【ミリマス】琴葉は過度なスキンシップ行為を訴えたい! (52レス)
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1(1): ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga] 2020/09/07(月) 20:58:55.47 ID:V525dxyZ0(1/49)調 AAS
「すみません、こっち向いてください!」
「今回の噂についての真相を――」
「相手は高校を卒業したとはいえ、まだ未成年だって聞いてますが」
「これがきっかけになってユニット解散とか……!」
「自社で売り出し中のアイドルに手を出す罪悪感は無かったんですか!?」
次々にがなり立てられる質問と、通りを照らすフラッシュの雨。
被写体を、カッターで切りつけるような、鋭いシャッター音が幾重にも重なる。
そうして熱……。純粋な情熱でなくて、好奇や妬みが織りなす歪んだ形の下卑た熱意。
それが、画面越しでも強く感じられた。
お陰で肩が震えるような寒気を感じ、田中琴葉は乾かしたばかりの髪をくしゃり。
使い終わったドライヤーを手早く片付けると、改めてベッド上のスマホと向かい合う。
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2: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:02:23.84 ID:V525dxyZ0(2/49)調 AAS
「――と、言うワケで今回の熱愛騒動。まさか人気上昇中のアイドルが、
これまた"まさか"の自社のプロデューサーと恋仲だった事実にネット上では非難の声も吹き荒れています。
当然、ファンにとっては裏切られたと感じられて仕方がない所ではありますが……」
「そうですねェ……。彼女にしろ、相手のプロデューサーにしろ、この件は軽率だったと言わざるを得ない。
実を言えば私もファンの一人だったので、いや、この話を聞いた時は驚いたのなんの――」
そうして、カメラがスタジオに戻った後の、キャスターとコメンテーターのやり取りに困ったように顔をしかめる。
アイドルは、応援してくれるファンの存在があってこそ。
確かにそれは正論である。聴いてる琴葉の耳も痛い。
何時解けるとも知れぬ魔法の結晶。
ガラスの靴を履いて芸能界に入った以上、それは何人たりとも犯してはならない絶対遵守の不文律だ。
3: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:04:16.72 ID:V525dxyZ0(3/49)調 AAS
軽んずれば何らかの不利益を被り、破れば当然罰が下る。
具体的には芸能界からの即時引退。
そこまで極端で無いにしても、一度失った信用を取り戻す道は並大抵の苦労ではない。
なので同業者である琴葉自身、キチンとその事を理解して、
だからこそ自分を応援してくれている不特定多数の彼・または彼女らをガッカリさせてしまうような、
軽率な振る舞いは取らないよう日頃から気を使って過ごしているつもりだった。
――例えば、彼女が何らかの番組に出演をして、司会から「琴葉ちゃんは彼氏とかいるの?」といった質問が飛んで来たとしよう。
そんな場合、琴葉はほんの一瞬驚いたような表情を浮かべ、それから恥ずかしそうに照れ笑って、
4: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:06:57.22 ID:V525dxyZ0(4/49)調 AAS
「いません。……あの、遅れてるって思われちゃうかもしれませんが、まだ、恋っていう物がよくは分からなくて」
と、返答するイメージトレーニングも事前に『予習』して準備するぐらいだ。
まさに備えがあれば憂いは無し。
琴葉とはそうした抜かりのない少女であるし、逆に言えば、それ程までに『アイドルに恋愛は御法度!』な価値観が世間には強く根付いている。
5: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:09:04.43 ID:V525dxyZ0(5/49)調 AAS
……だが、しかし、それでもなのだ。
本日、最も世間を沸かせる事になった噂の二人に限っては、その名分も規律も束縛力も大した意味は持ちはせずに。
これまでの自分を支えてくれた多くのファンを、業界内の関係者を、
何より一緒に活動するユニットの仲間を裏切ってまで成就させたかった熱い"恋愛"!
衝動のままに行動を起こした渦中の二人の関係を……琴葉は少し、羨ましいとさえ思ってしまう。
6: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:10:21.46 ID:V525dxyZ0(6/49)調 AAS
二人で手を取り愛を与え、愛を見つけ、愛に生きて――そうして、愛するが故に愛に殉ずる。
「……だけど、こんな風に考えちゃうの、私もアイドル失格になっちゃうかな」
琴葉は小さく嘆息した。
それから枕を抱き寄せると、流れ始めた次のニュースをぼんやり眺めながら、
例えばこれが自分だったら――自分が"愛"に生きるならば、その相手は誰かと考える。
すると、すぐさま浮かんで来てしまう。
迷うことなく想い描いた意中の人物の後ろ姿。
7: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:11:15.78 ID:V525dxyZ0(7/49)調 AAS
「……っあぅ!」
耳まで赤くなった琴葉は、妄想をかき消そうとするように枕の中へ顔を埋めた。
「ち、違うから! プロデューサーは、そういうのじゃなくて――」
そうしてもごもご口走った言い訳は、この場の誰に聞かせるモノでも無し。
琴葉は、真っ赤になった頬っぺたを両手で隠すように押さえつけると、
「そっ、そうだ! お風呂上がりのアイス食べなきゃ!」なんてベッドからそそくさと立ち上がった。
……しかし、彼女はまだ気づいていない。
いや、多くの人間がつゆとも思っていなかった。
だが事態は着実に進行し、その晩、"ある可能性"に思い当たった琴葉の部屋の明かりは随分遅くまで消えなかった。
8: ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:13:17.72 ID:V525dxyZ0(8/49)調 AAS
===
「ふぇっくしゅん、ぶぇっくしゅん、ぶぇーっくしょん!!」
さらに畜生、バーロー、こんにゃろーめっ!! まで続けて決める事ができりゃ、世間的には立派なクシャミスト。
嘘だ。別にそーゆー肩書きはありゃしない。
そもそも、一説によればくしゃみはある種の呪いだとか。
呪いには呪い返しと相場も決まってる。
古くは「くさめくさめ」とまじない言葉を唱える事で、魂が肉体を離れていくのを防ごうとしたなんて話もある。
だけどご存知ココは765プロの、ご存知劇場内事務室。
空調設備は年中無休、室温湿度快適至極。
一見くしゃみとは無縁の環境で、盛大にかましてしまったのは単純にちょっと恥ずかしいな。
9(1): ◆Xz5sQ/W/66 [sagesaga] 2020/09/07(月) 21:15:17.02 ID:V525dxyZ0(9/49)調 AAS
おまけに事はそれだけで収まらない。
この突発性くしゃみによって、「ヤダ!? 汚い!」と身近な所で悲鳴が上がる。
具体的には膝の上だ。
わざわざこっちに振り返って、小さな彼女は目尻を吊り上げた。
「ちょっと、お兄ちゃん酷いんじゃない? どーして桃子が座った途端にくしゃみなんか」
と、キャンキャン言うのが周防桃子。
一応補足を挟んでおくと、『お兄ちゃん』とはつまり俺の事だ。
でも、別に実の兄であるとかそういう事実は一切無いし、だからって義理の兄貴でも無いのである。
桃子の使う『お兄ちゃん』は、単に年上の男を指す言葉として彼女が採用している愛称で、
まぁ、俺がそう呼ばれるようになった詳しい経緯は有るのだけど、簡単に説明してしまえば、
俺がアイドルやってる桃子ちゃんのプロデューサーだからそう呼ばれるようになったってワケ。
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