ハロ異聞録ペルソナ (25レス)
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1: 2020/01/07(火)23:28 AAS
千年ぶりの皆既日食の日、モーニング女学院の屋上では数人の少女が「守護霊様」と呼ばれるオカルト遊びを行っていた。
その時は何も起こらなかったが、日が傾きだした頃、学校が異形の空間に包まれる。
それは「受胎」と呼ばれる現象だった。
校内の生徒が狂ったように暴れ出し、姿形まで化物へと変貌してしまう。
そしてそれとリンクするかのように「守護霊様」を行った少女達や、その現場に居合わせた者達にも大きな変化が訪れるのであった。
はたして彼女達は脱出不可能となったこの学園受胎のなか、生き残ることができるのだろうか。
2: 2020/01/07(火)23:29 AAS
『高橋愛の場合』

 おはようございます! という声に高橋は笑顔で応えた。すると直ぐに別の方向から他の後輩が挨拶してきた。
 校門から下駄箱までの間でどれだけ声をかけられるのだろう。数えていればギネス記録だったかもしれない。
 教室に入ると同輩までもが、まるでヒーローでも見るような目で自分を見てくる。
 高橋はそれが内心嫌だった。
 学校の生徒会長で合唱部のキャプテン。校則を遵守し、誰に対しても分け隔てなく接する。それが“高橋愛”なのだと、プレッシャーを掛けられているかのような気になる。
 昼食を屋上ですませた高橋は携帯をわざとその場に置い屋上をあとにした。
省13
3: 2020/01/07(火)23:29 AAS
『新垣里沙の場合』

 今日は待ちに待った皆既日食の日だ。
 新垣里沙はその気持ちを胸に留めて家を出た。
 通学路につくと仲のいい後輩、亀井絵里と道重さゆみの後ろ姿が見えたので駆け寄って声をかけた。
「おっはよう!」
 後輩二人が「おはようガキさん」と返した。先輩後輩の関係だがフランクな間柄だった。
「今日やるんでしょ?」 と亀井絵里が訊ねると新垣は「もち」と言って頷いた。
省30
4: 2020/01/07(火)23:31 AAS
『亀井絵里の場合』

 明日は皆既日食の日だ。
 そう思うと亀井は気が重くなった。
 その日、先輩の新垣里沙、同学年の道重さゆみと自分の三人で『守護霊様』という遊びをやる約束をしていたからだ。
 新垣にやろうと言われ、思わずいいよと言ってしまったのがきっかけだった。
 隣りで道重も乗り気な様子だった。だから断れなかった。本当はそういうオカルトチックなものは苦手なのに。でも言えない。
 昔から押しに弱いと自分でも自覚していた。ついつい相手の空気に合わせてしまう。周りからは「絵里優しいよね」などと言われるが、褒められている気がしなかった。
省7
5: 2020/01/07(火)23:32 AAS
『道重さゆみの場合』

 皆既日食の日、道重は浮かれていた。
 今行っている授業が終われば昼食だ。その後いよいよ『守護霊様』を行う。
 新垣も亀井も願い事に関しては口をつぐんで妙に含みのある感じだった。
 自分は違う。二人にも何を願うか言ってある。
 女に生まれたからには一度は夢みる世界一可愛い女の子。これ以外にあるまい。
 道重は大きな手鏡で自分の顔を見る。
省2
6: 2020/01/07(火)23:33 AAS
『田中れいなの場合』

 朝、通学路の一角で、モーニング女学院の生徒達の視線が一点に集まっていた。
 原因は田中れいなだった。
 時代錯誤ともいえるロングスカートのセーラー服に派手な頭髪。
 そもそもモーニング女学院の制服はちゃんと指定されたブレザーとシャツが存在する。
 田中は、そんなことなどお構いなしといった様子で、約一年ぶりにモーニング女学院の校門をくぐった。
 というのも一年生の夏前に福岡から転入してきた彼女は、その初日から今日まで無期停学処分となっていたのである。
省15
7: 2020/01/07(火)23:35 AAS
『光井愛佳の場合』
 
 昨日は酷かった。雑巾を口に突っ込まれて感想を言わされた。もう耐えるのに疲れた。
 昼休み、屋上の一角で身を隠しながら光井はそう思い返していた。
