ひびき高等学園(元戸畑中央高校) (569レス)
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111: 2017/02/21(火)05:41 ID:BY7DAcLx0(4/12) AAS
「謝らないで」いつの間にか、彼女は泣いていた。大粒の涙だった。冷たい水の粒が零れ落ちる。「誰だって背負うもの」
「あなたは……何をしにここへ来たの?」彼女の瞳が、俺を捉えた。強い目だった。鋭い目だった。
「言って……。咎められることじゃない」咎められる、か。もう、既に咎められているんだ。咎なら背負っている。
「君を……連れに来た」という彼の質問には少女は少しまどろんだ様子で目線を落とす。
本当の事を言えば、と彼は心の中で呟く。――君を死なせたくない。答えが、返ってきた。「それであなたはどうするの?」
苛立ちを見せるような、そういう様子だった。だが、言葉が機械的だった。ミアは戸惑っているのだろう。葛藤か。
「前を向いて歩くか」ミアは俺をじっと見つめる。純粋な瞳だった。「後ろを向いて歩くか」試されているのだろう。――返答はない、と思っていた。少なくとも、ミアは。
「ずっと……それが分からない」
それが俺の答えだった。前を向け。師に言われ続けた。だが、それは難しい。前を向いて歩く。歩くには、背負い込んだものがあまりに大きかった。
「本当のことを言って……」
いつの間にか、彼女は手にナイフを握り締めていた。俺のものだった。
震える切っ先が、心臓を指している。瞳に映るのはただ、苦しみだった。助けて欲しい。でも歩いてゆく自信がない。
いっそ、ここで何もかも終わらせてしまった方が良い。そう考えているのだろう。だが、死んでも何もそこにはない。
「生きて欲しい」
彼女の頬から零れ落ちる涙は、雫となって腕に落ちる。
「一緒に故郷に行かないか? 生きてみるといい。簡単じゃないけどな」「歩けなくなったら、その時は……」「任せろ」「……うん」小さく頷いて、ミアは家を飛び出した。
微かに、笑っていた。無邪気な笑みだった。ミアの後姿が小さくなってゆく。
あの村へ旅立ちの挨拶に行くのだろう。そう思うと俺は安堵して、ほろ苦い笑みを浮かべていた。らしくないな。我ながら。
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