サイコの図書館 (1000レス)
1-

このスレッドは1000を超えました。
次スレ検索 歴削→次スレ 栞削→次スレ
984: ◆Qg.sc1QOmg 2009/10/30(金)08:22 ID:j04hVaPs0(2/12) AAS
「そらちゃんのふくしゅう」

<2/10>

ソラが、ママと郊外のこの町に越してきたのは、1年生に上がる直前だった。
やっとのことで公団住宅の抽選に当たり、ソラたちは、
古びてはいるものの、23区内のアパートよりはよほど広くて快適な2LDKの部屋を手に入れた。
家が変わるのと同じころ、ママには新しい仕事が見つかった。
私鉄を乗り継いで行き着く大きな街の、雑貨やインテリアを扱う店に勤めることになったのだ。
奮発して新調した一張羅を着たママは、少し若くて綺麗に見えた。
華やいだように背筋をのばし、さっそうと出かけていくママが、ソラは嬉しかった。
新しい学校にもすぐに慣れ、ソラは引っ越しをして本当によかった、と思った。

2年生になったソラの生活に影が差し始めたのは、夏休みに入る少し前だった。

ママの帰りが急に遅くなることになり、お腹がすいたソラは、何の気なしに冷蔵庫を開けた。
牛乳と6Pチーズ、それから、グレープフルーツのゼリーが入っていたので、
とりあえずお腹をふさごうと取り出して、ドアを閉めた。
「ばたん」力加減を間違えたのか、ドアは大きな音をたてて勢いよく閉まり、
ぐらりと揺れた冷蔵庫の上から、ばさりと何かが落ちてきた。
ソラが手に取ったそれは、古い日付の入った週刊誌だった。
ママが読んで、そこに置いたのだなと思った。
表紙に、見覚えのある名前が書かれていた。
チーズの包み紙をはがし、口に放り込みながら、ソラはページをめくり、
知らないほうがよかったことを知ってしまったのだった。

ソラは、彼に好意をいだいていた。
優しくてハンサムで、いい人だとばかり思っていた。
あの笑顔に、物腰に欺かれていたと知ったとき、ひどく悲しかった。
ママが留守なのをいいことに、ソラは部屋で少し泣いた。

公団に越してきて嬉しかったのは、ソラに自分の部屋が出来たことだった。
絵を描くことが好きなソラは、壁に気に入った絵を何枚も貼っていた。
ひと隅に、いつか描いたその人の似顔絵が飾ってあった。
おっとりと眉を下げ、口の両端をきゅっと上げてほほえむ顔が描かれている。
それは、ソラの記憶にある彼の印象そのものだった。

もうすぐ、ママが帰ってくるかもしれない。
留守中に一人で泣いていたりしたら、どれほど心配させるだろう。
いつまでも、めそめそしているわけにはいかなかった。
ソラは、手の甲でぐいっと涙を拭うと、勉強机の引き出しから赤いクレヨンを取り出して、
彼の顔を一息に塗りつぶした。
砕けたクレヨンの、べたべたの赤い粉が紙の表面にこびりつき、
やがて床にぼろぼろと落ちたが、それでもソラの手は止まらなかった。

真っ赤な線は、刃のように彼を切り裂いた。
屈託のない穏やかな笑顔は、見る見るうちに血まみれになった。
ソラは紙に手をかけると、壁から引きちぎり、びりびりに破いて屑かごに捨てた。
1-
あと 16 レスあります
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル

ぬこの手 ぬこTOP 0.100s*