[過去ログ] 【俺の妹】伏見つかさエロパロ20【十三番目のねこシス】 (807レス)
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520: 2011/07/14(木) 22:51:42.94 ID:90wkXXSJ(1/20)調 AAS
思いつき短編投下します。
・18レス
・ギャグ、ややエロ
・桐乃視点
・京介×黒猫(の姿をした桐乃)
・キャラ崩壊、ヤンデレ注意
521: マインドスワップ 1/18 2011/07/14(木) 22:54:04.30 ID:90wkXXSJ(2/20)調 AAS
ひなちゃんもたまちゃんも姉の急変に戸惑いを見せたけど、それははじめのうちだけで、二
三日も経つとなじんでしまった。あいつの両親も、そんなに訝りはしなかった。ひなちゃんが
手にした妹空とあいつの姿をしたあたしとを見比べて、「またなんだ……」とため息を吐いて
いた。この家では長女の乱心は珍しくないのだろう。夏休みのおかげで学校でへまをやらかす
心配もなかった。ときどき携帯のほうに、せなちーから「部活に来てください!」とメールや
電話が来たくらいで、それも体調不良を装って対処できた。
高坂桐乃――あたしの元の体には、やはりというべきか、あいつの心が入っていた。なぜそ
れを知ったかというと、体が入れ替わった当日、あいつに呼び出されたからだ。
ひとけのない公園の真ん中で、自分は黒猫だ、朝目ざめたら高坂桐乃になっていた、そう告
白する高坂桐乃に向かってあたしは、
「何を寝ぼけているのかしら? とうとうビッチ菌に脳をやられてしまったのではなくて?
まあたしかに、スイーツな脳髄には虫がたかりやすいものね」
そう言って、あいつ自身のものまねで誤魔化した。
あいつはあたしの顔で青ざめ、消え入るようにうなだれると、
「そう。すまなかったわね……ううん。ごめん、黒猫」とわざわざあたしの口調で言い直し、
「あたし、なんだか頭痛が痛いから、今日は帰るね」
「そう……お大事に」
公園の門に隠れて、あいつの背が見えなくなった。とたんに足が震えだした。がくがくと止
まらず、立っていられなくなった。
あたしは、こんなことができてしまう。できて、しまったのだ。
ベンチに腰掛けて震えの静まるのを待っていると携帯が鳴った。メールのタイトルは“桐乃
のことなんだが……”で、そして差出人は“高坂京介”――
“黒猫”の恋人で、“あたし”の兄貴――
――ううん、それは違う。兄貴はもう、あいつの恋人なんかじゃない。
“京介”は今、“あたしの恋人”なのだから……
そうして、あたしとあいつが入れ替わって、一週間が過ぎていた。
522: マインドスワップ 2/18 2011/07/14(木) 22:55:22.03 ID:90wkXXSJ(3/20)調 AAS
「好きっ! 好きなのっ! 好きなの京介っ!」
濡れそぼった京介の首筋に顔を埋めながら、あたしは切れ切れに叫ぶ。
「あなたのことがっ、誰よりも何よりもっ! 京介――!」
なんどもなんどもキスをする。首筋、顎、鎖骨、肩、唇と、キスの雨を降らす。――痕にな
るように、あたしの証をつけるように。
「好き。好きよ。あなたのことが、好き……あたし、あんたのことが好き」
なんどもなんどもかきむしる。背の皮が擦りむけ、爪が欠け、指先に鮮血を絡ませて、かき
抱き、突き立て、引っ掻く。――猫が毛玉をいたぶるように、あたしの想いを刻むように。
「もう誰にも渡さない――誰のものにもならないでよ! もういなくなっちゃやなの! ずっ
とそばにいてよ! 私だけのものでいてよ! あたしもあんただけのものになるから!」
もう汗なのか唾液なのかも、どちらが組み敷き組み敷かれているかさえもわからない。あた
しと京介は、からだじゅうどろどろにしてむさぼり合う。からだの芯はとっくのむかしに開い
てしまい、さんざんにかき回されかき出され、蕩けきっている。ばかになってる。なかで絶え
ずぐねぐねと形を変えるものが、あたしなのか京介なのか区別つかない。
肌の打ち付くたびにほのかな温もりが広がり、時折一瞬、背筋を駆け上がる途方もない寒気
に打ち消され、再びはじめからやり直される。胸の奥がひどく切なかった。灼けつくようだっ
た。
京介の肌は火照りでばら色に変わり、汗ばんだ額には乱れた前が張り付いていた。唾にまみ
れた唇は、汗の筋と一緒にてらてらと光っていた。
「好きって言って。ねえ京介好きって言ってよねえ! 私のことが好きだって、ん……キス、
するの……」
唇がきらきらと橋を渡しながらはなれると、あたしは兄貴の鎖骨に頬をすり寄せて、湿った
肌の香を肺いっぱいに吸い込んだ。思わず頭がくらりとする。ぱんつなんかとは比べものにな
らない、なまのにおいだ。
「好き……だ」
荒い息をしながら、京介が言った。
「俺も好きだ。好きなんだ。愛してる。黒ね――」
好きだと言ってもらえただけでよかった。あたしは京介の口に指を差し入れていた。
「ふろへほ?」
と、あっけにとられた京介をよそに、あたしは開いている方の手で京介の手をつかみ、自分
の口にもっていく。
523: マインドスワップ 3/18 2011/07/14(木) 22:57:25.11 ID:90wkXXSJ(4/20)調 AAS
そしていつも京介自身にしているように、京介の指先をちろりと舌先で撫でてから、口をす
ぼめ、丸めた舌で包み込むようにして吸い込んだ。
ちゅっぱちゅっぱという水音がしだいに、じゅぼじゅぼという下卑た音に変わる。唇の端か
ら唾液が伝い降りているのが自分でもわかる。あたしは今、ひどくみだらな真似をしている。
人間の分際で、猫よりも卑しかった。
京介はあたしの意図を察したのか、くすぐったそうにしつつも、いたずらっ子みたくにやり
と笑った。それからあたしの差し出したままの手首をがっちりつかんで口を離し、赤黒く染ま
った私の爪の隙間を、舌先でこじ開けようとするように舐めはじめた。京介は舌だけで血と皮
の塊をこそげ落とし、落ちない塊は地道に唾液で溶かしながら、私の指を一本一本、丹念に洗
