【ミリマス】琴葉は過度なスキンシップ行為を訴えたい! (52レス)
上下前次1-新
23: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:49:04.50 ID:V525dxyZ0(23/49)調 AAS
突然、発声もクッキリとした「おはようございます」が事務室中に響き渡った。
一体誰が来たんだろうと、俺と桃子が一緒になって声のした方へと視線をやれば、そこには立ち姿の綺麗な少女が堅苦しい雰囲気で佇んでいて。
「琴葉!」
「おはよう、琴葉さん」
「……おはようございますプロデューサー。それに、桃子ちゃんもおはよう」
ニコっと笑って扉を閉める。
それも後ろ手に済ませばいい所を、わざわざ体を向け直して、丁寧に閉めるのが生真面目な彼女らしいと俺は思った。
そして琴葉は、まるで定規を背中に入れてるみたいにピシッとした姿勢でこちらに向かって歩いて来て、
俺と桃子の前で立ち止まると、部屋の中をぐるっと大きく見回したんだ。
24: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:52:50.03 ID:V525dxyZ0(24/49)調 AAS
「二人きり、だったんですね」
尋ねる彼女は笑顔だけど、声の調子は妙に重くて少し震えている。
心持ち表情も険しいかもしれない。
一体何がどうしたんだ? 劇場にやって来るまでの間にトラブルでもあったんだろうか?
……そう考えた俺と桃子が無言で顔を見合わせると、琴葉は大きなため息を一つ吐き出し、肩を落としてゆっくり喋り出した。
「プロデューサー。プロデューサーは例の熱愛報道は知ってますか?」
「熱愛報道? ――あ、ああ! 琴葉もアレを知ってたのか。今、桃子ともその話をしてたトコで」
「そ、そう! そうだよ琴葉さん。お兄ちゃんと――うん、アレについてお話してて」
「そう……。二人とも知っているんですね」
そう言う琴葉の表情は依然として固く、どう見たって俺達と共通の話題がある事を喜んでるようには見えない。
むしろ何故だかガッカリしたような、いや、ある意味では期待通りの結果にかえって落ち着いてしまったかのような。
25: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:54:19.52 ID:V525dxyZ0(25/49)調 AAS
「ねぇ、琴葉さん一体どうしちゃったの?」なんて、この空気に堪えられなくなってしまったのか、
桃子がこそこそ耳打ちするけれど、説明して貰いたいのは俺だって同じだって。
「プロデューサー」
「あ、ああ! どうした琴葉?」
「私、以前から気になってた事があったんです。ただ、それもこういうお仕事をしてる場合、普通の事かもしれないと勝手に納得してた事が」
「琴葉が……勝手に納得してた事?」
「ええ」
次の瞬間、琴葉は右手を自らの襟首に差し込んだ。
まるで背中から何かを取り出すポーズ。
そんな彼女の迫力に圧倒され、何をするのかと怯えて固まる俺と桃子。
その、冷や汗まで感じ始めた俺達の眼前で琴葉の右手がゆっくりと上がっていく……。
26: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:56:19.32 ID:V525dxyZ0(26/49)調 AAS
「やっぱり、近過ぎるって思うんです」
琴葉が静かに言い放った。
同時に右手が掲げられた。
桃子が眩しさで反射的に薄目になって、俺は無言でただただ眺めていた。
「こと……は……?」
嗚呼、何という事だろうか?
そこには定規が光っていた。
鈍く、重く、冷たく鋭く、息苦しいまでの銀色をして。
そこには定規が光っていた! 楽に一メートルは計れてしまいそうな、メタリックな光沢眩い長尺が!
「どうして?」
琴葉が呟いた。
「どうして!?」
俺と桃子だって同時に驚いた。
「どうしてプロデューサーは桃子ちゃんを……膝の上に乗せたまま仕事をしてるんですか?」
「それは座らせてくれって、桃子が!」
「っていうか、琴葉さんもドコから――それ、定規で何したいの!?」
現場は阿鼻叫喚である。
実に凄惨で混乱の空気感が、決して広くはない劇場の事務室を掌握せんと渦巻いていた。
27: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:57:48.04 ID:V525dxyZ0(27/49)調 AAS
しかし次の瞬間、そんなまとわりつく焦燥の空気を切り裂いて、鋭く突き出された長尺が俺と桃子の間に割って入る。
当然、「わっ!」「うひゃあ!?」と悲鳴を上げてしまう俺達。
……だって、あからさまに危ないじゃないか!?
