【気軽に】お題創作総合スレ【気楽に】 (385レス)
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317: お題『広子は僕を許してくれない』 1 [sage] 2011/10/17(月) 13:29:44.56 ID:kOqbl3u5 「あのさ、あたしたちさ」 その日は僕たちは 「これから幼馴染じゃなくって、普通の友達でいようよ」 幼馴染から、普通の友達になった。 『広子は僕を許してくれない』 空は青く、どこまでも青く、時々白い雲が青い空を自由に泳いでいる。 「んもー。そんなに空ばっかり見てたら犬のウンコ踏んじゃうよ?」 いつもの通学路、いつもの空間、いつもの会話。 「ばっか。んなもん踏むか。あともう少し後ろ歩けよな!恥ずかしいだろ!」 「やだよ。ウンコ踏んで困るとこ見たいもんね。だから離れないよ〜」 「ウンコ踏んだらお前の靴につけるからな」 「最低〜!女の子の靴にウンコつけるなんて最低〜!」 「女の子がウンコウンコ言うな。このウンコ女」 「なぁ〜ん〜で〜すってぇ〜!」 物心ついた頃からずっと一緒だった幼馴染の広子と何気ない話を繰り返しながら通学路を進む。 広子と学校に行って、授業が終わったら広子と一緒に帰って、暇だったら広子と遊んで、また次の日学校に広子と一緒に登校する。 ずっと一緒に居すぎるせいで、周囲の目線は「それが当然」という感じになってしまい、浮ついた噂話をされるレベルにならなかった。 「…ん?なんだこれ」 それが、当たり前だと思っていた。それが、日常だと思っていた。 「なになに?どしたん?」 今までもずっと広子と一緒で、これからもずっと広子と一緒だと思ってた。 「これ…手紙…?」 「え?え?うっそー!え!?これもしかして…ラブレターじゃない?」 靴箱に入っていたその手紙を見つけるまでは。 「……はぁ〜……」 「どしたん?いつも一緒の広子ちゃんとケンカでもしたか?」 「いや……。ケンカらしいケンカもしたことねーよ…はぁ…」 クラスメートとため息混じりに言葉を交わしながら、考える。 (何だこれ…ラブレターって……絶対イタズラか何かだろ…) 今までラブレターなんてもらったことも無いし、2月14日にチョコレートをもらったことなんて…広子と親からもらうぐらいだった。両方義理だったが。 イタズラだと割り切って破り捨ててしまうことは簡単だ。けれど、もし本物だったら? 本物だったらどうする?中身はどんな事が書いてあるんだろう?相手は誰だろう? 知ってる子なのか?知らない子なのか? そんな考えと同時に、広子の顔が思い浮かんでは消えていく。 そのせいで、いつも以上に授業が耳に入らずずっと上の空だった。 昼休みになり、母親が作ってくれた弁当を食べ終えて人気の無い場所へと行き、微かに震える手で花柄の封筒の封を切る。 期待なんてしない。どうせイタズラに決まってる。でも、読むだけ。読むだけだから。 そんな事を自分に言い聞かせ、一枚の手紙を取り出し、読む。 綺麗な文字で文章は短い。でも、相手の意思をハッキリと感じ取る事が出来る文面だった。 そして最後に差出人の名前を見て、声が出なかった。 差出人の名前は、広子の同級生の女の子だった―。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/317
318: お題『広子は僕を許してくれない』 2 [sage] 2011/10/17(月) 13:30:44.80 ID:kOqbl3u5 「ね!ね!それで誰からのラブレターだったの?」 「あー、まだ読んでない」 下校時、並んで歩く広子は興味津々といった表情で問いかけてくる。 「いやーまさかあんたがラブレターをもらうなんてねぇ〜。すごい時代になったもんだ」 「どういう意味だそりゃ。お前だってラブレターくらいもらったことあるだろ?」 突然のラブレター、差出人は広子の同級生の女の子。広子とよく喋ってるのを見たことがあるし、僕も何度か話した事がある。 「あはは、ラブレターなんてもらった事、無いよ。あ!でもでも!」 「うん?」 でもやっぱり、少し話した事がある程度で、特別意識する子でも無かった。 確たる証拠も無いのにイタズラだと思い込んで手紙を破り捨ててしまうと、その子の思いを踏みにじってしまいそうで出来なかった。 