[過去ログ] 【ほむら】「あれから10年か…」 (1002レス)
1-

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
次スレ検索 歴削→次スレ 栞削→次スレ 過去ログメニュー
1 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) 2011/11/27(日) 22:50:57.77 ID:Wa/5bzz40(1/6)
はじめまして、このような大型掲示板に投稿するのは初めてな者です。

最初に簡単な概要を

・魔法少女まどか・マギカSS
・原作最終話から10年後の話(if)
・タツほむ(冒頭or一部はほむらメイン。後はタツヤメインです)
・オリキャラ要素あり

以上です。

何分不慣れなもので、色々と不備があると思いますが、
その都度指摘していただけると有難いです。

では宜しくお願いします。
903 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/19(金) 01:23:12.28 ID:5TGky6Rlo(1)

904 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) 2012/10/19(金) 02:15:59.80 ID:V8Aoqh1do(1)
乙〜

そろそろ次スレの必要性を頭に入れておく時期ですね

905 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/23(火) 18:05:24.96 ID:wdj5Q0YDO携(1)
やっと完結した方のスピンオフ読んだが色々突っ込み所が多いが特に
・各主要キャラの多彩な顔芸
・電波系魔法少女とサイコ魔法少女のクレイジーな思考
・骨
・ゆまちゃんまじ天使
のせいで本編より衝撃的だったわ


906 川´_ゝ`){藤浪と北條とか胸アツだな ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/28(日) 01:55:50.70 ID:00CD0AnG0(1)
夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

>>904さん
そうですね。一応3話がこのスレ内で終わる予定なので、4話から次スレに行こうかなって考えてます。

>>905さん
きらマギに載ってる番外編は、作画が変わり過ぎてて違う意味で衝撃受けます。

次回の投稿は明日29日0時以降を予定しいます。
お待たせしておりますが、宜しくお願いします。

それでは今日はこの辺で。お休みなさい ノシ
907 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) 2012/10/28(日) 11:47:10.28 ID:7sVYCjhu0(1/2)
乙 投下時期を言ってくれるのは本当にありがたい
908 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/28(日) 13:16:02.46 ID:5cKtkhpDO携(1)
???「織莉子とキリカ。見滝原中学校にとって非常に迷惑な存在だったのだ」
この二人を見てたら小説版女神転生の中島と弓子思い出した
散々やらかした挙げ句、本人達は満足してる所とか
さすがに傍迷惑っぷりならこの中島と弓子には負けるがな。あっちは世界滅亡だし

909 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] 2012/10/28(日) 16:07:44.03 ID:iT/vgeXe0(1)
プレイアデスはどうなっているんだろう?
カンナあたりは出そうだけど・・・・
910 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) 2012/10/28(日) 23:13:03.16 ID:7sVYCjhu0(2/2)
カンナ妹ズが出てくる可能性が微レ存…?
911 川´_ゝ`){めっさ遅刻しとるやん ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/10/29(月) 00:50:31.91 ID:TY6KliiF0(1/14)
夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧有難う御座います。

お待たせしました。それでは続きを投稿します。
912 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/10/29(月) 00:54:30.72 ID:qHHF9rWio(1)
コノシュンカンヲマッテタンダー!
913 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 00:55:33.08 ID:TY6KliiF0(2/14)

【ほむら】
「キュゥべえ」

【QB】
「何だい?」

【ほむら】
「あの子に変なこと吹き込んでないでしょうね?」


あの子が帰った後、私に付いてきたコイツを問い詰める。
魔法少女のことを知れば、あの子はきっと色々と考え込んでしまうだろうから。
ゆまのこともそうだったが、余計な心配を掛けたくはなかった。


【QB】
「変なことってなんだい、例えばほむらの胸は巷で噂の72より・・・」


【ほむら】
「・・・」(※黒翼が漏れ出している)


・・・・。


【QB】
「・・・冗談だ。そんなに怒らないでおくれよ」

【ほむら】
「真面目に答えなさい」


今度ふざけた発言をしたら・・・容赦はしない。


【QB】
「・・・まあ、ある程度はね」

【ほむら】
「あなたっ」


予想はしていたけど、やっぱりコイツ・・・。ある程度って・・・どの程度まで話したのよ。

あの子は・・・コイツの話を聞いて、どう思ったのだろう。
さっきはそういう素振りを見せなかったが、私達のことについて深く考えていなければいいのだけど。

だってそれは、あの子の身を危険に晒すことに繋がってしまうから。


【QB】
「別に君達に迷惑が掛かるようなことは言っていないよ」

【ほむら】
「そういうことを言っているんじゃないわよ」

【QB】
「じゃあ、なんなんだい?」

【ほむら】
「さっきも言ったでしょ?あの子を巻き込みたくないのよ」

【QB】
「君がどうしてそこまで彼のことを気にするのかが分からないよ」

【ほむら】
「・・・」


914 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 00:59:00.77 ID:TY6KliiF0(3/14)

コイツに痛いところを突かれ、思わず黙ってしまう。

私が・・・どうしてあの子のことをそこまで気にしてしまうのか・・・か。

それは勿論、あの子がまどかの弟だから。
そして、あの子がまどかと重なるから・・・だから、あの子を巻き込まないようにすることに、此処まで執着してしまうのだろう。

かつて、私が彼女を救うために時間を何度も巻き戻したように。

それ以外の理由なんて、多分存在しない。


【QB】
「彼と行動を共にしてみたけど、他と大して変わらない普通の人間だったんだ」


当たり前だ。コイツがあの子の私生活を観察したところで、満足のいく結果が得られるわけがない。
あの子は何処にでもいる普通の男の子なのだから。

そう、他の子と何も変わらない・・・普通の・・・。


【QB】
「今ではあの時の魔法はマグレだったんじゃないかってくらいにね」

【QB】
「そんなわけはないんだけどね〜」


なのに、あの子は・・・魔法を使った。まどかの魔法を・・・。どうしてかは・・・私には分からない。
あの子が微かにまどかのことを覚えていることと、何か関係があるのだろうか。

何にしても、このまま放置しておくわけにはいかないだろう。
やっぱり―――――また、あの子とは会うことになるかもしれない。


【ほむら】
「・・・」

【QB】
「相変わらず君は彼の事になるとだんまりだし」

【QB】
「もう何がなんだか・・・」


珍しくキュゥべえが弱音を吐く。流石のコイツでも、あの子のことを図りかねているということだろう。

事情をある程度把握している私でも、あの子の力のことは理解出来ていないのだから当然よね。
まぁ理解できたとしても、コイツに言うつもりは無いけどね。


【ほむら】
「・・・」

【ほむら】
「・・・まどか」ボソ

【QB】
「ん?何か言ったかい?」

【ほむら】
「いいえ、別に」


まどか・・・、あなたの弟がどうして魔法を使えるのか・・・私には分からないけど・・・。
それでもどうか、あの子の身に不幸が起きないように・・・ちゃんと見守ってあげてね。


915 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:02:47.93 ID:TY6KliiF0(4/14)

――――――――――――――――――――

【タツヤ】
「戻りましたー」ガチャ


俺は今、恭介さん達の自宅にお邪魔している。昨日言っていた中学入学パーティーの為だ。
もう少し日にちが空くかと思っていたが、思い立ったが吉日というのかなんなのか、昨日のうちに電話が掛かってきて今日行う事になった。

なので、学校が終わった後、家で私服に着替え、恭介さん達の家を訪れた。
そこで食べ物はあるが、飲み物を切らしてしまっているということだったので、俺が買出しに行って来たのだ。

近くのコンビニで飲み物を買おうとしたのだが、お金が足りないという大惨事を起こし、途方にくれていたところを暁美さんに助けてもらった。

暁美さんはいらないって言っていたけど、お金・・・ちゃんと返さないとな・・・。

その後も暁美さんと話していてせいか、時間が掛かってしまったけど・・・どうやら間に合ったようだ。


「ミー」


玄関で靴を脱いでいると、後ろから猫の鳴き声が聞こえてきた。
振り返ると、リビングの方から1匹の黒猫が此方に近付いてくる。


【タツヤ】
「おーエイミー。出迎えご苦労さん」


その黒猫の名前はエイミーといい、恭介さん達が飼っている真っ黒な身体が特徴の雑種の猫である。


【エイミー】
「ミー」ゴロン


俺の近くまで近付いてくると、エイミーは眠たそうな顔をして廊下に敷いている玄関マットに寝転がり背中をマットに擦り付ける。
多分、寝起きで背中が痒かったのだろう。


【タツヤ】
「はは、相変わらずおばさんくさいなー」

【エイミー】
「ミ〜・・・」

【タツヤ】
「悪かったって、そんな怒るなよ」


エイミーが不機嫌そうな泣き声を出す。どうやら気に障ったらしい。

コイツはもう10年くらい生きている結構な老猫で、人間の年齢で言えば多分俺よりずっと年上だと思う。というより、この家の中で一番の年長者なのではないだろうか。
元々は仁美さんが学生の頃からひっそりと飼っていた猫なんだとか。

因みに余所者の俺に懐いているのは、多分俺を自分の子供か孫のように思っているからだろうと仁美さんが言っていた。


916 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:07:04.25 ID:TY6KliiF0(5/14)

【恭介】
「やあ、ご苦労様」


エイミーとじゃれ合っていると、リビングから今度は恭介さんが出迎えに来てくれた。
俺は自分の靴を来客者用の下駄箱に入れ、エイミーと一緒にリビングへと向かう。

リビングに入ると、出掛けている内に恭介さん達が準備したのか、テーブルに簡単な装飾が施されていた。
そこはまるで、何処かの洒落たレストランのようだった。


【恭介】
「わざわざ悪かったね、タツヤ君の為のパーティーだったのに」

【タツヤ】
「いや、別にいいですよ。気にしないで下さい」

【仁美】
「あらタツヤ君、おつかれ様。お料理ももうすぐ出来るところですわ」

【タツヤ】
「本当だ、良い匂いがしてますね」


テーブルに荷物を置いていると、キッチンからエプロン姿の仁美さんが顔を出す。元々綺麗な人なので、エプロン姿も中々様になっていた。
キッチンには仁美さんが作った料理のいくつかが既に並べられており、後はスープが出来上がるのを待つだけとなっていた。


【恭介】
「それにしても、少し時間が掛かったみたいだね」


【タツヤ】
「ああ、えーと・・・そうですね」


キッチンの前で、仁美さんの料理を観察していると、ソファに座っていた恭介さんにそんなことを言われた。
俺はその一言で、この人達に聞いておきたいことがあったのを思い出す。


【タツヤ】
「あの、恭介さん達って暁美ほむらさんって知ってます?」


それは、暁美さんのことだ。あの珍獣が今日のことを話した時、あの人は恭介さん達とのことを知っているようだった。
暁美さんは、ただのクラスメイトだと言っていたけど・・・実際のところはどうだったのだろう、と疑問に思っていたのだ。

それに、クラスメイトだった恭介さん達なら、暁美さんのことを少しは知っているかもしれないとも思った。


【恭介】
「暁美・・・さん?」

【仁美】
「え、暁美さん!?彼女が、どうかしましたの?」


暁美さんの名前を出すと、恭介さん達が驚いたような表情を浮かべる。
仁美さんに至っては、料理中にも関わらずキッチンから飛び出してきてしまった。

な、何なんだ・・・二人のこの反応?やっぱり、ただのクラスメイトじゃないのかな・・・。


917 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:09:30.48 ID:TY6KliiF0(6/14)

【タツヤ】
「いや、実は・・・」


俺は今日コンビニで暁美さんにお世話になったことを二人に話し始める。
それと、俺がなんで暁美さんのことを知っているのかも簡単に説明した。

でも、流石に魔法少女関係のことは言っていない。そんなことしたら、あの人達の迷惑になるかもしれないし、それに・・・多分信じないだろうし。


【恭介】
「へぇ〜暁美さんが・・・」

【仁美】
「・・・・」

【タツヤ】
「はい」


暁美さんのことを話すと、二人は次第に口数が少なくなっていき、黙り込んでしまった。
先程までとは違い、リビングには重苦しい空気が流れ、エイミーだけがのんきにソファでゴロゴロと寝転がっている。


【タツヤ】
「あの・・・暁美さんとは、どういう・・・?」

【恭介】
「いや、あまり接点はないんだけど・・・」

【恭介】
「ちょっと、昔に色々と・・・ね」

【タツヤ】
「はあ・・・?」


昔・・・か。そういえば、あの珍獣もこの二人のことを知っているようだったな・・・。
今と似たようなことも言っていたし。

アイツが関わっているとすれば・・・多分、魔法少女のことだよな?
でも、恭介さん達は魔法少女のことを知らないみたいだし・・・。

この二人と暁美さんとキュゥべえ、この3人と1匹の間に・・・何かあったということだろうか?

