[過去ログ] 鳴護アリサ「アルテミスに矢を放て」 〜胎魔のオラトリオ〜 (917レス)
上下前次1-新
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
次スレ検索 歴削→次スレ 栞削→次スレ 過去ログメニュー
1 田中(ドワーフ) ◆7fp32j77iU [saga] 2014/04/01(火) 07:36:32.25 ID:A5mSZxOG0(1/38)
ここはとある禁書目録&とある科学の超電磁砲のSSです
メインは鳴護アリサさんと、『新たなる光』や上条さんを軸に進んでいくんだと思います
基本台本形式ですが、その場のノリで小説っぽくなります
また内容は比較的ダークなものですので、グロい描写が多々あるかも知れません
敵側は基本オリジナル、プロローグが若干長いかも?まぁお気になさらず
ともあれ最後までお付き合い頂ければ幸いです。いぁいぁ
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396305392
818 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/22(月) 13:06:11.36 ID:e9+Q4qj/0(11/18)
ベイロープ『補足するとアバーディーンってスコットランドの漁村も、油田開発の恩恵を受けて豊かな都市になっているのよ』
フロリス「日本で例えると……そうだねー、ある未開の土地を開発し終わったら、自称先住民族の子孫が湧いて出て、賠償金を支払えー、かな?」
上条「開発したのはイギリスで、でも独立派は寄越せと?」
ベイロープ『一事が万事こんな感じ。正直付き合ってられない』
レッサー「しっかもですねぇ、連中『ポンド使わせる訳ねーだろボケ!』と怒られてビビったらしく」
レッサー「選挙戦の最後の方に『国家元首はエリザベス2世のまま』とか超日和りやがったんですよー……あぁぶち殺してぇ」
鳴護「レッサーちゃん、キャラキャラ」
レッサー「おっと私とした事がついうっかりしちゃったのよな!」
上条「戻せ戻せ、クワガタアフロのオッサンになってんぞ」
鳴護「エリザベス女王さん?って確か」
レッサー「――もといエリザードでしたね。やー、何か今日は変な電波飛んでるなー?」
上条「あのノリの良いおばさんが国家元首……今と変わんなくね?」
ベイロープ『だったら”民族のため”に独立する意味が無いわよね?』
上条「あー……うん。独立派がクズってのはよく分かった」
フロリス「ちっちっちっ!甘いぜ、奴らはもっと怖いんだ!」
ランシス「……怖いってか、まぁ果てしなくドン引き?」
ベイロープ『私達、っていうかスコットランドの一部のバカどもはね。エリザード、もといエリザベス――あぁもう面倒臭い!』
ベイロープ『正式名称エリザベス2世が「スコットランドには居なかった」を根拠にして、2世って呼ぶな運動をしてるのだわ』
上条「ええっと?」
ランシス「スコットランドとイングランド、途中から一つの国になった」
ランシス「だから戴冠する君主は『イングランド王兼スコットランド王』、となる……おけ?」
鳴護「です、よね?日本じゃあまり馴染みがない、ですし」
フロリス「何となくでいーよ。ワタシらも深くは考えないし――で、今の女王が2世、つまり過去にも同じ名前の王様が居たと」
ベイロープ『――でも「スコットランドには居なかった。だから2世と呼ぶな」ってね』
上条「なんつーか……大概だな、それ」
レッサー「えぇまぁ連中裁判を起こして負けたんで、以後スコットランドでも2世と使われるんですがね」
レッサー「ですが、ブリテンの郵便ポストには国王の名が刻まれるのに、スコットランドでは無名のままって事態に」
ランシス「一部の人達が、壊したり、名前を削り取るから……」
上条「はぁー、大変なん――って待て待て、ちょっと待て」
819 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/22(月) 13:08:14.18 ID:e9+Q4qj/0(12/18)
上条「その、スコットランド独立派が、そこまでして嫌がってるエリザードさんを」
レッサー「『心配ないですよっ!スコットランドが独立しても何も変わりませんって!』」
レッサー「『だって君主はあのっ!私達の王様であるエリザベス”2世”さんなんですからねっ!』」
ベイロープ『――を、マジで。何ら一つフィクションで無しにカマしやがったのよ……!』
レッサー「まーさーにーっ!『ならず者の最後の逃げ場は愛国心である』を地で行ってますねー」
上条「……それ、本末転倒じゃね?スコットランドがイギリスから独立したがってるのは、まぁ良いと思うさ」
上条「ぶっちゃけ幾ら自由っつっても、独立する自由があるかどうかはさておき、理解は出来る」
上条「でもそのために今まで散々攻撃していた相手、つーかその様子じゃ無礼な事しまくってたエリザードさん持ち上げるって……」
レッサー「更に補足しておきますと、ブリテンじゃ王族に爵位が授けられます。どこどこ公爵とか伯爵とか」
レッサー「んで割り振られる領地――つっても名目だけですが――が決まってるんですが、なんと!」
レッサー「現在のエディンバラ公爵はエリザード旦那、しかも彼が死んだ暁には彼の長子――つーかリメエアさんが継承するってまとまってます」
レッサー「少なくとも『ブリテンの次の王はエディンバラ公が選ばれる』っつー配慮してんですがね、こっちは」
鳴護「お話聞くに、粗末には扱われてないよね……?」
レッサー「少なくともイギリス領インド帝国よりか格段に大事に扱ってますよっ!」
上条「おーいガンジー!こいつをいっぺんぶん殴ってくれ!」
フロリス「あぁまぁ良い機会だし、こないだはハンパになっちゃったのを、も一度言うとだね」
上条「途中?何かあったっけ?」
フロリス「フランスの王様がブリテンの王様でもあった、みたいなの」
上条「あーはいはい、あれな」
フロリス「……こほん。ぶっちゃけ『ブリテンの王族』の定義はバッカみたいに広いんだ」
上条「広い?」
レッサー「始めてお目にかかった頃、そちらさんは『王族だけを標的にする暗殺術式』だとパニクってらっしゃいましたよねぇ?」
上条「あぁカーテナ争奪戦の時、キャーリサがカマしたやつな」
鳴護「当麻君、さっきからイギリスの女王様とかを妙にフランクに話すよね?呼び捨てるよね?」
上条「違うんだよ……!いや、想像してる通りだとは思うけど!別に俺が好きこのんで首突っ込んだ訳じゃ!」
フロリス「だから『王族だけ』をターゲットにしたら、対象範囲がとてつもなく広いんだーよねぇ、これが」
レッサー「まずは国内に居る王族と元王族。そしてフランス革命で生き残った、言ってみりゃブリテン王室の元になった人達の子孫」
ランシス「……あと植民地。『大英帝国時代に王族だった』人も巻き込まれる……」
ベイロープ『ウチみたいな没落貴族は腐る程居るのよ』
上条「……あぁ、なんか適切な言葉が出て来ない。なんかモニョる!」
レッサー「素直にバカじゃねーの?と言っても構いませんよ?言ったら罰ゲームですけど!」
上条「今更不用意な事はしねぇが……あー、ルーツがフランス。でもってウェールズや北アイルランド、スコットランドの血も入ってる」
上条「しかも植民地時代には他の地域の大々的な王――皇帝になって、現地の植民地とも親戚関係になった、と」
レッサー「あ、『エリザード旦那はギリシャ王族』も付け加えておいて下さいな」
820 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/22(月) 13:10:49.36 ID:e9+Q4qj/0(13/18)
フロリス「今のウィンザー朝開祖ショージ五世のママは、デンマーク王女兼インド皇后だっしー」
ランシス「彼女の妹はロシア皇后になったけど……ロシア革命で家族を無惨に……」
鳴護「日本と違って、ひたすら混血やら婚姻が進んでる、って事?外国との?」
レッサー「まぁそんな訳で『ブリテンの王族だけを狙った術式』があったとしても、恐ろしく対象範囲は広くなってしまいます、えぇ」
レッサー「王位継承権だけを持つ、のであればまだ有効でしょうが、血がどうこうという判別方式でしたら、大量に人が死ぬ事になりますから」
上条「でもあの時、その、俺達が怪しんでいた王族だけ狙う術式があったとしてだ」
上条「キャーリサじゃなくフランスが黒幕だったら、本当に使って……あ」
レッサー「気づきましたか?いや僥倖僥倖。上条さんもこっちの知識に染まって何よりですな」
上条「認めたくはねぇがな……」
鳴護「どういう事?フランスには王様が居なくって、イギリスの王様を――ってするんだったら有効だよね、って話だよね?」
レッサー「……憎いっ!その無意識に『だよね』を二回重ねて上目遣いで首を傾げるその仕草を計算無しでやれる所が……!」
フロリス「落ち着け恥女。取り敢えずシャツ脱ごうとスンナ」
ランシス「……ハウスっ」
レッサー「わふーっ」
上条「ウッサいぞ外野。えっと、俺も良くは分かってないんだが、仮にイギリスの王族だけ狙えるとしよう」
上条「もしも『血』とか『過去の婚姻関係』で絞ったら、対象が大量になっちまうし?」
上条「フランスに友好的な国も巻き込んだりしたら、回り全部が敵に回す可能性だってある」
鳴護「あー、政治家さんの中にも『元○○王室の関係者』とかいそうだね」
上条「フランスにとっては、あぁもし黒幕が連中だったとすればって前提で」
上条「連中が国益であって、エリザードさん達殺しましたハイ終りとはならない。その後どうするのかが問題」
上条「物証突きつけられて四面楚歌にされてもするだけのメリットがあるか、と」
レッサー「……ま、ドーバーの原子力潜水艦から核使おうとしやがったらしいですし、少なからず冤罪でもないんですがね」
フロリス「つーかさー、ユーロトンネル爆破に関しちゃ、間違いなくフランス野郎が関わってたんだし」
ランシス「……あれ、スルーしちゃいけないと思う……」
フロリス「つーかユーロトンルネ爆破も結局。現在に至るブリテンとフランスのいざこざは、イギリス清教とローマ正教の代理戦争って側面があるのさ」
レッサー「こんな感じで、私達の歴史は入り組んでる訳でして、はい――『王族をトリガーに発動する国家単位の破壊を行う術式』でしたか」
レッサー「あったら最初っから使いそうなもんですけどねー」
上条「俺達は最初、お前ら『新たなる光』がその術式を起動しようとしてた、って勘違いしてたよな。でも」
上条「あれ、本当の所はどうなんだ?あったの?」
ベイロープ『レッサー』
レッサー「分かってますってば、そうガミガミ言わないで下さいよ。ベイロープは私のママンですか?」
レッサー「……」
レッサー「もしかしてっ!?あなたが生き別れになった私の――ママンっ!?」
ベイロープ『……後でケツの肉、握り潰す……っ!』
レッサー「助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
鳴護「レッサーちゃん……」
821 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/22(月) 13:12:36.97 ID:e9+Q4qj/0(14/18)
フロリス「あ、レッサーのオカンはおバカやらかす度に学校に呼ばれてたから」
ランシス「……その時に言った台詞が『バカな子ほど可愛いのよ!』……って」
上条「遺伝じゃねぇか。ある意味元凶とも言えるが」
フロリス「ワタシから補足しとくけど、はっきり言って『曖昧』」なんだよねぇ、そこら辺も」
フロリス「今の王様もウィンザー朝。ドイツ出身のザクセン公国の流れを継いでるし?」
ラシンス「……だから『ブリテン国王の死』にはフランス・ウェールズ・スコットランド・ドイツの血のどれかが入っていれば、条件を満たす……」
ランシス「もっと言えばブリテンにはもっと旧い『王』が居た、し?」
上条「範囲、広すぎだよなー」
フロリス「えーーーーーーっと……あぁそうそう、古代バビロニアでは『供犠王(King sacrifice』」って制度があった」
フロリス「”Escape”の前に現在の王は退位、罪人を王へ即位させるんだよ」
鳴護「エスケープ?逃げる、の?誰から?」
ランシス「『Solar eclipse, Lunar eclipse』……日蝕と月蝕」
ベイロープ『太陽や月がなくなってしまう、それを再び甦らせるためには王の命が必要』
ベイロープ『だけど一々殺していたんじゃ割に合わない。だったら殺されても当然のヤツを、事前に王につけておこう』
レッサー「ま、日本に多い『穢れ払い』と同じドグマでしょーかね?」
レッサー「『悪いモノが来たら、誰かに押しつけてその他多数を救おう』って考え方ですか」
ラシンス「もっと突き詰めれば、人身御供……」
上条「事前に予測出来てたのがスゲーよ。バビロニアって確か、紀元前……?」
ランシス「約1900年前から、千年ぐらい続いた王朝……」
フロリス「そん時にゃサロス周期が発見されてて、日食月食は100%予知されてたワケで……ま、8時間ズレる時もあったケド」
レッサー「詳しくは省きますけど、アンティキテラ島の歯車ってご存じで?」
鳴護「あ、知ってる!古代ミステリーとかのオーパーツ!」
レッサー「つい最近まで用途が不明だったのですが、復元作業が進んだ結果、あれは月の満ち欠け、天体の運行」
レッサー「更には日食や月食が起きる日時も、正確に算出出来るものだったようです」
レッサー「復元された盤面にはシグマ――月の女神セレーネのシンボルが月を。太陽は太陽神ヘリオスの象徴であるイータが入っています」
レッサー「その機械に使われてた歯車の歯の数、それが223枚。古代バビロニアで確立されていたサロス周期の概念が入っていた、と」
上条「制作年代は?」
フロリス「紀元前150年から100年ぐらい、って言われてる。ま、少なくともバビロニアとギリシアには文化の継続があったとさ」
ランシス「文化の伝播……信仰の変遷。バビロニアでのキュベレ神が、今度はアルテミスへ姿を変えるし」
レッサー「アルテミスというよりはセレーネの方が正しいと思いますよ。旧い、月の神」
ベイロープ『ま、そんな訳で昔から「貴人を殺して災害を防ごう」って魔術儀式があったのだわ』
フロリス「でも実際、一々やってちゃ非効率だっちゅー話さ」
ベイロープ『だから一時的に貴族や国王へ引き上げといて、さぁ処刑!みたいな事』
ベイロープ『その術式が存在してれば、ブリテンでもそういう対抗手段をとった思うわよ。あれば、ね』
ラシンス「だから、うん……ない、よ?」
上条「……なーんか違和感があるんだけど、まぁ突っ込んだら負けなんだろうな――あ、そうだ」
822 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/22(月) 13:14:07.51 ID:e9+Q4qj/0(15/18)
レッサー「な、なんでしょうか?……はっ!?」
上条「確実にお前が思ってる質問とは違うよ!……つーか常々思ってたんだけどさ」
上条「『カーテナ・オリジナル』って一度失われたんだよな?」
レッサー「清教徒革命の時にですね。あん時ゃもう必要ないと思いましたから」
上条「なんでお前ら、オリジナルが埋められてた場所知ってたの?」
上条「タダの魔術結社未満で、少なくともバードウェイ達みたいな老舗って訳でもないのに、どうして?」
レッサー・ベイロープ・フロリス・ランシス「……」
上条「……え、聞いたら駄目だったか?」
レッサー「……えーっと、ですねぇ。まぁ、何と言ったらいいでしょうか、困るのですが――」
レッサー「一言で言えば『神様の見えざる手が働いた』的な?」
上条「デラタメだよな?良く分かんないし、これ以上突っ込むのもアレだから言わないけど、雑だよね?」
レッサー「ウッサイですよ!私達だって頑張ってるんだから奇蹟の一つや二つ起きたっていいじゃないですか!」
上条「てか俺にキレるなよ」
レッサー「ちゅーかどうしていつの間にかこんな話題になったんですかっ!?私が折角張り切ったというのに!」
鳴護「張り切った……?あ、何か言いかけてたよね」
レッサー「……えぇまぁ今更話を蒸し返すのもちょいと照れるんですが」
上条「――って言ってる割にはスキップしてキッチンに移動してんな?」
レッサー「我々の旅、結構続いてますでしょ?長い――とは言いませんが、少なくとも『濃い』のは間違いなく」
上条「ま、そうだよな」
レッサー「んで、気づいたんですが――」
レッサー「――『私達、上条さんだけに料理を任せていて、女子的にどうなの?』と」
上条「レッサーつぁん……!!!」
レッサー「おおっとどうされましたかっ珍しい!?」
上条「……あのなぁ、そりゃな?俺だってさ、ホラ料理は嫌いじゃないよ?」
上条「むしろ最近、上の学校で経営学勉強しながら調理師免許取って、いつかお店を出したい!みたいな考えもあるんだよ」
上条「料理作るのは好きだからな。強いられるとしてもだ」
鳴護「わー、当麻君りっぱー」
上条「んでもっ!違うじゃない!そうじゃないじゃない!」
レッサー「え、えぇっと?どう、しました?」
上条「なんで女の子五人も居るのに、誰一人として料理しようとしないのっ!?女の子の手作りとか憧れるよねっ!」
ベイロープ『あー……』
フロリス「分かる。ケドさ。ウン」
ランシス「……うんうん、まぁ」
レッサー「……あー、それじゃどうしましょうか?私から言います?それともアリサさんから?」
鳴護「私!?はっきり言うのは、ちょっとプライドが……」
上条「……何?何なの?半分以上おふざけだってのに、なんかリアクションが予想と違う……?」
823 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/22(月) 13:15:16.59 ID:e9+Q4qj/0(16/18)
レッサー「んでわっ代表して私が!……こほん、上条さん、心して聞いて下さいね?」
上条「……そんなに深刻?」
レッサー「つー話でもないんですが……あー、例え話をしましょう。例え話」
レッサー「子供の頃にハマってものってありません?ゲームでも良いですし、ベースボールなんか流行ってましたっけ、日本じゃ」
上条「んー……どうだろ?あんま憶えてねぇが……」
レッサー「あ、別に言わなくても結構ですよ。ありましたよねー、的な感じで」
レッサー「でもそのハマってるものって、やっぱり上には上がありますよね?」
レッサー「ゲームでも野球でももっと得意で、しかも熱を入れてやってる人が居ます。そりゃ世界は広いんですから当たり前」
レッサー「んで、仮にハマってたものよりも数段の上の人が出て来たとして――」
レッサー「――その人の前で、腕前を披露する気、なります?」
上条「んー……と。まぁ、ちょっと萎縮するっつーか、気後れする、よなぁ」
上条「ガキの頃ってのは特に世界も狭いから、そうなっちまうような気がする」
レッサー「以上の例えを『料理』で再構成してみて下さい。速やかに」
上条「料理……?」
レッサー「えぇまぁ私達、ぶっちゃけ学生ですし?アリサさんも食事量がハンパ無いので自炊してたと思うんですよ、えぇ」
鳴護「大食いタレントさんと一緒にされるのはちょっと」
フロリス「自覚しよーぜ」」
レッサー「私達も寮ですからね。身の回りはメイドでも居ない限り、自分達でしなきゃいけませんからね」
上条「学園都市でも結構自炊派いるぜ?親元離れてて小遣いも限られるからな」
レッサー「えぇえぇ、そうでしょうとも。そうなんですよね、きっと」
レッサー「ですから私達も少なからず自信的なモノはありましたとも、はい」
上条「ありまし”た”?」
レッサー「……へぇ?上条さん、ここへ来てまだそんな態度なんですか、そうですか」
上条「……え」
レッサー「『メシマズ国』とか『メインメニューは六種類』、『カレー紳士』等々、散々ネタにされ続けてきた我々ですが」
レッサー「……まぁ、それでも?郷土愛と地元料理、結局ブリテン人の口に合うのはブリテン料理――そう、思ってきました」
レッサー「ですが!なんですかっ!?なんなんですかっ!?」
上条「ごめんなさいっ!?つーか俺が何したって言うんだよ!?」
鳴護「反射的に当麻君もどうかと思うよ?」
上条「――はっ!?『取り敢えず謝っとけば即死攻撃はあんま飛んでこない』って処世術が身について……!?」
ベイロープ『大概よね』
レッサー「ホラそこ脱線しない!人の話をきちんと聞きましょうっ!」
レッサー「大体昨日の料理!一体全体何なんですかっ!?」
上条「き、昨日の……?確か――」
上条「――あぁラビオリとラバーブレード――海藻のごった煮とエビのカクテル、だったよな?」
レッサー「あんなねぇ、あんな……!」
上条「イギリスの家庭料理だろ!お前らがそろそろ地元メシ食いたがってると思って、作ってみ――」
レッサー「あんな美味しいモノはブリテン料理じゃ無いんですよ……っ!!!」
上条「はいっ!…………………………はい?」
824 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/22(月) 13:16:50.34 ID:e9+Q4qj/0(17/18)
レッサー「あんなんはブリテン料理じゃありませんよ!散々煮込んだのにパサパサしてないし!ブレードは塩臭くないっ!」
レッサー「エビに至っては食べても砂が入ってないじゃないですか!?」
上条「ナメてんのか?お前が一番イギリス料理にケンカ売ってないか、あぁ?」
レッサー「うんもう面倒だからぶっちゃますと、ヤローのクセにやったらメシ作るのが上手い方が居て、恥ずかしくって料理を披露出来ないんですよ!」
上条「すいませんっしたっ!!!……って、あれ?悪いか、俺?」
レッサー「――だが、しかぁし!私は、このレッサーちゃんは違いますよ!」
レッサー「今日こそは私が!上条さんを料理で上回ってやりましょう!」
上条「……や、あのな?俺は別に料理の上手い下手とか関係なくってだよ?」
上条「女の子が作ってくれるんだったら、文句言うつもりなんて更々ねぇし。そもそもプロの人だって、常に全力の料理ばっか食べてる訳じゃないんだからな?」
上条「カップメンやファーストフードの味が恋しくなるし、実家に帰ってかーちゃんの濃い味付けに涙したりとか、フツーだからな?」
レッサー「……ほぅ?始まる前から上から目線……勝負をしないおつもりですか?」
上条「勝負も何も。俺は作ってくれるだけで有り難いって」
レッサー「ダメですねっ!女のとしてのプライドがある以上、殿方に女子力で劣ったとあっては末代までの恥です!」
上条「待て待て。人を女子力58万みたいに言うな」
上条「あとさっきから凹んで沈黙している他の皆さんの心中も察してあげて、なっ?」
レッサー「逃げるんですか上条さん!」
上条「いや逃げるとか……まぁ、するっつーんならやっけどさ」
レッサー「あ、罰ゲームは『負けた方が勝った方と結婚する』で」
上条「あ、ごめんな?やっぱ俺勝負しないわ」
レッサー「この私の狡猾な罠を見切っただと!?」
上条「辞書でこの単語の意味調べてこい……って、あれ?」
レッサー「どうしました?」
上条「や、その、お前にプロポーズされんの久しぶりじゃね?」
レッサー「そ、そうでしたっけ?」
上条「前は一日一回してたじゃん?それがここ二三日はないなーって」
鳴護「その『遊びに行かない?』的な頻度もどうかと思うよ?」
フロリス「慣れちゃってるのも不憫だよねぇ。ま、関係ないケド」
レッサー「――と、言う訳で早速張り切ってやりましょうか!」
上条「スルーすんなよ」
825 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/22(月) 13:18:51.60 ID:e9+Q4qj/0(18/18)
今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
スコットランド独立のあれこれは一切脚色していません。独立派、本っっっっっっ当にクズです。無責任極まりない
特定のコミュニティへの帰属意識を煽って、他人からの上前はねようとしている良い例です
826 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/22(月) 13:27:08.29 ID:yJhZwzk+o(1)
乙です
827 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/22(月) 17:59:33.65 ID:OX1DkMnI0(1)
乙です!!
828 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/22(月) 19:54:26.27 ID:BfwyhgP30(1)
他の三人は頭文字や語感でなんとなく想像ついたんだけど。
フロリスだけは、どうしてもあの人に繋がらないなあ……などど色々調べていたら。
なーーーーるほどねえ!
こっから繋いできますか。いや、私がその伝説に疎いだけなんだろうけど。
伏線無かったら見逃してましたよ。
とにかく、(想像通りなら)これで有名どころそろい踏み。
ストーリーにどう絡んでくるか、興味津々です!!
829 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/22(月) 22:24:54.71 ID:srW7LlvDO携(1)
乙!!
この人の作品で、インデックスが大飯食らいの理由が分かった気がしました
メシマズ国から美食の宝庫の日本だもんね
そりゃ、そうなるわな
830 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/24(水) 03:38:09.17 ID:uKl8YxVO0(1)
乙
たまに伏線っぽいからなんともいえないけど、政治がらみの話で進行遅くなってない?