「ほら、覚えてる?あたしたちがまだまだこ〜んなに小さいときにさ、手紙くれたじゃない?クレヨンで描いた手紙」 「ばっか!いくつの時の話してんだよ!」 「懐かしいな〜。クレヨンで紙がくしゃくしゃになっちゃって、読めなかったんだよね」 お互いを見続けてきた。小さい頃の失敗なんかも、こうして笑い話に昇華できる程の仲。 昔はただ照れくさかった。でも、時が経つにつれて安心感が僕の中で生まれた。 笑う時も、泣く時も、楽しい時も、愚痴をこぼす時も、いつも傍にいてくれたのは広子だった。 もらった手紙の返事の選択をした時、隣にいるのは、広子ではなく広子の同級生の女の子になるかもしれない。 「……」 「……」 自然と訪れる、沈黙。こういう時、先に口火を切るのはいつも広子だった。 「…ね。いっこ聞いていい?」 「うん」 いっこ聞いていい?と聞くのも、広子の子供の頃からの癖。 「手紙の返事、どうするの?」 「…ん、まだ読んでないって。読んでから決める」 「…そっか」 広子は友達以上に信頼している、親友。 広子の同級生の女の子は、明るく、話やすかったのが印象に残っている。 でも、やっぱり顔見知り程度の仲。 「……」 「……」 再び沈黙。二人の足音だけが、静かな町並みの中で響く。 そう、広子は親友なのだ。幼馴染で、親友。でも、同級生の女の子は、ラブレターを出してくれた。 「……って、思ってたんだけど、ね」 「え?」 じゃあ、今この頭がモヤモヤする感じは、何なのだろう。 「変わらないって、思ってた」 「…何が?」 広子は、伏し目がちに話しながら、僕の返事に軽く頭を左右に振った。 頭のモヤモヤが、少し増した気がした。 「でも変わらないわけがないんだよね。ううん、変わらなくちゃいけない」 「広子、あの」 「うん!早く手紙の返事出してあげなよ!女の子泣かせるような真似したら怒るかんね!っと、あたしはこっちだからもう行くね。また明日!」 「おま、…ったく」 広子は一方的に捲くし立てて走り去ってしまった。 (変わらない、か) 帰宅して、自分の部屋に戻って制服姿のままベッドに飛び込む。 (それは僕だって、思ってたよ) http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/318
319: お題『広子は僕を許してくれない』 3 [sage] 2011/10/17(月) 13:31:47.19 ID:kOqbl3u5 『おままごとしたい〜!』 『え〜やだよおままごとなんて。カリレンジャーごっこやろうぜ!』 『い〜や〜!おままごとがいいの!はい、おかえりなさい!』 『ちぇー。おままごとはきょうだけだかんな!』 『うん!ありがとっ!』 『ここ、ぼくのひみつきちにしようとおもうんだ!』 『わーー!すごーーい!!ひみっつきちっ!ひみっつきちっ!』 『ひろことぼくだけのひみつだかんな!みんなにはないしょだぞ!』 『うんっ!』 『いってぇ……』 『ヒック…グスッ……ごめんね…ごめんね……』 『泣くなって!悪いやつはやっつけたから、もう泣くな!』 『でもっ……でもっ…ヒックッ』 『泣くのやめないと、ぜっこうだぞ!』 『やだ…やだぁ…ぐすっ……もうっ泣かないっからっ』 『変わらないって思ってた。でも、変わらなきゃいけないんだよね』 『広子…?』 『…うん!これからもずっと友達でいようね!』 『広子!待てよ!僕は――!』 「…っ!広子っ!」 勢いよく飛び起きたせいで、少し目眩がした。 体が汗ばんでシャツに張り付き、気持ち悪い。 コチ…コチ…と時計が秒針を刻む音だけが、部屋に響いていた。 「……夢にまで見るとか、重症だなこりゃあ…」 今までずっと一緒だった幼馴染にして、親友。 どんなことでも話し合えた。男だとか女だとかを無視した関係が心地良かった。 変わりたくなんてなかった。今のままが良かった。 けれど、変わろうとしている。時間が経つにつれて、お互いに大人になっていく。 いままでも、これからも変わらないと思っていたのは、希望だった。 広子の同級生の女の子からもらった、ラブレター。 僕はこれにどう答えればいいのか。迷うはずもないのに、迷うフリをする。 物心ついた頃から一緒にいる広子。今までも、これからも、ずっと一緒なのが当たり前だと思っていた。 