だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ7 (565レス)
だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ7 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/
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146: 創る名無しに見る名無し [sage] 2011/12/30(金) 01:28:00.03 ID:vYNTjxm+ >>145 投下乙です。順調にラブ路線ですねw ガンダムでこんな風にまったりしてる作品は、実はけっこう新しいんじゃないかとも思います。 クリスマスに合わせられなかったのは――確かに残念の一言ですw でも一足遅いクリスマス、というのも悪くないのでは? 次の投下に期待します で。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/146
147: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:29:33.48 ID:vYNTjxm+ 自分の汗で肌に張り付くシャツの不快さで、目が醒めた。 「…」 目が醒めた後も、しばらく動けなかった。死ぬほど怖かった。見知らぬ宇宙に放り出され、無数の怨念の声に追い立てられ、恐怖と狂気に苛まれながら戦 う――しかも、最後は本当に『殺された』。今まで知らなかった領域の高熱と激痛が全身を襲う前、警報が鳴ったのを聞いた。横方向から襲い掛かる光の波 を見た。あれはきっと、かなり大型の――艦砲クラスのメガ粒子砲だ。 ――真面目に考えてもしょうがない、と思った。所詮夢だ。 そう。夢だったのだ。 「……ふ、ふふ……ふふふふふ……」 布団の中でうずくまり、低く笑う。耳に聞こえるほどの激しい心音も、今となっては心地いい。夢だったのだ。もう終わったのだ。びっくりさせやがって。 久々にちょっとビビッたぜ。何だよ夢かよ。そりゃそうか―― 「お兄ちゃん」 「うわああ!?」 突然かけられた声に、翼は跳ねるようにベッドの端まで後ずさった。ベッドの傍らに、目を丸くした往多瞳が立っている。「……どしたの?」 「……あ、いや……悪い。寝ぼけてた」 「ダッさーい」 「るせえよ」 「ご飯できてるよ。早く食べないと学校遅れるよ。余計な面倒かけんなこのクズ。ってお母さんが言ってた」 「最後のはお前だろが」 「だって面倒だもん。いい加減に自分で起きてもらわないと」 言葉を切り、義妹の瞳はベッドに片膝を突いた。 唇が重なる。「…」「…毎朝こんなことしてるわけにもいかないでしょ?」 「今後の生活にも関わるんだから、自分で起きる癖つけてよ」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/147
148: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:30:56.27 ID:vYNTjxm+ それだけ言って、瞳は部屋から出て行った。「…」唇を拭おうとして、止めた。そんな事より。ベッドから起き出し、クローゼットを開ける。 「お兄ちゃん」 今度は驚かない。「まだいたのか、お前――」 義妹の顔が、融けていた。「え…!?」皮膚が緑色に変色しながら融け落ち、赤い肉の端から頭蓋骨が覗く。眼球が転げ落ち、ぴしゃりと床 で一度跳ね、翼の裸の足に乗った。「ひ!?」 反射的に足を払う。「酷い」 「拾ってくれれば、イイジャナイ」 瞳だったものが倒れるように屈み込み、目玉を拾う。それを自分の眼窩に押し込み、翼を見上げる。『ネエ、チャント入ッテル?』 入っていた。 逆向きに、入っていた。眼球の白と、神経と思しき赤い糸―― 轟音と共に、翼は尻餅をつく。「!?」 身体を起こすと、自室の瞳がいた側の半分が、無くなっていた。頭上を見上げる。銃を構える一つ目の巨人。MS‐06。 モノアイが、翼を見下ろして光る。「い――嫌だ――嫌だ!」 