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【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第9幕【仮面】 (243レス)
【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第9幕【仮面】 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/
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21: 1/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:24:26 ID:ilYdDyVy 原作の皆さんが「新・オペラ座の怪人(仮)」を考えてみた。 クリスティーヌ編 ・エロ無し ・キャラ崩壊 ・ちょっとホラー ・でもオチるよ ・基本的にはギャグ パパと一緒に歩いた道。小さなラウルと一緒に歩いた道。 けれど今はたった一人……。 私の目の前にはどこか遠くへ続く道があって、その道はどこへ続いていくのかわからない。 わからないから、私はただ立ち竦んでいて、でも進まなければいけない。 勇気を振り絞って一人で暗い道を歩き始めたけど、暗くて怖くて俯いていたの。 すると私の前に黒い影が現れて、私に白い手を差し伸べる。 私は恐る恐るその手に触れ、顔をあげる。 そこには大好きな音楽の天使様がいて、私は嬉しくなった。 天使の名前はエリックと言って、私に歌を歌ってくれて、歌を教えてくれた。 たった一人で歩いていた道を、二人で歩く。 真っ暗な夜空にはまんまるお月さまときらきらお星さま。 ほのかに輝く柔らかな光が私を照らす。 私は彼の手をぎゅっと握り締めて歌を口ずさみながら歩いた。 少し歩き疲れた頃、道の脇に一人の青年が立っていた。彼は私を認めて手をあげる。 彼はあのときの小さなラウルで、見違えるほど大人になっていてちょっとドキドキしたけど、 中身はあの頃と全然変わっていなくて、それがちょっとおかしくって嬉しかった。 たった一人で歩いていた道を、三人で歩く。 お月さまにさよならを言って、青空に浮かぶおおきなお日さまとふわふわ雲さんにこんにちは。 眩しいくらいのあたたかな陽射しが私を照らす。 大好きなパパはもういないけど、今の私の傍にはパパと同じくらい大好きで大切な人達がいる。 私はなんてしあわせな女の子なのかしら。きっと世界中の誰よりもしあわせだわ! けれどどうして? 分かれ道にさしかかってて私達は立ち止った。 どちらに行けばいいのかしら? 「私はこちらへ行く」とエリック。だから私も彼についていったの。 そうしたらラウルが「じゃあ残念だけどここでお別れだね」って。 だから私は「ならこちらに行きましょう」ってエリックの手を引いたの。 でもエリックは手を振り解いて「さよなら、クリスティーヌ」って。 そんなのいや。私は泣きそうになりながら言ったわ。 「どうして一緒に行けないの?三人で一緒にはいられないの?」 いつのまにかまた真っ暗な道。 空のキャンバスは黒の絵の具で塗り潰されてしまった。太陽も月も見えない。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/21
22: 2/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:25:41 ID:ilYdDyVy 「三人で一緒にはいられないの?」 それぞれの道にエリックとラウルが立っている。 私は分かれ道の真ん中にいて、二人のことを交互に見ている。 「私と彼は歩む道が違う」 「だから一緒に行けない」 「私達は離れ離れになってしまうの?そんなのいや」 お別れなんてしたくない。とめどなく溢れる涙を隠すように手で覆った。 そんな私に二人の優しげな声が降ってくる。 「私と共に来てくれるのならいつまでも一緒だ。月が照らす星空の道をどこまでも歩いて行ける」 「僕と一緒に行こうよ。大丈夫、何も怖くないよ。