レッサー、あんときには必要ない〜ってことはお前やっぱり……
831 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/24(水) 10:40:51.72 ID:VkdwBuSn0(1)
>>1さんのSS本当に面白いわ
これからも応援してる
832 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/25(木) 17:27:52.16 ID:vlT8E78+0(1)
>>830
愛国心がモットーな人たちですし
レッサーだけか
833 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/29(月) 12:16:12.16 ID:KJWQPZFU0(1/24)
>>828
フロリス「しむらー、魔法名魔法名」――>>569
フロリス「つか聖剣召喚の呪文も『直訳』じゃなくって『意訳』なんだケド、よぉーっく英単語見てみ?特に最後の方」――>>560
伏線についてツッコんで戴いて非常に有り難いのですが、
手品師は右手で人の注目を集めている間に左手でタネを用意する訳で
同様に詐欺師の手口は第一話で告られても断るのがベター(定番)だと思っています
が、しかしプロの方――西尾先生は彼氏彼女になってしまう辺り、一流は流石としか言いようがありません
834 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:20:02.51 ID:KJWQPZFU0(2/24)
――キャンピングカー
レッサー「で、料理対決はジョークとして、まぁたまには私のお料理なんかも披露したいなー、と」
上条「……あぁうん冗談なんだよね?良かったー」
フロリス「レシピは?」
レッサー「ウサギのミートソースです」
上条・鳴護「「……ぇっ?」」
レッサー「待ちましょうかジャパニーズ?何か不満でもおありで?」
鳴護「ウサギ、食べ、るんだ?」
レッサー「日本でも食べていたって聞きましたけど」
上条「江戸時代な。仏教の影響で獣肉はあんま食わなかった、らしい」
上条「今も……料理としては残ってねぇかなぁ?少なくとも俺は食べた事が無い、と思う」
フロリス「郷土料理、みたいな感じでもないの?」
上条「蜂の子的なアレな料理は残ってっけど、ウサギ料理は聞いた事すら無い。言われてみれば何でだろ……?」
ベイロープ『代用品が出来たんじゃないかしら?チキン・ポーク・ビーフにフィッシュ』
ベイロープ『ウサギを育てて食べるよりも安くて効率的よね』
鳴護「あー、だから代用品のない鯖寿司とか残ってる、のかな?」
上条「発酵食品は地元の文化と一緒になってっからな」
レッサー「んじゃどうします?念のため用意してたチキン辺りで代用しても同じですけど?」
上条「いや、ウサギ肉で頼む。食べ慣れてないだけで興味はある」
鳴護「同じく、です」
レッサー「わっかりました。そいでは取り出したるこのウサギ肉!」
上条「……えっと」
鳴護「手のついてるチキンの丸むしり、みたいな?け、結構そのままなんだねっ!」
レッサー「え、日本じゃ違うんですか?」
上条「あー……部位ごとにブロック単位でパックに詰めて売ってる。だから、その」
上条「そんな”まま”のは見ない、かな。うん」
ランシス「方式としては日本が特殊……普通は”まま”で売られてる方が多い」
フロリス「アジアの露天なんかは生きた鶏をその場でシメてるし?」
レッサー「ま、お気になさらず。では――この寸胴鍋へっ!」
上条「デカっ!?つーかそんなの置いてあったか!?」
レッサー「ウサギにっくドーーーンっ!」 ザポンッ
鳴護「え!?骨は!?割とアレ、首があったら動き出しそうなぐらいに原型留めてたよねっ!?」
レッサー「まぁまぁ見てて下さいってば。このまま終る訳がないでしょう?」
鳴護「だ、だよね?ギャグじゃないんだもんね!」
835 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:23:50.88 ID:KJWQPZFU0(3/24)
レッサー「次に用意するのは皮付きのタマネギ、ニンニク、ネギ。新鮮ですよー」
上条「お、おぅ」
レッサー「これも全部おっなっべっへドーーーーンっ!!」 ザボンッ
上条「皮はっ!?剥かないのっ!?」
レッサー「――最後に取り出した大量のトマト!あーんどハーブ!これも――」
レッサー「ぜーんぶドーーーーーンッ!!!」 ザボザボザボザボッ
上条「表出ろテメー!食べ物で遊ぶのは流石に――」 ツンツン
上条「――ランシス?何?今ちょっとレッサーの幻想をだな」
ランシス「……ネタじゃない」
上条「はい?なんて?」
ランシス「本当のあるの、この料理」
上条「ちょっと何言ってるか分からないですね」
フロリス「現実逃避は止めろ。マジでジョークじゃないんだ。つーかブリテンの有名な料理家がこれ作ってんの」
上条「やだなーフロリスさんまで」
ベイロープ『甚だ遺憾だけれど……本当、よ』
上条「………………マジで?これが?」
鳴護「ま、まぁまぁ?まだだよ!まだ終ってないし、きっとこれからミラクルが起きるのかも!」
上条「ん、あぁ、そう、だよな?まだ材料ぶち込んだだけだもんな!」
上条「そういや前なんかで『皮の部分に栄養素がたっぷり含まれている』みたいな話聞いたし!レッサーの戦いはまだまだ続くんだよな!」
レッサー「それ完全に打ち切りフラグなんですが……まぁ良いでしょう。確かに行程としては100分の1も経過してませんし」
上条「あ、そなんだ?だったら別に」
レッサー「では次の行程へ移ります。このランシス――じゃなかった寸胴鍋を」
ランシス「『Are not you negligently applying the match? Wild Boar?』」 ジャキッ
(いい加減ケリをつけようじゃないか猪野郎?)
ラシンス「『Did not you say by power at "Alondite" though doubted saying you and beforehand? Aha? 』」
(つーかお前、前々から思ってたんだが『魔剣』の時もノリで言ったんじゃないのか?あぁ?)
上条「だから荒れるな!つーかお前も室内で抜くな!」
レッサー「で、煮ます。パチッとな」
上条「あー、イギリス料理は煮るのが多いんだっけか?」
レッサー「……」
上条「……」
鳴護「……」
上条「……いや、待つのは良いんだけどさ。どのぐらい?」
レッサー「13時間です」
上条「よし解散っ!」
フロリス「ベイロープぅ、どっか食べ物屋さんあったら停まってよ」
ベイロープ『おけ。リクエストは?』
レッサー「待って下さいよ!?さっきから何なんですかっ文句ばっかり!」
836 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:26:05.20 ID:KJWQPZFU0(4/24)
上条「じゃ言うけど!13時間ってなんだよ、13時間って!?せめて2時間3時間だったら話は分かっけど、半日以上て!?」
ベイロープ『あー……その、言いにくいんだけど』
フロリス「……ネタじゃないんだよ、ウン。ネタじゃないんだな、これが」
ランシス「ブリテンじゃふつーふつー……」
上条「おかしいの俺か!?」
レッサー「ね、上条さん?気持ちは分かりますよ、えぇ。カルチャーギャップと言いますか」
レッサー「高度に効率化された社会に於いて、スローライフが異様に見えてしまうかも知れません」
上条「いやあの、もう効率的以前に『これ料理?』って感じなんだが……」
レッサー「ですが!裏を返せば料理一つにここまで手間暇をかけられる!そういった心の余裕がゆとりなんですよ!」
上条「『余裕=ゆとり』だからな?それっぽい事言ってるつもりなんだろうが、失敗してるからな?」
上条「……いや、まぁ言いたい事は何となく分かる。料理に時間を割けるのって、大切だもんな」
上条「効率やけ追い求めるんだったら一昔前の宇宙食みたいになって、味気ないシロモンだって話か」
レッサー「――で、13時間煮込んだものがここにあります」
上条「良い話してたよね?お前の話に合わせてそれっぽい事言ってたよね?俺の気遣い返してくれないか?」
レッサー「この『魔法の寸胴鍋』を使えば13時間が13分に短縮出来ます!」
上条「個人的にスッゲー欲しい鍋だ!?」
鳴護「当麻君、ツッコミ段々ズレてきてる」
上条「い、いや違うんだよアリサ?確かに『13時間!?』とは言ったけどな」
上条「でも丁寧に煮込めば煮込む程、ダシ――スープに具材の旨味が出てくるんだ」
鳴護「あー、煮込んだカレーも美味しいよねぇ」
上条「確かに効率は良くない!良くないだろうけどさ!」
上条「でもっ13時間も煮込んでるんだったら、きっととても美味い出汁が取れて――」
レッサー「あ、煮汁は邪魔なんで捨てますね」 ザーーッ
上条「レッサァァァァァァァァァァァァァッ!?」
フロリス「待て。手順通りだから!ネタじゃなく!」
上条「……なぁ?これ本当に料理人が考えたレシピなの?」
ランシス「……誇張一切無しで、有名な人」
837 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:27:50.98 ID:KJWQPZFU0(5/24)
レッサー「んでお次にゴム手袋を填めまして」
上条「ゴム手?水回りの掃除でもす――」
レッサー「柔らかくなったトマトを――ドーーンッ!」 グシャッ
上条「おまっ!?つーかあれっ!」
ベイロープ『……うん、大体言われたままね。大体は』
レッサー「皮付きタマネギをゴム手のまま皮を取って――そっのまっま、ドーーーーンっ!!」 グシャッア
鳴護「!?」
レッサー「ニンニクもネギも!ほーら簡単に手ですり潰せるぜ!」 グッチャグッチャ
レッサー「そして次にウサギ肉からゴム手のまま骨を取り除く!柔らかくなってて簡単だぜヒャッハー!」
レッサー「――で、グチャグチャになったものを、全部まとめてフードプロセッサーへかけて――」 ウィィィィンッ
レッサー「ペースト状になれば――はい完成!ウサギ肉のミートソースの出来上がりですっ!」
上条「……あの、レッサーさん?」
レッサー「パスタと混ぜて良し!パンに挟んで良し!万能調味料ですなっ!」
上条「お、おぅ……」
鳴護「あー、じゃ一口貰っても?」
上条「アリサさん?」
レッサー「さ、どうぞどうぞ!上条さんも是非っ!」
上条「ん、まぁ見た目が――いやなんでもない、頂くよ」
鳴護「……」 ハムハム
上条「……」 パクパク
レッサー「……どうです?」
鳴護「……あ、美味しい」
レッサー「ですよねっ、良かったー」
上条「……まぁ、うん、美味しい、な?」
上条「脂っぽさが皆無でヘルシーだと思うよ。うん」
レッサー「美味しいなら美味しいとはっきり言ったらどうですかコノヤロー!」
上条(料理の基本は 『旨味』と『脂』で、その両方が吹き飛んでるなんて言えない……!)
838 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:30:54.44 ID:KJWQPZFU0(6/24)
レッサー「いやですよぉ泣く程美味しいだなんて!この『幻想ゴ・ロ・シ』!」
上条「人の能力っぽいのをジゴロみたいな言い方は止めて貰おうか」
上条(いやでもこれしかし、どうやってオチをつけたもんか――) チラッ
フロリス・ランシス スッ
上条(目ぇ逸らせやがった!?ベイロープ、ベイロープさんはっ!)
ベイロープ『あ、道混んで来たから切るわね』 プツッ
上条(混んで来たから、の意味が分からない!?むしろそのためのボイスチャットじゃないの!?)
上条(だったらアリサ!このパーティ唯一の良心であるアリサならきっとやってくれる!)
ランシス(――って思ってるんだろうけど、それ、フラグ)
鳴護「えっとね、レッサーちゃん」
レッサー「はいっ!」
鳴護「えぇっと、うん、まぁ、なんていうか」
鳴護「……お、お料理の事は当麻君かが詳しいんじゃないかな?」
上条(良心が丸投げしやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)
フロリス(だーよねぇ)
レッサー ドキドキ
上条「あぁっと、まぁ、アレだよ――」
フロリス「――の、前にレッサーの名誉のため言っとくケド」
フロリス「ブ――イングランドじゃ、これが、マジで、存在する」
レッサー「待ちましょうか?今ブリテンって言いかけてどうしてキャンセルしたんですか?」
レッサー「そしてまた我らが大英帝国の業を一身にイングランドへなすりつけませんでした?」
フロリス「気のせい気のせい」 チラッ
上条「(おけ――なぁ、ランシス?)」
ランシス「(……遺憾ながら、まぁ、有名な料理人がドヤ顔でこの料理を……)」
ランシス「(だから、レッサーは悪くない……し!私達の家庭料理も、まぁこんなもん?)」
上条「(……人気なの、その人?)」
ランシス「(……かなり)」
上条「(んー……日本でこれやったら二日で潰れるレベルの調理方法なんだがな……さて)」
ランシス「(ちなみに私は結構この味が好き)」
上条「(え?この出し汁全廃棄したパッサパサのが?)」
ランシス「(……”だった”とだけ)」
上条「(うん?)」
839 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:32:45.16 ID:KJWQPZFU0(7/24)
ランシス「(茶碗蒸しと肉じゃがの味を知った後には……もう!)」
上条「(……あのな?別にガスコンロありゃ誰だって作れるからな?)」
上条「(建宮の差し入れの醤油と鰹節、みりんだって手間かければ手に入るし)」
ランシス「(それは傲慢な考え……ナンプラー(魚醤)とタピオカミルク渡されて、はいどうぞって言われて料理できる……?)」
上条「(魚を照り焼きした後にほぐして、骨とワタは鍋で煮てスープにする)」
上条「(取った身をご飯に混ぜてタピオカミルクと煮ればいいじゃん?)」
ランシス「(……)」
ランシス「(プリンとレモネード渡され――)」
上条「(悪かったよ!無駄に女子力高くてごめんなさいよっ!)」
上条「(あとプリンとレモネードは完成されてる!そっから進化させようがねぇよ!)」
ランシス「(……だからー、レッサーの自尊心を傷付けない方向で一つ。よろしくー)」
上条「(……頑張っては、みる)」
レッサー「おっぱい勝負じゃ負けましたけどねっ、女子力ならまあこんなモンですよねっ!」
上条「勝ち誇ってんじゃねぇよ。いや、確かに勝負かけたのは評価するけど」
上条「あー……っと、レッサーさん?」
レッサー「はいっ!」
上条(あー……でもなんて言おう?不味くはないんだ、美味しくもないってだけで)
上条(だからっつって、わざわざ手間暇かけて作ってくれたのを扱き下ろす……そりゃ、人がやって良い事じゃねぇしな)
上条「……」
レッサー「おぉっと上条さん?焦らすのも嫌いじゃない!嫌いじゃないですよっ!」
上条「取り敢えずボケる癖をナントカしやがれ。話が進まないから――で、なくってだ」
上条(下手に取り繕うのも、逆にレッサーは鋭そうだし……よし!)
上条「あー……やっぱ考えたんだが、俺さ――」
レッサー「よっしゃ!ドント来なさ――」
上条「――俺、レッサーがメシ食ってんのが好きなんだよっ!」
レッサー「――い!?」
ランシス「あっちゃー……」
フロリス「おぉっと!お気の毒ですが地雷原へトラクター乗ってく勇者だ……!」
840 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:35:24.45 ID:KJWQPZFU0(8/24)
上条「だからなっ?こう、作って貰ったのは嬉しいけども!」
上条「やっぱりホラっ作る喜び的なねっ!一人で食べるのは味気ないし、誰か喜んでくれる人が居たら良いよなっつー事だよ!」
レッサー「それはつまり――結納ですねっ分かりますっ!!!」
上条「そんな話はしてなかったな?」
レッサー「い、いやいやっ!『俺の手料理を毎日食ってくれるお前が好きだ!』みたいな、ジャパニーズ特有の遠回しなプロポーズでしょうが!」
上条「いやまぁ、する人も居るらしいけどさ。そんなたいそうなモンじゃなくってだ」
上条「ほら?レッサーだけじゃなくって、アリサにベイロープにフロリスにランシス。みんなが食べてくれるのは有り難いよな、って」
レッサー「ご」
上条「ご?」
レッサー「五重婚とは……!……くっ!中々やりますねっ!」
上条「甲斐性ありすぎるだろ、なぁ?確かに全員可愛いとは思うが、お前俺の事どんだけ節操ないって思ってやがる!?」
レッサー「禁書目録さん、御坂美琴さん、神裂火織さん――」
上条「良し!落ち着くんだっ!色々とツラいからこの話題は先送りにしておこう!」
レッサー「戦わなきゃ、現実と!」
上条「現実か?一介の高校生が世界の命運賭けて戦うのが本ッッッッ当に現実だっつーのか?あ?」
上条「たまーに思うんだが、俺なんか夢見てる気がするんだよ。もしくは壮大なドッキリ仕掛けられているとか」
レッサー「あぁありますあります。『実は自分の人生が壮大なリアリティ番組で、実は全て誰かに監視されてる』的な妄想」
上条「映画でもあったっけかな。コメディのようで笑えない話の」
レッサー「まー、実際にキャスト用意して試そうってんなら、親兄弟や周囲の人間まで十年単位で用意しなくちゃですからねー」
レッサー「コストに見合ったリターンがあるとはとても」
上条「……ま、俺の妄想は良いんだよ!それよりも――」
レッサー「あぁいえ、上条さん。分かってますよ、分かってますってば」
上条「え」
レッサー「最初のリアクションで『美味くも不味くもない中途半端』ってのか、何となく分かっちゃいましたからねー。無理にフォローされなくても結構ですよ」
レッサー「むしろ気を遣わせてしまって申し訳ないな、と」
上条「ん、あぁいや?そんな事ない!ただ慣れてないのはしょうがないだろ?」
上条「一生食いたいかはともかく、そんだけ誰かのために時間かけてメシ作ってやれるってのは、幸せだと思うぜ?そいつがな」
レッサー「……ですね。そういった意味じゃ、私はこの料理嫌いじゃないかもです」
上条「まぁ、な」
レッサー「しかしまぁ驚きですよねぇ」
上条「なにが?」
レッサー「まさかテレビで見ただけのネタ料理をここまで褒めて頂けるとは!」
上条「やっぱりじゃねぇかっ!?やっぱお前俺で遊んでただけだろうが!」
841 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:39:01.96 ID:KJWQPZFU0(9/24)
――イタリア ローマ市街地某所
上条「……色々あってイギリスとフランスの各都市は回ってきたが――」
上条「――スゲーなローマ、主に人の多さがな!」
上条「地方の通勤ラッシュ並みの混雑が延々続いてるレベル……」
鳴護「えと、旅行の栞によれば……『人口約270万人の都市で、元ローマ帝国の首都です』と」
鳴護「『ですが神聖ローマ帝国(笑)の没落と共に、諸国家へ別れて散り散りになりました』」
ベイロープ「……カッコ笑いカッコ閉じ……?」
鳴護「『前の戦争でWOP野郎はさっさと降伏しやがったので、連合軍の爆撃を免れ、結果として古い建物が数多く残っています』」
鳴護「『とはいえ治安は良くないので、決して裏路地へ入ったり、ツンツン頭の男とは二人っきりにならないように注意して下さい』」
上条「その栞、俺貰ってないよね?つーか妙に攻めてくるよね?積極的に打者へ当てに来てる辺り、誰が作ったかもう分かったが!」
上条「てか海外のゴロツキがたむろってる路地裏と俺って同格なの?言っちゃ何だけど未使用だよ?ほぼ新品だし?」
レッサー「中々エッジの効いた内容ですねっ。宜しければ見せて貰えません?」
鳴護「どうぞどうぞ――てか、私達の街が240万人で。ローマには観光で来た人も受け入れてるから、もっと多いんじゃ?」
ベイロープ「それが正解。しかもやったら滅多に人混みが多いのは、やっぱ街のせいなのよ」
上条「観光名所だから?」
フロリス「それはハーズレー。『古い市街が残ってる=現代の社会インフラが取り入れられてない』ワケさ」
ベイロープ「それも補足すれば道路・歩道共に道幅が狭い……つか年間780万人の観光客が押し寄せれば無理ないわ」
ランシン「良く言えば風情がある……悪く言えば……?」
レッサー「『人がゴミのようだ!』」
ランシス「……正解」
ベイロープ「そこはまだ『ゴミゴミとしている』にしときなさい」
上条「あ、いや建物や街並なんかはいかにも『それっぽい』感じなんだが、整然としてねぇから違和感が」
レッサー「列があったら取り敢えず一列に並ぶ、レミングスの末裔には分からないでしょうねー」
上条「ルールを守るのは自分のためだ。回り回って戻ってくるのが分かるから、俺達はそうしてるだけだっーの」
フロリス「んで?ここに集めてどうすんのさ?」
上条「だな。キャンピングカー郊外に停めて荷物だけ持って集合――って流石に不安になるよな」
フロリス「さっさ観光したいし、ね?」
上条「前っから思ってんだが、レッサーが悪目立ちしてるだけで、お前も相当大概だよな?」
フロリス「ナイナイ?観光気分で日本旅行とか、ゼンゼン?うん」
レッサー「悪目立ち……」
ランシス「大丈夫、目立ってるのに代わりはない」
レッサー「じゃあ良いでしょうかねっ」
ベイロープ「おい、問題児三人。いい加減にしないとケツをしばき倒すのだわ」
鳴護「まぁまぁ。それよりもこれからどうなるんでしょうね?」
ベイロープ「どうもこうも。し明後日にはローマでコンサートよね」
鳴護「はい」
ベイロープ「だったらそれまで、どこか安全な場所でカンヅメが妥当じゃないかしら」
ベイロープ「ローマ正教のお膝元でドンパチやらかそうって程、連中はバカ……」
ベイロープ「……」
ベイロープ「有り得るか。それも」
レッサー「ですなー。『Blitz tactics(電撃作戦)』でカマすのは常道。てか基本ですし」
842 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:43:35.35 ID:KJWQPZFU0(10/24)
上条「大丈夫だろ?だってローマ正教みたいな、やったら人員豊富な所が護ってくれるんだったらばさ」
フロリス「いやぁ、それがさー?ウェイトリィ兄弟の『双頭鮫』てばシシリー系マフィアだっつったジャン?」
上条「シシリー?」
ベイロープ「英語だと『Sicily』、イタリア語だと『Sicilia(シチリア)』」
鳴護「ちゃらら、らららら、ちゃらららー?」
上条「ゴッドファーザーのテーマ……あぁ本場なんだっけ、シチリア」
ランシス「が、まさにイタリアの南に浮かんでる島」
上条「……なーる。安全地帯に来たつもりが、向こうさんのホームにも近づいてるって事なのな」
レッサー「加えて前教皇マタイ=リースさん時に色々不祥事が出て来ましてね」
レッサー「具体的にゃ司教レベルでの性的虐待、バチカン銀行がギャングのマネロンに使われていた疑惑付き」
上条「おい大丈夫か?つーかここローマ正教のお膝元だっつってんだろ!」
レッサー「『私、レッサー、脱衣の天才だ!教皇だってぶん殴ってみせらぁ!でも分離主義者だけは勘弁な!』」
上条「お前はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ランシス「……ムダムダ。レッサー、フツーにぶん殴りにいくと思うよ?」
フロリス「てかそれはレッサーだけじゃないよね、別に」 チラッ
ベイロープ「あー……」 チラチラッ
上条「そんな目で見られてたなんて……」
鳴護「てかなんで特攻野郎○チームのネタをレッサーちゃんが知ってるの……?」
ベイロープ「はいはい静かにー。話はきちんと聞く!」
上条「……いいのか?ベイロープさん、完全に保護者の立場と投げやり感になってんだけど、本当にそれでいいのか?」
