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>>85 > 達人 (続き) > > 「勝った!・・・このわしはついに父上を超えたのじゃ!それも王様の眼前で!!」 > その後、勧められるまま大いに酒肴を採り、犬肉や幼児の肝、烏の目玉など、抱えきれぬほどの褒美を手にして帰路についた嘗淑であった。 > > 未だ興奮の冷めやらぬまま、灯をかざしうっすらと月明かりの差す貧民街を歩く彼が、ふと路傍に屈み込む人影に気付いて一瞥した。 > 「乞食か・・・」そのまま通り過ぎようとし、しかし何か違和感を覚えてふたたびその影を確認した嘗淑は、あっと我が目を疑った。 > 何とその姿は、とうに王宮を辞したはずの父であったからである。おぼろげな月明かりの下・・先程まで激烈な勝負を自分とたたかった父が、 > 路傍に跼り、ひたひたと糞を嘗めている。 > > あの三日間に渡る満韓糞試の後で、が、この老いた達人は未だ糞を嘗め足り無いかに見えた。 > しかも、大通りまで出れば、いくらでも新鮮な人糞が落ちているというのに・・・父はそれすら待ちきれぬのか、この溝の脇の狭い道で、 > 上等とはとても言えぬ干乾びかけた犬の糞を、しかしぴちゃぴちゃと・・聞いている者も思わずふるいつきたくなるような舌の音と共に、陶然と舐めていた。 > > だが、ならば何故あの時・・・そして嘗淑は、はっとその理由に想いあたった。父はあの、あまりに見事な逸品を、勝負の道具とすることを恐れたのだ。 > それに気付いた瞬間、嘗淑の全身は稲妻に打ちのめされたかのように震えたことであった。 > この父の、まるで赤子のように糞にむしゃぶりつく姿、何としても糞を嘗めたいというその心・・・それこそが、まさに我々造船_人の本来持っていた > 嘗糞道の本質ではなかったか。 > 到底敵わぬ、この存在には!所詮、自分の技は糞を愛する心、そして何より嘗めたいという心を欠いた、理の技に過ぎなかった!・・・ > > ばさばさと、褒美の品々を惜しげもなく溝の中に投げ捨てた嘗淑は、その横に跪いて傍らのしなびた犬糞を手に取り、その不出世の嘗糞師に願った。 > 「父上・・・私もご一緒させていただきとう存じます」 > 「うむ・・・」 > 父は嘗淑を見るでもなく乾いた犬の糞をしゃぶりつつ、しかし満足げに肯いたものであった。 > > これ以降、慢心を廃し父の元で精進した嘗淑は、ほどなくして後のいわゆる造船嘗糞道の原型を確立した。その極意を纏めた三冊の著書は > 残念ながら現存しないが、「嘗めれば糞なり。嘗めずは糞なるべからず」「序破嘗」といった、その箴言と嘗糞論の数々は未だ嘗糞道の要諦として、 > 現代に至るまで伝承され続けている。 (続く)
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