したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

サイコの図書館

986 ◆Qg.sc1QOmg:2009/10/30(金) 08:24:03 ID:j04hVaPs0
「そらちゃんのふくしゅう」


<4/10>


「ひよりフリーパーク」は、「冒険遊び場」の別名をもつ公園だ。
「リーダー」と呼ばれる職員が常駐し見守る中、子どもたちは可能な限り自由に、
広い園内を遊びまわれる。
穴掘り、泥遊び、木のぼり、秘密基地づくり。何をしても咎められない。
小腹がすけば、火を焚いて簡単な料理をすることさえできる。
団地から歩いて10分ほどの距離にあるので、子どもたちにとっては恰好の遊び場だった。


太い絵筆で、力いっぱい濃い青の絵の具を塗り込めたような青空が広がる日曜の早朝、
ソラとクラスメイトたちは、フリーパークの一角に集まった。
マツオくんの一声で、そこには結局、クラスのほとんどの子どもたちが顔を並べていた。
むき出しの赤土の地面の上に、みんなでしゃがみこむ。
周りには植え込みがあり、ほどほどに人目を避けられて、
そこは密談にはうってつけの場所だった。
「いいか、おまえら。これから俺たちが話すことは、絶対誰にも秘密だからな」
マツオくんが、みんなをぐるりと見回しながら声をひそめて切り出した。
「もし、秘密をやぶったり、裏切るやつがいたら……俺がボコる」
押し殺した声でマツオくんがすごむので、みんな真顔で耳を傾けている。


「あのね、みんなにお願いがあるの。
ママをだました悪いやつに、どうしても仕返しがしたいの」
マツオくんに目で促され、ソラは話を始めた。
「マツオくんに話したら、手伝ってやるからって言ってくれたの。
でも、ふたりだけじゃなんにもできないから……
だから、よければみんなにも手伝ってほしくて」
それ以上言葉が出ずに、ソラはうつむいて黙りこくった。
マツオくんが、あとを継いで話を続ける。
「そういうことだ。怖いやつとかびびるやつは、このまま帰っていいんだぜ。
やる気のあるやつだけ、俺とソラを手伝ってくれ。
……でもな、これ、うまくいったらすげえ面白いぜ。
どうだ、やってみねえか?」
少しばかり強張った面持ちで、子どもたちは心もちうつむき加減に押し黙っていた。
マツオくんは、みんなの出方をうかがうように、静かでまっすぐな目をして子どもたちを見ている。
「……わかった。お前の計画、もっと聞かせてくれよ」
沈黙をやぶるように、タカセが口火を切った。


「まず、落とし穴を掘るんだ。ソラ、そいつ身長どれくらいある?」
「んー、よくわからないけど……サイゴウ先生より小さいかな。あと、すごくやせてた」
3年生の担任のサイゴウ先生は、彼と年は近そうだったが、体育大卒で背が高く、体格もがっしりしていた。
「そっか。じゃあ、そこまで深くなくてもいいな」
「ねえ、落とし穴の中に、うんこ入れておかない?」
お調子者のタケルが、にやにやしながら言った。
「面白れえな。で、誰のを使うんだ?」
マツオくんもにやにやしながら返す。当然、名乗り出るものはいない。
「うちのおばあちゃんちで、猫5匹飼ってるよ。猫のでよかったら、トイレから集めてこれるけど」
エリナちゃんが声をあげる。少し弾んだ表情をしている。
「よし、上等だ。じゃあそれ、エリナに頼むよ。
あと、きーやんとタカシとケンタ、泥だんごやってくんないか」
みんなは、いっせいにきーやんのほうを向く。
きーやんは、堅いぴかぴか泥だんごの制作に今ある全てを捧げている泥だんご男子だ。
「泥だんごは、投げたりするもんじゃないよ……もったいない」
普段口数の少ないきーやんは、うつむき加減でぼそぼそと話す。
「わかってるって。きーやん、一個作るのに何日もかけてるもんな。
だからさ、ここの土で、べたべたのだんごをいっぱい作ってくれればいいんだよ。
そいつを、穴から出てきた敵にぶつけるんだ。男子がみんなでさ。
ちょうど、落とし穴掘るのに土はいっぱい出るんだ。使わねえとな」
マツオくんの意見はどれも的確で、2年生たちはみんな感心して聞き入る。
「それから、泥だんごで追い詰めた相手を、どろんこのプールに追いやる。
ぬかるみにはまったところに、水鉄砲で攻める。水には、絵の具で色をつけておく。
もうさ、電車で帰れないくらい徹底的にやってやろうぜ」
マツオくんが自信に満ちた声でそう言うと、不思議と成功しそうな気がする。
ソラをはじめ、その場にいた十数名の子どもたちは、まるで催眠術にでもかけられたように
勝利を確信しそうになった。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板