レッサー「――で、激おこした教皇、てかローマ正教。なんと『マフィアの破門』をしくさったんですよ」
上条「破門?」
レッサー「『震えるぞビィィィィィィィィトォッ!!!』」
ランシス「それ波紋違い……」
上条「ベイロープ?」
ベイロープ「ちょっと待ってね。今『槍』出すから」
レッサー「すいまっせんっごめんなさいっ私が悪かったですもうしませんっ!?」
鳴護「速攻で謝るんだったら、しなきゃいいんじゃ……?」
フロリス「山があったら登るだろ、Lady?」
鳴護「あたしインドア派なんで。お部屋で曲作ってる方が好きかな」
フロリス「んー……新しいキーボードあったら、カタログ欲しくなるよね?」
鳴護「分かるっ!ロールキーボードが出るとあの、ぺこぺこ感を試したくなるっ!」
上条「……この旅でアリサの妙な一面を発見してきたが、それ共感するヤツ居るのか……?」
ランシス「着やせとか?」
上条「こ、個人の大切な個性じゃないかッ……!」
843 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:47:46.13 ID:KJWQPZFU0(11/24)
レッサー「――さて、そろそろベイロープの眼の色が警戒色に――いやウソですごめんなさいなんでもないです――真面目に言いますと」
レッサー「今、ローマ正教とシチリアマフィア、ちょっとした冷戦中でしてね」
ベイロープ「一応『裏』からの影響力を削ごうって建前。実際の所はどうか怪しいんだけど」
上条「まぁ、な。マフィアよりもデッカイ闇がゴロゴロしてる訳だし」
レッサー「だもんで、数年前であれば『マフィアとも仲良しさっ!』なんで、『双頭鮫』を自制してくれたんでしょーが、それは期待できないと」
フロリス「てか逆ジャン?シシリーが怒ってるから、ダンウィッチの双子が雇われたって線は?」
ランシス「時系列的には破門された方が早い……ん?そこまで、するかな?」
レッサー「繋がりは知ったこっちゃありませんがね。少なくとも敵対行動を取っても、仲間から突き上げは食らいにくいでしょうね」
PiPiPiPi……
鳴護「あたしのケータイ……『もしもし?あ、お姉ちゃん』」
鳴護「『今、みんなで――うん、六人だよ?今、意図的に誰一人ハブかなかった?』」
上条「おっと!最初っから鋭いジャブが飛んできたぜっHAHAHAHA!」
レッサー「大切にされてるのか、警戒されてるのか、微妙な乙女心と言えなくもないですかねぇ」
上条「乙女心……つーかシャットアウラって幾つよ?88の奇蹟ん時に小学生ぐらいだったから、下手すると中学生?」
上条「どう見ても良家のお嬢様が、どこをどうやったら企業の外付け保安部になってんだか」
鳴護「『こっちに来てる?合流……はいいんだけど、人多すぎで』」
鳴護「『――え?いつもの格好だから直ぐ分かる?』」
上条「いつものってどんな格好だよ。俺らシャットアウラの私服見た事無いし」
ランシス「……あ」
フロリス「あれ、かなぁ……?外れて欲しいケド」
上条「どれど――マジかっ!?」
ベイロープ「……黒い対刃・対弾ジャケットに、金属片で補強したロングコート……」
レッサー「攻殻機動○のコスプレですかね?いやー、気合い入ってますねー」
上条「浮いてるよ!?つーか遠くからでも目立つし!若干回りの観光客も遠ざかってんじゃねぇか!」
上条「てか私服じゃねぇなぁ!いつものって『いつもの戦闘服』って意味か!?」
ランシス「似合ってるのは、うん」
ベイロープ「ま、本人がいいってんならいいでしょうけど――問題は」
フロリス「どーにか、辛うじて同行者と言えなくもない、びっみょーな距離を取って歩いてるShimazaki?」
上条「それ中の人……あー柴崎さん、顔強ばってんじゃねぇか!そこまでして付き合わなくっても!」
鳴護「お姉ちゃん……ま、まぁ真面目な人だから!二人とも!」
フロリス「……あのさ。思ったんだケド」
レッサー「どしましたか?」
フロリス「ワタシら、あの二人に連行されんだよね?こう、コスプレしたねーちゃんの関係者だって羞恥プレイを強いられるんだよね?」
レッサー「あ」
ランシス「……うーん」
844 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:49:49.50 ID:KJWQPZFU0(12/24)
上条「……いやでも、それは仕方がな――」
レッサー「――と言う訳で私達はちょっくらローマ観光と行きますんで!上条さんとアリサさん達は、ここから別行動に――」
ベイロープ「――に!になる訳が!ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
レッサー「ビヒギャアアアアァァァァス!?ハイロゥンドォが攻めてきたぞぉぉぉぉぉぉっ!?」
鳴護「レッサーちゃん、余裕結構あるよね?いつも思うけど」
上条「変態だからな」
鳴護「あー……」
シャットアウラ「何を騒いでるんだお前達!目立って仕様が無いだろう!」
上条「お前もな?観光地で特殊部隊の装備そのままって正気か?」
シャットアウラ「何が?」
鳴護「えっと、お姉ちゃん。こっちで話そう、ね?」
シャットアウラ「それは構わないが」
クロウ7「いやダメです。先様がお待ちですから」
ベイロープ「サキサマ?」
クロウ7「お疲れ様でした皆さん。よくぞご無事で」
上条「大げさ、って訳でもないか。だって――」
クロウ7「あ、詳しい話は後ほど伺います。それよりも移動致しますので着いてきて下さい」
フロリス「どこ?ホテル借りたの?」
クロウ7「借りていません。正確には今から国境を越えます」
上条「え!それじゃイタリアから出んの?」
シャットアウラ「そうじゃない。イタリアの『中』にある。お前も聞いた事ぐらいはあるだろう?」
ベイロープ「まさか!?ローマ正教の総本山!?」
シャットアウラ「そのまさかだ。『向こう』が招待してくれたんだ、無碍にする訳にはいかない」
上条「なに?どういう事?」
シャットアウラ「世界最小の独立国にして、信徒20億を超える宗教の本拠地――」
シャットアウラ「――パチカン市国が歓迎してくれるんだそうだ、良かったな?」
845 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:51:51.76 ID:KJWQPZFU0(13/24)
――バチカン市国 カンドルフォ城
鳴護「意外と、って言ったら失礼かも知れないけど、質素、かな?」
レッサー「ここ、カンドルフォ城は教皇の別荘ですからねぇ。対外用の文化財バチカン美術館で公開していますし」
レッサー「各国関係者と秘密裏に会談する時なんかに使われている――と、囁かれてます」
ベイロープ「公私で言ったら間違いなく”私”だし、飾ってお披露目するような場所じゃないの」
鳴護「へー……」
フロリス「つーか思ってたよりも、狭い?つーかちっこい?」
鳴護「えっとケータイ――は、ないんだっけ」
レッサー「『電子機器は信じられない』との理由から没収なんてねぇ?」
鳴護「だよねー」
レッサー「学園都市がビッグデータの収集と称して、各種盗聴やってない訳ないですもんねっ!」
鳴護「え!?信じられ方が思ってたのと違うっ!?」
ランシス「……補足すると、東京デスティニーランドよりも狭い……ふひっ」
鳴護「なるほどー……なるほ、ど?」
レッサー「テーマパークと比べるのは、ある意味正しいっちゃ正しい気もしますがね」
フロリス「そんな所に余所者が踏み込んで良いのか、ってのはランシスのプルプルしてる所からお察しだと」
ランシス「……う、うんっ……敵対的な、ものはない……あふ……」
鳴護「……平気?辛くない?」
ランシス「ちょっと、弱い……気を遣って貰うなくていいのに……ひひひっ」
ベイロープ「余計な事を言うな恥女その二」
レッサー「まるでその言い方だとイチが居そうな感じですよねっ!」
ベイロープ「自覚があるんだったら黙ってろイチ」
鳴護「お姉ちゃん達が入れなくって、レッサーちゃん達が居られるのは、なんか、なんかこう納得行かないんだ、うん」
フロリス「あー、そりゃ所属する側の違いじゃないかね。そっちとこっち」
ベイロープ「ローマ正教は魔術サイド、特に十字教関係では最硬最強よ。他の魔術師にとっても鬼門」
レッサー「変な素振りでも見せたら、即座に瞬殺されるでしょうなぁ」
ランシス「けど科学サイドにはこっちの常識が――あぅんっ――通用しな、ぁぁくっ!」
鳴護「無理しなくていいからっ!?色々とお見せできない顔になってる!」
レッサー「科学サイドの仕掛けがあったとして、見破るのは困難です」
846 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:53:40.81 ID:KJWQPZFU0(14/24)
レッサー「それに比べれば得体の知れない私達であっても、同じサイドに居る限り、楽に対処出来ると踏んだんでしょう」
鳴護「てかイタリアから特に何もなく入れちゃうし、ちょっと意外」
ベイロープ「文字通り『教皇級』の術式がガンガンかかってるのと、あと警備的な問題かしらね」
フロリス「ショーギにアナグマって戦術あったジャン?キングをガッチガチに固めるの」
鳴護「名前ぐらいは聞きますけど」
レッサー「外から誰も入って来られないようにしちゃうと、反対に外へも出られなくなるんですよ。いざという時に身動きが取れない」
レッサー「それに、ホラッ!Love&Peaceの精神で武装放棄じゃないですかねっ!」
ランシス「(……んっ本当の、所は?)」
ベイロープ「(シハーディストを”騙る”テロリスト達が、ここをターゲットにしない訳がないわよね)」
フロリス「(それでも一切テロ情報が出ないってコトは、つまり?)」
ベイロープ「(『存在しなかった』のであれば、問題にならないわ。そゆコト)」
レッサー「(楽には死ねないでしょうが、まぁ無辜の一般人巻き込もうとしてんだから当然です)」
レッサー「(……むぅ、それとも逆ですかね?)」
レッサー「(わざと一般人にも開放しておいて、何かあったら確実に巻き込まれるようにしておく)」
レッサー「(そうすりゃ反撃する際に宗派を超えて世論も味方に出来る、と)」
フロリス「(よっ、レッサー腹黒紳士っ!)」
レッサー「(いやぁ、それ程でも)」
鳴護「そっかぁ、みんなが仲良く出来るのは良い事だもんねっ」
レッサー「その笑顔がっ!悪意の欠片もない笑顔が私の良心を……ッ!!!」
フロリス「諦めろ。ヨゴレとアイドル比べる方がどうかしてるぜ」
レッサー「アリサさんをヨゴレだなんて酷い言いぐさなんですかっ!?」
ベイロープ「座ってろリアクション芸人枠」
鳴護「……私もね、アイドル板で『最近仕事がふなっし○とカブってる』って意見が……」
レッサー「すんませんっマジですいませんでしたっ!」
鳴護「ふなっ○ーには会いたいよ!会いたいけどキャラ被るし!」
ランシス「これが、天然」
レッサー「……なんでしょうねぇ、こう。ブロンズとゴールドの格を見せつけられてる気が……」
フロリス「天然の宝石とメッキはまた別だよねぇ」
レッサー「アリサさんをメッキだなんて酷い言いぐさなんですかっ!?」
ランシス「ループ禁止……」
鳴護「んー……レッサーちゃん、ちょっと良いかな?単刀直入に聞くけど」
レッサー「はいな?なんでしょうか?」
鳴護「っと、その前に当麻君はまだ帰って来てないよね?」
ベイロープ「トイレにしちゃ長いけど、ここなら敵襲はない筈よ。敵襲”は”」
フロリス「女の子を連れてくるに10ユーロ」
ランシス「乗った……おっさん引っかけてくる」
鳴護「……信頼されてるよねぇ、色んな意味で」
レッサー「あ、じゃ私は男の娘で一口――で、なんですかね?」
鳴護「もしかして――当麻君に、告白、した?」
レッサー「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
鳴護「あ、むせた」
847 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:55:56.31 ID:KJWQPZFU0(15/24)
レッサー「い、イヤイヤイヤイヤイヤっ!?待ちましょうか、えぇっ待ちましょうとも!」
レッサー「てか何ですかっ突然藪から棒にっ!『bat in the bush』って話ですよねっ分かりますっ!」
鳴護「言葉の意味はよく分からないけど、混乱しまくってるのは分かるよ」
レッサー「つーかどんな思考をしてたらそーゆー結論になるんですかっ!」
鳴護「そういうって、うーん……最初っから、かな?」
レッサー「言いがかりは止めて貰いましょうかっ!出るトコ出ますよっランシスと違ってね!」
ランシス「おい、さりげなく私をネタにするのは止めて貰おうじゃないか?あ?」
鳴護「――って感じに、レッサーちゃん照れるとボケて誤魔化そうとするもんね?」
レッサー「違っ――」
鳴護「他にも、ユーロトンネルの中で柴崎さんへ”クルマ”を出すように迫ってた時、必死だったじゃない?」
鳴護「ベイロープさんがとっても大事なのは分かったんだけど、”魔術結社”のレッサーちゃんだったら……そうだなー?」
鳴護「まず実力を見せてから相手が断れないようにして話を運ぶ――どう、かな?間違ってる?」
ベイロープ「正解」
レッサー「黙ってなさいなハイロゥンドゥ!」
フロリス「珍しっ!レッサーがツッコミへ回った」
レッサー「あーたも黙っててプリーズ!こいつぁ私の沽券に関わる問題ですからっ」
レッサー「てか、それはアリサさんの勘違いってもんでしょう。あの場面、私達としちゃ『学園都市』との距離を保ったまま」
レッサー「その上で『利用してやる』ためにゃですね、こう必要最低限の礼儀を示しておくのが良し」
レッサー「他は存じませんが、私は少なくともブリテンの国益のためだけに――」
鳴護「あー、ダメダメ。そんなんじゃ誤魔化されないよ。だって見てるもんね?」
レッサー「見てる、ですか?」
鳴護「うん。自分じゃ分からないかな?もしかして無意気かも知れないけど、こう、じぃっと当麻君を見てるなぁって」
レッサー「……そりゃま、見る、ってか見ますよね?別にそれは――」
鳴護「はっきり言った方がいい?」
レッサー「えっと……仰る意味が分かりかね――」
鳴護「例えば!当麻君が誰かと話している時だよっ!」
鳴護「『いい加減こっち向いてくれないかなー?』みたいな感じだよね?」
レッサー「そ、それはっ!」
鳴護「他にも、そうだねー……あ、中々こっちを見てくれないと、ボケて気を引こうとするよね?」
鳴護「構ってくれないと『鎌ってよ、ねぇねぇっ!』みたいな感じで、気を引こうとした――」
レッサー「にゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?にゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
鳴護「はい、まず一人と」
フロリス「床ゴロゴロしてるレッサー初めて――じゃないけど、見た……」
鳴護「んーと、ね。フロリスさんもだよね?」
フロリス「――え、ワタシ!?てーかこっちまでとばっちりが!」
848 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 12:58:24.96 ID:KJWQPZFU0(16/24)
鳴護「なんだろう、フロリスさんは見るとかじゃなくって、何気なくタッチする感じかな?」
鳴護「仲の良い女友達みたいに――やろうとして、時々恥ずかしくって固まったりしてるんもんね?」
フロリス「ベイロープっ!?ここは危険だっ!」
ベイロープ「こっち来んな!これ、どう考えても私まで撃たれる展開なのだわ!?」
ベイロープ「――って、待って。私は別に二人と違って何か特別な事はしてないわよ、これと言ってね」
ベイロープ「っていうか呼び方にしても、それは術式の副作用であって、私の意図した所は大分違う結果に――」
鳴護「あ、ベイロープさんは当麻君の半径2m、きっかり距離取ってますよね?」
ベイロープ「」
鳴護「今もお手洗いについて行こうか、散々迷ってましたよねー」
ベイロープ「……ッ!」
鳴護「で、最後は」
ランシス「……待って欲しい」
鳴護「ランシスちゃん?」
ベイロープ「が、頑張るのだわランシスっ!よくシチュが分からないけど、ランシスまでアレだったら『新たなる光』全滅よ!」
フロリス「……いやぁ、ランシスの場合前科が……」
ランシス「むしろ私は積極的にベッドへ潜り込んでいる……ッ!」
鳴護「うん、知ってた」
ベイロープ「おい、今度は嫁ごと叩き斬るのだわ」
フロリス「なんでこんなのに不覚を……ウン」
鳴護「てゆーか、あたしの所にも結構な頻度で誤爆してるもんね?」
ランシス「……アリサの体温、丁度良い……」
鳴護「……うん、嬉しいのは嬉しいんだけどさ。精神衛生上ね?可能性としては限りなくゼロっていうか、マイナスに突入してるのは分かるんだけど」
鳴護「それでも最初に『あれっ!?』ってするのは仕方がない訳だし」
レッサー「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
鳴護「あ、復活した」
レッサー「待って下さいなアリサさん!ってうか@-RISAさん!」
鳴護「芸名関係あるかな?プライベートの話しかしてないよね?」
鳴護「てか何か売れないネットアイドルみたいな響きが……気のせい?」
レッサー「そこまで言い切れるのはおかしかありませんかねっ!?どんだけ観察眼持ってんだっつー話です、えぇっ!」
レッサー「仮に100歩譲ってあなたが正しいとしても、どうやってそこまで知ったと言いましょうかっ!」
ベイロープ「勝手に肯定すんなっつーよ」
鳴護「え?見れば分かるよ。だってみんな同じ眼をしてるもん」
フロリス「みんな、って」
鳴護「あたしと同じように、同じ人を見てれば――」
鳴護「――嫌でも、分かっちゃうから」
849 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 13:00:29.98 ID:KJWQPZFU0(17/24)
――カンドルフォ城
上条「……」
上条(……荘厳な宮殿、そして珍しくぼっちな俺……まぁ、結論から言おう。いや、言わざるを得ない!)
上条「……迷ったー……」
上条(いや違うんだよ?これはね、俺がドジっ子属性的なものを得たんじゃなくてだ)
上条(待つように言われた部屋から出て、近くに居た衛兵さんにトイレどこ?って聞いたんだ。身振り手振りで)
上条(通じたかどうか心配だったんだが、衛兵さんが着いて来いみたいなジェスチャーをしたんで、後を追っていけば)
上条(ちょっと入り込んだ所にありましたよトイレ!やったねっ!)
上条「……」
上条(……ここまでは良かったんだよ、ここまではな)
上条(別に紙がなかったとか痴漢に間違われたとか、そういう在り来たりの話じゃねぇ……言ってて悲しいが、違う)
上条(トイレから出た俺を襲った現実とは……!)
上条「……衛兵さん、どこ行った……?」
上条(案内してくれたのは有り難いけどなっ!昔らか言うじゃんかっ生き物の世話は最後まで見ましょうって!)
上条(このだだっ広い宮殿に!俺のアパート全部よりも広いであろう所から、前の部屋を探せって?無茶ブリ過ぎる!)
上条(アレでしょ?どうせ「適当に部屋を開ければ!」とかドアを開けたら、着替え中のヴェントさんとか居るんでしょ?)
上条(普段のデーハーな化粧じゃなくってすっぴんで!清楚な下着がDカップなんだろ!)
上条(この鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!もう騙されないぞ!トラップがあるなんて読んでるし!)
上条(分かってるよ!俺はもうその手の話にウンザリしてんだっザマーミロっ!!!)
上条「……」
上条(……良し、落ち着け俺。冷静になって考えようぜ?)
上条(現実的にこの状況を打開出来る方法……ググって答えが――あ、携帯取り上げられてんだった。学園都市製だからって)
上条(シャットアウラと柴崎さんも同じ理由で入国不可……まぁ仕方がない、のか?)
上条(えぇっと、迷子になった時、山で遭難した時には……そうそう!その場を動くな!鉄則ですよねっ!)
上条「……」
上条(……建物の中で迷ったとか格好悪すぎる……!)
上条(つーかな、つーかさ?ただでさえなんかおかしいんだよ、最近)
上条(視界の隅で「え?視線を感じる?」と思ったら、レッサー達と目が合ったり)
上条(自意識過剰なんだろうが、なーんか、こう……うん?)
上条(インデックスや御坂達と遊んでるようなテンションになるっつーの?不安定でイライラ――はっ!?)
上条(……俺、嫌われてる、のか……ッ!?)
上条「……」
850 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 13:02:47.16 ID:KJWQPZFU0(18/24)
上条(……良し!落ち着いた!クールに行こうぜ!よぉく考えろ!)
上条(俺、別に嫌われるような事なんかしてないし!理由がなっきゃ――)
上条「……まさか」
上条(ラッキースケベ起こしているじゃねかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?割と頻繁に!)
上条(つい最近も着替え中のベイロープ見ちまったり!フロリスの肩叩いたら「きゃっ!?」って悲鳴上げられるし!)
上条(ランシスに至ってはがベッド寝惚けて潜り込んできたり!レッサーなんか――)
上条「……?」
上条(そういやレッサーは、ない、よな……?旅が始まってからずっと、そういうのは別に)
上条(ロシアでパンツ見せられそうになった以外には、これっつって特に……ない、ような?)
上条「……はぁ」
上条(……振り返ってみれば事故とはいえセクハラだもんなー……反省しないと)
上条(――ま、いいや。どっちみち今考えても仕方がねーし。今はどうやって部屋へ帰るか――)
汚れた服の女の子「……」
上条「……ん?」
上条(あ、この子に道を聞けば良いか――言葉が通じれば、だけど)
上条(服からして現地の子っぽい……英語、通じるかな……?)
上条(だがしかし!俺には土御門という親友(トモ)が居るっ!)
上条(メールで「困った時には取り敢えずこう言っとけばいいにゃー」と教えて貰った……!)
上条「……」
上条(……あれ?でもユーロトンネルの中だと不発に終ったんじゃ……?)
上条(――まぁいい!今は土御門を信じよう!)
上条(確か道に迷った時にはこう聞けば――!)
上条「『Could you please show the road? ――The road where my life acquaints oneself with you as one! 』」
女の子『――!?』
老人「――直訳すると『道を教えて下さい――あなたと僕の人生が一つに交わる道を』」
老人「更に意訳するのであれば『結婚して下さい』を、やや遠回しに述べているのであり、あまり幼子に対して使うべき台詞ではないな」
上条「やっぱりかチクショーっ!?分かってた!何となく分かってたよ!」
851 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 13:05:09.96 ID:KJWQPZFU0(19/24)
老人「当人同士が良ければ文句も言いがたいが、とはいえ最近出来た年若い友人を失うのは辛い」
老人「出来れば双方共に成人してからが筋というものだろう」
上条「や、あの。ネタにマジレスされるとそれはそれで辛いっていうか……」
女の子『――?』
老人『――, ――』
上条(――と、日本語で話しかけて来たおじさん――というよりか、おじいさん?は女の子と二・三語話し、向こうへ行かせる)
上条(日本語使うって事は探しに来てくれた人か……良かった……心の底から良かった……!)