太陽が輝く青空の道まで連れて行ってあげる」 暗い道はいや、おひさまに会えないのはいや、でもお月さまに会えないのもいや。 おひさまもお月さまも一緒の空にいられればいいのに。 でもそんなの出来っこない。 おひさまとさよならする頃にお月さまはやってきて、お月さまとさよならする頃におひさまはやってくる。 おひさまとお月さまは同じ空にはいられないの。 暗い道はいや、おひさまに会えないのはいや、お月さまに会えないのもいや。 でも一番いやなのは、また一人ぼっちになること。 「彼と一緒に行くのなら、私はおまえに別れを告げなければならない」 「彼と一緒に行くのなら、僕は君にさよならを言わなくてはならない」 「もし選べないと言ったら?」 「どちらにせよここでお別れだ。私は行かなければ」 「道は二つだけなのに、君はここまで来て戻るの?」 戻るのはいや。前に進まなきゃ。でも。 「どちらかを選べだなんて酷いこと言わないで。私には選べないわ。 だってあなた達は、私の心をちょうど半分ずつ占めているんですもの。 私の心なのに、私の取り分はないの。おかしいでしょう? だから選べるわけがないわ。ああ、心が二つに引き裂かれてしまいそう!」 終いには叫んでいた。どうか二人に引き裂かれそうな私の心の痛みを知ってほしかった。 私の心は私のものなのに、私のものではない。 ちょうど半分ずつ、彼らが盗んでいったの。だから私の心は私のものでなくなってしまった。 心を盗まれてしまった日から私は二人のとりこ。 けれどそれはとても心地よくて、ずっとこんな日々が続けばいいと思っていたのに。 いきなり突き付けられた問いかけに私は困惑している。 エリックと一緒に行きたいという私とラウルと一緒に行きたいという私。 まるで心が真っ二つになってしまったみたい。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/22
23: 3/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:26:47 ID:ilYdDyVy 「心が二つに裂けてしまうというのだね」 「ええそうよ、エリック。だからお願い、私にどちらかを選べだなんて言わないで」 「そっか。心が二つに分かれちゃったのに、体は一つだけじゃつらいよね?」 「ええそうね」 「そうだよね、苦しいよね」 ラウルがすうっと腕を伸ばし、宙を掴んだ。 するとそこにあるはずもない剣が現れて、彼は私に向けて構える。 「じゃ体も真っ二つにすれば問題ないね」 「!」 ど、どうしよう。ラウルがおかしくなっちゃった……! 口をパクパクさせてエリックに助けを求めると彼は優しくそして力強く私の肩を掴んだ。 「では私は右側を貰おう」 「僕は左ね。さあいくよー」 「〜〜!!」 声にならない悲鳴を上げる。 手足をぱたぱたさせるがエリックにがっちりと体をホールドされていて逃げられそうになかった。 「おとなしくしててよ。どこが真ん中かわからないだろ」 「――ま、待って、一体何を言ってるの?」 震える喉に張り付いた言葉をどうにか押しだす。 二人は顔を見合わせておかしそうにケタケタと笑いだした。 「心が二つに分かれたついでに体も半分にして我々で分け合おうという話だが?」 「そんなことしたら死んでしまいます!」 「大丈夫だよ、すぐ終わるから。サッ、シュパッて感じ」 「ちょっと何言ってるかわかんないです」 逃げないと。でもどこに逃げればいいの?私はふっと薄ら寒いものを覚えた。 辺りは真っ暗闇で何も見えない。先に進めばどちらかと別れなければならないし、後には戻れない。 何より二人から逃げ出したら私はまた一人ぼっち。 そうこう考えている間にも刃がこちらに迫ってくる。 涙目でじたばたしていると二人が私のそれぞれの耳元にそっと唇を寄せた。 「私の愛しいクリスティーヌ。体が半分になろうと永遠に愛すことを誓おう」 「僕の可愛いクリスティーヌ。体が半分になってもずっと愛してあげるから」 ……体が半分になってそれぞれがそれぞれを愛してくれる。 それっていいこと?幸せが二倍になるってこと? なら私は……。 目の前が真っ赤に染まる。 体を生温かい血が伝い、私の意識は浮かび上がる。 「……スティーヌ、クリスティーヌ!」 誰かが遠くで呼んでいる。今にも泣き出しそうな震えた声。 ぼんやりとした頭で泣いてほしくないと思った。 声の持ち主のためにも起き上がりたいのに。 けれどもうわたしはまぶたをあけることもできないの。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/23