逃げようとする翼の足を、何かが掴んだ。翼はまたその場に倒れこむ。自分の足を振り向く。 『サア、続キヲシヨウジャナイサ』 あの女の、声だった。毒ガス作戦の指揮官。シーマ・ガラハウ。手もあった。翼の足首を掴んでいる。 緑色に腐り、融けかけた腕が床から生えていた。翼が倒れている床全体が、破壊された人体の寄せ集めで出来ていた。赤い肉の床に無数の死 に顔があり、全ての眼球が翼を凝視している。 『『『『『サア、戻ッテオイデ』』』』』 無数の声と同時に、床から一斉に血塗れの手が生えた。翼の身体に群がってくる。 翼は叫んだ。狂う、と最期に思った。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/148
149: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:32:14.42 ID:vYNTjxm+ 見知らぬ男の顔が目の前にあった。両肩が痛む。 「目が開いた……! おい、大丈夫か? 私が分かるか?」 「――あ――あ、が――か――っ」 声がまともに出なかった。酷く喉が痛い。無理に声を出そうとして吐くように咳き込む。叫んでいたのだ、と分かった。夢と同じように。 ――夢――? 「ほら、水だ」 医者が水差しを持ってきて、傾ける。奪い取るように飲み干した。「……どうだ、喋れるか?」 「……喉が、痛い」 「そりゃそうだろう。酷いうなされ方だったぞ。ちょっと普通じゃなかったな。精神科か神経科にかかったことはあるか」 首を横に振る。「ふむ。何があったかは知らんが、宇宙を漂流する羽目になって、余程神経に負担が掛かったのかも知れんな。本来ならしば らく安静にして、カウンセラーにでもかかるべきなんだが」 「……本来とかべきなんだがとか、嫌な予感のする言い方は止めてくださいよ」 「冗談だ、と言いたいが――察しがよくて助かる、と言わせて貰おう」 言いながら医者は水差しに水を注ぎ、逆の手で電話の受話器を取り、ボタンを押す。「もう一杯飲んでおけ。少し喋る羽目になるだろうから な」 「尋問ですか」 「そこまできつくは無いだろうが、色々と聞かれるのは確かだろう。私だって聞きたいぐらいだ。『あんなもの』に乗って宇宙を漂流していて、 しかも調べでは戦闘をした形跡まであるそうじゃないか。――本当に、君は何者なんだ?」 「……」 分からない。こっちが聞きたい。黙ってろ。そんなことを言おうとした瞬間、内戦が繋がったらしかった。「医務室だ。艦長に繋いでくれ。 漂流者が目を醒ました」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/149
150: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:33:41.71 ID:vYNTjxm+ 宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。 同年1月4日、スペース・コロニー、アイランド・イフッシュが安定軌道を外れ地球への自由落下を開始。これにジオン公国軍の艦隊が随行 しているのを確認し、地球連邦軍はこれをサイド3・ジオン公国の地球に対するテロ行為と断定、ティアンム中将率いる地球低軌道防衛艦隊を コロニー落下阻止の為に差し向けた。 『神が放ったメギドの火に、必ずや連邦は灼き尽くされるであろう』 コロニー落下作戦に先立って、公国軍総帥ギレン・ザビが全将兵に対し行った訓示の一節である。 自分のしたことの責任を神に転嫁した男がその後どういう末路を辿ったか――それは歴史の示す通りである。 しかし、往多翼はこの戦いの中で、確かにそれと対峙することになる。 自分の運命を捻じ曲げようとする、『神』とも形容できるほどの強大な力と――。 * 嘘を吐くべき必然も嘘を吐いて得る利も無かったので、質問には全て正直に答えた。 一通り質問が終わり、その艦――地球連邦軍地球低軌道防衛艦隊サラミス級巡洋艦《イケイル》の艦長、カーク・ヤクネインは不服そうに鼻 を鳴らした。「西暦2011年、日本在住の高校生、か」 「はい」 「で、それが気がついたらこの宇宙世紀0079年の世界にいて、どうやってここに来たかは憶えていない、と」 「はい」 「『あれ』の入手経路も当然憶えていない、と」 「はい」 「それだけなら、前後不覚の分裂病患者が、ジオンの施設から『あれ』を盗んで脱走した、と考えるのが一番妥当だったんだがな」 「――そうはならない――って、事ですか?」 「お前の持ち物から、これが出てきちまったからな」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/150