老人「トーマ=カミジョー、で合っているか?」
上条「あ、はい。俺です」
上条(……てか、なんだ?この人からの威圧感が)
上条(魔術じゃないし、能力でもなく。オーラ?人望?みたいなのがヒシヒシと)
老人「ヴェントが言っていた――女が側に居るから直ぐ分かる、と」
上条「……間違っちゃいないけど、納得行きませんね、それ」
老人「畏まらなくても結構だ。今の私はただの人に過ぎない――さて、では行こうか」
上条「はい――分かった」
852 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 13:06:39.67 ID:KJWQPZFU0(20/24)
――カンドルフォ城 会議の間
老人「遅れて済まなかった。少々道が混雑していてな」
上条「いやぁ、どーも」
ランシス「……私の勝ちー」
フロリス「ちっ」
レッサー「て、また大物が来やがりましたか」
老人「ようこそバチカンへ。非公式ながら出来るだけの歓迎はしよう」
鳴護「ありがとうございます。鳴護アリサです」
老人「知っている。昨年の祈年祭でのアヴェ・マリアは素晴らしかったよ」
鳴護「あ、おじーちゃんもファンなんだ?ありがとー!」
フロリス「アリサアリサー、顔顔ー」
鳴護「なんかついてる?」
ランシス「じゃなくって……その人の顔、見た事なーい?」
老人「……」
鳴護「んー……あっ!分かった!」
ベイロープ「そうそう」
鳴護「スターウォー○でシ○の暗黒卿やってたイアン=マクダーミ○さん!」
ベイロープ「……ねぇ、そろそろアリサもシバいていいかしら?この子の将来考えると、誰かがコラってしてやった方がいいと思うの」
上条「マジで!?サイン下さいっ!」
レッサー「やっちゃって下さいな……天然モノはタチが悪い!」
老人「似ていると言われるが、私ではない。私はマタイ=リース、前教皇と言えば分かるかね?」
鳴護「マタイさん?」
上条「あー……ローマ正教の一番偉い人」
マタイ(老人)「だった、が正しい。今の私は一人の信徒に過ぎない」
フロリス「って割には、あちこちで『教皇級』の魔術師が動員されてる、って話を聞くんだケド?」
マタイ「人違いではないのか?似ていると言っても、それこそマクダー○ド氏が魔術師である可能性も捨てきれまい」
レッサー「意外に狸ですか。『右席』に振り回されていたイメージが強かったんですがね」
マタイ「耳が痛い言葉だが、その通りだと言えよう」
レッサー「っていうかさっきからお茶の一つも出ませんし!ローマ正教は礼儀がなってないんでしょうかねっ!」
マタイ「……運ばせよう。誰か!」
上条「なぁ、俺達以前の問題として、あそこのバカを何とか教育し直す方が優先順位高くね?」
フロリス「出来ると思うかい?ウン?」
上条「そう返されると『ごめんなさい』以外の言葉が出て来ない……!」
レッサー「人を残念な子扱いは止めて貰いましょーか!」
鳴護「今のやりとりがあったにも関わらず、全力で否定出来るレッサーちゃん、メンタル強すぎるよね?」
ランシス「一応リーダー()だし……って、魔術、切っちゃった……」
853 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 13:09:19.23 ID:KJWQPZFU0(21/24)
マタイ「君たちを護るのには必要は無いだろう、『新たなる光』」
レッサー「おっ?私達も有名になったもんで――」
マタイ「――未だ、その円卓は埋まらぬままであろうが、な」
レッサー「……訂正します。狸どころか蛇が出て来たようで」
マタイ「蛇は止めて貰えると心易い。『最初の二人』を堕落し給もうたのは誘惑があったが故に」
フロリス「蛇ねぇ?『だったら最初から創らなきゃ良かった』とか、考えないのかなー?んー?」
マタイ「いと高きあの御方の御心を察するのは不遜にして不敬。代理人に過ぎない我らに出来るのは御言葉を伝えるのみ」
上条「えぇっと……何?何かピリピリしてる?」
ベイロープ「気にしなくて良いわよ。ただの水掛け論みたいなものだから」
ベイロープ「……ただちょっと、二千年ぐらい続けてるってだけで」
鳴護「そ、それよりもっ今日はお招きありがとうございましたっ!」
マタイ「礼は有り難く受けるが、こちらにも考えあっての事。気にする必要はない」
レッサー「(てーかアレですね。『右席』の件で後手後手に回った印象しかありませんでしたが、間違いしたか)」
フロリス「(だ、ねー。多分じーちゃんが居たから『あの程度』で済んだんであって)」
ランシス「(あのレベルの魔術が居たら……完全に乗っ取られている……筈)」
ベイロープ「(何にせよ、礼儀を尽くしなさい。礼儀を)」
レッサー「(礼儀をさせたら私の左に出るものは居ませんよっ!お任せをファッキンっ!)」
ベイロープ「(だから!あなたのおぉっ!そーゆートコがああぁぁぁぁぁぁっ!)」
レッサー「(うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!?)」
鳴護「や、あの完全に聞こえちゃっているっていうかね、うん?もう少し内緒話もっていうか」
マタイ「構わんさ。失敗するのも若さの特権だ」
マタイ「他に何もなければ続きを話したいと思うのだが――ある、ようだな」
上条「……あー、まぁあるような?つか腑に落ちないって言うか」
レッサー「まぁまぁ上条さん、お気持ちは分かりますがね」
上条「レッサー」
レッサー「はい、あなたの恋人レッサーちゃんですよ」
上条「なった憶えはねぇがな!」
レッサー「――上条さんにも上条さんの『正義』があります。そりゃ当然の話ですがね」
レッサー「あちらさんにも『正義』ってのはあります。そうでしょう?」
マタイ「正しいかどうかは私達が判断する事ではなく、『信念』は確固としてあるつもりだ」
レッサー「一時は殺してまでどうこうしようとしていたのは確か、ま−、上条さんのこったからどーせ女か女か女のために怒ってんでしょうが」
上条「待て。間違ってはねぇがその表現だと女たらしみたいに聞こえる!」
レッサー「え?」
ベイロープ「あー……」
フロリス「あん?」
ランシス「……う、ん?」
鳴護「えーっと、うーんっと……」
上条「本気で待とう?君らと俺とで深刻な認識の齟齬が起きているからねっ!?」
レッサー「ま、そこら辺は横に置くとして――少なくとも一年ぐらい前までは、本気でやり合ってた仲がこうして同じテーブルに着いています」
854 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 13:11:06.52 ID:KJWQPZFU0(22/24)
レッサー「過去を水に流せ、とは言いませんが、話し合いの余地は充分にある筈。違いますか?」
上条「……どうしよう、予想以上に正論が来やがった……!」
レッサー「失敬な!私はいつも良い事しか言いませんて!」
上条「自覚しとけ恥女」
レッサー「……」
上条「……あ、ごめん。わざわざ説教してくれたのに、なんか」
レッサー「……その、ですね。聞いてくれます?あまり関係はないかも知れないんですが、良い機会ですから」
上条「ん、あぁ聞くよ。折角だし」
レッサー「『ユカタン半島』ってひらがなで書くと何か萌えません?」
上条「本当に関係ねぇなっ!?てか今その話題を振る必要があるんかいっ!」
レッサー「『ゆかたんはントウ』」
上条「あ、ゆかたんがントゥッてしてるような感じに……?」
レッサー「私のイメージとしては野生のゆかたんが多数生息している事から、この名がつけられたと思うんですよねぇ」
上条「謝れ!日本全国のゆかたんに謝って!」
レッサー「ちなみに『ゆかたん』の名前の由来として、現地人の『お前が何を言っているのか分からない』が元になったという説が」
上条「その台詞日常生活ではあんま使――うなぁ、最近は特に」
レッサー「『ゆかたん』?」
上条「オイ、こっち見ろ!テメーやっぱ適当な事ばっ――」
レッサー「いやいやマジ――」
鳴護「あー、やっぱりツッコミが居るとボケが生き生きしてるよねぇ」
ベイロープ「ちなみに語源云々は説の一つにそういうのがあるのは本当」
フロリス「確かにまぁ謎地名だよねー」
ランシス「響きは可愛い」
マタイ「……済まないな。気を遣って貰って」
ベイロープ「あぁ気にしないで。私達も喧嘩を売りに来たんじゃなく、ゲストの付き添いだから」
マタイ「それでも、だ。君たちの口から平和を説かれるとは、世も変わったな」
フロリス「まーね。面倒なのは面倒だから嫌いだしぃ?ワタシらも出来れば表舞台に出たくもないし」
マタイ「そう願いたいものだ。出来れば『アレ』も穏便に返還して欲しい所だが」
ランシス「ベイロープ……?」
ベイロープ「『アレ』を最後に触ったのは私だけど、制御出来なくてどこかへ消えたのよ」
855 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/09/29(月) 13:12:59.51 ID:KJWQPZFU0(23/24)
ベイロープ「『影』として術式に取り込みはしたものの、オリジナルにはとてもとても」
マタイ「ではウェールズにまだ?」
フロリス「あー、行方不明。手に入るんだったらとっくに回収してるっつーの」
ランシス「それ以前に『こっち』にあるんだったら、周囲に影響を与えない訳が……」
マタイ「と、すれば誰か強力な魔術師か魔神が持っているのか……ふむ」
ベイロープ「もしくはローマ正教辺りが秘密裏に回収した後、知らないと言い張ってるって線もあるかしらね?」
マタイ「……違いない。よくある話だ」
マタイ「閉じた蕾みの中に隠れているのは、あながち蓮の華とは限らないだろうしな」
ランシス「……あ、レッサー?」
レッサー「っていうか何ですかっ!何なんですかっ!?ローマ正教はお客様にヌルい茶を飲ませるんですかねっ!」
上条「一分前に言った事を思い出しやがれ!つーか自分の言動には責任を持てよ!」
マタイ「……やはり猪は変わらじ、か」
ランシス「それもまた……良し!」
フロリス「ランシスは少しだけで良いから反省しようぜ、な?」
856 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/29(月) 13:15:17.92 ID:KJWQPZFU0(24/24)
今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
尚、作中に登場した「ウサギのミートソース」はネタではありません。残念ながら、えぇ。本当に残念ですけど
知人が留学中に食べて(´・ω・`)になった上、つい数ヶ月前にも海外の番組でやってました
(ゴム手はともかく、実在する郷土料理なんだそうです)
……他にもねー、ウナギのゼリー煮(煮こごり)ってトラウマ量産機がだね
俺はギュンター=グラスの「ブリキの太鼓」読んでて、事前情報としては知ってた。ウナギの捕り方から
しかも何がアレかって、出す方は『100%善意』だからタチ悪ぃんだ……うん
あれ食うんだったら、殺せんせーの煮こごりの方がまだ美味そう
857 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/29(月) 14:28:26.51 ID:QERAPs9Ro(1)
乙です
858 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/29(月) 17:32:33.26 ID:W7p/h5UDO携(1)
乙!!です
ウサギのミートソースで気になったんですが…
塩、胡椒は使わないんですか?
ホントにそのまんま?
859 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/09/29(月) 20:04:48.43 ID:A7N+Enej0(1)
前教皇の正体がシオンではなくダー○=シディ○スであった、とは……!
もう「Order 66」かましちゃって、I have a bad feeling about thisですねっ
860 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/09/29(月) 20:20:03.73 ID:PHfc/a+zO携(1)
乙です
なぜ肉をプロセッサーにかけるんだよ‥
861 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/07(火) 12:22:46.65 ID:Iye/cFlo0(1/22)
>>858
知人がお見舞いされたのは汁を捨ててからプロセッサーにぶち込むのと一緒に、
テレビで見たのは下味の時点で一応塩を振っていました
またイギリス料理の「さしすせそ」(基本調味料)、使用頻度の高い順に、
塩・胡椒・ハーブ・酢が殆ど。プラスしてカレー粉とマーマイトが同じぐらい。北へ行くと魚醤が出る場合も
>>859
詳しくは今日投下分ですが、色々と曰く付きの方だったんですよ
パルパティーン最高議長殿は「教理の番犬」と呼ばれたぐらいに超保守の方だったのですが、
その方自ら生前退位(600年ぶり)と名誉教皇(前例無し)ってのをやったぐらい、多分某かの事情はあったかと
>>860
「最終的にグチャグチャになるんだからいいですよねっ!」というアレ過ぎる合理主義の成せる技でしょう
何せ料理番組でゴム手を使う料理人が大人気になれる国ですから
他にも……あぁその調理人、アイスケーキを作る際、中にナッツ的な物を入れるよ!と言い出すんです
で、取り出したのが某チョコバー(海外で人気のヤツ)。あぁスリコギかなんかで潰すんかな、と思ったら
パッケージを剥かずにガンガン叩き潰し、「ほーらこうすれば別の容器も汚さずに粉々さ!」ですから
一応料理も趣味にしてる人間から言わせて貰いますと、総じて『雑』だなという部分がチラホラあります
例えば日本料理で出汁を取る際には、沸騰したお水へ鰹節を入れて『火を止め』ます
これは一番出汁と呼ばれ、香りが良いが旨味成分はやや抑えめです(肉の臭みを取り、素材の味を邪魔しない)
で、一番出汁を取った後の鰹節を水へ入れ、そのまま煮沸させて取る出汁を二番出汁と言います
香りは少ないのですが旨味が強い出汁となります(香りが不快でない素材と組み合わせて使う)
が、イギリス料理で使われ始めている鰹節は『大火力で煮ればオッケーさHAHAHA!』だ、そうです
……いやだから、料理のあら熱取ったり、煮立ったら火力を絞るのには理由があるんですよ
私は魚の臭みを取るために、塩振ったり湯引きしたり、キッチンペーパーで拭いたりするんですが、
イギリス料理は「結果同じなんだから必要無いだろ!」的な考えが多い
(勿論魚の脂がダイレクトに入るから料理全体が生臭い――か、ハーブの匂いしかしないの二択)
なんつーか、地図見りゃ分かると思いますけど、イギリス思いっきり島国ですからね?
だっつーのに下拵えとか面倒臭いからしなかったお陰で、フィッシュ&チップスか、ウナギゼリーぐらいしか名物料理がない時点でアレ過ぎる
862 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:26:08.09 ID:Iye/cFlo0(2/22)
――カンドルフォ城 会議の間
レッサー「で、本題なんですけど、ユカタン半島を早口で言うと、『ゆかたんはトゥッ!』って聞こえません?」
上条「終ってるよね?そのネタそのものも前ので終ってるし、それ以上膨らませる事も出来ないよね?」
レッサー「『ユカタン』?」
上条「Pardon?みたいな言い方すんな」
レッサー「現地の人が『お前が何を言ってるのか分からない』って言ってる時点で、もうガイドとしては致命的だと思うんですが」
上条「ゆかたん――ユカタン半島の話はここまでだ!ネタで巻き込むのは身内だけにしときなさい!」
レッサー「イエッサー!」
マタイ「……いいかね、そろそろ時間が惜しくなってきたんだが」
上条「はいっすいまっせん!どうぞ!」
レッサー「おっと上条さん、そんなヤローに気ぃ遣う必要はないですよ」
レッサー「『Congregation for the Doctrine of the Faith(教理省)』出身の魔術師なんですからねっ!」
上条「あ、すいませんねー?今ちょっとベイロープさーん、手ぇ貸して貰えるとー」
レッサー「待ちましょうか!?その女は洒落にならないのでおフザケはここまでにしますから!」
ベイロープ「あー……うん、本当よ。その人が教理省長官に長年就いてたってのはね」
鳴護「教理……?」
フロリス「直訳すると『信頼の教義のための会衆』――んが!古くは『検邪聖省』って呼ばれてた部署」
上条「例えばどんな仕事?」
ランシス「……昔々、異端審問会をやっちゃってたトコ。アレ過ぎて聖務聖省とか、何度か改名してる」
上条「あー……うん、何か分かっちゃったかも。てか積極的には聞きたくない!」
ベイロープ「そこの”長官”職を24年、非公式に籍を置いてた頃から換算すると……まぁ半世紀近く?」
ベイロープ「そしてまた前々教皇が崩御した時には、枢機卿主席っていう実質上のナンバーツーに居た人物」
レッサー「思いっきりぶっちゃけちゃいますと、『必要悪の教会』のヒラ魔術師が、半世紀以上戦い続けたら教皇になった、でしょうか」
上条「コメントし難いよ!何か色々とガチだって事は理解出来るけどさっ!」
上条「てかどう見ても『そっち系』の空気がすると思ったら、ネタじゃなくってマジだってのが!」
ベイロープ「最前線で半世紀戦い続けてきたのは、裏を返せば『それだけの実力を兼ね備えていた』のと同義」
ベイロープ「歴代でも屈指の魔術師なのは間違いないわ」
鳴護「へー、それじゃインデックスちゃんと同じなんですねー?」
マタイ「彼女と関係があるかないかで言えば、ある。ただほんの数日顔を合わせてただけではあるが」
マタイ「バチカンに眠る『禁書』の書庫を開放した時に少しだけ、な」
上条「あ、じゃインデックスの知り合いなんだ?」
マタイ「向こうは憶えてないだろうが、否定はしたくはないよ」
レッサー「(ありゃ?思っていたよりか良心的?)」
フロリス「(ジーサンと孫ってポジじゃないかにゃー?フィアンマにドツかれて耄碌してんだろーすぃ?)」
ランシス「(……いやでも、魔力尋常じゃない……)」
863 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:28:23.49 ID:Iye/cFlo0(3/22)
マタイ「少しだけ歴史の話になるが、正史に残る『禁書目録』は私の所属していた教理省――当時『異端審問会』であった検邪聖省が編纂したものだ」
上条「……なに?って事はアレか!?お前達が――」
マタイ「編纂した、と言ったな。1557年のローマで我々は『非道徳な書物』をまとめ、リストを作った」
マタイ「興味があるなら美術館へ行ってみるといい。第1版から32版まで揃っているから」
上条「……ごめん」
マタイ「――まぁ、本物が飾ってあるとは限らないし、『正史』に事実そのままを書くのもまた別の話だが」
上条「俺の謝罪を返せコノヤロー」
ベイロープ「あの、ちょっといいかしら?」
マタイ「差し障りのない事であれば」
ベイロープ「これは純粋な興味なのだけど、本当に今代の禁書目録はローマ正教の秘術全てを記憶してるの?」
ベイロープ「ブリテンとフランス、てか第三次世界大戦でのイギリス清教とローマ正教の代理戦争を見るに」
ベイロープ「そんな切り札があるんだったら、もっとワンサイドゲームになっててもおかしくないわよね?」
フロリス「だーよねぇ。フランスがヘタレなきゃ良いカンジに拮抗はしてたし」
マタイ「その問いへ対する答えは三つ。事実が二つに推測が一つ」
マタイ「一つ。その当時は 『切り札』である禁書目録が機能不全を引き起こしていた」
マタイ「豊富な知識があっても提供する相手が居なければ意味は無い」
マタイ「二つ。『相手の術式』を理解し、また『対処方法』を知ったとしても実行に移せるとは限らない」
マタイ「例えば……俗な言い方をすれば、『ストライクゾーンへ入ってくるボールを棒きれで場外まで飛ばす』事が3割出来れば億万長者」
マタイ「理屈では簡単だが実行へ移せるかは難しい」
上条「……本当に俗だな……」
マタイ「そして三つ。今代の禁書目録へ対し、我々ローマ正教が知識を出し惜しみした事は無い。誓って言おう」
レッサー「大きく出ましたね、これまた」
マタイ「だがしかし『禁書目録』に収められているものは、当然『禁書』の類だ」
マタイ「『あからさまな嘘』や”と、判断されたもの”である『偽書』は対象外」
マタイ「偽書ならば――読むに値しない偽物であれば、彼女へ記憶させる意味は無いだろう?」
上条「(……なぁ、レッサーさん?)」
レッサー「(あいあい)」
上条「(なーんか、こう予想以上に圧倒されるっつーか、スゲェよな?この人?)」
レッサー「(えぇまぁ実はこの人、『選挙で選ばれた』って言われてるんですが……)」
上条「(コンクラーベだっけ?日本語の『根比べ』と語感似てて面白いよねってテレビで言ってた)」
レッサー「(……あくまでも噂ですけど、一度辞退してるらしいんですよ。選ばれたにも関わらず)」
上条「(どうしてまた?ローマ正教のトップ、なりたくなかったのか?)」
レッサー「(『教皇になったら戦えない』とか何とかで)」
上条「(あー……)」
864 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:29:59.89 ID:Iye/cFlo0(4/22)
レッサー「(でもその手腕を請われ渋々一線から引いた……って聞いたんですが、あながち根も葉もない噂ではないかもしれませんねぇ)」
レッサー「(伊達に極東のネット世界で『老魔法王』の二つ名は冠していませんぜ)」
上条「(暇人だけな?コラ職人だけとも言うが)」
レッサー「(ちなみにこっちでのあだ名は『教理の番犬』、つまり超保守派ですなー)」
上条「(つーかさ。フィアンマが裏切ってロシアに着いちまったじゃん、前の戦争)」
上条「(あれ別に、この人の下で『右席』全員がフツーに戦ってりゃ、イギリスか学園都市、どっちか陥落してるよな?)」
レッサー「(……有り得る話ですねぇ。ウィンザー朝辺りはぶっ飛んででもおかしかないかも知れません)」
レッサー「(……ま、そん時にゃ古い燭台へ新しい光を再び灯すだけの話――)」
レッサー「(――Rex Quondam Rexque Futurus)」
上条「(うん?英語にしちゃ響きが――)」
レッサー「(いんや何でも。でもそいつぁないと思いますよ)」
上条「(ま、仮定の話だけどさ)」
レッサー「(いえ、そうではなく。フィアンマの野郎、最初から最後まで『俺様の手による衆愚の救済!』だったじゃないですか?)」
上条「(あー……そうだなぁ)」
レッサー「(ンな精神破綻者が一時的にとは言え、自分の見下している人間の下へ着く筈が無いでしょう)」
レッサー「(力を持ったから歪んだのか、はたまた歪んだから力を得られたのか、ひっじょーに興味深い所ではありますがねぇ)」
レッサー「(妄想で整地した土台の上へ、理想って名前の家を建てようとする姿は、見てて痛々しいものでしたよ、はい)」
上条「……」
レッサー「(全く迷惑なテロリストがあっちにもこっちにも居ますよねっ!)」
上条「(お前もな?お前らもな?)」
上条「(つーか四人居て、先生?含めて五人も居たのに誰か止めような?)」