っていく。
思ったよりくすぐったいけど、手首の震えを負けん気でこらえているうちに、だんだんとむ
ず痒いのが病み付いてくる。のみならず、京介の指のほうも私の口内を辱めているように感じ
られてくる。
これは、もうひとつの交合だった。あたしと京介は、下と上の両方で、交わっていた。
いつしかあたしたちはお互いの手首から手をはなし、させるがまま、なすがままになってい
った。あらかた舐めて口から離すと、もう一方の手を差し出し合い、また同じように指の交合
を再開させる。
あたしはきれいにしてもらった手を京介の背中に回し、京介もあたしの唾でふやけた手で、
私の腰を抱き寄せた。胸がこすれて、新たな刺激が加わった。京介の腰がかすかに震える。あ
たしがみだらなせいだった。
私のほうがハミガキするように口腔全体で指をしゃぶるのにたいして、京介はというとぴち
ゃぴちゃと音を立てて舐め回す。ちょっとおもしろい対照といえた。これでは、どっちが猫だ
というのだろう。
――いや、それは違う。
と、どこかで冷たい声が響き渡った。
――“あたし”は“私”じゃない。“あたし”は、“あたし”なのだ。
聞きたくはなかった。聞こえないふりをした。
「ひょうふへ」
恋人の名を呼びながら、私は顔を近寄せた。唇と唇で指を押し挟み、舌と指をぐちゃぐちゃ
に絡ませた。絡んだまま、互いのどこに舌を這わせているのかわからないまま、顔を寄せ合い、
ぴんと伸びた舌先を踊らせる。
524: マインドスワップ 4/18 2011/07/14(木) 22:58:57.16 ID:90wkXXSJ(5/20)調 AAS
私はそのうち、指を押し退けて京介の舌に吸い付いていた。それはもはやキスとも呼べない
しろもので、格好も気配りも忘れ去り、まるで渇きを癒やそうとするかのようにじゅるじゅる
と音を鳴らして唾をすすり、鼻を幾度もぶつけ合い、相手の舌を飲み込んでしまおうとしてい
る。濡れた指先がすうすうした。それ以外の感覚はなくなっていた。口づけし、ひとつになっ
ていることこそが自然な状態だった。感覚のないのがなくなるのがいやだった。
けれど京介は残酷だった。腰の律動を再開したのもつかの間、京介は血走った目で私から彼
自身を引き抜き、私の体をうつむけにした。そして、後ろから一息に貫いた。
「か、はっ……!」
鈍痛とともに襲い来る戦慄で、私はひどくだらしない顔になっていたと思う。無声の悲鳴で
口をぱくつかせたと思えば、顰めた眉は一瞬で弛みきり、犬のように舌を垂らして、からだじ
ゅうぐったりとなってしまった。
京介はそんな私の腰を押さえこんで容赦なく前後に動き出す。私は目を見開いて、ベッドに
手足を投げ出したまま、人形のようにがくがくと揺れる。
まばたきできずに涙があふれる。息もできない。意識がどんどん霞んでいく。
そしてぼんやりと――
「……猫……黒猫……黒猫っ!」
そんな声が聞こえた気がして、
「嫌ぁ!」
あたしは叫んでいた。
気がつけば、垂れた黒髪が視界を覆っている。京介が背後から手首を引っ張り、あたしは無
理に上半身を反らされていた。つつましやかな乳房が宙づりで揺れているのがわかった。深く
深くからだを串刺しにされる都度、意識が飛んでしまいそうになる。
意識は途切れ途切れでも、あたしのからだは叫ばずにはいられなかった。
「嫌! 嫌なの! 嫌、嫌ぁっ!」
「なにが嫌なんだっ! 黒猫っ! なにが嫌なのか言って見ろよ!」
「嫌っ……イヤイヤイヤ。違うの……違うのぉ!」
「どこが違うんだ! こんなにアヘっといてなにが違うってんだ黒猫っ!」
「そうじゃ……イヤぁあっ――!」
「黒猫っ黒猫っ黒猫っ黒猫っ……」
――あたしはあいつじゃない。
その言葉が、どうしても言えなかった。もう声すら出ない。意識が途絶える。
525: マインドスワップ 5/18 2011/07/14(木) 23:00:50.72 ID:90wkXXSJ(6/20)調 AAS
「ひっ……!」
あたしの腰を抱えたまま、兄貴が立ちあがっていた。私の体はさらなる重力を引き受けるこ
とになり、より強く、より深く貫かれる。
「好きだ黒猫! 最高だ黒猫! もうぜったいに離しゃしねぇ!」
――京介はもう離さないと言ってくれた。
前のめりで髪を揺らすあたしの耳元で、そうだれかがささやいた。
不意に髪がかき上げられる。
「このきれいな黒髪ロングもっ! ここのしまりもっ! おっぱいだってっ……最高だ!」
京介は膝をつき、最奥ばかりを執拗につつきながら、両手であたしの胸を揉みくちゃにした。
ささやきは続く。
――“私”は最高だと、京介は言ってくれる。
「あやせもっ! 麻奈実もっ! 沙織もいらないっ! おまえだけが……俺にはおまえだけい
てくれれば……! それでっ、いいっ!」
――そう。“私”だけいれば、京介は仕合わせなんだ。だから――
「黒猫……黒猫ぉおおおお!」
――“あたし”が“私”になればいい。
ぞくぞくと快感が走り抜ける。ひときわ大きな快楽の波がすべてを押し流す。迷いも、慎み
も、遺恨も、後ろめたさも、あたしの残滓も、その一切を洗い清めた。
そうして絶頂の間際、引き抜かれる感覚を手繰り寄せ、
「く、黒猫?」
私はすかさず回した足で彼の腰を挟んだ。“私”の体は柔らかいのだから、このくらいは容
易いものだ。
「出して」
「お、おい」
「そのまま出してちょうだい」
「で、でも俺たちまだ……」
「大丈夫よ。大丈夫だから。それに――」
私は振り向いて、彼のかたちを確かめるように、下腹を撫でた。
「あなたの子なら、産んでもいいわ」
「は、は……」
京介の表情が変わる。やけっぱちめいた半笑いを浮かべたのは一瞬で、瞬く間に彼自身が押
し入った。
「くろねこ、くろねこ、くろね……」
もはや声にならない。京介は理性の残り滓すらかなぐり捨てて、一心不乱に私を苛む。
「そう! そうよ! そのまま孕ませて! 子宮にザーメン味覚えさせてぇ!」
「はぁっははぁ! 孕め、孕めよこの! 孕め黒猫! 特濃チンポミルク種付けすっから!