151: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:35:22.64 ID:vYNTjxm+ 言って、カークは翼の財布を出した。翼の方へ投げる。緩やかに回転しながら飛んできたそれを、翼は受け取って中身を確認した。――ちゃ んと入っている。通っている学校の学生証、日付の入った電器屋のポイントカード、何となく取っておいたレシートが数枚。日本銀行券と描か れた紙幣――自分の生きていた世界とその時間軸を証明するには充分に思えた。 「お前が目を醒ます確証が無かったからな。治安維持活動の一環として改めさせてもらった。――百歩譲ってレシートやカードは不採用として も、ICチップの入った学生証なんぞを分裂病患者が偽造できるわきゃ無いからな。そいつは本物だと判断せざるを得ない。そしてそいつが本 物なら、お前の証言もまた真ということになる」 「そうか――まさか財布まで飛んできてたとはな。これを仕組んだ奴も、義理堅いとこがあるんだな」 「ああ。これでとりあえず、お前の精神が異常だって線と、お前が単独犯だって線は消えた」 その言葉に、翼は財布からカークへ目を戻す。「あと何の線が残ってるんだよ」 「お前がIDカードを偽造できる規模の組織の人間だって線だよ。ちょうどお前が乗ってきた『あれ』や、そういうのを作れる規模のテロ国家 が一つあるんでな」 「俺がジオンのスパイだっていうのかよ。馬鹿なことを」 「ああ、全く馬鹿なことだ。まともなスパイならこんな馬鹿げた手で潜り込もうとしたりしない。お前だってバカバカしいと思うだろ? 本気 でやってるなら今すぐ止めてもらいたいね。頭が痛くなる。しかし」 カークは言葉を切り、窓外を指差した。「お前が乗ってた『あれ』がジオンの兵器である以上、そこに納得のいく説明が無い限り、このバカ バカしい線は消えないんだよ」 翼も窓外を見た。《イケイル》の狭い甲板の上、いくつものアレスティング・ワイヤーに拘束されて、一機のMSが立っている。もちろん翼 は知っていた。白い躯に青い胸。二つの角と金晴眼。右手に握るビーム・ライフル。「あれは、ジオンの兵器じゃない」 「だったら何なんだ」 「名前はガンダム。型式番号RX‐78。トリコロール・カラーに塗られてるから2番機だろう。RX‐78‐2だ。ジオンのMS・ザクに対 抗するために、あんた達連邦軍が」 半年ほど未来に開発するMSだ。 そう続けようとして、翼は否定した。「……違う」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/151
152: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:37:25.05 ID:vYNTjxm+ 「? 何だ?」 「艦長。あのMSの左肩を見てくれ。数字が書いてある。見えるか?」 「別に目は悪くないんでな。――25、いや、点があるな。2.5《ツー・ポイント・ファイヴ》か?」 「あんなマーキングは、俺が知ってるガンダムには無かった。――よく見たら、細かいところが少しづつ違う。盾が無いし、背中のビーム・サ ーベル・コネクターも無い。ランドセルも少し大きいみたいだ」 「――つまり、お前が知ってるRX‐78‐2とやらの、マイナーチェンジ機か何かとでも?」 「そうかも知れない。マーキングと合わせて考えるなら、RX‐78‐2.5ということかもしれない。――ちゃんと調べないと分からないけ どな」 「で? 色々と喋ってくれたのはありがたいが、そろそろあれはジオンの兵器じゃない、の根拠が欲しいな?」 