24: 4/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:27:29 ID:ilYdDyVy 「クリスティーヌ!」 「うぅん……」 重たいまぶたをどうにかこじ開けるとメグがいた。蝋燭の頼りない火が彼女を照らしている。 周囲を見渡す。どうやらここはクリスティーヌとメグの寝室らしい。 「大丈夫?酷くうなされてたわ」 上半身を起こすとメグが抱きついてきた。不安だったのだろう。声を押し殺して泣いている。 夢だったのね。夢で良かった、目覚めて良かった。 けれど同時にちょっとだけ惜しいような気がした。 「体が冷たいわ。そんなに怖い夢だった?」 「エリックとラウルが私から離れていこうとする夢だったの。 二人はお互い、自分についてきてほしいって言うんだけど、私は選べなくて」 優しいぬくもりを体で感じながらとりとめない夢の話を始めた。 どんな言葉も聞き逃すまいと、メグが耳を澄ましているのがわかる。 「私の心が二つに引き裂かれたの。それでついでだからって体も二つにしようって。 怖かったけど、二人は私の体が半分になっても愛してくれるって言うから」 「そう、怖い夢だったのね」 話を理解出来なかったのか、理解したくなかったのか、メグは話を切り上げる。 そしてクリスティーヌは今までよりずっと強く、ぎゅっと確かに抱きしめられた。 男の人とは違う柔らかい体。乱暴にしたら壊れてしまいそうな細い腕。 クリスティーヌはメグの背中に腕を回し、しがみついた。 メグもそれに応じてクリスティーヌの背中を撫ぜた。 「あなたを苦しめる男なんていらないのに」 「私よりきっと二人の方が苦しいわ」 私が優柔不断で選ぶことが出来ないから、二人はずっと私に囚われたまま。 近づくことも、離れることも、逃げることも、飛び立つことも出来ないままでお互いを傷つけ合ってる。 「でも私ならあなたのこと苦しめないし、泣かせたりしないわ。 もしも彼らがあなたから離れる日が来ても、私はずっと一緒よ」 「ありがとう」 二人はゆっくりと体を引き剥がした。ぬくもりが離れていき、なんだか心細くなる。 クリスティーヌの表情を察したのか、メグがくすりと笑った。 「ねぇ、今日は一緒のベッドで寝ても良い?」 「うん……眠るまで傍にいてくれる?」 「ずっと傍にいるわ」 枕を並べるとメグがベッドに体を滑り込ませた。手を重ね合わせ、指を絡ませる。 「おやすみ、メグ」 「おやすみ、クリスティーヌ」 メグの顔が近づいてくる。クリスティーヌは誰に教えられるまでもなく、目を閉じた。 そっとまぶたへおやすみのキス。 柔らかなぬくもりを感じながら、クリスティーヌは深い眠りの淵を覗きこみ、また落ちていった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/24
25: 5/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:28:11 ID:ilYdDyVy ・ ・ ・ もう少しで本番。ちょっぴりどきどきする。 ええっと、ウォーミングアップをしないと。軽く歌って喉を慣らして……。 「クリスティーヌ!」 「ひゃあっ!!」 ラウルが突然部屋に飛び込んでくる。 夢のことが頭をよぎって血の気が失せた。私、真っ二つにされちゃう! 顔を真っ青にして唇を震わせているとラウルが首を傾げた。 「幽霊でもいた?」 これは夢とは違うのだからと言い聞かせて深呼吸をする。 「いきなりだったからびっくりしちゃって」 「あ、ごめん。ノックもしないで失礼だったね。やり直すから待ってて!」 サッと身を翻すとラウルが部屋から出ていった。 「トントン。ラウルです。クリスティーヌさんはいらっしゃいますか?」 「はい、いらっしゃいます。どうぞー、お入りくださいー」 「お邪魔します。それでね、大変なことが起きたんだ」 「何かあったの?」 