もう学校行けなくしてやっからな! この、このこのこのこの! 黒猫っ、黒猫! 黒猫ぉお
っ……あつっ――」
「あ、は……!? 出てる……? 出てるの……? ああ、これが、膣内、射……精……」
526: マインドスワップ 6/18 2011/07/14(木) 23:03:07.82 ID:90wkXXSJ(7/20)調 AAS
幾重もの絶頂で薄れ行く意識のなか――
「きり、の……」
京介の声で幻聴が聞こえた。おそらくそれは、“私”による“あたし”への惜別の言葉だっ
たのだろう。
京介の寝言で目がさめた。
「うぅ……違う、違うんだ……桐乃……」
夢のなかでも妹に悩まされているらしい。私は少々忌々しくなって彼の頬をつねった。
「……ご、誤解だ。黒猫……おまえは俺の……」
起きてはくれなかったけど、夢の内容は変えられた。
ベッドから降りると、足の間から冷たいものが伝い降りた。まだなにか挟まっているような
心地で歩きにくい。私は用意してあった絆創膏で蓋をしてから、ティッシュで股を拭った。脱
ぎ散らかされた服のなかから下着と白のワンピースをとり、それからついでにトランクスにも
手を伸ばす。
「っふ……これであと十年は戦えるわね」
なんて独り言をつぶやきながら、きちんと畳んでジップロックにしまう。
ワンピースが汚れなくてよかった。これが着られなくなってしまったら、残るは黒いドレス
だけなのだから。白いドレスもあるにはあるのだけれど、あれはこの前、京介ががんばりすぎ
て翼が外れてしまい、未だに直せていないのだ。
髪をかき分けながら京介の耳に口元を寄せ、
「また明日ね、京介」
うなされる彼の頬に接吻してから部屋を出た。
壁の薄いことは、誰よりもよく知っている。京介の部屋のドアを閉めてすぐ、私はとなりの
ドアノブに手をかけた。
鍵はかかっていなかった。高坂桐乃の部屋には誰もいなかった。
階段のところで立ちくらみがした。私は桐乃と違って体力がないのだった。壁に寄りかかっ
て下腹に触れる。
あれからなんど出されたのだろう。三度目からあとは覚えていない。新たな生命が胎動して
いるようにさえ錯覚された。私が私の意志で育んだこれは、まぎれもなく私と京介のものなの
だ。
私はもう、一人じゃない。
だから私は、あいつと対面することだってできる。
案の定、高坂桐乃は一階のリビングに居た。カーテンを閉め切って部屋じゅう暗いなかで、
テレビのまえにちょこなんと正座し、大画面に映したメルルに見入っていた。いや、ただもう
見るともなく見ているだけだった。私が扉を開けた瞬間、びくっと肩が跳ねたのだから。
「帰ってきていたのね。けれど、なぜあなたはいつも顔を出さないのかしら。らしくないわ」
527: マインドスワップ 7/18 2011/07/14(木) 23:06:29.92 ID:90wkXXSJ(8/20)調 AAS
私がそう言い放ったとたん、桐乃がすさまじい形相で振り向いた。薄暗くなければ正視に耐
えないほどすごかった。化粧をしていなくとも十二分に美しい顔だちが、これほどまでに変貌
する。それだけの仕打ちを、五更瑠璃は高坂桐乃にしたのだった。していたのだった。
そう、だからこそ、私は言葉を継ぐことができる。
「いっしょに遊べばいいのに……私たち、友達でしょう?」
「とも……だち……?」
「ええ、そうよ。ぼっちの私には、あなたと沙織くらいしか、ちゃんとした友達がいないのよ」
桐乃は私の言葉に何か思うところがあったのか、表情をいくぶんか和らげて、そっぽを向い
た。
そして、本来の高坂桐乃の調子でぼやき始めた。
「と、友達が妙な男に引っかかってるんだから、さすがのあたしもどん引きするっつーの。ぶ
っちゃけるとさ、キモいからもう学校で話しかけんなって感じ?」
「京介は妙な男じゃないわ」
「はぁ? あいつってちょー変態じゃん。ちょっと聞いてよ。こないだなんかあのシスコン、
あ、あたしにね、『おっぱいもませろ』とか言ってきたんだよ? まじやばくない? 妹にセ
クハラするなんて、キモすぎ。あいつの変態顔なんか、もう二度と見たくないし」
「京介はそんなこと言わない」
「うっそだー。そんなこと言ってあんたもあいつにセクハラされてんでしょ? 会うたんびに
眼鏡かけろとか脅されてるんでしょ?」
「眼鏡なんて、絶対にかけないわ。彼は、ありのままの私でいいと言ってくれるもの」
「のろけ乙。あーキモキモ。まじキモ。てゆーかあいつの地味顔自体がもう変態ってか犯罪者
予備軍って感じだよねー。普通さ、あの顔であんなこと言われたらどん引きするっつーの」
「だから、あなたの言うあんなこともこんなことも、京介は言わないわ。あなたこそ、妹ゲー
のやり過ぎで脳が腐ってしまったのではないかしら。大丈夫? 二次元と三次元の区別はつく?」
「うわうっざ。あんた最近だんだん信者じみてない? 京介教に染まっちゃってない?」
「私は彼の恋人だもの。彼の良いところも悪いところも、彼の本質はあなたより何倍も何十倍
も深く、多く知っているわ。あなたこそ、外野の分際でうだうだとわめかないでくれるかしら」
「はいはい。触らぬヤンデレ祟りなしってわけね」
528: マインドスワップ 8/18 2011/07/14(木) 23:08:25.48 ID:90wkXXSJ(9/20)調 AAS