う〜ん、でも何だろう。この二人の反応見てると・・・この人達が直接結びついているとは思えないんだよなぁ。
この人達を結び付けるには―――――――まだ何か欠けているものがあるような・・・そんな気がする。まあ、これは勘なんだけど。


【仁美】
「タツヤ君」

【タツヤ】
「? はい?」


それまで黙って俺の話を聞いていた仁美さんに突然名前を呼ばれた。
仁美さんは目線をキョロキョロと泳がせ、落ち着かないような素振りを見せる。
そして、意を決したように俺に向けて言葉を続けた。


918 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:12:46.94 ID:TY6KliiF0(7/14)

【仁美】
「暁美さんは・・・元気にしていましたか?」


どこか暗い表情を浮かべて、仁美さんはそう言った。
やっぱり…知り合いだったのかな?でも、なんでこんなに表情が暗いんだろう。
それに、なんだか・・・少し寂しそうだ。


【タツヤ】
「ええと、そう・・ですね。元気・・・だったと思いますよ?」


仁美さんに自分の率直な感想を述べる。
暁美さんは不思議な雰囲気を醸し出して物静かな人だけど、元気か元気じゃないかと聞かれたら・・・恐らく前者だろう。
ああいう人だから、パっと見では判断できないんだけど・・・多分、ね。


【仁美】
「そう・・・、だったら・・・良かったですわ」

【タツヤ】
「は、はあ・・・?」


返答を聞いて、心なしかホッとしたような表情に変わる仁美さん。
その表情の変化の意味は分からないけど・・・他人を寄せ付けないようなイメージを持つ暁美さんのことを心配してくれる人がいて、俺は何処か安心していた。


【恭介】
「・・・」

【仁美】
「お料理、運んできますね」

【タツヤ】
「あ、俺も手伝いますよ」

【仁美】
「ふふ、ありがとう」


再び仁美さんは笑顔に戻り、キッチンに戻る。
火を付けっぱなしだったスープが沸騰していたので、慌てて火を消した。
そして、キッチンに並んであった料理をテーブルに運ぶため準備する。


・・・恭介さんがまだ黙ったままだったが、その時はあまり気にならなかった。


【エイミー】
「ミー」トコトコ

【タツヤ】
「いや、お前は食べれないだろ」ガシ


俺達が準備をしていると、後ろからエイミーがトボトボとキッチンに入ってきた。
多分、料理のいい匂いに釣られてやって来たのだろう。さっきまで寝てたくせに・・・。


919 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:14:58.87 ID:TY6KliiF0(8/14)

【エイミー】
「ミー・・・」ションボリ

【タツヤ】
「後でキャットフードやるから」


エイミーの首を掴み、ソファに戻す。
ただでさえ高齢なのに、人間の食べ物なんか与えたらコイツの身体に毒だろう。
凄く残念がっている気がするが・・・まあ、餌とミルクやるからそれで我慢してくれ。



そんなこんなで、数分後。


【恭介】
「準備はこれくらいで良いかな?」

【仁美】
「では、始めましょうか」

【タツヤ】
「はーい」


準備を終え、テーブルに料理を並べる。恭介さんも手伝ってくれたおかげで、スムーズに進めることが出来た。
エイミーには前述通りキャットフードとミルクを与え、今はテーブルの下にいる。


【恭介】
「じゃあ乾杯しようか」


恭介さんはそう言って、今度はテーブルにグラスを並べ始める。


【タツヤ】
「あっそうだ、飲み物開けないと」


それを見て、買ってきた飲み物をまだ開けていないことに気付き、急いでコンビニの袋からペットボトルを取り出す。
とりあえず1本だけ取り出し、残りはビニール袋ごと床に置いた。


【タツヤ】
「よーし」


【恭介】
「!? ちょ、ちょっと待つんだタツヤ君!!」


【タツヤ】
「へ?」キュッ


勢い任せにペットボトルを開けようとすると、何かに気付いたかのように恭介さんが慌てて止めに入る。
しかし、勢いを付けすぎたせいか、恭介さんが制止したにも関わらず、返事と同時にペットボトルのキャップを外してしまった。


920 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:16:46.09 ID:TY6KliiF0(9/14)



シュバァァァァァァァァアアアア!!!!





そして・・・次の瞬間、中身の炭酸水が噴水のように勢いよく噴出してきた。



【タツヤ】
「」ビッチャビッチャ・・・



突然のことで避けることが出来ず・・・・俺は盛大に噴出した炭酸水の餌食になる。

どういうことだおい・・・なんでこんなに豪快に噴出すんだよ、漫画じゃあるまいし。
色んなところがビチャビチャになったじゃねーか。


【恭介】
「タツヤ君・・・炭酸のペットボトルは運ぶとき気をつけないと・・・」

【タツヤ】
「ふぁい・・・」

【仁美】
「(ベタですわ・・・)」

【エイミー】
「ミー」コレハヒドイ


恭介さん達が苦笑いを浮かべながら此方を見つめている。
・・・あー、そういえば暁美さんを追いかける時とこっちに戻る時に思いっきり走ったからなぁ。
でも、こんなに露骨に噴出すものなのか・・・。何故かエイミーにも呆れられた声出されるし。

はあ、のっけからとんだびっくりパーティーになっちゃったな。せっかく俺の為に開いてくれたのに・・・。
でもまあ・・・俺らしいって言えば、俺らしいか。


因みにその後は大した問題も起きず、俺は濡れた服に構うことなく仁美さんの料理を堪能した。

結局、暁美さんのことは話題に上がらなかったが、まあ他人の人間関係にあまり口は挟めないし・・・しょうがないか。


921 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:20:58.19 ID:TY6KliiF0(10/14)

――――――――――――――――――――


【タツヤ】
「ふー良い風呂だった〜」


パーティーも無事に終わり、俺は一足先にお風呂をいただいた。
今日は恭介さん達の家にお泊りすることになっている、父さん達も了承済みだ。
本当はそこまで迷惑掛けたくないと断ったのだが、二人が是非ということだったので好意に甘えさせてもらったのだ。


【タツヤ】
「え〜と、客間は何処だっけかな〜と・・・」


俺の寝る布団は2階の客間に敷いてあると仁美さんに言われたので、今は2階に来ている。
二人の家にお邪魔するなんて久しぶりだったから、イマイチ部屋の位置が分からずに、そこら辺をうろうろと歩き回っていた。


【タツヤ】
「ここか!!」ガチャ

【タツヤ】
「あ、違った」


【タツヤ】
「此処は・・・恭介さんの部屋か?」


とりあえず適当に扉を開けてみる。
しかし、そこで行き着いたのは客間ではなく―――――恭介さんの部屋だった。


【タツヤ】
「相変わらず凄い部屋だな」


恭介さんの部屋は、これでもか!!ってくらい音楽関係に溢れていた。
演奏で使う何種類ものヴァイオリンに沢山の楽譜、それに加えてあの人が貰ったであろう表彰状やトロフィーなどが綺麗に飾ってある。
この部屋を見ると、改めて恭介さんは凄い人なんだな〜としみじみ思う。仁美さんもさぞ鼻が高いだろう。


【エイミー】
「ミー」

【タツヤ】
「ん?なんだ、エイミーも入ってきちゃったのか」


扉を開けっ放しにしていたせいか、エイミーが恭介さんの部屋に入ってきてしまった。
エイミーは俺の方へとのんびりトボトボと近付いてくる。


【エイミー】
「ミー」ピョン

【タツヤ】
「おーい、あんまり動き回るなよー」


エイミーは俺に近付くやいなや、ピョンと棚に飛び乗りその後もあちこち動き回る。
飾っている物を倒すんじゃないかと内心ヒヤヒヤしたが、エイミーも長年この家にいて分かっているのか、そういった記念品などには手を出さないように配慮しているみたいだった。


922 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:24:48.64 ID:TY6KliiF0(11/14)

【エイミー】
「ミー」トントン

【タツヤ】
「なんだ、どうかしたのか。おっこれは・・・」


と、そこでエイミーがある場所で立ち止まり、俺を呼ぶような仕草を取る。そこは、恭介さんが使っている机だった。
その机には音楽の専門誌の他に、語学の参考書などが並んでいる。きっと海外に行くための勉強をしているのだろう。
また、机上には何も書かれていない楽譜とペンが置いてあり、端には恭介さんが書き込んだであろう楽譜が積んであった。


【タツヤ】
「恭介さんって作曲もやってるんだな〜」

【タツヤ】
「う〜ん、俺には読み取れん・・・」


音楽の成績が良いとも悪いとも言えない自分が見ても、全く理解出来ない。
せいぜい音譜が沢山並んでるな〜と思うくらいが精一杯だった。

・・・こうやって、語学の勉強に加え作詞もやっている恭介さんには本当に頭が下がる。
両方とも凡人の俺じゃまず無理だ。


そんな風に俺が思っている時だった。


【エイミー】
「ミー」ピョン

パサァッ


エイミーが突然ジャンプして床に飛び降りる。
そしてその拍子に足が楽譜に引っかかり、積んであったものがパラパラと飛び散ってしまった。


【タツヤ】
「うわっ!!お前なにやってんだ!!」

【タツヤ】
「は、早く拾わないと・・・」


それを見て、大慌てで飛び散った楽譜を拾い集める。こんなところ恭介さんに見られたら、流石に怒られてしまう。
とりあえず順番とかは気にせず、ひたすら落ちた楽譜を拾い集め元の場所に戻していった。

これで大丈夫かな・・・、と言っても元の順番とか分かんないし・・・。


【エイミー】
「ミー」ピョンピョン

【タツヤ】
「だー!!お前はじっとしてろ!!」

【エイミー】
「ミー」モグリコム

【タツヤ】
「そんなとこ入ってないで出て来い!!」


何故か俺の邪魔をするかのように、周りを飛び回るエイミー。
暫くして、エイミーは机の下にある隙間に潜り込んでしまった。俺はエイミーを捕まえようと机の下を覗き込む。

幾らなんでも、これ以上何かされたら対処しきれない・・・早く捕まえて追い出さないと。


923 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:26:42.65 ID:TY6KliiF0(12/14)

【エイミー】
「ミー」カリカリ

【タツヤ】
「って、ん?」


しかし、俺がエイミーが入り込んだ隙間を覗き込むと、コイツは奥で足を止めていた。
そして、前足で何か箱みたいな物を引っかいている。まるで、俺にその箱を見せたがっているかのようだった。


【タツヤ】
「なんだ・・・それ?」

【エイミー】
「ミー」


隠すように置いてあるその箱を、手を伸ばして取り出してみる。それと一緒に、エイミーも自分で隙間から出てきた。
取り出した箱は至って普通の箱で、蓋が付いているだけで特に鍵などが付いているわけでもない。

・・・・きっと中身はプライベートな物が入っているのだろう、隠しているくらいだし。



・・・・・・・・・・・・・・・・・。



開けてはいけない・・・開けてはいけないのだが・・・。






好奇心には勝てませんでした。


【タツヤ】
「え〜と・・・」

【タツヤ】
「・・・CD?」


蓋を開けてみると―――――――――中には音楽CDが沢山入っていた。


【タツヤ】
「また随分と古いやつばっかだな・・・」


中身のCDを幾つか見てみたが、どれもこれも年季が入っていてケースにも傷が付いている。
多分、昔に買ったCDなんだろうけど・・・でもCDなら普通に棚に置いてあるのに、なんでこれらだけ別にしてあるんだ?


924 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/10/29(月) 01:29:03.93 ID:TY6KliiF0(13/14)

【タツヤ】
「あれ、他にもまだ何か入ってる・・・」ガサゴソ



【タツヤ】
「お、楽譜だ」


CDを漁っ・・・・もとい調べていると、箱の底から一枚の楽譜を見つけた。
綺麗に折りたたんではいるが、やっぱりこれも相当年季が入っていて、所々擦り切れている。
書き込まれている音符も読み取れない部分があって、多分・・・楽譜としては使い物にならないだろう。


【タツヤ】
「この一番上の文字ってタイトルか何かかな?」


楽譜の一番上に英語で書かれている文字は、まだかろうじて読める。
多分、恭介さんがつけたんだろうけど・・・。


【タツヤ】
「え〜と・・・・


・・・S・・・A・・・Y・・・A・・・・」


書かれている英語を何となく読み上げてみる。
楽譜には、こう書かれていた―――――――――



Dear to SAYAKA。



―――――と。



【タツヤ】
「・・・・さやか?」





・・・・・・誰?