「だから」 その時、内線が鳴った。カークが受話器を取る。「俺だ」 「――分かった。艦橋《ブリッジ》へ上がる」 受話器を置き、翼を振り返った。「一旦休憩だ。お前は部屋へ戻れ」 「どうしたんだよ」 「本隊と合流する。本来の仕事に戻るんだよ」 「コロニーを、止めるのか」 部屋から出て行こうとしたカークが、その言葉に振り返る。「……ちょっと待て。何故知ってる。俺はお前に本艦の作戦内容まで教えた覚え は無いぞ」 「……」 一瞬迷った。言うべきではないのかもしれない。もし信用されなければ、本当に病院か、もっとまずいところに放り込まれるかもしれない。 でも――信じさせれば、自分の価値を認めさせられる。不安だった。関係無いと目と耳を塞ぎ、嵐が過ぎ去るのを待っても、何も変わらない 気がした。何も変わらないということは、この世界で飼い殺しにされるということだ。冗談じゃなかった。立ち止まるのが怖かった。 そして、信じさせることは間違い無く出来る。何しろ――全て事実なのだ。『未来』を予知するのではなく、起こってしまった『過去』をた だ語ればいいのだから。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/152
153: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:39:13.29 ID:vYNTjxm+ 決断して、口を開いた。「俺は、この戦争の顛末と結果を知っている。コロニーは落ちる。ジオンの攻勢はその後も続き、地球へ大量のMS が送り込まれ、地球連邦軍は向こう半年で壊滅的な打撃を受ける」 「――何言ってんだ、お前」 「今は信じなくてもいい。そのうち分かる。でも信じてくれたほうがいい。俺はコロニーを止める方法も知ってる。阻止限界点までにコロニー に取り付いて、姿勢制御バーニアで軌道を変えればいいんだ。衝突を回避できる」 「――そんな事はお前に言われなくても分かってる。だが却下だ。どうやって侵入する気だ? コロニーの周囲はジオンの艦隊が取り囲んでい るんだぞ。戦闘機か何かでのこのこ突っ込んでいく気か?」 「――そのための、ガンダムだ」 そんな気がした。翼をこの世界に突き落とした――神とか運命とか言う奴が、そんなシナリオを望んでいる気がした。いいだろう。乗ってや る。 何かしたから失敗した、と言われるよりも、何もしないから還れなくなった、と言われるほうが辛い気がした。「あのMSが本物のガンダム なら、この時代のザクなんかは問題にならない。単騎で突破できる。俺も作戦に参加させてくれ。役に立てる」 「民間人を作戦に参加させろってのか? 却下だ。そんなことをしたら俺の軍人というか、人間としてのモラルが問われるだろうが。断固却下 だ。さっさと部屋に戻れ」 「頼むよ。あんたにだって都合があるだろうけど、俺にだって都合はあるんだ。もしここでコロニーを止められれば、それで還れるかもしれな いんだ。俺が邪魔だと思ったら後ろからでも撃てばいい。誓約書があるならサインしたっていいんだ。たとえ怪我したり死んだりしても、軍に 一切の責任を追及しません、ってさ」 「そんな誓約書は無いし、あったとしても俺の一存で出したり書かせたりは出来ん。お前に頼らなくてもコロニーを止める作戦はすでにある。 余計なお世話だ」 「……駄目なんだよ、それじゃ……万全に思えても、同じ手で戦ったら結果は同じなんだ……史実と同じ作戦なら、コロニーは落ちる……!」 「それを決めるのはお前じゃない。ジオンの連中でもない。――俺達だ。まあ大人しく見ていろ」 それだけ言って、カークはドアを閉めた。部屋に翼一人が残される。「……それでも、落ちるんだ……何もしなかったら、それでも落ちた時 に、自分を許せない……!」 翼は窓外のガンダムを振り返る。 人の姿を模した戦闘機械は、翼の視線に何も応えなかった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/153