桐乃はあきれたように言いながら、手をひらひらと振ってテレビに向き直り、リモコンをい
じりだした。
「さよなら。桐乃」
私は別れを告げて家を出た。
帰る途中、あやせに出くわした。
「あ、あなたはっ……!」
歯ぎしりというものは、実際に聞こえてくるものらしい。ぎぎぎ……と、弓を引き絞るよう
ですごかった。今日見た桐乃もすさまじいが、あやせの顔はよりいっそうものすごい。超怖い
ってものじゃない。視線で射殺すというレベルすら超越している。思わず彼女の手に目が行っ
た。運のいいことに、ナイフは手にしていないようだ。
「あなたのせいで……! 桐乃と、お兄さんは……!」
私とはちゃんとした面識がないはずなのに、あやせはありったけの憎悪を私にあびせてくる。
どこで私の顔を見知ったのかは、まああのあやせならいくらでもやりようがあるだろう。けれ
ど、そもそもその敵意自体がどうも理不尽なように思われた。
あやせの望みは桐乃から京介を引き離すことなのだから、京介の恋人である私に殺意を向け
るのは筋違いだ。むしろ応援してもらいたい。よって、私が真正面から相手をしてやる必要も
ない。
「あなた……誰?」
「くぅっ」
さすがのあやせにも辻斬りめいた行為をためらうだけの分別はあるらしい。悔しげに「ぐぬ
ぬ……」と歯噛みし、
「お、覚えておきなさい! いつかきっと桐乃を元に戻して、お兄さんを取り返しますからね!」
捨て台詞を吐いて駆け去った。わけがわからない。第三者が見れば、ほとんど変質者みたい
なものだろう。あやせは夏の暑さにやられてしまったのかもしれない。私もただでさえ肌が白
いのだから、日光には気をつけようと思う。
花火大会の日がやってきた。
私の浴衣姿を、京介は「かぐや姫みたいだ」と言ってほめてくれた。照れくさかったけど、
すこし縁起が悪いような気もした。私はかぐや姫みたいにいなくなったりしない。夏休みが終
わっても、このままずっと、ずっと京介といっしょなのだから。
529: マインドスワップ 9/18 2011/07/14(木) 23:12:15.43 ID:90wkXXSJ(10/20)調 AAS
花火大会の行なわれる港は、いつになく賑わっていた。地方の大きな花火大会にもなるとコ
ミケクラスの民族大移動になるそうだけど、私たちの行った花火大会ではある程度の風流が残
されてあった。展望台のほうは無理そうでも、海辺に面した芝生なら、場所取りをする必要は
ない。私はついついひとけのなさそうなところを目で探ってしまった。あさましいにちがいな
いけれど、そうしたのは京介なのだから、花火大会が終わったら、ぜひ責任をとってほしいと
思う。
私と京介は花火が始まるまでの間、出店のあたりをぶらつくことにした。いつものデートの
ときと同じように、京介がおごってくれた。
最初に訪れた出店では、メルルのわたあめをふたつ買った。ひとつはたまちゃんへのおみや
げで、もうひとつは、ふたりで食べるためだ。注文のとき的屋のおじさんが、
「よし来た。嬢ちゃんにはおまけ、兄ちゃんには爆発する権利をやろう」
と、私たちを茶化して見せた。京介は「ひでーなおっちゃん!」と突っ込んでいたけど、私
はうれしくてしかたない。今の私と京介は、誰が見ても、ちゃんと恋人同士に見えるのだ。
わたあめを買ったついでに、となりの出店でマスケラとメルルのお面を買った。これで私た
ちはヒーローとヒロインに……まあ、夢の共演ということで、そう見えなくもないだろう。
ぱんぱんのわたあめはおみやげにして、私たちは通常サイズのわたあめを食べさせ合った。
京介の食べた箇所に私が口をつけると、彼はおもしろいくらいに狼狽した。いつもいつもあん
なことをしてるくせに、妙なところで照れ屋なのだ。
ヨーヨー釣りもした。私は五千円札入りの風船を狙って駄目だった。でも、京介は私のぶん
のヨーヨーも釣り上げてくれた。京介ってあんがい小器用なところがあるのかもしれない。
射的屋に寄った。メルルのキーホルダーには掠っただけだった。京介から弾を分けてもらっ
ても、撃ち落とせなかった。ひどい店だ。照準器が狂っているんじゃ、絶対に落とせるはずが
ない。
射的屋を離れて歩き出すと京介が言った。
「なんつーか、意外だな」
「なにが?」
「いや、おまえはこういうの得意そうだなーなんてさ。まあ俺が勝手に思いこんでいただけな
んだけどさ」
京介はなんの気無しに言葉を続ける。
「ヨーヨーんときもそうだけど、なんていえばいいのかな。桐乃みたいっつーか」
私は立ち止まった。
530: マインドスワップ 10/18 2011/07/14(木) 23:15:36.51 ID:90wkXXSJ(11/20)調 AAS
「おまえと桐乃は親友だからな、やっぱ似たもの……って、どうした?」
「……京介。キスを、しましょう」
「は、はぁ!? なに言ってんだおま、こんなとこ――」
私は彼の唇を塞いだ。両手で顔をがっちりと押さえて、口内に舌を滑り込ませた。舌の先で
歯の裏側をなぞり、音を立ててすすり上げる。
それも数秒のことだった。
京介は我に返るや否や、私の肩を掴んで力尽くで引きはがした。
「ばっ、止めろって! 人に見られたらどうすんだよ!」
口元を拭いながら、京介があたりを見渡す。どうせだれも見ていない。ほんの数秒のことだ
し、花火の時間も近づいているから、バカップルにかまう人などいやしない。それに、あんま
