[過去ログ] 連続ドラマ小説「ニホンちゃん」25クール目 (697レス)
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25(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/01/29 17:39:07 ID:kgWStsVu(1/5)調 AAS
「またまたゆんゆん!サヨックおじさん」
今日は日曜日です。さわやかな朝のひととき、お母さんの声が聞こえます。
「みんな、ご飯よ。早く起きなさい」
「また食パンにスクランブルエッグか。どうにかならんものかな」
食卓に並んだ朝食を見て、お父さんが顔をしかめました。
「あなたが米は高いから買うなっておっしゃるからよ」
「ううむ、そう言ったことは言ったが……」
子供たちは気にせず食事に没頭しています。
「食後はお紅茶でいいわね」
ニホン茶をくれ――という気も失せてアサヒちゃんの書いた新聞を読みはじめ、
「読んでない」と発言したのを思い出してあわてて片付けるお父さんでした。
牛乳を取ろうと席を立ったニホンちゃんは、冷蔵庫の紙に目を留めました。
「ねえお父さん、この『町内大清掃会のお知らせ』ってなあに」
「ああ、実は来週、町内会でごみ拾いをすることになってな」
お父さんはニホンちゃんから紙を受け取り、ごみ拾いの日時と場所を
もう一度確認しました。そして思い出したように言いました。
「そうだ、まだ旗持ちを決めてなかったぞ」
「旗持ちって、ごみ拾いに旗が要るの」
「何しろ地球町は広いだろう。世帯ごとにルートを決めてごみを拾うにしても、
迷ってしまうかもしれないからね。旗持ちは重要な仕事なんだよ」
この町の変な習慣にはついていけないなあと嘆息するニホンちゃん。
お父さんはそんなことには気づかず話を続けます。
「旗持ちはさくらに任せようかな。力仕事が苦手なら武士に変わってもいい」
ニホンちゃんは、自分が持つとカンコくんに焼かれそうだと思いましたが、
ただごみを拾うよりもやりがいがありそうだなとも思いました。
26(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/01/29 17:41:36 ID:kgWStsVu(2/5)調 AAS
ニホンちゃんはまだ迷っています。ウヨくんはお姉さんに譲る気でいます。
「よし、ではさくらが旗持ちをやることでいいか」
「異議なし!」「異議なし!」「異議ありニダ!」
声の主に視線が集中しました。ザイニーちゃんです。
「重要な仕事はウリがやるニダ」
「何言ってるんだ。ザイニーちゃんはうちの旗が嫌いなんだろ」
ウヨくんが珍しくとげのあることを言います。
「嫌いでも好きでも関係ないニダ。ウリには人権があるニダ」
「でもうちよりカンコ家が好きなんだろう。うちの人間がやるべきだ」
二人はにらみ合い、今にも取っ組み合いになりそうです。
ニホンちゃんは半ばあきれながらも止めに入りました。
「喧嘩してもしかたないし、多数決で決めようよ。ね」
みんなニホンちゃんの笑顔にはかないません。
多数決の結果は……全員がニホンちゃんを支持しました。
27(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/01/29 17:42:38 ID:kgWStsVu(3/5)調 AAS
結果を見てザイニーちゃんは韓流の血が騒いだようです。
「こんな脳みそが幼稚な奴らに多数決なんて無理ニダ! 不当多数決ニダ!
ウリに対する差別ニダ! こんな情けない家に居候したのが間違いニダ!