 中学の頃からイジメのターゲットにされ、高校でも同じようにイジメられ続けている。
 最初は自分が悪いのかと悩んだ時期もあった。腹を蹴られるたびにごめんなさいと叫んだ。それにも疲れて何も言わなくなると、暴力は余計に酷くなった。
 死のうと決意したのが一週間前。千年ぶりの皆既日食が迫っているとニュースで言っているのを見て決めた。
省20
8: 2020/01/07(火)23:36 AAS
 突然高橋が現れたことで亀井と道重は気まずそうに顔を見合わせた。
「別にいいじゃん!」 声を上げたのは新垣だった。
「でも、授業が……」 
 再度言いかけて高橋はその場に座り込んだ。「あたしもここで見てる。なんかあったらまずから」
 何があるって言うんだ。新垣の奥歯が鳴った。聴こえたのは本人だけだろう。
「ほら、えり、さゆ手繋いで。始めよう」
 新垣、亀井、道重は手を繋ぎ目を閉じた。
省18
9: 2020/01/07(火)23:37 AAS
 五限目の授業の終わりを告げるチャイムと共に高橋、新垣、亀井、道重の四人は屋上を後にした。
 それを認めてから光井も駆け足で教室に戻っていった。
 田中だけはその場で下校時刻になるのを待つことにした。
 教室に戻り席についた高橋は震えながら息を吐いた。六限目の授業が始まっても、内容はまったく頭に入らなかった。
 あれは何だったのだろうか。
 黒い影の異様な艶めかしさが脳裏にはりつて離れない。
 そうして授業時間も折り返しにきたところだった。
省31
10: 2020/01/07(火)23:39 AAS
 ゆっくりと近づいてくる男に合わせて、高橋も後退った。近くにある物を手あたり次第に投げつける。壁に背が当たるのを感じた。
 高橋の足はそれでも男との距離を保とうと動き続けた。
 距離が縮まるにつれ、彼女はこう思うようになっていた。
 似ている。屋上で見た影の動きに、と。
 ただ、影と違って男は確実に自分を食らうだろう。影のように消えるなんて都合のいい話はない。あれは遊びで、見たものは想像の産物でしかない。これは現実だ。
 でも、もしも、あれも現実だったなら。
 影は近くまできて何かに邪魔をされたかのように弾けた。消えたんじゃない。消えざるを得なかった。自分と影の間に何かが――
省27
11: 2020/01/07(火)23:39 AAS
 新垣が異変に気付いたのは手洗いから戻ってきた時の事だった。
 やけに教室が騒がしいと思いドアを開けると、目の前で生徒同士が取っ組み合いをしていた。
 思わず止めに入ると物凄い力で窓際の席まで突き飛ばされた。打ちどころが悪ければ怪我じゃすまなかったところだ。
 文句を言おうと立ち上がろうとした時、教室内で起こっている事に気付いた。正確にはその光景を視たと言った方がいいだろう。
 それがどういう事で、なんでそうなっているのかは、まったく理解できなかったが、とにかく生徒同士が齧り合っていたのだ。
 おまけに床には無数の手足が散乱し、いたるところに飛び散った血で教室はどこもかしこも油絵みたいになっていた。
 新垣は四つん這いのまま部屋の隅へ移動した。両膝を抱えて小さくなり、早くこの地獄が終わりますようにと祈った。
省20
12: 2020/01/07(火)23:41 AAS
「ほらどうする高橋さん? クラスのみんながあなたを食べたいって」
「そっか……じゃあ、私がどうやってここまで来たか、教えるよ」 
 高橋を中心に風が巻き起こる。
「ペルソナ!」
 言葉と共に高橋の背後からヌエが飛び出し、近くの生徒を吹き飛ばした。
 その場の誰もが困惑した。怪物が突然現れたのだから当然だ。
「愛ちゃんそれって――」 訊く新垣の言葉を遮って高橋は言った。「詳しい話はあと」
省38
13: 2020/01/07(火)23:42 AAS
 屋上から教室に戻る途中で道重は足をとめた。
「なんだか授業する気分じゃなくなった」亀井にそう告げて彼女は保健室へ赴いた。
 養護教諭を務める保田圭はモー女のOGである。教師のなかでは比較的若く、生徒ともフランクに接してくれるとあって結構な人気があった。
