【WHITE ALBUM2】和泉千晶スレ ネコ2匹目 (507レス)
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(1): 2013/03/10(日)00:22 ID:xkoDBqzP0(1/13) AAS
「あ、瀬ノ内さん。今日は…」
 板倉記者が口を開いたところを、すかさず千晶は自分のセリフを重ねてつぶす。
 千晶はいつもこの手でこの小うるさい雑誌記者をはぐらかしていた。舞台の間の取り方を逆用したワザである。
「ああ、冬馬さん。わたし。クラス別だったけど学年同じだったよ。でも覚えてないよね。瀬能千晶っていうんだけど」

 突然見知らぬ学友に話しかけられ、今度は冬馬が泡を食う。
「え、ええ?」
 かまわず千晶は続ける。
「ひょっとして、今の舞台見ていた? ごめんごめん、全然気付かなかった」
 そういう千晶の顔は悪戯を見つけられた少年のものだった。だが、その目はひそかにかずさの反応を注意深く見ている。
「あ、いや、今日は別件で…」
省13
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(1): 2013/03/10(日)00:24 ID:xkoDBqzP0(2/13) AAS
 その言葉に、かずさは不意をうたれる。急になれなれしく名前で呼ばれたことに対してではない。
 その口調、しぐさがまるで…かずさの不倶戴天の親友のまさにそれであったから。
「???っ…あ、ああ…」
 かずさは思わず肯定の返事を返してしまった。
「『よかったぁ。じゃ、絶対絶対来てよね。…来てくれないとちょっとだけ傷ついちゃうかもなぁ…』」
 そう言って、千晶はかずさの手に強引にチケットを2枚握らせる。
 その際の演技も完璧に『小木曽雪菜』のそれであった。かずさは混乱のあまり何も反抗できずにチケットを受け取る。
「『じゃあ、見終わったらまたこの場所で会おうね』」
「………、あ、うん…」
 かずさは呆気にとられ、こくりとうなずくばかりであった。
省9
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(1): 2013/03/10(日)00:28 ID:xkoDBqzP0(3/13) AAS
**********5/13(木)「シアターモーラス」『届かない恋』開演前

「明日の講演後このコ連れて来て。そしたら取材でも何でも応じるよ」
 瀬之内晶はそう言って板倉記者にチケットを握らせると、あっという間に雑踏へ消え失せてしまった。
 あとに残されたかずさと板倉記者だが、かずさのほうは呆気にとられたようすで、板倉記者が何を話しかけても生返事しか返ってこなかった。
 仕方なく、明日会う約束だけしてその場は別れた板倉記者だったが、かずさが来るかは半信半疑だった。久しぶりに会った学友?にしては様子がおかしかったが…

 翌日の講演開始10分前。待ち合わせは20分前だったから、もう10分の遅刻だ。
「…また騙されたかも?」
 シアターモーラスの入口で待ちつつ、そうぼやいた板倉であったが、程なく彼女は現れた。
「…やあ、板倉さん」
「はいはい、かずささんこんにちは〜。今日はお付き合いありがとうございます。いやいや、本日は僭越ながら御同席させていただきますので…」
省15
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(1): 2013/03/10(日)00:30 ID:xkoDBqzP0(4/13) AAS
 間もなく舞台が始まった。オープニングニングに流れたのは「White Album」。かずさにとっても懐かしい曲だ。
 メジャーデビューを夢見る高校生、西村和希が二人のヒロインをバンドに引き込もうとするシーン…前半はラブコメディ色が強い

「俺と合わせられるのはお前しかいない!」
「だから質問に答えろ」
「俺みたいなヘタクソをフォローするには、お前くらいの腕がないと不可能なんだよ!」

 開演後、しばらくして…2人目のヒロイン『冬木榛名』登場のあたりから…板倉はかずさの異変に気づいた。
 最初はギャグシーンで他の観客と同じようにクスクス笑っていたかずさが、やがてクスリとも笑わなくなったばかりか、だんだんと表情を強ばらせている。

「…あの…かずささん?」
「…まさ…か……っ」

 かずさは、気付きつつあった。
省5
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(1): 2013/03/10(日)00:32 ID:xkoDBqzP0(5/13) AAS
 舞台はコンテストの直前、控え室での和希と雪音。雪音が和希にキスをねだるシーンだ。

「じゃ、もう一度目をつぶるので考えてみてください。制限時間は30秒!」
「え? え? え?」
「ん〜っ!」
「目をつぶったのはわかったけどさ…その背延びは何?」
「残り20秒〜」
「ゆ、雪音…?」
「残り10秒〜」
「10秒はやっ!?」
「………」
省11
148: 2013/03/10(日)00:40 ID:xkoDBqzP0(6/13) AAS
>>147
 ありがとう。
 明日にします。
149: 2013/03/10(日)23:28 ID:xkoDBqzP0(7/13) AAS
こんばんは
昨日は長文連投失礼。