「これを読んで」 クリスティーヌは戸惑いながら手紙を受け取った。宛名も差出人の名前も書いてない。 不思議に思ってラウルを見上げると彼は複雑そうな表情で言った。 「さっき貰ったんだ。君にも知らせた方がいいと思って」 「うん」 早く読んでと急かされて、クリスティーヌは封を開けた。中にはカードが一枚。 綺麗な字でこう書かれている。 『突然このような渡し方をされて大変驚いていることと思います。 ですがこうしてお渡しするしかなかったのです。どこで彼が私達の話を聞いているかわからないのですから』 ――差出人はラウルにトンデモな手紙の渡し方をしたらしい。 でも誰がどこで私達の話を聞いているというの? 顔をあげ、辺りを見回した。いつもと変わらぬ楽屋。二人の他には誰もいない。 クリスティーヌはまたカードに視線を落とし、続きを読み始めた。 『私は彼にあなた方には伝えるなと釘を刺されました。しかし伝えなくてはいけません。 そうしなければきっと彼もあなた方も後悔するでしょう。 彼は今日の舞台が終わったら、幕が降りたら、旅に出ると言っています。 あなた方に別れも告げず、またあなた方が彼に別れの言葉を投げかけることさえ許さず、 黙って旅立とうとしているのです。これをお読みになったなら、どうか彼を許してやってください。 そして彼に別れの言葉を贈ってやってほしいのです。――シンバルを叩く猿より』 「ダロガさんからのお手紙ね。でも彼って?」 クリスティーヌは瞬き、そして理解した。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/25
26: 6/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:29:24 ID:ilYdDyVy 「まさかエリックがどこかへ行ってしまうってこと?ねえお願い、違うと言って!」 クリスティーヌは頭が真っ白になった。 どうにか否定してほしくてラウルに呼びかけるが彼は答えてくれなかった。 沈黙は肯定だと誰かが言っていた。ならこの沈黙もそうなの? 「ああ神様、どうしよう!どうしたらいいの!」 手にしたカードを破り捨ててしまいたかったけど、出来なかった。 もう一度、カードに目を通す。文字を上滑りするだけで内容がうまく入ってこない。 けれど先ほどと内容が全く変わらないということだけで十分だった。 クリスティーヌは部屋の中を当てもなく歩き回り、鏡台の前に力無く座った。 「クリスティーヌ」 ラウルが床に片膝をついて、こちらに視線の高さを合わせる。 慰めようとしてくれる気持ちはとてもありがたかったが、 今のクリスティーヌにはそれに応じる気力はなかった。 弱い私はただただ小さな両手で涙を隠して、声を殺して泣くだけ。 「ああ、どうしよう。天使様がいなくなったら、私はどうしたらいいの? エリックがいなかったらなんにも出来ない。もう歌うことも出来ない……。 どうしよう、ラウル……私、死んでしまいそう……!」 優しく髪を梳く手が止まる。ラウルが息を呑むのがわかった。 彼は静かに、けれど突き放すように言う。 「もう黙って、いいから黙れよ」 聞いたことのない声色にクリスティーヌはこわごわとラウルを見つめた。 「君は彼のことを愛しているんだね」 「彼って誰のこと?」 「とぼけるなよ。君の音楽の天使さ。僕を嫌いになったのならそう言えよ!」 「あなたを嫌いになるわけないわ!」 「じゃあ君は僕のことを愛していて、僕無しでは生きていけないって?」 「あなた、頭がおかしくなったみたいね」 クリスティーヌは一抹の恐怖を覚えた。だって 「ラウル、あなたいつもと違うわ。別人みたいよ」 「君がそうさせているんだ!君はあの夢の通り僕を邪魔だと思っているんだろう?」 ラウルは荒々しく立ち上がった。こんな彼は初めてだ。 それほどまでに彼はいつも優しかったし、怒ったときもここまで酷いことはなかった。 クリスティーヌは竦み上がり、震える肩を抱いて唇を噛んだ。 私はエリックを変えてしまったのと同じように、ラウルも変えてしまった。 けれど二人は私を変えたじゃない。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/26
