ソロモン・グランディに憧れて (129レス)
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1: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2023/04/26(水)17:50 ID:+Ne/Ufu30(1/5) AAS
 ソロモン・グランディ

 月曜日に生まれ
 火曜日に洗礼
 水曜日に嫁をもらい
 木曜日に病気になった
 金曜日に病気が悪くなり
 土曜日に死んだ
 日曜日には埋められて

 ソロモン・グランディは
省2
2: [saga] 2023/04/26(水)17:54 ID:+Ne/Ufu30(2/5) AAS
これは、イギリスの古い童謡の一つ「ソロモン・グランディ」の歌詞。
ソロモン・グランディという男の一生を一週間になぞらえて歌っているものだ。
詞だけを読むと単調で楽しげのない平凡な人生のようだけど、その軽快な曲を通すとどこか可笑しく聞こえる歌だ。
3: [saga] 2023/04/26(水)17:55 ID:+Ne/Ufu30(3/5) AAS
今日、僕は結婚をする。
歌で言えば、水曜日。
一週間の前半を終え、後は病気になって死ぬだけ。
人生の面白みのある部分は、全て終えてしまった。
でも、僕はそれでいいと思っているし。
むしろ、そうあることを願ってすらいる。
4: [saga] 2023/04/26(水)17:56 ID:+Ne/Ufu30(4/5) AAS
何故なら僕は、平凡な人生を楽し気に歌うソロモン・グランディが大好きだからだ。
小説やドラマの登場人物みたいな、大きな出来事は僕には不要だ。
困難は人生のスパイスとも言うけど、スパイスで舌を痛めることだってあるだろう。
それよりも僕は、面白みに欠けるとしても湯豆腐のような優しく穏やかな人生を迎えたいんだ。
5: [saga] 2023/04/26(水)17:57 ID:+Ne/Ufu30(5/5) AAS
そんなつまらない人生は嫌かい。だったら、ソロモン・グランディを聞いてみなよ。
平凡で単調な人生だって、歌い方次第でどうとでも楽しめるということを。
ソロモン・グランディが、きっと君にも教えてくれるよ。
6: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2023/05/01(月)13:53 ID:dOgL4Yt70(1/12) AAS
● 1995(平成7)年1月16日 月曜日 ● 

 「貴方は私が一人で産んだのよ」
7: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2023/05/01(月)13:55 ID:dOgL4Yt70(2/12) AAS
 ちょっとした宴席で久しぶりに酒に酔った母は、僕が生まれた日のことをそう語った。勘違いされそうだけど、これは決して僕に父親がいないという話では無い。ただ単に、父が出産に立ち会わなかったというだけの話だ。
8: [saga] 2023/05/01(月)13:55 ID:dOgL4Yt70(3/12) AAS
 現に、父は母の隣でイタズラがばれて叱られた子供のようにバツの悪そうな顔をしている。その様子からは父には反省の色を伺うことができないが、母自身も本気で父を責めているわけでは無い。たまに飲んだお酒に、お茶目にも父をいじめたくなっただけのことだろう。
9: [saga] 2023/05/01(月)13:56 ID:dOgL4Yt70(4/12) AAS
 母は、僕の出産に際して車で2時間ほどかかる距離の実家に帰っていた。その日の父は、産気づいたとの連絡は受けていたものの翌日も仕事があるからと自宅に留まったそうだ。そして、日が変わり朝日が未だ昇らぬ頃に僕は生まれた。その連絡を電話で受けた父は、眠そうで不機嫌な声だったという。
10: [saga] 2023/05/01(月)13:57 ID:dOgL4Yt70(5/12) AAS
 正直なところ、出産に立ち会わないなんて酷い父親だと僕は思った。しかし、それは現代の洗練された、あるいは先鋭化したあるべき父親像に照らし合わせればの話で、昭和に育った父の感覚からすれば大したことではないのかもしれない。
11: [saga] 2023/05/01(月)13:57 ID:dOgL4Yt70(6/12) AAS
 現に、ソロモン・グランディの一生にも子供に関するくだりが一切抜け落ちているではないか。木曜、金曜と続けて病気のことを歌うぐらいなら「木曜日に子を授かり」ぐらいあっても良いはずだが。かつての父親たちにしてみれば、子供というのは母の問題であって当人には関心のないことだったのかもしれない。
12: [saga] 2023/05/01(月)13:58 ID:dOgL4Yt70(7/12) AAS
 まあ、大学まで行かせてくれた父親のことを悪く言うのも忍びないので、そこは家族を養うために大事な仕事を抱えていたと幾ばくかの擁護をしておきたい。母も、そのことがあるから父をあまり責めてはいないのだろう。
13: [saga] 2023/05/01(月)13:58 ID:dOgL4Yt70(8/12) AAS
 僕は、ふと、とある映画のことを思い起こした。その映画の中で、数学の得意な主人公はヒロインの生年月日から即座にその日の曜日をあてて見せていた。僕は、スマホを取り出しその数式を検索してみる。しかし、それが思いのほか面倒くさそうな計算だったので、僕は素直に1995年のカレンダーを調べてみることにした。
14: [saga] 2023/05/01(月)13:59 ID:dOgL4Yt70(9/12) AAS
 1995(平成7)年1月16日 月曜日