154: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:40:45.68 ID:vYNTjxm+ 1月5日、0452時。 「艦長。旗艦《ウヅキ》、ティアンム艦隊司令より全艦へ入電。作戦宙域への全艦集結、所定ポイントへの配置完了確認。コロニー及び敵艦隊 を捕捉すると同時に作戦を開始する。開始予定時刻は0545時。全艦第一戦闘配備にて待機せよ。以上です」 「了解だ」 短く応え、カーク・ヤクネインは艦長席に腰を下ろした。「聞いたなお前ら! 全艦第一戦闘配備だ! いつ始まっても動けるようにしてお け! 機関室、砲術班は各部最終チェック! まだ時間はある、不備や不足があるなら今のうちに知らせろ!」 「了解!」 クルーの答えと共に、艦橋全体が動き始める。地球連邦軍低軌道防衛艦隊は、全軍を以ってアイランド・イフッシュの落下コースと地球の間、 阻止限界点の前面に布陣していた。ジオン護衛艦隊との彼我兵力差は7対3。民間人の漂流者に心配されるような戦力差ではなかった。ジオン もそれは承知しているだろう。よってジオン側が取るであろう戦術もすでに予想はついている。――玉砕覚悟の強行突破。全滅も辞さずに中央 で戦って血路を開き、たとえ艦隊は全滅してもコロニーは通す。つまりは壮大な自爆テロだ。対する連邦軍の取るべき戦術も決まっている。あ まり陣を広げずに密集隊形でぶつかり、正面突破を狙う敵をご希望通り正面から迎え撃つ。血路など開かせない。コロニーどころか一隻たりと も青い地球を拝ませない。 ――というのは偽計《うそ》だ。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/154
155: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:42:03.50 ID:vYNTjxm+ 「付き合ってられるか」 呟く。スペースノイドの自己満足の英雄的自爆テロなんぞに誰が真面目に取り合うか。ジオンの連中は密集隊形で迎え撃つ連邦艦隊を見て、 これ幸いと突撃をかけるだろう。死力を尽くした激戦になるに違いない。どこまでジオンが持ち堪えるか見物でもある。そしてジオンの艦隊に すっかり気を取られた連邦をスルーするように、コロニーの軌道を変更するだろう。 そこで初めて、ジオンは自分達の失策を――いや、そもそもこんな作戦が成功するはずは無かったと知ることになる。 ――そして、0527時。「艦長!」 「応!」 「AWACSより全艦へ! 敵艦隊及びその後方にコロニーを捕捉! 約十分後に第一陣艦隊の最大射程圏内へ入る!」 「艦長、《ウヅキ》からも入電! 全艦密集隊形のまま前進! 射程圏内に入り次第攻撃を許可する! 移動は第一戦闘速度! 単独での突出 は認めない!」 「――よし! 始めるぞ! 全艦第一戦闘速度で前進! 各兵装最終安全装置解除! オール・ガンズ・レディ!」 「了解!」 艦隊が動き始める。無数のサラミス級、マゼラン級宇宙艦艇が津波のようにコロニーへ押し寄せる。勇壮かつ壮大な行軍。名将ティアンム中 将を司令に頂く地球低軌道艦隊。圧倒的な戦力差の中に、さらに隠された必勝の切り札。戦力、戦術、足りないものなど何も無い。 そう。誰もこの時は、この精強の艦隊が壊滅寸前まで追い込まれるなど――コロニーが落ちるなど、誰も信じてはいなかった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/155
156: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:43:57.45 ID:vYNTjxm+ 別に犯罪者という扱いではないので、独房には入れられなかった。 往多翼は与えられた小部屋のベッド――ではなく、そのすぐ傍らの床に座り込んでいた。柔らかい布団の上だと、緊張感が鈍る気がした。 「……出たいな」 呟いた。率直な気持ちだった。シニカルとかリアリストとかを気取る気は無い。コロニーが落ちる。億単位の人間が死ぬ。それが分かってて 関係無いとぐうたら昼寝が出来るほど、翼は肝の強い人間ではなかった。