[過去ログ] スクールランブルIF16【脳内補完】 (756レス)
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155(1): Birthday... Ganji Nishimoto 04/11/01 21:21 ID:2tXPlHJ6(2/3)調 AAS
その日、西本願司は憂鬱だった。
発端は、一通のメール。それは兄からのものだった。
『彼女が出来た。ビデオコレクションはもういいから』
衝撃は大きかった。
あの兄に。月一で送っていた願司コレクションを何よりも楽しみにしていた兄に。自分と同じで
女の子と一生、縁のなさそうだった兄に。
彼女が出来たというのだ。
翻って、自分は。
エロソムリエと呼ばれ、クラスの男子のほとんどの人望を集めている。一方で、女子との接点な
どほとんどないと言っていい。
そのことに疑問を抱いたことなどない。自分の幸せは、ビデオの中にあると信じていた。
だが一番、自分に近しい存在であった兄に恋人が出来たという事実が、彼を落ち込ませた。何だ
かんだ言っても、生身の少女に興味がないわけではないのだ。例えば、明日の誕生日を一緒に祝っ
てくれる彼女が欲しい、と思いもする。
ワスも、自分を見直すべきかもしれないっすね……
翌朝。顔をうつむかせながら歩く彼に話しかけてきたのは、吉田山を始めとする西本会議のメン
バーだった。
「よう、西本」
「……おお、皆ダスか」
「何だよ、落ち込んでるのか?ま、これを見れば元気出るだろうけどな」
言いながら吉田山が取り出したのは、一本のビデオだった。
「……何だすか?これ」
「フフッ、聞いて驚くなよ?あの阿豆樹もなかの新作ビデオだぜっ!!しかもまだ発売されてない
ものだっ!!」
「ネットオークションにかかってたんだよ。ちょっと高かったけれど、他でもない西本の誕生日だ
からな。いつものお礼ってことで、ま、受け取ってくれよ」
「お前ら……最高だすっ!!」
願司は、思う。
やっぱりワスは、恋愛よりも男の友情を優先させるダスっ、と。
その夜。兄からのメールに、願司は思わず笑ってしまった。
『フラレタ。コレクション頼む』
156: クズリ 04/11/01 21:49 ID:2tXPlHJ6(3/3)調 AAS
ということで、西本願司君、誕生日おめでとうございますm(_ _)m
……烏丸君も、究極超人あ〜るを彷彿とさせて好きなんですが……愛情が足りないように
見えましたか。精進します。
御指摘、どうもありがとうございましたm(_ _)m
157: 04/11/01 23:56 ID:CpKjSe5s(2/2)調 AAS
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
乙!一日で振られる西本兄ワロタ
158: 04/11/02 01:46 ID:S3YwFCbc(1)調 AAS
>>155
GJ!
中高生らしくて非常にほのぼのしてしまいました。
159: 04/11/02 03:15 ID:uj3N04l6(1)調 AAS
分校でも人気だしな。
160: 04/11/02 11:07 ID:ugyC4cpo(1)調 AAS
昼下がりの教室
屋上から戻った播磨は天満達の雑談を聞いていた。
「今時童貞が許されるのは小学生までよね〜」
「きゃはははは〜」
「愛理ちゃん駄目だよ播磨君に聞こえてるよ」
161: 04/11/02 11:26 ID:8pOve47I(1)調 AAS
>>131ウザいよ。
162: 04/11/02 11:59 ID:pAQxj4qA(1/3)調 AAS
>160
IDがまるで「うぎぃ」とエロ漫画の叫び声のよう。
163: 04/11/02 13:28 ID:pAQxj4qA(2/3)調 AAS
>95
ドラキュラの衣装でかぼちゃ頭とは、さながらジャックランタンみたい
ですね(w
グッジョブです。
164: THE CONVERSATION 04/11/02 14:27 ID:vuVsZKBg(1/8)調 AAS
笹倉邸
キンコ〜〜ン……ガチャ…
「え〜〜えっとさ… フロのカマがこわれて…」
ダダダダダダッ!!
イトコさーん!!?
玄関で葉子が叫んでいるが、とりあえず無視して階段を駆け上がる。方向は確かこっちであっているはず。
ガチャ……カラカラカラカラ
さて…と、機材はすべてトランクに入っていたはずだが……よし全てそろっているな。
アンテナをマンションの方角に向けて……電源を入れて…おっと、ヘッドホンをつけないとな。
周波数はと……確かメモに……あった。ゆっくりゆっくりチャンネルをあわせる。
……ザッザザーー……ガガッ…ピー…
クソッ、ノイズが酷いな
……ジ…ジジー……ああ、すまねぇ……さん…
ムッ、来たか?
……ジ…ここも頼むわ……
165: THE CONVERSATION 04/11/02 14:28 ID:vuVsZKBg(2/8)調 AAS
頼む?何を?
「い、絃子さん?」
「葉子、だまってて」
……あ…はい、ここですか……
な?……何をしているのだ……
……オウ、そこだ……流石に上手ぇな……ジ…ザ…ザザー……
く、またノイズが。天候が悪いからか?
そ…それにしても、な…何が「上手い」というのだ。
……ザザーーー…ガッ…ザー…ジジ…ジ………ザーー…
駄目か? まぁいい、しばらく時間を空けてみるか。
「あの〜、絃子さん? お風呂…沸きましたけど……」
「……」
「イトコさ〜ん」
「…いただこう」
166: THE CONVERSATION 04/11/02 14:32 ID:vuVsZKBg(3/8)調 AAS
―――――カポーン……―――――
ふう……さて、状況は…と。
む、雨か…厄介だな。
……ザザ…ジ……ゃ美味え!!こんな美味えパスタ食ったのは初めてだ…ガガ…ピー……
ぬお! 声がでかいぞ拳児君。……しまった、後半を聞き逃したか。
どうやら食事中だったようだな。……塚本君の手作りか……さぞや美味いことだろうな……
……ふん……どうせ私には作れないよ……。
ザーーーーーッ
雨が酷くなってきたな。ただでさえ電波状況が悪いと言うのに。
「絃子さーん! ビールでいいですかー? それともワインにします?」
「……ビール!」
……ピー……ジ…ジ……るとしたら……
167: THE CONVERSATION 04/11/02 14:36 ID:vuVsZKBg(4/8)調 AAS
む? 急に会話のトーンが下がったな。
……私……経験ないから……ジ……どうしたらいいのか…
!!!? な!? ま ま まさか!!?
……ジジ…男の人と女の人がつき…ジ…って…ザザーーッ……
!?!?!?!?!?
な…? なななななななななあーーーー!!??
―――――――思考停止中――――――――
「絃子さーん! 準備できましたよー!」
ドタドタドタドタドタッ!!
プシュッ……ゴキュ…ゴキュ…ゴキュ…プハーッ
「あ…あの、イトコさん?」
ダダダダダダダダッ!
―――――しばらくお待ちください―――――
168: THE CONVERSATION 04/11/02 14:41 ID:vuVsZKBg(5/8)調 AAS
ハッ!? 私はなにを?
と と とにかく落ち着け私。よく考えろ。
あの播磨拳児君だぞ??? 相手は塚本君は塚本君でも妹の塚本君だ。
うん。いくら拳児君でもそこまでロクデナシではない……はずだ。……うん、よし。
……ゴホン、では続きを……ん?
……ザザーーーーーーッ………
あれ? おかしいな……? 何も聴こえなくなったぞ。
故障か? まさか! 気付かれた? バカな!?
「絃子さーん! 絃子さんのマンションの方角、停電らしいですよー。大丈夫ですかー」
………………てい? ……ハ…ハハッ……っは〜…
な…なるほど停電か。……コンセントに仕掛けておいたのが仇になったか……。
ふむ、今度からは時計かラジカセにも仕掛けておくとしよう……って、なにをやっているんだ…私は……。
「絃子さん?」
「葉子!」
「は、はい?」
「飲むぞ、付き合いたまえ」
「はあ……?」
「返事は!」
「はいぃ!」
169: THE CONVERSATION 04/11/02 14:42 ID:vuVsZKBg(6/8)調 AAS
……まったく……よく考えれば何で私が取り乱さなくてはならないんだ……
預かっていた出来の悪いペットが女を連れて帰ってきただけの話ではないか。
そうだ、私がいちいち干渉することではない。
そうだとも、ワタシは…………。
…………
「イトコさーん、その辺にしたほうが……」
「なんだい葉子、もう終わりかい? この程度で根を上げるなんて」
「いえ……ほら、明日も仕事がありますし…そろそろ…」
「明日がなんだい。今日は今日しかないんだよ……。明日のことを今日考えるなんて……
……だいたい明日って言われてもどんな顔して……」
「絃子さん…? 酔ってます?」
「……」
「イトコさん?」
「……スゥー……スゥー……」
……フサァ……
「おやすみなさい。絃子さん」
(終わり)
170(2): THE CONVERSATION 04/11/02 14:48 ID:vuVsZKBg(7/8)調 AAS
初SSで初投稿です、皆さんはじめまして。
このスレに触発されて挑戦してみたのですが、やっぱりムズイです……。
もっと始まりと結末をうまく書けるようになりたい……今回はかなり中途半端になってしまったので。
さらによく見ると、擬音や三点リーダばかり…書き終えてから色々反省点が見えてきました。
一応避難所の講座を一通り読んだのですが、全てを生かすにはまだ力不足なので、今後の糧にするべく、
いろいろご感想をいただければ幸いです。
内容に関しては……まあ、あの日の幕裏でこんなことがあったら良いなぁ という脳内妄想を書き連ねてみました。
題名は、内容からそれらしい洋画タイトルを検索して適当に…あまりこういうセンスは良くないので…
改めて常連さんたちはすごいなぁと思い知りました。
171(1): 04/11/02 14:52 ID:z9435dWc(1)調 AAS
なんか一連の投下は誤爆じゃないかとも思われ。
しかもエロパロには対照的なSSが投下されてるし。
172: THE CONVERSATIONの人 04/11/02 15:07 ID:vuVsZKBg(8/8)調 AAS
>171
すみません。誤爆ではないです。エロパロってチェックしてなかったので…
ここではこのぐらいの描写はNGでしたか?
173: 04/11/02 15:24 ID:VUOYT5y2(1)調 AAS
いや、この程度ならこっちでいいと思うが・・・・・
逆にコレをエロパロに投稿されたら肩透かしって感じだな。
最近へっぽこ絃子さんが楽しくて仕方ないので、面白かったよ。
なんかオレの中で絃子=ヘッポコがデフォになりつつあるな。
ヤヴァイ傾向かもしれん。
174: 04/11/02 15:59 ID:OtJpsyyM(1)調 AAS
>>170
GJ!
かなり面白かったよ。
停電であの後のやりとりを聞けなかったのが残念だw。
さらに取り乱してただろうに。
こういう絃子さんは良いですね。次回作期待してます。
175: 04/11/02 16:02 ID:pAQxj4qA(3/3)調 AAS
あの漫画編でポテチを落とすわ茫然と播磨の言うことに従うわと
新たな一面を見せまくったからなぁ。
176: 04/11/02 17:17 ID:DdkDlgSU(1)調 AAS
>>170
GJ!