見てくれ! 数センチも無い僅かな隙間にどれだけのスピードとコントロールなのか!?
けれど、獲物を扱う琴葉はてんでお構いなし。
至極当然といった涼しい顔で、万に一つの確率でも失敗する気が無いんだろう。
そう言えば彼女の特技はフェンシング――なんて、俺が緊急性の無い情報を思い出したりしてる内に。
「さあ、二人とも早く離れてください」
ゆっくりと、一音一音ハッキリとした彼女の命令。
だが見据える瞳は赤く滾り、血潮を纏った日本刀もかくやと鋭い眼光を突きつける。
……語気を荒げても無いのにこの迫力!
この世ならざる琴葉の放つ怒髪の念が、その全身から染み出るように感じられた。
28: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:59:39.05 ID:V525dxyZ0(28/49)調 AAS
げに恐ろしきは静かに揺蕩う少女の笑顔といった所。
琴葉の口元は美しく微笑んではいるが、その目は完全に瞳孔も開いてしまい、下手な返答をすれば一太刀のもとに切って捨てられる緊張感。
「も、桃子。ここは大人しく言われた通りにしよう」
「う、うん。……なんか、ごめんねお兄ちゃん」
桃子がいそいそと離れて行ってしまう。
そうして、俺も悟ってしまう。……なるほど、ひと肌が恋しくなるってこういう事か。
だって、さっきまでは気にも留めてなかった、重量感がフッと喪失したせいで、俺は何とも言えない不安と心淋しさに奥歯を鳴らす勢いだもの。
……だがしかし、こんなモノは、これから訪れる真の恐怖の前ではほんの触りでしか無かったんだ。
俺から離れていった桃子はすぐさま事務室の壁に寄って、カニ歩きで扉の前へと辿り着く。
そこは唯一、この部屋から安全に脱出できる出入り口で。
29: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:01:06.29 ID:V525dxyZ0(29/49)調 AAS
「それじゃあお兄ちゃん、桃子はもうレッスンに行くね!」
もっ、桃子ーーーーっ!? と縋りつくような心の叫びは当然届くハズも無くて。
彼女はピッ、とカッコよくアディオスのジェスチャーを決めて、そのままドアノブに手を掛けた。
だけど、扉はすぐに開かない。
何故ならドアノブを回そうとした瞬間に。
「桃子ちゃん」
背後から名前で呼び止められ、桃子の肩が可哀想なくらいビクンって跳ねる。
琴葉の澄み切った呼び掛けは、返事よりもしゃっくりのような小さな悲鳴を引き出して。
……すまん桃子! 俺の首筋に真剣のような長尺が押し付けられていなかったら、何か助け舟を出せたかもしれないのに!!
悔しいが状況の打開策が一つも見つからない。
身動きも取れないままでいると、ギシギシと錆びついた音をさせて桃子が首だけで振り返った。
30: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:03:53.06 ID:V525dxyZ0(30/49)調 AAS
「な、なに? 琴葉さん……」
「お節介かもしれないけど、今日もレッスン頑張ってね」
長い長い一拍を置いて、パタンと扉が閉められると、再び部屋は密室となった。
おまけに、あれ程切羽詰まった『頑張ります!』は、人生でもそうそう聞いたことが無いぞ?
「……行っちゃいましたね、桃子ちゃん」
「あ、ああ」
「それで、私の用事なんですけど」
「あ、ああ!」
うぅ、さらに付け加えてだ。
俺だってすこぶる従順な返事をしてる。
長尺が離れていくのと連動したみたいに、気付けば椅子からも立ち上がって、校長室に呼び出された生徒もかくやと琴葉を見つめていた。
31: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:05:11.22 ID:V525dxyZ0(31/49)調 AAS
「プロデューサー、これを見てください」
そんな俺の気持ちとはお構いなしに、まるで何事も無かったかのように琴葉が長尺を背中に仕舞い
(情けないが俺は心底この時ホッとした)
その代わりに見覚えのあるA2サイズの紙を取り出す。
紙は、劇場のあちこちに貼られている"お知らせ"に使われてる物で、例えば室内での野球禁止だとか、廊下は走っちゃいけません、みたいな約束事が書かれている。
そこに今回、性格が表れるキッチリとした手書き文字で、デカデカしたためられてたのは。
「――"アイドルとプロデューサーの"?」
「"過度なスキンシップは禁止します"。……突然で驚いたかもしれませんが、プロデューサーなら私の気持ち、きっと分かってくれますよね?」
32: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:12:30.14 ID:V525dxyZ0(32/49)調 AAS
===
きっと分かってくれますよね?