町中の人間に日ノ本家に来ないように言ってやるニダ!」
口の端にジャムをつけたまま、猛然とまくし立てる姿は火病そのものです。
日ノ本家の人たちは、か弱い少女の口から機関銃のように吐き出される
暴言に、困り果てるばかりでした。
そこへ間の悪いことにサヨックおじさんがやってきました。
「ちょっと待って、それはおかしいんじゃないかな。
こういうとき他の家の人がやる家もあるそうじゃないか」
「カンコ家はどうなんですか」
すぐにウヨくんの突っ込みが入りましたが久しぶりに出力最大のおじさんは
もはや自分でも止まることができません。
「ザイニーちゃんはもう、ほとんど日ノ本家の人間と見てもいいだろう。
あんなに泣いて、かわいそうだ。やらせてあげたらどうなんだい」
「日ノ本家の人間だと思ってるなら養子縁組すればいいでしょう」
すると、今度はザイニーちゃんが言い返します。
「できるわけないニダ。差別しておいてこういうときだけ家族面するニカ」
「差別の問題じゃなく血縁の問題だろ。旗を持つ人は旗の安全を守る。
その責任を負うからには血縁関係を結ばないと」
28(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/01/29 17:43:30 ID:kgWStsVu(4/5)調 AAS
もう朝ご飯など誰も気にかけていません。
せっかくのさわやかな朝が台無しになってしまいました。
「グローバルの時代にアジア地区の人間と共同していくのは当然じゃないか」
「逆にだからこそ自分の家には自分で責任を持つべきじゃないんですか」
「どうでもいいニダ。とにかくウリはしゃべちゅされたニダ!」
「一律にだめだと決め付けるのは権利の観点からもどうかと思うよ」
とうとう我慢できなくなったお父さんが、激論する三人に割って入りました。
「ああもうわかったから三人ともやめるんだ。
ザイニーちゃん、口をふきなさい。物を食べながらしゃべらないように。
武士、もういいから自分のご飯を食べなさい。
サヨック、お前の好きな多数決で決まったことだから我慢しろ」
すっかり火病のザイニーちゃん、「脳みそが幼稚」とまで言われたウヨくん、
久しぶりに電波全開のサヨックおじさん、いずれも収まりそうにありません。
しかし今度もニホンちゃんが間に入って、ようやくみな落ち着きました。
物陰で一連の騒動を見ていたアサヒちゃんは、
早くも記事に取りかかっていました。
「書き出しは……っと。『ウヨくんの冷淡な意見を日ノ本家の人たちは支持した。
差別を追認する時代遅れの判断である』。うん、完璧ね」
アサヒちゃんは自信を持って書きましたが、読者の反応はどうでしょうね。
29(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/01/29 17:44:26 ID:kgWStsVu(5/5)調 AAS
新スレ乙であります。
>>20
ネタ重複には謝罪はしますが100%賠償する(tbs
131(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/05 21:41:04 ID:QNP1+aWY(1/4)調 AAS
「流行り病に気をつけろ」
ある日の放課後、地球小学校の一階にある保健室に、
チョゴリちゃんが泣きながら駆けこんできました。
「大変ニダ、ウリの兄さんがおかしくなったニダ」
「何があったのですか、チョゴリさん」
養護教諭のセキジュージ先生が、優しく冷静に尋ねました。
チョゴリちゃんの後ろには生気のない顔をしたカンコくんが
遠くを見るような目をして立っていました。
「ウリが間違っていたニダ。ニッテイの次にウリが悪いニダ。
キッチョム兄に謝罪するニダ。賠償するニダ。ウリは独裁者だったニダ」
まるでロボットか何かのように、同じ台詞を繰り返しています。
「確かに、いつものカンコ君とは様子が違いますね」
「そうニダ。いつもの兄さんならもっと自信過剰で軽挙妄動で
自画自賛で我田引水で牽強付会でウリナラチェゴのはずニダ」
兄思いのチョゴリちゃんは、涙で頬を濡らしています。
そのとき、セキジュージ先生の眼鏡がキラリと光りました。
「ジギャク弁という体の器官があるのは知っていますか」
チョゴリちゃんは首をぶんぶん振りました。
「ジギャク弛緩症候群、通称ジギャク病に罹患すると、ジギャク弁が
正常に機能しなくなります。その結果、普段はジギャク弁が留めている
謝罪汁や賠償汁などの体液が縦横無尽に体内を駆けめぐり、
最悪の場合は死に至ることもある、恐ろしい病気なのです」
チョゴリちゃんには、セキジュージ先生の眼鏡が
ぎらぎら光っているように見えました。
132(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/05 21:43:10 ID:QNP1+aWY(2/4)調 AAS
セキジュージ先生がカンコくんを「実に興味深いですね……」などと
つぶやきながら観察していると、今度はフランソワーズちゃんが
泣きながら駆けこんできました。