レッサー「(や、まぁ正直、ある種のテスト的な意味合いもあったんですがねぇ)」
上条「(テスト?)」
レッサー「(えぇまぁテスト。辛うじて及第点でしたが)」
マタイ「――内緒話も結構だが、いい加減次の説明へ移りたいのだがな」
上条「はいっ、すいませんでしたっ!」
レッサー「良い所で止めますよねぇ――ってか何かありましたっけ?」
マタイ「とは言っても業務連絡程度。イタリア滞在中の警備はこちらで引き受ける事ぐらいか」
上条「えっと……元教皇さんが……?」
マタイ「マタイでよい。今はただの隠居の身に過ぎない」
ベイロープ「一応補足しとくけど、魔術師の術式や霊装のカテゴリ分けには『教皇級』があるのよ」
865 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:32:19.34 ID:Iye/cFlo0(5/22)
ベイロープ「ニュアンスとしちゃ『聖人未満、ただし生身の魔術師が届く”かも”知れない最高峰』って意味よね」
上条「……うん?それじゃもしかして超強いの?このおじいさん」
フロリス「あくまでも一般論だケド、魔術師のピークはTeensからTwentiesだって説があるんだ」
フロリス「基本、『魔力の精製』に必要なポテンシャルが、一番充実してるだろう年頃」
フロリス「ま、それ以上になっても経験や知識でカバーするから、定説なんかじゃないんだケドねー?」
鳴護「えっと……フィギュアスケーターや体操選手が成長し切っちゃうと、手足が長くなりすぎて不安定になる、って話は聞いた事が?」
マタイ「方向性としてはそれで正しいよ。聖歌隊に声変わりする前の子供を揃えるのも似てない訳ではない」
ランシス「……普通、教皇になるのは良くても壮年の終り頃。老年がまぁ当たり前」
ランシス「ピークがとっくに終わっているのに、歴代教皇の活躍が凄すぎて『教皇級』なんて呼ばれるぐらいだから……お察し」
マタイ「持ち上げすぎだろう、それは」
レッサー「――っと言ってますがねぇ、実際の所ローマ、特にバチカンはあちこちに術式・霊装がベッタベタ設置してありまして」
レッサー「それら全てを自在に操れる『教皇級』さんが護りに徹したら、どれだけの人間が勝てるか怪しいもんです」
上条「珍しいな?『私達なら楽勝ですって!』ぐらいは言いそうなのに」
レッサー「そこまで自信過剰ではありませんよ。四人じゃ無理でしょうな」
マタイ「過大な評価は嫌味に繋がる。大昔にローマ皇帝ティベリウスを弑した英雄殿も居た筈だが?」
レッサー「やっだなぁもうっジジイになったってのに、現実とフイクションの区別がつかないなんてお若いんですからっ!」
上条「すいません、この子病気なんです」
レッサー「上条さんが裏切りをっ!?」
ランシス「……いいぞ、もっとやれ」
マタイ「よいよい。私の方が勘違いをしていたようだ」
マタイ「あれも確か『偽書』であり、『創作』に過ぎない。そうでなければいけないのだったな」
上条「うん?」
マタイ「……まぁ、彼女たちの物言いはやや誇張が混じるが、そう的外れでもない」
マタイ「ここは元よりローマ近郊で彼らが事を起こすのは不可能だよ。仮に何か起こったとしても、私達の名に誓って君たちを守ろう」
マタイ「慣れない長旅で疲れただろう?部屋は用意してあるから、ゆっくりと休むが良い」
鳴護「ありがとうございます――ってか、本当にこちらにお世話になっちゃっても良いんでしょうか?」
鳴護「完全な部外者ですし……さっきからメンチを切りまくってる子が」
レッサー「おっと、この調度品中々の一品ですねぇ、へー、流石は天下のローマ正教」
レッサー「で、一体どこから盗んだ物なんですかー?イスラム?アフリカ?それともアジア?」
レッサー「それはさておきジャン=バルジャンってご存じですか?私はあんま好きじゃないんですが」
上条「レッサーさん黙っててあげて!いい加減にしないと全員つまみ出されるんだから!」
ベイロープ「シメに銀の燭台を持ってくる辺り、嫌がらせの芸が細かいのだわ……」
866 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:34:14.78 ID:Iye/cFlo0(6/22)
マタイ「言い方は良くないが私達にも打算はある。だが、それ以上に今回の件に関しては業を煮やしている」
マタイ「ユーロトンネルで無辜の人間を手にかけ、フランスでも大勢を巻き込んだブラック・ロッジ……」
マタイ「イギリス清教との抗争のせいで低く見られがちだが、本来私達はそういった『正しくない』者へ道を説くのが信条でもある」
マタイ「……また、それでも手を出してくるのであれば、介入する大義名分が出来る訳だが」
フロリス「……こえー、教理省元長官こえー」
ランシス「……てかイタリアは魔女狩りだし、異端審問会がまさに、それ」
鳴護「ありがとうございます」
マタイ「当然の事をするまでだ」
上条「すんません。俺からもちょっといいですか?」
マタイ「ああ。畏まらなくていいと言った」
上条「マタイさん、魔術に詳しいんで――だ、よな?」
マタイ「人並みよりは、少々」
レッサー「過小評価してもローマ正教で屈指。十字教の知識量と技術で言えば20億人中最高レベル」
レッサー「前の大戦でもバチカンに居ながら『ベツレヘムの星』の機能を大きく削ぎ落としたってのに、何言ってんですかねこのジジイ」
ベイロープ「内容は概ね同意するけど、こじれるから黙んなさい」
上条「そういえば――フィアンマの『右手』が途中からボロボロになってったのも!」
マタイ「私だけではない。『我々』が一役買っただけの事」
上条「……それでも助かった――助かりました、ありがとう」
マタイ「……全てを水に流されるのも、それはそれで辛いのだがね……」
上条「何?」
マタイ「いや、何でもない。それより聞きたい事があったのではないか?」
上条「『濁音協会』について、てか術式とか霊装とかを教えて欲しいんだよ」
マタイ「イギリスには禁書目録が居るだろう?」
ベイロープ「それが今回の件にはほぼノータッチなのよ。『ネクロノミコン』が頭の中にあるからって」
マタイ「……成程。直接関わらないのが賢明ではある。とはいえ」
フロリス「失われた獣化魔術、存在しない筈のイレギュラーが敵に回ったり」
ランシス「……かと思えばマイナー過ぎる術式にハマるし」
ベイロープ「そもそもの旅の始まりが魔術サイドかどうかも怪しい謎生物よ。手に余りすぎるのだわ」
マタイ「興味深い話だ。役に立つかは分からないが、私の知識で良ければ相談に乗ろう――が」
マタイ「まずは部屋へ荷物を置いてきたらどうだ?その間に食事の準備でもさせよう」
867 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:37:39.43 ID:Iye/cFlo0(7/22)
――食事後
レッサー「じゃまずローマ正教の聖職者が全員童貞かって質問から始めましょうか」
ベイロープ「何が何でも嫌がらせしようって気迫は認めるけど、食事後にその話題は重すぎるわ!」
レッサー「って事は……今このテーブルに着いているのは全員未使――アタタタタッ!?」
ベイロープ「何を言おうとしたのかは分からないけど、それ以上言ったら酷いわよ?何を言おうとしたかは分からない、け・れ・どぉっ!」
レッサー「明らかに分かってるじゃないですか?!てか最年長だからってそんなに気に病む必要はないですからっ!」
ベイロープ「ちょっと失礼するわね?あ、気にしないで続けて続けて?」
レッサー「私に対しては失礼じゃないんですかね?具体的には今まさに私の頭をかち割ろうとしているアイアンクローとか!」
レッサー「い、いや私も実は反省してるんですよねっ?ノリだとはいえ『ベイロープ婚約者説』とか、『スール説』とか、色々流したのはねっ!」
レッサー「でもあれは男の運の悪い、っていうか明らかに男を見る目がないベイロープさんを守るためのものであって!」
レッサー「私達としては、こう、アレですよっ!大切な仲間を守るために的な話ですから!」
レッサー「ていうか今まさにタチの悪い男にしっかり捕まってる状況――」
レッサー「――だからもうちょっと!ほんの少しだけで良いから!優しさをHandに反映させてあげて下さいなっ!」
レッサー「じゃないと私の頭がザクロのよう――」
パタン……
レッサー『……アッ――――――――――――┌(┌^o^)┐―――――――――――――!? ……』
上条「えっと……うん」
鳴護「流れるような手際で、レッサーちゃんが連行されて行った……」
ランシス「悲鳴を上げる元気があるから、大丈夫……」
フロリス「そういう問題?」
マタイ「――一応弁解めいた事を言っておくが、1542年、ローマへ設置した異端審問所は各国の異端審問会の審議と監督」
マタイ「そして出版物の”審議”と禁書目録の作成。と、個人を断罪するものではなく、教会としての見解を出す役割であった」
上条「スルーするの?してのいいの?」
マタイ「当時最も有名なのが『ガリレオ・ガリレイ裁判』だが」
鳴護「あ、地動説を唱えたら怒られちゃった人」
マタイ「ローマ正教として認められないものは認められない、と認定する機関であり、直接を沙汰を下すような事はしていない、と弁明させて貰う」
上条「でもガリレイ処罰してるよな?」
マタイ「後年、ガリレイ裁判が異端審問所主導だったのか、それとも政争の類であったのかという議論が沸き起こっておる」
マタイ「理由は幾つかあるが、禁書登録されたガリレイの『天文対話』が”ローマ教皇庁から発行許可があった”からだ」
上条「え、なのに異端?」
マタイ「その通り。教皇庁が是としたにも関わらず、異端審問所がそれを以て異端だと認定した」
フロリス「要はバチカンでの政争だって事ジャン。くっだらなー」
マタイ「その通りだな。しかも禁書指定したというのに、当時プロテスタントだったネーデルランドで『天文対話』は発行されているし」
マタイ「私も一度、『当時の価値観としては裁判自体は正統なものであった』と言った。後に彼の業績を賞賛しておいたが」
上条「もしかして……魔術絡み?」
マタイ「その質問には答えられない――が、一つ雑談をしようか。鳴護アリサ君」
鳴護「は、はいっ!?なんでしょうかっ!」
868 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:40:20.31 ID:Iye/cFlo0(8/22)
マタイ「知識は力である。中世以前の聖書がギリシア語で書かれており、教会が知識を独占していた」
マタイ「読み書きを出来る人間、つまり政治に関わる者、関われる者を限定してしまえば、という考え方……ま、時としてミルメコレオをも生むが」
マタイ「そして魔術も然り、一部で独占していれば他方への抑止力も兼ね備える。真理に近ければ近い程有効な手段だ」
ランシス「……当時の教会は地球が動いているのを知ってて、魔術師のために隠していた……?」
マタイ「何の話をしているか私には分からないが、天動説を元に組まれた術式と、地動説を元に組まれた術式、どちらが脅威であるかは容易く知れる」
鳴護「……あのぅ?」
マタイ「ん、あぁ君に聞きたかったのだが、星空を見ていると何かこう、引き込まれるような感覚に囚われる事はないか?」
鳴護「囚われる、ですか?」
マタイ「吸い込まれるような、とか、目が離せなくなる。些細な事でも構わない」
上条「なんでアリサに聞く……?」
マタイ「後で教えるよ。どうだ?」
鳴護「んー……どう、でしょうねぇ。夜空を見るのは好きですし、星関係で曲も作ってますから」
上条「ファーストアルバムが『ポラリス』だっけ?」
鳴護「星座はよく知りませんけど、まぁ――好きな方、でしょうか」
マタイ「……ふむ、そうか。セプテントリオンとオリオン……分かった」
マタイ「話を戻そう。ともかく異端審問所は聖務聖省もしくは検邪聖省、そして教理省と名前を変えてきた」
マタイ「名前は変わっても役割自体は変わらず、好ましい事ではないが」
上条「魔女狩り、とか?」
マタイ「だからローマでの異端審問会は極めて勢力が弱かった、と言っている。ガリレイ一人極刑へ追い込めず、また著書も隣国で発売」
マタイ「結果としてローマ正教の力を貶める事はあっても、増加には繋がらなかった」
マタイ「どちらかと言えば内部での粛清や方向転換が多かったがな」
上条「内部?」
ベイロープ「――いつの時代も『カルト』が出るのよ、決まってね」
フロリス「おっ、おかえりー」
ランシス「レッサーは……?」
ベイロープ「……疲れたみたい。部屋でぐっすり眠ってるわ」
上条「優しい顔で厳しい嘘を吐くベイロープさんハンパねぇなっ……!」
869 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:46:56.47 ID:Iye/cFlo0(9/22)
マタイ「例えばフリーメイソンか。信仰に似た『何か』であり、十字教とは認められないと私は宣言している」
マタイ「現代でもメジュゴリエの聖母やヴァッスーラ……ボフのような者を追放しなければならん……!」
鳴護「えぇっと……?」
ベイロープ「順番に自称聖母の降臨、自称預言者、でもって『解放の神学』の提唱者の一人よ」
上条「あー……頭イタイ人、やっぱ居るのね……」
マタイ「私は、というか我々は他の信仰を否定はしていない。誰が何を崇めるのも勝手ではある」
マタイ「だが何故皆示し合わせたように十字教を名乗るのか?まるで自分達が正統の後継者である如く振舞う」
フロリス「ぶっちゃけ『お前が言うな』って気もするケドねー?」
マタイ「その誹りは正しいものである。聖ペトロの意志を受け継いだ”だけ”の我々が、果たして正統な代弁者であるか否か」
マタイ「過去、人を導く立場にあった者であれば、悩まずに居たものは一人足りとて居ないだろう」
レッサー「……一応、嫌々ながら擁護しますとね、ローマ正教さんはそこら辺の矛盾を『妻帯禁止』で解決してきたんですよ」
レッサー「『彼らには子孫がおらず、遺伝子的に何を残す訳ではない』」
レッサー「『従って彼らが座すのは清貧の華である』と」
上条「レッサー……!生きていたのかっ!?」
レッサー「エピローグ辺りの脇役向けの台詞、止めて貰えません?や、まぁ一度は言ってみたい気もしますけど」
レッサー「ちなみにたった今マタイさんが仰った宣言、実は2007年の『教会論のいくつかの側面に関する問いに対する回答』で、もっと強烈に宣ってます」
レッサー「そうですねぇ……長くなるんで要約しますと」
レッサー「『ローマ正教以外ペトロの使徒名乗ってんじゃねぇぞファッキン!』ですかね」
上条「そんな中指突き上げながら宣言はしない」
マタイ「大体合っているな」
上条「合ってんのかよ!?大概だなローマ正教も!」
マタイ「いや、彼らの言い分は分かる。歴史的な経緯を鑑みて、我々に同調出来ないのもまた理解はする」
マタイ「100歩譲って『教会権威に頼らない社会』とやらの構築もまた、良しとしよう」
マタイ「……だが行き着く先が今の有様。カルトと拝金主義、そして何故か乱立する指導者の群れを見る限り、嘆かわしいとしか」
レッサー「……あんま言いたくないですけど、ウチの教会さんも『ピューリタン革命!やったぜ今日からマルキストだ!』っつってのは、まぁまぁ評価は出来ますよ?」
レッサー「『王権の象徴』たるカーテナを捨てて、あん時ゃ感慨深いもんがあったってぇ話でしたよ、えぇえぇ」
フロリス「ドタバタで収集がつかなくなった、と思って気がついたら実権握ってるのはイギリス清教だしー?」
ランシス「……教会の首長がブリテンの統治者を兼ねる……何のギャグ?」
レッサー「王権が廃れれば、それはそれで独り立ちする事も吝かでは無いなー、と一瞬でも思った我々がバカでした」
マタイ「庇護者が庇護者のままであり、またブリテンの指導者は為政者としては決して凡庸ではないよ」
マタイ「ただ『プリンス・オブ・ウェールズ』を墜とされた時点で、全てが過ちだったと気づくべきだったが」
ベイロープ「耳が痛いわね」
870 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:49:35.00 ID:Iye/cFlo0(10/22)
マタイ「時に日本人の二人はクリスマスは好きかね?」
鳴護「まぁ、割と――当麻君?どうしたの?」
上条「……いや別に?何でもないよ?」
マタイ「幸いがなければ幸いを持てる者を祝福すればよい。他人を尊ぶのもまた幸いなるかな」
上条「まぁ、分からないでもないが……あー、でも言っちゃなんだけど、日本人はなんちゃってだぜ?」
上条「クリスマスの意味も『キリストが生まれた日』」も怪しくて、『サンタさんが来る日』ぐらいにしか考えてないと思う』
マタイ「充分だよ。十字教圏でもそういう所は多い。それでも君たちは『HappyChristmas(神の子の聖誕式、おめでとう)』と言ってくれるのだろう?」
上条「多分、字面だけだろうが、一応は」
マタイ「……昨年のアメリカ大統領のスピーチは『HappyHoliday』だったんだよ」
上条「……はい?」
鳴護「えっと、アメリカって十字教徒さん多くありませんでしたっけ?どちらとも」
マタイ「『HappyChristmasは信仰の自由を否定するものだ』として、近年では忌諱される傾向にある」
上条「……すんません、クリスマスって十字教の祝日ですよね?」
ラシンス「正しくは……アイルランド、ケルトの冬至と新年の復活を願った日」
ベイロープ「――っていう説もあるけど、まぁ今では十字教がメジャーよ」
上条「反対してる奴らバカじゃねーのか。人様の祝い事に『信仰の自由』って」
上条「別に嫌なら参加止めて黙ってりゃいいのに、何ケチつけてんだよ」
マタイ「アメリカの場合。完全な祝日になっているのも一因ではある。あるが……」
上条「いや、でも確かアメリカも伝統的な十字教国家なんだろ?だったら十字教の大切な日を祝日にするのもアリだとは思うし」
マタイ「……と、まぁそのような出来事が世界中で起きている有様だ。嘆かわしい」
レッサー「他にも、ローマ正教は妊娠中絶や安楽死、同性愛について一貫して否定してますけど、それで非難囂々でしてね」
レッサー「いや嫌なら好きにすれば良くねと。確かに教義上色々言いますけど、今じゃ反対にローマ正教が時代遅れだとか言われてんですな」
鳴護「その内、『イエスが男性なのは差別だ!』とか言いそう……」
マタイ「ハリウッドで映画を作る際、特定出身の人間を悪役にしてはならず、一定の比率で出さねばならない内規がある」
マタイ「ニック・フューリーが別の人種になっていたり……まぁどちらか差別だという話さ」
上条「前からちっと思ってたんだが――欧米、頭悪いだろ?なぁ?」
ベイロープ「多少の揺り戻しと自浄作用として、保守政権が台頭して居るのだわ」
レッサー「彼らの主張は至極真っ当、『自国民の社会福祉の優先』、ただそれだけですからねぇ」
レッサー「排他的な動きだと言ってみても、国民が住まうべき所は自国であり、国籍を持たなければゲストに過ぎませんから」
マタイ「……その流れ自体は歓迎せざるものであるが、適度に距離を保つのも軋轢を招かぬ真理である」
マタイ「過度に深淵を覗けば深淵からも覗かれているのと同じく」
フロリス「今の教皇猊下、まーさーにー、”そーゆー”系だもんね」
上条「フロリスが他人に敬称を……!?」
フロリス「ぶっ飛ばすぜジャパニーズ?」
871 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:52:32.60 ID:Iye/cFlo0(11/22)
マタイ「――さて、愚痴はさておき。ガリレイの話へ戻ろうか」
上条「そっちかよ。てか戻るような話――」
マタイ「――『使徒十字(クローチェディピエトロ)』、君は憶えているかな?」
上条「学園都市を乗っ取ろうとしたヤツか……!」
ランシス「……何、それ?」
マタイ「『聖霊十式』と呼ばれ、我らが有している霊装の事だ。少しばかり強力ではあるが」
上条「都市一つを洗脳するのが、『少し』?」
ベイロープ「ペテロの呪いの十字架……あぁ何となく分かったわ」
マタイ「まさに『あれ』の起動条件は『星辰』――太陽系や星座の並びであるのは既知だろう。魔術的に解説すればだな……」
マタイ「魔法陣ぐらいは……知っているだろうか?」
上条「んー……あぁ、知り合いの陰陽師が使ってた。記号と文字を組み合わせて発動させるのだろ?」
レッサー「それは『魔”方”陣』であって、ジーサンが言ってるのは『魔”法”陣』です。厳密には別モノ」
ベイロープ「『場』の流れを得意とする一派には『方陣』が得意……まぁ、でも?」
マタイ「いや、その理解でも構わないだろう。そうそう魔方陣の使い手と相対するなんて事は有り得ん」
上条「ベイロープさん、後で良かったら詳しく教えて頂けません?」
レッサー「だがここに律儀にもフラグを回収する方が……!」
上条「だって笑い事じゃねぇんだもんっ!南アメリカから北欧ロシアにEUまで結構やり合ってんだからな!」
フロリス「そして今はクトゥルーだしねー?日頃の行いかなー?」
上条「俺はっ!誰に後ろ指指されるような事なんか――」
鳴護「あ、そういえばインデックスちゃんがね」
上条「ごめんなさい」
マタイ「……ともあれ魔法陣と魔法陣の違いは置いておくとして、強力な術式程により大きな魔法陣が必要となってくる」
マタイ「とはいえ儀式魔術であれば、法陣を書かずに済ませる場合も少なくはないが」
上条「はい、質問です」
マタイ「どうぞ」
上条「『術のデカさ=威力』だったら、あの使徒十字は――」
マタイ「『天球に描かれた星辰が魔法陣』となり、都市一つに極めて強い影響を与える」
上条「うへー」
マタイ「だから――『だから我々はガリレイの地動説を禁じた』のだ」
上条「え……っと、そこか?そこへ繋がる、ってのは」
マタイ「天動説でもある程度はカバー出来ていたが、地動説ベースに術式を組まれると威力が桁違いだ。従ってプトレマイオスの説を支持せざるを得なかった」
レッサー「んー……つまり、アレですかね?ローマ正教自体はずっとずっと昔から地動説だと知ってた」
レッサー「じゃなっきゃ『使徒十字』のような極めて複雑で精密に、天球を使った大規模霊装なんて作れないでしょうからね」
レッサー「だが余所様に天球を利用されるのが嫌で、わざと天動説を信奉していたと」
マタイ「そう、だな。聖書に書かれているのも根拠になってはいるが、故意に情報隠しをしたのは間違いではない――し」
マタイ「また、それが過ちだとは思っていない。当時、我々はオスマントルコ帝国の脅威に脅かされていた」
マタイ「まともに対話をする”だけ”ですら力が必要な時代があった……今もそう大差ないがね」
鳴護「……さっきから聞いちゃいけない話が飛び交ってるよな……?」
872 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:57:32.00 ID:Iye/cFlo0(12/22)
マタイ「プライベートであればジョークの一つも言うだろう――と、鳴護アリサ君、手を」
鳴護「はい?」
マタイ「上条当麻君も、右手を――そうそう」
上条「あ、はい」 ギュッ
上条(と言って、マタイさんは俺とアリサの手を取って握手させる……)
上条(アリサの手を改めて握って恥ずかしかった――のも、あるが、マタイさんの手が傷だらけだってのが印象深い)
上条(ステイルが半世紀以上戦い続ければ、こうなるんだろうか……?)