琴葉の言ったその言葉に、「分かってくれなきゃヤダヤダヤダ!」って乙女心が潜んでいるのは理解できる。
女の子は建前行動が基本だってのは、俺の心のメモ帳に教訓として太字でしっかり書いてあるし。
でも、接触禁止ってどういう事だ? 触ればかぶれるウルシみたいに、アイドルはいつから毒性を持つようになったんだ。
「プロデューサー? 聞いてますか」
「えっ? ああ、聞いてる聞いてる」
ただ少ぉし距離が近いですね。
琴葉、さっきまでより数歩分は詰めて来ちゃいないか……?
33: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:14:09.16 ID:V525dxyZ0(33/49)調 AAS
「私、例の熱愛報道をニュースで知って――思ったんです! これは決して他人事なんかじゃない。
他所の事務所で起きた事が765プロでも起きないように、プロデューサーとアイドル、その距離感を再確認するべきじゃないかって」
「な、なるほど……。一応理由があったんだな」
すると、琴葉は眉をひそめて。
「……プロデューサーは、私が考え無しにこんな事を言い出したって思ったんですか?」
「いや、決してそんな事は――」
「私だって、好きでこんな事をするんじゃないんです。でも、起こってからじゃ手遅れだし、誰かが心を鬼にしてでもやらないと。……じゃないと、皆、優しいから」
彼女は、さらに俺との距離を縮めて喋る。
きっと思考が先走ってるんだ。
どことなく思いつめてるような表情をして、グイグイと前に乗り出す姿勢は琴葉の本気の表れだ。
34: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:16:12.67 ID:V525dxyZ0(34/49)調 AAS
「だけど琴葉」
俺は彼女の肩に両手を置いて、これ以上の接近を一旦食い止めると。
「少し、気にし過ぎじゃないか? っていうか、もっと俺を信用して欲しい」
「信用、ですか?」
「ああ! 例の報道であったみたいに、プロデューサーがアイドルに手を出すなんて事をホントに俺がするかどうか」
「それは……確かに、プロデューサーは彼女も居ないですし、皆もそこは納得するかな――」
「う、ん……? ま、まぁ、そういう事実も判断材料の一つとしてな」
「分かりました。プロデューサーがそこまで言うなら」
言って、琴葉の体から力が抜ける。
今の説明で納得してくれたみたいで良かったけど……。
やけにあっさり引き下がって、それってつまり、俺がモテないさんだってのが彼女達の共通認識って事か?
――気になる。まぁ、それを今から確認しても仕方が無いし、話が前にも進まない。
35: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:17:42.00 ID:V525dxyZ0(35/49)調 AAS
「安心してくれていいよ琴葉。それに、何度も言うけど信じてくれ。俺はアイドルには絶対手を出さない!」
「はい、ちゃんと理解してます。ただ――」
「ただ……何だい?」
すると琴葉は、応える代わりに視線を自分の肩にやった。
肩と言えば、彼女の接近を阻もうとして置きっぱなしになってた俺の両手がそっくりそのままなワケで。
「わっ、悪い! 琴葉が言ってる傍から俺は――」
「そんな! プロデューサーは悪くないです!!」
琴葉が強く首を振って、すぐさま俺の行為を庇う。
だけど、彼女の勢いはそれだけで止まらなくって。
「私の言う、過度なスキンシップってもっとこう――」
支える両手を押し込むように、琴葉の体との距離が縮む。
そうして彼女の頭が俺の肩に、しなだれるようにして預けられる。
「不必要に、相手の体に触れてみたり、プロデューサーと、直接、指を絡め合ったり」
言って、琴葉は合わせ鏡をするみたいに、強引な動作で互いの手と手を結び付け合った。
俺は「琴葉の手、凄く柔らかいな」とか「うぉっ!? 指細いのに力が強い……!」なんて情報を処理する事に必死過ぎて、
拒否するどころか抗う事も出来ず、相手のやりたいようにされるがまま。
36: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:19:26.45 ID:V525dxyZ0(36/49)調 AAS
お陰でバランスを崩した俺は、彼女の誘導で元いた椅子に座らされる。
こんなの一種のマウントポジション。勿論、地の利を得たのは圧倒的に琴葉側だ。
「こ、琴葉?」
俺の小さな呼び掛けを無視するように琴葉の脚が滑らかに動く。
