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サムスピ総合エロ萌えSS 4 (538レス)
サムスピ総合エロ萌えSS 4 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/
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45: 陸捨肆 [sage] 2007/01/07(日) 23:51:02 ID:BgON7YU7 「ど、どうして!?」 「人の話を聞かぬのも、躾のなっていない証拠よの……リムルル、コンルは言うたで あろう?」 シカンナカムイが、人差し指を立てた右手をゆらりと空にかざしながら言った。 「カムイ同士の闘いに人間の手出しは不要!『カムイの暴走は、カムイが止めねばならぬ』 と!コンルカムイ!我に楯突くは正しく暴走!お前の狼藉……万死に値するっ!」 シカンナカムイの瞳の奥に光の線が走り、天を指した指が、ぴゅっと下に振り下ろされた。 ジジッ……ズダァン! 頭上に、布を裂くような音がした。コンルがぐっと加速した直後、金色の光柱が 重い爆発音と共にコンルの背後に落ちる。リムルルを跳ね飛ばし、シクルゥを一撃で行動 不能に陥らせた稲妻だ。地面がえぐられ、大きな魚が川面に跳ねたときのような、土煙の しぶきが上がる。 「避けたか……ではもう一発」 立てた指を、シカンナカムイは手首の振りを利かせて右から左へと抜き払った。 猛烈な破壊の可能性を持つ光の帯が、軽やかな指の動きをなぞるように、直進するコンルを 横から襲う。 しかし、次の手を考えていたのはシカンナカムイだけではなかった。立ち止まったコンル も右手を真横に伸ばすと、 「鏡っ!」 小さく念じるように叫んだ。 右手から冷気が放たれ、ぶ厚い氷の鏡がコンルの半身を覆った。シカンナカムイの電撃が 鏡に衝突し、ばあんっと四方に弾ける。 「ほほう……ではもう一発」 「鏡!」 「もう一発!」 「跳ね返せ!」 あらゆる方向から狙いを定められても、コンルはその電撃をことごとく鏡で跳ね返した。 「なかなか、やるの」 「私の氷は……純粋透明な意志の塊は……雷撃などには負けません!」 シカンナカムイが攻撃の手を止めた隙に、コンルが再接近を図ろうと前傾した時だった。 「うあっ!」 コンルが小さく叫び、顔が苦痛にしかめられた。二・三歩よろめき、左手で右の腕をかばう。 「やだ……こ、コンル――ッ!」 リムルルは思わず叫んだ。晴れ着から覗くコンルの右手に大きな亀裂が走り、肘から下が ぼろりと落ちたのである。落ちた腕は、地面を待たずに原形を失い、粉々になって風に 押し流された。 「う……くっ……はぁ、はぁ、はぁっ!」 「成る程、お前ごときがアイヌモシリで人の形を取れたのはやはり、その『絆』のなせる業か」 肩を大きく上下させ、苦しげに真っ白な息を吐くコンルを見て、シカンナカムイが意地 悪く言う。 「その小娘を思いすぎるが故に、カムイとしての自覚を失い、ついには命をも捧げよう とは……。『絆』、かくも愚かなるものよ」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/45
46: 陸捨肆 [sage] 2007/01/07(日) 23:51:48 ID:BgON7YU7 ――命?! シカンナカムイと対峙するコンルの背中を見つめていたリムルルが凍りついた。 「コンル……命なんて嘘でしょ?そんなの嘘!!」 「嘘なものか。コンルは我とは違う。人間の夢の中でしか真の姿を現せぬ程度の力しか 持たぬカムイが、アイヌモシリで実体を晒し、あまつさえ我の攻撃を受け続けるなど…… ふん、自殺に等しいわ」 「コンルやめてぇ!早く……早く元に戻ってよぉ!!」 「そうは……いきません、リムルル。はぁ、はぁっ……私は……誓ったのだから!」 激しく乱れた呼吸の合い間に、コンルが言葉を繋げる。 「あなたからは、誰にも何も奪わせないと……あなたが悲しみにくれることなく生き られる世界をと!」 「そんなの知らないよバカぁ!コンルが……コンルがいなきゃ……うああああ!」 リムルルはハハクルを抜き、足元の氷の足かせに振り下ろした。言葉にならない動物の ような声を上げながら、何度も割ろうと試みた。しかし、コンルの氷は冷たく硬かった。 傷一つつけられなかった。 リムルルの叫びも思いも、決して聞き入れないかのように。 「コンル……コンル!コンルぅ〜!」 