絃子さん萌えるな。
勢いもあって良かったと思います。
177: National Culture Day 04/11/03 06:19 ID:j67BUYyY(1/13)調 AAS
11月 3日
文化の日(National Culture Day)
1946(昭和21)年、平和と文化を重視した日本国憲法が公布されたことを記念して、
1948(昭和23)年公布・制定の祝日法で「自由と平和を愛し、文化をすすめる」国民の祝日に定められた。
戦前は、明治天皇の誕生日であることから、「明治節」という祝日だった
178: National Culture Day 04/11/03 06:21 ID:j67BUYyY(2/13)調 AAS
暇つぶしに持ってきた『毎日が記念日』という文庫本を読むと
なるほど、そういえば今日は文化の日だったな、と思い出す。
毎月の休日が楽しみの学生の頃とくらべ、休みの日が文字通り『休むだけ』の日の社会人と
なってからは、休日が何の日かまでは気にしなくなっていたらしい。そんな自分に、少々驚く。
……というか、そういえば来週末は文化祭ではないか? いやはやボケるにはまだ若いはずなんだが――
季節はすでに秋から冬へと衣替えに忙しらしく、ほんの少し前までは青々とした木々が夏の深緑から
秋の紅葉へと自身の色を変えていた。あと少し経てば。今度は寒くないのかと心配に思うほど自信の衣を
ひらりひらりと落としていくだろう。
あるいは、少し肌寒い11月にせめて少しでもと、我々に陽の光を当ててくれるために、自身が作る影を
減らしてくれているのかもしれない。
刑部絃子がいる場所は、都会よりも秋から冬の進み具合が速い、少々郊外にあるバス亭である。
何ゆえ彼女がこんな場所にいるかというと、休日を利用して高校時代の友人の家を尋ねたためであった。
自分と同い年のはずの彼女は、初々しかった新妻を経て、やはり初々しい母親へとなっていた。
娘を見に来て欲しいといわれたときは、半分冗談かと思ったほどだが、一緒に送られた幸せそうな笑みと
おそらく、彼女の幸せが具現化された小さな命が、彼女の腕の中で気持ち良さそうに眠っている写真を見れば
信じざる得ない。それに、旧友からのお誘いで、祝い事があるならば断る理由もない。
179: National Culture Day 04/11/03 06:23 ID:j67BUYyY(3/13)調 AAS
とりあえず、手土産に赤ちゃん用品を持って出かけたのが午前10時、電車とバスを乗り継いで、
家へとたどり着いたのがちょうど太陽が南に昇りきったころだった。
友人との久しぶりの邂逅は、概ね良好だった。ただ、自分の旦那への愚痴と、子育ての大変さを熱く
語られるても、やれやれといった感じである。話してるほうはどうか知らないが、聞いているほうは
壮大な『のろけ話』でしかないわけで、聞いているうちにお腹がいっぱいになってしまう。とはいえ、
不快という感覚は毛ほどもなかったわけではあるのだが。
さて、友人との談話も終わり、夕日が傾くまえに家に着きたいと思っていた絃子は、まだ帰したくない
と言って、せがむ友人をなんとか振りほどき、家から徒歩で20分ほどのバス亭で、時刻表を見ながら
のんびりと文庫本を読んでいたわけである。
ちなみに、彼女が文庫本を読み出してから、駅前行きのバスはすでに3本ほど発車しており、今しがた
4本目のバスの運転手に、自分は乗らないと伝えたばかりである。
まあ、理由としてはありきたりだが、刑部絃子とあろうものがお金が足りなくなってしまったのだ。
確かにどの駅で降りるかとと、どのバスに乗りどこで降りるかは聞いていたが、その料金を聞かなかったのが
彼女の痛恨の一撃だった。まさか、バスの料金だけで四桁いくとはさすがの絃子様も予想だにしていなかった。
それにしても、最大の失敗はご丁寧に電車の切符は往復で買ってしまっていたことだ。駅からなら、
まだどうとでもなったものを。往復切符で特急券を買わなければ、帰りのバス代は払えた計算である。
まあ、今更悔やんでも換金所は遠く離れた場所にあり、そこに行くには切符を換金したお金がいるという
パラドクス。自分自身の力ではどうしょうもないので、絃子はあまり頼りたくはないが、同じ職場で同僚の、
自称カワイイ後輩にメールにて向かいに来てくれるよう頼んだのである。待ち合わせ場所は、分かりやすいように
ここのバス亭にした。
180: National Culture Day 04/11/03 06:24 ID:j67BUYyY(4/13)調 AAS
メールを送ってから43分、返信がきてから40分、彼女の家からなら高速を使わなくてもあと30分ほど
でここにたどり着くだろう。
文庫本のページをぱらぱらと捲り、今日が文化の日ということを思い出したのは、そんな時間を持て余した
時だった。
文化の日…ねぇ
となれば、思い出すのは高校時代の文化祭。そして一番ハシャイでだ二年生のとき、個人ではライブを演ったが
クラスでは演劇をした。白雪姫とシンデレラと眠れる森の美女を足して3をかけたような演劇をした記憶がある。
そして、その演劇に自分も主演として、なぜかクラスどころか学年すら違う後輩も主演として出演していた。
言わなくても十分に想像は難くなく、自分はお姫様を助ける王子役で、彼女は助けられ、幸せにされるお姫様。
たしか二人の主演という事で、かなりの観客が集まり、結果としてその年のグランプリになった。そして、男性姿の
自分の写真も飛ぶように売れ、あまつさえ○○年度のミスターコンテストで特別賞を受賞などしてしまった。
あまり思い出したくもなく、また話されたくもない話題であった。やはり、自分の学生時代の思い出などは
コンクリートに固めてどこぞの湾に捨てたほうがいい気がする。まあ、それでも色々と思い出してくる自分の
少々出来のいい頭がうれしいやら悲しいやら。
そして、ある情景が一つ思い浮かんできた……あれは、たしか衣装の仮縫いができた時である。お姫様の
ドレスは、『お姫様!』というイメージそのままを服にしたようなデザインだった。そしてさらに、それを着た
後輩は、彼女自身の風貌、雰囲気のせいもあって、まさに完全無欠のお姫様へと変身した。
一方、自分はえらく男前になっていた。周りからは「カッコいいー」だの「抱いてー」だの、およそ同姓に
言われてもたいして貫禄を受けない黄色い声の雨あられ。まあ、自分でも驚くほど似合っていたので、悪い気は
しなかったが、だからといって嬉しいと感じるのは少し違うだろう、いろいろと、主に女の子として。
181: National Culture Day 04/11/03 06:25 ID:j67BUYyY(5/13)調 AAS
まあ、それでれ別段イヤというわけでもなく練習は頑張ったし、若さというか、まさに青い春というか、
それなりにノリノリになっていったのだから、概ね問題は起きなかった。
ただ、そこらへんについて鮮明に思い出として残っていることが二つほどある。
一つは、何度も後輩が『本当にお姫様役を自分でやっていいのか』と聞いてきたことである。こいつは、
自分から他のクラスに遊びに来ておいて、よくぞまあそんなことを、と思ったが。おそらくは、彼女にも
常識とか、それに類似したものが多少はあったのだろう、ということで納得した。
納得はしたのに、イヤに覚えているのが本気で彼女が自分に何度も尋ねて来たからである。それも珍しく
真摯な表情で。
もう一つ、何の気まぐれか、ふと更衣室にポツンと置いてあった、お姫様役の衣装を手に取った。恐ろしく
ふわふわとしたその衣装を、少し自分の体とあわせてみた。そして、鏡の前に立つ。
……驚くほどサイズがあってない。たしか、この衣装はそんなに小さいわけではなく、一般的な女子高生
の身長に合うはずである。しかし、自分の手足や肩幅は、ものの見事に衣装からはみ出している。つまり
自分は『女の子』の着る服が着れないし、来てもおそらく似合わない。分かっていても、ため息が出てしまった。
そして目測ではあるが、多分これを着たらサイズが大きくて余ってしまう部分がありそうである。
腰から下と、両腕の間にあるのふくらみは、自分の持ち物では、おそらく悲しい空洞ができてしまうだろう。
新たなる追い討ちに、なんとなくため息が出るものの、将来に期待することで自分をなぐさめた。
思い出とは、つくづく思い出したくないものばかりを思い出してしまうものである。そして、その例に漏れず
勝手に不機嫌になった絃子は、後輩へと八つ当たりのメールを送った。
182: National Culture Day 04/11/03 06:26 ID:j67BUYyY(6/13)調 AAS
Title まだ?
本文:速く来い、こっちは高校時代の文化祭の思い出を思い出して、機嫌が悪い。
よって可及的速やかにやって来ること
Title re:まだ?
本文:予想だと、おそらくもう少しのはずです。
それと、文化祭の思い出って、私がお姫様で、絃子さんが王子様役をしたやつですか?
アハハハ、すいません、私がお姫様役をやっちゃって。ホントは絃子さんがお姫様をやりたかったのに。
……彼女からの返信は、色々と予想外であった。まず『予想では』?『はずです』?
そして、さらに言うならば、その後の内容はどういう意味だ? 自分がお姫様役をやりたかった?
あれだろうか、天然ボケだとは常々思っていたが、ついに天然が取れてボケてしまったのだろうか。
183: National Culture Day 04/11/03 06:37 ID:j67BUYyY(7/13)調 AAS
Titl 何を言ってるのかよく分からんぞ
本文:予想とか、はずとかどういう意味だ。それに、別にわたしはお姫様役をやりたかったワケではない
Title re:何を言ってるのかよく分からんぞ
本文:まあ、気にしないでください。とにかくもうすぐですから。
あれー? 私はずっと絃子さんはお姫様を演りたいと思ってると思ってましたよ
だから、私がしちゃっていいのかなー? と
私がお姫様役? しかもやりたかった?