「先生、ベスの様子がおかしくなりましたの。診てくださらない」
「何があったのですか、フランソワーズさん」
フランソワーズちゃんが黙って横へ退くと、後ろからエリザベスちゃんが
出てきました。驚いたことにカンコくんとそっくり同じ目をしています。
「ああ、お父さまは、それにおばあさまはどうしてあんな恐ろしいことを
なさったのかしら。わたくしが謝罪して賠償しなければ……」
その顔にはやはり生気がありません。チョゴリちゃんと
フランソワーズちゃんは、セキジュージ先生を凝視しました。
「間違いありません。エリザベスさんも、ジギャク病に罹ったのです」
セキジュージ先生が二人をベッドに寝かせて体温を計っていると、
今度はアーリアちゃんが青ざめた顔で駆けこんできました。
「大変だ、兄上の様子がおかしい。どうしたらいいのだ」
「何があったので――」
「先生、いいかげん空気嫁ニダ」
ゲルマッハくんもやはりジギャク病に冒されていました。
「ここまで流行するとなると、校内に感染源があるのかもしれません」
セキジュージ先生はいつもの思慮深い表情に戻りました。
133(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/05 21:44:20 ID:QNP1+aWY(3/4)調 AAS
みんなが感染源についてあれやこれやと討議していると、
今度はアサヒちゃんとウヨくんがニホンちゃんを担ぎこんできました。
「先生、姉さんの様子がおかしいんです」
力なく横たわるニホンちゃんの顔をのぞきこむと、生気のない顔で
「大東亜戦争ハ解放ノ聖戦ナレバ英霊ニ哀悼ヲ捧ゲザルハ万死ニ値ス。
毛唐ト非国民ヲ追ヒ出シテ誇リアル豊カナ国ヲ築キマセウ」
などと意味不明なことを口走っています。
そのとき、セキジュージ先生の眼鏡がキラリと光りました。
「シュウセイ弁という体の器官があるのは知っていますか」
子供たちは口をそろえて知らないと答えました。
「シュウセイ弛緩症候群、通称シュウセイ病に罹患すると、シュウセイ弁が
正常に機能しなくなります。その結果、普段はシュウセイ弁が留めている
外人排撃汁や皇軍復活汁などの体液が縦横無尽に体内を駆けめぐり、
最悪の場合は死に至ることもある、恐ろしい病気なのです」
子供たちには、セキジュージ先生の眼鏡がやっぱり
ぎらぎら光っているように見えました。
134(2): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/05 21:46:48 ID:QNP1+aWY(4/4)調 AAS
セキジュージ先生は書棚から分厚い辞典のようなものを取り出しました。
「そうかそうか、なるほど。治療のためにはご両親の協力も必要ですね」
「ねえ、ニホンちゃんはシュウセイ病に罹ったのよね。もしかして、
ウヨくんからうつったんじゃないの。言ってることが似てるし」
アサヒちゃんが頬をほのかに赤く染めてそんなことを言いました。
「言ってることが似てる……そうか、そういうことだったんですね」
セキジュージ先生は突然、椅子から立ち上がりました。
「ジギャク病の感染源は、アサヒさんだったんですよ」
事情を知らないアサヒちゃんはひとりきょとんとしています。
「兄さんを変な病気にしたのは許せないニダ。覚悟するハセヨ」
「あたくしの最良のライバルを奪った罪は重いですわよ」
「兄上の仇はわたしが討たねばな」
異常な空気を察知したアサヒちゃんは脱兎のごとく逃げ出しました。
アイゴーという断末魔の声を聞いてカンコくんがつぶやきました。
「それはウリの台詞ニダ……」
※韓国の親北反日は言うまでもありませんが、
英国の歴史教科書も一時期かなり「自虐的」だったそうです。
「歴史修正主義」は本来なら不適当ですが、他に妥当な用語がないので
(「自由主義史観」は自称なので除外)やむをえず使用しました。
241: 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/18 08:36:08 ID:rOUZz3mM(1/5)調 AAS
「はだかの王さま」
むかしむかしある国に、ごはんをすこししか食べないのに、
たるのように太っている王さまがいました。
王さまはたいへんよくのふかい人で、
わがままを言っては大臣や人々をこまらせておりました。
でも、王さまをすきな人もたくさんいました。
この国はとなりの国とせんそうをしていましたが、
王さまがかつやくしたおかげでせんそうはおわりました。
だから、みんな王さまをそんけいしていたのです。
それに王さまにさからうとしけいにされてしまうので、
みんなこわがって王さまの言うとおりにしていました。
242: 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/18 08:37:43 ID:rOUZz3mM(2/5)調 AAS
あるとき、となりの国からペ天使がやってきました。
ペ天使とは、ペンをもつ天使のことです。
王さまはとなりの国がきらいだったのですが、
ペ天使はめがねのにあう、天使のようにかわいい女の子