マタイ「……ふむ。そうか」
上条「あのー、もう離しても?」
鳴護「え?」
上条「恥ずかしいよ!」
レッサー「中二wwww」
上条「お前もベイロープに握ってて貰え」
レッサー「意味合いが違いますよね?青い春と書いて青春と読む爽やかな一ページではなく、拷問的な意味ですよね?」
マタイ「あぁ好きにすればよい……ふむ、どこから話したものか悩むが――」
マタイ「――まず『消えなかった』のを喜ぶべきだろうな」
鳴護「あたしが、ですか?」
上条「……ちょっと待てテメェまさか!」
マタイ「最初に言うが『消えない確信があった』のは間違いない。過去、幾度か君たちは触れ合っているんだろう?」
上条「そういう言われ方をすると誤解を招きそうなんだが……」
鳴護「誤解、かなぁ?」
上条「黙っておこうな!偉い人なんだから!」
マタイ「足は靴に合わせるのではなく、靴を足に合わせるべきだな」
上条「……その心は?」
マタイ「責任は取りたまえ」
上条「よーし?教皇だって俺は容赦しねぇからな!?意味も無くイジられるぐらいだったらば!」
レッサー「嫌いじゃないですその蛮勇!さっ、ガンガってぶん殴って第四次世界大戦を勃発させましょーよ!」
レッサー「次はフランス野郎を完膚なきまでに叩きのめしましょうンねっ!」
マタイ「――と言った具合に、争いは何も生まんよ。遺恨以外は」
上条「……どうしよう?もしかして俺は今物凄く遠回しに忍耐を試されてんだろうか……?」
873 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 12:59:17.59 ID:Iye/cFlo0(13/22)
ベイロープ「どういう意味よ?」
上条「『濁音協会』の事を聞いてんのに、なんでアリサの”体質”の話になんだっつーの」
マタイ「鳴護アリサ君を狙っている以上、君の言う”体質”とやらが目的ではないのかね?自明の理とも言うが」
マタイ「……と言うよりも、その様子だと学園都市でもイギリス清教でも、きちんとした検査を受けていないように見受けられるが……?」
鳴護「はい、その……怖くて」
マタイ「怖い?」
鳴護「あたしがニン――」
マタイ「人の定義などはそれぞれであり、ましてや誰が決めて良いものではない」
マタイ「例えばES細胞から創られた『ヒト』に人権はあるか?ならクローン細胞は?」
マタイ「定義など幾らでも出来るが、最終的に決めるのは――やはり自分自身ではないか」
鳴護「あたしが、ですか?」
マタイ「自我を持ち、友を得て、家族と呼べる人間が居る――それすらも叶わない人間は決して少なくはない」
マタイ「また聞くが、仮に『ヒトではないからと言ってどうする?』と」
マタイ「誰かに『ヒトではないと言われたから』と言って生き方を変える――のであれば、それもまたおかしな話だよ」
鳴護「……」
マタイ「私が見る限りではここに居る人間達、また少々過保護すぎるきらいがある家族、そのどちらも『だから何だ?』と笑うであろう」
マタイ「そのような『絆』を持つ者が、ヒトかどうかは些細な問題に過ぎない」
上条「まぁ……そんなもんだよな」
鳴護「……当麻君」
上条「悩んでるのは何となく分かってるし、だからって悩むなって言うつもりはねぇけどな」
上条「アリサが誰だろうが、何だろうが、俺やインデックスは友達だし、シャットアウラは家族だ」
上条「それだけは忘れんなよ、な?」
鳴護「……うんっ!」
マタイ「……なんだろうな。至極真っ当且つ、割と背教的な事を言ったにも関わらず。全てをかっ攫われた感がするのだが……」
レッサー「えぇまぁ良くある事としか。珍しかないです、残念な事に」
マタイ「ま、それもまた良かろう――なら君の”体質”や関係する事について、ここに居る人間にも話しても構わないだろうか?」
マタイ「ほぼ全てが推測になる上、少々ならずとも不快な話が混じる。その上でも」
鳴護「はい、お願いします!」
874 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 13:02:43.39 ID:Iye/cFlo0(14/22)
――カンドルフォ城
マタイ「最初に断っておくが、知らねばならないものを知らないままにしておく、という選択肢は割と良くある」
マタイ「政治、経済、外交、歴史……『知らない』のであれば、テレビのコメンテーターが言ったお粗末なロジックに酔いしれ、共に怒る事は容易い」
マタイ「自らを社会正義だと一片の疑いもなく思い込み、間違っているのは誰それだ――それもまた生き方であるよ」
マタイ「……だが、現実の話としてだ。病を患っている者が、初期症状が出ていないからと言って放置していれば……碌な事にはならない」
マタイ「正確に、そして正しい治療法を取れば完治はしないまでも、長い時を生きられる――」
マタイ「――私が若い頃に出始めたエイズなんかがそうだ。教義上色々と言いたくはあるが、それはさておき」
マタイ「今では感染が確認されれば45年――30歳で見つかったとしても、75歳まで延命出来る治療法が確立されている」
マタイ「その年齢は先進国であっても割と高齢に位置する。それに関しては科学の発達と努力をした者達全てへ感謝すべきだ」
鳴護「あたしも、ですか」
マタイ「病と一緒くたにするつもりはないし、また実際にそうでもない」
マタイ「だがしかし、他者との違いを認識した上で、『人』として暮らした方がより安心出来るだろう」
マタイ「現実と向き合い、戦う勇気を持つ君にへ私は少なからず敬意を表そう」
鳴護「止めて下さいっ!?あたしなんて、全然ですからっ!」
鳴護「いっつも他にみんなに助けて貰ってばっかり――」
上条「……まぁ分かるけどな、悪いなって思うのは」
上条「一人前にゃまだまだで、側でスゲェスゲェ言ってる側だから。俺も」
鳴護「……うん」
上条「ま、でも今は甘えようぜ?素直に」
上条「俺達が恐縮がったって仕方がねーし。借りはいつか絶対に返すさて決めてさ?」
鳴護「……うーん、それでいいのかなぁ?」
上条「良いも悪いもねぇさ。肩肘張って一人で生きていけます、なんつったらシャットアウラ号泣すんだろ?」
上条「甘えとけ甘えとけ。アイツだって居なくなったと思ってた家族が増えて、嬉しいに決まってる」
鳴護「……お姉ちゃん」
レッサー「流石ですっ上条さんっ!」
レッサー「所属している学園都市とお世話になってるイギリス清教と天草式十字凄教をブッチしてロシアに単身乗り込んだ人の台詞とは思えませんねっ!」
上条「黙ってようか?今俺、ちょっといい話をしてんだから!」
レッサー「イチャイチャするんだったら私とすりゃいいじゃないですかっ!私のターンなのに!」
上条「憶えがねぇよ!ターンってなんだっ!?」
マタイ「……私も暇ではないのだが……」
ベイロープ「すぐ終るから、ちょっとだけお願いします」
マタイ「――さて、では結論――と言っても推論だが――から言おう」
マタイ「鳴護アリサ君の体質は『レイ・ライン(光の道)』から来ている」
鳴護「レイライン?」
上条「えぇっと、『龍脈』だっけ……?」
875 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 13:05:44.99 ID:Iye/cFlo0(15/22)
マタイ「そちらに馴染みがあるのであれば以後そう呼ぼう。君は、君という存在は龍脈によって『構築』されている」
マタイ「……いや、その言い方もおかしいのであろうな。少なくとも『老化』しているのだから、あくまでも誕生に関わっただけか……?」
レッサー「根拠はどちらから?」
マタイ「上条当麻君の『右手』に触れても平気な点だ。その異能の特性は何か?」
上条「『異能力を打ち消す』のと、『出力し続ける能力を完全に打ち消すのは出来ない』」
レッサー「プラスして『力』の方向性を曲げたりとかも出来ませんでしたっけ?」
上条「一応出来るけど……なんつーか、その場のテンション?狙って出来るようにはなってない感じ」
マタイ「スイッチのオンオフは?」
上条「無理。試した事もない」
マタイ「ならばまず間違いなく、アリサ君は『龍脈から力を永続的に受け続けてきている』存在だろう」
アリサ「……私が、ですか?」
マタイ「勘違いして貰っては困るが、聖人も似たようなシステムで力を得ている」
フロリス「……あれ?聖人は天使の力(テレズマ)じゃなかったっけ?」
マタイ「だから『似たような』だ……というか、似すぎている」
ベイロープ「要領を得ないのだわ。アリサは龍脈から力を得ている根拠は、打ち消されなかっただけ?」
マタイ「だけではない。アリサ君を産み落とした術式――そう、『88の奇蹟』だ」
上条「レディリーか……!?」
マタイ「レディリー=タングルロード――彼女が大規模に仕組んだ術式は二つ。彼女の目的については?」
上条「死にたい、んだっけ。後から聞いた話だけどな」
マタイ「その通り。彼女はクルセイドの一人が持ち帰ったアンブロジアを口にし、”死ねない”体となった」
鳴護「死なない、じゃなく、死ねない?」
マタイ「境遇については同情をするが、しかし現実にレディリーは魔術結社の長として名を馳せている。詳しい説明は省くが」
上条「すいません、アンブロジアって何ですか?」
ランシス「……ギリシア神話に出てくる神々の食べ物……食べると不老不死になれる」
ベイロープ「一説にはアキレウスが無敵になった膏薬の原料、またデメテルが冥界で口にした果実とも言われてるわ」
フロリス「シチュからして後者じゃないかな。どっから持ってきたのかはわっかんないケド」
マタイ「そんな彼女が死のうとして作り上げた、にも関わらずそこで生まれたのがアリサ君だ。それが4年前の『88の奇蹟』」
マタイ「そしてまた去年起こしたのが『エンデュミオンの奇蹟』……ま、願いは叶わなかったのだが」
マタイ「さて、共通項は何か?」
上条「宇宙……!」
876 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/07(火) 13:08:40.33 ID:MLUmNtluO携(1)
これ、まだやってたんだ
877 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 13:10:03.36 ID:Iye/cFlo0(16/22)
マタイ「では、少しだけ頭を休めるとして、そうだ……君たちがもし不老不死になったとしよう」
レッサー「嬉しかないですねぇ、それはきっと」
マタイ「だから永い永い終りのない人生に飽き、自ら死を選ぼうとする」
マタイ「けれども不死の体では死ねない。さて、どうする?」
上条「随分漠然とした話だな……魔術師じゃねぇから分からん」
上条「でもま、『自分がどうして死なないのか?』って所からスタートするんじゃないのか?」
ベイロープ「ってこっちに振られてもね。生憎命を使う――遣う術式は多いけど、伸ばすのは専門外だわ」
フロリス「ちゅーかワタシらにとっては鬼門じゃなーい?基本戦闘ばっかで、寿命を延ばしましょうとかやってないし?」
ランシス「先生が”あぁ”だから、限りなく近い術式はあるん、じゃ?」
レッサー「ですなぁ。切った張ったは十八番として、こっちのは――ってアリサさん?」
鳴護「もしかして――ってか全然見当違いかも知れませんけど」
マタイ「ふむ」
鳴護「『私と同じく、龍脈から力を供給されていた』、ですか?」
マタイ「私の推測と同じだ。そして恐らくレディリーもそうだったのだろう」
レッサー「待って下さいな。それと宇宙とどう関係が――ってまさか!?」
マタイ「場所、そして名前。その両者から推測するに――」
マタイ「――彼女は宇宙空間で術式を発動させ、地球から自身へ注ぐ龍脈をキャンセルしようとした、のではないか」
878 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 13:13:42.02 ID:Iye/cFlo0(17/22)
――カンドルフォ城
上条「……スゲェスケールのでかい話が来たな、また」
マタイ「龍脈が力を発揮出来るのは地形や地磁気、とにかく地球があっての前提だ」
マタイ「その影響力を削げる、極限まで離れた場所――それが宇宙空間だったと」
レッサー「……あぁ成程。だから『88の奇蹟』と『エンデュミオン』なんですね」
上条「お前っ!?今ので分かったのかっ!?」
レッサー「若干失礼なまでの驚きっぷりに腹が立ちますが……まぁ、良いでしょうっ!解説してあげましょうかっ!」
ベイロープ「まず『88の奇蹟』は乗客・乗務員が88人だったって事なんでしょ?」
レッサー「ちょ!?私の見せ場は!?」
鳴護「はい、その筈でした」
フロリス「まんま『星座数と同じ』だーよねぇ、これ」
ランシス「……一人一人を星座に見立てて、擬似的な天球を造り上げる、かと」
上条「天球?」
ベイロープ「星座版の事ね。地球から見える星の動き」
鳴護「それと事故を起こす事と、どう繋がるんですか?」
フロリス「星座の殆どは『ギリシア神話の神々が、○○の死を悼んで星座にした』って話、聞かない?」
レッサー「……ヘラクレスに殺されたカニや獅子なんかが有名ですかねぇ」
ランシス「トレミーの48星座……あ」
マタイ「それを考案したのもまた、天動説のプトレマイオスだ。偶然だかね」
ベイロープ「……だ、もんで。この場合『星座に上げる』ってのは、まぁ……アレするって意味よね」
フロリス「そもそも機体の名前が『オリオン号』――優秀な狩人だったが、自身の猟犬を狩られて怒ったアルテミスに殺される」
フロリス「死後、オリオンは星座になって……そのまま、っていうかな」
上条「……俺、殴っときゃ良かったな」
マタイ「地上からの影響を防ぐために、また逆に天球――星辰からの魔力を取り入れるため、場所を宇宙に定めた」
マタイ「が、最初に彼女は恐らく失敗したのだろうな。しかし全く駄目だった訳ではなく、手応えを感じていた」
マタイ「そうして造ったのが宇宙エレベーター、『エンデュミオン』だ」
上条「軌道エレベーターだっけ?」
レッサー「えぇ、ラグランジュポイントまで物資を送れるドデカいエレベーター……あれ?」
ランシス「何……?」
レッサー「軌道エレベーターが地上と垂直になるのは赤道付近だけで、日本から伸ばすと斜めになるんじゃ……?」
上条「流石は学園都市の技術だ!なんともないぜ!」
マタイ「ま、今更彼らの技術をどうこう言わんよ。それよりも、その名前だ」
879 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 13:15:43.20 ID:Iye/cFlo0(18/22)
ベイロープ「ギリシア神話でゼウスの孫、エーリスの王」
ベイロープ「ある時、山の頂で眠っていたエンデュミオンを、月の女神セレーネが見初め、恋へ落ちる」
ベイロープ「しかし不老不死のセレーネは、エンデュミオンが段々と老けるのを悲しみ、ゼウスへ彼を不老不死にするように頼んだ――が」
ベイロープ「ゼウスは彼を永遠の眠りへ尽かせ、不老不死にしたのね」
上条「……そんな名前を持つ、『塔』か」
マタイ「レディリーの境遇に似ていると言えるかも知れない」
マタイ「エンデュミオンは神の力によって不老不死となり、そこから脱却を図るために――」
鳴護「一度造り上げたエンデュミオンを、壊す……?」
マタイ「それも龍脈の影響の少ない宇宙で、だ。そこへ組み込まれた魔術的な記号は『塔』と『歌』」
マタイ「アリサ君にさせたかったのは多くの魔力を集めるため……まぁ、巫女のような役割だろうか」
マタイ「証拠……と呼ぶには軽々過ぎるが、レディリーの術式は失敗、そしてエンデュミオンの残骸の中、未だ眠っているのだろう?」
マタイ「まさに『不老不死のまま眠り続けるエンデュミオン』のように」
ベイロープ「……乗り越えようとした術式を失敗して、逆に取り込まれる。矛盾はないのだわ」
フロリス「ミイラ取りがミイラってヤツだよねー」
ランシス「『おかーちゃんはミイラ』……」
上条「……?」
ランシス「……『Mammy is Mummy』……ッ!!!」
上条「あ、このお菓子美味しいから食べて良いぜ?出来ればゆっくりな?」
レッサー「……うーむむむむむ。今んトコは矛盾らしい矛盾もありません、ありませんが――そうですねぇ」
レッサー「では逆に、『龍脈の影響の薄い所』なのに、アリサさんが生まれたのは何ででしょうかねぇ?」
マタイ「一つにレディリーの施した術式、それも星座に纏わる何か、セレーネ、もしくはアルテミス関係だと思うが」
マタイ「二つに『高度故に龍脈が純化している』のではないかと私は思う」
上条「純化?」
マタイ「高い山の上へ登ると酸素が美味しい、とは言うかも知れない。実際には薄くなってはいるが、都市より不純物は少ない」
マタイ「また過去の例で言えば、深山に神霊が宿る、という話は聞かないかな?」
上条「あるな、割と多く」
マタイ「山奥へ入って何かに祈って願いを叶える――これはつまり、逆に深山では術式が使い易くなっているのではないか?」
フロリス「日本の修験道、ワタシらのウィッチ。どっちとも山深い場所で暮らしてるかー」
マタイ「以上二つの要因により、アリサ君は『願い』を叶えるために生まれた、と」
マタイ「従って君の能力は『龍脈』を恣意的に操れる能力だと、私は推測している」
鳴護「歌は?どうしてあたしの歌がっ!」
マタイ「そもそも『歌』というものは宗教的な儀式の一環だったのだ」
マタイ「神へ捧げる歌、雨を請う歌、戦いへ赴く歌。絵画などよりもずっと昔から、人類と共に在っただろう」
マタイ「人が声を合わせて一つの旋律を作り、または優れたる音階に耳を傾け、祈りを捧げる」
マタイ「言わば『奇蹟』の方向性を決定づける力、とでも言おうか」
880 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 13:18:40.34 ID:Iye/cFlo0(19/22)
ベイロープ「聞いていい?『異能』を起こせる理屈はそれで良いとして、どうして『奇蹟』なの?」
ベイロープ「人の願望を叶えるのであれば、もっとゲスいのも一杯あるのだわ」
マタイ「命の危機に瀕していれば、人は心の底から助かるように祈る。また他人がそうであっても同じであろうな」
ベイロープ「……誰だって目の前で事故が起きそうになったら、『助かれ!』って思う?」
マタイ「然り。人の本性は完全ではないにせよ、善には違いない」
マタイ「そして上条当麻君の『右手』は『異能力を打ち消すのではない』のかと」
上条「いやいやっ!実際にっ、ほらっ!」
マタイ「時折打ち消せなかったり、ニュートラルへ戻すと言った行為が出来るのも――」
マタイ「――アリサ君と同じく『龍脈へ干渉する力』と考えれば、説明がつく」
上条「俺も、同じ……?いやでもっ打ち消すのって!」
マタイ「推測に過ぎないが――というほぼ全てがそうなのだが、君はきっと『奇蹟』というものを信用などしていないんだろう?」
上条「俺が?どうして言い切れるんだよっ!?」
マタイ「アリサ君は『奇蹟』を信じた。よって『奇蹟』をある程度使えるようになった」
マタイ「しかし君は、その生い立ちから『奇蹟』なんて起こらないと思い込んだ」
レッサー「否定するから使えない、ですか……でもそうすると順序が逆では?」
マタイ「幼き頃には誰であっても魔法や異能には興味があり、実在を確信しているだろう。サンタがそうであるように」
マタイ「しかし年を経るに連れ、好きであり憧れはしても存在するとは考えにくい」
マタイ「……ま、極々一般的な成長を遂げただけ、とも言えるか」
上条「……俺の場合、『不幸』で色々あったらしいからな」
マタイ「考えようによってはそれで良かったかも知れん。『龍脈』を自在に操れるとなると聖人と変わらんからな」
上条「神裂と同じ、ってのはちょっと憧れるけどなー」
フロリス「や、まー気持ち分かるけケド、あっちはテレズマだしねー」
マタイ「いや、同じだ」
上条「はい?」
フロリス「んーむ?」
マタイ「だから『天使の力』と『龍脈』は同系統の力を、別の名で呼んでいる過ぎん」
上条「えぇっと、ちょっといいか?それ、スッゲー大変な事言ってる気がするんだが……?」
レッサー「仰る通りですよ。天動説が地動説でした、ってぇ暴露する並の爆弾発言です」
881 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/07(火) 13:20:40.82 ID:Iye/cFlo0(20/22)
マタイ「断っておくが、あくまでこれはローマ正教ではなく私の私見。マタイ=リースの非公式発言であり」
マタイ「この世界軸、この時間に於いての推測の一つに過ぎない」
ベイロープ「いやでも、違う、わよね?『天使の力』と『龍脈』は」
鳴護「あのぅ?」
レッサー「そうですなぁ、説明しますと――」
マタイ「……すまない。話疲れたので、私は休憩を入れさせて貰うよ」
鳴護「どうぞどうぞ。あ、じゃお茶を入れますねー」
上条「――って俺がやる!だからそっちは頼んだ!」
ベイロープ「任されましょう。はい、こっちへどうぞ?」
鳴護「……なんか釈然としないんだけど……」
マタイ「適材適所。大工の孫は辺りを灯すだけだな」
ランシス「その例えは……うーん?」
882 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/07(火) 13:23:32.59 ID:Iye/cFlo0(21/22)
今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
当初の予定では明日完結する筈でしたが、容量が倍になったので年内にはまぁ、何とか?
余談ですけど、字数節約で鳴護さんの台本部分「鳴護」にしたのはマズかったかも知れません
嫁入りしたら上条さんと区別つかなくなっちゃう……(´・ω・`)
883 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sagasage] 2014/10/07(火) 13:46:25.44 ID:ebZKuYg9O携(1)
乙
ss自体は素晴らしいと思うが誤字脱字(特に脱字)がとても気になる
特に今日の投下された>>871のアリサのセリフで「ような」の「う」が抜けてるだけで口調が変わって誰のセリフかわからなくなる
少なくても4.5レスに数個、いくら分量が多くても少しも減らない、むしろ最近増えているような気もする
気にしすぎだと言われればそれまでだけどもssがいいだけにもったいないなあと思いました
884 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ] 2014/10/07(火) 14:01:32.02 ID:ODmJOFC/O携(1)
乙
相変わらず内容は素晴らしいけど確かに誤字脱字は気になるかもな
個人的にはサイトに載せる時に少し手直ししてもらえれば文句なしだけど、まあ内容がわからなくなるほどじゃないし最後まで続けてもらえたらそれだけで満足
恒例のアフターにも期待してます
885 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/07(火) 14:50:18.83 ID:Iye/cFlo0(22/22)
>>883-884
申し訳ありません。注意はしているのですが
886 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ] 2014/10/07(火) 18:34:21.87 ID:1CUGHDrVo(1)
倍って…
楽しみだからいっか
887 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/07(火) 18:54:19.59 ID:Uhl0yvxao(1)
乙です
888 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/07(火) 19:33:17.90 ID:NHNs8SaJ0(1)
そうか、だから切断すると龍が……というのは安易な連想か。
ていうかアリサちゃん、最初から自然にいたからそういう世界なのかなーと思ってましたけど。
ちゃんと理由があって復活してくれたんですね。良かった。
でも、そうすると風斬氷華に触れたとしても―――?
待たれる次号、解明偏!
889 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/07(火) 20:32:15.03 ID:1dv9S/KN0(1)
乙です
今更だけど、上条さんが声かけた『汚れた服の女の子』って、旧約16巻のローマ市街地の子だったりする…?