彼女自身も鼻で笑ってしまうようなことである。やれやれ、とそのことを完膚なまでに否定する文章を
入力する。しばらくして間断なく動く指の動きがピタリと止まった。
そういえば……彼女の主演が決まる前までは、確か自分がお姫様役候補だった。まあ、自分で言ったら自慢
で嫌味にしかならないが、クラスの投票でブッチギリの一位票で当選したところまでは覚えている。
そして、彼女が来てからは、あれよあれよと話しが進み、気が付いたらも自分は、もととはまったく逆の役柄で
ある、剣を振りかざし、眠っているお姫様のもとへとはせ参じる王子さま役。
……なんだかさらに思い出してきた、いや、思い出してきてしまったと言うべきか。お姫様役が
半場決まったときに家で、恥ずかしさと、それに比例するかのように、なんとも言えない高揚感を感じた。
それをごまかす為に、布団でぐるぐる丸くなったり、ギターを弾いたりしていた気がする。
……思い出したくなかった、甘酸っぱい青春の一ページというヤツである。その当時の自分の若さに
恥ずかしさと、わずかだが残っていた「女の子」の部分に軽い憧憬と哀愁をが入り混じった、複雑な心境になる。
返信のメールの大部分を削除し、簡潔な内容を送った。別に、どうしてもやりたかったわけじゃない、と
184(1): National Culture Day 04/11/03 06:38 ID:j67BUYyY(8/13)調 AAS
ふう、とため息を出すと、呼応するかのように木枯らしが吹き抜けた。もはや空は夕陽で視界を朱色に染め
はじめ、一刻ごとに夜の闇が気温と共に体温を連れ去りっていく。歩くから、と薄着してたのが災いして、
少々肌寒い。そろそろ本気で向かえの車が来て欲しくなった
腰のポケットから、振動が伝わる。それが待ちわびている後輩からのメールの到着を教えてくれた。
Titl またまた
本文:女の子は、いつだって自分がお姫様で、白馬に乗った王子様がやってくるのを夢見るんですよ。
それは、絃子さんだって同じハズですよ☆
はいはい分かったから、白馬に乗った王子様よりも暖房の効いてる車を速くもってこい、というメールを打つ。
そして、右手が送信ボタンに手がかかった時だった。聞き覚えのあるエンジン音と、やはり聞き覚えのありすぎる
声が聞こえたのは。
「やっと見つけたぞコンチクショーがっ!」
いきなりやって来た、自分のマンションに寄生している居候の従姉が、偉そうにバイクから自分を見ながら
そう叫んだ。あまりの突然の人物と出来事に、目を点にしてしまう絃子。
……なぜ、コイツがこんな所にいる?
185: National Culture Day 04/11/03 06:39 ID:j67BUYyY(9/13)調 AAS
当然の疑問であるこの質問を居候に投げかけたところ、なんともトンチンカンな返答だった。
なんでも、彼の携帯電話にこんなメールが来たとのことである。
Titl ピンチだって〜
本文:絃子さんが、××市の○○っていうバス停留所で、キミを待っている!
速く来ないとお仕置きだそうだよ、さびしがってるからはやく迎えに行ってあげてね〜♪
勢いあまって、人の携帯を地面に投げつけて、鉄とプラスチックとその他諸々のゴミにしてしまうところだった。
まあ、なんとかそんな最悪の事態は免れたが、携帯電話の持ち主は、わずかだがミシリと言って自分の携帯が
破壊されそうだったのを見逃さなかったりする。
己の中の葛藤を、無理やり封じ込めて、それでも這い出て来そうなのを上から踏みつけることで、ようやく
絃子は冷静な判断を下した。ここで怒っても仕方がないし、なによりいつまでもここにいるわけにはいかない。
とっとと家に帰ってお風呂に入って、温かいご飯を食べて、暖かいお布団で眠ろうじゃないか。
一方、迎えに来て感謝されるはずである播磨は、まあ、言いたいことも色々あったのだが、賢明にも
というか、あまりにも絃子の発するオーラにビビって、小さな声でグチグチ言うだけであった。
186: National Culture Day 04/11/03 06:42 ID:j67BUYyY(10/13)調 AAS
「……ったく、速く乗れよ」
そして、いざ乗らんとした時に絃子はクシャミをひとつ。寒い。そして、この格好でこの気温の中バイクに
乗ったら恐ろしく寒いのではないか? というか、間違いなく冷たい風で凍えてしまう。そこで、解決策として、
運転手が着ている暖かそうなジャケットを説得という名の脅迫と、説明の皮をかぶった理不尽な理論を
駆使して強奪、もとい謙譲してもらうことにした。
しかし、珍しいかな、絃子の作戦は失敗した。しかし、ジャケットは得ることが出来た。
「ホレ、これ着ろよ」
いきなり彼が自分のジャケットを、投げ渡したのだ。いかに彼から衣服を剥ぎ取ろうか算段していた絃子
としては、これはなかなかのカウンターパンチだった。
「……なんだよ、いらねえなら俺が着ていくぞ」
珍しいじゃないか、君にしては、という意味の文章を+300%の嫌味と、気づかれない程度の感謝の気持ちを
込めて、彼の人に投げかけると
「あのな、俺だって寒そうにクシャミされたら、たとえそれが絃子だろうともこれぐらいはする!」
つーか、お前と違っておれは冷血じゃんねえ、というその後の部不相応の発言と『絃子だろうと』の部分に
かなり腹を立てるが、とにもかくにも播磨のジャケットを着ることに成功した。さすがにさっきまで彼が
着ていただけあって、なかなかぬくい。その、大きなサイズのせいか、包み込まれるように感じるジャケット
暖かさのせいだろうか、絃子は上手く反撃が出来ない。仕方がなく、アリガトウとだけ言うと、黙って播磨の
後ろの座席へと座った。
187: National Culture Day 04/11/03 06:44 ID:j67BUYyY(11/13)調 AAS
「あ〜クソ寒ぃ、ったく俺がこんな目に…ほんじゃあ行くぞ」
バイクが轟音を立てて疾り出した。播磨の体に晩秋の冷たい風が叩きつけられているのだろう、
本当に寒そうである。まあ、自分のせいだということは間違いないので、仕方がなく、ほんの少しだけ
体を密着させて、両腕で播磨の体をしっかりと抱いてやった。
一瞬、播磨はピクリと反応をしたが別段なにも言わず、相変わらず無茶な運転で、自分のバイクを操り夜の道路を
走らせていく。絃子は体と気持ちを、変な意味ではなくて、それなりに安心できる運転という意味としてだな、
と自分に言ってから、その背中に預けた。そして、そのうち顔を背中にうずめた。本人曰く、寒いから。
道の途中で、駅からの特急券があること思い出す。しばしの思案、数秒の後、絃子はポケットからクシャクシャに
した長方形の厚紙を夜の闇へと投げ捨てた、風が吹いたと思ったら、すでにそれは見えなくなっていた。
突然メールの着信を告げる振動がやってきた、器用にバイクの後ろで内容を見る。
Titl どうですか〜
本文:颯爽とあらわれた、優しい王子様に助けられるお姫様の気分は?
携帯を仕舞い込み、チラリと自分の体を預けている人物に視線を向ける。
後輩が言うところの、颯爽とあらわれて、優しい王子様である
コレが王子様、ねえ…
188: National Culture Day 04/11/03 06:50 ID:j67BUYyY(12/13)調 AAS
ちょうど信号で停止する。視線に気づいた播磨が、後ろを向いて、何だよ? と言う。
絃子は、別に、と言ってプイっと横を向く。
眼前の信号は青へと変わり、再びバイクが走り出す。
王子様にしてはヒゲにグラサンで、顔も納得できないし、言葉遣いも悪すぎる
乗ってきたのは白馬どころか、自分があげた中古の単車
というか、助けに来たんじゃなくて、ただ単に迎えに来ただけじゃないのか?
優しさは……それなりにあるようなので、なんとか許せるといったところ
総合評価としては……まあ、激甘の採点でギリギリ、本当にギリギリで及第点にしてやろう
そう播磨を評価すると、自分の顔をポスっと播磨の、いつの間にか自分よりも大きくなっている背中に埋める。
さらに絃子はもう少しだけ、体を密着させる。そうそう、夜風が寒いから。
再び考える
コレが王子様ということに、心の底から納得はいかない、納得はいかないが――
珍しく、邪悪な意思のない笑みを浮かべて、そして小さな声で呟いた。
「まあ、たまにはお姫様というのも………悪くないかな」
目をつぶって、出来損ないで欠陥品の『王子様』に体を任せ、身を預ける。
二人が乗ったバイクは、もうすぐ二人で住んでいるマンションへと着こうとしていた。
fin
189(1): 犬@リハビリ中 04/11/03 06:51 ID:j67BUYyY(13/13)調 AAS
クズリさんが誕生日ネタでくるなら、自分は祭日ネタで投下
次はきっと勤労感謝の日に、播磨に奉公(奉仕?)させる絃子さんの話を書いたりする予定です
まあ、上は冗談ですが、いろいろなジャンルの作品を書いて勘を取り戻したいです、ハイ。
リハビリがてら、絃子さんの台詞は最後だけ、と自分ルールでやってみる
しかし、上手くいったんだかいかないんだか分からない。 _| ̄|○
超姉万歳、というところでまた次回作で
正直あるかどうかは分からないんですが
190: 04/11/03 11:16 ID:g9nzsCbw(1)調 AAS
GJ!
(゚д゚)ウマー
なんか可愛いなあ絃子さんが。
楽しく読ませて頂きました。次回作待ってます。
鯖が激重でなかなか書き込めないよ。(つд`)
191: 04/11/03 12:02 ID:h0Bqa8vE(1)調 AAS
>>189
グッジョブ!
雰囲気あるなぁ
葉子さんの播磨へのメールにワロタ
どんなノリなんだこの人はw
絃子さんの描写も良かったよ。こういう超姉もイイ!
192: 04/11/03 15:48 ID:uxVDjyds(1)調 AAS
久々の本格派、堪能させてもらいました。
いや、マジで上手いっス。
193(1): 04/11/03 16:20 ID:ARYIwzt6(1/2)調 AAS
11/24はSSが投稿されるようになって一周年記念ということで、
何か書いておきたいなぁ。
194(1): 04/11/03 16:46 ID:nVzlxwVg(1/2)調 AAS
もう一年か…某キャラ萌えスレをのっとって始まったんだっけか。
あの頃は友人とわきゃわきゃいいながら本スレ・SSスレ・分校見てたな。
195: [age] 04/11/03 17:26 ID:RHs0PJPs(1)調 AAS
ヒゲへ
プロの漫画家になりたければ裸婦デッサンをしなさい
沢近より
196: 04/11/03 17:34 ID:ARYIwzt6(2/2)調 AAS
>194
いや、実を言うとそうではない。最初は半角二次元板のハァハァスレで
書かれたのが最初。書いた俺が言うのだから間違いない(w
197: 04/11/03 17:39 ID:2zRe8dGk(1)調 AAS
どちらにせよ194とその友人はキモイ
198: 04/11/03 18:15 ID:1lvvzbVY(1)調 AA×
![](/aas/entrance2_1099026765_198_EFEFEF_000000_240.gif)
199: 04/11/03 18:20 ID:PskWhEt6(1)調 AAS
>>193
そこで回帰して旗ですよ。
200: 04/11/03 18:32 ID:w4kAOSnA(1)調 AA×
>>194
![](/aas/entrance2_1099026765_200_EFEFEF_000000_240.gif)
201: 04/11/03 20:27 ID:nVzlxwVg(2/2)調 AAS
( ゚∀゚)ウヒョー
202: 04/11/03 23:36 ID:.qdEU0zo(1)調 AAS
>>184のとこ、絃子から見て播磨は従弟ですよね?
