ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」 (716レス)
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579: ◆b0M46H9tf98h [sage saga] 2021/10/12(火)10:22 ID:qQ2ElEW60(1) AAS
…二日後…

ドロシー「……今のところまだ動きはなし、か」

…ドロシーは一見すると鹿撃ちでもしに来たように見える茶系のハンチング帽にツイードの上着、膝丈の革ブーツに裾をたくし込んだズボンといった姿で、冷めていくエンジンのチリチリ言う音を聞きながら、真鍮製の望遠鏡で一時間ばかり周囲を観察していた……ドロシーが陣取った監視地点は畑地との境界線上にある小さいがこんもりと茂った森の端で、かたわらには.303口径の狩猟用ライフルが一挺あり、望遠鏡でのぞく視線の先には畑や牧草地が入り交じった農地が広がっている…

ドロシー「村にもよそ者の姿はないな………ん?」

…視線を巡らせていくうちに望遠鏡の丸い視界の中へと入って来たのは城の裏手に通じる細い道だったが、そこではちょうど城からは見えない林の陰に三台ばかりの自動車を停め、そこから黒い僧服をまとった男が何人も降りているのが見えた……三台のうちの一台は城門を開けさせるための芝居にでも使うつもりらしく、いかにも南欧貴族の若い遊び人といった格好をした二人が乗り込んでいる…

ドロシー「あいつら、間違いないな…」望遠鏡をパチリと畳むとライフルを助手席に放り込んで車に飛び乗り、エンジンをかけた…

…同じ頃・ウィンドモア家の城…

アンジェ(プリンセスの姿)「…突然の訪問を許して下さいね、レディ・ウィンドモア」

レディ・クロエ「いいえ、プリンセスの行啓(御幸)とあらばこの城の門はいつでも開いております…父も近ごろはめっきりと身体が弱ってしまい、なかなかプリンセスのご尊顔を拝見する機会がないと気に病んでおりましたから……こうしてお忍びでおいで下さり、大変に喜ぶかと存じます」

…ウィンドモア城の古い城館はあちこちに手が加えてあり、厩だった場所には自動車が三台と、城の塔を改造した飛行船の係留塔にはウィンドモア家の家紋をあしらった小型の飛行船が係留されている…建物のあちこちでは真鍮の歯車や誘導棒が蒸気を発しながら回ったり動いたりしていて、装飾や絨毯にはケイバーライトの緑色がアクセントとしてあしらわれている……プリンセスの格好をしてにこやかに微笑むアンジェを出迎えたレディ・クロエはまだ少女と言ってもいい細身の娘で、後ろには数人のメイドが控えている…

アンジェ「そうですか、それを聞いてわたくしも嬉しく思いますわ…では、よろしければサー・ジョンにもご挨拶などさせていただきますわ♪」

クロエ「もちろんでございます、どうぞこちらへ……」廊下の左右に並んでいる古い学術書や様々な実験器具に興味を示すアンジェにそれぞれの内容や機能を紹介しながら、当主の部屋へと案内するクロエ…

アンジェ「どれもこれもみな素晴らしい価値がありますわね…わたくし、これまでケイバーライトについて学んできたことよりも多くの事をこの十分あまりで学んだ気がします」

クロエ「恐縮でございます、プリンセス。せっかくお出で下さったのですから後で図書室にもご案内いたします…我が一族に伝わる秘蔵の書物などお見せいたしますわ」

アンジェ「まぁ、わたくしにそのような…お気遣いに感謝いたしますわ、レディ・ウィンドモア」

…数十分後…

クロエ「プリンセス……お茶など用意いたしましたので、よろしければどうぞお召し上がりになって下さいませ」

アンジェ「ありがとうございます、レディ・ウィンドモア…ありがたくいただきますわ♪」

クロエ「では、どうぞこちらへ…」

…アンジェとベアトリスが案内された応接間には歴代当主の肖像画がかけられ、家紋をあしらった盾と交差した剣の他にも、ガラスと真鍮のケースに収められたケイバーライト原石が飾ってある…

クロエ「どうぞお召し上がり下さい…」

…後ろに控えていたお付きのメイドたちが側につき、アンジェとベアトリス、そしてレディ・クロエのカップにいい香りのする紅茶を注ぐ……と、レディ・クロエがエメラルドグリーンの縁取りが施されている砂糖つぼを開けた…

クロエ「よろしければ、プリンセスも紅茶にお入れになりませんか?」

アンジェ「何をでしょうか、レディ・ウィンドモア……お砂糖ですか?」

クロエ「いえ…これでございます♪」

…レディ・クロエが銀のスプーンですくい上げたのはほのかに光る緑色がかった粉…明らかにケイバーライト鉱の粉末で、それを当たり前のようにさらさらと紅茶に入れた…

ベアトリス「…っ!」

アンジェ「そうですね、ではわたくしも少し……♪」

…驚愕の表情を必死にこらえたベアトリスと違って、鍛え上げられた冷徹な神経を持つアンジェはためらうそぶりも見せず小さじに半分ほどのケイバーライト粉を紅茶に入れ、ティースプーンでかき回した…と、カップの中に夜光虫でもいるかのようにほのかに緑色の光が生じ、またすぐに収まった…

クロエ「ふふ……博学なプリンセスの御前でひけらかすような事を申しまして恐縮ではありますが、わたくしどもウィンドモア家が長年行ってきた研究によりますと、ケイバーライトは摂取することで人間をより活性化させ、その能力を余すことなく発現させることが出来るのでございます……おかげでわたくしも頭脳が冴え渡っておりますわ」

アンジェ「まぁ、それは素晴らしい限りですわね♪」

クロエ「はい…そしてわたくしはこの恩恵を独り占めすることなく、わたくしのメイドたちにも分け与えているのです……♪」

…そう言って紅茶をすすっているレディ・クロエの瞳はケイバーライト鉱毒で緑色に染まり、窓から射し込む日差しを反射して妖しく光っている…そして左右に控えているメイドたちも全員がエメラルドのような緑色の瞳をしていた…

アンジェ「なるほど…」

クロエ「…確かにケイバーライトを摂取すると時には手や脚が利かなくなることもありますけれど、わたくしたち人間を人間たらしめているのは手や脚ではなく頭脳なのですわ…腕や脚は無くても生きていくことは出来ますが、脳が無かったら生きていくことは出来ないのは道理でございます」

アンジェ「…おっしゃるとおりですわね」
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