925 川´_ゝ`){誤字あったらごめんね ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/10/29(月) 01:33:25.61 ID:TY6KliiF0(14/14)
今回は以上になります。お疲れ様でした。

まどオンでプラチナBOXのSS武器確立が2倍だと言ったな、あれは嘘だ。

多分後2〜3回の更新で3話が終わると思います。このスレで終われればベストですね。

それでは、また次回。お休みなさい ノシ
926 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/29(月) 02:04:14.02 ID:EufBCuvBo(1)
乙です。

ゼロの2倍はゼロ、というほどじゃないけど、1%が2%になったところで当たらない確率はあんまり下がらないしねえ。
927 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2012/10/29(月) 02:56:05.56 ID:Eo7S3kkAo(1)

928 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2012/10/29(月) 19:48:53.09 ID:CR/CDRV60(1)
乙乙
929 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/30(火) 19:01:35.45 ID:Fv3rX6dF0(1)
さやかちゃんのエピソードきたか…。
乙!
930 川´_ゝ`){寒くなってきたね ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/08(木) 00:52:27.26 ID:Pq2ghWnn0(1)
夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

次回の投稿ですが、11月9日0時以降を予定しております。
お待たせしておりますが、宜しくお願いします。

では、今日はこの辺で。お休みなさいノシ
931 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2012/11/08(木) 01:37:54.94 ID:pNxbLLAa0(1)
おつ!楽しみにしてます!!
932 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) 2012/11/08(木) 22:31:39.81 ID:HrSiHnLo0(1)
うれしいこと言ってくれるじゃないの
933 川´_ゝ`){ミューコミにキタエリ出てる ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/11/09(金) 00:08:37.57 ID:Xj2zG4h70(1/19)
夜遅くにこんばんわ>>1です。

今日は遅刻しなかったぞ!!7分なんて許容範i(ryアカルイミライヲー

それでは続きを投稿します。
934 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:11:45.63 ID:Xj2zG4h70(2/19)

さやかっていう名前、聞いたことないけど・・・。恭介さんの知り合いかな?

だとしても、どうしてこんなわざわざ隠してあったのだろう。
それに、こんな古い楽譜とかCDも・・・大切に保管してるみたいだし・・・一体どうして。


【タツヤ】
「…はっ!!」

【タツヤ】
「まさか・・・・浮気相手っ!?」

【タツヤ】
「い・・・いやいや、恭介さんに限ってそんな・・・」


散々考えた末、一つの不安が頭を過る。

誰にも見られたくないように隠してあった箱。その中に入っていたCDと一枚の楽譜。
そして、その楽譜に英語で書かれた「さやか」という文字。

考えたくはなかったが、俺の浅い思考回路では、そういう結論にしか結びつかなかった。

・・・何か、見てはいけないものを見てしまった気がするぞ。
ここは恭介さんにバレないうちに片付けて、無かったことに・・・・。


【恭介】
「僕がどうかした?」

【タツヤ】
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


CDや楽譜を箱の中に戻そうとしていると、後ろから恭介さんの声が聞こえてきた。
俺は突然のことで驚き、思わず大声を挙げてしまう。
振り返ると、ラフな格好をした恭介さんがドアの前に立っていた。どうやら風呂上りのようだ・・・。


【タツヤ】
「きょ、恭介さん!?ど・・・どどどどうしてっ!?」

【恭介】
「いや、此処僕の部屋なんだけど・・・タツヤ君こそどうして?」

【タツヤ】
「い・・・いやあ、ちょっと部屋がどこにあるのか分からなくて・・・あ、あははは」


後ろ手で必死に物を隠しながら、恭介さんに歯切れ悪く応える。
言っていることはあながち間違いではないのだが、気が動転しているせいか苦し紛れに吐いた言い訳のようになってしまった。


【恭介】
「・・・何か隠してる?」

【タツヤ】
「うぇ!!??いいいいや、決してそんなことはぁ!!」


恭介さんは俺の後ろを気にしながら、怪訝そうにして此方を見てくる。
・・・流石に、後ろで怪しい動きをしながらここまで挙動不審になっていれば疑われる・・・か。

と・・・とにかく、此処はなんとか誤魔化さないと・・・。


935 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:13:23.52 ID:Xj2zG4h70(3/19)



【エイミー】
「ミー」ズルズル



しかし、俺がこの場を切り抜ける方法を必死に考えていたのにも関わらず・・・


【タツヤ】
「」


【恭介】
「あ・・・・」


後ろにいたこの馬鹿猫が、例の楽譜を口に咥えて恭介さんの前に現れてしまった。

それを見て、俺と恭介さんは一瞬言葉を失った。



【タツヤ】
「何してんだお前ぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!」



お前ぇ!!人が一生懸命打開策を考えていたのにぃ!!!台無しじゃねぇぇかぁぁぁあああ!!!!!


【恭介】
「タ・・・タツヤ君・・・それ・・・」


恭介さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、エイミーと俺を交互に見てくる。
口をパクパクさせていて、かなり焦っているようだった。

やっぱり、人には見せたくないものだったらしい・・・。


【タツヤ】
「ご、ごめんなさい!!」

【タツヤ】
「これ・・・恭介さんの机で見つけて・・・」

【タツヤ】
「中身が気になって・・・・つい」


仕方なくこれまでの経緯を全て白状した。ここまできたら、言い訳のしようがない・・・。


・・・やっぱり、怒られるだろうか。


936 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:16:15.76 ID:Xj2zG4h70(4/19)

【恭介】
「そう・・・か・・・」

【タツヤ】
「・・・すいません」

【恭介】
「ハハハ、なんか恥かしいな」


苦笑いを浮かべ、気まずそうに顔を掻く恭介さん。とりあえずは怒ってはいないようだった・・・。
でも、この反応・・・何か秘密がバレてしまったというような・・・そんな反応だ。
やっぱり・・・恭介さん・・・。


【タツヤ】
「あ、あのっ!!」

【恭介】
「? 何?」

【タツヤ】
「う・・・浮気はいけないことだとおもいますっ!!」


俺は、思いきって恭介さんに自分の考えを主張する。

だって、やっぱり・・・そういうのは駄目だと思うし・・・仁美さんが知ったら悲しむだろうし・・・。
これ以上、道を踏み外したら駄目だよ恭介さん。


【恭介】
「・・・・え?」


恭介さんは、何を言われているのか分からない、そんな顔をしている。
気まずそうな表情から一転して、キョトンとした顔になっていた。

惚けようとしているのか・・・でも、そう簡単には・・・。


【恭介】
「いや…何のこと・・・かな?」



・・・アレ?
ナニカ、オカシイゾ?



【タツヤ】
「・・・・・え?」

【タツヤ】
「だ・・・だって此処に「さやか」って・・・」

【恭介】
「・・・・あ、ああそういうことか」


恭介さんの反応がいまいちだったので、俺はエイミーが咥えた楽譜を指差す。
すると、恭介さんは少し考え込むと、何かを理解したかのように頷いた。


937 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:18:30.79 ID:Xj2zG4h70(5/19)


【恭介】
「・・・・」

【恭介】
「さやかと僕はそんな関係じゃないよ」

【タツヤ】
「え!?」


恭介さんの言葉を聞いて、思わず声を上げてしまった。


・・・え、違うの?
じ・・・じゃあ、このさやかって人は本当に・・・誰?


【恭介】
「僕とさやかは・・・ただの幼馴染、さ」

【タツヤ】
「・・・・マジっすか?」

【恭介】
「うん」

【タツヤ】
「oh…」


幼馴染・・・だと・・・?
ということは、さっきのは俺が勝手に勘違いして、訳の分からない発言をしただけ・・・?
改めて恭介さんを見てみると・・・うん、嘘をついているようには見えないな。


やばい、顔が熱くなってきた・・・恥かしい・・・。


938 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:20:56.38 ID:Xj2zG4h70(6/19)

――――――――――――――――――――


【タツヤ】
「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ドゲザァ

【エイミー】
「ミー」オナジクー


【恭介】
「い、いや、別に気にしてないよ」エイミーマデ・・


恭介さんの前で、自分の頭を地面に擦り付けるように土下座する。
真似をしているのか、エイミーも俺の隣で頭を下げるようにうつ伏せになっていた。

恭介さんが困惑しているけど、こうでもしなきゃ俺の気が治まらない。


【恭介】
「とりあえず頭を上げてよ」

【タツヤ】
「いや、しかし・・・」


恭介さんはそう言ってくれるが、中々頭を上げる気になれない。
申し訳ないという気持ちも勿論あるが、自分の勘違いが恥かしくて恭介さんをまともに直視できない、という理由もあった。


【恭介】
「怒ってないから」

【タツヤ】
「は、はあ・・・」

【恭介】
「でも、人の物を漁るのはあまり褒められたものじゃないよ」

【タツヤ】
「うぅ・・・」


恭介さんは笑顔でそう嗜められる。今になって好奇心に負けた自分が恨めしく思った。

それに、よく考えれば・・・あの楽譜は相当年季が入っているものだし、だいぶ昔のものだというのは一目瞭然だ。
そのさやかって人が現在進行形のそんな相手じゃないって事くらい、ちょっと考えれば分かることだったかもしれない。
そう考えると、ますます自分の軽率な行動が恥かしくなってくる。

・・・穴を掘って埋まりたい気分って多分こういうのを言うんだろうな。


【恭介】
「それにしても・・・懐かしいな・・・」

【タツヤ】
「あの、これって・・・?」

【恭介】
「それは僕が病院に入院していた時に、さやかが買ってきてくれた物なんだ」


入院・・・そう言えば仁美さんがいつか話してくれた事があったな。

恭介さんは昔、事故にあって長い間入院していたことがあるらしい。詳しいことは知らないが、怪我したのは確か・・・足だったかな?

仁美さんはその時、何回かお見舞いに行ったって聞いていたけど・・・そのさやかって人もお見舞いに来ていたのか。


939 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:23:17.86 ID:Xj2zG4h70(7/19)

【タツヤ】
「じゃあ、この楽譜は・・・」

【恭介】
「・・・それはね。その時、僕がさやかへのお礼にと作った曲なんだよ」


ああ・・・だから、上の方にさやかって書いてあったのか。
でも、恭介さんがその人のためにわざわざ曲を作るなんて・・・幼馴染って言っていたけど、仲良かったみたいだな。

・・・仁美さんにはそういうお礼しなかったのかな?


【恭介】
「・・・結局、渡せなかったんだけどね」

【タツヤ】
「え?な、なんで・・・」

【恭介】
「・・・・彼女が、遠くに行ってしまったから、かな」


恭介さんは窓越しの空を見つめながら、何処か寂しげに呟く。

遠くに・・・か。何処かに引っ越しちゃったのかな?俺、会ったことないし。
でも、それなら・・・頻繁じゃなくても、会うことくらいは出来るんじゃ・・・。
恭介さんも今更で恥かしいって事なのかな?


【タツヤ】
「そ、そうですか・・・」

【恭介】
「うん、だからタツヤ君が考えているような関係じゃないから安心していいよ」

【タツヤ】
「はう・・・」


恭介さんに意地悪くそう言われ、再びへこんでしまう。
もうこれ以上言わないでください・・・というのは流石に虫がよすぎる、か。

でも、正直言うと・・・恭介さんの話を聞いて、少し安心したというのも事実だった。
もしも本当に浮気とかだったらが・・・仁美さんが可哀想だったから。


【恭介】
「はは、それに・・・さやかと僕なんかじゃ釣り合わないしね」

【タツヤ】
「へ、そんな・・・」


自嘲気味に笑いながら言う恭介さんを見て、思わず声を漏らした。
恭介さんは自分で自分のことを凄いと言う人ではないが、お世辞でこんな事を言う人でもない。
今の言葉は、間違いなく恭介さんの本心だろう。

恭介さんにこんな風に言われるって・・・そのさやかって人、どういう人なんだろう?


940 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:26:13.19 ID:Xj2zG4h70(8/19)

【恭介】
「さやかはさ・・・」

【恭介】
「真っ直ぐで友達想いで・・・」

【恭介】
「正義感の強い、素敵な女の子だったんだ」


恭介さんは自分の部屋の手頃な椅子に腰掛け、話を始めた。
その人のことを話している恭介さんは、思い出を懐かしむような優しい表情をしている。

でも、それと同時にどことなく寂しそうな表情も浮かべていて・・・今の恭介さんはその二つの表情が入り混っているように俺は感じた。


【恭介】
「僕も、彼女にはいつも助けられてばかりだった・・・」


恭介さんがいつも助けられていたなんて・・・ちょっと想像できない。
世界を舞台に活躍している恭介さんばかり見ていたから、この人が学生の頃をよく知らないというのもある。

でも、それでもあの恭介さんにここまで言わせるなんて、さやかって人は天女か何かなのか・・・?
そんな馬鹿げた事を考えてしまうくらい、恭介さんがその人のことを信頼しているように見えた。


【恭介】
「・・・ハハ、まあ昔の話だよ」


恭介さんはそう言って、照れ笑いを浮かべる。
そして、そんなこの人の姿を見ていると・・・なんとなくだけど、理解できてしまう。
その人との思い出が――――恭介さんの中では、かけがえのない宝物になっているのだと。


【タツヤ】
「あの・・・」

【恭介】
「ん?何?」


だからこそ、頭の中で一つの疑問が生まれる。

その疑問を・・・言葉として声に出していいのかと一瞬迷ったが、俺は静かに言葉を続けた。


【タツヤ】
「恭介さんは・・・ひょっとして」


【タツヤ】
「その人のこと・・・好きだったんですか?」


恭介さんの一連の言動を聞いて、疑問に思ったこと。それは、恭介さんとその人との関係についてだった。
恭介さんは幼馴染だと言っていたけど・・・実際はどうだったのだろう?