り私以外の人に目を向けてほしくなかった。
京介は私の背後に目をこらそうと乗り出したけど、私はすぐに真正面に立って、彼の視線を
遮った。
「桐乃は、こんなことしてくれないでしょう?」
流し目に彼を見つめながら、唇の端を指で拭うと、その濡れた指をゆっくりとくわえ込む。
私と京介が混ざり合ったそれは、わたあめの名残で蕩けるように甘かった。
「だ、だからなぁっ……!」
先日の行為が思い出されたのか、京介は耳を赤くして口ごもる。
「そろそろ行きましょう。花火が始まってしまうわ」
そう言って、京介の腕をぎゅっと抱きしめる。浴衣なので下着は着けていなかった。生地越
しにこわばった突起を押しつけながら、私は耳打つ。
「いいのよ。私を、あなたの妹の代わりにしても……」
「黒……猫……?」
京介が目を見開いて硬直した。
「おまえ……」
彼の様子を見て、私はあのときのようにリビドーを刺激してしまったのかもしれないと思っ
た。発散はあとでたっぷりしてもらうとして、今は花火の花火のほうが先決だ。私は彼の腕を
引き、
「行きましょうか、兄さん」
歩きだそうとした――そのときだった。
「っ……!」
京介が息を飲んだ。
「兄さん?」
見ると、彼の上着が不自然な形に突っ張っている。背後からパーカーを引っ張られて、足を
踏み出そうとした格好で、固まっていた。
私と京介は、ほとんど同時に振り返った。
夜空が明るんだ。一拍おいて、ドン、と、花火の弾ける音がした。胎内まで響き渡るような、
大きく、重い音だった。
531: マインドスワップ 11/18 2011/07/14(木) 23:19:23.80 ID:90wkXXSJ(12/20)調 AAS
砂の流れるのに似た音が後に続き、そして――空に照らされ、栗色の髪が色とりどりに輝い
た。
――“あたし”がそこに立っていた。
「きり、の……」
いつか聞いた幻聴が、彼自身の口で繰り返された。
「いかないで」
ただ、それだけだった。
桐乃が口にしたのは――たった一言、それだけだった。
でも、それだけで、“私”はもう、なにも言えなくなってしまった。
桐乃は中学のジャージを着ていた。髪留めはなく、垂れた前髪が表情を隠していた。項垂れ
て、力なく伸ばした手で、京介のパーカーの裾を握っていた。その手が心細げに小さく震えた。
再び花火が打ち上がった。前髪越しに、きらりと光るものが覗いた。はっきりと、見えてし
まった。
あたり一面が明滅し、ドン、ドンドンドンドン、と、重い大気が激しく鼓膜を打ち叩く。連
発花火の容赦ない喧噪のなかで、桐乃の唇だけが、かすかに動いていた。
まもなくしんとなって、夕闇がたちこめる。京介の腕がするりと抜けていった。あっけなか
った。“私”の手は、もう言うことを聞いてくれなかった。
シャツをつかむ桐乃の手に、京介の手が重なった。桐乃の肩がびくんと跳ねた。京介は桐乃
の強ばった指を、壊れ物を扱うように繊細な手つきで一本一本裾から外してゆき、それから、
あらためて桐乃に向き直った。
「桐乃」
と、京介は言った。そして、肩をすぼめた桐乃の頭に、ぽんと軽く手を乗せる。
「ばかだな、おまえ。こんなカッコして、こんなとこにくるなんて……ほんと、ばかだよ」
京介が桐乃を撫でている。桐乃は涙ぐんだ目を猫のように細めている。
――やめて。そいつはあんたの妹なんかじゃない。
あたしの叫びは声にはならず、私は呼吸を荒げるだけだった。
「でもな……俺は、もっとばかだ。大ばかだ」
そのさきは、聞きたくない。けれど私の全身は微動だにしない。京介の選択を最後まで見と
どけるよう、あたしに強いる。
「あのときの俺を、ぶん殴ってやりたい……」
いいかげんに吹かれた笛のような音が、天空高く伸びていく。京介が振り向いた。
「……ごめん。黒猫」
ドン、と、心臓を横殴りに響きわたった。
「……俺、わかっちまったんだ」
光の雨に打たれる兄貴の顔は格好良かった。
532: マインドスワップ 12/18 2011/07/14(木) 23:23:54.30 ID:90wkXXSJ(13/20)調 AAS
「おまえと過ごした今年の夏は、楽しかった。きっと一生忘れないと思う。……だけどさ」
例のふやけた音が、幾筋も幾筋も金魚のふんみたいに纏わり付いて立ちのぼる。うらぶれた
火球のぱらぱらという嘆息に、厚かましく被さった。
「…………じゃ、駄目だと思っ…………こいつに自分勝手な気持を……いて、自分はちゃっか
り…………後ろめたくて、ずっと躊躇してい……」
ドンドンドンドン……ああもう、やかましい。京介の声が聞けないじゃないの。近所迷惑く
らい考えろっての。だいたいこんなんのどこがいいワケ? くっさい火の玉で空をギランギラ
ンに飾り立ててせっかくの星空が台なしなんですケド。ぐっちゃぐっちゃの光り物見てわーき
れーっておめーらカラスかっつーの。
「……本当の気……を、ようやく……」
美しく咲き乱れるだとか儚くて感動するだとかなんとかじゃあ夜空に残った染みみたいな煙
の塊はなに? そいつのうんち? あーもーほんっとウザっ下痢ピー打ち上げてどや顔でスタ
ーマインでございっとかニコ動の〜してみたと同じくらいウザいしベスビオス級とか厨二セン
ス極まりない。
「……俺はこいつの兄貴なんだ。どうしようもないシスコンなんだ」
やっとウザいのが止んだ。せいせいした。これでようやく京介の声を――