だったので、あまりいじわるなことはしませんでした。
ある日、王さまがいつものようにわがままを言っていると、
ペ天使が王さまのおしろをたずねてきました。
「わたしの国は王さまの国とせんそうをしたこともあるのに、
こんなにやさしくしてもらえてかんげきしました。
お礼にわたしのしたてたようふくをさしあげましょう」
ペ天使はりょう手をさし出しました。
ところが、ようふくなんてどこにもありません。
「おい、ようふくなどどこにもないではないか」
王さまはじぶんがばかにされたとおもっておこりました。
「とんでもない。ここにきちんとございます。
じつは、このようふくはとくべつな布をつかっているので、
りこうな人には見えますが、ばかには見えないのです」
ペ天使は王さまのふくをぬがせると、じぶんの手に
もっているようふくをきせるようなかっこうをしました。
王さまは目をこらしましたが、どうしてもようふくは見えません。
でも、ばかだと言われるのがいやで、うそをつきました。
「おお、そうであったか。もちろん、わしには見えているぞ。
おい大臣、このふくはにあっておるかな」
王さまはようふくをきるふりをしながらたずねました。
大臣もほんとうは見えていませんでしたが、
ばかだと言われるのがいやだったのでうそをつきました。
「もちろんですとも王さま。たいへんよくおにあいですぞ」
243: 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/18 08:39:38 ID:rOUZz3mM(3/5)調 AAS
王さまのよろこぶようすを見て、ペ天使は
「人々にあたらしいようふくを見せてあげたらいかがでしょう」
と、町へ出ていくことをすすめました。
王さまもほんとうはようふくが見えていなかったので、
だれかに「王さまは、はだかだ」と言われたらどうしようと
こわくなりました。
でもすぐに、そんなことを言うやつはくびをきってしまおうと
かんがえなおして、ようふくを見せに町へいくことにしました。
244: 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/18 08:40:45 ID:rOUZz3mM(4/5)調 AAS
町に出ると、王さまの国の人たちは口をそろえて
「すばらしいようふくですね、王さま」
「いだいな王さまに、よくおにあいですよ」
と、王さまのきているはずのようふくをほめちぎりました。
となりの国からきていた王さまをそんけいする学者も、
「この世の物とはおもえないようなうつくしさです。
わたしはこのようすを本にしてわたしの国につたえます」
と、王さまのすがたにかんどうしたようでした。
ところがそのとき、二人についてきた小さな男の子が、
「王さまは、はだかだ」
と、大ごえでさけんだのです。王さまはかおをまっ赤にして
おこりましたが、となりの国の人をしけいにすることは
できないので、男の子をにらみつけました。
「こら、きみはなにを言うんだね。あのみごとなようふくが
見えないとは、さてはきみはばかだな」
学者はおおあわてで男の子をしかりつけましたが、
男の子のおねえさんもおなじことを言いました。
「わたしも王さまははだかだとおもうな」
さあ、今までがまんしていた王さまの国の人々が、
口々に王さまのわる口を言いだしました。
「やっぱり王さまは、はだかだったのね」
「ほら見てみろ、あのでべそを」
「王さまはぶたのように大きなおなかをしているけれど、
まい日なにを食べているのかな」
王さまとペ天使と学者ははずかしくなって、
いちもくさんににげだしましたとさ。
245(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/02/18 08:42:10 ID:rOUZz3mM(5/5)調 AAS
こんなにひどい目にあったのに、それからも王さまの
わがままはちっともなおりませんでした。
ペ天使と学者は、今でもうそを言いつづけているそうです。
めでたしめでたし。
518: 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/03/14 15:18:27 ID:+QMLxPsn(1/3)調 AAS
「枢軸探偵社依頼壱〜上〜」
来訪者を告げる呼び鈴の音が、狭苦しい事務所に響き渡った。
予定の時刻には五分早い。私は席を立ち、久しぶりの客を迎え入れた。
「枢軸探偵社の伊田利雄と申します。どうぞよろしく」
「どうも、初めまして。昨日お電話申し上げた朝日奈です」
茶褐色の背広に身を包んだ壮年の男が、遠慮がちに頭を下げた。
差し出した名刺には、「国立地球大学文学部教授 朝日奈佐吉」とあった。
朝日奈氏から電話をもらったのは、昨晩のことだった。
初恋の人を探してほしい――珍しくもない依頼だ。
仕事に飢えていたところだったので、二つ返事で請け合った。
この手の依頼なら、よほど難しくてもせいぜい半月で片付くだろう。
散らかり放題になっている自分の机を避け、朝日奈氏を応接室に通した。
「お名前は仁保褄子さん、お年は先生とご一緒ですね。