ひょっとしたら恭介さんは、そのさやかって人に恋愛感情を抱いていたのかもしれない――――俺は、そう考えていた。


941 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:28:24.53 ID:Xj2zG4h70(9/19)

【恭介】
「え・・・・」

【タツヤ】
「えっあ、いや、すいません!!変なこと聞いちゃって・・・」


普通だったら、昔の恋愛話で済んでいただろう。

でも、今の恭介さんには仁美さんという婚約者がいる。

だから・・・今の一言は、下手をすると二人の仲を否定することになるかもしれない。
そんな危うさを持つ諸刃の剣のような言葉だったので、俺は言うのを躊躇っていた。


【恭介】
「・・・どう、だろうね」


俺の疑問に対して、恭介さんは暫く無言のままだったが、少しするとポツリとそう呟いた。


【恭介】
「正直なところ・・・よく分からないんだ」


そして、恭介さんの口から発せられた答えは―――――明確な回答とは言えない、曖昧なものであった。
しかし、今の恭介さんを見ていると…その言葉は、心の底から搾り出した本当の気持ちであると、なんとなく理解できる。

恐らく、自分にとってそのさやかという人がどんな存在だったのかを必死に考えた末に出したのが、この答えだったのだろう。


【タツヤ】
「恭介、さん・・・」

【恭介】
「はは、それに今僕には仁美がいるからね」

【恭介】
「下手な事言ったら、それこそ浮気になっちゃうよ」


笑いながらそう応える恭介さん。

・・・そういえば以前公園で仁美さんと話した時、2人の中学生時代の事を聞いた事があったな。

その時の仁美さん・・・何か様子が可笑しかったけど、ひょっとして仁美さん・・・この事を知っていたのかな・・・?


【恭介】
「・・・まあ、それでも」

【恭介】
「さやかが僕の恩人であることに代わりはないんだけどね・・・」


恭介さんは背もたれに寄り掛かり、上を見上げながらそう呟いた。

恩人ってどんな意味だろう・・・。精神的な意味で、ということだろうか?


942 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:31:24.67 ID:Xj2zG4h70(10/19)

【恭介】
「・・・タツヤ君はさ『奇跡と魔法』ってあると思うかい?」

【タツヤ】
「えっ」


突然、そんな事を言い出す恭介さん。それを聞いて、俺は思わず声を漏らした。

だって、俺の中で『奇跡と魔法』って言われて一番最初に出てくるものといったら――――――――


【恭介】
「メルヘンな話だと笑われるかもしれないけど、僕はあるって思ってるんだ」

【タツヤ】
「う・・・嘘・・・」



―――――――それは、魔法少女のことだったから。



【恭介】
「ハハ、意外だった?」

【タツヤ】
「い・・・いや、そんなことは」


どうして・・・恭介さんがそんなことを言い始めたんだろう。ただの偶然なのだろうか・・・。
それとも・・・・やっぱり恭介さんは、魔法少女と何か繋がりが・・・?
そもそも、それと今までの話に何の関係があるというのだろうか。

そんな風に俺が思考を巡らせていると、恭介さんは椅子から立ち上がり、部屋にあるベランダの近くまで歩を進めた。


【恭介】
「でも、僕は思うんだ」


ベランダの近くで立ち止まり、窓越しに外を見つめながら恭介さんは呟く。


【恭介】
「その『奇跡と魔法』を手に入れるためには・・・」

【恭介】
「それ相応の『代償』を支払わなければいけないってね・・・」


恭介さんは、何故か自分の左手に視線を落とし指を動かしながら言った。

代償・・・?なんのことだろう・・・?
もし、魔法少女のことを指しているのだとしたら、願いを叶えて貰う代わりに魔獣と戦わなければいけない事とかだろうか。

でも、それって代償ってのとは少し違うような・・・。


943 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:34:01.09 ID:Xj2zG4h70(11/19)

【タツヤ】
「代償・・・」

【恭介】
「うん、自分にとってかけがえのないものを支払わなくちゃいけないと思うんだ」


視線を再び外に移し、恭介さんは話を続ける。

奇跡を望む代償として、自分にとって大切なものを失う。

それが魔法少女に関係する話なのか、俺には分からない。
ひょっとしたら、全然関係ない話で俺が勘違いしているだけかもしれない・・・その時は、そう思った。


【恭介】
「でも、人間って失わないと気付かないんだよね」

【恭介】
「それが・・・自分にとってどれだけ大切なものだったかなんて、さ・・・」


まるで・・・自分に言い聞かせているようにして、恭介さんが呟く。
何かを思い出すかのように、夜空を見上げながら。

こっちから表情は分からないけど・・・今の恭介さんの後姿は、とても寂しそうだった。


【タツヤ】
「恭介、さん・・・?」

【恭介】
「ごめんごめん、ちょっと可笑しな話をしちゃったね」

【タツヤ】
「い、いえ、そんなことは・・・」


恭介さんは此方に振り返り、再び笑顔を作る。結局、恭介さんの言葉の真意を・・・俺は理解することが出来なかった。

でも…さっきも思った事だが、今の話って・・・そのさやかって人の事と何か関係があるのかな。

まさか、そのさやかという人も暁美さんやゆまさんと同じ・・・?


【恭介】
「タツヤ君」

【タツヤ】
「あ、はい」


色々と考えていると、急に恭介さんに名前を呼ばれた。
何かと思い、視線を向けると恭介さんも此方に向き直り、ゆっくりと近付いてくる。


944 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:36:31.84 ID:Xj2zG4h70(12/19)

【恭介】
「その楽譜・・・貸してくれるかい」

【タツヤ】
「へ?は・・・はい」


俺は言われたとおり、エイミーが咥えていた楽譜を渡す。

すると、恭介さんは棚を開け何やら準備を始めた。


【恭介】
「よいしょっと・・・」

【タツヤ】
「あの・・・何を・・・?」

【恭介】
「いや、せっかくだからタツヤ君にこの曲を聴いてもらおうと思ってね」


恭介さんはそう笑顔で応え、椅子などを端に寄せスペースを作り始める。
そして、部屋に置いてあったヴァイオリンに手を伸ばした。


この曲って・・・さやかって人のために書いたと言っていた、その曲を・・・か?


【タツヤ】
「え!?いや、そんな大切な曲を・・・悪いですよ!!」


恭介さんにとって思い出の曲であろうその曲を俺なんかのために弾くなんて、いくらなんでも・・・。
それに、前にも言ったが俺は恭介さんの弾くヴァイオリンの音色を聞くと、いつも眠ってしまうのだ。

そんな自分にそんな大事な曲を聞く権利なんてないと、俺は恭介さんに訴え掛ける。


【恭介】
「いいんだ。中学入学記念ってことで」

【恭介】
「それに、なんだか久しぶりにこの曲を弾きたくなってね」


それでも、恭介さんはお祝いに弾かせてくれと言って俺の話を聞いてくれない。

勿論、そう言って貰えて嬉しくないわけがない。世界が注目している天才・上条恭介の曲をたった1人で聞けるのだ。こんな美味しい話はないだろう。

でも、なんというかサービス良すぎですよ・・・恭介さん。


945 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:38:04.43 ID:Xj2zG4h70(13/19)

【タツヤ】
「そう、ですか。じゃあ・・・お願いします」


これ以上拒む理由もないと思った俺は、恭介さんの提案を受け入れることにした。

むむ・・・こうなったら、何がなんでも途中で寝るわけにはいかないぞ。
手に針を刺してでも眠気を飛ばさないと・・・。


【タツヤ】
「って・・・その楽譜、読めるんですか?」

【恭介】
「大丈夫。自分で書いた曲は大体頭に入ってるから」

【恭介】
「ちょっとでも楽譜を確認出来れば弾けるよ」

【タツヤ】
「(す、すげー・・・)」


やっぱり・・・この人天才だ。


【恭介】
「では、たった一人のお客様であり」

【恭介】
「僕の大切な友人であるタツヤ君のために」


恭介さんの部屋の中央に出来たスペースで、恭介さんが一礼する。
俺はたった一つ用意された簡易観客席で、緊張しながら演奏が始まるのを待つ。

ヴァイオリンを持った恭介さんは、目の色を変え・・・集中している。その様子が此方にも伝わってくるくらいだ。
表情はいつもの優しいものとは全く異なり、堂々としていて・・・凛々しくもあった。


946 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:38:54.76 ID:Xj2zG4h70(14/19)



【恭介】
「曲名―――――」








【恭介】
「『Oktavia』」


947 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:41:20.53 ID:Xj2zG4h70(15/19)

http://www.youtube.com/watch?v=PVQRlsv7pY0&feature=related


恭介さんがヴァイオリンを構える。
顎当てに自分の顎を乗せて固定し、右手に持った弓を使ってヴァイオリンを弾き始めた。

右手の弓と左手の指を細かく動かし、ヴァイオリンから綺麗な音色が奏でられていく。


【タツヤ】
「(すげぇ・・・)」


今まで恭介さんの演奏を聞いたことは何回かあったが、ここまで近くで聞いたことはない。
だからなのか、最初のうちはどちらかというと曲よりも演奏している恭介さんに注目してしまっていた。

目の前でヴァイオリンを弾いている恭介さんがすごく印象的だったのだ。

どうやって音を出しているのかは全く分からないが、両手を小刻みに動かし一心不乱に演奏している姿を見て、とにかく凄いなと思った。


【タツヤ】
「(それにしても・・・)」

【タツヤ】
「(なんだか…悲壮感が漂う曲だな・・・)」


曲に耳を傾けると、何だか不思議な感覚に囚われていく。
演奏にも迫力がありメロディーも綺麗で良い曲だと思うのだが・・・なんとなく、もの悲しい印象を受ける。
例えるなら・・・・そうだな・・・。



悲しみに耐えて頑張ってきたけど、徐々にその悲しみに押し潰されていって・・・それでも、必死にその感情と戦い続けて・・・。


―――――でも、結局その感情に押し潰されて・・・。











―――――それを、見ていることしか出来なかった――――――




948 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:44:55.60 ID:Xj2zG4h70(16/19)


【タツヤ】
「(・・・あれ?)」

【タツヤ】
「(俺・・・・この曲、知って・・・・る・・・・?)」


なんだ・・・今の感覚・・・?俺は・・・昔、この曲を―――――――――聞いたことが、ある・・・?


そんな馬鹿な・・・、だって恭介さんはこの曲を俺に始めて・・・・。




――――――――ズキッ



【タツヤ】
「がっ!!」


恭介さんの弾く曲に違和感を覚えた時だった―――――――


―――――――俺が、『例の頭痛』に襲われたのは。


【タツヤ】
「が、はっ!!あっ!!」


痛っ・・・!!また・・・、この頭痛・・・!!くそ・・・一体なんだってんだよ・・・!!


ズキッズキッズキッズキッズキッズキッズキッズキッズキッ


うっ・・・、なんだか・・・前より痛みが増しているような・・・。
視界が・・・霞む・・・・。く・・・そ・・・。




『・・・・やめて!!』



くっ・・・・なんだ。



『お願い・・・・て!!!』



・・・脳内に、見たこともない映像が・・・流れ込んでくる・・・。

不気味な・・・風景に・・・なんだ・・・アレ・・・人、魚・・・?

