[過去ログ] スクールランブルIF16【脳内補完】 (756レス)
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356: 04/11/10 17:06 ID:tO0W2gaQ(1/20)調 AAS
ちょっち一本書いてみました。

おにぎり過激派風(あくまでも「風」)ですので、
そーゆーのが嫌いな人はNGワードの名前欄に
「Limitation」
と指定して下さい。
357: 04/11/10 17:08 ID:tO0W2gaQ(2/20)調 AAS
「いやー、いつもいつもすまねえな妹さん。」
「…いえ…。」
放課後の屋上。
いつものように播磨に呼び出された八雲が、
相変わらずの無表情で原稿の下書きに目を通している。
陽も少し眠りに早くなり、僅かに夕日がかった色彩が彼女の頬を照らし出し、
なんとも言い難い神秘的な雰囲気を醸し出していた。
勿論、それは彼女の手にある原稿の束を気にしなければの話で。
そして当然のように、彼女の目の前に立つ男は
全く自分がどれほど希有に多幸な人間であるかなど、
露程にも理解していないのだ。
「…だからよ、ここでこう来てズガン!とキメたいわけよ。」
「あの…あまり大ゴマに拘らない方が…。」
「そ、そうか?うん、そ、そうだな…。」
いつものように繰り返される、作家と編集のような会話。
八雲の意見は、客観的かつ冷静沈着にて的確。
校内一の不良として名高い播磨も、彼女の前では借りてきた猫であった。
ピルルルル。
その時、全く無味乾燥な呼び出し音が鳴り響いた。
「チッ、誰だよ…。ちょいとすまねえ、妹さん。」
顔を顰めて播磨が胸元を探り、携帯電話を取り出す。
だが、待ち受け画面を見た瞬間、播磨の顔色が変わった。
「あー、ゴホン。…もしもし俺だ。」
咳払いをして声の調子を整えるまでする相手。
おそらく姉だろう、と八雲は鋭く察した。
358: Limitation 04/11/10 17:10 ID:tO0W2gaQ(3/20)調 AAS
近頃の天満は、随分と播磨を頼りにしているようで、
何かに付けて相談事を持ちかけているようだった。
勿論その相談とは、彼女の思い人、烏丸大路その人の事である。
当然、天満は『妹の恋人』として
播磨を頼りにしているのは八雲も理解していた。
本当は誤解なのだが、一度勘違いしたら中々人の言うことなど
聞かない姉だから、八雲ももう誤解を解こうなどとは思っていない。
しかし、その勘違いされている播磨拳児の思い人こそ、
自分の姉である塚本天満に他ならないのだ。
好きな女性の恋愛相談を受ける彼の心中。
視たい、でも視えない。
一度視えた気がした事も、もはや錯覚かと思う程に彼の心は何も映さない。
八雲は少し心の中で溜め息をついた。
何事か応対して電話を切ると、
「あー…。すまねえ、妹さん。ちっと用事が出来ちまったんで、
今日はここまでで良いや。ありがとうな。」
いえ、と八雲が伏し目がちに原稿を差し出すや否や、
それを受け取った播磨は急ぎ足でその場を後にした。
屋上に一人取り残された格好の八雲。
ふう、と溜め息が漏れた。
いつからだろう。
彼が姉と会話する時、胸に湧き起こるチリチリとした鈍い痛み。
それは自分に寄せられる思いを知らず、その相手に相談を持ち掛ける
姉に対しての義憤だと八雲は理解していた。
勿論そうだろう、そうに違いない。
そうで無ければ何なのだ、という問いへの答えなど、
まだ八雲には用意出来ていないのだ。
帰って夕飯の支度しないと…。
とりあえず現実的な問題を思い出し、八雲は帰途へとつく事にした。
359: Limitation 04/11/10 17:13 ID:tO0W2gaQ(4/20)調 AAS
「ホント、いつもいつもゴメンね播磨君。」
「…い、いやー…良いって事よ。」
体育館の裏。
申し訳なさそうに、しかし笑顔を向ける塚本天満。
それに頭を掻きながら複雑な表情で答える播磨。
天満の呼び出した要件とは、
今話題の映画について男性陣での下馬評だった。
勿論彼女の真の目的は、意中の相手を誘う口実である。
毎度の事なれど、体好く利用されている格好の播磨。
しかし本人に悪気は一切無く、それ所か播磨を信頼しきった
無邪気な笑顔を見れば、彼もいい加減な答えを出せぬのは無理からぬ事か。
「とっても参考になったよ播磨君。上手く誘えるかなー?」
「まあ、その、何だ…。オメーに誘われて悪い気のする奴なんていねえよ。」
本音だった。
だがそれは自分の心底に伏す醜い嫉妬を覆い隠す為の播磨の虚勢。
「ええー、そうかなあ?…でも、ありがとう。」
天満が僅かに頬を赤らめ、微笑む。
その笑顔にホンの少し胸は高鳴るが、
しかしそれは瞬時にズキリとした鈍い痛みに変わる。
見ていられなくなって、もう帰ろうと思ったその時。
360: Limitation 04/11/10 17:14 ID:tO0W2gaQ(5/20)調 AAS
「あ、そーだ。播磨君、ウチで晩御飯一緒に食べようよ!」
ポン、と両手を叩いての天満の提案。
「え…。」
天満ちゃんの家に?俺が?
