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配当金・株主優待スレッド 526 [無断転載禁止]©2ch.net (186レス)
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168
: 2016/05/18(水) 22:08:29.94
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168: [sage] 2016/05/18(水) 22:08:29.94 ID:4uTcWgUe っていた手紙なんぞが、むちゃくちゃに放り出してあった。おまけに御馳走ごちそうまで置いて行った」 宗助は文庫の中から、二三通の手紙を出して御米に見せた。それには皆みんな坂井の名宛なあてが書い てあった。御米は吃驚びっくりして立膝のまま、 「坂井さんじゃほかに何か取られたでしょうか」と聞いた。宗助は腕組をして、 「ことに因よると、まだ何かやられたね」と答えた。 夫婦はともかくもと云うので、文庫をそこへ置いたなり朝飯の膳ぜんに着いた。しかし箸はしを動かす 間まも泥棒の話は忘れなかった。御米は自分の耳と頭のたしかな事を夫に誇った。宗助は耳と頭のたしか でない事を幸福とした。 「そうおっしゃるけれど、これが坂井さんでなくって、宅で御覧なさい。あなたみたように、ぐうぐう寝 ていらしったら困るじゃないの」と御米が宗助をやり込めた。 「なに、宅なんぞへ這入はいる気遣きづかいはないから大丈夫だ」と宗助も口の減らない返事をした。 そこへ清が突然台所から顔を出して、 「この間拵こしらえた旦那様の外套マントでも取られようものなら、それこそ騒ぎでございましたね。御 宅おうちでなくって坂井さんだったから、本当に結構でございます」と真面目まじめに悦よろこびの言葉 を述べたので、宗助も御米も少し挨拶あいさつに窮きゅうした。 食事を済ましても、出勤の時刻にはまだだいぶ間があった。坂井では定めて騒いでるだろうと云うので 、文庫は宗助が自分で持って行ってやる事にした。蒔絵まきえではあるが、ただ黒地に亀甲形きっこうが たを金きんで置いただけの事で、別に大して金目の物とも思えなかった。御米は唐桟とうざんの風呂敷ふ ろしきを出してそれを包くるんだ。風呂敷が少し小さいので、四隅よすみを対むこう同志繋つないで、真 中にこま結びを二つ拵こしらえた。宗助がそれを提さげたところは、まるで進物の菓子折のようであった 。 座敷で見ればすぐ崖の上だが、表から廻ると、通りを半町ばかり来て、坂を上のぼって、また半町ほど 逆に戻らなければ、坂井の門前へは出られなかった。宗助は石の上へ芝を盛って扇骨木かなめを奇麗きれ いに植えつけた垣に沿うて門内に入った。 家いえの内はむしろ静か過ぎるくらいしんとしていた。摺硝子すりガラスの戸が閉たててある玄関へ来 て、ベルを二三度押して見たが、ベルが利きかないと見えて誰も出て来なかった。宗助は仕方なしに勝手 口へ廻った。そこにも摺硝子の嵌はまった腰障子こししょうじが二枚閉ててあった。中では器物を取り扱 う音がした。宗助は戸を開けて、瓦斯七輪ガスしちりんを置いた板の間に蹲踞しゃがんでいる下女に挨拶 あいさつをした。 「これはこちらのでしょう。今朝私わたしの家うちの裏に落ちていましたから持って来ました」と云いな がら、文庫を出した。 下女は「そうでございましたか、どうも」と簡単に礼を述べて、文庫を持ったまま、板の間の仕切まで 行って、仲働なかばたらきらしい女を呼び出した。そこで小声に説明をして、品物を渡すと、仲働はそれ を受取ったなり、ちょっと宗助の方を見たがすぐ奥へ入った。入いれ違ちがえに、十二三になる丸顔の眼 の大きな女の子と、その妹らしい揃そろいのリボンを懸かけた子がいっしょに馳かけて来て、小さい首を 二つ並べて台所へ出した。そうして宗助の顔を眺ながめながら、泥棒よと耳語ささやきやった。宗助は文 庫を渡してしまえば、もう用が済んだのだから、奥の挨拶はどうでもいいとして、すぐ帰ろうかと考えた 。 「文庫は御宅のでしょうね。いいんでしょうね」と念を押して、何なにも知らない下女を気の毒がらして いるところへ、最前の仲働が出て来て、 「どうぞ御通り下さい」と丁寧ていねいに頭を下げたので、今度は宗助の方が少し痛み入るようになった 。下女はいよいよしとやかに同じ請求を繰り返した。宗助は痛み入る境を通り越して、ついに迷惑を感じ 出した。ところへ主人が自分で出て来た。 主人は予想通り血色の好い下膨しもぶくれの福相ふくそうを具そなえていたが、御米の云ったように髭 ひげのない男ではなかった。鼻の下に短かく刈り込んだのを生やして、ただ頬ほおから腮あごを奇麗きれ いに蒼あおくしていた。 「いやどうもとんだ御手数ごてかずで」と主人は眼尻めじりに皺しわを寄せながら礼を述べた。米沢よね ざわの絣かすりを着た膝ひざを板の間に突いて、宗助からいろいろ様子を聞いている態度が、いかにも緩 ゆっくりしていた。宗助は昨夕ゆうべから今朝へかけての出来事を一通り掻かい撮つまんで話した上、文 http://potato.5ch.net/test/read.cgi/stock/1456225981/168