それに・・・



『さやかちゃんだって、こんなの嫌だった筈だよ!!!!』



・・・この前・・・夢で見た・・・・・。



949 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:47:00.02 ID:Xj2zG4h70(17/19)

【タツヤ】
「はっ・・・・あっ・・・!!」

【恭介】
「・・・!!タ・・・タツヤ君!?」


俺の異変に気付き、恭介さんが演奏を中断する。そして、慌てて俺の傍まで駆け寄ってきた。


【恭介】
「だ、大丈夫かい!?」

【タツヤ】
「はあ・・・はあ・・・だ、大丈夫です・・・」

【タツヤ】
「少し、頭痛が・・・」


不思議なことに恭介さんが演奏を中止すると、あれだけ酷かった頭痛があっという間に納まっていく。

どういうことだ・・・?まるであの曲に反応したみたいじゃないか・・・。
それに・・・なんだったんだ、あの映像。あの空間って・・・魔獣の瘴気の中みたいだった・・・。

それにあの女の子・・・あれって・・・。


ズキッ

【タツヤ】
「ぐっ!!」

【恭介】
「ほ・・・本当に大丈夫?」

【タツヤ】
「は・・・はい」


くそ、さっきのやつを思い出そうとすると・・・また頭痛が・・・訳わかんねぇ。


950 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/09(金) 00:49:26.93 ID:Xj2zG4h70(18/19)

【恭介】
「お風呂上りで体が冷えたのかな・・・?」

【恭介】
「ごめんよ。なんだか無理させていたみたいだね」

【タツヤ】
「い・・・いや・・・そんなことは・・・」


この頭痛は恭介さんのせいじゃないのに、いらぬ心配を掛けてしまった。
まあ、目の前で頭を抱えられ苦痛に歪む顔を見せられたら、誰でもそう考えちゃう・・・か。

せっかく俺のために演奏してくれたのに、悪いことをしてしまった・・・。


【恭介】
「とりあえず、今日はもう寝たほうが良いよ」

【タツヤ】
「あ・・・・はい・・・すみません」


結局、恭介さんは俺の身体を心配して、ヴァイオリンを弾くのを止めてしまった。
そのまま、俺を客間まで案内してくれて、わざわざ布団まで敷いてくれた。
本当に今日は恭介さんには迷惑ばかり掛けてしまっているな・・・。

そんな罪悪感を覚えながらも、布団に入ると演奏中には感じなかった睡魔がやって来る。

あんなことになるくらいなら・・・むしろ、睡魔に襲われたほうがマシだった・・・な・・・。

本当に・・・この頭痛・・・って、なん・・・なん、だよ・・・・。


まだ寝るにはだいぶ早い時間だったが、俺は理不尽な頭痛に悩まされながら・・・徐々に眠りに落ちていった。


951 川´_ゝ`){流石キタエリ、ブレないな ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/11/09(金) 00:57:42.02 ID:Xj2zG4h70(19/19)
今回は以上です。お疲れ様でした。

まどオンの某便利ツールが不正扱いされたそうで。
運営、他にやること沢山あるやr(ry

そんなどうでもいい話はさておき、後1回+αくらいの更新で3話終了です。
ギリこのスレで終わると思います。

では、また次回。お休みなさい ノシ

952 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/11/09(金) 01:58:32.87 ID:YK8lyabko(1)

次回も期待してます
953 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/11/09(金) 16:37:46.88 ID:2USqjC3Uo(1)
ゆまはよ
954 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2012/11/09(金) 17:33:34.94 ID:EsEQEUR70(1)
乙乙!
955 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) 2012/11/09(金) 18:30:30.40 ID:0qB+lha+0(1)

まどかさん弟を苦しめてまで演奏中断させるってよっぽど腹に据えかねたのか
956 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/11(日) 01:34:16.70 ID:MXBzPyau0(1)
乙!これは話が一気に進む予感…
楽しみにしてます!
957 川´_ゝ`){動物の森 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/15(木) 01:45:50.16 ID:rISlsts30(1)
夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

次回の投稿ですが11月16日0時以降を予定しております。
ちょっとリアがごたごたしてるので、ひょっとしたら17日になるかもしれません。
宜しくお願いします。

それでは、また。ノシ
958 川´_ゝ`){TDS下巻読んだ ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/11/16(金) 00:06:02.02 ID:GKd/flaB0(1/17)
夜遅くにこんばんわ>>1です。

それでは続きを投稿します。
959 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:08:44.57 ID:GKd/flaB0(2/17)

――――――――――――――――――――

【恭介】
「ふぅ・・・」


タツヤを寝かした後、恭介は自分の部屋で椅子に座り背もたれに寄りかかっている。
先程の出来事の後、タツヤに特に異常はないということだったので、少し安心していた。

時計を見ると、恭介が就寝するにはまだまだ早い時間帯である。


【恭介】
「・・・・」


ふと、恭介はタツヤが取り出した箱に視線を移す。
そこには、沢山のCDと一緒に・・・沢山の思い出が詰まっていた。

いなくなってしまった幼馴染との楽しかった日々の記憶と――――――

―――――忘れようとしても・・・忘れられない、消えることのない悲しみと一緒に。


彼女との思い出でいつも蘇るのは、あの時の病院での記憶。
自分が絶望に淵に沈んでいた時に、光を差し込んでくれた言葉。

『奇跡も魔法もあるんだよ』

その後の日々は、恭介にとってまさに奇跡といっていい・・・まさに天国のようなものだった。
治らない筈だった左腕が、突然完治したのだ。

またヴァイオリンが弾ける――――――その紛れもない事実が恭介を高ぶらせた。

それだけじゃない、クラスのアイドル的存在だった志筑仁美が自分に告白してくれたのだ。
嬉しくない筈が無い。夢見心地で浮かれていた恭介はその場で即仁美と付き合うことに決めた。



そう・・・有頂天だった


調子にのっていた・・・それこそ世界が薔薇色に見えるくらいに・・・。



だから、気付かなかったのだ。
自分が一番辛い時に支えてくれた、一番大切な人の存在が・・いつの間にか、消えてしまっていたことに。

そして、自分の中に眠っていた・・・・本当の気持ちに・・・。


【恭介】
「・・・・・僕は、まだ・・・」


そんな彼女に対しての負い目や罪の意識が、今でも恭介の心を縛り続けていた。




\ピリリリ・・・/


960 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:11:15.42 ID:GKd/flaB0(3/17)

【恭介】
「あ・・・」

【恭介】
「電話が・・・」


恭介がボーッと空を見上げていると、近くに置いていた携帯が鳴り出す。


【恭介】
「え〜と・・・」


電話に出ようと、椅子から立ち上がり携帯に手を伸ばす。
誰からの電話かとディスプレイを見てみると、そこには恭介もよく知っている人物の名前が表示されていた。


ピッ

【恭介】
「中島か?」

【中沢】
『誰が中島だ、俺は中沢だ』


電話の相手は、学生の頃からの友人からだった。
友人の中でも、恭介が心を許せる数少ない人物の1人で、昔から色々と相談に乗ってくれている。


【恭介】
「ごめんごめん。しばらくだね」

【中沢】
『ったく、帰ってきてるなら連絡くらいよこせよな』

【恭介】
「ははは・・・」


電話越しで文句を言われ、苦笑する恭介。
彼自身日本に帰ってきたのはつい最近のことで、またタツヤの事もあったためそこまで頭が回らなかった。

そのうち連絡しようと思っていたみたいだが、先を越される形になってしまった。


【中沢】
『どうだよ、調子は?』

【恭介】
「まあ、ぼちぼちだね」

【中沢】
『日本の天才と呼ばれるのがボチボチねぇ〜』

【恭介】
「茶化さないでよ」


彼もまた恭介の友人であると同時に、恭介を応援している人間の1人である。
恭介の世界での活躍は、逐一彼の耳に入っていた。
本人相手にそんな冗談交じりの皮肉を言うのも、ある意味彼の楽しみの1つであった。


【中沢】
『まあ、なんだ。元気そうで良かったよ』

【恭介】
「うん」


恭介も彼と話すことで、改めて日本に帰ってきたのだと認識することができた。


961 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:13:13.54 ID:GKd/flaB0(4/17)



【中沢】
『・・・で、いい加減決心はついたのか?』


しかし・・・そうしみじみ思っているのも束の間、彼が恭介に話を切り出す。
先程とは一転して声のトーンを落とし、電話越しでも彼が真剣な顔付きになっているのが伝わってきた。


【恭介】
「・・・・何が?」


そんな雰囲気に対して、恭介は彼の言っていることが理解できないかのように振舞う。

・・・自分の動揺を悟られまいと、必死に平静を装いながら。


【中沢】
『惚けるな』


しかし、彼にはそんな恭介の考えなどお見通しだった。


【中沢】
『志筑さんのことだよ』

【中沢】
『いい加減、籍入れる気になったか?』

【恭介】
「・・・・」


彼が恭介に対して、こんなトーンで話すことなんて―――――1つしかない。

――――――――志筑仁美との関係についてだ。

そして、その話題が恭介にとってふれて欲しくないものであるということも、彼は把握している。
案の上、彼が仁美の名前を出すと、恭介は思い悩むようにして黙り込んでしまった。


【中沢】
『はあ、その様子じゃ・・・まだみたいだな』

【恭介】
「・・・ごめん」


彼が懸念していたこと・・・いつまでも二人が中途半端な婚約関係でいること。

恭介と仁美の関係は他人から見れば完全に夫婦そのものなのだが、肝心の結婚を二人はまだしていない。
仁美の苗字が未だに『志筑』のままであることが、その事実を物語っている。

学生時代から、何かと二人の関係をサポートしてきた中沢にとって、その問題はもはや他人事ではなかった。
だから、こうして度々恭介や仁美に結婚の話を持ちかけたりなどと奮闘している。


962 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:16:02.18 ID:GKd/flaB0(5/17)

【中沢】
『・・・まだ、美樹のこと引きずってんのか?』

【恭介】
「・・・」


二人が結婚に踏み切れない理由、それは中沢自身も理解していた。

それは、恭介の幼馴染――――――――美樹さやかの存在。

彼女は中学の頃に突如として行方不明になっていた。
そして、それは当時入院していた恭介が退院してから・・・わずか数日後の出来事だったのである。

恭介も・・・仁美も、さやかが居なくなったのは自分のせいではないかと考えていた。

仁美は、自分がさやかから幼馴染の恭介を取ってしまったからだと・・・。

そして、恭介の場合は――――――――。


【中沢】
『気持ちはわかるけどさ、お前の責任じゃないだろ?』


彼から見れば、恭介が何故そこまで美樹さやかに遠慮しているのか、いまいち理解できなかった。

幼馴染だからといってそこまで自分を責めることはないと、彼は恭介を励まし続けている。


【恭介】
「でも、僕は・・・」


しかし、そんな彼に感謝しつつも・・・恭介は、後一歩を踏みきれずにいた。

そしてそれは・・・・仁美も同じであった。


【中沢】
『今のお前を美樹に見られたら・・・怒鳴られるぞ』

【恭介】
「・・・はは、かもね」


彼は特にさやかと親しかったわけではないが、性格はなんとなく分かる。
だからこそ、恭介に訴え続けていた。

今の恭介達を見て――――――――――美樹さやかが喜ぶはずがない。

と言っても、結局は恭介を励ますために自分の憶測を言っているに過ぎないのだが・・・。


【中沢】
『まあ、俺が口を挟めることじゃないんだろうけどよ』

【中沢】
『志筑さんのことも・・・ちゃんと考えてやれよ』


963 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:19:25.07 ID:GKd/flaB0(6/17)

仁美のことを考えろ・・・それは彼なりの恭介へのメッセージ。

前を見ろ――――――

    ――――――過去に縛られるな――――――

                  ――――――現実を受け入れろ

――――――厳しいかもしれないが、それでもお前は前に進まなければいけない。


そう、彼は暗に示していた。


【中沢】
『じゃないと・・・きっと、美樹も悲しむぞ』

【恭介】
「そう、だね。ありがとう」


そのことは、勿論恭介にも伝わっている。恭介自身も頭では分かっているのだ。
いつかは・・・・答えを出さなければいけないということを・・・。

だがしかし―――――――その答えを出すにはもう少し時間が掛かりそうだった。


【中沢】
『へっどうだ、俺も大人になっただろ?』

【恭介】
「そうかな〜?」

【中沢】
『おい』


口ではそう言うが・・・確かに彼は大人になった。恭介もそう感じている。
彼が居なければ・・・恐らく仁美とも今の関係を続けていられなかっただろう。


もっとも、美樹さやかの件でギクシャクしていた二人の関係を修復する最大のきっかけになったのは、既に客間で眠りについている少年なのだが・・・それはまた別の話である。


【恭介】
「ははは、それで、そっちの方はどうなんだい?」

【恭介】
「仕事は順調?」


ようやくいつもの雰囲気が戻ってきたところで、今度は恭介が彼に仕事のことを聞き始める。


【中沢】
『いやいや、お前と違って俺は普通のサラリーマンだからな』

【中沢】
『毎日、おっかな〜い女社長に怒鳴られてばっかりだよ』


中沢は普通の大学を卒業した後、某企業で事務として働いている。一般として、男性は営業職の方が多いのだが、営業は彼の性には合わなかったらしい。

おかげで、中沢は就職活動にだいぶ苦労したそうだ。


964 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:22:57.72 ID:GKd/flaB0(7/17)

【恭介】
「社長と直接話せるなんて、凄いじゃないか」

【恭介】
「確か、早乙女先生の親友なんだろ?」

【恭介】
「(それに、確か・・・タツヤ君のお母さんだったね)」


そんな彼が今の職に付くことができたのは、中学時代の恩師である早乙女和子のおかげである。
彼女が自身の友人であり、タツヤの母である鹿目詢子に彼を紹介してくれたからだった。


そのことを確認する度に、恭介を思う。
自分のことより彼本人のことをもっと気にするべきなんじゃ・・・と。


【中沢】
『お前な、人事だと思って・・・本当に怖いんだからな?』

【中沢】
『まあ、でも・・・良い事もあるけど』ニヤ


そこまで言うと、中沢は何かを思い出すようにしてニヤニヤし始めた。
それが、電話相手の恭介にも何となく伝わってくる。

今の状態は、人に見せられるような顔じゃないんだろうな、とその時の恭介は思った。


【恭介】
「へ・・・へえ、一体どんな?」


あまり聞きたくはなかったが、一応確認しておこうと恭介は続ける。


【中沢】
『いや〜、社長の秘書さんがマジ女神(ry』




『中沢ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!』ドコイキヤガッタアノガキャァァァァアアアア!!!!