 僕が生まれたのは月曜日の未明。ということは、母が産気づいたのは日曜日だったというわけだ。しかし、生まれた曜日のことを考えたところであまり実感がわかない。生まれたばかりの記憶なんてあるはずもないのだから、当然と言えば当然なのだが。それでも何とか当時の様相を、想像してみようと僕はカレンダーをよくよく見なおしてみた。おや? よく見ると1月16日は赤い文字で表記されているではないか。
15: [saga] 2023/05/01(月)13:59 ID:dOgL4Yt70(10/12) AAS
「祝日じゃん」

 口をついて出た言葉に、母の眉がピクリと動き、父がビクッと跳ねた。

 僕の父は、地方の銀行員だ。銀行員というものは、公務員よろしく暦通りに休みがやってくる。当然、祝日に出勤することなどありえない。つまり、父は母に仕事だと嘘をついて出産に立ち会わなかったということになる。
16: [saga] 2023/05/01(月)14:00 ID:dOgL4Yt70(11/12) AAS
 その理由は、容易に想像できる。僕の父は、どこまでも面倒くさがりで自分勝手な男なのだ。父は、いつになるかもわからない出産に立ち会うことなど面倒この上なく感じたのだろう。

 たぶん当時の倫理観からしても、それは到底許されることではないだろう。母の様子を伺うに、宴席の後で、父はしこたま怒られるだろう。そしてその母の怒りは、僕の誕生日が来るたびに再燃することは必至だ。父からすれば、今後僕の誕生日は母の機嫌が悪くなる忌々しい日として認識されることだろう。まあ、自業自得なので同情の余地はない。
17: [saga] 2023/05/01(月)14:00 ID:dOgL4Yt70(12/12) AAS
 もしかしたら、ソロモン・グランディにも同じようなことがあったのかもしれない。子供の誕生という、生涯の中でも数度しか体験しえない、そして大いに喜ばしい出来事が、歌の中に含まれていないのはやっぱり不自然だ。であれば、それは意図的に省かれているということになる。つまり、我が父と同様に、彼にとっても子供の誕生はやはり苦々しい思い出でであるのではなかろうか。

 うーん、そうすると。僕の敬愛するソロモン・グランディは、実は碌でもない男だったのかもしれない。
18: ◆CItYBDS.l2 [saga] 2023/05/02(火)08:19 ID:WEwQGqlq0(1/7) AAS
▲ 1999(平成11)年11月15日 火曜日 ▲

ソロモン・グランディは火曜日に洗礼を受けた。
19: [saga] 2023/05/02(火)08:20 ID:WEwQGqlq0(2/7) AAS
 僕も詳しいわけでは無いが、洗礼というのは赤ん坊を水に浸すキリスト教の宗教的な儀式だったはずだ。この歌が出来たイギリスでは一般的なイベントなのかもしれないが、日本人の僕からすれば最も縁遠いものであろう。
20: [saga] 2023/05/02(火)08:20 ID:WEwQGqlq0(3/7) AAS
 ちなみに、僕の家は浄土真宗の西本願寺だ。これは、妹の葬式の時に祖母が教えてくれた。と言っても、知っているのは「南無阿弥陀仏」ってフレーズぐらいで、とても仏教徒と名乗れるほどのものではない。そのことは、幼い僕たちが神社が運営する保育園に預けらていたことからも明らかだ。
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