っていた手紙なんぞがむちゃくちゃに放り出してあったおまけに御馳走ごちそうまで置いて行った 宗助は文庫の中から二三通の手紙を出して御米に見せたそれには皆みんな坂井の名宛なあてが書い てあった御米は吃驚びっくりして立膝のまま 坂井さんじゃほかに何か取られたでしょうかと聞いた宗助は腕組をして ことに因よるとまだ何かやられたねと答えた 夫婦はともかくもと云うので文庫をそこへ置いたなり朝飯の膳ぜんに着いたしかし箸はしを動かす 間まも泥棒の話は忘れなかった御米は自分の耳と頭のたしかな事を夫に誇った宗助は耳と頭のたしか でない事を幸福とした そうおっしゃるけれどこれが坂井さんでなくって宅で御覧なさいあなたみたようにぐうぐう寝 ていらしったら困るじゃないのと御米が宗助をやり込めた なに宅なんぞへ這入はいる気遣きづかいはないから大丈夫だと宗助も口の減らない返事をした そこへ清が突然台所から顔を出して この間こしらえた旦那様の外套マントでも取られようものならそれこそ騒ぎでございましたね御 宅おうちでなくって坂井さんだったから本当に結構でございますと真面目まじめに悦よろこびの言葉 を述べたので宗助も御米も少し挨拶あいさつに窮きゅうした 食事を済ましても出勤の時刻にはまだだいぶ間があった坂井では定めて騒いでるだろうと云うので 文庫は宗助が自分で持って行ってやる事にした蒔絵まきえではあるがただ黒地に亀甲形きっこうが たを金きんで置いただけの事で別に大して金目の物とも思えなかった御米は唐桟とうざんの風呂敷ふ ろしきを出してそれを包くるんだ風呂敷が少し小さいので四隅よすみを対むこう同志繋つないで真 中にこま結びを二つこしらえた宗助がそれを提さげたところはまるで進物の菓子折のようであった 座敷で見ればすぐ崖の上だが表から廻ると通りを半町ばかり来て坂を上のぼってまた半町ほど 逆に戻らなければ坂井の門前へは出られなかった宗助は石の上へ芝を盛って扇骨木かなめを奇麗きれ いに植えつけた垣に沿うて門内に入った 家いえの内はむしろ静か過ぎるくらいしんとしていた摺硝子すりガラスの戸が閉たててある玄関へ来 てベルを二三度押して見たがベルが利きかないと見えて誰も出て来なかった宗助は仕方なしに勝手 口へ廻ったそこにも摺硝子のはまった腰障子こししょうじが二枚閉ててあった中では器物を取り扱 う音がした宗助は戸を開けて瓦斯七輪ガスしちりんを置いた板の間にしゃがんでいる下女に挨拶 あいさつをした これはこちらのでしょう今朝私わたしの家うちの裏に落ちていましたから持って来ましたと云いな がら文庫を出した 下女はそうでございましたかどうもと簡単に礼を述べて文庫を持ったまま板の間の仕切まで 行って仲働なかばたらきらしい女を呼び出したそこで小声に説明をして品物を渡すと仲働はそれ を受取ったなりちょっと宗助の方を見たがすぐ奥へ入った入いれ違ちがえに十二三になる丸顔の眼 の大きな女の子とその妹らしい揃そろいのリボンを懸かけた子がいっしょに馳かけて来て小さい首を 二つ並べて台所へ出したそうして宗助の顔を眺ながめながら泥棒よと耳語ささやきやった宗助は文 庫を渡してしまえばもう用が済んだのだから奥の挨拶はどうでもいいとしてすぐ帰ろうかと考えた 文庫は御宅のでしょうねいいんでしょうねと念を押して何なにも知らない下女を気の毒がらして いるところへ最前の仲働が出て来て どうぞ御通り下さいと丁寧ていねいに頭を下げたので今度は宗助の方が少し痛み入るようになった 下女はいよいよしとやかに同じ請求を繰り返した宗助は痛み入る境を通り越してついに迷惑を感じ 出したところへ主人が自分で出て来た 主人は予想通り血色の好い下膨しもぶくれの福相ふくそうを具そなえていたが御米の云ったように髭 ひげのない男ではなかった鼻の下に短かく刈り込んだのを生やしてただ頬ほおからあごを奇麗きれ いに蒼あおくしていた いやどうもとんだ御手数ごてかずでと主人は眼尻めじりにしわを寄せながら礼を述べた米沢よね ざわのかすりを着た膝ひざを板の間に突いて宗助からいろいろ様子を聞いている態度がいかにも緩 ゆっくりしていた宗助は昨夕ゆうべから今朝へかけての出来事を一通り掻かい撮つまんで話した上文
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