しかし、彼が気持ち悪い笑みを浮かべながら理由を話し始めた瞬間―――――後の方で物凄い怒号が聞こえる。


そしてその怒号は・・・中沢に対するものだった。


【中沢】
『』ビクッ

【恭介】
「い・・・今、凄い声が電話越しに・・・」


当の本人はというと、その声を聞いた途端に顔を青ざめさせ、ガタガタと身体を震わせる。

声は電話越しでも響いており、恭介もその声を聞いた瞬間思わず身体をビクつかせた。
何事かと思い、恭介は恐る恐る中沢に状況を尋ねる。


965 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:26:11.52 ID:GKd/flaB0(8/17)

【中沢】
『・・・悪い、実はまだ仕事中でな』


暫く固まっていた中沢だが、ようやく口を開く。
どうやら彼は仕事先から恭介に電話を掛けていたようだった。


【恭介】
「それは流石にマズイよ、中村」

【中沢】
『俺は中沢だ・・・はあ、悪い・・・切るわ』

【恭介】
「う・・・うん、頑張って・・・」


一気にテンションが下がる彼の声を聞いて、コイツも色々苦労しているんだな、と思う恭介だった。


【中沢】
「ああ・・・今度暇な時にでも飲みに行こうぜ」

【恭介】
「僕、お酒はちょっと・・・」

【中沢】
『何女々しいこと言ってんだよ』

【恭介】
「まあ、おいおい・・・ね」

【中沢】
『約束したぞ、じゃあな』プッ


一方的に約束を取り付けられ、電話を切られる。
恭介は強引に誘ってきた彼に対して、一つ溜息を付いた。

それでも偶に帰ってきた時くらい、親友の愚痴に付き合うのも悪くない・・・と恭介は笑みを浮かべるのだった


966 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:29:22.63 ID:GKd/flaB0(9/17)

【恭介】
「・・・」

【恭介】
「・・・さやか」


電話を置き再び静かになった自分の部屋で、恭介は幼馴染の名前を呟いた。

彼女が行方不明になって、もう随分と年月が経つ。
警察どころか・・・彼女の両親でさえ、彼女の捜索を諦めてしまったくらいに――――。


でも、どんなに月日が経とうとも、恭介の心にぽっかり開いてしまった穴が埋まることは無かった。


【恭介】
「・・・今でも少し思うんだ」


【恭介】
「僕の腕が治らなければ・・・君はいなくならなかったんじゃないかって・・・」


自分の左手を見つめながらそう呟く恭介。
非現実的だと相手にされないかもしれない・・・しかし、恭介は本気で思っていた。

自分の左腕と引き換えに、彼女はいなくなってしまったのではないかと――――。

『奇跡と魔法』を手に入れる為の『代償』―――――それが・・・彼女だったのではないかと。


【恭介】
「こんな僕をみたら・・・君は、やっぱり怒るかな」

【恭介】
「・・・駄目だよね、仁美もいるのに」


中沢の言う通り、仁美と今の関係を続けるのは良い事では無い。
そんなことは恭介だって分かっている。

最初は仁美の片思いによる告白で始まった関係だったが、今では恭介自身も仁美のことをちゃんと愛している。
そして、彼女を幸せにしたいという気持ちも勿論あった。

だが・・・それでも、美樹さやかのことを考えると・・・どうしても一歩が踏み出せない。

恭介は、怯えているのだ
自分が結婚して幸せになれば・・・自分はさやかのことを忘れてしまうのではないかと。

そして―――――――――自分だけが、幸せになっていいのか・・・と。


【恭介】
「・・・本当に、僕は最低な人間だ」


さやかに恩返しをすることができない。かといって、仁美を幸せにすることもできない。
そんな中途半端な自分に恭介は嫌気が指す。

何が天才だ、と・・・・恭介は小さく呟く。

そして、今日は眠れそうにないな・・・・と心の中で思うのだった



967 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:33:19.16 ID:GKd/flaB0(10/17)

――――――――――――――――――――

とある会社内にて――


【詢子】
「中沢ぁぁぁぁぁあああ!!!!」

【中沢】
「はいぃぃいい!!!」

【詢子】
「てめぇ!!この書類ミスだらけじゃねぇか!!何やってんだ!!!」

【中沢】
「す、すいません!!」


怒り狂った詢子に書類を投げつけられる中沢。
社長室にいるにも関わらず、詢子の声は社内全てに響き渡っている。
しかし、社内にはまだ仕事で残っている社員が結構いるのに、その怒号を聞いて慌てる人はいなかった。


【詢子】
「何回同じ間違いすりゃ気がすむんだ!!今すぐやり直せ!!」

【中沢】
「は、はい!!!」


全員考えることは一緒だったのだ・・・・また中沢か、と。


【中沢】
「うぅ、くそ〜」カタカタ


「コーヒーどうぞ」

【中沢】
「あ、どうも」


自分のデスクに戻り、PCと睨めっこをしている中沢に1人の女性が近付く。
女性は彼のデスクまで近付くと、淹れたてのコーヒーを置いてくれた。


【中沢】
「って、うぇっ先輩!?」

【織莉子】
「ふふ、大変そうね」

【中沢】
「は、はいぃ」


コーヒーを持ってきてくれたのは詢子の秘書を務める美国織莉子だった。
織莉子は年齢でも入社した年でも中沢の1年先輩に当たる。


968 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:35:50.41 ID:GKd/flaB0(11/17)

やたらと詢子に絡まれ・・・もとい怒られる中沢に何かと世話を焼いてくれていた。
中沢自身も、そんな彼女に信頼を寄せており、ちょっとした好意も持っていた。


オイ、ミクニサントナカザワガハナシテルゾ

ナカザワノクセニナマイキダ

キョウモウツクシイゼミクニサン

オレニモコーヒークレーミクニサン

マタオトコドモガハナノシタノバシテル

ソンナニムネノオオキイコガイイノカコノヤロー

クッ


織莉子がオフィスルームに来たことで、社内に残っている社員の視線が一斉に集まる。
社内No.1の美貌とスタイルを持つと言われている織莉子は、男性社員達の中ではアイドル的存在だった。
逆に、そのせいで女性社員の評判はあまり芳しくなく、中には陰口を言っている女性社員も少なくない。
以前、織莉子が給湯室で聞いた話がまさにそれだ。


【詢子】
「お前ら仕事しろー!!!!!!」カッ!!

【一同】
「「「げえぇ、社長ー!!!」」」


社員達が仕事そっちのけで織莉子達を見ながら談笑していると、いつの間にかオフィスルームに来ていた詢子に怒鳴られる。
社員達はそれを聞いて、大慌てで自分の持ち場に戻っていった。

詢子はそんな社員達をチェックしながら織莉子達に近付いていく。


【詢子】
「織莉子、こんなところにいたのか」

【織莉子】
「何かご用ですか?」

【詢子】
「ああ、〜の資料もうできてるか?」

【織莉子】
「ああ、それでしたら既に纏めてありますから、後でお持ちしますね」


中沢の席の近くで、織莉子は詢子に仕事の現状などを説明する。

秘書である織莉子の仕事は、主に詢子のサポートだ。
仕事に使う資料の作成は勿論、スケジュールの管理や詢子や取引相手の送迎など彼女の仕事は様々である。
その全てを、織莉子は1人でそつなくこなしていた。


【詢子】
「さっすがー、できる秘書がいて助かるよ」

【織莉子】
「ふふ、いえいえ」ニコ

【詢子】
「中沢に爪の垢でも煎じて飲ましてやりてーよ」チラッ

【中沢】
「すいません・・・」


仕事のできる織莉子と仕事のできない中沢を交互に見つめ、詢子は溜息をつく。
織莉子ほどまではいかなくても、せめて普通の仕事くらいミスなくこなして欲しいと彼女は頭を痛めていた。


969 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:39:11.58 ID:GKd/flaB0(12/17)

【詢子】
「はあー・・・早く片付けちまえよ、終わったら飲み行くからな」

【中沢】
「えっまたっすか!?」


詢子に飲みに誘われて、思わず悲鳴を上げる中沢。
誘うと言っても、平社員の中沢にとってそれはほぼ強制であり、拒否権なんかない。
最近では結構な頻度で飲みに連れてかれており、その度に詢子の愚痴や説教を聞く羽目になっていた。


【織莉子】
「今日は早く帰らなくていいのですか?」

【詢子】
「ああ、うちの息子も今日は知り合いのところに泊まりだしな」


タツヤは恭介宅に泊まり、家には知久が居たが、「楽しんでおいで」というメールを貰っていた。
なので、今日は特に時間を気にせず飲みにいけるというわけだ。


【詢子】
「つーわけで悪いが車頼むわ」

【織莉子】
「分かりました」


詢子が飲みに行くときは、ほぼ毎回のように織莉子が同伴している。
車の運転や、詢子が泥酔した時の介抱などをするためだ。勿論、お酒は飲まない。
織莉子自身、そこまでお酒が飲めるというわけでもないので、むしろ都合だった。

時たま酔っ払った詢子が織莉子にお酒を飲まそうとするのだが、その度にやんわりと拒否している。


【中沢】
「・・・」

【詢子】
「お前、今露骨に嫌な顔しただろ?」

【中沢】
「えっいや、そんなことは・・・」


中沢は二人のやり取りを眺めながら苦笑いを浮かべている。
これからのことを考えて憂鬱になっているのが顔に出てしまっていたようだった。

・・・中沢が恭介を飲みに誘ったのも、偶にはゆっくりと気ままにお酒を飲みたいと思ったからなのかもしれない。


【詢子】
「はぁー・・・さっさと終わらせろよ」

【詢子】
「間違ったところ直すだけなんだから、1時間以内な」

【中沢】
「は、はい」


そう言い残して、詢子は社長室に戻っていく。


970 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:42:03.95 ID:GKd/flaB0(13/17)

マタナカザワガギセイニ・・

ガンバレナカザワ

デモミクニサンモイッショナンダロウラヤマー

ヤメトケシャチョウトイッショジャソレドコロジャナイゾ

アノフカフカナムネデカイホウサレタイ

クッ

【詢子】
「仕事しろって言ってんだろ!!!!」

【一同】
「「「はいぃぃぃぃ!!!!!!!」」」


手を止めている社員達に一喝していきながら。


【中沢】
「うぅ、何でいつも俺ばっかり・・・」

【織莉子】
「さあ、どうしてかしらねぇ」


中沢が泣き言を言いながら、再び自分のPCと睨めっこを始める。
そんな彼を見て惚けたことを言う織莉子だが、本当は何となく分かっていた。

恐らく、詢子は少しでも早く、中沢に一人前になって欲しいのだ。
親友の早乙女和子を通じて雇い入れたのだから、尚更その気持ちが強いに違いない。

そう織莉子は考えていた。


【中沢】
「先輩〜」

【織莉子】
「あらあら・・・」


後は・・・彼のこういうところが、詢子がイジり倒したくなる原因なのだろうな・・・とも思った。
多分、本人は気付いていないのだろうが。


【中沢】
「(だが先輩も一緒・・・これはこれで役得だな」

【織莉子】
「何が役得なの?」

【中沢】
「んあ!!??いいいや何でもないっす!!」


心の声をその場にいた織莉子に聞かれてしまい、中沢はひどく慌てていた。

後半の部分がしっかりと声に出てしまっている辺り、中沢らしいといえば中沢らしい。
幸い織莉子に聞こえたのは最後のほうだけだったので、何とか言い逃れすることが出来たようだ。