27: 7/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:30:16 ID:ilYdDyVy こちらが酷く怯えていることに気づいたのか、ラウルが後退りした。 やがて踵を返し、ドアノブに手を掛ける。 「さよならお嬢さん」 「何を言っているの?」 「もう君達の邪魔をしたりしないよ。二度と会うこともないだろう。 お邪魔虫は南極大陸か、北極大陸か、どこか遠いところに消え去るってことさ!」 「ラウル……」 クリスティーヌは違和感を覚えたが、それが何かわからなかった。 ツッコミ役がいれば「北極大陸なんてねーよw」と指摘したかもしれないが、 天然ボケなクリスティーヌには無理な相談だった。 「どうしてそんなことを言うの?」 「だって君は彼が好きなんだろう?」 「そうよ、私はエリックが好き」 「なら」 「でもあなたも好き」 「クリスティーヌ」 ラウルがいい加減にしてくれとため息をつく。 「どこにも行かないで」 「君は」 「私を一人にしないで」 クリスティーヌは広い背中に抱きつくことでラウルを引き留めた。 しかし彼はそれを不快に思ったようで、身を捩る。 「君は誰にでもそんなことを言うのか?男なら誰でも良いと?」 「違うのそうじゃないの。あなただからなの!」 「彼にもそう言った?」 「酷い……」 「酷いのはどっちだよ。彼がいなくなってしまうから、代わりに僕を傍に置いておこうって? 僕も彼も誰かの代わりになれるほど安い男じゃない。お断りだよ、思わせぶりなお嬢さん」 「夢と同じなの?どうして私の前から消えようとするの?」 ぽろぽろと涙が零れてゆく。クリスティーヌは堪らずラウルの背中に頬を押し付けた。 「夢?」 「ううんなんでもない。私の願いを聞いてくれる?」 「……」 黙ったままなのをクリスティーヌは肯定だと受け取った。聞いてくれなくとも、言うつもりだったけど。 「私は永遠にあなたたちの間にいたいの」 「……」 やはりツッコミ役が不在なため「そりゃあエゴだよ!」とか 「エリックは否定しろ!」「彼は純粋よ」とかいうやり取りはなかった。 こういう点でもクリスティーヌ、いや二人にはエリックが必要なのかもしれなかった。 「私はエリックが好きで同じくらいあなたも好きなの。だからどこにも行ってほしくない。 まださよならをいうには早すぎるもの。私には二人が必要なの。 空におひさまとお月さまがかわりばんこに現れるように、私の傍にいて照らしてくれなきゃいやなの」 「よくわかんないけど、照明係をやれってこと?」 「あなたにも今にわかるわ」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/27
28: 8/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:31:07 ID:ilYdDyVy クリスティーヌは身を引き離した。ラウルの背中が涙と落ちた化粧で汚れている。 慌てて衣装の袖口で拭うが、綺麗になりそうになかった。 「どうかした?」 「ううんなんでもないの。それにね、あなたも私と同じ。エリックのことが好きなはずよ」 「は?いや、でも彼は僕を嫌っているよ」 よもやこちらに話が振られるとは思いもしなかったらしくラウルの声が不自然に裏返った。 そんなに動揺するってことは肯定したのも同じ。クリスティーヌは笑いを堪える。 「私はあなたの気持ちを訊いているの」 「嫌われてる相手を好きになんてなれないよ」 「ラウル、あなたは自分が嫌われていると思ってるの?」 「だってそうだろう?いつも突っかかってくるし、首も絞められる。これのどこが仲が良いっていうんだ」 ラウルは質問の意図が理解出来ず、苛立ちの色を見せた。 クリスティーヌは目を丸くする。 「まあおかしなこと言うのね。私にはあなたに構ってほしくてたまらないように見えるわ」 「まさか。だとしてもそんな命懸けの友情はごめんこうむるね」 「……可哀想で不幸せなラウル」 「哀れんでくださってありがとう。けれどね幸せそうなお嬢さん、それは余計なお世話だよ。 僕が可哀想かどうか、不幸かどうかは僕自身が決めることだ!」 本当に可哀想な人。 