「――だから、別れよう」
聞いてあたしは発狂した。
わたあめの袋は投げ出され、メルルの顔が土にまみれている。ヨーヨーは下駄の歯で破裂し、
地面がぬらぬらと光沢を帯びている。浴衣の帯が緩んで肩はむき出しになっている。三尺玉の
空いっぱいに咲き散る金光を背にし、胸のはだけるのもかまわず、あたしは京介にむしゃぶり
ついていた。
「――どうしてねえどうしてウソよウソだって言ってよ京介お願い別れるなんてウソだよねあ
たしたちずっといっしょにいようっていったじゃない約束したじゃない愛しあったじゃない桐
乃は妹なんだよ結ばれちゃだめなんだよ親不孝なんだよ私じゃないと結婚できないんだよどう
してそんなことを言うの私たち愛しあってるのにどうして別れなきゃいけないの妹なんて大嫌
いなんでしょあなたそう言ってたでしょう嫌いだ嫌いだってあんた言ってたでしょあのときあ
んな顔してたでしょうだから私は、あたしはっ……!」
「くろ……ねこ? おまえ、いったい……」
京介はどうしてこんな顔をするんだろう。けど、その理由はすぐにわかった。
533: マインドスワップ 13/18 2011/07/14(木) 23:26:24.53 ID:90wkXXSJ(14/20)調 AAS
「ああ、そっか。そうかそうかそうかそうかぁ――あたしの愛し方が足りなかったんだ」
すぐさま足払いをかけて押し倒す。京介は尻餅をついて苦しそうに呻いたけど、そんなのも
う関係ない。あたしがどれほどあんたを愛しているのか、思い知らせてあげないといけないの
だ。
「お、おい! ちょ、待てよ!」
ベルトのバックルに片手を伸ばしつつ、もう片手でその下をさする。
「や、やめろ黒猫……俺にはもう……それに、こんなところで……」
一昨日なんか「エターナルフォースブリザーメン! 相手は孕むッ!」ってシテたくせに、
今さらなぜ抵抗するのだろう。理解に苦しむ。
「私は――黒猫は、京介のためならなんだってする。してみせるわ。京介がもはや私と付き合
えないというのなら、超すごい私の愛を見せつけてやるだけのことよ」
そうまくし立てながらファスナーの引き手を摘んだとき、
「――黒猫はそんなこと言わない」
横合いから、そんな声が割り込んだ。
「黒猫はそんなこと言わない。大事なことだから、二度言ったわ」
見上げると、桐乃の目とかち合った。人形めいた瞳が私を見下ろしていた。あたしを射貫く
ように、そして哀れむように、たった一言、吐き捨てた。
「無様ね」
あたしは京介を見た。怯えていた。それであたしは、自分が振舞いが常軌を逸していたのに、
やっと気がついた。あたしは発作的に飛び退いた。
「やめてよ……そんな目で見ないで。哀れまないでよ!」
髪を振り乱して絶叫する。
「好きになって欲しかったの! 女として愛して欲しかった! あたしを、あたしだけを見て
欲しかった! なのにどうしてみんな邪魔をするの! 地味子も沙織もあやせもあんたも、京
介も! どうしていつもいつも……」
「そうやって、いつも誰かのせいにして誤魔化すのね」
その言葉にあたしは戦慄し、心臓をわしづかみされたように、固まってしまった。息ができ
ず、目をそらすことすらできない。桐乃の瞳のなかに、黒猫の無様な泣き顔が映っていた。
「まあ、別にそのままでもかまわないわ。決着は、もうついたのだから」
“桐乃”が薄笑いを浮かべ、あたしに顔を近寄せて言った。
「“あたし”は京介に彼女ができるなんて絶対イヤ。だから京介も、彼女をつくらない」
534: マインドスワップ 14/18 2011/07/14(木) 23:29:25.07 ID:90wkXXSJ(15/20)調 AAS
桐乃は怪訝顔の京介をちらりと見やって向き直ると、私だけに聞こえるような声量で続けた。
「あんたは京介にふられちゃったけど、もう恋人でもなんでもないけど……安心しなよ。これ
からもさ、アキバ行ったり同人誌つくったりして、いっしょに遊ぼう? ……だってあたした
ち、友達でしょ? 遠慮しなくていいよ。こんなことになっちゃったけど、“あたしたち兄妹”
は、“あんた”の友達やめたりしないから」
――そうだ。私はもう京介の恋人じゃない。妹でもない。ただの、友達に過ぎない。
あたしたちは、桐乃と黒猫はある日突然――本当に突然、体が入れ替わった。まさしく出来
の悪い小説みたいにいいかげんな展開だった。そしてその原因は今なおまったく見当がつかな
い。原因がわからない以上、元に戻る術も、保証もない。京介の恋人になれたことで舞い上が
っていたあたしは、そんな単純な事実を失念していた。
「これからも、あたしたちずっと友達でいようね」
瞳のなかの黒猫がにやりと笑った気がした。あたしは気絶した。
見慣れた天井だった。エアコンの効いた部屋で目ざめると、からだじゅう冷え切っているよ
うに感じられた。
「ジャスト二週間ね。いい夢は見れたかしら?」
と、“黒猫”の声が聞こえた。ベッドの脇を見れば、ジャージ姿の黒猫があたしの椅子にち
ょこなんと腰掛けて、漫画に目を落としている。
「これが……いい夢でたまるか、よ」
「沙織のような返しをするのね」
それにしても、長い夢をみていたような気がする。いやーほんと、それはそれは長い夢だっ
たなぁ。きりりん思わず寝ぼけちゃったよ。夢の内容? あははは、覚えているわけがない!