971 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:45:03.15 ID:GKd/flaB0(14/17)

【織莉子】
「?そう、じゃあ私は仕事に戻るから」

【中沢】
「え・・・あ、はい」


織莉子が先程詢子に頼まれた仕事を片付けるため、自分のデスクに戻ろうと中沢に背を向ける。



ポトッ

【中沢】
「ん?」


しかし、その拍子に織莉子のスーツのポケットから何かが地面に落ちる。
中沢がその音に気付き、視線を床に移すと小さな物が転がっていた。
織莉子の物かと思い・・・彼女に視線を向けるが、彼女はそれに気付かず、そのまま歩いていってしまう。


【中沢】
「先輩、何か落としましたよ?」

【織莉子】
「え?」

【中沢】
「(なんだこれ、キーホルダー?)」


中沢が織莉子を呼び止めながら、床に落ちている物を拾う。

確認してみると、それは―――――――可愛らしいぬいぐるみのキーホルダーだった。


【織莉子】
「中沢君、それ・・・!!」

【中沢】
「え?」


中沢の声に反応して振り返った織莉子は、中沢が持っているキーホルダーを見た瞬間、目を見開く。
その後、自分のスーツのあちこちを手で確認し、それが無いことに気付いた。
すると・・・彼女はサーと音が出るかのように顔を青ざめさせていった。


【織莉子】
「か、返して!!」

【中沢】
「いや、先輩?」

【織莉子】
「早くっ!!!!」

【中沢】
「いっ!?は、はい!!!」


ツカツカと一気に距離を詰め、見たこともないような形相で中沢に詰め寄る。
普段の温厚で落ち着いた雰囲気の彼女とは全く別人ではないかと思ってしまうくらい、今の彼女には鬼気迫るものがあった。

そんな彼女の雰囲気に気圧され、中沢は何がなんだか分からないまま、そのキーホルダーを織莉子に渡した。


972 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:47:33.53 ID:GKd/flaB0(15/17)

【織莉子】
「ハア・・・ハア・・・」

【織莉子】
「・・・ごめんなさい、中沢君」


キーホルダーが手元に戻ると、織莉子は我に返るように落ち着きを取り戻していく。
そして、傍で驚いている中沢に頭を下げた。


【中沢】
「いや、別にいいんすけど・・・」

【中沢】
「なんなんすか、それ?」


見たところそれほど高価な物ではなく、どこにでもありそうな市販のキーホルダーである。

中沢はどうしてそんな物のために、彼女があそこまで取り乱したのかが分からなかった。
そして・・・そのキーホルダーが、彼女にとってどれだけ重要なものなのかも―――――。


【織莉子】
「・・・」

【織莉子】
「私の大切な物よ」

【織莉子】
「命よりも、大切な・・・」

http://hp41.0zero.jp/data/800/tiger2/pri/33.JPG


そう、そのキーホルダーは―――――――



『織莉子』


『このキーホルダーは私の宝物にするよ!!』




―――――――以前、彼女が最愛の友人にプレゼントした物。



そして・・・今は―――――――――――その友人の形見にあたる物になっていた。


ゆまが杏子の髪飾りを肌身離さず持ち歩いているように、織莉子もそのキーホルダーを持ち歩いていた。
彼女がいない寂しさを紛らわせるために・・・そして、彼女との楽しかった日々を忘れないために―――――。


973 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/16(金) 00:49:41.11 ID:GKd/flaB0(16/17)

【中沢】
「へ、へぇ・・・」

【織莉子】
「ありがとう、拾ってくれて」ニコ


そんな事など知る由もない中沢に、今の彼女の言葉を理解することは出来なかった。
一方の織莉子は、そのキーホルダーを握り締め、満面の笑みをうかべていた。


【中沢】
「(さながら天使のようやで・・・)

 いや、別に感謝される程じゃっ」


その笑顔を見れただけで、キーホルダーのことなどどうでもよくなってしまう中沢だった。


【織莉子】
「ふふ、何かお礼しなきゃね」

【中沢】
「じゃあ仕事を」

【織莉子】
「手伝わないわよ?」

【中沢】
「」


もっとも、こんな性格だからいつまで経っても仕事を覚えないのだが・・・。


【織莉子】
「それとこれとは話が別よ」

【中沢】
「そんな〜」

【織莉子】
「ふふふ・・・」


結局、中沢が書類を無事に提出したのは、それから2時間後のことで・・・再び詢子の雷が落ちたのは言うまでもない。
・・・中沢が詢子の説教うんぬんから開放されるには、もう少し時間が掛りそうだ。

因みに中沢が詢子にボロボロにされるのを、織莉子は満面の笑みで眺めているだけだった。

974 川´_ゝ`){かずマギももう終わるな ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/11/16(金) 00:55:44.16 ID:GKd/flaB0(17/17)
今回は以上になります。お疲れ様でした。

次回で3話終了になります。後はエピローグだけなので次回は短めになると思います。
何とかこのスレで終わるかな・・・?もし万が一の場合があったら、また連絡します。

それでは、また次回。お休みなさい ノシ
975 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/16(金) 01:20:12.32 ID:pFks8w9DO携(1)
個人的にこの会社の構成がどうなってんのか気になるな
早乙女先生の縁があったとはいえ、平社員が社長に直接指導されたり、社長がオフィスに顔出したり、業務フローが平社員→社長みたいだから然程、規模は大きくないと思うが
というか中沢が役得すぎて裏山しい
976 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/11/16(金) 01:20:35.42 ID:/SYoobdzo(1)

なんか某72の人がいるな

スーツの胸元がぱっつんぱっつんでとってもウェヒヒヒですねおりこさん
977 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2012/11/19(月) 01:23:42.38 ID:tv7f1NO/o(1)

978 川´_ゝ`){炬燵で寝たら風邪引くよ ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/19(月) 02:01:05.89 ID:2sGWBO1/0(1)
夜遅くにこんばんわ>>1です。いつもコメ有難う御座います。

>>975さん、
すいません。正直会社の構成とかはあまり深く考えてなかったです^^;
なので、現実とは矛盾してる点が多々あると思いますが・・・ご了承下さい。

それで、次回の更新ですが11月21日0時以降を予定しております。
短いので多分このスレで終わると思います。

それでは、今日はこの辺で。お休みなさい ノシ
979 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/11/21(水) 00:52:56.29 ID:oZquWL+D0(1/12)

――――――――――――――――――――

翌日、見滝原中学―――


【タツヤ】
「英語なんて言語が無くなってくれたら」

【タツヤ】
「それはとっても嬉しいなって」

【タツヤ】
「思ってしまうのでした」

【和子】
「物騒なこと言うんじゃありません」


放課後、殆どの学生が帰宅するか部活動に参加している中、俺は何故か教室にいた。
自分の机に座り、英語の教科書と電子辞書を広げている。
そして電子ボードの前には、母さんの親友であり英語の先生である早乙女和子(独身)さんが立っていた。


【タツヤ】
「勘弁してよ〜和子さ〜ん」

【和子】
「学校では先生と呼びなさい。あなたが英語の小テストで赤点取るからいけないんです」


小テストか、そう言えばそんな物があったな。鞄の中にグチャグチャになって入ってるけど。


【タツヤ】
「29点じゃないか〜1点くらいまけてくれても〜」

【和子】
「駄目です」

【タツヤ】
「ケチ〜」


うちの学校はテストで30点未満を取ると赤点扱いで、ペナルティーとして放課後の補習を受けなければいけなくなる。
このルールは中間や期末だけじゃなく、授業中に行う小テストとかでも適用されるらしい。

案外学業面厳しいな、うちの学校。
因みに、うちのクラスで補習を受けなければいけなくなったのは・・・俺と―――


【大輔】
「ふっ、たかだか小テストでこの程度とは・・・まだまだお前も甘いな、タツヤ」


―――この馬鹿である。



980 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 00:55:07.53 ID:oZquWL+D0(2/12)

【タツヤ】
「・・・0点のお前に言われたくない」

【大輔】
「馬鹿野郎!!中途半端な点数取るくらいなら正々堂々諦めた方が男らしいだろ!!」

【タツヤ】
「諦めた時点で男らしいも糞もねぇよ!!」


この馬鹿は、小テストを白紙で出したらしい・・・。授業中にその事で問い詰められると、こいつは

自分、日本人ですから

と、はっきり言い切りやがったのだ。自分のやったことが、あたかも当然であるかのように・・・。
本当にコイツ馬鹿だな〜ある意味尊敬するわ。


【和子】
「はいはい、喧嘩しないで二人とも」

【和子】
「じゃ、補習始めますよ」

【大輔】
「先生!!俺は将来ぽすてぃんぐでも海外えふえーでもめじゃーに行くつもりは無いので英語は必要ありません!!」ショウガイベイスターズデガンバリマス

【和子】
「ごめんなさい。先生、あなたが何を言ってるのか全く分からないわ・・・」


和子さんがコイツの訳の分からない宣言を聞いて、頭を抱えている。
というかコイツ、ついこの間ギターで天下取るって言ってなかったか・・・?
・・・気にしたら負けだな、うん。



因みにその後の和子さんの補習は、主に大輔向けの内容で進んだ。大輔の英語力があまりに酷かったからだそうだ。

一方の俺は、和子さんからプリントを渡され、自分で辞書を引きながら解くことになった。
どうしても分からない部分のみ、和子さんに質問するという形で補習は進んでいく。

・・・大輔のせいで和子さんが四苦八苦していたために、あまり質問出来なかったのは内緒だ。



981 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 00:57:53.75 ID:oZquWL+D0(3/12)


【和子】
「はい、今日はここまで」


夕方になり部活動を終えた生徒達が下校し始めた頃、ようやく俺達の補習は終了した。


【大輔】
「燃え尽きたぜ・・・真っ白によ・・・」


そして、大輔は何故か前身真っ白になりボロボロになっていた。自慢のリーゼントですら崩れて前に垂れ下がっている。
一体何と戦っていたんだろ・・・コイツ。


【和子】
「板垣君、お願いだからアルファベットくらい順番通り覚えてね・・・」ハァ

【大輔】
「先生は俺に日本男児を辞めろと?」

【和子】
「そんな事言ってません」


これだけ長い時間掛けたというのに、結局コイツはアルファベットすらまともに覚えることが出来なかった。
和子さんが何回も教えたというのに、一度もAからZまで言い切ることが出来なかったのだ。
それくらい、俺でも言えるというのに・・・。和子さんもコイツのせいで相当お疲れのようだった。

・・・うーん、この補習・・・意味あったのかな?


【タツヤ】
「さてと、1日ぶりに家に帰るか」


朝は恭介さんの家から直接来たので、家に帰るのは昨日ぶりになる。
父さんから来たメールによると、昨日は母さんがかなり泥酔して帰ってきたそうだ。
家に着いてからも部下に対しての愚痴を言いまくっていたらしい。
何してんだあの人・・・。


【和子】
「そう言えばタツヤ君、昨日は上条君の家に泊まったんですって?」

【タツヤ】
「それ、母さんから聞いたんすか?」


俺が帰り支度をしていると、電子ボードの片づけをしていた和子さんが声を掛けてくる。
和子さんと母さんは今でも親交が深く、よく二人で飲みに行くらしい。
母さんが言うには、和子さんは父さん以外で弱音や悩みを打ち明けることができる唯一の人物だそうだ。
あの強気な母さんが弱音なんか吐くのかな・・・、ちょっと想像できん。


982 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 00:59:43.57 ID:oZquWL+D0(4/12)

【和子】
「そうよ〜、上条君元気してた?」

【タツヤ】
「はい、元気そうでしたよ」


和子さんは恭介さんや仁美さんが生徒だった時から、この見滝原中学で教師をしている。
二人の担任も務めていたことがあるらしい。
今でも、二人とは頻繁に連絡を取ったりしているそうだ。


【タツヤ】
「昨日は色々お世話になりましたし」

【大輔】
「何ぃ!?貴様!!何故俺を誘わない!!!」

【タツヤ】
「無茶言うな!!!」


お前あの二人と面識ないだろうが・・・。

それはいいとして、昨日は本当にお世話になった。
お祝いしてくれたり泊めてもらった事は勿論、何より恭介さんにはいらぬ心配をかけてしまった。

でも、正直なところ・・・昨日の夜のこと、よく覚えてないんだよな・・・。
恭介さんが俺のためにヴァイオリンを引いてくれたところまでは覚えているんだけど、後のことはさっぱり・・・。
また例の頭痛が起こったみたいだけど・・・う〜ん。