リムルルはハハクルを落とし、その言葉しか知らない赤ん坊のようにコンルの名を呼び 続けた。 「リムルル、ごめん……ね」 コンルが弱弱しく言いながら振り返った。どんなに辛いか分からないこの状況でも、二重の 奥に収められた青い瞳は、痛いぐらいにリムルルを優しく見つめている。 「これは、約束なのです……あなたと、あなたの大好きだったお父様との」 「とうさまと?」 「そう。あなたを苦しめるものは、絶対に許さないと……あなたの幸せを、祈り続けると。 私のカムイとしての誇り、どうか遂げさせて」 柔和そうな太い眉毛を下げて、コンルは嬉しそうだった。片腕を失い、命を削りながら、 どうしてあんな顔が出来るのか、リムルルには想像もつかない。胸が苦しい。締め付けられる。 なのに、どうして。 あの青い眼が、どうしてこんなに安らぎを与えてくれるのだろう。 このままではコンルが――かけがえの無い家族が身を滅ぼそうというのに。 手の届かない、遠いところへ行ってしまうのに。 それなのに。 ――何?この感じ。ずっと……こうしてたい。そうやって、見つめててもらいたい。 人の姿をとったコンルの瞳から伝わってくる優しさは、悲しみよりもずっと強くリムルルを 包んで離さず、一夜にして全てを失ったあの悪夢の時よりもさらにさかのぼった、記憶に無い 時代を強く意識させた。 今を生きるリムルルが、確かに過ごしたはずだったその時代の事は、誰も教えてはくれな かった。父親でさえも。 それでも。 抜け落ちた過去――母親との時間――を埋めるかのように、その人は笑顔で自分を見つめて くれている。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/46
47: 陸捨肆 [sage] 2007/01/07(日) 23:52:21 ID:BgON7YU7 「コンル、コンルは……わたしの……」 「リムルル、もう、何も言ってはいけませんよ。私にはそう呼ばれる資格は……無いのです」 コンルの細められた左目の下に、小さな輝きが生まれた。 「私は……あの時……あなたの大好きなお父様が犠牲になられたあの日……」 コンルは一瞬ためらい、そして言った。 「私は、あなたと、あなたのお父様を残して……逃げたのだから」 コンルの左目をこぼれて離れたその輝きは筋となり、頬を伝い、顎に届いて―― ばきっ。 音を立てて、深く蒼いひび割れを美しい笑顔に残した。 金色の稲妻がコンルの服の上を蛇の如く駆けめぐり、ふくよかな身体を締め上げる。 「――!!」 リムルルは、あまりの驚愕に声を失った。 「償いの時は十分に与えてやったのだ……感謝せい、コンルカムイっ!」 シカンナカムイが伸ばした右手を握り締めると、一段と高い炸裂音と閃光が彼の手から 発射された。コンルの周りに咲いていた花々が次々と焦げ死んでゆく中、コンルは一人その場に立ち尽くす。 「……リムルル、本当にごめんなさい」 電撃の中、コンルは自分の顔に生じた亀裂を愛しそうに指でなぞった。その笑顔は曇る どころか、何か重いものの下から開放されたかのような、安らぎさえ含んでみえる。 「リムルル……最期まで、私を信じて、友と……家族と慕ってくれて……ありがとう」 「あ、あぁ…………か……かあさ……」 リムルルのわななく唇が言葉を伝えるのを待たずに、コンルは背を向けた。 「貴女が未来に進むために失うものの最後が、どうか……私でありますように!」 コンルは落雷を身体に浴びながら、残された左手をシカンナカムイに突き出した。 「我こそはコンルカムイ!」 はぁーっと白く大きな息を吐き、瞳の青を強く輝かせ、コンルが名乗りを上げた。 「雪と氷に閉ざされし大地……蒼く美しき永久(とわ)を万物に!」 コンルの身体がしゅうっと透きとおり、身体の表面を蠢いていた稲妻が動きを徐々に緩め、 ついには止まってしまった。シカンナカムイの稲妻は、コンルの冷気によって透明な氷の 結晶へと姿を変えていたのである。 それはさながら、コンルの身体に巨大な植物のつるが巻き付いてゆくようだった。そして 氷となった稲妻のつるはコンルの全身に及び、シカンナカムイへと向けられた腕を放れても 成長を止めることなく、稲妻を生み出している主に絡み付こうと伸びてゆく。 「光であろうと……稲妻であろうと!凍てつけ!コンルノンノ!」 コンルの振り絞った声が響き、シカンナカムイへと向かう氷のつるの先端がつぼみのように 膨らみ、氷の粒子を撒き散らしながらぐばっと八方に開いた。幾重にも重なった花弁の ような氷の刃は、繊細さと凶暴さに溢れている。 冬にしか咲かない、鋭利な氷の大輪が、自らの成長を阻むものを跳ね飛ばそうとシカンナ カムイに迫る。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/47
