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配当金・株主優待スレッド 526 [無断転載禁止]©2ch.net (186レス)
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165
: 2016/05/18(水) 22:07:53.91
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165: [sage] 2016/05/18(水) 22:07:53.91 ID:4uTcWgUe 御米は断るのが面白くなって来た。四度目よたびめには知らない男を一人連れて来たが、その男とこそこ そ相談して、とうとう三十五円に価を付けた。その時夫婦も立ちながら相談した。そうしてついに思い切 って屏風を売り払った。 七 円明寺の杉が焦こげたように赭黒あかぐろくなった。天気の好い日には、風に洗われた空の端はずれに 、白い筋の嶮けわしく見える山が出た。年は宗助そうすけ夫婦を駆かって日ごとに寒い方へ吹き寄せた。 朝になると欠かさず通る納豆売なっとううりの声が、瓦かわらを鎖とざす霜しもの色を連想せしめた。宗 助は床の中でその声を聞きながら、また冬が来たと思い出した。御米およねは台所で、今年も去年のよう に水道の栓せんが氷ってくれなければ助かるがと、暮から春へ掛けての取越苦労をした。夜になると夫婦 とも炬燵こたつにばかり親しんだ。そうして広島や福岡の暖かい冬を羨うらやんだ。 「まるで前の本多さんみたようね」と御米が笑った。前の本多さんと云うのは、やはり同じ構内かまえう ちに住んで、同じ坂井の貸家を借りている隠居夫婦であった。小女こおんなを一人使って、朝から晩まで ことりと音もしないように静かな生計くらしを立てていた。御米が茶の間で、たった一人裁縫しごとをし ていると、時々御爺おじいさんと云う声がした。それはこの本多の御婆さんが夫を呼ぶ声であった。門口 かどぐちなどで行き逢うと、丁寧ていねいに時候の挨拶あいさつをして、ちと御話にいらっしゃいと云う が、ついぞ行った事もなければ、向うからも来た試ためしがない。したがって夫婦の本多さんに関する知 識は極きわめて乏しかった。ただ息子が一人あって、それが朝鮮の統監府とうかんふとかで、立派な役人 になっているから、月々その方の仕送しおくりで、気楽に暮らして行かれるのだと云う事だけを、出入で いりの商人のあるものから耳にした。 「御爺さんはやっぱり植木を弄いじっているかい」 「だんだん寒くなったから、もうやめたんでしょう。縁の下に植木鉢がたくさん並んでるわ」 話はそれから前の家うちを離れて、家主やぬしの方へ移った。これは、本多とはまるで反対で、夫婦か ら見ると、この上もない賑にぎやかそうな家庭に思われた。この頃は庭が荒れているので、大勢の小供が 崖がけの上へ出て騒ぐ事はなくなったが、ピヤノの音は毎晩のようにする。折々は下女か何ぞの、台所の 方で高笑をする声さえ、宗助の茶の間まで響いて来た。 「ありゃいったい何をする男なんだい」と宗助が聞いた。この問は今までも幾度か御米に向って繰り返さ れたものであった。 「何にもしないで遊あすんでるんでしょう。地面や家作を持って」と御米が答えた。この答も今までにも う何遍か宗助に向って繰り返されたものであった。 宗助はこれより以上立ち入って、坂井の事を聞いた事がなかった。学校をやめた当座は、順境にいて得 意な振舞をするものに逢うと、今に見ろと云う気も起った。それがしばらくすると、単なる憎悪ぞうおの 念に変化した。ところが一二年このかたは全く自他の差違に無頓着むとんじゃくになって、自分は自分の ように生れついたもの、先は先のような運を持って世の中へ出て来たもの、両方共始から別種類の人間だ から、ただ人間として生息する以外に、何の交渉も利害もないのだと考えるようになってきた。たまに世 間話のついでとして、ありゃいったい何をしている人だぐらいは聞きもするが、それより先は、教えて貰 う努力さえ出すのが面倒だった。御米にもこれと同じ傾きがあった。けれどもその夜よは珍らしく、坂井 の主人は四十恰好かっこうの髯ひげのない人であると云う事やら、ピヤノを弾くのは惣領そうりょうの娘 で十二三になると云う事やら、またほかの家うちの小供が遊びに来ても、ブランコへ乗せてやらないと云 う事やらを話した。 「なぜほかの家の子供はブランコへ乗せないんだい」 「つまり吝けちなんでしょう。早く悪くなるから」 宗助は笑い出した。彼はそのくらい吝嗇けちな家主が、屋根が漏もると云えば、すぐ瓦師かわらしを寄 こしてくれる、垣が腐ったと訴えればすぐ植木屋に手を入れさしてくれるのは矛盾だと思ったのである。 その晩宗助の夢には本多の植木鉢も坂井のブランコもなかった。彼は十時半頃床に入って、万象に疲れ た人のように鼾いびきをかいた。この間から頭の具合がよくないため、寝付ねつきの悪いのを苦にしてい た御米は、時々眼を開けて薄暗い部屋を眺ながめた。細い灯ひが床の間の上に乗せてあった。夫婦は夜中 よじゅう灯火あかりを点つけておく習慣がついているので、寝る時はいつでも心しんを細目にして洋灯ラ http://potato.5ch.net/test/read.cgi/stock/1456225981/165
