[過去ログ] 【仮面】オペラ座の怪人エロパロ第9幕【仮面】 (243レス)
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42: 3/9 2010/11/27(土)22:44 ID:EbricxZj(3/10) AAS
「では子爵は?」
エリックは肝心の問いかけを夫人に投げ掛けた。
ボックス席には伯爵の他に誰の影も見えない。
男一人で観劇するのも悲しいものがある――といっても私も人のことは言えないか。
「さあ?先ほどお見かけした際は背中に紙を貼り付けてましたね」
「紙?」
「ええ。私のところからは何が書かれているかはわかりませんでしたけど。
子爵さんはお気づきでないようでした。でも皆さんはお気づきの様子で……」
ジュール夫人は言葉を濁した。皆に笑われていたと言いたいのだろう。
今日も今日とて呆れかえるほどのオトボケ具合らしい。
「そうか、ありがとう」
「いいえごゆっくりどうぞ」
夫人が下がっていくのを見届け、エリックは肘掛けにもたれかかった。
ラウルが致命的にまぬけなのはいつものことなのでどうでもいいが、
問題は同じように救いようのないまぬ……いや、ぼんやりしているクリスティーヌである。
クリスティーヌは大丈夫だろうか。彼女も舞台でとんでもないヘマをやらかすのではないか。
エリックは今から気が気でなかった。
クリスティーヌの大ボケで舞台崩壊なんてことにならなければいいのだが……。

開演のベルが鳴り響くと明かりが落とされた。
さざめき合っていた声がやみ、劇場内は耳が痛くなるほどの静寂に包まれる。
そうして今宵の長い物語が幕をあけた。

エリックの心配をよそに、クリスティーヌは淡々と与えられた役割をこなしていた。
初めのうちこそ不安げに自信なさげに歌っていたが、
それがちょうど劇中のクリスティーヌと同調して深みが増したように思う。
もしかするとそれも計算して演技をしているのかもしれない。
もはやクリスティーヌに教えるべきことは何もない。
エリックは少し寂しく思いながらも続けて考えた。
彼女には私の知りうる全てを教えたし、彼女もそれに応えて著しく成長した。
私は彼女に他に何をしてあげられるだろう。与えることが出来るだろう。
クリスティーヌは私に様々なことを教えてくれた。与えてくれた。
例えば外の世界の素晴らしさ。光の世界でも生きていけるように力も与えてくれた。
愛することの意味も、誰かと共にいる幸せも、人を信じることの意味も。
そしてたぶん友情の意味も。
でもそれは本当にクリスティーヌだけが教えてくれたものだろうか。
答えは胸の内にある。しかしエリックは見て見ぬふりをした。

私は彼女に何をしてあげられるだろう。
この物語の怪人は最後にクリスティーヌの幸せを祈って送りだした。
ならば、私は?
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