 道重も保田に愚痴を聞いてもらうのが好きで、ちょくちょく授業をさぼってはここで時間を潰している。
 今日もあれがあった、これがああだと話しが盛り上がった。ただ、守護霊様の事は言わなかった。見た“あれ”を口にするのがなんだか怖かったからだ。
 保田がそういえば、と話しを切り出した。
 それはとある少女が合わせ鏡によって鏡の世界に閉じ込められてしまう、という昔からモー女に伝わる噂話だ。
省30
14: 2020/01/07(火)23:43 AAS
 保田に手を引かれ、駆け足で階段をのぼる最中、道重は考えていた。
 もしも言われた通り自分も化物になるのだとしたら、それは他の生徒もなるのではないか? そしてそこには亀井絵里も含まれている。
 道重は保田の手を振り払い言った。「えりも助けなきゃ」
 保田の目が鋭くなる。
「悪いけど、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんだよ」
 自分には鏡の国の少女が何故助かろうとしなかったのか理解できなかった。
 さゆみならさっさと他人を犠牲にして助かるのに。だって、さゆみが一番可愛くて一番尊くて一番大事。
省44
15: 2020/01/07(火)23:44 AAS
 教室に戻った亀井は自分の席につくなり溜息を漏らした。
 瞼の裏に影の姿が焼き付いて離れない。やはり守護霊様なんてやるべきではなかったのだ。
 そうやってああでもないこうでもないと考えていると、
「これから大事なことを言うぞ!」 教師の言葉でハッとした。
 気付けば授業開始から三十分以上が経っていた。ノートは白紙のままだ。
 急いで黒板の内容を書きとめようとペンを走らせる。
 いつも騒がしいクラスが妙に静かだと思った、その時だった。
省41
16: 2020/01/07(火)23:45 AAS
 直ぐに呻き声があがった。男のものだった。
 攻撃を加える寸前で生徒達の動きが止まったのである。
「エンジェル!」 
 亀井が叫ぶと天使は薙ぎ払うように手を振った。生徒達はその動きに合わせて教室の隅まで弾け飛んだ。
 念動力。物体を意志の力で操作する。それがエンジェルの得意とする能力だった。
 触手を介してしか効果を及ぼせない男よりも、対象を動かすという点では優れている。
 いきなり操作を失ったことで男もそれを悟ったのか憤怒の表情で自ら襲い掛かってきた。
省22
17: 2020/01/07(火)23:46 AAS
 ハッとして目を覚ますと、やはり道重がいた。それと養護教諭の保田圭。
「えり! 目覚めたんだねよかった」
「私……そっか、さゆが助けてくれたんだね」 亀井は駆け寄ってきた道重に微笑んだ。
「ここで何があった? あたしはてっきりは悪魔たちが暴れてると思ってたんだけどね」 難しい顔をしている保田に亀井は覚えている限り説明した。ペルソナを使える事に二人は驚いていたが、彼女にしてみればお互い様だった。
 情報交換を終えると「フードの奴か……」と言って、保田は考え込んでいた。
「あの、保田さん今は直ぐにでも非難した方がいいんじゃ?」
 亀井が訊ねると保田は目をぱちくりさせてから言った。
省23
18: 2020/01/07(火)23:47 AAS
 田中れいなが大きな音と揺れを感じて目を覚ました時、そこには空が無かった。薄暗く、太陽も雲も見当たらない。あるのは見た事も無い斑模様だけだ。 
 地平線まで続くコンクリートジャングルの景色も斑の暗幕により遮られている。
 まるで学校だけ檻に入れられてしまったみたいに。
 携帯で時間を確認すると丁度六限目の授業が終わろうかという時刻になっていた。
 嫌な予感がした。
 田中が屋上を後にしてまず感じたのは静けさだった。授業をしている時のものとは違う。もっと殺伐としている。まるで敵意や悪意を持った者達が物陰からひっそりと獲物を観察しているような。
 それでいて人の気配はなく、がらんとした空気が漂っていた。
省30
19: 2020/01/07(火)23:50 AAS
 頭がぼーっとする。首に分厚い手が掛かっているせいだ。骨が軋む音が聴こえる。息ができない。