御米は断るのが面白くなって来た四度目よたびめには知らない男を一人連れて来たがその男とこそこ そ相談してとうとう三十五円に価を付けたその時夫婦も立ちながら相談したそうしてついに思い切 って風を売り払った 七 円明寺の杉が焦こげたように黒あかぐろくなった天気の好い日には風に洗われた空の端はずれに 白い筋のけわしく見える山が出た年は宗助そうすけ夫婦を駆かって日ごとに寒い方へ吹き寄せた 朝になると欠かさず通る納豆売なっとううりの声が瓦かわらを鎖とざす霜しもの色を連想せしめた宗 助は床の中でその声を聞きながらまた冬が来たと思い出した御米およねは台所で今年も去年のよう に水道の栓せんが氷ってくれなければ助かるがと暮から春へ掛けての取越苦労をした夜になると夫婦 ともこたつにばかり親しんだそうして広島や福岡の暖かい冬を羨うらやんだ まるで前の本多さんみたようねと御米が笑った前の本多さんと云うのはやはり同じ構内かまえう ちに住んで同じ坂井の貸家を借りている隠居夫婦であった小女こおんなを一人使って朝から晩まで ことりと音もしないように静かな生計くらしを立てていた御米が茶の間でたった一人裁縫しごとをし ていると時御爺おじいさんと云う声がしたそれはこの本多の御婆さんが夫を呼ぶ声であった門口 かどぐちなどで行き逢うと丁寧ていねいに時候の挨拶あいさつをしてちと御話にいらっしゃいと云う がついぞ行った事もなければ向うからも来た試ためしがないしたがって夫婦の本多さんに関する知 識は極きわめて乏しかったただ息子が一人あってそれが朝鮮の統監府とうかんふとかで立派な役人 になっているから月その方の仕送しおくりで気楽に暮らして行かれるのだと云う事だけを出入で いりの商人のあるものから耳にした 御爺さんはやっぱり植木を弄いじっているかい だんだん寒くなったからもうやめたんでしょう縁の下に植木鉢がたくさん並んでるわ 話はそれから前の家うちを離れて家主やぬしの方へ移ったこれは本多とはまるで反対で夫婦か ら見るとこの上もない賑にぎやかそうな家庭に思われたこの頃は庭が荒れているので大勢の小供が 崖がけの上へ出て騒ぐ事はなくなったがピヤノの音は毎晩のようにする折は下女か何ぞの台所の 方で高笑をする声さえ宗助の茶の間まで響いて来た ありゃいったい何をする男なんだいと宗助が聞いたこの問は今までも幾度か御米に向って繰り返さ れたものであった 何にもしないで遊あすんでるんでしょう地面や家作を持ってと御米が答えたこの答も今までにも う何遍か宗助に向って繰り返されたものであった 宗助はこれより以上立ち入って坂井の事を聞いた事がなかった学校をやめた当座は順境にいて得 意な振舞をするものに逢うと今に見ろと云う気も起ったそれがしばらくすると単なる憎悪ぞうおの 念に変化したところが一二年このかたは全く自他の差違に無頓着むとんじゃくになって自分は自分の ように生れついたもの先は先のような運を持って世の中へ出て来たもの両方共始から別種類の人間だ からただ人間として生息する以外に何の交渉も利害もないのだと考えるようになってきたたまに世 間話のついでとしてありゃいったい何をしている人だぐらいは聞きもするがそれより先は教えて貰 う努力さえ出すのが面倒だった御米にもこれと同じ傾きがあったけれどもその夜よは珍らしく坂井 の主人は四十恰好かっこうのひげのない人であると云う事やらピヤノを弾くのは惣領そうりょうの娘 で十二三になると云う事やらまたほかの家うちの小供が遊びに来てもブランコへ乗せてやらないと云 う事やらを話した なぜほかの家の子供はブランコへ乗せないんだい つまりけちなんでしょう早く悪くなるから 宗助は笑い出した彼はそのくらいけちな家主が屋根が漏もると云えばすぐ瓦師かわらしを寄 こしてくれる垣が腐ったと訴えればすぐ植木屋に手を入れさしてくれるのは矛盾だと思ったのである その晩宗助の夢には本多の植木鉢も坂井のブランコもなかった彼は十時半頃床に入って万象に疲れ た人のようにいびきをかいたこの間から頭の具合がよくないため寝付ねつきの悪いのを苦にしてい た御米は時眼を開けて薄暗い部屋を眺ながめた細い灯ひが床の間の上に乗せてあった夫婦は夜中 よじゅう灯火あかりを点つけておく習慣がついているので寝る時はいつでも心しんを細目にして洋灯ラ
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