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配当金・株主優待スレッド 526 [無断転載禁止]©2ch.net (186レス)
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81
: 2016/05/18(水) 20:11:15.18
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81: [sage] 2016/05/18(水) 20:11:15.18 ID:4uTcWgUe 宗助は微笑しながら、急忙せわしい通りを向側むこうがわへ渡って、今度は時計屋の店を覗のぞき込ん だ。金時計だの金鎖が幾つも並べてあるが、これもただ美しい色や恰好かっこうとして、彼の眸ひとみに 映るだけで、買いたい了簡りょうけんを誘致するには至らなかった。その癖彼は一々絹糸で釣るした価格 札ねだんふだを読んで、品物と見較みくらべて見た。そうして実際金時計の安価なのに驚ろいた。 蝙蝠傘屋こうもりがさやの前にもちょっと立ちどまった。西洋小間物こまものを売る店先では、礼帽シ ルクハットの傍わきにかけてあった襟飾えりかざりに眼がついた。自分の毎日かけているのよりも大変柄 がらが好かったので、価ねを聞いてみようかと思って、半分店の中へ這入はいりかけたが、明日あしたか ら襟飾りなどをかけ替えたところが下らない事だと思い直すと、急に蟇口がまぐちの口を開けるのが厭い やになって行き過ぎた。呉服店でもだいぶ立見をした。鶉御召うずらおめしだの、高貴織こうきおりだの 、清凌織せいりょうおりだの、自分の今日こんにちまで知らずに過ぎた名をたくさん覚えた。京都の襟新 えりしんと云う家うちの出店の前で、窓硝子まどガラスへ帽子の鍔つばを突きつけるように近く寄せて、 精巧に刺繍ぬいをした女の半襟はんえりを、いつまでも眺ながめていた。その中うちにちょうど細君に似 合いそうな上品なのがあった。買って行ってやろうかという気がちょっと起るや否いなや、そりゃ五六年 前ぜんの事だと云う考が後あとから出て来て、せっかく心持の好い思いつきをすぐ揉もみ消してしまった 。宗助は苦笑しながら窓硝子を離れてまた歩き出したが、それから半町ほどの間は何だかつまらないよう な気分がして、往来にも店先にも格段の注意を払わなかった。 ふと気がついて見ると角に大きな雑誌屋があって、その軒先には新刊の書物が大きな字で広告してある 。梯子はしごのような細長い枠わくへ紙を張ったり、ペンキ塗の一枚板へ模様画みたような色彩を施こし たりしてある。宗助はそれを一々読んだ。著者の名前も作物さくぶつの名前も、一度は新聞の広告で見た ようでもあり、また全く新奇のようでもあった。 この店の曲り角の影になった所で、黒い山高帽を被かぶった三十ぐらいの男が地面の上へ気楽そうに胡 坐あぐらをかいて、ええ御子供衆の御慰おなぐさみと云いながら、大きな護謨風船ゴムふうせんを膨ふく らましている。それが膨れると自然と達磨だるまの恰好かっこうになって、好加減いいかげんな所に眼口 まで墨で書いてあるのに宗助は感心した。その上一度息を入れると、いつまでも膨れている。かつ指の先 へでも、手の平の上へでも自由に尻が据すわる。それが尻の穴へ楊枝ようじのような細いものを突っ込む としゅうっと一度に収縮してしまう。 忙がしい往来の人は何人でも通るが、誰も立ちどまって見るほどのものはない。山高帽の男は賑にぎや かな町の隅に、冷やかに胡坐あぐらをかいて、身の周囲まわりに何事が起りつつあるかを感ぜざるものの ごとくに、ええ御子供衆の御慰みと云っては、達磨を膨らましている。宗助は一銭五厘出して、その風船 を一つ買って、しゅっと縮ましてもらって、それを袂たもとへ入れた。奇麗きれいな床屋へ行って、髪を 刈りたくなったが、どこにそんな奇麗なのがあるか、ちょっと見つからないうちに、日が限かぎって来た ので、また電車へ乗って、宅うちの方へ向った。 宗助が電車の終点まで来て、運転手に切符を渡した時には、もう空の色が光を失いかけて、湿った往来 に、暗い影が射さし募つのる頃であった。降りようとして、鉄の柱を握ったら、急に寒い心持がした。い っしょに降りた人は、皆みんな離れ離れになって、事あり気に忙がしく歩いて行く。町のはずれを見ると 、左右の家の軒から家根やねへかけて、仄白ほのしろい煙りが大気の中に動いているように見える。宗助 も樹きの多い方角に向いて早足に歩を移した。今日の日曜も、暢のんびりした御天気も、もうすでにおし まいだと思うと、少しはかないようなまた淋さみしいような一種の気分が起って来た。そうして明日あし たからまた例によって例のごとく、せっせと働らかなくてはならない身体からだだと考えると、今日半日 の生活が急に惜しくなって、残る六日半むいかはんの非精神的な行動が、いかにもつまらなく感ぜられた 。歩いているうちにも、日当の悪い、窓の乏しい、大きな部屋の模様や、隣りに坐すわっている同僚の顔 や、野中さんちょっとと云う上官の様子ばかりが眼に浮かんだ。 魚勝と云う肴屋さかなやの前を通り越して、その五六軒先の露次ろじとも横丁ともつかない所を曲ると http://potato.5ch.net/test/read.cgi/stock/1456225981/81