203(1): 04/11/04 00:30 ID:WsjzX8Gk(1/9)調 AAS
SSを作ってみました。長いので分割させて投下します
204: 04/11/04 00:35 ID:WsjzX8Gk(2/9)調 AAS
保健室の前でサングラスと髭を蓄えた長身の男がウロウロしている。
男の名前は播磨拳児、失神高校史上で最強最悪の不良であり回りの生徒
からは恐怖と畏怖の念を持って恐れられている。
「入るべきか、入らずべきか・・・天満ちゃん」
極悪な不良とは思えない情けないことを口にする。心配で心配でオロオ
ロする。体調を崩して保健室に運ばれていった天満の様子を見に来たのだ
が、入り口の前で躊躇してしまって入ることができない。不良の溜まり場
に殴り込みに行くより、こっちの方がずっと怖い。
深く深く溜息をつく、手が震えて戸を開ける事ができない
「くそ・・・天満ちゃんの様子がみてぇ・・・だが、しかし・・・」
腕を組みあれこれ悩んでいた播磨の視界が突然消える。目の前が真っ暗に
なる自らの現状を表すようだった。
「ハーリーオー、何してるの?」
聞きなれた女性の声がする、声の主は最近学校に編入されてきた保険医の
お姉さんだ。播磨とは少なからず縁があり親しい関係だった。
彼女は保健室の前でウロウロしている播磨の姿を見つけて後ろから抱き着
いてきたのだった。手で目を覆い隠したのはちょっとした悪気の無いスキン
シップなのだが、播磨にはそうは思えなかった。
「だ・・抱きつかんでください!姉ヶ崎先生!」
振り払うわけにもいかず、播磨は姉ヶ崎が自分から離れるまで待った。
姉ヶ崎は「冗談冗談」と言って播磨から離れる。正直、播磨にとってこの女性は
心臓に悪かった。
205: 04/11/04 00:39 ID:WsjzX8Gk(3/9)調 AAS
姉ヶ崎に手を引かれて保健室に入る。無邪気なスキンシップなのだが、いらぬ
誤解を着せられるので止めて欲しかった。姉ヶ崎は自分のデスクに腰掛け、播磨
にも座るように促す。
「ちょっと待っててね、お茶出すから。紅茶でいいよね?」
紅茶の匂いが鼻腔をくすぐる。鼻から吸収した紅茶の香りは播磨の脳を刺激し
てリラックスさせる成分を分泌させる。お茶は味だけではなく香りを楽しむ、
播磨は茶の心を知っていた。
茶を飲み少し談笑をする、今の播磨には心の平静さが必要だった。心を落ち着か
せるためにゆっくり茶を口にする。
「ところでハリオ。何しにここに来たの?まさか・・・」
姉ヶ崎は「サボるために来たんじゃないでしょうね?」と口にしようとしたが
言う前に播磨に「違います!」と、真剣な剣幕で遮る。
「自分は塚本さんの様子を見に来たのです!」
言ってしまった、播磨は己の言動に後悔した「俺は天満ちゃんが好きです!」
と宣言したようなものだった。
姉ヶ崎は表情を曇らせて播磨に告げる。
「塚本さんね。さっきまでここで寝てたけど、さっき病院に行くって言って出て
いっちゃったわ。ちょっと前のことよ」
ガタっと椅子を倒して播磨が立ちあがる。出口に向って一目散に走り出す。
「ちょ、ちょっと、ハリオ!どこ行くの?」
礼を言って保健室を出る。確か天満の家と病院は通り道にあるから、どっち
行っても道は一緒だから、会えるかなり確率は高い。
愛車を取りに駐車場に向う。急げば会えるかもしれない。いや、会わなくては
ならない。このまま会えずじまいだと心労で倒れるかもしれない、播磨は真剣に
そう思っていた。
206: 04/11/04 00:42 ID:WsjzX8Gk(4/9)調 AAS
「拳児君、どこに行く気かね?」
バイク専用の駐車場の前に刑部絃子がいた。播磨は色々と文句を言いたい人物
だったが今はそんな事を言う暇は無い。1分1秒が惜しい。絃子を素通りして愛
車のバイクに向う。
「イトコ・・・止めてくれるな。俺には行くべき場所がある」
絃子は首を横に振って「違う、別に止めにきたわけでない」と言う。播磨を止めに
きたわけではなさい、この従弟に渡すものがある。
「ほら、ノーヘルじゃマズイだろ?」
絃子はどこから持ってきたかは知らないが、ヘルメットを差し出してきた。無言
でヘルメットを受け取る。播磨はヘルメットを持っていなかった。
「すまねぇ・・・恩にきるぜ。イトコ」
「さんをつけんか、さんを・・」
絃子が窘める間も無く、播磨を乗せたバイクは疾風の如く去っていった。何故か絃子
は播磨の行く先を問わなかった。
「無事に会えるといいな。拳児君、ただ次の授業までには帰って来いよ」
絃子は天満が保健室に入っていくのをたまたま見かけていた。彼女に恋をしている播
磨が様子を見に来ないわけがない。播磨が保健室を飛び出したと姉ヶ崎から連絡を受けて
播磨の行動を予測して先回りをしていたのだった。
「これで姉妹揃って欠席か。やっぱり帰ってこないかもな」
絃子は深く嘆息をした。播磨は欠席が多い、留年しなければいいのだが
207: 04/11/04 00:46 ID:WsjzX8Gk(5/9)調 AAS
運転しながら考える。天満を追いかけるのはいい、だが何と声をかけたらいい?何を
してあげればいい?考えても考えても答えは出てこない。ただただ、天満が心配だった。
(ウダウダ考えても仕方ねぇことかもしれねぇな・・とにかくまずは追いつく!)
街の景色がドンドン流れていく、天満の通学経路は知っている、そこを辿っていれば
必ず会える。かなりのスピードを出しているが天満だけは見逃すまいと。猛禽類が狩りを
するが如く、播磨は視覚を研ぎ澄ませる。
「見つけた・・・・塚本!」
目標の姿を捕らえる。天満は電柱に手をかけて俯いていた、肩で息をしていて立ってい
るのも辛そうだった。播磨は路上にバイクを駐車させて天満に駆け寄る、あまりの悲壮感に
胸が張り裂けそうな思いだったが、自分のやるべきことはすぐに分かった「天満ちゃんを病
院に連れていく」こと、目的を作ってくれたことだけはありがたかった。
「は、播磨君。どうしたの?」
天満は播磨の姿を見て驚きの声をあげる、今はまだ昼休みの時間。だからこそ播磨がこん
な所に来るとは夢にも思っていなかった。
「乗りな・・・病院まで連れていってやるから」
ぶっきらぼうに言う。必死に頭の中を絞りだして出てきた言葉は気が利いてない不器用な
言葉だった、何事も頭の中で描いてるようにはいかない。播磨の考えではもっと綺麗な言葉
を吐けたはずなのに
「でも・・・播磨君、学校は・・・」
播磨は、天満が言い終える前に絃子がくれたヘルメットを天満に無理矢理被せる、呆然
とする天満を抱えてバイクに向う。天満に主導権は与えない。播磨は天満に心で詫びる、
不器用な俺を許してくれと
208: 04/11/04 00:48 ID:WsjzX8Gk(6/9)調 AAS
「フラフラの女の子を一人で家に帰すわけにはいかねぇだろ。心配すんな。お前を運んだら
すぐに戻るからよ」
天満を後部座席に座らせて自分も運転席に飛び乗る。天満は何も言わなかった。播磨の好
意に甘えることにしたのか、播磨の背にしがみついてきた。こんな自分を信じてくれた天満
に播磨は感謝の念を抱かずにはいられなかった。
「ゴメンね。病院に行く前に家に行かないと・・・」
播磨は天満を後ろに乗せてツーリングがしたかった。だが、こんな状況でそれが適ってし
まうとは皮肉なものだ。自嘲的に笑う
(俺はこんなシチュを望んでないわけじゃなかった。だが、やっぱり元気な天満ちゃんが一
番だぜ・・・弱ってる君は見たくない)
「播磨君・・どうしたの?」
天満の言葉が物思いに耽っていた播磨を現実に引き戻す。
「おお!わりぃ、わりぃ!出発するからしっかり掴まってな」
播磨はゆっくりバイクを流す、普段は絶対に守らない法定速度をちゃんと守り、無理な
走行もしない。教習所で習った模範的な運転をする。今、自分の背にいるのは宝石よりも
どんな大金よりも大切な女性を乗せているのだから、慎重かつ丁寧な運転が必要だ。
209: 04/11/04 00:51 ID:WsjzX8Gk(7/9)調 AAS
運転中に播磨は天満から色々なことを聞いた。今朝から体調があまり良くなかった、保健
室で休んで一次的に体調は回復したが帰り道で急激に悪くなっていったこと、播磨が来てく
れて嬉しかったこと、最後のは播磨にとって、とても嬉しい言葉だった。
「播磨君って私の家どこか知ってたっけ?」
背中越しから天満が声をかけてくる。天魔の記憶によると播磨は塚本家に来たことは無い
はずだった。だが、天満のナビゲート無しで家に向っている、ちょっと不思議だった。痛い
所を付かれて播磨は焦る。天満を上手く誤魔化すための言い訳を考える
「前にここらをフラフラしてた時、お前の家をたまたま見つけたんだよ」
播磨は苦し紛れの嘘をついた。たまたまではない、高校入試の際に血眼になって探した末に
ようやく見つけたとはとても言えない。それを聞いて天満はクスクスと笑う
「嘘ばっか・・・播磨君は八雲の彼氏だもんね。知らないわけないよね」
「あのな塚本、妹さんとはなぁ・・・」
天満は相変わらず勘違いしている。確かに八雲は播磨の家に泊まったこともある、今
も世話にもなっている、播磨が誤解を解くための言葉を選んでいる時に、無常にも塚本
家の前に着いてしまった
210: 04/11/04 00:57 ID:WsjzX8Gk(8/9)調 AAS
「あっ、着いたんだ・・・ありがとう。播磨君」
礼を言って天満はバイクから降りる。フラフラとした不安定な足取りで自宅に戻る。
バイクに乗っている間にも病は進行して体調はより酷くなっているようだった。そんな
天満を見て播磨は己の無力感を痛感していた。ズボンのポケットから独特の振動があ
ったのに気づくのに少し時間を要した
「ん・・・こんな時にメールかよ。誰からだ?」
ポケットから携帯を取り出して内容を確認する。登録してないアドレスだったが相手
はすぐに分かった、いつも八雲と一緒にいる金髪の娘しかいない。播磨と関わりのある
下級生の女子など八雲と彼女しかいないのだから
題名:八雲が・・・
本文:多分知ってると思いますけど、八雲が風邪で学校を休んじゃいました。
後でちゃんとお見舞いに行って下さいね。
携帯を閉じてポケットにしまう。新たな目的ができて、播磨の身に力が入る。まだやる
べきことがある。
「ちっ・・・このまま学校に戻るわけには行かなくなっちまったぜ!」
急な事態に舌打ちする。妹の八雲まで倒れてしまっている以上、自分が天満を連れて
いくしかない。例え嫌がっても連れていくと覚悟を決める。
「妹さんがいなかったトコで気がつくべきだった・・・」
播磨は天満に会うことのみで頭がいっぱいで肝心なことを失念していた。何故、妹の八雲
が天満の付き添いでいなかったのかを、己の愚鈍さを呪わずにはいられなかった。
211: 04/11/04 00:59 ID:WsjzX8Gk(9/9)調 AAS
この板重過ぎますね。続きは早い内に
212: 04/11/04 01:23 ID:b0B7OBL2(1)調 AAS
王道?播磨カコイイ!