48: 陸捨肆 [sage] 2007/01/07(日) 23:52:58 ID:BgON7YU7 「氷の花――冬にしか咲かぬ花。ふむ、美麗絶頂……」 シカンナカムイが、自分の視界全てを多い尽くす氷の花を前にしてつぶやいた。 「コンルカムイよ、かくも珍しき花を咲かせるとは……。まずいのう。神聖なるカムイ 同士の戦いの最中に、かような美しい光景をナコルルに見せては」 黒い影が、卑しく笑うシカンナカムイの後ろから躍り出た。 「何せナコルルは花が……『花摘み遊び』が大好きだからのう!!」 影――ナコルルが駆ける。巨大な氷の花の横を駆け抜ける。 その細い右の腕には、大きな花を摘むには丁度よい、異常なほどの大きさと鋭さを持つ 魔界のかぎ爪「あざみ」。 冬にしか咲かない花は、当然ながらそこを動くことは出来ない。 「花の一生は短いというのう」 シカンナカムイが見守る中、ナコルルが、氷の花の一番の根元に黒光りする爪を伸ばす。 「されども人知れず咲いていれば、もう少し長生きできるものを、の……」 じょきり。 金属の擦れ合う音と共に、ナコルルの花飾りがぱぁっと散った。 シカンナカムイを飲み込もうと猛り狂っていた氷の花も、その目前で動きを止めた。 「リム……ルル……」 「コンル……かあさま」 「誇り高きアイヌの戦士よ、私はひと時でも、貴女の……母となれて……幸せでした」 「嫌あああぁぁぁ!!かあさまあああああああ!!!!」 胸を五つの爪に貫かれ、ナコルルの花飾りと共に散りゆく間際。 コンルという名の氷の花は、最期の最期まで笑顔だった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/48
49: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/08(月) 01:43:39 ID:v/mt/I13 コンル…。・゚・(ノД`)・゚・。 楽しい話をありがとう64様 あなたはパセカムイの一人です。 それにしても、背景から設定から凄すぎます。 オリジナル設定なことを忘れそうになるくらい。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/49
50: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/08(月) 04:34:53 ID:3amrKaM7 クオリティ高いな、作者乙 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/50
51: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/11(木) 22:48:31 ID:DESbFwoK 保管庫が繋がらん・・・。 消えちまったのかな・・・? http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/51
52: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/12(金) 23:28:56 ID:O8bfe4nU >>51 http://red.ribbon.to/~eroparo/ http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/52
53: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/13(土) 01:08:26 ID:0ugIcxny ↑のアドレスをアドレスバーに直接コピペ汁 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/53
54: 名無しさん@ピンキー [age] 2007/01/13(土) 22:57:05 ID:3L6zZWz+ 保守age…… ああ、コンル・゚・(ノД`)・゚・。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/54