どうしていいかも忘れたまま、膝の上、ズボン越しに掛けられた柔らかくも存在感ある新たな負荷は、
さっきまで上に座っていた、小学生の桃子とのソレとは範囲も重みもワケが違っていて。
「……だけど、こうして膝の上に座るのは……ギリギリ許される範囲なのかも」
彼女は、まるで自転車の荷台に乗るみたいに、俺の膝上で器用にバランスを取った。
下半身はこちらの脚に対して垂直。
上体だけをこっちに向けて、そうすると、すぐ目の前に真剣で緊張してる琴葉の顔が。
憂いと恥じらいを合わせた困り眉に、薄っすら色づく綺麗な肌。
俺を直視する二つの瞳の反射、その中に映り込んだ光景さえ確認できる至近距離で、
形の良いピンクの唇がしっとりと開き、微かに届くその吐息は、内包する熱っぽさまでをも俺に伝えようとしているみたいだった。
37: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:20:46.97 ID:V525dxyZ0(37/49)調 AAS
だから、「わ、分かった」と答えるだけで息苦しくて。
「分かったから、降りるんだ琴葉。……よく、うん……気を付けるからさ」
なのに、琴葉は絡めている指に力を足して。
「いいえ、まだ……まだダメです!」
「だ、ダメ……っ!?」
「だって、桃子ちゃんは座ってたじゃないですか。もう既に、何らかの感情変化が起きてるかも……。
本当にこのスキンシップが適切だったかどうか、限界までキチンと確かめる必要があります」
「そっ、その安全管理や耐久テストします的主張は一体何なんだ……!?」
どっちかって言うと今の君の方が色々ダメっぽいぞ!
なのに、琴葉はより安定感を得られるように、さっきよりもっと深い位置へワガママに体を押し付けてくる。
当然そんな事をすると、彼女の柔らかな体の部位が――世間じゃお尻と呼ばれるその部分が、余りよろしくない場所に厳しい負荷を掛けるワケで。
38: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:21:42.07 ID:V525dxyZ0(38/49)調 AAS
「こと、はっ……!」
堪えろ! 堪えろ俺の理性――ジャングル・シベリア・アフリカの大地!
そうだ、俺はベテランの旅行会社ガイド。
平和ボケした観光客御一行様を連れてる時に、現地の猛獣と出会ったみたいな冷静さで今すぐトラブルシューティング……!!
なんて、意識を誤魔化す事で存在を消してしまえたらどれ程事態は楽だろうか?
最早冷や汗を超えて脂汗まで滲み出した、気圧された蛙のような俺を食い入るように琴葉が見つめる。
その瞳はゆうに蛇を超えて、一足飛びで猛禽類――鋭い爪とクチバシを持った、カッコいい鷹みたいじゃないか。
そうして、良い匂いのする髪の毛をいじらしく揺らしながら、近付く彼女の唇が耳元で淫靡に囁くのは。
39: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:26:28.89 ID:V525dxyZ0(39/49)調 AAS
「すぅ」
「えっ」
「ぜ」
「ん…♪」
40: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:29:10.66 ID:V525dxyZ0(40/49)調 AAS
――すえぜん、SUEZEN、すぇっ、据え膳!!?
激しく狼狽える俺を他所に、一音一音ハッキリと伝え終わった琴葉がふぅーっと細い息を吐き出す。
すると、それに釣られるみたいに「んっきゅ!?」なんて、みっともない音が大音量で喉から漏れる。
……誰だ、こんな状況で生唾なんて飲んだ奴は――。
「っ、俺だー……!」
「……もう! そういう返しをされちゃうと、いくら大人しい私だって『いただきます』をしちゃいますよ?」
プロデューサー? と、からかうように琴葉は小首を傾げるが、そうすると君、可愛い小さな君の顔が、頬ずりするみたいに俺の横顔に当たって擦れるって知ってたかい!?
――くそっ! さっきから頭がクラクラと熱い。
確かに、琴葉が言った通り据え膳食わぬは男の恥。
一度でも敷居を跨いだら外には七人の敵がいて、懐には常に辞表を隠し、殺伐とした現代社会を刹那で生き交う様は武士の如く。
明日をも知れぬ生活なら、ここで一時の快楽を享受して許されるのは道理かもしれん。
……そうだ、そう! そうだともさ。
考えようによってはここが既に現生のヴァルハラ。
我が前世は恐らく名の有る戦国の強い武士で、勇敢に戦って手に入れた御褒美こそがこの"はらいそ"一等地なのかも……!?