期待支援
213: 04/11/04 02:03 ID:239o2ozc(1)調 AAS
姉妹どんぶり上げ。
214: 闇夜 ◆PMny/ec3PM 04/11/04 02:34 ID:0yEKhHZU(1)調 AAS
乙。
失神高校ワロタw
215: 04/11/04 02:36 ID:K7HiWp2A(1)調 AAS
今は軽いぞぅ。
216: 通りすがった麻生サラ好き 04/11/04 12:39 ID:SDB9OAw.(1)調 AAS
ちょっと文章が説明的ですね。
後、『・・・』ではなく、『…』にした方が良いと思われます。
ちなみに、「てん」と打って変換で出ます。
後、単体で使うよりもふたつ繋げた方が若干、見やすい……かどうかは人に
よりますので一概には言えませんが、大抵の小説やSSでは
『〜…〜』より『〜……〜』を多用している事は間違いないと思います。
最後に、「入らずべきか」というのは、播磨が不良(=若干、学力が足りない)だと
いう事を差し引き、敢えてこういう文にしたのでしょうか?
普通は「入らざるべきか」だと思いましたので。
では、続きをお待ちしています。
217(1): 04/11/04 15:18 ID:VdsAnPcI(1)調 AAS
久々に犬サソキター、GJです
…と、犬サソ自体に反応している人がいない
今の住民は犬サソを知らないと思ったら、ちと悲しい
218: クズリ 04/11/04 16:15 ID:OavXA192(1/8)調 AAS
犬さん復活おめでとー。
ということで最近、こちらに書いていない私でしたが、やはり原点はここだと思い直して、
またちょくちょくお邪魔させていただこうかしら、と。
そう思いながら、書き始めた頃のことを思い出しながら書いていたんですが……
元々、大したことない実力が、さらに落ちてる気がする……どうにもこうにも…… _| ̄|○
それでも投稿はするんですが。
ちなみに今回の作品は、某絵師さんから頂いた絵と、そこに寄せられた文に感銘を受けて
書かせていただきました。本当にありがとうございますm(_ _)m
ということで、お目汚しになるやもしれませんが。
『My Place』
副題は、「〜そして私は、この場所に至った〜」
219: My Place-1 04/11/04 16:16 ID:OavXA192(2/8)調 AAS
幼馴染という言葉に甘えていた。
いつまでも傍にいるものと思い込んでいた。
突きつけられた現実から、もう目を背けられない。
失いたくない、人だから。
My Place
〜そして私は、この場所に至った〜
空が、目に痛いほど赤い。雲が綺麗な茜色に染め上げられ、風の河の流れに乗って去っていく。
わずかに開けた窓から入り込み、カーテンを揺らす空気は冷たく、冬の訪れが間近に迫っているこ
とを感じさせる。
少女、周防美琴は一人、ベッドに横たわって天井を見つめていた。その顔、そしていつからかま
た長く伸ばし始めた髪が、差し入る赤光を照り返して微かに朱い。やがて小さく、その形の良い唇
が動く。
「……やっぱ、このまんまじゃ、いられないよな……」
紡ぎ出されたは言葉であり、苦悩の欠片だった。顔を一瞬、顰めた後、美琴は勢いをつけて上体
を起こす。そのまま横に顔を向け、窓の外を見つめる。広がる、いつもの風景。空、そして彼の部
屋の、窓。こんなにも近い距離で過ごしてきたんだな、と美琴は改めて思う。
灯る光、おそらく彼は今、勉強をしているのだろう。今は高校三年生の秋。大学の入試が間近に
迫っているからだろう、日付が変わるぎりぎりの時間まで彼の部屋の明かりが消えることはない。
ホント真面目な奴だよな、と彼女は小さく笑う。隣人であり、幼馴染である花井春樹が、入試の
勉強に励みながら今でも、朝四時に起きていることも知っている。文武両道を地で行く男だ、彼は。
窓から呼びかけようとしてふと、思いとどまる。何も変わらないじゃないか、それじゃ。鞄の中
から携帯を取り出して、メールを作る。
『花井、暇か?ちょっと付き合えよ』
短い内容。なのに何故か、送信ボタンを押すのに勇気がいった。笑い声が心に響く。
何やってんだよ、美琴さんともあろう人がさ。決めたんだろう?迷うなよ。
大きく息を吸い込んで、覚悟を決める。
そして送信ボタンを、深く、押し込んだ。
220: My Place-1 04/11/04 16:17 ID:OavXA192(3/8)調 AAS
「遅いぞ、周防。そっちから声をかけたのに、待たせるとは何事…………?」
「悪ぃ、悪ぃ。ちょっと、用意するのに時間がかかってさ」
扉を開けて出てきた美琴を責めようと振り返った花井は、そこに見た姿に一瞬、息を飲んだ。そ
の反応に、美琴はひそかに満足する。
普段、彼女が花井と二人で会う用事と言えば、大体が組み手であり、今日もおそらくそうだと思
っていたのだろう。そしてそういう場合、彼女はすぐに道着に着替えられるように、ラフな格好だ
った。だが、今日の美琴は違った。
惜しげもなく肩を出した白のワンピースは、小粒のパールの上品な輝きが、胸元をあしらってい
る。グロスを塗った唇は艶々と薄桃色に輝き、首筋に振った香水の甘い香りがほのかに身を包む。
「周防、どうしたんだ、その格好」
目を丸くする花井に、美琴は照れ臭そうに笑いながら、
「これ?この前、買ったんだ。どうかな?」
言いながら、美琴はポーズを取ってみせる。背が高いこともあって、なかなかに様になっている
のだが、花井はと言えば、
「そんなに肩を出して。風邪をひくぞ、周防」
「……そういう奴だったよな、お前って」
思わず、一つ溜息。
だがそれが彼らしい。そう思うと、自然に浮かぶ微笑。顔を上げて美琴は、
「なぁ、花井。ちょっと歩かないか」
いつも通りの、気軽な気持ちで彼を誘う。一瞬、不思議そうな顔をした花井だったが、
「ふむ。まあ、いいだろう」
と鷹揚にうなずく。その様が、あまりに想像通り過ぎて、美琴は小さく噴出した。
そうだよな。これが、花井だよな。
思うと、何故か、心が楽になった。
「それにしても、一体、どういう風の吹き回しだ?」
「ま、いいじゃん。たまにはこういう日があっても、さ」
並びはしない。先を歩く美琴、その後を花井が付いていく。
沈む夕陽を遠くに眺めながら歩いている彼女の脳裏に、ふと浮かぶ既視感。
いつだったか、こんな風にして歩いたことがあったような……
「懐かしいな」
背中からかけられた声に、歩みを止めることなく、美琴は肩越しに振り返る。
221: My Place-1 04/11/04 16:18 ID:OavXA192(4/8)調 AAS
「……何が?」
「小学校の頃は、こうしてよく、二人で歩いたものだったな」
ああ。そうだったっけ。美琴はそれで思い出す。
今の彼からは想像も出来ないが、昔の花井は美琴よりも弱く、性格も大人しかった。
そして、いじめられていた。
何かのきっかけがあって彼は変わったのだが、それが何なのかを美琴は知らない。ただ、自分が
ついていてあげなければ、と思っていた存在が、独り立ちしたことを嬉しく思いながら、それでも
拭いきれない寂しさがあった。
あれから随分と年月が経つ。そんな想いがあったことを、忘れてしまうぐらいに。
「懐かしいな」
だから美琴は、彼の言葉を繰り返す。万感の思いを込めて。
「それで――――何があったんだ」
ただ、歩き続ける二人。会話のないままに、いつしか美琴の足は矢神神社へと向いていた。階段
をゆっくりと上る途中で、花井の静かな、そして深い言葉が空気を震わせる。
足が止まる。
唐突に吹いた一陣の風が、髪とスカートを撫でていった。
花井に背を向けたまま、美琴は軽く空を仰ぎ、そしてわずかに微笑む。
ほんと、何でそんなに私の事、よくわかるんだよ。
幼馴染。その言葉が不意に、胸の奥に浮かんでくる。
「早いよな、一年って」
「ん?ああ、そうだな」
戸惑うような彼の声を受けながら、振り向かないままに、美琴は喋り続ける。
「もうすぐ、卒業なんだよな、私達」
「……まだ半年もあるぞ」
「一年があっという間なのに、半年なんてすぐだろ?」
その言葉に、花井が軽く肩をすくめる気配が伝わってきて、彼女は小さく苦笑する。
「去年の秋だっけ。お前が塚本の妹に、フラレタのって」
空気が、凍った。
222: My Place-1 04/11/04 16:18 ID:OavXA192(5/8)調 AAS
「……ああ、そうだな」
だがそれも、一瞬のことだった。彼の声は感情を押し殺したものだったが、それでもはっきりと、
力強く答えた。
詳しいことを、彼女自身は知らない。ただ、花井が塚本八雲に告白をし、フラレタという事実だ
けが、彼女の耳に入ってきていた。もっとも、それでなくても、彼の腑抜け具合を見ればすぐに、
わかったことではあったが。
「……辛かった?」
その問いかけに、惑う雰囲気。
また吹く、風。
「ああ。辛かった」
「――――そっか」
正直な答えを、美琴は全身で受け止める。まだ彼女は、振り向かない。
花井の顔を、見ようとしない。
流れる雲。随分と歩いたように思えて、それほどの時が経っていないことを、遠くに沈もうとし
ている夕陽が教えてくれている。
「それが、どうしたんだ、周防」
彼もまた、何かを振り切るのに時間を必要としていたのだろう。しばしの沈黙のあと、やっと、
花井は口を開いた。
「ん……」
小さく相槌を打ってから、美琴はまた、天を仰ぐ。
階段の脇に植えられた木々、揺れる枝。
いつも来る場所なのに、こんなにも美しいことを、今まで気付かなかった。
「……周防?」
後ろ手に手を組み、再び黙ってしまった彼女の様子に、彼は案じるかのように問いかけてくる。
そして彼女は口を開く。
「一昨日、さ」
「ああ」
「私、告白されたんだ――――今鳥に」
223: My Place-1 04/11/04 16:19 ID:OavXA192(6/8)調 AAS
「…………そうか」
彼の答えは、それだけだった。
美琴も、それ以上の言葉を聞けるとは、思っていなかった。だから、目を細めて、小さく笑うだ
けだった。
「知ってたんだろ?」
一歩、足を踏み出すと同時に、背の向こうの彼に問いかける。
逡巡する気配の後、花井は重々しく答えた。
「ああ」
きっと、今、私を見てないだろうな。振り向かずとも、彼女にはわかった。事実、彼は美琴の背
中から目をそらしていた。
「だと思った」
「……すまん」
「何で、謝るんだよ」
「いや……」
普段の大きな声ではない。迷うような、小さな声。
「やっぱり、花井は花井だよな」
「どういう意味だ、それは」
「隠そうとしたって、無駄だった、ってこと」
一歩、また一歩と踏みしめるように階段を上る美琴。やがて見えてくる、境内と神社の本殿。
「何で、わかったんだ?その……私が、今鳥に告白されたこと」
「見ていれば、わかる」
「……そういうもの?」
「ああ――――多分、な」
「…………でも、ほとんどの奴らは、気付いていないみたいだったけれどね」
いつも通りに振舞っていた筈だ。馴れ馴れしく振舞ってくる今鳥を、普段と変わらずあしらって
見せた。
『相変わらずね、今鳥君って』
そう言ったのは、親友の一人でもある沢近愛理。塚本天満もまた、それに頷いていた。ただ一人、
高野晶だけは意味深な目をしていたが、そのことに触れようとはしてこなかった。
「やっぱり、花井は、花井だね」
再び繰り返す言葉。俯いて見つめる石段に、蟻が一匹、歩いていた。
「私のこと、よくわかってる」
224: 04/11/04 16:21 ID:rqskEJoU(1/2)調 AAS
支援
225: My Place-1 04/11/04 16:22 ID:OavXA192(7/8)調 AAS
「どうしたんだ、周防。一体」
こらえられなくなったのだろうか。一段飛びに階段を上り、距離を縮めてくる彼の手が、彼女の
肩に触れそうになった瞬間。
最後の一段を登り終えた美琴は、振り向いた。
ほんのわずかな距離で、向かい合う少女と少年。
彼は美琴の瞳に浮かぶ、切なさに射すくめられて、その場に立ち竦む。
「周防?」
「あのさ、花井」
戸惑う彼の、眼鏡越しの目をしっかりと見つめながら、美琴は言葉を口にした。
「今日から、幼馴染をやめないか?」
遠くで、烏が鳴いている。カー、カーと。
226(1): クズリ 04/11/04 16:23 ID:OavXA192(8/8)調 AAS
ということで、リハビリ……
性懲りもなく連載になりそうですが、皆様、長い目でお付き合いいただけると、嬉しく思いますm(_ _)m
それでは、よろしくお願い致します。
227: 04/11/04 16:27 ID:rqskEJoU(2/2)調 AAS
支援になってなかったカナ??