三十年前に引っ越すと手紙が来てから、連絡が取れなくなったと」
「はい。今や手がかりは、この写真と手紙だけなのです」
「なぜ、三十年も経ってから逢いたくなったのですか」
「私ももう年ですから、死ぬ前に一目見ておきたいと思いまして」
心なしか朝日奈氏は焦燥感に駆られているようだった。
口調が安定しないし、顔も少し青ざめているように見える。
だいいち写真を持つ手が小刻みに震えている。私は嫌な予感がした。
稀に単なる人探しを装って、厄介な事件を持ち込む客がいるのだ。
「先生、失礼ですが、被調査者の情報はなるべく隠さずに教えてください。
どうしても言いにくいことは仕方ないですが、解決が遅れることもあります。
それに、私どもにも守秘義務というものがありますから」
朝日奈氏は隠してなどいないと強調したが、私の疑念は消えなかった。
519: 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/03/14 15:20:38 ID:+QMLxPsn(2/3)調 AAS
所長室は、今日も寸分の隙もなく整頓されていた。
探偵事務所にありがちな散乱した資料も、あふれんばかりの吸殻もない。
ここまでくると清潔では事足りず、潔癖という語が脳裡をよぎる。
私は所長であり親友でもある獨島逸朗に、朝日奈氏の様子を話した。
「そうか。それで、依頼は受理したのか」
「とりあえず見積もり書は渡しておいたよ。
なんか焦ってるみたいだし、明日には契約してくれるんじゃないのかな」
私の言葉を聞いて、獨島の眉がコンマ数ミリ動いたように感じた。
あの刺すようなまなざしは眼鏡の反射光に隠れている。
「僕たちは悪徳業者ではないと、何度言えば理解するのだね。
犯罪や差別の危険がある依頼は、いくら積まれようと受けられぬ」
「わかってるさ。ボクなりに調べて、問題があれば途中でも断るよ」
私が帰り支度を始めてもまだ、獨島は朝日奈氏の名刺に見入っていた。
私は気持ちを切り替えることにした。今までも、危ない依頼はあった。
どうにかなるさ、などというのはおよそ探偵らしくない考えではあるが。
とりあえず帰りの日課を果たせば気分が紛れるだろう。
「ねえさくら君、表通りに知り合いがやってるいい店があるんだけど、
どうだい、一緒にピッツァとマカロニサラダでも」
「またですか……あの、やっぱりわたしはそういうのは……」
日ノ本さくら君は枢軸探偵社の紅一点だ。
事務所の前で行き倒れているところを拾われ、秘書として働いている。
過去を語ろうとしないあたり、どことなく獨島と似ている気がする。
私は生真面目で潔癖なさくら君に好意を寄せているのだが――。
「うちの社員ってさ、ボクとキミだけじゃない。
チームワークってすっごく大切なことだと思うんだよね」
「いいです、もう帰りますので、失礼します」
さくら君はきびすを返すと、さっさと事務所を出て行ってしまった。
「今日もキツいねえ」
静かになった事務所で私は肩をすくめてみせた。
520: 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/03/14 15:22:51 ID:+QMLxPsn(3/3)調 AAS
翌朝、事務所で待っていると、朝日奈氏が契約にやってきた。
「こちらが契約書です。疑問点は遠慮なくお尋ねください」
「見つけられなかったら、本当に成功報酬はいらないのですね」
「ええ。いただいた手付金で経費は十分まかなえますから」
そのとき、さくら君が趣味のメイド服姿でお茶を運んできてくれた。
少々面食らう朝日奈氏に、さくら君が質問をした。
「あの、朝日奈先生の地球大学って、超名門校ですわよね」
「こらさくら君。仕事中に関係ない話をするんじゃない」
「ごめんなさい。先生の『近代マル教文学史』を拝見しましたもので……」
「ほう。あれは私の著書の中でも入手困難な部類に入るが」
朝日奈氏は喜びつつも、まだ神経を尖らせているようだった。
さて、依頼人を疑ってばかりいるわけにもいくまい。
ひとまず朝日奈氏を信用して、「初恋の人」仁保褄子を探すとしよう。
私は精密地図で住所を確認し、電車を乗り継いで現地へ向かった。
絵に描いたような郊外の住宅地が、一面に広がっていた。
私は付近の住宅を訪ね回り、それとなく褄子の話をしてみたのだが、
誰一人知る者はなかった。三十年前のことだ、無理もない。
陽も傾いて今日は無駄足だったかと諦めかけたころ、
近所の煙草屋で店番をしていた老婆から重要な情報が得られた。
「この子はね、都会へ出て行くといって随分昔にうちに挨拶に来てね。
それっきりだよ。あたしは都会なんて怖くて行けないねえ」
「本当にあの家に住んでいたんですね」
「ええ、ええ。間違いないよ。日用品を買いによく来てくれたからね」
私は老婆に根掘り葉掘り聞いてみたが、どこへ引っ越したかまでは
わからないということだった。それにしても、事実褄子がここに
住んでいたのなら、住人たちが判で押したように知らないというのは
いったい全体どういうわけなのだろう。
私は狐につままれたような思いで帰途についた。(続く)