【和子】
「とりあえず、上条君に私も応援してるって伝えといて」

【タツヤ】
「あ、うん・・・じゃなくて、分かりました」


和子さんも、恭介さんの活躍には注目しているらしい。元担任だという事もあって、きっと思い入れも強いのだろう。

・・・ん?元担任ということは、ひょっとして・・・。


【タツヤ】
「和子さん」

【和子】
「先生、でしょ」

【タツヤ】
「・・・先生って、恭介さんの担任だったんですよね?」

【和子】
「ええ、そうよ?」

【タツヤ】
「じゃあ、暁美ほむらさんって知ってます?」


俺は、試しに和子さんに暁美さんの事を聞いてみる。
昨日、暁美さんも恭介さん達もお互いの事をクラスメイトだったと言っていたからだ。
ひょっとしたら二人の担任だった和子さんも暁美さんの事を知っているかもしれない。


983 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 01:01:55.71 ID:oZquWL+D0(5/12)

【和子】
「え・・・」


そう、軽い気持ちで聞いたのだが・・・・。


【和子】
「ど、どうしてあなたが暁美さんのことを・・・」


和子さんは暁美さんの名前を聞いた瞬間、驚いたような表情を浮かべた。

そしてそれは・・・昨日の恭介さん達と同じ反応だった。


【タツヤ】
「え、いや・・・ちょいと色々ありまして・・・」


どうして、暁美さんの名前を出すとみんな同じ反応するんだろう・・・?
まるで、俺が暁美さんの事を知っていることが意外そうな顔だ。
まあ、実際そうなんだろうけど・・・何の接点もないし。


【和子】
「そう・・・」

【和子】
「暁美さん、元気そうだった?」

【タツヤ】
「え?え・・・えぇ、まあ」

【和子】
「なら、良かったわ・・」


俺が答えると、和子さんは胸を撫で下ろすように安堵の表情を浮かべる。
なんか、昨日も同じこと聞かれた気がする・・・。なんで、みんなそんなに暁美さんのことを・・・。



【タツヤ】
「あの・・・暁美さんって学生時代に何かあったんですか?」

【和子】
「え!?ど、どうして?」

【タツヤ】
「いや、昨日も恭介さん達に似たような反応されて・・・」


恭介さんといい仁美さんといい、そして和子さんといい・・・昔から暁美さんを知っている人は、みんな同じ反応をしている。
暁美さんは今はどうしているのか・・・とか、彼女は元気にしているか・・・とか。
そんな風に聞かれたら、どうしても・・・あの人の過去に何かあったのかと考えてしまう。

あの人が他の人とは違うのは俺も知ってる。きっと色々あったのだろうと思うけど・・・。


【和子】
「・・・・」

【タツヤ】
「和子さん?」


俺が暁美さんの事を尋ねると、和子さんは黙ってしまった。顔を覗いてみると、凄く暗い表情をしている。

・・・やっぱり、何かあったのかな?


984 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 01:04:57.46 ID:oZquWL+D0(6/12)

【和子】
「・・・あれから、もうどのくらい経ったのかしらね・・・」

【タツヤ】
「え?」


暫く黙ったままだった和子さんが、まるで何かを思い出すかのようにして静かに口を開く。
そんな和子さんの表情は・・・凄く悲しそうで、視線は何処か遠くを見つめていた。

この表情・・・確か、恭介さんや仁美さん・・・それに、ゆまさんもしていたような気がする。


そんな違和感を覚えながら・・・俺は和子さんの言葉を待った。


【和子】
「タツヤ君はまだ幼かったから知らないだろうけど」

【和子】
「昔ね、この見滝原で・・・」

【和子】
「女の子達が次々と行方不明になったことがあったの」

【タツヤ】
「・・・・・え?」


しかし、その言葉に・・・俺は思わず声を漏らした。
・・・今、和子さんは何て言った?  女の子達が・・・・・・・・・・え?



『その『奇跡と魔法』を手に入れるためには・・・』



【和子】
「私のクラスの生徒も含まれてたから、よく覚えてるわ」

【和子】
「その子達は・・・結局見つかからなくてね」

【和子】
「警察も、捜査を打ち切っちゃったんだけど・・・」



『それ相応の『代償』を支払わなければいけないってね・・・』



それって・・・・まさか、そんな・・・・。


985 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 01:06:25.64 ID:oZquWL+D0(7/12)

【和子】
「その子達が行方不明になった事件全てに関わっていたのが・・・」


【和子】
「暁美さん、なのよ」



【タツヤ】
「・・・・」




【タツヤ】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」




この時の俺は―――――――まだ知らなかったのだ―――



魔法少女達の抗うことのできない運命も――――――暁美さん達の悲しみも―――――



――――たった一つの奇跡の対価として支払われる―――――――大きすぎる代償も・・・。



986 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 01:07:34.44 ID:oZquWL+D0(8/12)

――――――――――――――――――――

\♪〜/ \♪〜/



ピッ

【ほむら】
「・・・・・」


【ほむら】
「もしもし」


『・・・・』


【ほむら】
「・・・うん」


『・・・・』



【ほむら】
「大丈夫、心配しないで」


987 第3話「奇跡と魔法と、その代償」 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 01:09:28.24 ID:oZquWL+D0(9/12)



【ほむら】
「・・・・ごめんね」





【ほむら】
「お母さん」


http://www.youtube.com/watch?feature=endscreen&v=cH6NB2F-Jcw&NR=1


第3話「奇跡と魔法と、その代償」  fin



988 次回予告 ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 01:14:19.06 ID:oZquWL+D0(10/12)


「私は、あなたが思っているほど優しくもないし、強くもない

 あなたを助けたのも、その場の成り行きよ

 私はいつでも自分だけの為に戦ってる。他の事なんてどうでもいいわ
 
 だから、これ以上私に関わらないで

 

 私の瞳に・・・『あなた』は映っていないのだから」


第4話「犯した罪 課せられた罰」

989 BGM貼り忘れた ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/21(水) 01:15:58.83 ID:oZquWL+D0(11/12)
>>988

http://www.youtube.com/watch?v=uUjX0qfYYdk&feature=plcp


990 川´_ゝ`){最後までgdgdですまんね ◆7F2DwKbdfg [saga] 2012/11/21(水) 01:30:31.50 ID:oZquWL+D0(12/12)
今回は残りレス数のあって、冒頭の挨拶は省略しましたすいません。
3話終了になります。お疲れ様でした。

なんとかこのスレ内で終わらせることが出来ました。有難う御座います。
そして、4話以降は2スレ目に続きます。

初めて立てたこのスレを無事に終わらせることが出来たのも、読んでくれる皆さんのおかげです。
まだ話自体は終わってませんが、改めて御礼を言わせて下さい。有難う御座いました。

さて、次スレですがスレ名を変えようと思っています。一応次のスレ名は

魔法少女まどか☆マギカ〜After Ten Years of History〜

を予定しております。
改変後+長編+オリキャラ無双と、人を選ぶ作品ではありますが、
これからものんびり更新していくので、時間潰し程度の軽いノリで読んで戴けると幸いです。


長々と失礼致しました。それでは次スレで。
お休みなさい ノシ

991 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga] 2012/11/21(水) 07:54:12.97 ID:DbnSPDmEo(1)
乙カレー
このスレはもう埋めるのかな
992 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/21(水) 08:01:07.40 ID:XkCNsL8Lo(1)
おつおつ

>>991
次スレ誘導待ちに 999 くらいで維持しとけばいいんじゃね?
993 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) 2012/11/21(水) 17:13:07.65 ID:JLN4ija10(1)
乙乙ー
いつも楽しく読んでるよ、次スレも頑張ってくださいな
994 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/11/21(水) 17:15:55.04 ID:sX/V9zrIO携(1)
先に立てたら?
一レス分のあらすじだけ書いて

感想書こうにも埋まっちまう
995 川´_ゝ`){寒い ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/23(金) 01:38:48.07 ID:dp81wpXM0(1)
夜遅くにこんばんわ>>1です。
いつも閲覧&コメ、そして応援有難う御座います。

とりあえず新スレ立ててきました。

魔法少女まどか☆マギカ〜After Ten Years of History〜【あれから10年】
vip2chスレ:news4ssnip

4話冒頭投稿日はまだ未定ですが、また宜しくお願いします。
新スレ立てたので、此方はもう埋めて構いません。ご協力お願いします。

それでは、また新スレで。お休みなさい ノシ
996 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) 2012/11/25(日) 19:57:04.19 ID:INoRg4Vno(1)
乙乙!
997 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) 2012/11/26(月) 22:06:57.32 ID:sQ2Tt+nAO携(1)

998 川´_ゝ`){そろそろ埋めよう ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/27(火) 01:25:58.89 ID:Q2R/80SJ0(1/3)
埋め
999 川´_ゝ`){そろそろ埋めよう ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/27(火) 01:26:39.60 ID:Q2R/80SJ0(2/3)
>>999
1000 川´_ゝ`){そろそろ埋めよう ◆7F2DwKbdfg [saga sage] 2012/11/27(火) 01:28:03.99 ID:Q2R/80SJ0(3/3)
>>1000
閲覧有難う御座いました。>>995の次スレでも宜しくお願いします。
1001 1001 Over 1000 Thread
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
:::::::::::::::::::::::::.:*゜☆  =:. :*・゜☆.::::::::::::☆
。.: *・゜☆.。. :* ☆.。:::::::::::::::.:*゜☆  :。.:・゜☆.。
::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆    =磨K☆.。
:::::::::::::::::::.:*・゜☆  :. :*・゜☆.::::::::::::::::::::::::::゜☆.
:  =: :   *  ゜☆.。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
:::::::::::::::::::::::::.:*゜☆  =:. :*・゜☆.::::::::::::☆
。.: *・゜☆.。. :* ☆.。:::::::::::::::.:*゜☆  :。.:・゜☆.。
::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆    
:::::::::::::::::::.:*・゜☆  :. :*・゜☆.::::
   ::  !ヽ  :
   :     !ヽ、    ,!  ヽ
                 ,!  =]‐‐''   ヽ:
   :   / ´`)'´    _      !、
            lヽ /   ノ    , `     `!:
       lヽ、  /  Y    ,! ヽ-‐‐/          l
.     =@>‐'´`   l   ノ   ヽ_/          ノ:
      ,ノ      ヽ =@           _,イ:
    '.o  r┐   *   ヽ、 ヽ、_     ,..-=ニ_
    =@   ノ       ノヽ、,  !..□ /     ヽ
     ヽ        .ィ'.  ,!    ハ/    、   `!、    七夕に…
      `ー-、_    く´ =@    /     ヽ  
         ,!     `!  l              ヽ、__ノ    このスレッドは1000を超えました。もう書き込みできません。
         l     `! `! !              l
          l  . =@ ,=@ヽ、 、_ ,ィ      ノ               
         l、_,!   し'   l =@  `l     =@               http://vip2ch.com/

1002 最近建ったスレッドのご案内★ Powered By VIP Service
A雑民の奴らを2、3人、血祭りにあげて引き摺り下ろして細切れにしてやる! @ 2012/11/27(火) 01:12:27.21 ID:oUbUhttpo
  vip2chスレ:aa

【Fate】やる夫で聖杯戦争 @ 2012/11/27(火) 01:01:27.94 ID:ESzL85tdo
  vip2chスレ:news4ssnip

ニート岡部「うはwwww」カタカタ まゆり「」 @ 2012/11/27(火) 00:57:00.77 ID:maiCgtyi0
  vip2chスレ:news4ssnip

健夜「年下の男の子を落とす100の方法 アラ卒寿」 @ 2012/11/27(火) 00:29:10.34 ID:bMxa8b+do
  vip2chスレ:news4ssnip

【年末だ!】ここだけきのこたけのこ大戦 会議場★78【リア充撲滅だ!】 @ 2012/11/27(火) 00:20:38.77 ID:Wag2ZYm8o
  vip2chスレ:part4vip

男「もし俺が女だったとしたらどうする?」幼馴染「」ガタッ @ 2012/11/27(火) 00:10:59.81 ID:Cnrg2Qfp0
  vip2chスレ:news4ssnip

キリト「マドカ☆マギカ★オンライン……?」vol.5 @ 2012/11/27(火) 00:03:34.03 ID:8G4BintU0
  vip2chスレ:news4ssnip

【咲】京太郎「ネット麻雀で強くなる」淡「その3だよー!」【安価】 @ 2012/11/27(火) 00:00:56.84 ID:OgfqRY9fo
  vip2chスレ:news4ssnip



VIPサービスの新スレ報告ボットはじめました http://twitter.com/ex14bot/
管理人もやってます http://twitter.com/aramaki_vip2ch/
Powered By VIPService http://vip2ch.com/


1-
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル

ぬこの手 ぬこTOP 0.275s*