子供の頃は、恥ずかしさ故に後ろからついてくる広子をいつも泣かしていた。 けれどある日、別の男子に広子がイジメられているのを見て、凄く腹が立って広子をイジメている男子とケンカした。 それ以来『広子を泣かしちゃいけない』と自分の中で決めた。 誰かを好きになる―そんな年頃になっても、僕はそんな気持ちが広子に芽生えることは、無かった。 クラスメートに一度『広子ちゃんの事、好きなの?』とか『広子ちゃんと付き合ってるの?』と聞かれたことがあるけれど 僕は、広子を女の子として見る以前に親友として見ていた。その期間が長すぎたから、聞かれても何も感じなかった。 ―そんな建前的な考えを、並べ立てる。 広子を「幼馴染の親友」ではなく「好きな女の子」と意識していたのは、いつからだろうか。 好きだと言って、今のこの心地よい関係が崩れたらと考えると、怖くてたまらなかった。 だからこそ、今までどおりの幼馴染の親友でありたいと思った。このままの関係が良いと願った。 『でも変わらないわけがないんだよね。ううん、変わらなくちゃいけない』 別れ際に言った広子の言葉が、頭をよぎる。 (……広子の同級生の子に、話をしにいこう) 窓から明るくなり始めた空を見上げながら、僕は決意を固めた―。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/319
320: お題『広子は僕を許してくれない』 4 [sage] 2011/10/17(月) 13:33:46.42 ID:kOqbl3u5 「おっはよー!今日もいい天気だね!」 毎朝聞きすぎて、飽きるのではないかと思うほどの元気な声に、手をあげて応える。 「うーいー。おはようさん。広子は無駄に元気だねぇ」 「元気があたしの取り柄だからね!えっへん!」 いつもの登校時間。今日も広子と一緒。 広子は昨日の帰り際に見せた少しだけ寂しそうな表情を、今は笑顔に変えている。 空元気なのはすぐにわかった。けれど、それも広子の気遣いと知っているだけに胸が少しだけ痛くなった。 ―昼休み 弁当を食べ終え、手紙に書かれていた待ち合わせ場所へと向かう。そこには広子の同級生―佐藤さんがいた。 「やっ。来てくれて嬉しいよ。あんがと」 「いやいやこっちこそ。手紙くれて嬉しかったよ」 佐藤さんは僕を見つけると右手を軽くふり緊張した様子もなく挨拶をしてきた。 ここに来るギリギリまでは、イタズラじゃないかと疑っていたのだが―。 「あ〜。あの手紙イタズラじゃないか〜って疑ってたでしょー。心外だなぁ〜」 「え、いやぁ…まぁ、やっぱり思うよ。突然だったもん」 考えていたことを言い当てられ、ドキリとする。それでも佐藤さんは可笑しそうに言った。 「いやはや、我ながら乙女ちっくなことをしたもんだと思ったさ〜。それで、ここに来たってことは返事をもらえるってことでいいのかな?」 「うん。一晩じっくり考えてきたよ」 誰もいない、待ち合わせ場所の視聴覚室。 お互いを、見つめる。佐藤さんは、僕の言葉を待っている。 そして僕は、嘘偽りの無い心からの言葉を、佐藤さんに告げた―。 放課後、広子と帰ろうと思い広子を待つものの、来ない。 いつもこの時間になると元気な声で『帰ろー!』とクラスに入ってくるのに、来ない。 「あんれ?広子ちゃん今日来ないな?さてはケンカでもしたんだろ?」 「してねーっつーの」 クラスメートの軽口も流しつつ、待つ。 ―10分経過― (遅いな。日直にでも当たったかな?) 自分のクラスを出て、広子のクラスへと向かう。 廊下で、見知った人に出会った。 「あ、佐藤さん。広子見なかった?」 「広子?うんや、広子ならもう帰ったよ?」 「そっか。ありがと!」 今まで、広子が何も言わずに帰ることなんて、無かった。 友達と帰るときでも、必ず一言言って帰るような律儀なやつが、何も言わずに帰った。 ざわざわと胸をくすぐる変な感覚があった。 「…がんばれ〜。あたしゃ応援してるよ」 走り去る男の子の背中を見つめながら、佐藤は呟く。その眼差しは、どこまでも優しかった。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/320