55: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/13(土) 23:47:40 ID:iOKtKZBi 今ちらっと保管庫見たんだが、すげぇなぁ64さん。 長すぎて読みきれないが、もうどこぞのファンタジー巨編じゃないかッ おれもいつかそんなの書いてみたいぜ ガンバって http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/55
56: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/14(日) 22:52:34 ID:KfkmCGsC 刀の残った方がハハクルになったってことなのかな。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/56
57: 名無しさん@ピンキー [sage] 2007/01/15(月) 21:58:27 ID:JyQa/rJJ あぁぁコンル…(;ω;)本当に文章力がすごい。 ところで誰ぞシャルロットを書いてくれませんか。好きなのに乏しくて乏しくてorz http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/57
58: 陸捨肆 [sage] 2007/01/17(水) 23:04:19 ID:dNB4ZVUu 息苦しいまでの瘴気に浸された薄暗いカムイの森に、またしても青い火花が飛び散った。 二つの影が木々の根の上を飛び回り、かち合っては光りを産み、また離れてを繰り返す。 「イイっ……ぜえェ!姉ちゃん!!フッハハハハハ!」 聞くに堪えない、気が狂っているとしか思えない羅刹丸の叫びが、レラの前を右から左に 流れる。その声だけを頼りに次の動きを予測して、レラは音も無く木々を縫い、いきなり 羅刹丸の前に躍り出た。 そのまま、がら空きの胸を狙ってチチウシを突き出す。 死角からの風切音に羅刹丸は濁った目を丸くしながらも、ぶら下げるように握っていた 屠痢兜でその攻撃を簡単に打ち払った。レラもチチウシを叩かれた勢いを殺してまで 追撃は狙うことはせず、美しい宙返りですぐに羅刹丸の範囲から退く。 「すばしっこいじゃねェーか!」 羅刹丸が走りこみながら、屠痢兜を振り回した。 レラが羅刹丸のほうを向いたまま、ひょいひょいと後ろへ飛び退く。光の無い刃の軌跡が、 レラの居た場所に漂う深紫の霧を次々に切り裂いてゆく。 「おら!おらァ!!」 諦めずに追いすがる羅刹丸の攻撃を、レラは静かに後ろへ、左右へとかわし続ける。 チッ、と、羅刹丸が舌打ちをしたのが聞こえた。業を煮やしたのだろう、太刀筋を変えてきた。 両手で振り回すのをやめ、速度に乗せて屠痢兜を突き出してくるのである。片腕を眼一杯 伸ばして、射程を広げようというのだ。片手だろうと、レラの身体ぐらいなら十分に貫く だけの自信があるのだろう、木々の根っこから根っこへと飛び回るレラの身体のど真ん中に向け、 羅刹丸は突きを放ち続ける。屠痢兜それ自体が獣のようにレラの胸を執拗に付け回し、徐々に その距離を縮め始める。突きつける。 と、レラが失速した。苔むした木の根に滑ったか、つまずいたか。がくんと姿勢が低まった。 「もらったぜェ!」 全体重を屠痢兜に預け、羅刹丸は強く踏み込んでレラの胸を射抜く体勢に入る。 しかし、レラは低めた姿勢を直そうとしなかった。それどころかさらに素早く上体を落とし、 半ば地面に寝そべるようにして羅刹丸の突きをくぐるようにして避けた。そして、どたどた 走りこんでくる羅刹丸の下に潜り込み、手と足でくるりと羅刹丸の身体を支え、巴投げの ようにしてそのまま後方に流した。 「おあぁぁ?!」 勢い余った羅刹丸はレラの上を綺麗な円を描いて飛び越し、顔面から大木に激突した。 「ぐお〜〜〜〜〜〜〜ッ!おおう、おぉッ」 ずるりと地面に落ちた羅刹丸は、鼻頭を押さえながらのた打ち回った。木の幹に、鼻血の 落書きが上から下へとこびりつく。 「魔界の男でも、やっぱり顔面は痛いものなのね」 「こんの……あまァ!」 背中の汚れをぱっぱっと払いながら皮肉るレラの声にぴくりと反応し、羅刹丸はすぐに鼻を 押さえて飛び起きた。 「糞アマがァ……!今度こそ絶対に殺す!」 鼻血を流しつつ、鬼の形相で駆け寄ってくる羅刹丸の背負っている殺気が、一段と強まった のをレラは感じた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/58