41: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:30:56.92 ID:V525dxyZ0(41/49)調 AAS
「あ、あの? プロデューサー?」
気付けば、琴葉が顔を覗き込んでる。
ああ、何て澄んだ目で俺を見つめるんだ。
君が持ってる可能性は、まるで炊き立てで粒の立った銀シャリのようじゃないか!
単体でも十分旨いんだけど、その時その時の旬なオカズでポテンシャルはより強く輝く。
何故ならそれを可能にする、幅広い食材と手と手を繋げる柔軟性、バランスの良さをその身に備えているからだ。
だから琴葉、調和のとれた君の姿、プロデューサーとして俺は誇らしくもあり怖くもあるよ。
「ぶ……しは……」
「えっ?」
「武士は……、食わねど、高楊枝……っ!」
最後に――何てことない塩おむすびでも美味しいのは、きっと必要としている心と体に最高のタイミングで染み渡るからだろうね。
「ふんぬっ!」
脳内ポエムとマッシブな掛け声の合わせ技を一つ、俺はグッとへそ下に力を込める。
それから、ずっと絡められていた両手を琴葉の支配から脱出させて、今度は自由になった俺の方から彼女の体に腕を回した。
つまるところ、簡易式お姫様抱っこの格好だ。
42: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:32:43.17 ID:V525dxyZ0(42/49)調 AAS
「きゃっ!?」
琴葉が驚いた声を上げて両腕を俺の首に回す。
一瞬だから許して欲しいと心の中で唱えながら、彼女を床へと降ろした後で、俺はまた上に乗られちゃ堪らんと座ってた椅子から立ち上がった。
「さぁ、悪いけどテストはここまでだ」
「プ、プロデューサー」
「琴葉、俺は君の担当として、また一人の分別ある大人としても、これ以上のスキンシップチェックが必要無いと判断する!」
まぁ、多少なりと強引だったけれど、これ以上続けるのはマジのマジで危ない。
俺達は北風と太陽だ。
古来より頑ななハートを熱いパッションがほだしてしまうように、鋼のタフな自制心も、蕩けるボディの温もりを前にいつか必ず溶かされてしまう。
「……やっぱり、プロデューサーを信じてよかった」
琴葉が、おずおずと首に回していた腕を外し、次いで真っ赤な顔をほぐすように、躊躇いがちな微笑みを浮かべたんだ。
それは、自分の取った行動に、一つも後悔してないと暗に言ってるようで。
43: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:34:16.72 ID:V525dxyZ0(43/49)調 AAS
「琴葉が……俺を信じる?」
「はい。いつも、プロデューサーは私達に一生懸命ですから、どんなに強引に言い寄られたって、相手がアイドルである限り、アナタはプロデュースに徹するハズだって。
……嬉しいです。私の事、ちゃんと大事にしてくれてるって事が分かりましたから」
そうして、琴葉はほんの一瞬だけ目線を下にすると。
「……ううん、分からされちゃった、かな?」
「そ、それは……。いっ、幾ら琴葉でも俺を買い被りすぎだ!」
「でも、私を傷つけませんでした」
「それだって……結果的にそうなったってだけで……」
と、反論する俺は歯切れも悪い。……だって、だってそうじゃないか?
もしもあのまま、密着状態が続いていたら、俺は、琴葉だけじゃなくて、もっと多くの人を傷つける事になったかもしれないんだ。
44: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:35:09.95 ID:V525dxyZ0(44/49)調 AAS
だけど琴葉は、そう言って俯く俺に向けて。
「それが、大事だって思いますよ」
眼差しは、何より力強く。
「誘惑に負けるのは簡単です。最初から拒絶するのはもっと簡単です。だけど、プロデューサーはそうじゃなかった。
アイドルとしての私の事、アイドルとしての私達の事を本気で考えてくれてるからこそ、最後は強い意志を見せて、立場を貫き通したんです」
「琴葉……! 君は、俺の事を――」
そんなにまで深く思ってくれて……。
マズい、このままじゃみっともなく泣いてしまいそうだ。
45: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:37:38.57 ID:V525dxyZ0(45/49)調 AAS
「ありがとう。俺、プロデューサーとしての気合を入れ直せた気分だよ」
言って、目頭の熱い顔で俺も微笑み返す。
それはとても素直な感謝の気持ち。
担当アイドルにここまで信用してもらって、涙をちょちょぎらす事の何がみっともないと言うだろうか?