自分の気持ちを持て余して、それに気づけずにいる。でもそれは彼だけでない。 「可哀想なラウル!可哀想なエリック!私、ときどき泣きたくなるわ。 だって二人はこんなにも仲良くなりたがってるのに、でもそれが叶わないんだもの」 「誰が僕と仲良くなりたがってるって?」 「あなたもエリックと仲良くなりたがってる」 「嘘だね」 彼は乱暴に椅子を引き、そこに座った。向かいに座るように目配せする。 クリスティーヌはそれには従わず、その場に立ったままじっと見据えた。 「仲良くなりたい……でも傷つきたくないから、傷つかないように重たい鎧を着込んだ。 それはトゲだらけの鎧。近づけば近づくほどに傷つけあってしまう。本当は仲良くなりたいだけなのに」 「どういう意味かさっぱり」 肩を竦めて知らないふりをしても、あなたの鎧は脱げかけてる。 「パパの言葉を覚えてる?音楽は心で聴くもの」 「心で奏でるもの」 「今のあなたの心に、私の歌は届いているかしら」 「届いてるよ」 「ではエリックの歌は、気持ちは届いているかしら」 「……」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/28
29: 9/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:31:46 ID:ilYdDyVy ラウルは視線を揺らし、動揺を隠すように袖口をギュッと握りしめた。 そして口角を持ち上げて笑顔を作る。 「届いてるよ」 それが嘘だと、作り笑いだとクリスティーヌはすぐにわかった。 「あなたはそうやってにこにこ笑っていれば全てが済むと思ってる。でもそれは違うわ。 あなたは私にも自分を偽るつもり?ほら笑顔が引き攣ってる。本当はわかっているはずなのに!」 「!」 張り付いた笑顔が剥がれ落ちた。 とめどなく溢れる感情を処理しきれずに頬を引き攣らせている。 「心を開いて、本当のあなたで接すれば、きっとわかりあえるはずよ」 「君に何がわかるんだよ!」 ラウルは許容量を超えた感情をこちらにぶつけることで、どうにか心を落ちつけようとしているらしかった。 勢いよく立ち上がった拍子に、テーブルの花瓶が床に落ちる。 白い破片に赤い花弁。絨毯に染みを作っていく。 彼の口調があまりに絶望的だったので、クリスティーヌは途端に後悔した。 エリックの仮面を剥がしてしまった時と同じ。私は触れてはいけないものに触れてしまった。 それは心の一番柔らかい部分。私はあの時と同じように彼をも傷つけてしまった。 「彼に首を絞められて「大嫌い」と言われた僕の気持ちが君にはわかるって言うのか?」 「わからないわ」 「あんな嫌悪を向けられたのは初めてだった。思い出しただけで息が止まりそうだ!」 「どうして?」 「決まってるだろ。「嫌い」だって言われて傷つかない奴はいないよ」 「おかしいわね」 ちらりとラウルを窺う。感情は高ぶっているようだけどまだ大丈夫そう。 クリスティーヌは慎重に言葉を選んで続ける。 「だってあなたはエリックのことが嫌いなんでしょう?エリックもあなたが嫌い。あなたはそう言ったわ。 嫌ってる相手に、嫌われてる相手に「嫌いだ」って言われて、あなたは死にそうなほど傷つくの?」 「……」 ラウルは憑き物が落ちたように静かになった。割れた花瓶を一瞥して、椅子に座り直す。 クリスティーヌはおとなしくなった彼に優しく諭すよう、語りかける。 「私だったら嫌いな人に「嫌いだ」って言われても何とも思わないわ。 もっと嫌いになって憎く思っても、傷ついたりしない。 でも好きな相手から「嫌い」って言われたら、息が止まって死んでしまうかも」 「君は僕が彼を好いていると言いたいのかい?」 「違うの?」 張り詰めていた糸が切れてしまったかのようにラウルが俯いた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/29