321: お題『広子は僕を許してくれない』 5 [sage] 2011/10/17(月) 13:36:45.25 ID:kOqbl3u5 「はっ…はぁっ…はあ…!…広子っ!!」 「へ…わっ!!」 下校時に毎日通る道を全速力で走り、先を歩いていた広子の名前を呼ぶ。 すると、僕を見た途端広子が走り出した。 「このっ…待てって!広子!!」 「……っ!」 追いかけっこでは、昔から僕のほうが速かった。 広子がどんなに走る練習をしても、いつもこっそりと広子以上に走る練習をしていたから。 広子に置いていかれるのが、すごく嫌だったから。 「待てったら!!」 「……ぅっ」 広子の右腕を掴むと、広子は大人しくなった。 「どうしたんだよ一人で帰って…。体の具合でも悪いのか?」 「……」 俯きながら頭を左右に振る。そのせいで表情はわからなかった。 「…何か、あったか?」 「……っ!」 今まで無かったこと。こんな広子は、見たことが無かった。 だからなるべく優しく、問いかける。 すると、広子の体がビクリと震えたかと思うと、静かに顔を上げ、両目に涙を溜めて、静かに言った。 「あのさ、あたしたちさ」 その日は僕たちは 「幼馴染じゃなくって、普通の友達でいようよ」 幼馴染から、普通の友達になった。 「…え?」 「……」 久しぶりに見た広子の泣き顔。 そして、初めて言われた言葉。 広子は掴んでいた僕の腕を振りほどき、走り去っていった。 後にはただ、呆然と立ち尽くす僕だけが残った―。 それから、広子と僕は話さなくなった。 登校時も、学校にいるときも、下校時も、広子は僕を避けるようになった。 理由は、よくわからない。考えても、何が原因なのかわからない。 昔は広子を泣かせていた。けれど、どんな時でも、次の日には仲直りしていた。 けれど今回は違う。今の状況になって、一週間が経とうとしている。 無理に広子に会おうとすれば、広子を傷つけるかもしれない。 でも、一番恐れていたことが、今実際に起こっている。 広子と最後に別れた日以来、ずっと上の空だった。 隣にいつもいた人がいない。それだけで、ポッカリと胸に穴が開いたような―。 「やっ。青春少年」 「…へ?あ、佐藤…さん?」 昼休み、教室で窓から空を眺めていたら、背中を軽く叩かれた。 窓から目線を移すと、いつからそこにいたのか。いつも穏やかな表情をしている佐藤さんがいた。 「今、ちょっち時間いい?」 「あ、うん。大丈夫だよ」 「ここじゃアレだし、ちょっと移動しよっか」 そう促されて、また視聴覚教室へと移動する。 「広子の事なんだけどさ」 「…うん」 チクリと胸が痛んだ。呼び出されてから、広子の話題だろうと思っていたけれども、実際に話してみると、辛い。 「広子がさ、ずっと元気無いんだよね」 「……うん」 一週間前、告白された場所で、告白された子と、同じ立ち場所で話をするのは、不思議な気分だった。 「で、あんたは何してるのさ」 「え?」 穏やかだった佐藤さんの視線が、鋭く僕を射抜く。 「はぁ〜鈍いねぇ。あんた、あたしを振った時に何て言ったか覚えてる?」 「うん…覚えてる」 そう、僕はあの時、佐藤さんに自分の意思をハッキリと告げたんだ―。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/321
322: お題『広子は僕を許してくれない』 6 [sage] 2011/10/17(月) 13:38:27.25 ID:kOqbl3u5 『ごめん、佐藤さん。僕、好きな人がいるんだ』 『…っちゃ〜。見事に玉砕か〜ちょっとは望みがあるかと思ったんだけどねぇ。それで好きな子って、広子?』 玉砕したのに、どこか可笑しそうに笑う佐藤さん。きっとサッパリとした性格なんだろうな、と思った。 『…うん。僕、広子の事…好き…みたいだ』 『みたいだ、じゃダメだよ。好きなの?そうじゃないの?好きじゃないなら、あたし諦めきれないよ』 穏やかな笑顔でも、澄んだ目はどこまでも真剣だった。 『ごめん。好きなんだ、広子のこと』 『幼馴染で好き、友達として好き、とかじゃなくって?』 胸のモヤモヤを吐き出すように、言葉を続ける。 『うん。もう気付いた頃から好きだった。好きで好きで、どうしようもないくらい、好きだ』 『あーその言葉は本人に聞かせてやんなさい。今のあたしにゃ重すぎるさー』 『あぅ…ごめん』 『広子も幸せもんだねぇ。ここまで思ってもらえるなんてさ。今のセリフ、あたしに言ってほしかったくらいだよ』 どこか寂しそうに呟く佐藤さんの姿に、改めて申し訳ないことをしたと感じる。 