絶望に閉ざされていた心が見る間に晴れ渡っていく。
「良いでしょ?八雲もきっと喜ぶと思うんだよねー。」
と、思ったら即座に暗雲が。
「あ、あのよー、塚本…。何度も何度も何ッッ度も言うけど
俺は別に妹さんとは「八雲の料理ってばホント美味しいんだよー?
播磨君食べた事あるかなー。別に姉妹贔屓じゃないけどね。」
聞いちゃいねえ。
播磨は、一頻り身振り手振り一杯で話す天満を見つめた後に
ゆっくりと呟いた。
「バイク…乗ってくか?」
天満は一瞬きょとんとした顔で播磨を見たが、
「え、良いの?やったー!…一度乗ってみたかったんだよね。」
手放しで喜んでる天満を見て、
顔が自然に綻ぶのを播磨は押さえられなかった。
そんな自分に、現金なモンだな、と毒づくが。
意図無く天満を欺騙しているようで、僅かに胸が罪悪感で痛んだ。
361: Limitation 04/11/10 17:16 ID:tO0W2gaQ(6/20)調 AAS
「あ、いけない…お肉…。」
肌寒い季節なので鍋料理でも、と思ったら冷蔵庫に肉類が無い事に気付く。
いつもならこんな時、機転を利かせて
姉が買い物を済ませておいてくれたりするのだが…。
時計をチラと見る。
それ程遅い時間でも無いが、いつもなら帰っている時間でもある。
ぐにゃり、と何かが歪んだような不思議な感覚が八雲を襲う。
播磨さんは、多分姉さんに呼び出された。
それは彼女の中で、確信の域にある推測だった。
だから何?何故そんな事を突然思い出す?
焦燥感にも似た思いが八雲に湧き上がってくる。
あ、夕飯…。
気を取り直して別の献立に変えて用意する事にしたその時。
けたたましいまでのバイクの排気音が近付いて来たかと思うと、
すぐ傍でその騒音を止めた。
バイクに全く興味など無い彼女だったが、
その排気音に聞き覚えがあった八雲は思わず玄関へと駆け出した。
362: Limitation 04/11/10 17:20 ID:tO0W2gaQ(7/20)調 AAS
「よー塚本。バイクは何処停めりゃー良いんだ?」
「んー…庭の空いてるトコにでも置いておいて。
ウチは縁側あるから軒下使えないんだよねえ。」
天満がヘルメットを脱ぎながらバイクから降り、
シートの後ろに括り付けてあった買い物袋を解いた。
うぃー、等と適当な返事を述べながら播磨はバイクを押していく。
「あ、八雲!どしたの、そんなトコで?」
見ると妹が玄関先で呆けたように突っ立っている。
八雲のそんな様子を少し訝りながらも、
天満は笑顔で買い物袋を掲げた。
「えへへー。お肉、買ってきた。○×店で安売りしてたの知ってた?」
「あ…ありがとう。」
近付いて来た姉の言葉で、漸く我に返ったような八雲。
そこへバイクを停め終えた播磨も戻って来た。
「よ、よお、妹さん。」
流石の播磨も、一日に二度も挨拶するのは何とも気まずい。
しかも図々しくも自宅に押し掛け、御馳走になろうというのだから尚更だ。
「播磨さん…どうして…?」
どう説明していいものかと播磨が頭を抱える前に、
「あのねー、いっつも相談乗っててもらって悪いから、
今日晩御飯奢ってあげようかと思ったんだけど…ダメ?」
妹のほうが背が高いので必然的に上目遣いになる。
そんな頼み方をされると、断る気になどなれる筈も無かった。
尤も、断る理由も全く無かったのだが。
「あの…播磨さん、どうぞ上がって下さい。」
「おう。わ、悪ぃな、マジで。」
八雲に促され、播磨もおずおずと歩みを進める。
辺りに忙しなく視線を馳せる姿は、まるで怯えた小動物のようであった。
363: Limitation 04/11/10 17:22 ID:tO0W2gaQ(8/20)調 AAS
「じゃ、私ちょっと着替えてくるから。八雲ー、播磨君宜しくねー!」
ぶーっ!
