ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」 (716レス)
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592: ◆b0M46H9tf98h [saga] 2022/01/08(土)10:45 ID:anJVyN4D0(2/2) AAS
…case・アンジェ×ちせ「The gift」(贈り物)…

駅員「……ベイカー・ストリート、ベイカー・ストリートです」車輌のドアを開けながら駅員が声を張り上げる…

冴えない印象の男「……」

…ロンドンっ子から親しみを込めて「ザ・チューブ(筒)」と呼ばれる、トンネルに合わせたかまぼこ形の車体が独特な「アンダーグラウンド(地下鉄)」の車輌から降りた一人の男……身に付けているのはごく地味なグレーの帽子と、背広とチョッキのスリーピースで、あまり磨かれていない革靴を履き、手には茶革の鞄を持っている…

…王立音楽院…

案内人「おや、教授。今日もいらっしゃったのですね……今日もハンドル(ヘンデル)の研究ですか」

(※ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル…ドイツ生まれの作曲家でオルガン奏者。イタリアで活躍した後イギリスに帰化した。英語読みではジョージ・フレデリック・ハンドル)

男「ええ、そうです……」

案内人「だろうと思いました……いつもの場所を空けてありますから、ごゆっくりどうぞ」

男「ありがとう」

…「教授」と呼ばれた男は案内人に礼を言って、王立音楽院の貴重かつ膨大なコレクションが収められている図書館の片隅に席を取ると、ヘンデルの代表的なオラトリオ「メサイア」の公演と編曲について書かれた古い文書をめくりはじめた…

男「……」

…男はともすれば鼻からずり落ちそうになる書見用の小さい丸レンズの眼鏡を持ち上げながら黄ばんだ古い楽譜や書物をめくっていたが、しばらくすると一冊の本に挟まれていた紙を取り出し、書物の内容を書き写していたノートに挟んで一緒に鞄へとしまい込んだ…

案内人「おや、お帰りですか」

男「うん。今日ははかどったよ」

案内人「それは何よりです……またいつでもおいで下さい」

男「ありがとう」

…男は鞄にノートや筆記用具をしまい込むと再び「アンダーグラウンド」の乗客となり、ウェストミンスター駅で降り、そこから王室美術館があるバッキンガム宮殿へと向かおうとした……が、途中で気が変わったのか道を折れ、セント・ジェームズ公園の中を歩き出した……うららかな春の日差しの中にある公園は午後のお茶の時間に近いこともあってか、コーヒーハウスでお茶と政治談義にいそしんでいるらしい上流階級の姿はほとんど見当たらないが、はしゃぎ回っている子供たちや、遅い休憩を取ることが出来たらしい数人のタイピストや事務員がサンドウィッチや呼び売り商人から買った軽食を持ってベンチに座っていた…

男「…」早くもなく遅くもない歩調で、中央の人工湖で泳ぎ回っている水鳥や鳩を眺めつつ、広大な公園を抜けた西側にあるバッキンガム宮殿へと歩いていたが、途中のベンチに腰かけると、呼び売りの商人から買い求めたサンドウィッチの包みを取り出した…

男「……うむ、たまにはこういうのも悪くないものだな」

…ぽかぽかと暖かな陽気に、清涼な木の葉の香りあふれる新鮮な空気、さえずる小鳥の鳴き声……煤煙と悪臭と騒音にまみれたロンドン市街とはまるで別世界の自然豊かな風景を見ながら遅い昼食を終えると、サンドウィッチの紙包みを丸めてポケットにしまい、それから鞄を開けて研究資料のノートを取り出して読み返しはじめた…

男「ふむ…」

…午後の日差しに暖められながら細かな字でつづられた研究資料を読み込んでいると次第に丸眼鏡がずり下がりはじめ、それからノートが手から滑り落ち、男はいつしかこっくりこっくりと船を漕ぎ始めた……と、ノートのページが開いて、挟んでいた紙片がはらりとベンチの下に落ちた…

男「む、いかん……」数分してがくんと首が傾いた拍子に目を覚ました男は、落としたノートに付いた土を軽くはたくと鞄にしまい、それから王室美術顧問の秘書のカバーを与えられている内務省のエージェントへ「メッセージ」を届ける協力者として、再びバッキンガム宮殿に向かって歩き始めた…

………



…二日後・メイフェア校…

ドロシー「……へぇ、内務省のエージェントが落とし物ねぇ」

…メイフェア校の裏手にある、木々の生い茂った人気のない一角でたわむれる二人の生徒……甘えるような表情を浮かべて膝枕にうっとりしている女生徒と、時々からかうような事を言いながらも愛おしげに女生徒の頭を撫でているドロシー…

女生徒「ええ。詳しいことは存じませんけれど、事もあろうに機密文書を携えた職員が、確か……ケンジントン・ガーデンズだったかハイドパークに機密資料を置き忘れてしまったそうで、内務省はてんてこ舞いだとお父様が言っておりましたわ」

ドロシー「世の中には間抜けがいるもんなんだなぁ……それじゃあ私もメアリを落っことさないようにしないと……な♪」そのまま覆い被さるようにして女生徒を抱き寄せ、豊かな胸元に顔をうずめさせた…

女生徒「あんっ♪」

ドロシー「はははっ♪」

(……この件であちらさんも「バレた」と考えて使わなくなっちまうだろうが、王立音楽院に「メールドロップ(メッセージの隠し場所)」があったって言うのは初耳だ……それにその「落とし物」とやらも、ちょいと探してみる価値がありそうだな)

………


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