553(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/03/18 16:07:15 ID:hIw9mq62(1/4)調 AAS
「枢軸探偵社依頼壱〜中〜」
獨島はひとり、コンピューターのディスプレイとにらめっこをしていた。
以前の報告書を整理してでもいるのだろうか。
獨島は頭脳明晰な男だ。知能指数は百八十を超えている。
天才と言ってよいのだが、天才らしく自分で全てを管理しようとする
ために、仕事に無理が出ることも多かった。何より獨島の最大の欠点は、
女心がつかめないことだった。全く致命的な欠点である。
さくら君も四角四面なので、私がいなければどうなっていたことやら。
「おお、伊田君か。ちょうどいい、これを見たまえ」
獨島に促され、私は画面に映し出された図表を注視した。
「今のところ、仁保褄子と同名同年齢の人物はこれだけ挙がっている」
「苗字は変えている可能性が高いよね」
「その通りだ。同姓同名なら遥かに少ない候補で済んだだろう」
人付き合いの悪い獨島に代わって私が名簿屋などと交際していなければ、
このような調査も滞ったかもしれない。
もっとも現代社会における個人情報なんてものは、ほとんどの場合
役所関係を回れば合法的に上げられるのだが……。
「ところで、今日の戦果はどうだったのだ」
私の話を聞くと、獨島は窓の外を見下ろし小さくうなった。
「三十年も経てば忘れているのは当然ではないのか」
「まあそうだけどさ、住んでた家の大家まで知らないっていうんだよ」
「その大家は当時から大家だったのか」
獨島は口唇を左に数ミリ歪ませた。こういうときの癖だ。
「法務局で謄本を上げたから、間違いないはずなんだけど」
「不自然だな。話したくない不幸な過去でもあるのだろうか」
私と獨島は数分のあいだ憶測を並べ立てたが、
いずれも説得力を欠くように思われた。
「よし、明日からより慎重に調べよう。依頼人には話すなよ」
「わかっておりますとも、我が親愛なる所長どの」
私は親友に敬礼を捧げ、日課を果たすために事務所へ戻った。
554(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/03/18 16:08:19 ID:hIw9mq62(2/4)調 AAS
一週間の調査継続で、仁保褄子と思われる女性を五人まで
絞り込むことができた。あるいは資料をあさり、あるいはそれらしい家に
張り込み、あるいは日課を――
ともかく悲喜こもごも至る一週間であった。
私は早速五人の面取りにかかった。三十年の歳月を経ても、
人間の顔の特徴というのは必ず残っているものだ。
顔、さらには身長を検討した結果、ついに候補を一人に限定した。
私は獨島に経過報告をすることにした。
「――というわけで、この人が件の褄子だと思うんだ」
「そうか、よくやった。念のため職業や生活の様子も調べておけ」
襟取りは被調査者が特定されているときは最初に行うものだが、
今回は特定自体を依頼されたため最後に行うことになる。
褄子は北野という会社社長と結婚し、主婦をしているようだ。
となると、生活を調べ上げてさらなる情報を得るのがよい。
私は褄子のヤサを張り込むことにした。
北野家は駅前の一等地にある、なかなかの豪邸だった。
褄子が幸せに暮らしているなら、朝日奈氏も喜ぶことだろう。
丸一日褄子の行動を追ったが、一日中家にこもっているようで
目立った動きもなかったので、今日は切り上げることにした。
獨島は渋い表情で壁にもたれかかっていた。
そして私が所長室に入るなり、手にしていた書類を広げてみせた。
「見たまえ伊田君。これをどう思うね」
「なんだこりゃ。あの豪邸、四番抵当までつけられてたのか」
「ああ。それに北野の会社は、金融屋から億の借金がある」
大金持ちの玉の輿かと思っていたら、とんでもなかったわけだ。
「だがもっと重要な事実が明らかになってしまった」
「なんだい、深刻な顔して」
「北野の父親は、暴力団の組長らしいのだ」
555(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/03/18 16:08:45 ID:hIw9mq62(3/4)調 AAS
私は自分の頬をつねった。痛い。依頼人の不幸を思うと
いけないのだが、どうしても顔にしまりがなくなってしまう。
「どうしたんですか伊田さん、ぼうっとして」
「い、いや、何でもないよ。気にしないで食べて」
さくら君が私を誘ってくれるなんて、世の中まだまだ捨てたもんじゃ
ないんだな――うかつにも私はさくら君の給料日を忘れていた。
「あのう、伊田さん。例の人探しってどうなりましたか」
「さくら君は、いつも仕事のことばかり考えてるんだね」
そこがさくら君の魅力でもあるが、少々息苦しいと感じることもある。
「そうじゃなくて、朝日奈先生が何だか思いつめていらっしゃるみたいで、
わたしちょっと心配になっちゃったんです」
「そっか……実は先生に話していいものか迷ってるんだよ」
私は北野家について調べたことを話した。周りに聞こえないよう小声で。