突然、卓袱台にて八雲に淹れて貰ったお茶を啜っていた播磨が
口から緑の液体を飛散させた。
「ゲホッ!ゴホッゴホッ!!」
どうやら天満の『着替え』というキーワードに過剰反応したらしい。
普段ならこうまでならないだろうが、何せ今回は勝手が違う。
初めての自宅への招待、そして初めての御相伴である。
無駄に精強な想像力を総動員させてしまうのも吝かに非ず。
「あの…どうぞ。」
気付くと八雲が傍でおしぼりを差し出していた。
「ゲホッ…申し訳ねえ、妹さん。」
おしぼりを受け取った播磨が
服にかかった緑茶の成れの果てを拭き取っている間に、
八雲は素早く卓袱台、畳を拭き終っていた。
その相変わらずの余りの手際の良さに、
播磨も呆けたように感心しきりである。
「いや、流石だな妹さん。イトコだったら…。」
と言い掛けて慌てて口を塞ぐ。
が、そういえば妹さんは知ってるんだっけ
と思い直して彼女を見ると、八雲は既にもう台所へと戻っていた。
…アレ、もしかして妹さん怒ってる?
今夜の八雲は何時にも増して無愛想で、口数が少ない。
女心など気にかけた事も無い播磨ではあったが、
ともすれば最も深い仲やもしれぬ女性の事。
僅かに感じた違和感にも過敏になっていた。
364: Limitation 04/11/10 17:23 ID:tO0W2gaQ(9/20)調 AAS
台所で野菜を適度な大きさに切り
大ザルに並べていくという単純な作業の間、
八雲は不思議に子供の頃の出来事を思い出していた。

──姉のお下がりばかりでは不憫だろうと、
母がわざわざ買って来てくれた新品の服。
勿体無くて中々袖を通す気にならず、
タンスの奥に大切にしまっておいた服。
ある日、天満が粗相で朝食をひっくり返してしまった時、
汚れた服の代わりに姉が着せられた服。
雨天続きで他の服が乾いていなかったから、
と済まなそうに八雲に言った母。
申し訳なさそうな顔をする姉に、
にっこり笑って首を振った自分。

あの時感じた僅かな寂寥感。
先刻、播磨の後ろでバイクに乗る姉を見た時から、
胸を穿ち続ける微小な楔。
己が変調に気付いても、募る負の感情は止まる事は無い。
どうしちゃったんだろう、私。
思考の中に意識は埋没しつつも、
八雲の手は一見には平常時と何も変わらぬように
夕餉の支度を進めていた。
366
(1): Limitation 04/11/10 17:25 ID:tO0W2gaQ(10/20)調 AAS
やっぱ、姉妹2人の食卓を邪魔しちゃ不味かったか?
それともいくら天満に誘われたとはいえ、
女性だけの住居に図々しくやって来る神経を疑われたか。
他人の心情を推し量る事を常としない播磨にとって、
今の八雲から感じる違和感を正確に理解する事など無理な話。
しかし今更帰ると言うも躊躇われ、
播磨には所在無げに周囲を見回す位しか術は無かった。
それにしても、天満ちゃん遅いな…。
意識は当然、今この場所には居ない少女へと向けられる。
そこでハッと気付いた。
遅過ぎやしねえか?