59: 陸捨肆 [sage] 2007/01/17(水) 23:04:58 ID:dNB4ZVUu 漆黒の軌跡が、またしてもレラの居た場所を切り裂いて回り始める。 「ちっ、何だァおいッ!どうしてそんなに焦らすんだおいッ!かかって来いコラァァ!!」 思い切り振りかぶり、羅刹丸は全身を使って上段から屠痢兜を振り下ろす。途方も無い剣圧が、 刀と指一本分の間だけ横に身をかわすレラの頬にびりびりと刺激を与えた。 切っ先が届く寸前、しかも何の捻りも無い上からの一太刀だが、その存在感と殺意は空間に まで影響を与えるほどだ。 このやりとり、切迫する一撃を肌で味わうのは、これが何度目だろうか。 決闘が始まってどれだけ経ったか。時の流れさえ、この虚ろな空間の中では歪んで感じる。 その中で刃を交えては、つかず離れず。これを幾度も繰り返している。 一時は抑えきれない激情に走りかけたレラも、既に落ち着きを取り戻し状況も理解できていた。 羅刹丸は迂闊に近寄れない相手でもあるし、軽く揉めるというわけでもなかった。馬鹿な ことばかり言うくせに、思った以上にこの男はできる。鉛玉を打ち込んでやった時に膨れ あがったあの邪気は、決して嘘ではなかった。 生死を分ける一撃が頬をかすめるのを横目に見ながら、レラは思う。 ――ねえリムルル、ナコルルと出会えた? それとも、羅刹丸の仲間がいたとして、別の闘いに巻き込まれているのだろうか? カムイの恩恵深いこの土地に、これだけ腐った悪が踏み込んでいるのだ。強い邪気の中心 はここ(羅刹丸)のような気がするものの、この世を支えるナコルルのところにまで毒牙が 届いていない保証などない。魔を払う宝刀を所持しているのは自分だ。シクルゥやコンルを はじめとしたカムイ達がきっとリムルルとナコルルを守ってくれるだろうが、切り札たる 自分が抜けているのは好ましい状況ではない。 ――この男の望む通り、そろそろ決着を。 レラが意を決すると同時に、止まりかけていた時間が動き出した。 羅刹丸は、大きな一振りをちょうど終えた姿勢だった。レラはその後ろにすかさず回り こみ、ぼさぼさの後れ毛に隠れた首に向けてしなやかな蹴りを放つ。 決まりきった繰り返しからの、突然の変化。 そこに一石を投じることで生じる隙を狙い澄ました一撃。決まらないはずは無い。 だがそれを、羅刹丸はごろりと前転して避けた。 「うるアァ!」 そして起き上がって振り向くのに合わせ、羅刹丸は片手だけで刀を思い切り薙ぎ払った。 ――嘘っ!? 応えの無かった脚をレラが慌てて踏みしめると同時に、辛うじて間に合った盾代わりの チチウシを屠痢兜がまともに捉えた。レラはやむなくその一撃を受け止める。 「くうッ!!」 虚空をぐにゃりと歪ませるほどの一撃は、並ではなかった。 爪が弾け飛びそうなぐらいの衝撃、肩が外れそうなぐらいの威力。 ――これがもし、不意打ちじゃなく正面からの攻撃だったら……?! 嫌な想像をもみ消すように両足でぐっと踏みとどまり、レラは羅刹丸の顔を睨みつけた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/59
60: 陸捨肆 [sage] 2007/01/17(水) 23:05:30 ID:dNB4ZVUu 「嬉しいぜェ……やっとやる気になったってか。隙もなにもあったモンじゃあねえがなァ」 刃と刃を十文字に合わせたまま、羅刹丸はあごを突き出して笑った。 「あんなションベンの臭いしかしねえガキなんかよりずっといいなァ。ベッピンで、ズル 賢くて、しかもかなりの殺し甲斐ときたもんだぜ」 「さっきから何を馬鹿なことを」 左手を添え、正面でしっかりとチチウシの峰を押さえながら、レラがさも下らなそうに答えた。 「何でそんなに余裕綽々でいるのか私には分からないけど、あなた、ここで死ぬのよ?」 「死ッ?ほぉ……ヘヘ」 羅刹丸が一瞬驚きの顔をし、すぐにへらへらとニタついた。 「死ぬってか、この俺様が!ほおう、ほう……ひっ、ヒヒハハハ!」 「どうして笑うのかしら」 「おお、悪ィ悪ィ。姉ちゃんは剣の腕だけじゃねェって思ってなァ。口も達者だ。あん まり面白くてよ、こっから先のこと考えるとついついニヤニヤしちまうのよ!」 羅刹丸の腕の筋肉がむくりと膨れ上がり、強烈な馬鹿力が刀を通してレラの身体に迫る。 「っく……!」 「おうおうその顔だ。いいぜェ……耐えながら聞いてくれよな。俺ァな姉ちゃん。強えェ 奴には目が無ェんだ」 羅刹丸が赤く濁った目を細めた。 