[過去ログ] [アスペルガーASである私の変わったハンディと特徴] (1001レス)
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332: 2007/08/23(木) 00:13:08 ID:mlK+87dW(1)調 AAS
河口局から郵便物を受け取り、
またバスにゆられて峠の茶屋に引返す途中、私のすぐとなりに、
濃い茶色の被布(ひふ)を着た青白い端正の顔の、
六十歳くらい、私の母とよく似た老婆がしゃんと坐っていて、
女車掌が、思い出したように、みなさん、きょうは富士がよく見えますね、
と説明ともつかず、また自分ひとりの咏嘆(えいたん)ともつかぬ言葉を、
突然言い出して、リュックサックしょった若いサラリーマンや、
大きい日本髪ゆって、口もとを大事にハンカチでおおいかくし、
絹物まとった芸者風の女など、からだをねじ曲げ、
一せいに車窓から首を出して、いまさらのごとく、
その変哲もない三角の山を眺めては、やあ、とか、まあ、
とか間抜けた嘆声を発して、車内はひとしきり、ざわめいた。
けれども、私のとなりの御隠居は、
胸に深い憂悶(ゆうもん)でもあるのか、
他の遊覧客とちがって、富士には一瞥(いちべつ)も与えず、
かえって富士と反対側の、山路に沿った断崖をじっと見つめて、
私にはその様が、からだがしびれるほど快く感ぜられ、私もまた、
富士なんか、あんな俗な山、見度くもないという、
高尚な虚無の心を、その老婆に見せてやりたく思って、
あなたのお苦しみ、わびしさ、みなよくわかる、
と頼まれもせぬのに、共鳴の素振りを見せてあげたく、
老婆に甘えかかるように、そっとすり寄って、
老婆とおなじ姿勢で、ぼんやり崖の方を、眺めてやった。
老婆も何かしら、私に安心していたところがあったのだろう、ぼんやりひとこと、
「おや、月見草。」
そう言って、細い指でもって、路傍の一箇所をゆびさした。
さっと、バスは過ぎてゆき、私の目には、いま、
ちらとひとめ見た黄金色の月見草の花ひとつ、
花弁もあざやかに消えず残った。
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