クズリさんの連載物は大好きです!!
美琴さんの言う「幼なじみをやめないか?」とはどういう心境で
言ったのだろう。。。
気になります!続き待ってます!頑張って下さい!!
228: 04/11/04 18:26 ID:J5kF.RMw(1)調 AAS
>>217
反応してないのは以前のようなことを起こさないためじゃないのか?
俺は犬さん復活喜んでるが
前みたいなことになると嫌なんであんまり話題には出さないようにしてるんだが
229(2): 04/11/04 20:51 ID:H/IHZ7H2(1/3)調 AAS
縦笛なんかで連載すんのかよ…
('A`)イラネ
230: 04/11/04 20:52 ID:H/IHZ7H2(2/3)調 AAS
縦笛なんかで連載すんのかよ…
('A`)イラネ
231: 04/11/04 20:52 ID:H/IHZ7H2(3/3)調 AAS
縦笛なんかで連載すんのかよ…
('A`)イラネ
232: 04/11/04 22:39 ID:IxrIc3Qg(1)調 AAS
そう言わずに(´Д`;)
233: 04/11/05 00:46 ID:mGkFfNVI(1/2)調 AAS
分からんでもないけど三回も言うことじゃないのは確かだな
234(1): Rumble fish 04/11/05 01:04 ID:yn0nVX/Y(1/11)調 AAS
舞来たよ舞、ということであえて設定無視して勢いで。
ただ単純にあの二人にぶつけてみたかっただけなので、所属軍が違うのは気にしない方向で。
さて、では。
235: Rumble fish 04/11/05 01:07 ID:yn0nVX/Y(2/11)調 AAS
シーン3
暗い廊下。無音。
累々たる『死体』――敗北者。
「くそっ、どこだ!」
「……おい、こりゃ一旦引いた方が」
「バカ言うな、ここ抜かれるワケにゃいかねぇだろ? しかも相手は」
小声の二人、その背後に音もなく立つ人影。
「たった一人」
「っ!」
「な!?」
驚愕する二人の表情を映し、暗転。
銃声。
「――ごめんなさい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お疲れさま。よかったわよ、つむぎ」
そう言って舞が笑顔で差し出したペットボトルを、はにかみながらも、ありがとう、と
受け取るつむぎ。一口含めば、喉を駆け下りていく炭酸の刺激が快く感じられる。
「急造のバンドにしては上々だったでしょ?」
「言わなきゃ誰も信じないわよ、そんなの。同じクラスの私からしてみれば、異色のメンバー
だとは思うけどね」
「うん、それは私も。その辺は冬木君らしさだと思うけど」
236: Rumble fish 04/11/05 01:10 ID:yn0nVX/Y(3/11)調 AAS
つむぎの言葉に、変なところですごいのよね、と舞も頷く。単なるカメラ小僧と思わせる
ようで、意外に鋭い目を持っている冬木。なんだかんだと問題を起こしながらも、ある意味で
クラスの中枢を担っている一人である。
「それで、クラスの方はどう? 舞ちゃんは見に行かなくてもいいの?」
「盛況だと思うよ、それなりに。私の方の仕事は準備段階でおしまい、当日までの裏方、かな」
「そういうの、舞ちゃんらしいよ」
若干苦笑混じりのつむぎ。
「せっかくなんだから、準備だけじゃなくて本番も楽しめばいいのに」
「楽しんでるって、十分。裏方の仕事だって昔からそっちの方が好きだったしね」
こちらも自覚しているのか、やはり苦笑混じりの舞。
「……ところでさ」
「何?」
「おかしなこと訊くんだけど……どこも変じゃないわよね、私」
わずかに表情を曇らせ、唐突にそう尋ねてきた舞に眉をひそめるつむぎ。
「えっと、別にそんなことないと思うけど……どうして?」
「それがね――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シーン7
教室。荒い息遣い。
背中合わせに立つ二人の男女――沢近と播磨。
「……ちょっと、離れなさいよ」
「うるせぇ。ヘタに動けねぇんだから仕方ねぇだろ」
「……フン」
237: Rumble fish 04/11/05 01:11 ID:yn0nVX/Y(4/11)調 AAS
慎重に辺りをうかがう。
人の姿は見えない。
「このままじゃどうしようもないわね。動くわよ」
「……いけんのか?」
「あっちは一人よ? それに」
「それに?」
沈黙。
耳に痛いような静寂。
「この私と」
画面は播磨の正面から。
沢近の表情は映らない。
「――アンタで負けるわけないじゃない」
一拍の間。
「けっ、言ってくれんじゃねぇか。んじゃあっさり死ぬんじゃねぇぞ」
「その言葉、そのまま返すわ」
二人、口の端に笑み。
死線を抜けてきた者だけに許される、壮絶な笑み。
238: Rumble fish 04/11/05 01:14 ID:yn0nVX/Y(5/11)調 AAS
「Ready――」
沢近、笑みの引いた正面からのカット。
「――Go」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「視線を感じる?」
「そうなの。最初は勘違いかと思ったんだけど、なんだかずっと……ほら」
言われたつむぎが舞の視線の先に目をやれば、何やらこちらを見ている二人連れの女生徒。
何故か二人とも両手を胸元で組んでいて、心なしか潤んでいるような瞳。やがて逆に見られて
いることに気がついたのか、はっとした表情になってきゃーきゃーと走っていく。
「……何あれ」
「こっちが聞きたいの。午前中はあそこまでじゃなかったんだけど……」
はあ、と舞が溜息をついたところに。
「なになに? どうしたの?」
「あ、嵯峨野さん」
つむぎと同じバンドのメンバーだった恵が話に食いついてくる。
「えーとね」
かくかくしかじか、と事情を話すつむぎ。それを聞いて、ふうん、と何かを考える素振りを
見せていた恵が文化祭のパンフレットを取り出す。
「文化祭の前まではそんなことなかった……って言うより、今日からなんだよね」
「え? あ、うん」
さらに問は重ねられる。
「そして、時間が経つごとに気になる回数も増えてきた、と」
「うん……なんだか段々派手になってきてる気もするし」
「派手、って言うと?」
「……さっき、なんか男の子に敬礼されたの」
「あこがれの表情に敬礼、ね」
239: Rumble fish 04/11/05 01:15 ID:yn0nVX/Y(6/11)調 AAS
やがて、出展の一覧を追っていた彼女の目が一点で止まる。
「じゃ最後に一つ確認ね。ちょろっと噂で聞いたんだけどさ、大塚さんってこの間のゲームで
大活躍だったんだって?」
「そうなの? 舞ちゃん」
「……活躍とかじゃなくて、私はああいう馬鹿げたお遊びは早く終わらせないと、って思って」
ちょっとがんばりすぎたかも、と次第に尻すぼみになる声。それを聞いて、だったらさ、と
パンフレットのある出展題目を指し示す嵯峨野。
「もしかして、コレのせいなんじゃない?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シーン9−3
カタン、という小さな物音。
振り返る沢近。
視界の中で動く黒い影。
「そこっ!」
「待てお嬢、そいつは」
その影に当たり、カン、と軽い音を立てて跳ね返る銃弾。
「鏡!?」
「くそ、逃げろ沢近――!」
声に被さるようにして、沢近の後頭部に静かに突きつけられる銃口。
「チェックメイト、かしら」
「……参ったわね」
240: Rumble fish 04/11/05 01:16 ID:yn0nVX/Y(7/11)調 AAS
両手を上げた沢近の手から二丁の銃が落ちる。
その正面に立つ播磨は動けない。
「ここにきてトラップとはね」
「二対一、だったしね」
「まあいいわ。それじゃ」
笑顔の沢近。
「あとは任せたわよ」
そして――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こらーっ!」
目指す教室のドアを勢いよく開け、そのまま怒鳴り込む舞。後ろには、苦笑いを浮かべる
つむぎと恵の姿。
「どういうことなの!? 高野さん!」
「それはこちらの台詞だと思うけど」
臆せず淡々と答えたのは、この部屋で行われている『個人撮影映画』の出展者である高野晶
その人。大入りの客の前、大画面に映し出されているのは先日行われたサバイバルゲームの
模様であり、そして。
『――なんてね』
『え――?』
カチン、と撃鉄の落ちる音だけが響く。
『もう弾切れなの』
さばさばとした表情で、愛理の後頭部に突きつけていた銃を下ろす舞の姿だった。
241: Rumble fish 04/11/05 01:18 ID:yn0nVX/Y(8/11)調 AAS
「撮影の許可は取ったと思うけど?」
「それはいいの。高野さんのことだから、こういう風になるのはなんとなく予想出来てたし」
「だったら何か問題が?」
しれっと言ってのける晶に、遂に舞が沸点を突破する。
「だからどうして私の扱いがこんなに大きいの!?」
――そう。
前半部での鬼神のごとき活躍、そして終盤においても愛理と拳児――それぞれに様々な意味で
有名人たる二人を敵に回し、最後まで戦い抜く。ある種主役とさえ言えるポジションが、その
映像の中では舞に与えられていた。
それ故に、この映像を見た生徒から口コミで評判が伝わり、仮名も何も使っていない登場人物
たちを捜すのはそう難しいことではなかった、というのがことの真相。
で。
「その方が面白いと思ったから」
「な……そんな!」
またもあっさり言い放つ晶に、舞が一瞬言葉に詰まる。そこでさらに、ねえ、と客席に向かって
問いかける晶。え、と振り向いた舞の視界に映ったのは。
「舞さん、ですか?」
「握手してください!」
「サイン!」
「え、あ、ちょ、待っ――」
にわかファン、とでも言うべきか、文化祭の空気にも後押しされてテンションの高くなっていた
観客たちにもみくちゃにされる舞。晶はと言えば、すっとその隙間を縫うようにいつのまにか抜け
出し、つむぎや恵と一緒にその騒ぎを眺めている。
242: Rumble fish 04/11/05 01:21 ID:yn0nVX/Y(9/11)調 AAS
「言わない方がよかったかな……」
「そんなことないと思うよ、嵯峨野さん。だって舞ちゃん、嬉しそうだもん」
確かにつむぎの言葉通り、先程まで言っていたほどに舞に嫌がる素振りはなく、その表情には
心なしか笑顔さえ見える。
「舞ちゃんは裏方だけでいい、って言ってたけど、こういうのも、ね」
高野さんもそう思ったからなんでしょう、と話を振るが、さあ、と晶はやんわりそれをかわす。
「それに、これを見て慌てるのは大塚さんだけじゃないよ」
「……それって」
「……やっぱり」
つむぎと恵が顔を見合わせたところに。
「どういうことだよ!」
「どうなってるのよ!」
怒鳴り込んできたのは、サングラスの少年に金髪の少女。火に油を注ぐ、という言葉さながらに、
その場の混沌はさらに度合いを増していく。
「――――!」
「――――――」
「――!?」
喧騒と熱狂。
日常とは違う様々な空気を飲み込んで、文化祭の初日はその熱をますます上げていく――
243(4): Rumble fish 04/11/05 01:25 ID:yn0nVX/Y(10/11)調 AAS