宗助は微笑しながら急忙せわしい通りを向側むこうがわへ渡って今度は時計屋の店を覗のぞき込ん だ金時計だの金鎖が幾つも並べてあるがこれもただ美しい色や恰好かっこうとして彼のひとみに 映るだけで買いたい了簡りょうけんを誘致するには至らなかったその癖彼は一絹糸で釣るした価格 札ねだんふだを読んで品物と見較みくらべて見たそうして実際金時計の安価なのに驚ろいた 傘屋こうもりがさやの前にもちょっと立ちどまった西洋小間物こまものを売る店先では礼帽シ ルクハットの傍わきにかけてあった襟飾えりかざりに眼がついた自分の毎日かけているのよりも大変柄 がらが好かったので価ねを聞いてみようかと思って半分店の中へ這入はいりかけたが明日あしたか ら襟飾りなどをかけ替えたところが下らない事だと思い直すと急に口がまぐちの口を開けるのが厭い やになって行き過ぎた呉服店でもだいぶ立見をした御召うずらおめしだの高貴織こうきおりだの 清凌織せいりょうおりだの自分の今日こんにちまで知らずに過ぎた名をたくさん覚えた京都の襟新 えりしんと云う家うちの出店の前で窓硝子まどガラスへ帽子の鍔つばを突きつけるように近く寄せて 精巧に刺繍ぬいをした女の半襟はんえりをいつまでも眺ながめていたその中うちにちょうど細君に似 合いそうな上品なのがあった買って行ってやろうかという気がちょっと起るや否いなやそりゃ五六年 前ぜんの事だと云う考が後あとから出て来てせっかく心持の好い思いつきをすぐもみ消してしまった 宗助は苦笑しながら窓硝子を離れてまた歩き出したがそれから半町ほどの間は何だかつまらないよう な気分がして往来にも店先にも格段の注意を払わなかった ふと気がついて見ると角に大きな雑誌屋があってその軒先には新刊の書物が大きな字で広告してある 梯子はしごのような細長い枠わくへ紙を張ったりペンキ塗の一枚板へ模様画みたような色彩を施こし たりしてある宗助はそれを一読んだ著者の名前も作物さくぶつの名前も一度は新聞の広告で見た ようでもありまた全く新奇のようでもあった この店の曲り角の影になった所で黒い山高帽を被かぶった三十ぐらいの男が地面の上へ気楽そうに胡 坐あぐらをかいてええ御子供衆の御慰おなぐさみと云いながら大きな護風船ゴムふうせんを膨ふく らましているそれが膨れると自然と達磨だるまの恰好かっこうになって好加減いいかげんな所に眼口 まで墨で書いてあるのに宗助は感心したその上一度息を入れるといつまでも膨れているかつ指の先 へでも手の平の上へでも自由に尻が据すわるそれが尻の穴へ楊枝ようじのような細いものを突っ込む としゅうっと一度に収縮してしまう 忙がしい往来の人は何人でも通るが誰も立ちどまって見るほどのものはない山高帽の男は賑にぎや かな町の隅に冷やかに胡坐あぐらをかいて身の周囲まわりに何事が起りつつあるかを感ぜざるものの ごとくにええ御子供衆の御慰みと云っては達磨を膨らましている宗助は一銭五厘出してその風船 を一つ買ってしゅっと縮ましてもらってそれをたもとへ入れた奇麗きれいな床屋へ行って髪を 刈りたくなったがどこにそんな奇麗なのがあるかちょっと見つからないうちに日が限かぎって来た のでまた電車へ乗って宅うちの方へ向った 宗助が電車の終点まで来て運転手に切符を渡した時にはもう空の色が光を失いかけて湿った往来 に暗い影が射さし募つのる頃であった降りようとして鉄の柱を握ったら急に寒い心持がしたい っしょに降りた人は皆みんな離れ離れになって事あり気に忙がしく歩いて行く町のはずれを見ると 左右の家の軒から家根やねへかけて白ほのしろい煙りが大気の中に動いているように見える宗助 も樹きの多い方角に向いて早足に歩を移した今日の日曜も暢のんびりした御天気ももうすでにおし まいだと思うと少しはかないようなまた淋さみしいような一種の気分が起って来たそうして明日あし たからまた例によって例のごとくせっせと働らかなくてはならない身体からだだと考えると今日半日 の生活が急に惜しくなって残る六日半むいかはんの非精神的な行動がいかにもつまらなく感ぜられた 歩いているうちにも日当の悪い窓の乏しい大きな部屋の模様や隣りに坐すわっている同僚の顔 や野中さんちょっとと云う上官の様子ばかりが眼に浮かんだ 魚勝と云う肴屋さかなやの前を通り越してその五六軒先の露次ろじとも横丁ともつかない所を曲ると
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