890 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/14(火) 12:18:40.57 ID:uy4WSuww0(1/21)
>>888
私の解釈(※バカの妄想)で言うのであれば、『力が流れ込み続けている』ので消え”は”しないと
ただし『造られた天使』であるために、『現時点では人っぽいモノ』の範疇を出るものではないと思いますが
>>889
マタイ「人は生きるためにパンを作るのであって、パンを作るために生きるのではない」
マタイ「遠方から来る友人を迎えるのに、近くに居る友人を遠ざけてしまえば、友人は須く遠きへ至る」
891 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:25:28.69 ID:uy4WSuww0(2/21)
――カンドルフォ城
レッサー「そいではアリサさんっ!今からご説明致しますねっ!サクサクっと!」
鳴護「はいっ!」
ベイロープ「……や、そんなに恐縮しなくっても良いんだけどね。大した話じゃないし」
上条「魔術理論って大事じゃねーの?」
フロリス「個々の事例に首突っ込むと、おそろっしく細分化して混沌とするケド、概要をサラってする分には、まぁ?」
ランシス「十字教だけで新書1冊書ける……」
上条「オカルトの話なのにか?」
ベイロープ「表の世界じゃキワモノ扱いされてるけど、実際には世界史や宗教史、あと自然科学とかも関わってくるから大変なのよ」
ベイロープ「そもそも流行り廃りがあるように、魔術だってその当時の立派な文化の一形態なんだから、学者が軽んじて良いものではないわ」
レッサー「んではまずっ!この世界とは別に、重なり合った世界があるのはご存じですかっ?」
鳴護「うん。魔術がどうこうって話の時に、聞いてる、かな?」
鳴護「『世界を壊す手段がある』、けど『実際に壊された事はない』って」
レッサー「ですです。つーかどこの神話であっても終末論は在りますからねぇ。もしそれが全て実現してたら、何回地球ぶっ壊れてるって話ですよ、えぇ」
レッサー「んで、何度か登場した『天使の力』ってのは『あちら側の世界から流れ込む力』だと思って下さいな」
鳴護「あれ?その力ってヤバんだよね」
レッサー「ヤッバイですよー?超ヤバいですもん、魔術理論の構築無しに知ったら発狂するくらいに」
レッサー「でもこれ需要はあるんですよ。なんつっても強力ですから、とても」
ベイロープ「あー……っと、私達が魔術を使う際には、例えば呼吸法であったり、血を流したり、制約をつけたり」
ベイロープ「『肉体的な方法から魔力を精製する』のね」
鳴護「はぁ――でも、魔力が自前で取れるんだったら。別に『天使の力』、要らないんじゃ?」
ベイロープ「出力が桁違いなのよ。なんつーか内燃機関と外燃機関の違いっていうかな」
ランシス「人が素手で穴を掘るのと、道具を使うとじゃ、違う、よね……?」
ランシス「……スコップとショベルカー、道具でも全然変わるし」
フロリス「そん時にスコップを用意したり、重機をコントロールするのがワタシらの魔力だって話」
鳴護「……分かった、ような?」
レッサー「ま、実際に術式を使う訳ではなし、何となくで良いですよ。誰かさんと違って魔術師とガチンコするってぇ訳じゃないですからね」
上条「こっちは強いられてんだよ!いつの間にかねっ!」
レッサー「まぁ『人も魔力を持つが、結局外部のを使った方が威力は高くなる』ぐらいのお話で」
ベイロープ「その分制御も難しくなるし、習得も難しくなるけどね」
レッサー「ちなみに『天使の力』とは言っていますが、別に十字教に限った話ではなく、他の宗教でもフツーに使われますからね」
上条「あぁ言ってたな。北欧神話とかでも、『別座標の世界』があって、そっちから力を得てるって」
892 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:27:59.66 ID:uy4WSuww0(3/21)
レッサー「私達の『爪』・『帯』の霊装なんかそのまんまですよねぇ。原理はテレズマで動こくようにチューニングされてますから」
鳴護「北欧系の武器なんだよね、それ。なのに『天使の力』?」
レッサー「です。日本のブッディズムであっても『テレズマ』なんです。実際にそう呼ぶかは別にして」
フロリス「『別時空に存在する力全般』かな?定義っちゅーのもアレだケド」
レッサー「この平行世界は神話の数だけ――あれば、いいわよね。下手をすればそれ以上あるかもだし」
レッサー「クトゥルー系の魔術師が『まだ発見されていない世界からのテレズマ』を行使している可能性も否定出来ません」
レッサー「ちなみに、この力を生まれながらにして行使出来る人間を、『聖人』と言います」
マタイ「……『原石』がより正しいがな……」
レッサー「『天使の力』はそんなトコでしょうかね。『龍脈』はゲームとかと同じで、地球全土を駆け巡る力の流れ……みたいなもんです」
フロリス「『Feng Shui(フェン・スゥ)』とも言われて、EUでもネオペー系中心に大人気さHAHAHA!」
ランシス「……最近はインドのヨーガも広まって……お腹イッパイ……」
鳴護「へー、聖人さんって凄いんですねぇ」
上条「だよなぁ?」
レッサー「(……マタイさんが遠回しに『オマイラも地脈の聖人だよ』ってたのを理解してない方々が居るんですけど、ぶん殴っても良いですかね?)」
フロリス「(ま、自覚がなくてもいいジャン?生き方は変わらないだろうし?)」
マタイ「――解説ありがとう。では後は私が引き継ごう」
マタイ「以前から薄々思っていた事だが、テレズマには矛盾がある。例えば――そうだな。ベーオウルフの霊装があったとしよう」
上条「どちらさんで?」
ベイロープ「デンマークの叙事詩、英雄ベオウルフ。巨人や龍を殺して王になる、典型的な騎士道物語よ」
レッサー「BOO!BOOOOO!」
ベイロープ「気持ちは分かるけど、向こうが気ぃ遣ってくれたんだから自重しなさい!」
上条「つーかベーオウルフってベイロープと似てね?」
ベイロープ「だから!スルーしなさいっと!言ってるのだわっ!」
上条「なんで俺怒られんのっ!?」
マタイ「気にしない事だな、オリジンはそこだろうから。ともあれ」
マタイ「彼の剣、『フルンティング』を再現する術式、もしくは霊装があったとしよう」
マタイ「だがこれをおかしいとは思わないか?」
上条「神話――つか伝説に残るぐらいの武器なんだろ?だったら別に、それを模して使おうってのはそっちの常識じゃないのか?」
マタイ「ならば『そこへ込められるテレズマはどこから来た』んだ?」
上条「……はい?」
893 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:31:16.79 ID:uy4WSuww0(4/21)
マタイ「例えば彼女らの霊装、『爪』は北欧神話を模している――ように、見える。実際にどうかは知らないがね」
マタイ「従って霊装もまた『北欧神話からのテレズマ』を主にして動いている。どうだね?」
ランシス「そう……」
マタイ「ここでベーオウルオの話だ。なら『彼の武器を模するなら、一体どのような世界からテレズマが来る』のだろうな?」
上条「どんな、って……そりゃ、やっぱりベオウルフの世界じゃねぇの?」
マタイ「ベーオウルフは10世紀前後に存在した”かも”知れない英雄の話だ。『あちら側ではなくこちら側』の」
マタイ「だというのに『どうしてあちら側に世界があり、そしてまた望めばテレズマを得られる』のだろうか?」
上条「……それって!」
レッサー「例えばですねぇ。日本でも英雄さん居たじゃないですか、源義経やら八幡太郎義家とか」
レッサー「反対に祟り神として奉られた崇徳院上皇、平将門公やアテルイ」
レッサー「彼らの力を求める術式、彼らの力を持つ霊装。これらは一体どこから力を得ているのか、興味深い所ですよねぇ」
ベイロープ「補足すれば『ホープダイヤ』や『Sacred Death(ジョン=ポールの首刈り鎌)』みたいに呪われた品は多いわ」
ベイロープ「でもそれは一体どこの誰が作ったの?そして何を元に動いてるのか?」
マタイ「他に……オルレアンの乙女、ジャンヌ=ダルクは知っているだろう」
マタイ「彼女の名の元に発動する霊装や術式は多いが、彼女は神話の世界の住人ではなかった」
マタイ「……尤もテレズマを使える聖人ではあったらしいがね」
レッサー「『敵よりも味方を殺すのが得意』なフランス野郎にぴったりですがね」
レッサー「そもそも、って言うのであれば『カーテナ』なんかまさにそうじゃないですか」
レッサー「あの人妻好きのマザコン野郎――もとい、トリスタンの剣だったとはいえ、何であそこまで威力があるんでしょうか」
上条「お前その人になんか恨みでもあんの?」
レッサー「やっつけで作ったセカンドがあの威力ですし、一体どこからどんなテレズマが流れるって言うんでしょうかね?」
マタイ「カーテナは戦術級の核並の威力を見せた……まぁ、元々、トリスタンはそれ自身の伝承を持っていたのだから、矛盾はしないが」
上条「イギリスの王様だけが使える特別な力とかじゃないのか?」
レッサー「いやいやそれ”も”あるでしょうが、それ”だけ”じゃないですね」
レッサー「もしカーテナの力が『ブリテンの王権を基に』って前提があるんだったら、オリジナルとセカンドの違いはなんです?」
レッサー「どちらも『当時の王から正式に認められた』という背景があるにも関わらず、あぁまで威力に差が出るのは何故?」
レッサー「……むしろオリジナル自体は、ピューリタン革命で一度王権ごと否定されています。チャールズ一世の処刑と共に」
レッサー「ある意味国体としての体を失った以上、ブリテン国民がカーテナを見限ったように、カーテナもまたブリテンを見限った――筈、なんですけど」
レッサー「……どーにもあのお人好しのファッキン野郎の事ですから、情が移ったんでしょうねぇ」
マタイ「トリスタンとカーテナの例が出たので言っておくが、中世のアーサー王伝説とは本来とても曖昧なものだ」
マタイ「実在したのもあやふやで、尚且つ話のパターンが幾通りもあり、また時代を重ねる毎に新しい騎士譚が加わっている」
マタイ「彼の円卓に座す騎士達――代表的な所でガウェイン、ランスロット、トリスタン、ベイリン辺りは、全く別の物語がアーサー王物語へ組み込まれた」
フロリス「……Oh, ....」
ランシス「……どんまい。よくある……てか、一応、うん?」
894 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:34:23.31 ID:uy4WSuww0(5/21)
レッサー「後付けで色々統合されたんでしょーね。ある意味日本の空海上人と同じ」
レッサー「彼が日本へ持ち込んだ『不動明王』という神――か、HATOKE?――まぁ面倒なんで概念としておきましょうか」
レッサー「元はサンスクリット語で『アチャラナータ』で、元はインドのシヴァ神がルーツ……なん、ですが」
レッサー「今じゃ日本の神様として、密教から各種の信仰にまで様々な術式や霊装に登場します」
レッサー「はてさて、では不動明王の力を利用したテレズマはどこから?」
マタイ「――と、言った具合にだ。テレズマと言っても非常に曖昧なのだよ」
上条「複雑っていうか、曖昧っていうか……なんだろうな、混沌とし過ぎてる……」
鳴護「卵から孵った鶏が、また卵を産んで増えていく感じかも」
上条「んじゃアーサーの世界のテレズマ――ってか、別空間みたいのもあるのか?」
レッサー「えぇありますね。使っている魔術師も居ますし」
上条「……頭痛ぇな」
マタイ「――さて、以上の事を私は常日頃違和感を憶えていた――まぁ私だけではないようだが」
レッサー「ウッサいですね」
マタイ「ともあれ、そこで出した一つの仮説が『天使の力とは龍脈の別ベクトルではないか?』という推論だ」
鳴護「別の、ベクトルって?」
ベイロープ「お財布からコインが落ちるのと、太陽の後ろにあって見えない筈の星が観察出来るのは、同じ力の仕業って事」
ランシス「……前は地球の重力、後ろのは太陽の重力レンズ……」
上条「元々二つは同じもので、俺達――じゃなく、魔術師が勝手に勘違いしてたって事?」
マタイ「然り。そして龍脈に流れているのは『力』だけではなく、『記憶』も含まれるのではないか、とも」
上条「誰の?人間の?」
マタイ「人間を含めた全てのだ。有機物・無機物問わすに」
上条「……いやいやおかしいだろ!有機物はまだ脳があって、そこへ記憶が溜まるのは分かる!けど!」
マタイ「その通りだ。人の『概念』としての記憶はそうだ――が、最近は遺伝学の分野で新しい報告が出て来たようだ」
マタイ「『人の能力は生まれ育った環境だけではなく、親の素養や記憶も遺伝する』と」
ベイロープ「……『人が本能と呼んでいる部分が、実は継承され続ける記憶』かしら?見た記憶があるわ」
マタイ「そうだ。複雑な行動様式を持つ動物、昆虫などが筆頭であると言える」
マタイ「『Digger wasp』――は、日本名ジガバチの事だ」
マタイ「彼らは地面に巣穴を掘り、そこへ針で刺しマヒさせた獲物を持ち込みんだ後に、卵を産み付ける」
マタイ「これを『本能だから』と一括りにして良い話だろうか?」
上条「複雑、ってか……そーゆーもん、としか」
マタイ「和名の由来は『似我蜂(ジガバチ)』、巣穴に放り込んだ後、『似我似我(ジガジカ)』――つまり『我に似よ我に似よ』と羽音を立てると」
マタイ「彼らに言語もないのに、どうやって子孫へ伝えた?」
レッサー「まぁ確かに。『本能』だけで解決してはいけないような行動も、多々ありますからねぇ」
895 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:37:26.32 ID:uy4WSuww0(6/21)
レッサー「三大欲求に関してはモロにそれが反映されてる気が」
マタイ「……ま、生命の謎を解き明かすのは科学サイドへ任せるとして、今はこちらの話だ」
マタイ「私は龍脈に我々の『記憶』が蓄積されていると推測している」
上条「言いたい事は分かったが……それと、魔術がどう関係する?」
マタイ「イギリスの王権の象徴たる『カーテナ』、あれは円卓の騎士であったトリスタンの剣だ」
マタイ「しかしトリスタン自身は11世紀頃に成立した物語の主人公、元はアーサーと縁も縁もない」
マタイ「だが、現実にカーテナは『トリスタンの武具』という形で、どこからか大量のテレズマを獲得している」
マタイ「この流れを単純化させると……ある英雄が居たとしよう。名前を仮にアックアとする」
上条「知り合いじゃねぇか!分かりやすいけど!」
マタイ「彼は攫われたイギリス王女を救い出したり、国の危機には駆けつけたりする。勿論使う術式や霊装は、過去の英雄達のものだ」
マタイ「彼もまたそこへと列せられるような活躍を上げ、死後その名前と功績は英雄譚として讃えられる――そして『アックアの神話』が生まれる」
マタイ「彼の名前を冠し、彼の力を再現し――そして『彼の存在する平行世界からのテレズマ』を得られるであろうな」
上条「……」
マタイ「従って私は『異層次元など存在しない』という推論を立ててる。その記憶も力も、溶け込んでいるのは龍脈だと」
マタイ「そうすれば――『○○の力を取り出す』際、付随する記憶が流れ込んできて発狂しそうになる説明がつく」
上条「……なんか、こう色々と聞いちゃいけない話が出て来たような……?」
上条「つーか朝イチでカツ丼食うようなヘビィな話なのに、レッサーさん動揺してませんね?」
レッサー「んーまぁ?えぇ、似たような概念は以前から――っていうか、古代の魔術観と同じですからね」
レッサー「内容自体は珍しくも。ただ仰ってる方が方なんで、驚きはしましたが」
レッサー「前々から不思議には思っていたんですよ。『異界からの知識が猛毒』ってのは一体何なんだろうな、と」
レッサー「今でこそ私達人類が世界で文明を築いていますが、もし何かの歯車がズレてナメクジが取って代わったとしましょう」
レッサー「原始的な文明を経て、私達と同じ進化の道を歩んだと仮定して、魔術師が出たとしましょうか。『天使の力』を使える程の」
レッサー「その時、”Xe”が幻視る異界の神様、テレズマの供給先に存在する者達もまたナメクジの姿をしてんでしょうかね?」
上条「……”Xe”?」
ランシス「……カナダでやろうとしている代名詞。heとsheで『男女差別だから』っつって”Xe”。ま、ぶっちゃけ……」
フロリス「メジャーリーグ級のバカ」
ランシス「……って事」
マタイ「ナメクジは雌雄同体だから、こういう時には使えるかも知れんがね」
レッサー「よくある男神女神の昼ドラ的な不倫騒動も、雌雄同体でもっとごっちゃになってるとか」
レッサー「……卵が先か鶏が先か、”彼ら”も我々の創作物である気がするんですよねー」
896 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:39:30.57 ID:uy4WSuww0(7/21)
マタイ「信じようと信じまいとそれは自由だ。各種ある説の一つだと思っている――」
マタイ「――が、『S.L.N.』はそうではないのかもしれん」
マタイ「アリサ君が持つ『奇蹟』、それは今のままでも魅力的には違いない」
マタイ「だが魔術的には然程珍しいものではない、とも言える」
鳴護「そう、なんですか?危険じゃなく?」
マタイ「危険かどうかで言えば、そうでは無い方へ入るだろうな」
ベイロープ「その手の『呪歌』は昔から研究されているのよ。『賛美歌』なんかそのままでしょ?」
マタイ「主の祝福を禍ツ歌と同系列で語らないで貰おうか」
鳴護「シュワッキマセリ?」
フロリス「そいつぁオラトリオだーよねぇ、日本語だと聖誕歌」
マタイ「誤解を承知で言わせて貰えるならば、『奇蹟』という幅があまりにも広すぎて、意図的にどうこうするには難しい」
マタイ「雨を防ぐには傘を差せばよい。風を避けるには建物へ入ればよい」
マタイ「家を建てるには大工へ頼み、先を急ぐのであれば馬車に乗るだけだ」
レッサー「崩落する塔の落下場所を変えるにしろ、別の術式があれば出来ない事はなっちゃない、ですか」
鳴護「……ちょっと安心したような?そうじゃないような」
上条「アリサ?」
鳴護「あたし”だけ”の力とか、怖くないかな?」
上条「んなモン個人差だろ。歌がどうとかも個性の一つって話」
マタイ「実に正しい見解だ――が、向こうはそうは考えていないだろう」
マタイ「方向性は見えないが……いや、漠然とは見えている。それが」
ベイロープ「――『エンデュミオン』、か」
上条「ギリシア神話だろ?しかも星関係の話だっつーんなら、濁音協会と関係が――」
ランシス「……クトゥルーは『死して夢見る』モノ……」
フロリス「エンデュミオンは『死せず夢見る』神様、かぁ」
上条「……多分これ、偶然の一致とかじゃねぇんだよな」
レッサー「連中が喚び起こそうとしているのは『エンデュミオン』……しかし、そいつぁまた」
マタイ「……あぁ、方向性が掴めん」
ベイロープ「エンデュミオンを起こすのが目的か、それとも目を覚まさせる行為に何かあるのか?」
ランシス「……それも『エンデュミオンがクトゥルーと一致していれば』って前提の話だし」
フロリス「実は全然カンケーない神様だったら笑うよーねぇ。笑えないケドさ」
上条「その、『起こす』と何か問題があるのか?今更なんだけどさ」
上条「神様――俺達が知ってる神話の中に居るような奴ら、一応人格?みたいなのと一緒に別次元に居るんだろ?」
上条「……あぁいや龍脈に『記憶』として溶けてるんだっけ」
マタイ「仮説に過ぎないさ。彼らに人格があるかどうかは分からないが、もしも神話の通りであったならば、こちらへ介入をする筈だが」
レッサー「でっすよねー?ロキさんとかルシファーさんとか、黙ってられない厄介な連中がごまんと居ますからねー」
レッサー「少なくとも過去降臨した記録が無いって事は、彼もまた全能にして白痴という存在なのかも知れませんが」
上条「だったら連中が起こそうとしているエンデュミオンだかクトゥルーだかは、あくまでも『概念』って事、だよな……?」
上条「オティヌスみたいな『魔神』がポンっと現れる訳じゃないんだよ、ね……?」
一同「……」
上条「よし待とうか!魔術師さん達!俺の言葉を否定して安心させてくれませんかねっ!?」
897 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:40:59.47 ID:uy4WSuww0(8/21)
マタイ「……絶対に無い、とは言いがたいな。可能性は低いが」
フロリス「なんつっても、超個人主義の魔術師の中でもキワモノ揃いだしぃ?」
ランシス「古い――『旧い魔術』には大量の人身御供を捧げて、神を降ろす話がイッパイ……うん」
上条「待って待って?お前らなんでそこでフラグを積み上げてんの?ジェンガと積み木を一緒にしてない?ねぇ?」
レッサー「前にも言いましたが、古代から近世まで魔術師が目指したのは『神へと至る道』ですから」
レッサー「『不老不死』も当然ステップの一つとして有り得る、と」
ベイロープ「むしろエンデュミオンの不死性を奪って力をつける、と考えると」
マタイ「それもまた有り得る話だ。むしろ自然とも言える」
鳴護「えぇっと、あの質問!いいでしょうか?」
マタイ「どうぞ」
鳴護「神様、なんですよね。エンデュミオンさん?」
鳴護「でしたら『お願いします!』って頼んだら、また眠ってくれたりとか……しませんか?」
マタイ「理屈で言えば可能。が、しかし確率で言えば極めて低い」
ベイロープ「神自体は荒ぶるのがデフォな上、それぞれの主神クラスでも理不尽なのが殆どよ」
ベイロープ「日本だってそうでしょ?国産みの神の片方が冥界へ下って死神になったの」
ランシス「……話し合いで済むんだったら、わざわざ『神殺し』の武器とか存在しない、し?」
レッサー「ですねぇ。ま、それはそれでランシス超オイシイ展開とも言えますが!」
ランシス「『Go out to the table. After all, was the former joke?』」
(表へ出ろ?やっぱりお前冗談だったんだよな?)
上条「……勝てんのかよ、それ」
レッサー「何言ってんですか、勝つに決まってるでしょうか」
上条「マジで?」
ラシンス「……北欧神話では神や巨人がバタバタ死んでる……つまり『神殺し』の術式は結構あったり」
レッサー「有名処では光り輝く英雄”神”バルドルを、盲しいた”人間”のヘズが刺し殺してますからねぇ。方法は幾らでも」
フロリス「エンデュミオンはエーリスの王で武芸にも秀でる……とはいえ人間の範疇だし?」
フロリス「『不老不死』じゃなくなったらイケるイケる」
ベイロープ「――それに勝ち負けどうこうじゃなくて、戦うべき時に戦うだけ。勝負をしない理由にはならないのだわ」
上条「またポジティブだなお前ら!いい加減にしなさいよ!」
マタイ「楽観視は決して宜しくはない。けれど必要以上に悲観視しては見える未来も臨めまい」
上条「いや、そうなんだけどもさ」
レッサー「そもそもで言えば、『異教の神を悪魔に貶めて信奉者ごと虐殺しまくった』十字教の元指導者様が何とこちらに!」
ベイロープ「はーい、アリサは見ない。眼が穢れるから」
鳴護「レッサーちゃん、今チラっとハンドサイン見え……?」
マタイ「君は戦争がしたいのかね?私でも流石にShocXXXぐらいは知ってる」
上条「取り敢えず態度と言葉は選ぼうか?下手すればこちらさんに伝家の宝刀抜いて貰うかもしんねぇんだからな!?」
フロリス「ちょくちょくネタのフリをしてデッドボール当ててるよねぇ。ブレないっつーか」
ランシス「……ちなみに人前で使ったら骨折られても文句は言えない……」
レッサー「しかも相手を間違えるとアッーーーーーーーーーー!?されるのでオトクですねっ!」
上条「真面目に!真面目にやろうぜなあぁっ!?」
898 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:43:28.24 ID:uy4WSuww0(9/21)
――カンドルフォ城 個室 夕方
上条「……」
上条(話し合いはグダグダのまま何となく終った……てか、方針が大雑把すぎるわ!)
上条(……や、まぁ魔術知識すらない俺より、プロが『待ち』でいいって結論づけたんだが)
上条(連中の目的がここへ来てようやく絞れてきた。正直ありがたい)
上条(やっぱり、というか当然のように。話の中心に居るのは――”居させられた”のはアリサか)
上条(……ま、幾ら何でもだ。ここまで来て『嘘でしたーサーセン』とかは――)
上条「……」
上条(――ある、わなぁ?あのデタラメな人間未満なら……!)
上条(……いやいや、落ち着け。考えろ。俺はずっとそうやってきた筈だ)
上条(LIVEまでの日程には余裕がある、し。ロシア公演分もローマですると決まった)
上条(ま、それは結果として和解の象徴になるからって喜んでたが……ロシアはしょーがないよなぁ。やっぱ)
上条(ここで『濁音協会』が襲撃をかけてくる可能性は無――く、はないが、限りなくゼロに近いらしい)
上条(前の戦争で疲弊したとはいえ、20億の信徒を抱える最大宗派ローマ正教。正面からケンカを売れる組織はまず居ない)
上条(もしも真っ向なり搦め手で来るにしても、それだけの戦力を持っているならユーロトンネルで仕掛けてきた筈で)
上条「……」
上条(シャットアウラの『希土拡張』で追い払って――の、直後に安曇が単独行動と)
上条(あいつが言うには『アルフレドは死ん』……だ、だっけ?なんかもっと曖昧な言い方をされた気が……?)
上条(確か転移魔術か爆発でバラバラになってた。だから安曇は『濁音協会』から抜けてって言ってたか)
上条(んでもフランスの検死解剖をした病院へ、潜り込むアルフレドの姿が目撃されてる。つか喋った人も居ると)
上条(安曇が嘘を吐く必要性は薄い。だから『バラバラになった』のは本当だろう。うん)
上条「……」
上条(でも『死んでなかった』、としたら……?)
上条(『野獣庭園』の魔術は『捕食者としての種族反映』が主目的。環境に適応して食物連鎖の頂点に立つ……って、妄想)
上条(……どんだけ強い捕食者の群れであっても、同じコミュだけでは多様性を欠く)
上条(『殺し屋人形団』は『独りで完結した生命』……つーか悪い夢だ)
上条(脳だけがギリギリ生きていて。思い出したくもねぇ――が)
上条(どっちも『不死』に関係するんじゃねぇのか、これ?)
上条(『獣化』はアイツらにしてみれば『手段』じゃなくて『目的』だとすれば――)
上条(――『同朋』を手っ取り早く作るため、の)
899 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:45:44.13 ID:uy4WSuww0(10/21)
上条(同じ思考回路と変わらない生き方を何十代、何百代と繰り返して。外側から見ればある種の『不死』、と言えなくもない)
上条(反対に強すぎる『個』を誇り、肉体を取り替える。どっか聞いた話……あぁそうか)
上条(エジプトのフェニックスは500年を生き、老いると炎の中へ身を投げ生まれ変わる。ってゲームをしていたインデックスが言ってた)
上条(『団長』もエジプト系の魔術師だし、関係はあったのかもな。グロいけど)
上条(と、考えると『アレ』はどういう位置づけになるんだ?まさか無関係って事はないだろうが)
上条(仮に学園都市の兵器だとして、魔術師的な意味を持たせられれば、意味を持つ……)
上条(……ま、俺が気づいているぐらいだし、ステイル達だって当然分かって――)
上条「……」
上条(連絡、来てねぇな!そういやさ!)
上条(フランスの病院前で別れたっきり、進展が無い……?)
上条(なんて、甘い組織じゃねえよな。最初っから10年前の『濁音協会』が魔術結社だって知ってて隠してやがったし)
上条(日本に飛んだ建宮からの連絡も俺には来ねぇ、まーた裏でコソコソやってんだよなぁ、きっと)
上条「……」
上条(あ、そういや建宮から預かった通式用霊装あったっけ?預かったっつーか、逃げやがって言うか)
上条(右手で触んないように、鞄ん中突っ込んで) ゴソゴソ
上条「これこれ」
上条(ケータイとカナミンフィギュアのストラップ。電池はバッテリーごと入ってなかった)
上条(連絡取りたいが……起動方法もサッパリ分からん。レッサー達に頼んでも、多分使ってる術式とは仕様が違うだろうし)
上条(てかそもそも『能力者』の俺が魔術を使える訳が――)
上条「……」
上条(――いや、そうでもない、のか?マタイさんの仮説が正しいとすれば、俺とアリサは『地脈使い』って事になる)
上条(つーか魔術師も使ってる力、特に『異相からの力』もそうだって話。あくまでも『可能性がある』程度だが)
上条(魔術師ねぇ?俺が?)
上条(アリサの『歌』はなんかまぁ、神がかってる感じ。納得出来るような、理解は出来る)
上条(……俺の『幻想殺し』は俺が否定するから打ち消すしか出来ない……か)
上条(神様を信じてないから、『奇蹟』を否定するから……ま、分かる気はする、けど)
上条(アンチスキルに撃たれた時も傷自体は腹だったし、そこだけを治癒する魔術なら効果は出来る筈)
上条(もしも『俺の体全般をキャンセル』出来るんだったら、アウレオルスに一回記憶をイジられた事の辻褄が合わない)
上条(後、それに)
上条「……龍」
上条(一回目はただの偶然。アウレオルスに追い詰められた――追い詰めたアイツが幻視した『竜』)
上条(恐怖心から有り得ない妄想を見た――でも、『二度目』は直ぐに来た)
上条(大覇星祭ん時、削板とビリビリ止めたあの場所で――)
上条(――俺の『幻想殺し』から出たのは『八つの頭を持つ龍』――)
上条(――これは『打ち消す”だけ”の力』なんかじゃねぇ……!)
上条「……」
900 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:47:47.94 ID:uy4WSuww0(11/21)
上条(そういや、削板だっけ?ビリビリから聞いた、レベル7の一人)
上条(暴走したビリビリを『別の世界から来た存在』……能力者が口にする台詞っぽくねぇな)
上条「……と、まぁ悩んだ所で答えは出ない」
上条「パズルを解くんだったら、今持ってるピースだけで動く……」
上条(俺の手札は『右手』と、あともう一つ)
上条(連中が活動していたイングランドのサフォーク地方のダンウィッチ)
上条(連中が”居た”所……調べるぐらいは出来るかもしれ――)
コンコン、コンコン
上条(ノック?誰だ、つってもアリサかレッサー達なんだろうが)
上条(本命アリサ、対抗ベイロープ、大穴ランシス、伏兵フロリス、地雷レッサー)
上条「……」
上条(あれ?誰が来るかって予想なんだよな?何か別の意味を持ってる感が……)
上条(そもそも俺は誰だったら嬉しいんだろ?……?)
上条(ま、考えない事にしよう!多分直ぐ結論を出さなくても大丈夫っ!)
上条(それよりも今はお客様をお迎えしようぜっ!考えるな俺!余計な事はっ!)