「もしかして、そのお父さんって北野朝損じゃありませんか」
「よく知ってるね。その通り、朝損組の組長だよ」
「わたしが昔住んでたあたりに組事務所があったんです。
朝損は組員から『首領』と呼ばれてて、近所の人もそう呼んでましたよ」
さくら君が過去を語るなんて、こりゃあ明日の天気は大荒れだな。
さくら君とは思いのほか話が弾んだ。――もちろん、仕事の話だ。
「暴力団が借金なんて、意外ですよねえ」
「いやいや、暴対法が施行されてからは苦しいとこもあるらしいよ。
かといってオイコラ言ってた連中がいきなり堅気になれるはずもなし」
さくら君は軽く笑ったが、少しして神妙な面持ちになった。
「朝日奈先生、どうなさるんでしょうね」
そう、それが問題だ。朝日奈氏には教授としての立場というものがある。
「あの地球大学教授が暴力団関係者と密会なんてしたら、ね」
「やっぱり、マスコミの餌食ですよねえ」
我々探偵は依頼人の利益を第一に考える職業だ。――少なくとも、
まともな探偵社ならそうだ。朝日奈氏の利益は、どちらなのだろう。(続く)
556(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 05/03/18 16:19:48 ID:hIw9mq62(4/4)調 AAS
>>526
この手の話は初めてなので完成度が不安ですが、とりあえず次回〜下〜で完結です。
「マカロニーノに探偵はどうやっても似合わねえよ!」とか文句言いながら斬新さを求めて
主役を張らせてみました。依頼人についてはノーコメントで(次回明らかに?)。
606(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 2005/03/25(金) 18:09:04 ID:OZYT/WRd(1/3)調 AAS
「枢軸探偵社依頼壱〜下〜」
朝の穏やかな陽光に、獨島の眼鏡が落ち着いた光を放っている。
「いずれは知れることだ。我々が見つからなかったと報告すれば、
依頼人は他の探偵を使う。悪徳業者に食われるおそれもある」
「じゃあ、知らせるんだね」
「ああ。しかしその前に――」
獨島は私にあることを耳打ちした。私にしかできないことだった。
それにしても、獨島の想像通りだとしたら、これはとんでもないことだ。
「わかった。ボクの腕前を見せてやるよ」
「うむ。ところで君は昨日、日ノ本君と『マカロニウエスタン』で
夕食をとっただろう」
私は舌打ちをした。尾行に気づかないほど浮かれていたとは。
「ふ、探偵のいろはを忘れていたな。相手が僕でよかったと思いたまえ。
そもそも尾行の基礎は自然な服装を……」
獨島の得意な演説を聞かされる前に、私は所長室から退散した。
時間通りに任務を終えた私が事務所に戻ると、さくら君がひとりで
部屋中に散らばった書類を片付けているところだった。
「もうっ、伊田さん。毎日あれほど言ってるじゃないですか。
使ったらきちんと元の場所に戻してくださいよ」
「ごめんごめん。次から気をつけるよ。ところで、所長は」
「所長でしたら、今しがた急に出て行かれましたけど」
いつもこうだ。重要な最後の詰め――つまり一番面白い部分――は、
毎回必ず自分だけでやろうとする。私はいつも置いてけぼりだ。
もっとも、ついていったところで獨島にとっては足手まといだろう。
いつぞやさくら君も含め三人で行動したときなど、「次は伊田君を
外した方が良いのではないか」などと真顔で言われてしまったくらいだ。
「おっ、そうだ。さくら君、今晩の予定はどうなってるの」
「あ、あの、今晩は父の岳父のいとこのお通夜があって……」
どうやら、また一か月待つほかなさそうだ。
607(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 2005/03/25(金) 18:15:20 ID:OZYT/WRd(2/3)調 AAS
数日後の昼過ぎに、私たちは朝日奈氏を事務所へ呼び立てた。
褄子を見つけたので来てくださいと告げると、朝日奈氏は電話の向こうで
何度もお礼の言葉を繰り返した。二十分ほどして、朝日奈氏が息を
切らせながら事務所へ駆け込んできた。私はいつかしたのと同じように、
朝日奈氏を応接間へ通した。
「伊田君、こちらの方は」
「申し遅れました。私、当事務所の所長で獨島逸朗と申します」
一通り紹介が終わると、獨島は調査結果を包み隠さず報告した。
私も、調査の過程で知ったことは仔細漏らさず説明した。
報告書を全て読み上げた獨島は、最後に突然厳しい口調になった。
「結果は以上の通りですが、先生を仁保さんと会わせることはできません」
「何を言い出すんだね君は。私が誰に会おうがどうしようが、
そんなことは私の勝手だ。君らに頼んだのは人探しだけだろう」
朝日奈氏はひどく興奮し、今までとは別人のようにいきり立っている。
だが、どんなに怒鳴られても獨島は微動だにしない。
「ひとつには先生の社会的地位を慮ってのことです。
しかしながら、本当の理由は先生の過去にあります」
過去、という語を聞いて、朝日奈氏の顔色がはっきり変わった。