「起き抜け早々現実逃避とは……いいご身分だこと」
「ぐぬっ……」
「それよりもまず、あなたは、私に言うべきことがあるのではないかしら」
うん。わかってる。
あたしは黒猫に、ひどいことをした。黒猫の体で、すごいこともした。
「黒猫、あたし――」
「なんて、ね」
素直に謝ろうとしたとたんにさえぎられた。
「今さらだもの。謝罪も賠償も無粋だわ。それに、私だってなにもしていないといえば嘘にな
るから」
聞き捨てならないことを言いおる。
「ま、まさかあんた、あのときの嫌み、本気だったんじゃ……」
人を見下すのが超好きなクソ猫のことだ。あたしに成り代わって第二のリア充人生を送ろう
と企みかねない。
535: マインドスワップ 15/18 2011/07/14(木) 23:32:01.68 ID:90wkXXSJ(16/20)調 AAS
「さて、どうかしらね。けれど、大変だったのよ、あの後。あなたが突然倒れたものだから―
―あの場にたまたま医者が居合わせたから大騒ぎにはならなかったものの、タクシーを呼んだ
りして、気を失ったあなたを京介と二人でここまで運ぶのに、ずいぶん手こずったわ」
「ふーん……あれ? なにかおかしくない? 気絶したのは“あたし”でしょ?」
“あたし”と言ったところで黒猫を指さした。
「直前で戻ったのよ。ファビョったあなたに、“私”が勝利宣言をした、あのときだわ――本
当に突然だったの。負け犬がどんなリアクションをするか観察していたら、いきなり目のまえ
が真っ暗になったわ。それもほんの一瞬のあいだよ? 気づくと私は大股おっぴろげたはした
ない格好で地面に尻餅をついていて、目のまえには白目を向いたあなたがいる。立ったままび
っくんびっくんと痙攣し、蟹のように泡を吹いている……まるでゾンビ映画みたいだった。あ
まりのキモさに私は慟哭してしまったわ」
あたしは、もうお嫁に行けないかもしれない。それなのにこの黒いのは、やけに嬉嬉ととし
てあのときのことを物語る。
「京介もどん引きよ」
ほんといらんことを言う。
「けれどまあ、これにて一件落着ということね。過程はどうあれ、私たちはもとの体に戻れた」
「一件、落着……」
たしかにそうだけど、やっぱりどうも納得できない。結局、なにもかもうやむやのままなん
だから。
「不服そうな顔ね? でも、現実なんて、結局そんなものよ。劇的な解決もカタルシスもあり
はしない。なるべくしてなるというのはむしろまれなことで、物事の解決というのはたいてい、
時か、事件によってなされるもの。あなたの好きなエロゲーなんかと違ってね。お兄ちゃんが
性的な意味で大好きな妹は、思春期を過ぎれば他の誰かになびくものだし、夢破れた芸術家も、
リストラされたとなれば日々の糧を得るのに精一杯で、傷心も夢の名残も、慌ただしい日常の
なかで埋没して行く。そう。これっぽっちも美しくはないわ。だから現実はクソなのよ」
黒猫は中二病患者らしく、一人で盛り上がっている。永遠の十四歳、といってあげればある
意味聞こえはいいかもしれないけど、こんなんだからこいつってぼっちなのよね。
537: マインドスワップ 16/18 2011/07/14(木) 23:34:35.13 ID:90wkXXSJ(17/20)調 AAS
「今回の件は、唐突に始まって、唐突に終わった――ただ、それだけのことだわ」
こいつは一人で勝手に締めくくろうとしてるみたいだ。でも、そうはさせない。あたしには
まだまだ聞いておかなくちゃいけないことが山ほどあるのだ。
「で、黒猫。――京介は?」
本題を持ち出すと、黒猫は一瞬だけ露骨に嫌な顔をしてから、「っふ……」といつものよう
な邪気眼電波顔を浮かべた。
「彼は今、一階でご両親に絞られているわ。“かわいいかわいい兄さんの妹”をほったらかし
にしたのみならず、結果的に、こんな目にあわせてしまったのだから、当然の成り行きね」
その妹とやらがいったい誰を指しているのか考えると無性にこいつの首を絞めたくなるが、
しかしきりりんさんの自制心には定評がある。高坂桐乃はあやせより加奈子より我慢強い女の
子なのだ。あたしは話の続きを待った。
「……ともあれ、安心なさい。兄さんは、あなたが私であったことを知らないわ」
「そっか……」
なんともいえない心地だった。醜態をさらしたのがあたしだと思われていないことにほっと
する反面、結局あいつには、あたしの気持ちは伝わっていないのだ。
「ク……ふふふふ……! ……私は淫乱ヤンデレキャラとして定着してしまったのだけれどね」
「それはほんとごめん」
本当にすまないと思っている。
「……ま、まあかまわないわ。これから私は、宿望を果たすことができるもの」
「しゅくぼう?」
なにをするつもりだろう。黒猫が立ちあがり、あたしは思わず身構えた。
ベッドのあたしを見下ろして、黒猫はあのときのようににやりと笑った。
「ねぇ、いまどんな気持ち?」
「はぁ?」
「ねぇねぇ、大好きなお兄さんを二度も寝取られて、いまどんな気持ち?」
「へ?」
ほんの数秒、意味が飲み込めなかった。
「京介は私と付き合うと言ってくれたわ。そして、“私”のために黒猫と別れると、そうも言
ってくれたわ」
ああ、こいつは――
――言ってはいけないことを、言ってしまったのか。
「……ぎぐががががががが……」
「今、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち? 参考までに聞かせてもらえないかしら? 二
度も振られて、二度も寝取られてしまった淫乱ビッチさん」
「……っ殺す! このクソ猫絶対殺すっ……!」
殺意が頂点に達したところで、やにわにこんな言葉が頭に浮かんだ。
538: マインドスワップ 17/18 2011/07/14(木) 23:39:15.05 ID:90wkXXSJ(18/20)調 AAS
――だがちょっと待って欲しい。結果だけみれば、きりりん大勝利ということではないだろ
うか?