『ああ、あたしを振ったからって気にしないでね。そういうのはきちんと割り切るからさ』 また考えていることを言われた。 『君、結構顔に出るからわかりやすいんよ。そういうとこも広子と似てるねぇ』 佐藤さんは穏やかに話し続ける。もし、もし今と違ったカタチで出会っていたら、違った関係になっていたかもしれない。 そんなことを思うのは、野暮ったいかもしれないが。 『そんなわけで…ごめんね、佐藤さん』 『うんや、いいよいいよー。あたしも気持ちの整理できたし。ありがとね』 どこまでも穏やかな顔で、佐藤さんと手を振り合い、別れた―。 「それで、広子には告ったんでしょ?」 「いや、まだ…」 「え、まだなの?告ったから広子あんな風になってるんじゃないの?」 佐藤さんはあっけらかんと言ってのける。いやでも、告白と言われましてもですね。 僕は佐藤さんに、一週間前のことを話した。 「なるほど、ね。そしてまだ告る段階まで行けてないわけなんだ」 「…今の関係が壊れるのが、怖くってさ。ずっとずっと一緒にいたから、今更好きだー!って言っても、ね」 そう、怖かった。そして何より、振られるかもしれないと考えると、怖くてたまらなかった。 「広子もさ、僕のこと好きってわけじゃないかもしれないし、振られたときのことを考えると―いてっ!」 話している途中に、佐藤さんの右手チョップが僕の額に当たった。 「それは臆病なだけだよ。それに、なんでその言葉をあたしに言えるのに広子には言えないの?あのね、いいこと教えたげる」 穏やかだった佐藤さんの表情が、真剣なものに変わる。 「変わらないものなんて、無いんだよ。だからこそ、どんな結果になっても『変化』を受け入れなきゃいけない。それが良い方向に転がるか悪い方向に転がるかは、神様もわかんない」 言葉の一つ一つに、重みがあった。説得力があった。 「変えたくないと思うのは、ただの逃げだよ。今の君はただ『変化』から逃げてる。あたしは、君に自分の思いを伝えたよ。変化を恐れずに」 「…っ!」 変わらないもの。変わろうとしているもの。ずっと一緒にいてくれた幼馴染にして親友。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/322
323: お題『広子は僕を許してくれない』 7 [sage] 2011/10/17(月) 13:39:28.20 ID:kOqbl3u5 佐藤さんの言うとおりだ。自分の中でグルグル考えてただけで、一番大事なことを、一番伝えたい人に伝えられてないじゃないか! 僕は今まで何をウダウダ考えていたんだろう。 今やるべきことは何なのか。そして誰に何を伝えなければならないのか。それが何なのか、今ハッキリとわかった。 「佐藤さん…僕…」 「あー、いい。今度美味しいケーキおごってくれたらそれでいい。ホラ、分かったらさっさと行く!昼休み終わっちゃうよ!」 手を叩き、話はおしまいとばかりに佐藤さんは動き出す。 「佐藤さん、ほんとごめん。ありがとうっ!!」 佐藤さんに手を振りながら、視聴覚教室を後にする。佐藤さんには何度もお世話になった。今度、広子が知ってる美味しいケーキ屋さんに連れていっておごろう。 (そういえば…なんで佐藤さんが僕の事なんか好きになったのか……聞くのも野暮ったいか) 決意を胸に、教室へと戻る。今、僕自身がやらなければいけないことを考えながら。 「……うん。これでいい。これで、いい」 視聴覚教室に一人残った佐藤は、誰に言うでもなく呟いていた。 「ホント、ピエロだよ。恋のキューピットなんかに…なれないよ…」 俯きながら呟く佐藤の目には、涙が少しずつ溜まっていった。 「全く、見てられないよ…。あんたら二人がさっさとくっつかないから、変な虫が近づく…あたしみたいな、ね」 小さく鼻をすすりながら、人差し指で左右の目に溜まった涙を拭う。 「広子と楽しそうに話す姿が、好きだったなぁ…。それに、広子だけ特別なんじゃなくて、誰にでも優しい。あたしにも」 白い天井を見上げながら、好きになって、生まれて初めてラブレターを出して、生まれて初めて告白をした男の子のことを思う。 「うん。でも良かった。これで良かったんだ…広子も…あの人も、これで……これ…で…ひっく…ぐすっ…」 佐藤は蹲り、チャイムが鳴り響くまで声を押し殺して泣き続けていた。 