「なあ、妹さん。」
とりあえず八雲に聞いてみようと声をかけたが、
聞こえているのかいないのか、
彼女は返答無くこちらに背を向けたまま。
疑念が不安に変わっていくものの、
ついぞ大山鳴動して鼠一匹になるやもという思いも然り。
どうすっかな…もう少し待ってみるか、それとも。
八雲をもう一度見るが、やはりこちらを伺う様子は無い。
今日の八雲にはイマイチ声をかけづらいというのもある。
部屋に入るわけじゃないし、左程問題無いだろう。
そう思い播磨は腰を上げた。
367: Limitation 04/11/10 17:27 ID:tO0W2gaQ(11/20)調 AAS
適当な見当をつけて家内を歩けば、辿り着いたのは階段の前。
前にエアコン修理に来た時の記憶から、
彼女の部屋は二階だという事は知っていた。
…最低だよ、播磨君。
深痛な記憶を掘り起こし、些か憂鬱な気分になる。
今はそんな事思い出してる場合じゃネエ。
「おーい、塚本ー。」
階下から声を掛けてみた。
返事は無い。
ッカシーな、天満ちゃんもかよ。
先の八雲のように、聞こえているのかいないのか。
こうも自分への対応が皆無だと、
己一人世界から取り残されてる錯覚すら感じてしまう。
こうなったら意地でも天満の元気な声を聴いてやろうと、
播磨はゆっくりと階段を上がっていった。
368: Limitation 04/11/10 17:28 ID:tO0W2gaQ(12/20)調 AAS
「塚本ー?そろそろメシの準備終わりそうだぞー。」
階段を上りきった所で、もう一度声を掛けてみる。
が、やはりというか反応は無い。
まさかとは思うが、寝てしまったのだろうか?
……ありうる!
天満の普段の行動を踏まえ、そう思い至った播磨は
やはり八雲に言う方が良いだろうと踵を返す事にした。
幾らなんでも寝ている婦女子の部屋に勝手に入る程、
無神経な人間ではない。
「!?」
しかし階段を一歩下りた所で、全身に何故か悪寒が走った。
肉体的には鍛え上げられている播磨とて、霊感は別段強いという訳でもない。
が、それでも後方から伝わってくる異常な気配を無視する事は出来なかった。
天満ちゃん!
部屋の間取りなど詳しく知るはずも無い播磨だったが、
五感が知覚するよりも先に意識が理解していた。
あの部屋だ、とドアノブに飛びつく、しかし。
開かねえ!
施錠の様子は無い、しかし押しても引いてもビクともしない。
焦る播磨。
「うおお、ナメんな!」
ドアノブに全身の力を込めると、
まるで天の岩戸を押し開けたかの如くゆっくりとドアが開いていった。
369: Limitation 04/11/10 17:32 ID:tO0W2gaQ(13/20)調 AAS
目を疑うような光景が眼前に存在していた。
苦悶の表情で宙に浮いている天満。
天井から何かで吊るされているわけでもなく、
床から何かで持ち上げられているわけでもない。
しかし天満は『見えざる何か』に抗うように、
両の手で必死に何かを引き剥がそうとしている。
「…は…播磨…君…。」
播磨に気付き、天満がか細い声を上げた。
その瞬間、あまりの状況にホンの僅か呆気に取られていた
播磨の感情が激昂、そして爆発した。
「何してやがる、てめえ!」
怒り心頭に達してしまった播磨は、
その見えざる何かを『てめえ』と呼び、それに対して飛び掛かる。
「!!」
だが播磨は軽々と吹き飛ばされ壁に激突し、
そのまま床にへたり込まされてしまった。
凄まじい衝撃であった筈が、
不思議と壁に掛けられた品々には何の振動も伝わっていないようだ。
何だこりゃ…ふざけてやがる。
まるで夢の世界にいるような不確かな痛覚。
何もかもがあやふやで、
己が痛みや眼前の光景も全てどうでも良くなってくる。
そう、天満の痛苦すら──。
370: Limitation 04/11/10 17:34 ID:tO0W2gaQ(14/20)調 AAS
──どうでも良いわけ、あるかよ!
播磨が立ち上がった。
獣のような咆哮を上げて、天満の所へ突進する。
天満ちゃんにだけは、手を出させねえ!
どうかして、『見えざる何か』、人外の存在を引き剥がす。
気を失うのはそれからだ。
天満の首の周りに何かが巻き付いている感触があった。
感触があるなら、引き剥がす事も出来るはず。
「離れろ、このクソヤロー!」
全身が怒張し、総毛立つ。
今一瞬、この時だけで良い…力を、もっと力を!