すると、そんな俺の反応を受けて、琴葉も急にドギマギと視線を泳がせ始め。
「あっ、あの……わ、私だって、さっきのでは思うところがあったって言うか……。
プッ、プロデューサーの膝に座ったりとか、耳元であんな言葉を囁いたり。――演技に熱も入っちゃって……」
「じゃあ、さっきのは全部演技だった?」
訊けば、琴葉は「はぅっ!?」と恥じらうように体を縮め。
「そ、そ、そのつもりです! ……あぅ、自分でも、驚くぐらい夢中になった時間でした」
「……うん! 確かに、凄い迫力だった」
「うぅう〜〜……! ほ、褒めて貰えるのは嬉しいですけど――今になってみると、凄く恥ずかしいですね」
46: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:39:05.59 ID:V525dxyZ0(46/49)調 AAS
でも、そう言いながらも琴葉が見せてくれたのは、大きな舞台で一仕事を終えた時のような充実し切った表情だった。
それは、ある意味では俺がプロデュースを続けていける原動力。
……彼女の担当プロデューサーとして、琴葉が寄せてくれる期待を裏切らないよう改めて気を引き締めないと!
――とはいえ、決意を新たにしたところで、だからこそひとこと言うべき事がある。
「だけど、抜き打ちのテストはこれで最後にして欲しいな。今回は何とかなったけれど、流石に刺激が強すぎたって言うか――」
そう、何度も言うがさっきの絡みはギリギリだった。
今後も俺がアイドルのプロデュースを続けて行けるように。
何より琴葉を悲しませたりしないために必要な注意と約束なんだ。
……なのに琴葉は、キョトンと不思議そうな顔になると。
47: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:40:00.52 ID:V525dxyZ0(47/49)調 AAS
「えっ? ――さっきので刺激が強すぎました?」
「……えっ?」
一体何を言い出すんだこの子。
俺は呆気に取られて琴葉を見た。
すると、彼女の方も困惑したように見つめ返して来て。
戦士よ、選ばれし闘いの申し子よ。
本当の『刺激』はこれからやって来るのじゃよ……なんて、そう脅しを掛ける占い師が如く。
「こんなのは、まだ序の口ですよ?」
刹那、俺の背中をゾクゾクとした悪寒が走り抜ける。
突然の嫌な予感に慌てて目線をやると、琴葉の手には新たなアイテム――
いつぞやの張り紙を取り出した時みたいに、召喚されたアーティファクトは電話帳並みの厚みを持った紙の束で。
48: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:47:16.96 ID:V525dxyZ0(48/49)調 AAS
「私の事を本気で考えてくれるプロデューサーだから、私も本気でアナタの役に立ちたくって。
……大丈夫です! 私、昨日の夜に様々な危険シチュエーションを想定した対策マニュアルを作って来ましたから!」
なんて、微笑む彼女は天使の笑顔。
対する俺はどんな顔だ? ……少なくとも笑顔は引きつって、腰が引けていた事だけは間違いない。
「それじゃあまず、最初の"はじめに"から一緒に読んで……一つずつチェックしていきましょうね♪」
===
――さて、俺と琴葉の『補習』はまだ続くが、物語としてはここで一旦の幕引きとしよう。
とにもかくにも765プロの、賑やかなある日の出来事はこれでおしまいどっとはらい。
49: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 22:49:58.01 ID:V525dxyZ0(49/49)調 AAS
===
以上おしまい!
構想段階では他にも志保やら紬やらの出番もありはしたんですが、それはまた別の機会にでも
では、最後までお読みいただきありがとうございました。
50: ◆NdBxVzEDf6 2020/09/07(月) 22:51:54.69 ID:5Wl/At1l0(1)調 AAS
琴葉は真面目だなぁ....
乙です
>>1
田中琴葉(18) Vo/Pr
画像リンク
画像リンク
>>9
周防桃子(11) Vi/Fa
画像リンク
画像リンク
51: 2020/09/07(月) 22:56:07.07 ID:b4/U+swY0(1)調 AAS
おつおつ!楽しかった!
幕引きしないで!お願い!
52: 2020/09/08(火) 22:39:15.98 ID:4ls0Jx4Lo(1)調 AAS
乙
琴葉の迫力に気圧されて一方的にやられっぱなしな桃子で草
上下前次1-新書関写板覧索設栞歴
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ
ぬこの手 ぬこTOP 0.116s*