「―以上が、流星が流れる原因と考えられている」 退屈な授業。これが終わったら、広子と話をしよう。佐藤さんが作ってくれたキッカケを、無駄にはしない。 「そういえば、今夜あたり流れ星が見えるんじゃないか?」 僕は考える。考え続ける。変わらないものは無いなら、変化を受け入れる努力をしなければならない。 そして、変わるのを恐れるのではなく、変われる勇気を持たないといけない。 幼馴染と親友という関係を、壊そう。そして、ただ壊すだけじゃなくて、更に一歩踏み込んだカタチにしたい。 結果を恐れてはいけない。それを教えてくれた人が、いた。彼女は結果を恐れずに真摯に真正面からぶつかってくれた。 今の僕は、ただ結果を恐れて目を背けているだけに過ぎない。それは、一番やってはいけないこと。 僕も、真正面から広子にぶつかろう。例えそれが、どんな結果になろうとも―。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/323
324: お題『広子は僕を許してくれない』 8 [sage] 2011/10/17(月) 13:40:28.15 ID:kOqbl3u5 「広子っ!」 全ての授業が終わり、生徒たちが帰宅する中、真っ先に広子のクラスへと向かう。教室の入り口で、入り口近くの席にいた広子の名前を叫ぶと 佐藤さんや他のクラスメートと話をしていた広子の肩がビクリと震えた。 「一緒に帰ろう。いいか?」 「う、うん。みんなごめんね。また明日」 一週間ぶりのまともな会話。そのせいか、若干広子が緊張しているのがわかる。 荷物を持ち、席を立って広子がこっちに来る時、広子の後ろにいた佐藤さんがグッと右手を握り、親指を上に立てて軽くウィンクをしていた。 『がんばれっ!』 『ありがとうっ!』 そのサインに、僕も同じように返す。佐藤さんは、良い人だった。 「……」 「……」 帰り道。何となく気まずい雰囲気がお互いにあった。けれどこのままじゃダメなんだ。 「こうして一緒に帰るの、なんか久しぶりだなぁ」 「…そだねぇ」 先に口火を切ったのは、僕だった。 「そういえばよー昔もさ、かくれんぼやっててさ、広子が鬼の時、僕が先に帰っちゃって広子すんげー怒った時あったよな」 「…うん…そんな事も、あったね」 いつも昔の話をするのは、広子のほうだった。今は、立場が逆転している。 「それで、次の日もすねまくってて、全然口きいてくれなくって、僕も泣きながら謝ったっけ」 「…あはは。あの時はホントに怒ったよ」 広子はやっぱりどこかぎこちない。今のこの状況なったのは、僕のせいなんだ。 「……」 「……」 再び訪れる、沈黙。今この場所で、一番言いたかったことを言うために広子に気付かれないよう軽く深呼吸する。 「んで、さ。今日の夜、暇?ちょっと付き合ってほしいんだけど」 「えっ?…夜?うん、あんまり遅くでなければ大丈夫…だと思う」 ちょっと戸惑いつつも、広子は了承してくれる。その返事に安堵し、胸を撫で下ろす。 その後は、お互い別れるまで他愛もない話を僕が一方的にしていた。広子は相槌を打ったり、時々返事をしてくれた。 多分、嫌われていないとは思う。もしも嫌われていたとしたら、こうして一緒に帰ってくれていない子だから。 自分でも呆れるくらいの楽観的思考だけれども、今はそうでも思わなければ、言葉が続かない。 家の窓から、夕日が見え始める時間帯。 僕は親に頼んでアルバムを貸してもらい、昔の写真を眺めていた。僕の隣には、不安そうな顔で僕の袖を掴む女の子の姿があった。 「うっし、行くか!」 夕日が見え始めたら、夜になるのは早い。身支度を整え親に夕飯までに帰ると告げて家を出る。 目指すは広子の家。そして、向き合ってぶつけよう。自分自身の気持ちの全てを―。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/324