「先生は青年時代、革命闘争に身を投じて当局に目をつけられ、
北野朝損に匿われた。正業に就いてからも関係は続いた――」
「なぜだ」という、絞り出すようなささやきが聞こえた。
「すみません。私が先生の娘さんから聞き出したんですよ」
私の謝罪を聞いて、朝日奈氏は力なく座り込んだ。
「そうか……では君らは、私と褄子の関係も知ってしまったのだね」
「ええ。あなたが褄子を、半ば身売りのようにして水商売に斡旋したこと。
その後、朝損の三男が褄子を見初めて結婚したことも」
「そして北野が、今になって私を脅迫してきたのだ」
608(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 2005/03/25(金) 18:15:40 ID:OZYT/WRd(3/3)調 AAS
つまり、獨島が私を出し抜いて調べていたのはこのことだった。
「なるほど。それで我々に褄子を探させ、口を封じようと考えたんですね」
「いや、良心がうずいていたからだ。土下座してわびようと思ったのだ」
朝日奈氏は全てを語ってくれた。朝損は裏の顔を隠していたこと、
まともな仕事を斡旋してやると言ってきたこと、金銭だけでなく娘を朝損の
孫と婚約させるよう要求されていたこと。
「私が日ノ本興業と国の癒着を追求していたことは知っているだろう。
社長の日ノ本明治は『王国』と呼ばれるワンマン体制を築いていた。
だが、北野は日ノ本以上に政治家と裏のつながりがあった」
それどころか、北野は私を犯罪にまで巻き込んでいた――
そう言って朝日奈氏は顔を伏せた。すると獨島が追い討ちをかけた。
「要するに、そのような事実が明るみに出ることを恐れていたと。
やはり先生は、口封じを目的に依頼されたのですね」
朝日奈氏は何も答えなかった。代わりに、沈黙を守っていたさくら君が
おずおずと申し出たことには、さすがの私も驚いた。
「あの、でも、わたしは朝日奈先生を信じます」
「えっ。だけどさ、さくら君。先生は身売りをさせたような人だよ」
さくら君は私の疑問には答えず、朝日奈氏の目を静かに見つめた。
「先生のなさったことはもう時効です。でも、褄子さんのためを思うなら
自首してください。朝損は今でも悪事を繰り返しているのでしょう。
先生が全てを話せば、新たな犠牲者を出すこともありませんわ」
朝日奈氏は無言のまま、一度だけ大きくうなずいた。
あれから一週間が過ぎ、大学教授の黒い交際関係を報じる記事も
いくぶん少なめになってきた。警察の協力要請がうちにも来たため、
獨島は連日事情聴取を受けねばならず、その間は私とさくら君が
休日返上でフル稼働するはめになった。そんなある日の会話――
「ところで先生が批判していた日ノ本興業って、さくら君の親戚かい」
「あう、えっと、ち、違います。絶対に関係ないんです」(完)
609(1): 無銘仁 ◆uXEheIeILY 2005/03/25(金) 18:17:48 ID:lTrnuWZc(1)調 AAS
つまり、獨島が私を出し抜いて調べていたのはこのことだった。
「なるほど。それで我々に褄子を探させ、口を封じようと考えたんですね」
「いや、良心がうずいていたからだ。土下座してわびようと思ったのだ」
朝日奈氏は全てを語ってくれた。朝損は裏の顔を隠していたこと、
まともな仕事を斡旋してやると言ってきたこと、金銭だけでなく娘を朝損の
孫と婚約させるよう要求されていたこと。
「私が日ノ本興業と国の癒着を追求していたことは知っているだろう。
社長の日ノ本明治は『王国』と呼ばれるワンマン体制を築いていた。
だが、北野は日ノ本以上に政治家と裏のつながりがあった」
それどころか、北野は私を犯罪にまで巻き込んでいた――
そう言って朝日奈氏は顔を伏せた。すると獨島が追い討ちをかけた。
「要するに、そのような事実が明るみに出ることを恐れていたと。
やはり先生は、口封じを目的に依頼されたのですね」
朝日奈氏は何も答えなかった。代わりに、沈黙を守っていたさくら君が
おずおずと申し出たことには、さすがの私も驚いた。
「あの、でも、わたしは朝日奈先生を信じます」
「えっ。だけどさ、さくら君。先生は身売りをさせたような人だよ」
さくら君は私の疑問には答えず、朝日奈氏の目を静かに見つめた。
「先生のなさったことはもう時効です。でも、褄子さんのためを思うなら
自首してください。朝損は今でも悪事を繰り返しているのでしょう。
先生が全てを話せば、新たな犠牲者を出すこともありませんわ」
朝日奈氏は無言のまま、一度だけ大きくうなずいた。
あれから一週間が過ぎ、大学教授の黒い交際関係を報じる記事も
いくぶん少なめになってきた。警察の協力要請がうちにも来たため、
獨島は連日事情聴取を受けねばならず、その間は私とさくら君が
休日返上でフル稼働するはめになった。そんなある日の会話――
「ところで先生が批判していた日ノ本興業って、さくら君の親戚かい」
「あう、えっと、ち、違います。絶対に関係ないんです」(完)
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