上条「はい、どうぞ」
マタイ「――少し邪魔をする」 ギィィッ
上条「予想外だった来やがったよ!?つーか選択肢には無い!」
マタイ「何かの話かは分からないが、期待を裏切って済まなかった」
上条「ん、いえすんません。こっちこそ」
マタイ「現実からどれだけ上手く逃げ出したとしても、現実は君を追いかけてくるが」
上条「把握してんじゃねぇか完璧に!」
上条「しかもなんか聖書の一節っぽい言い回しが余計にダメージ入るわ!」
マタイ「死神が汝の影を踏んだとしても、それは幸いなるかな。汝はまだ汚れを知らないのだから」
上条「え、何?俺、遠からず刺されるって話なの?」
上条「しかもテメェ遠回しに俺がアレだって揶揄してねぇかな?被害妄想?」
上条「もしかしてなんだけど、レッサーに散々嫌味言われてたの気にしてんのか?あん?」
マタイ「それで?私はいつまで立っていればいいのだろうか」
上条「……えぇまぁ、どうぞ?」
マタイ「失礼する」
上条「いや別にいいんですけど、つーかアリサ達だと思った……」
マタイ「食堂で何かやっていたようだが、何をやっているのかまでは知らない」
上条「んー……?飯でも作ってんじゃないですかね」
マタイ「それは重畳。佳きかな」
上条「……つーことは、アレか?ビックリドッキリイギリス飯が出てくるのか……?」
マタイ「イギリス料理は言われる程酷いものではないと思うがね。私は割と好きだ」
上条「あ、そうなんですか?やっぱ美味いトコは美味いのかなー?」
901 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:51:01.55 ID:uy4WSuww0(12/21)
マタイ「ロンドンで食べたタンドリーチキンは絶品だった」
上条「それインド料理。や、でも日本のカレーと一緒で郷土食になっちまって」
マタイ「他にもエジンバラで食べたタンドリーチキンも悪くはない」
上条「料理カブってね?」
マタイ「後は……そうだな。オーモリーの繁華街にあるこぢんまりとした家庭」
マタイ「そこで相伴に預かったタンドリーチキンもまた、懐かしい味だった……」
上条「タンドリー過ぎねぇかな?他にもメニューあったよね?イギリス料理とかイギリス料理とかイギリス料理とかさ」
マタイ「この歳で冒険するのは少し辛いものかある」
上条「てか明らかにイギリス飯をDISってる……まぁ、いいか。それで?」
マタイ「私の魔術師時代の話で、『必要悪の教会』から逃げながらの食事だからな。時間が満足に取れなかった」
マタイ「あの時、我々を壊滅手前まで追い込んだ髪の長い女、今頃どうしているだろうか」
上条「俺はその人知らないけど、多分似たような立場で宜しくやってると思うよ?」
上条「てかそんな話じゃねぇよ。いいから用件をお願いします!」
マタイ「ん、あぁ。荷物をまとめていたようだし、どこかへお出かけかね?」
上条(ヤベ、バレてる!?)
上条「あぁっと、だ。これは――」
マタイ「そちらの事情には詳しくないので好きにすれば良い。急いでいるのであれば手短に話そう」
マタイ「『龍脈』について少々話し忘れた事柄がある」
上条「……ってまたそれ」
上条(悩んでた所だ。随分またピンポイント、いやラッキー、なのか?)
上条(アリサ達には『八竜』の話はしてねぇし……隠してるって訳じゃない。ないんだが。なんかこう、言いづらい……)
上条(あんな、『バケモノ』が俺の中に――)
マタイ「神話や伝説、英雄が登場する物語に『龍』はつきものだ。オリエントから西は基本的に『竜』だが」
上条「『竜』と『龍』?」
マタイ「どちらも英語では『Dragon』。しかし漢字で表すと意味が異なる」
マタイ「『竜』は『知性に乏しい動物』としての意味が強い。恐竜が例だろうか」
マタイ「『龍』は『知性ある神格』を意味しており、中国の皇帝の何代かは『龍』を象徴としている」
マタイ「歴史的に最古の一つされる女禍と伏羲はそれぞれ竜体――蛇体の神だ」
上条「蛇、か」
上条(蛇の神様……?どっかで聞いたか……?)
マタイ「竜と蛇の境目など無かったからな。蛇が大成すれば竜と化し、竜が王となれば龍王へ転じる」
マタイ「歴史的に最古の一つとされるシュメール、そのルーツはティアマトにアプスから始まった」
マタイ「二匹の竜から人類が生まれ落ちた、そう伝えられているな」
902 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:52:36.02 ID:uy4WSuww0(13/21)
マタイ「……科学の無い時代、特に魔術が原始的な生活を支えていた時代の話だ」
マタイ「その当時の魔術師が使っていたのは『龍脈』を遣った大規模なものであった、と考えられている」
マタイ「世界各地に点在する巨石文化、そして龍脈の上に造られた東西のピラミッドや神殿」
マタイ「それらは全て龍脈をコントロールするために用いられた」
上条「ふーん?分かるような、分からないような?」
マタイ「君の国ではあまり残っていない。しかし龍脈を人々が制御下へ置いた、という話は有名だった筈だ」
上条「龍、竜……?」
マタイ「スサノオの八岐大蛇退治、そう――」
マタイ「――『八つの頭を持つ”竜”』を退治した、という伝説だな」
――カンドルフォ城 個室
上条「えっと、これって」
上条(俺の『右手』、なんだよなぁ。やっぱり。ってかどっから調べやがった!?)
マタイ「どうしたかね?何か疑問でも?」
上条「……やー、あのさ?なんでまたその話を俺に、って思っちゃってさ」
マタイ「他意は無い。ただあの場で話すのを忘れていただけだよ」
マタイ「歳はあまり取りたくないものだな。最近物忘れが激しくてね」
上条(『嘘だっ!』って突っ込みてー!?)
上条(だったらわざわざ俺だけに講義するんじゃなく!場を改めてもっかい言えば良いし!)
上条「……いや、あの、本当なんか、スンマセン」
マタイ「何を言っているか分からぬが、よい。そういう事もあろうが――さて」
マタイ「これはまた別の仮説となってくるのだが、神話に登場する『竜』は多い。またそれを打ち倒す英雄もだ」
マタイ「……そこで一つ、疑問に思うのだが――『全ての神話の竜は果たしてフィクションであったのか?』と」
上条「……はい?」
マタイ「アックアの神話の例であれば……そうだな、アックアは物語の中で悪魔のような恐ろしい女に猛然と立ち向かっていった」
マタイ「彼の英雄譚にはそう記されるだろう」
上条「キャーリサですよね?俺もちっとトラウマ残ってるが」
マタイ「彼女はフィクションかね?」
上条「だったら良いなー、ってイギリス駆け巡ってる最中に何度思った事か!」
マタイ「で、あろうな。アックアにせよ、あの女にせよ、当事者からすれば真実の物語だ」
マタイ「――が、百年後、数百年後。アックアの神話を聞いた者はそう思わないだろう」
マタイ「『これはきっと何らかの寓意を示している筈だ。だって現実に人では有り得ない事をしているから』と」
マタイ「アカデミズムに毒された民俗学者であれば、『先人の教え』、そのままを繰り返すだろう」
上条「あー……魔術が廃れればありそうな話だ」
マタイ「その話と同様、嘗ての物語、つまり私達が『神話』と呼んでいるものが『実話』だったとしたら、どうするかね?」
上条「……いやいやっ!竜がマジモンで居る訳ねぇし!」
マタイ「その通りだな。今の地球は恐竜が生存出来た環境だとは言えない」
マタイ「かといって『天使の力』――つまり異相空間からの知識であれば、『こちら側』に実在したとも言いがたい」
マタイ「……だが、それもそれで矛盾しているのだよ」
上条「”実在できっこないんだから、違う空間の知識”って仮定がどうして?」
903 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:54:00.70 ID:uy4WSuww0(14/21)
マタイ「だから、発狂するだろう?準備も素養も持ち合わせていない者が触れれば」
マタイ「そんなギリギリで得た知識を、それこそ吹聴するかね」
上条「あ」
マタイ「ましてや魔術師の特性――いや、人類の習性として富の独占は古代から社会主義まで変わらなかった」
マタイ「だというのに、そうも易々と知識が伝播されるのは異常だと言えるだろう」
上条「……神話、ってのは王権神授説だっけか?確か、統治者が自分達の権威を高めるためにしたっつー話」
上条「でも荒唐無稽にしちゃ、どこもかしこも似ている気がする……」
マタイ「だから恐らく、私達が『竜』と呼ぶ存在は居なかったのだろうな。現実には」
マタイ「だが『何か』は存在した。そして英雄と呼ばれる人間達が退治した」
上条「『何か』、とは」
マタイ「――『龍脈』――」
上条「……ですよねー、そう来ますよねー」
上条「……」
上条「分かりませんがっ!?」
マタイ「神話では荒ぶる竜を抑えるために、よく人身御供が捧げられた」
マタイ「これは治水祈祷の一環――シークエンスとして組み込まれていると言っても良い」
上条「安曇が言ってたな。『元々蛇神への生贄は事故で死んだ人』だった、って」
上条「……待てよ?そうすると『龍脈』と『蛇神』は『災害の体現化』なのか……?」
マタイ「『龍脈』を人の手で操るというのは、多分に地形から手を入れねばならない」
マタイ「強すぎる力を抑えるためには、治水事業をして氾濫を繰り返す水脈を抑えたり」
マタイ「また手のつけられないような場所であれば、『禁足地』や『禁猟区』として入らずのタブーを設けたりもした」
上条「これは例えば、例えばの話なんだけど」
マタイ「――ここで最初の話へ戻るが、八岐大蛇も荒ぶる龍脈であったと推測される」
上条「聞けよ話。言わせてくれないのはむしろ感謝するが!」
マタイ「大抵の首は一本、多くても二つ。それが八つ集まるとは手に負えない龍脈なのだろう」
マタイ「……日本には、古来より『九頭竜(クズリュウ)』の伝説が多い」
上条「地名で聞いた事がある」
マタイ「私が知っているだけで、九つの頭を持つ竜の伝承が10ヶ所以上に存在する。勿論退治したという伝説とセットでだ」
上条「……成程。そう考えると”竜=龍脈”って考えも間違ってないような……?」
マタイ「『龍脈』である以上、竜とは切っても切れない縁がある、ぐらいの理解でも構わない。何にせよ証明されていない仮説だ」
上条(って事は、アレか?俺の『右手』には相当量の龍脈を操るだか、打ち消す力があって)
上条(その力が膨大だから『八つの頭を持つ竜』って形で現れた、と)
904 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:55:52.80 ID:uy4WSuww0(15/21)
マタイ「これは余談だが、というか完全にジョークなのだがね」
マタイ「狂えるアラブ人、アヴドゥル=アルハザードが書き残したネクロノミコン。それに登場する邪神の名前は知っているかね?」
上条「何度も聞いた。クトゥルーだろ?」
マタイ「日本の作家がジョークで言い出したのだよ。『アルハザードは聞き取れなかっただけで、実はしっかりとした単語だったのでは無いか』と」
上条「単語?どういう意味?」
マタイ「『Dragon』と『Dracula』、似ているだろう?流暢な発音をされれば混同してしまう程に」
マタイ「……ま、元々は同じものであったが」
上条「あー、分かる分かる!単語の語尾を略すから聞き慣れてないと間違うヤツな!」
マタイ「当然、他の文化圏にもある。『橋』と『箸』とか」
上条「や、でもクトゥルーだろ?他の単語と間違うようが――」
マタイ「『九・頭・竜(ク・トウ・リュウ)』」
上条「――ッ!?」
マタイ「作家曰く、『触腕に見えたものは九つの頭、不定形に見えたのは躰が腐敗しているからだ』との話だ」
マタイ「大航海時代、時折船に打ち寄せられた『シー・サーペント(海竜)』の屍体は、殆どが酷く腐っていた」
マタイ「翻って現代。残された記録を元にして、海竜の正体を探ってみれば多くは鯨、もしくはダイオウイカの屍体だという結論が出た」
マタイ「イカが竜に間違われるのだ。竜がイカに間違われているのもおかしくは無い――さて、どう思うかね?」
上条「…………………………ユカタン」
マタイ「それもまた、佳い」
905 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 12:59:24.24 ID:uy4WSuww0(16/21)
――カンドルフォ城
マタイ「――私から話す事は以上だ。邪魔をして済まなかったね」
上条「あ、いえ別に。つーかこっちこそ、ありがとう、ございます」
マタイ「いやなに、伝えるのを忘れたのはこっちだ。礼を言われる筋合いは無い。無いが……一つだけ、頼まれてはくれないか?」
上条「ん、あぁ俺に出来る事なら」
マタイ「玄関――門の所に車を待たせているのだが、生憎都合がつかなくて行けなくなってしまった」
マタイ「良かったら私に代って断りを入れて来て欲しい」
上条「あー、はい。別に構いませんけど。そんなんで良かったら」
マタイ「……」
上条「……はい?まだ何か?」
マタイ「……私の名前を出せば市内観光でも空港でも、好きな所へ行けるだろうが」
マタイ「君はしないのだろう?”そういう”事は。絶対に?」
上条(これ、もしかして……ダチョウ的な?『押すなよ!絶対に押すなよ!』みたいなアレか?)
上条「……いやホンっと何かもうすいません。何から何まで」
マタイ「佳い、と言った。こちらは君に一つ借りがある身。とても返せたとは思っていないが」
上条「借り?」
マタイ「ヴェントへ君の抹殺を命じたのは私だ」
上条「……あぁ、そうだっけ。でも良くしてくれてんだし、別にチャラで良いって」
上条「アリサの『歌』も危険じゃ無いって言ってくれたし……マタイさん?」
マタイ「……そうだな。私は確かにそう言った――危険ではない、と」
マタイ「ただより正確を期すれば『危険”どころ”ではない』んだよ、上条当麻君」
上条「……何?」
マタイ「確かに『歌』を媒介にする術式は数多い。術式起動の詠唱や呪文もまた歌という属性を占めている」
マタイ「だがアレほど純化した『歌』ともなれば、まさに神話の時代にまで遡らないと例を見ない」
上条「待て――待ってくれよ!?それじゃさっきのは嘘だったって言うのか!?」
マタイ「大質量の建造物一つの落下軌道を変える――それ自体は困難ではあるが、不可能では無い。準備の人員と時間を取れれば容易だ」
マタイ「だがしかし『一個人が歌の力だけで退ける』となれば……だ」
マタイ「そもそも、と言うのであれば、彼女が凡庸な”体質”の人間であれば、『S.L.N.』から目をつけられもしなかった。が」
マタイ「たかだか数万、精々数十万人分の『意志の力』を媒介にして、『奇蹟』を起こしてしまったのだから」
マタイ「……悪かった、いや事態をややこしくしているのは科学の力だ」
上条「なんで?アリサも俺と同じ無能力――」
906 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 13:01:06.41 ID:uy4WSuww0(17/21)
マタイ「いやいや異能の事では無い。通信インフラ――ネットの普及だ」
マタイ「古代、統治者であった異能者はその力を民衆へ見せつけただろう」
マタイ「アリサ君のように『歌』で奇跡を起こした例も当然ある」
上条「だったら別に!」
マタイ「――だがそれも、精々影響を及ばせるのは数千程度。桁違いだ」
上条「……アリサが特別だって話か?」
マタイ「まだ分からないのかね?ネットだよ、ネット。世界中に張り巡らせた電子の網」
マタイ「普通であれば遠くの国で発動した魔術がネットを通して感染する、のは有り得ない出来事である」
マタイ「だがアリサ君の『龍脈』もまた文字通り、世界と繋がっている。どこに居ようが某かの関わりはある」
マタイ「よってその気になれば、億単位の人間の『願い』を凝縮させ、『奇蹟』を起こしてしまう可能性だってある」
上条「ローマ正教も、敵に?」
マタイ「私達は私達の味方だ。ない、とは言いきれないが……私はそうはならないと思うよ」
上条「どういう意味だよ!?」
マタイ「彼女を弑するモノがあるとするならば、恐らくそれは彼女の善性だろうな」
上条「善性……?」
マタイ「いや老人の戯言さ。悲観ばかりしていると碌な事にはならない」
マタイ「テッラを見過ごし、フィアンマに気付けなかった者に、未来を語る資格は無いのだろうな」
マタイ「20億の信徒を一度は束ねた身であっても、この有様だ。情けない」
上条「……」
マタイ「済まなかったな。再度呼び止めてしまって」
上条「――その、マタイさん。一つだけお願いが」
上条「何かお仕着せがましくて嫌なんだけど、『借り』に思ってるんだったら」
マタイ「出来る事ならば」
上条「俺が居ない間、アリサを宜しくお願いします……!」
マタイ「約束しよう。けれどそれは最初の約束事に含まれているので、借りを返せるとは言えないな」
上条「そっか、それじゃ……その、良かったら、で良いんだけどさ」
上条「安曇と『団長』の遺体、元の国へ帰す、ってのは無理かな?」
マタイ「……出来なくは無いが……敵なのだぞ?」
上条「敵”だった”としてもだよ。死んだ後ぐらいには、故郷へ帰っても良いんじゃねぇかなって」
マタイ「……ふむ。道理ではある。灰にした後でも良いのであれば、何とかしよう」
上条「灰……火葬?」
マタイ「と言うよりは復活しないように、また魔術的な記号を持たないように、だ」
上条「分かりました。それでよろしく」
マタイ「汝の進む道に灯明を。願わくば困難が避けて通る事を――」
907 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 13:03:03.89 ID:uy4WSuww0(18/21)
――カンドルフォ城 前
上条「……」
上条(……すげー人だったなー。何つーか、うん、何つったらいいのか分からんが)
上条(ローマ正教としての立場があるのに、『気をつけろ』ってわざわざ警告してくれた辺り、やっぱ元教皇って感じはする)
上条(危険って言われても、アリサは何も悪くない訳で――なんて言い分を通用する相手じゃないし)
上条(学園都市に居ればまだ、他からの要らないお節介は避けられる……)
上条(最悪引退……いや、曲を作るだけに専念するとか?作詞作曲全部やってるって言うし)
上条(でもそれじゃ『歌うのが好き!』だってアリサの思い否定しちまうよなぁ、やっぱ)
上条(……ユニット組ませるとか?例えば柵川中の核弾頭さんとか、ノリノリでやってくれそう?)
上条(他にも……要はLIVEすんな、って事だよな?知らず知らずの内に『奇蹟』を起こす可能性があるから)
上条(『人数』が問題ってんなら、シークレットライブにすりゃ大した問題も起きないし?)
上条「……」
上条(あ、なんだ。深刻ぶる事はなくね?問題が起きるのが分かってれば、対処は出来る)
上条「……そう『分かっていれば』、か。だからマタイさんはわざわざ警告してくれたと」
上条「……」
上条(『借りを返す』とか言ってたけど、どっちの話だっつーの。ま、いいや)
上条(んな事よりも俺は俺の出来る事――あぁ、あったあった)
上条(フィアットかー……『スゲェ外車だ!』とか思ったけど、こっちのメーカーだから普通か?)
運転手「――てーかイタリアだから国産車ですよね、完全に」
運転手「一時期は車が売れずGMへの売却も考えたらしいんですが、その後に出した軽自動車のパクり――コンパクトカーが大人気」
運転手「今は持ち直して充分にやっていますが、次世代技術の開発に乗り遅れてしまったため、恐らくエコカーでは後れを取るかと」
上条「何かすいません中途半端な知識でねっ!」
運転手「いえいえ、さ、どうぞどうぞ中へ」
上条「あ、はい」 パタン
上条(なんで流暢な日本語?しかも若い女の子――嫌な予感しかしねぇな!)
運転手「お客さん、どちらまで?」
上条「空港までお願いします」
運転手「あ、それじゃこちらのタクシーチケットにサインをお願いします」
上条「チケット?客が名前書くなんて聞いた事無いんですけど」
運転手「あー、領収書みたいなもんですから、えぇ。仕様だから仕方がないです」
上条「そっか仕様なら仕方が――って違うよね?これ違くね?」
上条「この緑で印字された用紙、『婚姻届』ってモロ日本語で書いてあんだけど、これ別の書類だよね?」
運転手「えぇですから『ア、アンタの人生を運んで上げるんだからねっ!』って意味です!」
上条「そんなツンデレ聞いた事ねぇよ!?なんでタクシーの運ちゃん相手と一々エンゲージする必要がある!?」
運転手「ツンデレタクシー、流行ると思うんですがねぇ」
上条「それタダの接客態度の悪いタクシーだろ。会社に抗議来まくりだぞ。つーかさ、何?」
908 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 13:04:29.97 ID:uy4WSuww0(19/21)
上条「こんなとこで何遊んでんのレッサーさん?」
レッサー(運転手)「流石です上条さん!この私の華麗なる変装を見破るとはねっ!」
上条「変装してないよね?君、いつもの格好そのまんまで運転席座ってたよね?」
レッサー「――と、言う訳でこちらにサインをですね」
上条「……いや、お前んとこの名前に『レッサー』って明らかな偽名が書いてあんだけど、受理されねーだろ」
上条「そもそもで言えばお前は俺を利用したいんであって、入籍が目的じゃねぇだろうが!」
レッサー「えっ?」
上条「えっ?」
レッサー「え、えぇえぇそうですともっ!私はブリテンの国益が一番であって、上条さんの事なんか好きじゃありませんからっ!」
上条「……あれ?迫真のツンデレだな……?」
レッサー「――と、言う訳でしてね、こちらの同意書にサインして魔法使いになって下さいな」
上条「ループ禁止。あと多分この紙にサインした人は、100%の確率で魔法使いとしての資格を失うと思うぜ?」
上条「つーかお前なんでここに?」
レッサー「いやですよぉ上条さん。私を出し抜けるとお思いで?」
レッサー「以前ロシアへ行った時にも、私から逃げられなかったじゃないですか?」
上条「あー……あん時は助かった、けどさ」
レッサー「ロンドンまでの直通便は出ているでしょうが、そっからどこをどう行ったらダンウィッチへ行けるか分かります?」
レッサー「むしろトラブルやラッキースケベに巻き込まれず、すんなり目的地へ行ける自信がおありで?」
上条「ないですよねっ!これっぽっちもねっ!」
レッサー「どうせロンドンへ着けば着いた先でTo LOV○るでしょーしねぇ」
上条「その発言はおかしい。あと”とらぶる”でその単語が一発返還出来るATO○も何か違う」
上条「……いやでも、お前よく分かったよなぁ。それとも霊装かなんかで監視してたの?」
909 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [saga] 2014/10/14(火) 13:06:55.40 ID:uy4WSuww0(20/21)
レッサー「またまたー。術式が効かないのはご存じでしょうに」
上条「だったらどうやって?」
レッサー「そりゃ勿論、私はあなたをずっと見てるからに決まってますよ」
レッサー「フィアンマに出し抜かれた後、周囲の人間、誰一人気づかせる事無くロシアへ向かった――」
レッサー「――そんなアナタを……」
上条「……レッサー?」
レッサー「…………あぁ、成程。そういや、そうでしたか。こいつぁまた、中々どうして悪かない、かもです」
レッサー「思えばその時にはずっと”見て”たんですねぇ、上条さんの事」
レッサー「今に想い出してみれば、そういえば、という所は幾つもありましたっけ……」
上条「何の話だ?」
レッサー「いいや別に?そのうちお話しする機会は持てると思いますが」
上条「ふーん?まぁ、今はイギリス行きだよな」
レッサー「ですねぇ。ま、時間はありますので追々に」
上条「よし、それじゃ行こうぜ!」
レッサー「えぇ、行きましょうか」
レッサー「――ま、それはさておき、こちらの航空券チケットの名前欄へサインを」
上条「お前もう帰れよ!?つーか同じ紙じゃねぇか!もっとヒネりなさいよっ!」
910 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/14(火) 13:08:59.42 ID:uy4WSuww0(21/21)
今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
そろそろ次スレを立てねば。1スレに収まる予定だったんですがね
911 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 13:24:20.85 ID:RSODDFJSO携(1)
乙。よくあるよくある。
912 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 15:01:36.45 ID:0bl2+Zt6o(1)
乙です
913 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 15:44:26.08 ID:tRIr/VeNo(1)
乙です。
『水使いのリンドウ』を思い出しました。
914 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 15:57:52.25 ID:NPmK6GiE0(1/2)
乙です
915 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 15:58:32.48 ID:NPmK6GiE0(2/2)
乙です
916 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/10/14(火) 18:49:32.37 ID:UJtdulJDO携(1)
乙!!
>>マタイ「死神が汝の影を踏んだとしても、それは幸いなるかな。汝はまだ汚れを知らないのだから」
上条「え、何?俺、遠からず刺されるって話なの?」
週単位で重症になるんだから今さらでしょ
刺されたことは無いが
917 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/10/14(火) 21:02:15.08 ID:XR1Ee/dB0(1)
なんとなくですが、AIM拡散力場の概念にも通じるような話だったり。
学園都市が歴史を重ねれば、虚数学区にも能力者の記憶が蓄積……とか。
さって、やっとレッサーのターンだぜ!
上下前次1-新書関写板覧索設栞歴
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル
ぬこの手 ぬこTOP 0.501s*