325: お題『広子は僕を許してくれない』 9 [sage] 2011/10/17(月) 13:41:28.61 ID:kOqbl3u5 「あの、広子いますか?」 「ええ、ちょっと待ってね〜」 広子の家に着き、インターホンを押すと広子のお母さんが応えた。名前を言うと嬉しそうに返事をしてくれた。 そのままだとインターホン越しに話が始まってしまうので、広子を呼んできてもらうことにした。 しばらくすると、ドタドタと音が聞こえ、ドアが開き広子が出てくる。 「お、お待たせ!」 「んや、いいよ。悪いね、夜に呼び出して」 玄関のカギを閉めながら、少しだけソワソワしている広子になるべく優しく話す。 「えっと…それで、どこか行くの?」 「うん、ちょっとな。よっしゃ!行くか!!」 「へ?…わっ!」 少し大きめに声を出して、力が入りすぎないように広子の左手を握って歩き出す。広子は驚いてつんのめりかけていた。 「ん……どこいくの?」 「ナイショ」 久しぶりに握った広子の手は、記憶の中の手よりも少し大きくなっていた。それでも女の子らしい、小さな手だった。 最初は引かれるままだった広子の手が、きゅっと僕の手を握り返してくれたことが嬉しかった。 時刻は日没。既に周りは暗くなっている。予想以上に暗くなるのが早い。 「……」 「……」 お互いに、沈黙。でも今はこの沈黙がありがたい。手から広子の温もりが伝わってくるから。 緊張して手が汗ばんでないかどうかが心配だった。目的の場所は街中にある土手の端。 「足元滑るから、気をつけてね」 「…うん、だいじょうぶ」 子供の頃に来たとき、この先には何があるんだろうってワクワクした。けれど、大きくなって来てみるとほんのすこし上りにくいだけの坂道だった。 「着いた。久しぶりだなぁ、この場所に来るのも」 「覚えててくれたんだ、この場所」 そこは、僕が子供の頃に見つけて秘密基地にしようと決めた場所。土手の端で、少し離れた場所で鉄製の壁に挟まれて電車が橋の上を走っていくのを見るのが、好きだった。 そして何よりも好きだったのは 「そういえば、あの頃は言わなかったんだけどさ。広子、上見てみ」 「上…?…わぁ!」 ここから見る星が、大好きだった。夜にこっそり来て、後から親にすごく怒られたけど。 久しぶりに見たけれども、その美しさは色あせることは無かった。 変わらないものは確かにある。けれども、僕たちは変わる。変わってしまう。それは大人への『変化』 「あの、さ。広子」 「…うん」 しばしお互いに満天の夜空に見惚れていたけれども、僕は視線を広子に移しゆっくりと話す。広子も空から僕に視線を移して、お互いに向き合う。 心臓が凄い速度で鼓動しているのがよくわかる。色々言いたいこと、伝えたいことがあったはずなのに頭が真っ白になってしまう。 それでも僕は一歩を踏み出す。勇気を振り絞って、前に。 「僕、広子のこと好きだ」 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/325
326: お題『広子は僕を許してくれない』 10 [sage] 2011/10/17(月) 13:42:14.04 ID:kOqbl3u5 「え…?」 変わってしまうのなら、受け入れよう。そして、向き合おう。 「ずっと昔から好きでした。付き合ってください」 「…えっ……えっ……ちょっとだけ、待って……」 広子は俯き、人差し指で目をこする。そして顔を上げ鼻をすすりながら言った。 「……あたしっ…あたしでっ……いいのっ…?」 広子は、昔から泣き虫だった。 「広子じゃなきゃイヤだ。僕は広子が好きなんだ」 「でもっ…ぐすっ……他の子に……告白されたんじゃ……」 違う。違うんだ広子。 「それも断った。僕が、広子を好きだったから」 「……あはっ……ぐすっ…あたし、バカみたい……君を好きな人がいるなら、身を引こうって思って…あんなこと…ひっくっ…言ったっのに…」 広子の言葉を聞くのが辛くって、これ以上、広子に辛いことを言わせるのがイヤで 「うん。もう気にしてない。気にしてないよ」 「うぅ…うっ……うぅっ……」 広子を、抱きしめた。広子の体は小さく震えてて、そうさせてしまったのが自分だとわかって、軽く自己嫌悪に陥る。 「あのっね……あたしもっ……ずっとずっと…君のこと、好きだったんだよ…」 「広子……」 一度体を離し、もう一度抱きしめる。今度は、広子も腕を僕の背中にまわして抱きしめてくれる。 広子の温もりと、早い心臓の鼓動が、伝わってくる。 「……あのね、あたし、怖かったんだ。君に好きだって言うと、今の関係が壊れてしまいそうで」 「それは僕だって同じだったよ」 泣き止んだ広子は、抱き合ったままゆっくりと話し始めた。 