……とりあえず反則的に板が重いのはどうにかならないものか、と思いつつ。
内容に関しては……ええ、まあ、その。ごめんなさい、ということで。すべては勢いです。
そしてリハビリ、などと言ってるお二方は既に本格復帰と勝手に認識しております。
今後のご活躍にも期待しておりますので。
244: 04/11/05 01:40 ID:wTiBDC2I(1/2)調 AAS
>>226
続きが激しく気になる。
夕陽に彩られた光景が目に浮かぶようでイイ
245(1): 04/11/05 02:34 ID:wTiBDC2I(2/2)調 AAS
リロードしてなかったら新作がきてた
>>243
楽しく読ませてもらいますた。GJ
舞ちゃんカコイイヨ舞ちゃん
ラストの旗コンビもいい感じ
246(1): 04/11/05 04:31 ID:FgiYABl.(1)調 AAS
>>229
読みたくなければ読まなきゃいいだけだ。
俺は読まない
247(2): 04/11/05 11:57 ID:slGcJBLM(1)調 AAS
>243
面白かった。
凄く面白かったのだが……一つだけ。
舞 は 演 劇 派 で は ?
248: 通りすがった麻生サラ好き 04/11/05 12:20 ID:IEs01jPQ(1)調 AAS
>>247
>>234
249(1): 04/11/05 13:06 ID:ilgynSfo(1)調 AAS
>>243
普段作品投下以外はROMってんですけど感想言わせてください。
とんでもなく、と言っていいほど構成が上手い。
二つの異なる状況を平行に進めてくのは、ある種映画的な感じがしました。
それから地の文に、××は○○だと思った、というような登場人物単体の
思考描写を排して視点を一つに統一したのも上手かったです。
スペースの開け方も秀逸。
同じ書き手として感服というか自信喪失というか…Good jobでした。
…最後ちょっとだけ旗にしてくれたのもニヤニヤモンでした。
250(1): 04/11/05 15:10 ID:p7Z7aIuM(1/2)調 AAS
>>229>>243
職人さんのやる気をなくすようなことを言うな
IFスレなんだからどの派閥の作品を投下しようとその人の自由だろ
251: 04/11/05 15:25 ID:p7Z7aIuM(2/2)調 AAS
↑>>246
だった
252(1): 04/11/05 17:24 ID:bqM1fKE6(1)調 AAS
>>250
まぁ、いちいち宣言することじゃないわな。
好きじゃない派閥、気に入らない展開のSSがあれば見なくていいだけで
わざわざそのことを書き込む必要はない。
253: 04/11/05 19:34 ID:K4SKRNO6(1)調 AAS
急に軽くなったな
254: 04/11/05 22:14 ID:/TBxHsys(1)調 AAS
>>252
そのとおりですね
255: 04/11/05 22:49 ID:B3jLzP0A(1)調 AAS
禿になった時、天満・周防・高野・沢近がバラしたと考えずに花井がバラしたと播磨は思ったわけですが
全裸で口を押さえた時、高野と沢近が皆に話していないので信頼?のようなものがあるかもしれないけど天満・周防を信頼するのはどうしてだろうか?
特に信頼関係が強いのは沢近-播磨ラインと高野-播磨ラインではないだろうか?
そう考えると高野-播磨SSが書かれてもいいのではないかと思う。
高野は書きづらいから、沢近でもぃぃょ。
256: 04/11/05 23:13 ID:xYTzUOCw(1)調 AAS
黙って頭頂部全部剃られるまでジッとしてたとも思えんが。
お嬢の最初のひとカットだけで抵抗して、あとはバランス取るため
泣く泣く自分でカットしたとかそんなじゃないのかと。
だもんだから、完全に剃りあがってることは仲良し四人組は知らないんじゃ
ないのかなーとか思ったり。
257: 04/11/05 23:15 ID:mGkFfNVI(2/2)調 AAS
雑談はやめとけ
258(1): 243 04/11/05 23:17 ID:yn0nVX/Y(11/11)調 AAS
何と言うか、自分では手探りタイプの作がうけると不思議な感じがします。
まさしくなんとかも数打ちゃ、の世界。
>>245
地味に舞はフェイバリットなキャラクタなのですが、今号のあれを見てしまうと。
と言うか、あれなら騎馬戦でも活躍出来たような気がしないでもありません。
>>247
その辺はお察し下さい。話の筋が先行していて、確認したら演劇だったけどまあいいや、が真相なのは
ここだけの話。
>>249
ぽっと出の思いつきをそこまで買っていただけると、嬉しいやら恥ずかしいやら。
並行進行は遠い昔のリベンジ、晶は映画で出展する、というのが下地で、なら台本っぽいフォーマットに
してみるか、と大雑把に。
いろいろ書き込まないでいくのがどうなるか、といった感じだったんですが、概ね好評のようでほっと一息。
沢播は展開がああだったので必然的に。熱くなると二人ともカメラのことなんて忘れそうですし。
最近まったくあの二人で書いてなかったので、自分内でのバランスとりにも。
259(1): 04/11/06 10:02 ID:yqphVWYc(1/2)調 AAS
執事の中村というペンネームで入賞してしまった為に沢近が播磨に謝罪
「だったら漫画描いてみろよ ま・ん・が!ま・ん・が!」
260: 04/11/06 12:12 ID:4CV/tF4Y(1)調 AAS
本編もつまんねーけどSSもつまんねーな
261(1): 04/11/06 13:19 ID:llJNT9h.(1)調 AAS
>259
そして沢近の才能の前にひれ伏し、自身は断筆してアシ専門になる播磨
262: 04/11/06 14:11 ID:yqphVWYc(2/2)調 AAS
播磨と伊織の中身が入れ替わってしまうSSなんぞ
誰か書いてたもれ
263: 04/11/06 15:43 ID:laXXz6lo(1)調 AAS
>>258
活躍しようにも馬がやる気の無い今鳥じゃ無理だよ。
264: 04/11/06 20:15 ID:1ctYa2tA(1/2)調 AAS
GJ!!
265: 04/11/06 20:27 ID:1ctYa2tA(2/2)調 AAS
あっ、上は>243に対する意見ね
266: 04/11/06 21:47 ID:0KE8iOJI(1)調 AAS
>>261
意外と播磨を尊敬しちゃいそうな気もする。
自分はピアノ諦めたけど、播磨は頑張ってるからね。
とマジレスw
267: 04/11/07 00:38 ID:Btk0AG0E(1/23)調 AAS
約3ヶ月ぶり3度目の投下いきます。
268: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:39 ID:Btk0AG0E(2/23)調 AAS
「あ〜、明日はとうとう文化祭か〜」
塚本天満が感慨深げに呟いた。その声はいつも元気な彼女らしからず、
少しばかり固かった。そんな天満に美琴が悪戯げに微笑みながら言った。
「大丈夫か〜? あんたはいざって時にポカやらかすタイプだからね〜〜」
「言わないでよ美コちゃん〜〜」
美琴の言葉に情けない声で天満が答える。それというのも天満が2ーCの
出し物である演劇の主役に選ばれたからだ。天満の演技自体はなんというか
学芸会のような雰囲気はあるものの、元気と思い切りの良い演技は彼女らしい
愛らしさがあり悪くなかった。だが演技とは関係無い部分で、転んだり、背景や
小道具を破壊したり、共演者に体当たりをかましたりと失敗が多く、それは結局
最後まで治ることはなかった。天満の発言はこれを気に病んだものだった。
「ま、なるようになるわよ」
頭を抱える天満に沢近が言った。そう言われても天満はそうかな〜、といまだ
不安そうだった。想い人である烏丸の前でみっともない姿は見せられないのだ。
あ〜、烏丸クンはバンドできっとカッコイイんだろうな〜。
「でも、早いものよね〜。もう文化祭か〜」
「そうだな、二年になってからもう半年経っちまったってことだもんな〜」
「そっか〜もう半年なんだね〜」
沢近と美琴の言葉に天満が思い出したように言った。言ってから天満は自分で
言った言葉になにか引っかかりを感じた。烏丸クン、二年、半年、烏丸クン……。
269: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:40 ID:Btk0AG0E(3/23)調 AAS
「あーーーーーっ!!!」
「キャッ」
「ぐわっ」
突然叫び声を上げた天満にクラス中の視線が集まる。至近距離で喰らった
沢近と美琴はたまらず耳を塞ぐ。
「どうしたんだ塚本!?」
「ホント、アンタってば唐突なんだから!」
二人の声も耳に入らず、天満は一人深刻な表情で俯いていた。不審に思った
美琴が恐る恐る顔を覗き込んでみるがそれにすら気づかない。
「……忘れてた…」
ポツリと天満の唇から漏れた呟きに美琴が怪訝そうな顔をする。
明日が文化祭、ということは今日は10月29日金曜日。烏丸大路の誕生日
は10月28日である。良くも悪くも一つのことしか目に入らない天満は劇の
練習やらなにやらですっかり想い人の誕生日を忘れてしまっていた。
もうダメだ、いやまだだ! あと半年、文化祭、バンド、今こそが転機なの
かもしれない。ちょっとぐらい遅れても恋人同士になってから祝ったっていいん
だし。
天満は顔を上げるとグッと拳を握りしめ小さく、だが力強く呟いた。
「…やるしかない!」
270: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:41 ID:Btk0AG0E(4/23)調 AAS
文化祭といえば学校生活のなかでも一大イベントである。この日のために
熱心に準備を重ねてきた生徒たちは待ちに待ったこのときを存分に満喫し、
積極的に関わらなかった者たちでさえ熱気にあてられ浮き立つ気持ちを抑える
ことが出来なかった。
それはこの男も例外ではなかった。
たくさんの人々が行き交う廊下をサングラスをかけた偉丈夫が悠然と歩いていた。
播磨拳児である。その足取りは軽く元々険のある顔立ちがどことなく緩んでいる
ことから、彼もまたこの文化祭に浮かされていることがわかる。
そのせいか、彼の脳内で繰り広げられる空想も一段と磨きがかかり、彼の表情
が目まぐるしく変化していく。
やがてフッと引き締まった表情になると播磨は小さく呟いた。
「やるしかねェゼ…」
この3週間というもの、文化祭の演劇の主役に選ばれた播磨はヒロイン役の
塚本天満とともに多くの時間を過ごしてきた。それによって二人の距離はもはや
触れ合わんばかりに近づいたはずだった(播磨主観)。加えてこの祭り独特の
開放的な空気、王子と王女というシチュエーション、文化祭というイベント
そのものが持つ力が播磨を後押しする。告白するならば今日をおいて他はなかった。
271: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:42 ID:Btk0AG0E(5/23)調 AAS
校舎の中をくまなく歩き回りながら播磨は天満の姿を探していた。
サングラスの奥の瞳が想い人を見つけようとせわしなく動き回る。
(まずは劇が始まるまでのこの自由時間に二人きりで文化祭巡り。
そこで親密さをさらに高めたのち俺の情熱的演技でシビれされる!