「そのわけってな、ひとーつ、殺し甲斐がある。ふたあつ、なかなかしぶとい。みぃー っつ、苦労しただけ血酒が香り立って、臓物が舌の上でとろけるってなモンでな?」 「そして、よっつ……」レラが言葉を継いだ。「そのおごりが祟って、自分の命が失われる とは思わなかった。こういう結びでいいかしら?」 「その減らず口がたまらねえんだって言ってんだよ俺アァァァァ!!」 まだ余力を残していた羅刹丸の腕力がにわかに呼び起こされ、レラの身体をいとも簡単に 押し切った。羅刹丸の周囲に渦巻く魔界の毒気にやられて枯れ落ちた草花の上に、レラの 身体が投げ出される。 「おおおおおおおおおらァ!旋風波あッ!」 レラが身を起こす頃には、力を溜めた羅刹丸の地を払う一撃が、叫びと共に完成していた。 屠痢兜に穿たれた単なる土くれが魔力を叩き込まれた無数の散弾となり、レラに牙を剥く。 「うあっ!!痛ぅ……!」 とっさに近くの樹木の裏に避けようとしたものの、レラはもう一歩のところで砂つぶてを 右のふくらはぎに浴びてしまった。下穿きの一部はぼろぼろに破け、そこからのぞく肌には 鋭く細い血の流れが幾つも走っていた。皮膚を覆うような熱い痛みが広がり始める。 「それで逃げたつもりかよォ!おいコラ!」 背にした巨木の向こうから、笑いを交えた羅刹丸の叫びが聞こえた。 とてつもなく嫌な予感を覚えたレラは、息つく間もなく、背中を預けていた樹木の陰から跳んだ。 レラが振り返ると、あんなに太かった樹の幹が、根元から斜めに滑り落ちて横に倒れた。 ずどぉ……! ただの一刀によって伏せられた枝葉が地面を叩き、もうもうと土煙が立ち上がる。 その煙の中に赤く禍々しい二つの目が霞んで見え、血の色をした一筋の残像が輝いた刹那―― 目の前に広がり消えてゆくはずの土煙が、いきなりレラに向けて圧縮するように迫った。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/60
61: 陸捨肆 [sage] 2007/01/17(水) 23:06:05 ID:dNB4ZVUu 「俺様を死なすとかって冗談は、こいつを食らってまだ言えんなら聞いてやらあなあァッ!」 今度こそ、避け切れなかった。竜巻に姿を変えた煙に捉えられたレラは、乱暴にぐるぐると かき混ぜられながら、静か過ぎる森の空へと上っていった。 「うっ……あぁぁぁ!」 もう、右脚の心配をしている場合ではない。まぶたを閉じていなければ眼をやられることに なるだろう容赦の無い砂嵐が、レラの衣服に穴を開け、引き裂き、柔らかな肌を次々と傷つけて ゆく。身体のいたるところが焼けるような痛みを訴え始め、レラはぎゅっと目を瞑ったまま 苦渋に顔をしかめた。 空はどっちか、地上はあちらか。方向感覚がどんどん薄れ、思考が揺らぎ始める。 「へっ、ハハハハハハハハハアァ!」 遠くなる意識の底にまで響く、羅刹丸の狂った高笑いを聞きながら、レラは思う。 ――強い。この男は、強い! 隙を突いたはずの攻撃が裏目に出た。そこに転がり出たほんの一瞬の好機を、羅刹丸は見逃さ なかった。 ――瞬きひとつでも見逃してしまう攻守逆転の境地……あの男はそれを知っている! 攻撃をしかけていたのは常に羅刹丸だった。それにレラが対応するかたちで、戦闘は進んでいた。 一目で分かる力の強さと、それに頼ったぶっきらぼうな流儀。力に劣る者が相対するには、 素早さで翻弄するのが一番だ。決定打を決められない状況に相手が十分に焦れ、油断し、自棄に 出たところを一突き。これが理想だった。 捉まらなければ、何も恐れることは無かった。だが―― それが、このざまである。 ――私が……踊らされていた? そう、闘いは対峙したときにもう始まっていたのだと、レラはようやくにして気づいた。 羅刹丸は下らぬ話術でレラを勘ぐらせ、言葉巧みに心を熱くさせ、焦れて当然の単調な 刃のやりとりでさえ、あろうことか楽しんでいたのだ。この結果を待ちながら。 全ては羅刹丸の計算づくだったのかどうか、それは定かでない。あれは生粋の馬鹿なのだと、 レラはこうやって四肢を痛めつけられるしかない今もそう思っている。 しかしその馬鹿の術に、レラはすっかりはめられていたのだ。 妹とアイヌモシリに仇をなす宿敵に挑みかからんと、無意識に逸った自分が甘かったのか、 それとも純粋に羅刹丸の力量が自分の遥か上を行っているのか。 相手を本気でいたぶり抜き、殺すことに喜びを見出している馬鹿。 そんな馬鹿に、今まで会った事はなかった。 そしてここまで自分を追い詰めた敵にも。 魔界の者。忌むべき存在。カムイの森を荒らす無法者。妹を苦しめた、絶対に許せない男。 なのに、どうも妙だ。 こんなにも痛めつけられ、許せないはずなのに、男の置かれた境遇を思い描けば描くほど、 胸を燃やしたあの怒りがどんどん沈んでゆくのである。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/61