「あたしたちはただの幼馴染で、それ以上の関係にはなれないんじゃないかって…。もし君に振られたらどうしようって」 「僕も、同じこと考えてた」 ああ、なんだ。結局僕たちは 「変わらないって思ってたものが、急に変わっちゃう。隣にいつもいてくれた人が突然いなくなっちゃう。それを考えるだけで、とても怖かった」 「うん、うん」 同じ所を、グルグルと回っていただけなんだと気付かされた。 「佐藤さんとか、他の子たちにもいっぱい相談したんだけど、みんなさっさと告白しちゃえー!ってそればっかりで…」 「それが出来たらすごい楽だったんだけどね。お互い」 広子の頭を撫でながら、改めて思う。幼馴染以上に、親友以上に、一人の女の子として愛しいと。 「そしたら、ラブレターが入ってて…頭が真っ白になって、他の誰かが君のことを好きなんだって思った途端、あたしは傍にいちゃいけないって思っちゃって…」 「なんで?」 「だって……幼馴染なだけだし……お邪魔虫になっちゃうし……それに何より……あたしの隣に君がいなくなっちゃうのが凄くイヤで…」 「ああ、それで」 あの時、幼馴染から、ただの友達になろうって言ったのか。 それは、不器用な広子なりの気遣いだった。 「でも……離れちゃったらどんどん不安みたいなのが膨らんできて、いてもたってもいられなくなった時に、君に呼び出されて」 「うん」 「久しぶりに手を握ってくれて、嬉しかった。秘密基地に連れてきてくれて、すごく嬉しかった」 「うん、うん」 「好きだっていってくれて、とっても…嬉しかったよぉ…」 再びぐずりだす広子の頭を撫で続ける。 「…ぐすっ……あのね、好きだよ…大好き…!」 「ああ。僕もだよ。好きだ。これ以上ないくらい、大好きだ」 満天の星空の下、僕たちは変わった。幼馴染から友達へと変わり、友達から恋人へと変わった。 変わらないものはない。人が子供から大人になるように、大人から老人になるように。 僕たちは今、子供から大人への階段を一歩ずつ進んでいる。その過程で、変わってしまい失くしてしまうものもある。 けれど、失くしてしまわないように努力することはできる。 結果を恐れてはいけない。前に進む勇気を精一杯にかかげて、向き合おう。 そうすればきっと、変えていけるから。良い未来へと。自分たちの望む最高の未来へと―。 http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/326
327: お題『広子は僕を許してくれない』 Last [sage] 2011/10/17(月) 14:02:37.11 ID:kOqbl3u5 空は青く、どこまでも青く、時々白い雲が青い空を自由に泳いでいる。 「んもー。そんなに空ばっかり見てたら犬のウンコ踏んじゃうよ?」 いつもの通学路、いつもの空間、いつもの会話。 「ばっか。んなもん踏むか。それに手繋いでるから広子もウンコ踏むんだぞ?」 「ふ〜んだ。あたしはそんなドジしないもんね〜だ」 「ウンコ踏んだらお前の靴につけるからな」 「最低〜!彼女の靴にウンコつけるなんて最低〜!」 「女の子がウンコウンコ言うな。このウンコ女」 「なぁ〜ん〜で〜すってぇ〜!」 これが、僕の望んだ結果。 これが、僕を勇気を持って踏み出した一歩。 ただ一つだけ、予想外に嬉しかったのは 「あーそうそう」 嬉しそうに広子が僕の前に立って、言った広子の言葉。 「昔っからずっと好きだっていうサイン出してたのに、あたしの気持ちにずっと気付いてくれなかったんだから、それに責任とってくれるまで許さないんだからね!」 満面の笑顔で、そんな事を言うから、たまらず笑った。 「もー!わーらーうーなー!」 「あははっごめんごめん。ほら、遅刻するぞ!」 そして走り出す。どこまでも青い空の下で、彼女と一緒に。 広子が許してくれるまで、ずっと一緒にいよう。 許してくれても、ずっと一緒にいよう。そういう『変化』を出来るように、僕は努力し続けようと思った。 広子は僕を許してくれない END http://mao.5ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281965871/327
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