「ああああああああああ!」
何かを引き千切ったような感覚があった。
と同時に天満の体が地に落ちる。
ケホケホ、と咳き込んでいる天満を見て、播磨は安堵した。
「!?」
突然、空気が変わる。
まるで強大な怒りが空間を支配して埋め尽くしていくように、
播磨に息苦しさと緊張を呼び込んでいく。
「うぉ!?」
己が首に何かが巻きつく感触があった。
やべぇ、と感じる間も無く、呼吸を止められた。
抗いはするが、先のような力はとても出せそうも無い。
…天満ちゃんを助けられたんだし、まあ良いか。
などと場違いな程に楽天な言葉が頭を過ぎったその時。
「やめて!」
その言葉が響いた瞬間、何もかもが静まった。
播磨は途切れゆく意識の中で、
部屋の入り口で泣きながらへたり込む八雲の姿を認めたような気がした。
371: Limitation 04/11/10 17:37 ID:tO0W2gaQ(15/20)調 AAS
「…あ…。」
部屋に入ると、脇の椅子に座りながら
ベッドを枕にして眠っている姉の姿があった。
天満のベッドを占有しているのは、
さっき見た通りに今も眠っている播磨である。
播磨の額から濡れタオルを取り、手を当ててみた。
熱はもう殆ど下がっている。
タオルはまだ冷たく、
おそらく姉も取り替えて直ぐに力尽き、眠りの世界に誘われたのだろう。
八雲は二人を起こさないよう、静かに部屋を出た。

階下に降りると、
とりあえず播磨の家主である刑部絃子に連絡すべき事に思い至った。
電話脇にある連絡名簿を取ろうとした時。
背後に気配を感じた。
初めてではない。
「…あなただったの?」
「そうよ、ヤクモ。」
八雲は振り返らなかった。
今の『彼女』がどんな顔をして自分に語りかけているのか、
知りたくなかった。
「どうして、あんな事を。」
答えは、無い。
代わりにクスクスと笑い声が聞えてきた。
それでも八雲は振り返ることは出来なかった。
「…姉さんを殺すつもりだったの?
それとも「どっちを殺して欲しかった?」
372: Limitation 04/11/10 17:44 ID:tO0W2gaQ(16/20)調 AAS
八雲は息を呑んだ。
そして、今の言葉の意味を反芻する。
『どっちを』と、彼女はそう言った。
それは、つまり。
「そうよ。私はあなたの望みを叶えてあげようとしただけ。」
「…嘘。」
そんな筈は無い。
私は、どちらの死も望んだりしない。
声にならない否定の声を上げた。
「本当にそうかしら?」
嘲る様な響きの、彼女の声。
そんな筈は無い。
一体どうして、私があの二人を…?
「憎かったんでしょ?貴女に彼を独り占めさせない彼女が。
独り占めさせてくれない彼が。違う?」
そんな筈は無い。
憎む?どうして。
播磨拳児は誰のものでもない。
独り占めなどと、言える筈は無い。
373: Limitation 04/11/10 17:45 ID:tO0W2gaQ(17/20)調 AAS
「これだけは覚えておくと良いわ、ヤクモ。
私は…『私達は』、肉体の制約が無い分、とても心に素直なの。
他人の悪意にもすぐに感化され、そしてすぐ実行に移してしまう。
貴女に心の言葉を投げ掛ける事を止めることが出来ない、
哀れな沢山の男達のように。」
クスクスと笑いながら、まるで唄うように言葉を紡ぐ。
「…でも大した子ね、彼。肉体の制約を受けながら、
精神力で異界の存在を圧倒した。
それは、相当強い心思が無ければ不可能なコト。」
チクリ。
彼女の言葉を理解して、八雲の胸に再び痛みが走る。
「ヤクモ。『私達』は、いつでも貴女達の傍に居る。気を付ける事ね。」
気配が、消えた。
振り返ると、そこには当然誰も居らず、何も特別なものは無い。
「違う…。」
八雲は憂いを含んだ瞳で、そう呟くことしか出来なかった。
374: Limitation 04/11/10 17:46 ID:tO0W2gaQ(18/20)調 AAS
姉の部屋では、先刻と同じ姿勢で二人が眠っていた。
播磨の額の濡れタオルを取り替えた後、天満に毛布を一枚掛ける。
その時見えた、天満の頬に一筋流れた水滴の跡。
「…ごめんなさい、姉さん…。」
八雲の視界が、何かでぼやけた。
376: 04/11/10 17:50 ID:tO0W2gaQ(19/20)調 AAS
終わりです。
色んな意味ですみません。

ちなみに閉じ鍵括弧の前の句点は単に俺の好みです。
読んでくれた人ありがとう、
不快になった人ごめんなさい。
377: 04/11/10 17:52 ID:tO0W2gaQ(20/20)調 AAS
やべ、最初の文だけ名前欄間違えてる!

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