それに―― 「(何故動かせたのか、まだ分かってない)」 あのガンダムを、原付の免許も持ってない翼が何故動かせたのか。そして何故あそこまでの戦闘技術を発揮して、正規のジオン軍人と互角以 上に戦えたのか。それがまだ分かっていなかった。火事場の馬鹿力、で説明できるものではない。ニュータイプ? もっと無い。もう一度乗れ ば――いや、もう一度乗らなければ、この謎の答えは出ない気がした。 「……」 ドアを見る。犯罪者ではないので、もちろん施錠はされてない。監視もいない。そしてこれからこの艦は戦闘に入るのだから、どさくさで抜 け出すのは簡単な気がした。ノーマルスーツさえ見つければ、ガンダムのところまで行くことも可能だろう。 行かなければならない、と思った。翼がこの世界に来てしまったことの手がかりは、あのガンダムだけだ。あれだけが翼の知るガンダムの歴 史には存在しない。いわば自分と同じ異邦の存在だ。あのガンダムの謎を解けば、元の世界へ還る方法も見つかるかもしれない。「お兄ちゃん」 そう。還らなければならない。翼には待っている女《ひと》がいるのだ。「……よし」 意を決し、翼は立ち上がった。ドアへ向かう。「……っと」トイレに行きたくなった。周囲を見回し、W.C.とプレートの掛かったドアへ 向かう。どんなトイレなんだろう、と一瞬思い、ドアを開ける。 「――」 言葉を失った。 そこにあるのはトイレではなかった。ベッドがあった。机があって、本棚があって、テレビとゲーム機があった。 ドアを閉め、後ずさる。「……ど、どうなってんだ……俺、本当におかしくなったのか……?」幻覚などではなかった。はっきり見えた。 自分の、部屋だった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/156
157: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:46:48.02 ID:vYNTjxm+ もう一度開けよう。幻覚にせよ何にせよ、それではっきりする――そう思い、もう一度ドアノブに手を掛ける。 がたん 「!?」 突然聞こえた音に、翼はそちらを振り返る。 サイドボードに置かれていたデジタル時計が、宙に浮いていた。浮いているのは無重力だから当たり前だ。おそらくマグネットか何かで備え 付けになっていたのだろう。それが外れたのだ。 「何でだよ」 思わず呟く。どうして軍艦の備品のマグネットがそんな突然外れるのか。 だいいち、さっき聞こえた音は、絶対にマグネットが外れた音ではなかった。 デジタル時計がゆっくりと回転しながら、翼の方へ流れてくる。翼はそれを受け止めようとして――文字盤を見て、目を見開いた。 そこには本来、現在の時刻である0532時が表示されていなければならなかった。翼もさっき、一瞬横目で見た。 その文字盤が、0001を表示していた。 それが、翼が時計を受け取った瞬間、0000になった。そして、その脇に小さく表示されている秒数が、59から58、57、56――と カウントダウンを始めた。翼は時計を握り締めた。ただ握り締めた。 ――1分やる。ドアをくぐるか否か、自分で決めろ。 そう言われた気がした。誰に? 「……0を過ぎたら、どうなるんだよ」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/157
158: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:48:08.64 ID:vYNTjxm+ 薄く笑いながら、呟く。もちろん誰も答えない。当然だ。部屋には翼一人しかいない。いないはずだった。 しかし、翼には答えが分かっていた。「……戻れなく、なるのか」 宇宙やその歴史、あるいはすでに定められた運命にはある種の修正力がある――と、さして有名でもないSF小説で読んだことがある。すで に決定した過去が何らかの事故であらぬ方向に歪められようとした場合、宇宙はその歪みの原因を、歴史に最低限以上の影響を及ぼさない手段 で排除しようとする、という話だ。今の翼の場合なら、最も歴史に及ぼす影響の小さい手段と言えば、つまり『翼以外の誰にも認識できない場 所に元の世界への扉が開き、翼がそれを自発的にくぐる』ことだろう。