もうラスト以外できているけど、ペース配分して投稿します。
今日は、『届かない恋』の終幕まで。

ちなみに、雪菜True後の後日談ですので、千晶Trueの『届かない恋』とは内容異なる
(千晶入れ込んでない、雪音に千晶入ってない等)ってことでご了承ください。
150
(1): 2013/03/10(日)23:31 ID:xkoDBqzP0(8/13) AAS
「イチャイチャしたりジタバタしたり忙しいな」
「うぇっ!? ふ、冬木?」

 ガタンッ!
「えっ!? かずささん!?」
 突然立ち上がったかずさに驚いたのは板倉だった。かずさの顔からは血の気が失せていた。

「ごめんな… それから、今日まで本当にありがとう」
「…まだ終わってないだろ。最後の、一番めんどくさい本番が残ってる」
「そうだな…これが最後だ」
「………っ」
「行こうか、冬木。雪音が待ってる」
省9
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(1): 2013/03/10(日)23:32 ID:xkoDBqzP0(9/13) AAS
**********幕間

「…かずささん?」
 板倉に話しかけられてかずさは我に返った。
 『榛名』のキスシーンから第一幕の終わりまで、結局かずさはずっと立ちっぱなしだった。

「…行く…」
 そうつぶやいたかずさに板倉は聞き返した。
「?…おトイレですか?」
「あの女のとこだよ!」
「えっ? かずささん?」

 板倉を押しのけて出ようとするかずさであったが、座っていたのは端が詰まった席であったため、板倉や他の観客が邪魔になりすぐに出られない。
省13
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(1): 2013/03/10(日)23:33 ID:xkoDBqzP0(10/13) AAS
「後悔…するぞ…」
「後悔なんて…し飽きた…」

 暗転する舞台

「いつもの約束…守れよ?」
「榛名…」
「雪音には…内緒だぞ」

 雪音は、ふたりの逢瀬に気付きつつも、カタチだけの「遠距離恋愛の彼氏と彼女」の関係にすがりつく。
 いや、カタチだけの廃墟同然の関係にすがり、崩壊だけ先延ばしにするような日々を送る。

「『もぉ〜、ひどいよねぇ〜。誕生日にまで仕事入れられて〜』」
「『てなわけで、和希くんゴメン! 電話してくれてうれしかったよ! じゃあ…』」
省10
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(1): 2013/03/10(日)23:34 ID:xkoDBqzP0(11/13) AAS
 そして、最終幕。
 
 そんな嘘に塗り固められた日々に疲れた和希がふと、榛名のピアノを聞きたいと漏らしたところから話は終盤に向かう。
 ブランクとスランプに喘ぎ、自暴自棄になって和希まで拒絶して引きこもってしまった榛名。その危機を救う為に現れたのは他でもない、雪音であった。

「…何のために来た…? わたしを罵りに来たのか? それとも…憐れみに来てくれたとでも言うのか?」
 雪音を拒絶する榛名。しかし、雪音は引き下がらない。

「どうしてそんなこと…そんなこと、どうして言うの…全部あなたが臆病なのが悪いんじゃない!」
 ぱしっ。平手の音が響く。
「勝手な…ことを言うな…あいつの…想いも夢も、尊敬も、焦りも、嫉妬も、彼女の座もずっと独り占めしておいて…今さら被害者ですよってしゃしゃり出てくるなっ」
 ぱしんっ。榛名も負けじと返す。
省7
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(1): 2013/03/10(日)23:35 ID:xkoDBqzP0(12/13) AAS
 二人の為に身を引く決意を固める榛名。
 榛名がピアノを取り戻したことを知った母親からの留学の薦めを承け、誰にも知らせずウィーンへ去ろうとする。
 飛行機が起つ直前でその事を知り、空港へと向かう和希と雪音。
 雪による遅延で奇跡的に3人は出会うことができた。
 再会を誓い、和希と雪音は榛名を見送る。しかし、榛名はもう二人の元に戻らないと心に決めていた。

「あれ?」
「何か…ポケットに…」
「これ…和希のギターピック…」

 その意味に愕然として飛行機に向かい榛名の名を叫ぶ雪音。その雪音に寄り添う和希。
 二人の姿を照らしていたスポットライトが徐々に絞られ、舞台は暗転し、最終幕は閉じられた。
省2
155: 2013/03/10(日)23:44 ID:xkoDBqzP0(13/13) AAS
投下完了。
明日、明後日はかずさvs千晶です。
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