30: 10/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:32:33 ID:ilYdDyVy 「僕の気持ちがわかってたまるものか」 声が震えている。泣き出したい気持ちを察して、クリスティーヌは背中を向けた。 「そうね。私があなたの気持ちを理解出来ないように、あなたもエリックの気持ちを理解出来ない。 なのにあなたはエリックの気持ちをわかったような気でいて、自分を嫌っていると思い込んで、 そうだと決めつけている。ねぇ、おかしいと思わない?」 もっとも、決めつけて嫌われていると思い込んでいるのはエリックも同じだけど。 「剥き出しの感情をぶつけ合うことが出来るって素敵だと思うの」 「そうかな?」 「見ていてわかるわ。エリックがあなたに嫌悪や好意を向けるように、 あなたもエリックに様々な感情をぶつけている。私はあなたの本当の気持ちが知りたい」 「本当の気持ちを明かしたら、楽になれるとでも?」 「それは」 「心の全てを曝け出すのは難しいことだよ。着込んだ鎧は重たくて、脱ぐことが出来ない」 己を守るための鎧も張り付いた笑顔も長い間ずっとそうだったから、体の一部みたいになってしまった。 「出来るわ。私もそうだったもの」 パパを亡くして全てに心を閉ざして、重たい鎧を着込んで、無口な仮面をつけた。 でもエリックに出会って、ラウルに再会して、色々あって苦しくて泣いたこともあったけど、 いつの間にかそんな日々も楽しくなって、あの頃のような笑顔を取り戻すことが出来た。 だから今度は私があなた達の力になりたい。 私は無力で傍にいることしか出来ないけれど、力になりたいの。 お互いに黙りこくっていると、またしても突然誰かが部屋に飛び込んできた。 「クリスティーヌ!」 「ひゃあっ!!」 「何よ変な声出して」 「ごめんなさい。びっくりして」 「悪かったわね」 部屋に飛び込んできたのはカルロッタだった。ばっちりメイクも決めて舞台衣装を着こんでいる。 彼女はクリスティーヌの顔を見て眉を顰めた。先ほど泣いたせいでメイクが落ちているのだ。 クリスティーヌは慌ててメイクを始めた。 「上演前に逢引きだなんて余裕なのね」 わざとらしく「こんばんは、子爵様」とドレスの裾を摘んだ。 ラウルは気づいていないのか、敢えてか、それを無視した。 カルロッタは彼には気にも留めずにこちらを向く。 「緊張してるかと思ってきてやったのに、必要無かったみたいね」 「いえ、私すごく緊張していて」 「緊張を解してもらっていたんじゃないの?」 「私がラウルのカウンセリングをしてました」 「ハァ?」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/30
31: 11/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:33:33 ID:ilYdDyVy 「あなたも緊張するのね。いつもぽけーとしてるから今もぽけーとしてるのかと思ったわ」 随分な言われようだったがクリスティーヌは気にしなかった。 「私だって普通の女の子ですから緊張もします」 「普通?まあいいわ。でも安心なさい、あなたなら出来るわ。私が保証する」 クリスティーヌは一瞬耳を疑った。カルロッタさんが私なら出来るって言った? 「……ありがとうございます?」 「で、でもトチったらタダじゃおかないんだからねっ!」 「頑張ります!」 今度こそ空耳ではないのだと確信した。 クリスティーヌは嬉しくなって胸の前で小さく拳を握りしめる。 「今回は主役の座を譲ってやったけど、次はそうはいかないから!覚悟なさい!」 「はい、カルロッタさんに認めていただけて嬉しいです!」 するとカルロッタが途端に茹で蛸のように真っ赤になった。 「認めてないわよ。か、勘違いしないでよねっ!」 「はい、カルロッタさん可愛いです」 「何言ってんのよ……そ、それよりも子爵はさっきからぼんやりなさってどうしたの?」 いつもぼんやりしてるし、どうでもいいけどとカルロッタは続けた。 それでも話を振ったということはどうしても話を逸らしたかったらしい。 クリスティーヌはそれが可愛らしく思えてならなかった。 ずっと怖い人だって思っていたけど、素直じゃないだけで根は優しい人みたい。 「きっとカルロッタさんはツンデレ可愛いと思ってるんですよ」 「しつこいと殴るわよ」 「ごめんなさい」 ちょっと調子に乗りすぎてしまったみたい。でもカルロッタさんに認めてもらえて嬉しかったんだもの。 