つまり今だ。具体的にどういう理屈で『扉』が開いたのか、そもそもこ の扉は本物なのか、この扉を開いたのは何者なのか――それを考えている時間は無い。あと三十秒足らずしか無い。 ――考える余地も無い気がした。還りたいなら答えは決まっている。もし翼がこの扉をくぐれば、全ては翼の白昼夢で終わるのだろう。ガン ダムの歴史は何一つ変わらず、翼の戦いがそれ以降どこかで語られることも無く、いずれ翼自身の記憶も風化していくのだろう。それがどうし た。それでいいじゃないか。どうせコロニーが落ちるのは決まってるんだ。還れるんならそうすればいい。どうせ俺にとってはこの世界の連中 は全て架空の人間なんだから、何人死のうが知ったことじゃない―― 「……」 翼の心の中で、何かが爆ぜた。何かは翼にも分からなかった。残り二十秒を切る。 時計を投げ棄て、ドアを開けた。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/158
159: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:49:20.49 ID:vYNTjxm+ 「《エルロン》、機関爆発! 轟沈を確認!」 「《オルドース》、艦橋に直撃弾! 制御不能! 戦列を離れます!」 「《カーディナル》より入電! 我、すでに戦闘力を喪失せり! これより敵の進行ルートを妨害する! その間に体勢を立て直し、反撃され たし!」 「《カーディナル》に返電! ふざけるなこの馬鹿野郎! 死にたくなかったらさっさと退がれ! そのまま伝えろ!」 光が、また一つ宇宙に咲いた。「……!」 「――艦長、《カーディナル》よりさらに入電。戦友達よ。コロニー落下を断固阻止せよ。地球を頼む。以上です」 「――畜生ォッ!」 カーク・ヤクネインはコンソールを殴りつけた。ブリッジクルーが一瞬振り返り、また作業に戻っていく。そんなもの頼まれても困る。戦線 はすでに崩壊していた。敵の人型機動兵器――MSによって密集隊形の外殻を突き崩され、それを外から援護する敵艦隊と陣中で遊撃をかける MS部隊に挟撃される形になった。《イケイル》は第一陣の最左翼にいたため間一髪難を逃れたが、それでも二度のMSの攻撃を受けて戦闘力 をほぼ失い、後退しつつあるところだった。 当初の戦力比など忘れた。味方が何隻残っているかも分からない。メインモニターの向こうで、コロニーが徐々に大きくなっている。軌道変 更などしない。所定のコースを堂々と、総崩れになった連邦艦隊をあざ笑い、蹴散らすように進んでくる。射程圏内に侵入したコロニーに、そ れでも砲を撃ち込んだり、前進して取り付こうとする艦は無い。たちまち敵が飛んできて蜂の巣にされるだけだ。制空権などすでに無かった。 「艦長! 敵機動兵器、二時上方より接近! 数は二!」 「……来やがった……!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/159
160: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:50:44.33 ID:vYNTjxm+ 腹を決める。「二番三番、右舷三番副砲照準! 対空砲火用意!」残っている砲はそれだけだった。サラミスの船体が左に傾き、砲を敵に向 ける。二機のザクがマシンガンを構え、右上方から急降下してくる。射程内。「撃て!」全砲斉射。しかし、明らかに少ない火線は機動力に長 けるMSを落とすには不足だった。二機のザクはそれぞれが不規則な回避パターンを織り交ぜた機動を取り、《イケイル》をマシンガンの射程 に収めようと肉薄する。「敵機接近! 艦長!」「砲術班何やってる! 当てろ! どうせ逃げても無駄なんだ、死にたくなかったら当てろ!」 それしか言えなかった。ザクがみるみる近づいてくる。ついに副砲のビームが片方のザクを掠めた。ザクは片腕を失い、回転しながら軌道を外 れる。「よし!」思わず叫んだ。しかしそのザクは体勢を立て直し、片腕だけでザク・マシンガンのトリガーを引いた。