ね」
 会話がそれで終わってしまう。結局そのままじりじりと緊張したまま約束の時間を迎えた。
「いやぁ、遅くなりました」
省13
40: 4/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:36 ID:ssNEva170(5/12) AAS
「後は若い人たちに任せて」
 とまあ、決まり台詞のようなことを言われたが、実際に席を外すよう促されたのは若い二人のほうだった。
二人して日本庭園に足を踏み入れて、すこし歩く。
「雄二様、あの……」
 春乃の顔は疑問符でいっぱいだ。
「いったいどうなっているのでしょう?」
 なにやら巨大な錦鯉が泳ぐ池の傍に二人で並ぶ。
「……雄二様から断りの言葉を頂けると覚悟して参りましたのに……」
「もう、いいんだ」
 春乃の目が大きく見開かれる。
省18
41: 5/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:36 ID:ssNEva170(6/12) AAS
「え? なに?」
「いいえ、雄二様はお優しいですわね。――でもお優しいだけですわね」
 つぅ、と春乃の頬を光るものが流れ落ちた。
――雄二さんは優しいよね。……でも、あたし知ってるの。雄二さん、優しいだけじゃないよね。
 鼓膜の奥からその言葉が不意に甦ってくる。二人の言った言葉の内容は本質的なところで違っている。
 指で目を拭い、春乃が雄二の顔を見上げてニコリと笑った。
「それでも嬉しいですわ。たとえどんな理由でも雄二様と一緒になれるなら、私は……」
 そう言って春乃が雄二の胸に飛び込んできて……
 どんっ!
 ――あ……れ……?
省12
42: 6/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:37 ID:ssNEva170(7/12) AAS
 きちんとまとめた長い髪が立ち上がるのではないかという勢いで、ずんずんと春乃が進んでいく。雄二は
その背中を追うしかない。春乃は迷わずに庭を突っ切って、先ほどまで居た部屋の障子を力任せに開ける。
立て付けの良すぎる障子は春乃の開いた勢いのままに奥に激突して大きな音を立てた。
 その中で談笑していた両家の両親が目を丸くして春乃を、そしてその後ろにいるずぶ濡れの雄二を見た。
「おじさま、おばさま、大変申し訳ありませんが、このお話お断りさせていただきます! お父様、お母様、
私先に帰らせていただきますわね」
 一同はぽかーんと口を開けて春乃を見送るしかできない。どかどかと足を踏み鳴らして去っていく春乃の
足音が聞こえなくなった頃、一番先にこの静止状態から抜け出したのは真蔵だった。慌てて雄二に向かっ
て頭を下げる。
「た、大変申し訳ない。春乃がとんだ粗相をしたようで!」
省12
43: 7/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:38 ID:ssNEva170(8/12) AAS
「くっくっくっ――」
 父親は膝をばんばんと叩いて笑っている。
「な、なんなんだよ」
「くくっ、参った。いやぁ、参った。一本取られたよ。はっはっは――雄二、私との契約はどうするのかね?」
 まだ笑いが止まらない様子のまま、父親はそれを訊ねる。
「それは――なんとか春乃さんを説得して――」
「くっくっ、お前なんかよりよっぽど春乃さんのほうがしっかりしてるなぁ。嫁にきてくれそうに無いのが残念
だ。雄二、春乃さんはね、お前の顔を立ててくれたんだよ」
「え……?」
「お前からこの縁談をふいにするワケにはいかなかっただろう? あの子はね、お前のために道化を演じてく
省12
44: 8/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:39 ID:ssNEva170(9/12) AAS
「どちらにしろ、私は完璧にしてやられて、お前は春乃さんに大きな借りひとつだ。愚痴のひとつも言いたく
なるね」
 とても本気で言ってるとは思えない、まだ笑いの堪えきれない表情で父親が呟く。
「でもまあ、向坂の家督を継いでもらう話は有効なワケだし、早いとこ次の見合い相手でも見つけないとな
あ。ああ、そうだ。その郁乃さんとかいう娘はどうなのかね? うちに嫁にくる娘になら、喜んで投資するのだ
がね」
「なっ、なに突飛なこと言ってんだよ! 今縁談が潰れたとこだろうが」
「――真面目な話さ。このままじゃ私は金の出し損じゃないか。しかもこれからも継続的な出費になるんだろ
う。考えてはくれないか?」
「契約書を作るときに文面に気を配らなかったアンタが悪い」
省11
45: 9/9 ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:39 ID:ssNEva170(10/12) AAS
 帰って着替えた雄二は母親のさらなる追及の手を逃れて病院へと向かった。
 春乃の優しさに救われて、とりあえずすべては丸く収まったような気がする。なのになにか胸の中にもやも
やしたものが残っている。手放しで喜んでいいはずなのに喜べない。その答えがここにあるような気がして
いた。
 病室のドアを開けると、見慣れぬ大きな装置がベッドを覆っていた。厚手のビニールでできた天蓋のような
透明なカーテンがそよそよと揺れている。その内側にある装置が低い唸りをあげている。雄二はテレビかな
にかで見た記憶がある。これは簡易無菌室だ。内側に空気清浄機があって外部から清浄な空気を取り入
れて濾過し、ビニールの内側に放出する。空気の流れは必ずビニールの内側から外側に向かうので菌やウ
イルスを取り入れずに済むのだ。
 そしてその内側に彼女がいた。
省20
46
(4): ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:40 ID:ssNEva170(11/12) AAS
 雄二にとってはここがようやく始まりなんです。
 最後の言葉は想像にお任せ。
 作者の頭には色んな言葉が浮かびすぎて、雄二キュンのようにひとつに絞れなかったとも言う orz
 予定していたより随分長い話になってしまいましたが、読んでくださった、応援してくださったすべての
方々に心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

>>33
指摘dクス そうかもと思って書き直そうとしたけど、なんかうまくいかない。
俺にはまさしくどんな話をしたかは覚えてないけど内容は覚えてるってよくあるのだけど、それが根本的に
不自然なのかしらん。

>>34
省2
47
(7): おまけ ただ心だけが 最終話 05/02/17 20:41 ID:ssNEva170(12/12) AAS
 私は社の自室に戻るとお気に入りのイームズのオフィスチェアに腰を下ろす。
 久々の手痛い敗北だったが、若い者にしてやられるというのは時には気持ちのいいものだ。だがその一
方で負けっぱなしというわけにもいかないだろう。ふむ、今度は小牧家との縁談を勝手に進めてやったりし
たら、雄二はどんな顔をするだろうか?
 水無瀬家の娘にしてやられたことが、私の中の悪戯心を再燃させてくれたのかもしれない。
「なあ、坂下」
「はい」
「『え? 向坂家にメイドさん!? 春乃らぶらぶにゃんこdeメイド大作戦』、要らなくなってしまったな」
「……大変ありがたいことでございます。宣伝部の会議に乗り込んで雄二様を懐柔する作戦の立案を命じら
れたときはどうなることかと思いました。――ただ宣伝部について多少疑問が残るところではあります」
省5
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