手頃な得物を求めて枕元をさまよっていた手が止まる。
「そういえばさ、今のあたしは桐乃で、今のあんたは黒猫なんだよね?」
「……それがどうかしたのかしら」
「あんた振られっぱなしじゃない? 結局あたしの優位かわってなくない?」
黒猫の表情が消えた。図星のようだ。
あたしがお返しとばかりににやにやしてやると、黒猫が抑揚なくつぶやいた。
「あなたって、本当に最低の屑だわ」
「……ごめん。マジで」
あたしって最低だ……でもさ、これって正直ヤバくない? だって京介って、妹のために恋
人と別れてくれたんだよね? どんだけシスコンだっつーの。それじゃあ妹離れなんて永遠に
できなくない? あーキモキモ。ちょーキモーい……ていうかヤバ。まじヤバ。ヨスガ一直線
間違いなし。しかも今やあたし、体は乙女頭脳はオトナな超ハイスペックシスターでしょ?
京介なんか百パー溺れちゃう。受験生なのに、あたしにハマって勉強しなくなっちゃう。
――なんて馬鹿なことを考えていると、
「そろそろ私はお暇させてもらうわ。あなたも目ざめたことだし、あまり長居すると、京介が
戻って来てしまうから」
「あっ――」
――そっか。そうよね。“黒猫”は、京介にあんな醜態を見せてしまったんだから、顔を合
わせづらいにちがいない。気絶したあたしを連れてくるときはいっぱいいっぱいでそんな余裕
はなかったけど、あたしの容態が落ち着いた今、別れた恋人同士は、どんな顔をして話せばい
いのだろう。
「心配は無用よ。ここへ来る道すがら京介に説明したわ。あのことは――闇の力(ダーク・フ
ォース)の反作用体として生じた新たな人格、“闇猫”がしたことなのだと。京介もちゃんと
納得してくれた。そして、ひどく青ざめた顔で私を気遣ってくれたわ」
邪気眼キャラって超便利。便利すぎてガチでびびられてる。
「ま、まあさ。あいつにはあたしからもフォロー入れておくね。うん」
「ええ、頼むわ……」と黒猫はわりと切実そうに告げてドアに向かい、そしてドアノブをつか
んだところで、
「そうそう、ひとつ、報告し忘れていたことがあったわ」
と、目だけをあたしに振り向けて言った。
539(2): マインドスワップ 18/18 2011/07/14(木) 23:42:16.98 ID:90wkXXSJ(19/20)調 AAS
「あなたもう処女じゃないから」
「はあっ!?」
こ、このエロ猫、今なんて言った?
「先ほど言ったはずよ。『私だってなにもしていないといえば嘘になるから』と」
クソ猫のとんでもない報告に、あたしは口をあんぐり開けて固まってしまう。
「安心なさい。兄さんは、すごく悦んでくれたわ。それに私も貴重な体験ができたから――ま
さか一生で二度も破瓜の痛みを味わうなんて、なかなか興味深い感覚だったわね」
ぱたん、とドアが閉まった。
「あははっ……」
思わず足の間に手を入れて、あたしは乾いた笑いを上げる。
「冗談だよね……今の、冗談なんだよね……」
そこに京介がやってきた。
「やったぜ……桐乃」
と、青あざのついた顔で京介は言った。見れば全身ぼろぼろで、お父さんに脱臼させられた
のか、肩を押さえて、よろよろと倒れ込むように歩み寄る。
「俺とおまえの仲を、親父たちに認めさせてやった。お袋はまだ下で泣いてっけど、俺たち兄
妹はこれで……って、桐乃?」
京介は呆然としてあたしの顔をのぞき込む。あたしたちは二人とも呆然とした間抜け顔で向
かい合った。
「お、おまえ、本当に桐乃か?」
あたしはこくんとうなずいた。
「本当かー? 本当に桐乃かー?」
もいちどこくんとうなずいた。
けど京介はやおら天井を仰いで、
「嘘だ! 俺の妹がこんなに可愛くないわけがない! 兄さん好き好きけなげオーラが欠片も
ねーじゃねえか! ハっ……さては悪魔(あやせ)が化けてんだな!? またかよオイ! あ
やせテメェっ、俺はおまえの彼氏にゃならねぇってなんど言えばわかるんだ!? 体は許して
も心は許さないからな! この逆レイパー!」
「し……ししっし、しっししししし……」
「黄金水か!? 黄金水なんだな!? だが断る! もはや俺がそれを飲み干すのはただ一人!
すなわち! ラブリーマイシスターきり――」
「――死ねえええええええええ!」
おしまい
540(3): 2011/07/14(木) 23:43:37.10 ID:90wkXXSJ(20/20)調 AAS
以上です。
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