銃火がサラミスの甲板 を撫で、二番・三番副砲が吹き飛ぶ。メインモニターが爆光で染まり、艦橋が大きく揺さぶられる。「うわああああっ!」「騒ぐな! 体勢を 立て直」そこまでだった。艦橋の正面をもう一機のザクが横切ったのをカークは見た。モノアイがこちらを見ていた。笑っているように見えた。 やられる。直感した。そのザクは艦橋を通り過ぎてから一度宙返りし、ザク・マシンガンを艦橋めがけて構え、 ビシュキューン! 一条のビームに貫かれ、爆発した。「……?」艦橋にいたカークにはその銃声は聞こえなかった。まだ死んでない――? そんな疑問が浮か ぶだけだった。「艦長!」ブリッジクルーの声で我に返る。 「どうした!」 「か、甲板に!」 「何だ! 分からん! 具体的に報告しろ!」 「あ、『あれ』が動いてます! アレスティング・ワイヤーが外れて!」 「――何だと!?」 カークは前方に飛び、窓に張りついて甲板を見た。――サラミスの甲板に、白いMSが立っている。その巨体を拘束していたワイヤーはすで に振りほどかれていた。白いMSは後ろ――サラミスの右舷側を振り返り、手にしたライフルを構え、 ビシュキューン! 「え……!?」 「び、ビーム砲なのか、あの銃は……!?」 「か、艦長! 今の攻撃で右舷の敵機動兵器が沈黙! もう一機も確認できません! ――周辺に敵影無し!」 「……!」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/160
161: 創る名無しに見る名無し [] 2011/12/30(金) 01:53:47.57 ID:vYNTjxm+ カークはコンソールに手をつき、隣の通信士に呟いた。「…回線を開け」「しゅ、周波数は――?」「どれでもいい。接触状態なら聞こえる だろ」しばらくして通信士がどうぞ、と言った。マイクを手に取る。 「――イクタ・ツバサか」 「――艦長」 少年の声が答えた。「そこで何やってる」 「――分からない」 「分からない?」 「俺にもよく分からないんだ。還ろうと思えば勝手に還れたのに、何故だかムチャクチャ腹が立って、気がついたらここにいた」 「――ああ?」 「艦長。こうなってしまった以上、俺は俺に出来ることをやろうと思う。コロニーまで行って姿勢制御バーニアを点けてくる。今ならまだ間に 合うはずだ」 「――馬鹿な真似は止めろ。たとえお前の『それ』がビーム兵器を装備しているといっても、前回の戦闘で消耗しているんだ。そんなポンコツ で敵陣に飛び込むなんざ自殺行為だ。コロニーへなんか行けるものか」 「それでも、俺は行かなきゃならないんだ。ここでじっとしてても状況は変わらない。――あるいは、ここで俺が歴史を変えるか、どうやって も抹消できないほどの爪痕を残せば、あるいはそれで『扉』を開かせられるかもしれない」 「――扉?」 「たぶん、俺は勝ちたいんだ。答えを与えられるんじゃなくて、自分で答えを掴みたいんだ」 「何を言ってる。もう一度だけ言うぞ。馬鹿な真似はやめて艦内に戻れ。これは戦争なんだ。素人なんて簡単に殺されるし、殺されたって見向 きもされないんだぞ」 「分かってる。それで死ぬなら、俺も所詮そこまでの男だったってことさ」 ガンダムが前方へ向き直る。全天を覆うように迫るコロニー。その周辺に光る無数の星。――敵影。 「往多翼、ガンダム、行くぞ!」 「よせ!」 声と同時に、ガンダムが甲板を蹴った。サラミスが大きく傾ぎ、ガンダムは推進剤の尾を引いて虚空を駆けた。「……馬鹿が……!」カーク は吐き捨て、その直後に『それ』に気づいて目を見開いた。 「おい! 止まれ! すぐ帰って来い! 死にたくなかったらコロニーに近づくな!」 忘れていた。連邦軍はまだ負けてはいない。まだ最後の切り札が残っている。 メギドの火で灼かれたくなかったら、コロニーに近づいてはならない。 機動戦士ガンダム −翼の往先− 第二話『メギドの火』(1) http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/161
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