62: 陸捨肆 [sage] 2007/01/17(水) 23:06:37 ID:dNB4ZVUu ――何かしら?なんだか…… 身体と心の両方にすうすうした新しい心地を感じて、レラはゆっくり目を開いた。 いつの間にか竜巻は掻き消えており、砂にまみれた身体はただ空中に放り出されていた。 涼しいはずである、服はもう単なるボロでしかない。肌の露出のほうが多くなっている のではないか。そんなことを思うレラの眼球は虚ろに動き、その視線は、自然と一点に 吸い込まれた。 赤く大きな三日月を手にした羅刹丸が自分の身体の上に踊りかかり、今まさにその三日月 を振り下ろさんとしていた。 ――すごい。 レラは息を呑んだ。それは、純粋な血の色で塗り固められた天体のような刀だった。 どれだけの数の人間の血を塗りたくればそんな色になれるのか、そんな疑問さえよぎるほどに 真っ赤な真っ赤な月――屠痢兜――が、羅刹丸の振り上げた手の中に固く、きつく握り締め られている。 その顔の、嬉しそうなことといったら無い。無邪気、そんな言葉が何よりも似合う満面の笑みだ。 本当の満足が目前にある一瞬、何にも変えがたい一瞬なのだ。彼にとって。 この私の血肉を、あの三日月に捧げる瞬間を待つこの時こそが。 ――わからない。どうしても。 絶命の瞬間を前に、レラの心にまたも疑問がよぎる。 もしかしたらこの男と同じぐらい、自分も人間の命を奪ってきているのかもしれないと、 レラはこれまでの生き方を振り返る。カムイを苦しめる者なら、魔界の者も、愚かな人間も、 どれもこれも同じように、平等にポクナモシリ(冥界)へと導いた。自然の痛みを知らしめた。 だが、笑顔で敵を葬ることなどした事が無い。 世の中に命ほど重く大切なものは無い。それを笑顔で扱おうなど、人間のする事ではない。 それは屠られる方も同じだ。どんなにこの世にあってはいけない命の持ち主であろうとも、 どこまでも生命に執着し、泣き叫んで奪われまいとする。戦いの最中に笑っている者もいたが、 そんなのは虚勢だ。蓋を開けてみれば、最期はどれもみな同じに泣き喚くのが常だった。 しかし羅刹丸は違う。あんな顔は虚勢では出来ない。 この闘いに、レラの命を奪うことに、全てを賭けているのだ。 その目的や理由が何であれ。 羅刹丸にとって「命」が何であれ。 彼に今課せられているものは一つ。とにかく殺すことなのだ。心から。 殺しこそ、全て。それが羅刹丸という男。 仕置こそ、全て。それが私という女。 レラの心に、二つの言葉が重なる。 チチウシを手にシクルゥに跨って、大切なものを……アイヌモシリを、尊いカムイ達を。 リムルルを。 家族を。 その笑顔を絶やさないために、この世に生まれたばかりの幸せを守り抜くために、レラは 闘うのだ。そしてカムイと人とが暮らす、本当に平和な大地を前にしたとき、きっと自分 にも笑顔が。 この身を切り裂こうとしている魔界の男と同じぐらいに、満ち足りた顔で自分も笑うこと ができるのだろう。 そのための闘い。 そのための殺し。 またしても言葉が重なる。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/62
63: 陸捨肆 [sage] 2007/01/17(水) 23:07:18 ID:dNB4ZVUu ――ああ。 頭の中を二転三転するレラの思考はいつしか、ひとつの結論へと達していた。 ――なるほど。そういうことなのね、私。怒りも蘇らないわけだわ。 その結論を認めていいものかなどと、レラはここに来て迷いはしなかった。 ――この男、似ているんだ……私と。 自分の使命のために、殺して殺して。そうして生きてきた。そう生きるしかなかった。 ――私もそう。殺し続けたわ。闘い続けてきたわ。本当に、そのために生きてきたの。 ならば、レラは魔物だろうか。断じて違う。いくら似ているとはいえ、羅刹丸と自分は 根本的に違うのだと、レラは確信している。同じ使命を背負っているからこそ、ここで 負けるわけにはいかない。あの赤い刃の餌食になどなってはならない。 ――私は、この魔物とは違う。