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最上静香の「う」_四杯目_
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>>11 > > 本能が理性を打ち負かし、箸置きから箸を、それからレンゲを取り出して今にも食らおうとした静香であったが、目の前に置かれたうどんの光景に思わず箸を止めた。 > > > 美しい。 > > > 黒々とした丼のなかを真白な絹のように滑らかなうどんが泳いでいる。出汁は博多らしい透き通った黄金色であり、東京のような醤油黒さは見られない。 > > 何よりもこの丼を美しく見せているのが、皮の濃緑が美しいスダチであった。輪切りにされたスダチが、円形に、折り重ねるように敷き詰められている。向こう側が見えるほどに薄くスライスされており、七宝繋ぎの様である。瑞々しいうどんの光景に、静香は昂る感情が次第に鎮まる心地がした。空腹すら忘れ、すだちかけうどんをしばらく眺めた。 > > 「綺麗だろう」 > > うどんに目を奪われていた静香は、プロデューサーに声をかけられ、やっと我に返った。 > > 「はい。ずっと眺めていたいような、美しいうどんです」 > > 本心からの静香の言葉に、プロデューサーは微笑んだ。 > > 「気持ちは分かるけど、食べてあげないとうどんが可愛そうだ」 > > 一聞すると無風流な彼の返事だが、ご尤もである。うどんを食べることが、店への礼儀であり、何よりもうどんへの敬意である。 > >
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