 牛男が何か言っていた。おそらく『シドウ』だろう。左腕が引っ張られている。口の動きから察するに『引き千切ってやろうか』といったところか。
 福岡にいた頃、あの時もそうだった。景色が歪み音が消え、痛みも消えて色も消える。懐かしい。あの時はどうしたっけ――そうだ覚えていない。
 あの時の記憶は、よく覚えていない――
 田中の右手が持ち上がる。
 ほっそりとした指が首を掴む剛腕に掛かると突如不気味な音を立ててめり込んだ。
 驚きあまり牡牛は全力でその場から飛び退いた。
省35
20: 2020/01/07(火)23:50 AAS
「シドウサマは死んだの……? 本当に?」
「多分そうっちゃない」
「よかった……本当によかった……」少女は涙を流しながら何度もそう繰り返した。
 こういうムードは苦手だ。
 田中が踵を返す。「はよ帰り」
「は、はい……。その前に、いただきます」にたり、と少女の口が裂けた。
 びっしりと並んだ犬歯が田中の首根っこに食らいついた――かに思えた。
省22
21: 2020/01/07(火)23:53 AAS
 校長室へ向かう途中、高橋新垣亀井道重そして保田の五人は共鳴を感じ取った。それも二つ。一つは遠いがもう一つは近い。
 皆が自然と顔を見合わせる。
 言葉を交わさずとも五人の意思は一致していた。
 共鳴の元――ペルソナ使いを確かめようと。
 ただ遠い方は保田の案で後回しということになった。まずは近い方へ。
 道中、幸いにも悪魔に出くわすことはなかった。しかも共鳴は二階から。校長室があるのも二階なので好都合である。
 そうして二階の職員用トイレの前まできて五人は足を止めた。
省41
22: 2020/01/07(火)23:54 AAS
「じゃあなんでさゆみ達は悪魔化しないんですか?」
 一口にペルソナ使いだからと言われても納得できなかった。
 つんくが答えると室内に驚きの声があがる。
 曰く、ペルソナとは魂が半悪魔化した状態を指すらしく、すでに半分悪魔なのだからそれ以上の変化は起きないとのことだ。異界に対しての免疫機能の現れみたいなもので――インフルエンザの予防接種と同じ原理だ。
 ただ、ここで少女達は疑問に思った。つんくからは特有の共鳴を感じないのである。つまりはペルソナ使いではない。なのに受胎の中で平然としている。
「まあ俺はサマナー、デビルサマナーやからな。仲魔がおんねん」
 高橋達が一斉に「ナカマ?」と口にした。
省33
23: 2020/01/07(火)23:55 AAS
 校長室を出た五人は歩きながらこれからどうするか話し合った。
 高橋と新垣のいた三年生のフロア、つまり四階では沢山悪魔はいたが術者らしき者はいなかった。道重は保田と共に校長室へ向かい、途中で亀井を助けるために二年生のフロアである三階へ。光井は体育の授業を見学していたらしく、そこから階をあがり二階の職員用トイレへ。
 つまり各自が通ってきた経路と合流後の経路をまとめると、二階から四階に術者と疑わしい者はいなかったという事になる。
 一つ気になる点があるとすれば――
「えりの言う“フード”が怪しいかな」
 高橋は口元に手をやった。
 話しを聞くかぎり、そいつは自分達が相手にした悪魔よりも数段格上に思える。つんくの言った強い力とも合致する。
省29
24: 2020/01/08(水)00:22 AAS
「二人が居れば怖いもの無しじゃないですか」
 道重はルンルン気分で悪魔に近付き指でつついた。
「さゆー調子に乗ってるのと起き上がってくるかもよ」新垣が意地の悪い顔をする。
「まっさか~! そんなわけ――!?」 本当に起き上がった。
「危ない!」亀井は思わず近くにあった椅子を掴む。すると椅子はひとりでに動き出し、道重に齧り付こうとしている一つ目に体当たりをかました。しかも意思でもあるかのように悪魔を壁に押し付けてサンドウィッチに拘束する。
「あ、危なかった……さゆみだって、怒ったら怖いんだからね」道重の手にステッキが具現化される。
 えいっ! と、それで悪魔の頭を叩いた。何も起こらなかった。
省46
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