私には、背負ったものがある!誓ったことが!! 負けられない。 「断 空 裂 斬 ッ ! !」 羅刹丸のつんざくような叫びが、耳に聞こえた。 レラは瞬きを一つ、それだけで瞳に生気を取り戻し、自分の額に怒涛の勢いで迫りくる 赤い刃を認めると、思い切りチチウシを振りかざした。 間一髪、空中でふたたび十字にかち合った刃と刃から、赤い三日月を彩る火花の星を散らす。 羅刹丸の恍惚としかけた目が、間抜けなぐらいにまん丸になった。 レラは片手だけで、屈強な羅刹丸の一撃を受け止めていたのである。 「何って……力だこと。私の命、そんなに欲しかった?」 握力の限界を超え、手の切傷から滴る血液に自らの顔を染めながら、レラが言った。 「でもダメね。あなたが欲しいものは、私を殺しても手に入らないわ。私の妹でも、コウタ でもない……誰の命でも満たされないわ、きっと。だけどね?」 レラは自然な落下を全身に感じながら、言葉を継いだ。 「あなたさっき自分で言ったわね。この剣を受けた今なら言っていいって」 低い声で、レラは言った。 「あなたは殺すんじゃなく……殺されたいのでしょ」 一緒に落ちゆく羅刹丸の刃から、圧力が抜けた。顔は呆けたままだった。 レラはしのぎを削っていたチチウシを屠痢兜からそっと放し、手の中でくるりと回すと、 逆手から順手へと持ち直した。 「叶えてあげるわ、あなたが望むこと。今ここでね……死になさい!」 血の滴る右手に強く握られた聖なるチチウシが、羅刹丸の左わき腹深くへと突き刺さった。 その瞬間だった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/63
64: 陸捨肆 [sage] 2007/01/17(水) 23:08:24 ID:dNB4ZVUu ど く ん っ 一瞬ではあった。ほんの一拍ではあった。 しかし、地上を、海を、この星全てを揺るがすかのような鼓動が、世界を駆け抜けた。 ど く ん っ その鼓動は、人間の作った地下室を歪めんばかりに。 「だーからコウタもっと呑めぁうお!?」 「うわった、地震か?!」 「おおお、あれ……止まった?つか呑み過ぎ?俺ら呑み過ぎか、なあコウタよ!なあ!!」 「いや、チゲ鍋こぼれてるから結構大きかったぞ、今の地震……ってやめ!口移しは絶対だめ!」 「ほーらほら、バードキス!フレンチキス!舌入れるぞ舌!!」 「らめぇ、絶・対!!」 ど く ん っ その鼓動は、祝祭の空気を漂わせるアイヌモシリを揺らがせんとばかりに。 「大学生、真っ昼間から地下の飲み屋にて宴会中。メンバー、開催内容にも特におかしな 所は……おっ、柳生さん、これ……?」 「地震だ」 「大きいですね……」 「……ああ。何か、あるな。よし佐川」 「はいっ」 「コーヒーとあんぱん買ってこい」 ど く ん っ その鼓動は、カムイが作り出した地上の楽園を引き裂かんとばかりに。 「ふん、散りおったか。コシネカムイごときがしゃしゃり出るからよの……うむッ?」 胸をナコルルに貫かれ、安らいだ笑みを浮かべたまま冷たい氷像となっていたコンルが、 地震のような強い振動によって一瞬で瓦解した。 優しかった笑顔が、艶やかだった髪が、温もりを感じた手のひらが、花々が咲き乱れる カムイの土地へと崩れ落ち、リムルルの目の前で粉々の氷の破片となり、消えてゆく。 どくん…… 木々が拍を打つようにざわめき、地上さえ揺るがしたのが、空中にいるレラにも伝わって きていた。空気を通し、そして、羅刹丸のわき腹に埋まったチチウシを通して。 チチウシは、脈動する周囲の風景に同調するかのように、力強くレラの手の中で踊って いた……いや、チチウシの変貌と同時に、この世が揺れ始めたのだろうか。魔物の肉体に 突き刺さり、毒々しい血に塗れたことで、その本来の力を取り戻そうとしているかのように、 チチウシはカムイの森に漂う魔界の空気を射抜く光を強めていた。アイヌモシリを汚す魔界の 者を狩ることこそが、この刀を受け継いだ者の宿命だと、そう告げているかのようだった。 しかし、生きる事に関して既に狂っている魔界の男は、絶望的な傷を負ってなお、にやりと 余裕さえ感じさえる笑みを浮かべていた。 「やっ……てくれるじゃねェか!ねえちゃんよぉぉッ!」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163952361/64
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