カルロッタはしゅんとなったクリスティーヌなど見えないかのように振舞うと、 椅子に座って俯くラウルを覗きこんだ。 「ご気分が悪いの?いつものあなたらしくないわよ」 「……」 「あんたなんか失礼なこと言ったでしょ」 「言ってないです」 そんなやり取りをしているとふとラウルが顔をあげた。 「いつもの僕らしいってどんなですか?にこにことおどけているのが僕らしいですか?」 「何か悪いものでも食べた?」 「食べてません」 「じゃあどっかに頭ぶつけたのね」 カルロッタは壁掛け時計を見上げ、時間もないことだし相手してらんないと肩を竦めた。 クリスティーヌに声をかけて部屋を出て行く。 「廊下で待ってるから、早く準備なさいよね」 「はい!」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/31
32: 12/12 [sage] 2010/11/09(火) 23:34:07 ID:ilYdDyVy カルロッタを見送り、クリスティーヌは再び鏡台についた。 例の手紙が視界に入り、めまいを覚える。 「どうしよう……エリックがどこかへ行ってしまうんだった」 天使様が、エリックがいなくなってしまったら、私はどうなってしまうのだろう。 またうまく歌えなくなるのかしら。もう歌えなくなるのかしら。 父を失った私は、エリックと出会うまでただの歌う人形だった。 そこには感情も想いも何もこもっていない。ただ楽譜通り歌うだけの人形。 そんな人形、誰も見向きはしない。やがて朽ちていくだけ。 もう人形には戻りたくない。でもエリックがいなくなったら、私……。 ぐるぐると考えているとラウルがすくっと立ち上がった。 どうしたのだろうと見守っていると、彼は大きな姿見の前に立った。 地下へと、エリックの元へと続く入口。 クリスティーヌはラウルの意図を察して、駆け寄った。 「私も一緒に行くわ」 「君は歌わないと。彼のためにも、僕のためにも、みんなのためにも歌ってほしい」 「でも」 躊躇うクリスティーヌの細い肩をラウルがやんわりと掴んだ。 少し身を屈めて視線の高さを合わせる。 「君が舞台に立っている間に、僕が彼を引き留める。いいね?」 「……でも、でも」 「大丈夫、僕を信じて」 「わかったわ」 「君なら出来るよ」 ラウルはそう言って鏡と向き合った。そっと手探りで仕掛けを作動させようとする。 クリスティーヌはラウルの背中を見つめて、訊ねるか訊ねまいかを迷った。 変なことを言ってはまた彼が怒ってしまうかもしれない。でも。 クリスティーヌは意を決してラウルに呼びかける。 「待って。あなたの願いは?気持ちは?」 「……僕の願いは君と共に。君と同じだよ」 綺麗に磨かれた鏡越しに目が合った。 ラウルが柔らかな笑みを浮かべる。なのでクリスティーヌも笑顔で応えた。 「君と同じ。行ってほしくない。せめて今、僕の心を占めているこの気持ちの名前がわかるまでは。 自分の気持ちに整理がつかないまま、彼が行ってしまったら、僕はきっと後悔する。 待ってて、きっと引き留めて見せるから!」 「ええ、信じて待っているわ」 ラウルが鏡に吸い込まれていくのをクリスティーヌは不思議な気持ちで見送った。 そして再び鏡台につくと痺れを切らしたカルロッタがやってきた。 「遅いわよ。いい加減に……って子爵は?」 「鏡の向こうに行きました」 「ハァ?」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/32
33: 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/11/09(火) 23:38:03 ID:ilYdDyVy 今回は以上です。 エリックでチェーンソーな13日の金曜日もいいかなと考えていたのですが 次回の13日の金曜日は来年の5月。 さすがにそこまで待てないのでラウルにサッ、シュパッとやってもらいました。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288830977/33
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