そしていよいよ告白だぜ!!)
自らの素晴らしいプランに胸を馳せていると、視界の隅でピコピコと動く
黒い影がよぎった。(あれは!? 間違いねぇ)
「天…塚本ッ!」
ようやく見つけた想い人に向かって呼びかける、だが天満はそれに気づかず
歩き去ってしまう。
くそっ、と呟きながら天満を追いかけるが、小柄な体で人ごみをすいすいと
通りぬけていく天満に対して、体格の大きい播磨はなかなか追いつくことが
できない。
天満の後を追って行くうちに渡り廊下を抜け、体育館の前まで辿り着いて
しまった。体育館の前では校舎の中よりもさらに群集が集まっていた。小柄な
天満はその中に埋もれてしまい、播磨は不覚にも見失ってしまった。
ここまできて諦められるか! 播磨は乱暴に人ごみを掻き分けながら血眼に
なって天満の姿を探した。そして播磨が体育館の中に入るとスッと体育館の
照明が次々に消されていく。何事かと播磨が天井を見上げると同時に、体育館に
想い人である塚本天満の声が大きく響いた。
「烏丸く〜〜ん!」
(この声は!? 天満ちゃん!)
慌てて声のほうへ振り返ると、ステージの上に2−Cのクラスメートたちが
各々の楽器を手に上がってきていた。その中にはギターを掲げ持った烏丸大路の
姿もあった。
(か、烏丸! ってことはもしや!)
播磨がステージの手前に目を向けると、そこには恐れていたとおり最前列で
手を振る塚本天満の姿があった。
272: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:43 ID:Btk0AG0E(6/23)調 AAS
その姿を見た瞬間、胸に重い鉛の杭を突きこまれたようだった。耐え難い
胸の痛みを堪えながらも播磨は天満の方へ足を進めた。その足取りはうって
かわって重く、現実のどんな痛みよりも辛い痛みに胸を押さえながらヨロヨロ
と歩いていく。
そのうちに演奏が始まったが、播磨の耳には入らない。今の播磨に感じられる
ものは天満の姿と、自身の痛み以外には無かった。天満に近づくほどに播磨の
歩みは遅くなっていく。近づけば近づくほどに天満の顔がはっきりと見える。
これまで見たどんな表情よりも綺麗な、自分には決して向けられない、恋する
乙女の表情が。やがて天満のすぐ傍まで近づいたが、天満は播磨に気がつかない。
すぐそこにいる彼女を遠く感じながら、播磨は魅入られたように天満の横顔を
眺めていた。
薄暗い中に浮かび上がる白い肌が、光を映した瞳が、朱に染まった頬が、あどけ
ない唇が最高に綺麗で愛おしく想えた。それでも声をかけることはできなかった。
愛しい人の喜びをどうして奪えるのか。
気がつけば演奏は終わりを迎えようとしていた。最後に烏丸のギターが大きく
掻き鳴らされ、このときのために練習したであろう決めポーズがこれ以上なく
キマッた。そして大きな拍手と歓声が湧き起り、それをいっぱいに浴びながら
烏丸たちは舞台袖へと姿を消していった。
天満は演奏が終わった後もホゥと悦に入ったような表情で動かなかった。
だがしばらくするとモジモジと身悶えするように体をくねらせ、そしてグッと
拳を握り締め「よし!」と気合を入れるように呟いた。
273: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:44 ID:Btk0AG0E(7/23)調 AAS
「天…つ、塚本?」
さすがに不審に思った播磨が声をかけると、天満はびっくりしたように
播磨へ振り返った。
「わ! 播磨クンいたんだ」
「あ、ああ」
「そっかー、ごめん気づかなかったよ〜」
「いや…」
「播磨クンも見てたんだね〜。ねぇ、烏丸クン格好良かったよね〜〜♪」
播磨は答えることができなかったが、天満はそれに構わず話しつづけた。
カレリンもすごい歌上手かったし、冬木クンもドラムできるなんて意外〜〜
などと喋りつづけていたが、やはり中心は烏丸だった。
天満は一通り喋り終えると、ハッと気づいたように口元に手をあてた。
「ごめん、私行かなきゃ! またあとでね!」
そう言うと天満はサッと身を翻して走り去ろうとした。
「ちょ、塚本!」
播磨は思わず呼び止めるが、天満はそのまま行ってしまった。彼女の
髪の横に飛び出た二房が激しく上下していることからもひどく慌てている
ことがわかる。
播磨は自分でもわからぬまま彼女を追いかけた。天満はステージ脇の
倉庫の扉の前で一旦立ち止まると、やがて意を決したように中へ入っていった。
播磨も扉の前までやってくると、中から誰かが出てこようとする気配を感じた。
慌てて物陰に隠れると、倉庫の中から冬樹、結城、嵯峨野の三人が連れ立って
出てくるところだった。
274: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:44 ID:Btk0AG0E(8/23)調 AAS
「じゃあ、俺達は機材のことで実行委員とちょっと話があるからさ」
冬木はそう言って倉庫の中に向かって小さく手を振った。扉を閉めると
冬木はいかにも楽しそうに小さく笑いだした。
「あ〜、でも出てっちゃうのがちょっともったいないな〜」
嵯峨野が残念そうに呟いた。
「俺も凄く気になるけどね、でもここで二人きりにしてあげないってのは
ちょっと可哀想でしょ」
「そうそう、応援してあげなきゃ」
「それはまぁ、ね。あぁ、私も恋したいな〜〜」
そんなことを話しながら三人は歩き去っていった。播磨は出るに出られず
三人がいなくなるまで物陰に潜んでいようと考えたが、壁の向こうから聞こえる
天満の声に身動きがとれなくなってしまった。播磨が身を寄せる壁の足元に穴が
開いており、そこから倉庫の中の会話が漏れていた。
275: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:46 ID:Btk0AG0E(9/23)調 AAS
天満は覚悟を決めたつもりだったが、いざ烏丸を目の前にするとやはり緊張
してしまい上手く言葉を紡ぐことができなかった。小さく深呼吸をしてどうにか
心を落ち着けると、烏丸を真正面からグッと見つめた。が、やはり恥かしくて
すぐに赤くなって目をそらしてしまう。
烏丸はといえばいつもとなんら変わらぬ無表情のまま、焦点が合っているのか
解からない目で天満をジーッと眺めていた。
やがて天満は正面から見つめることを諦めたのか、少し俯きながら上目遣いで
烏丸を見やりながらおずおずと口を開いた。
「か、烏丸クンお疲れ様」
天満がそう言うと烏丸はコクリと頷いて返した。
「私、一番前で見てたよ。その、か、か、か、か……カレー! じゃなくって!!」
カレーという単語に烏丸がビクッと反応するが、そうではないと解かると
また元の無表情に戻ってしまった。
「か、か、格好良かったよ! スゴク!」
顔を真っ赤にして天満がそう叫ぶと、驚くことに烏丸は微かに微笑みながら
ありがとうと小さく言った。天満はその微笑みにますます赤くなりながらも
ありったけの勇気を振り絞ってずっと言いたかったことを、本当に伝えたかった
ことを言おうとした。
「あの、その、私ね、ずっと烏丸クンに、言いたいことが、あったの」
緊張のあまりに思うように動かない喉をどうにか動かしながら言葉を続けた。
「あのね、あの……」
しかし、それ以上がどうしても言えなかった。興奮と緊張にわけもわからず
涙がにじみ、喉は震えて声にならない吐息だけが漏れる。今にも零れ落ちて
しまいそうな涙を精一杯堪えながら、言葉を搾り出そうとする。
276: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:47 ID:Btk0AG0E(10/23)調 AAS
呼吸を繰り返すたびに次こそ言おうと心に決める。
それでも言えずその次こそ、
次の次こそ。
だが、やはり言えない。訳も無く泣き叫んでしまいそうだった。それでも
耐えるのは、ここで泣いてしまったらきっともうお終いなのだと、二度と
こんな勇気を持つことはできないと、そう感じていたから。
でも、もう限界だった。天満の大きな瞳から涙は溢れ出てしまった。頬を
伝う温かなモノは彼女のなけなしの勇気を折り取るには十分過ぎた。
駄目だ、終わってしまったと、深い絶望が心を満たした。本当は何も
終わってなどはいない、しかしそれでも彼女からはもう何一つ声を上げること
は出来なかった。
天満は両手で顔を抑えると、その場に崩折れてしまいそうになった。それを
押し留めたのは烏丸の言葉だった。
「塚本さん」
ずっと口を開かなかった烏丸が静かな、それでもはっきりとした声で言った。
自分の名前を呼ばれたことで天満は取り乱した心を少しだけ取り戻す。
「間違ってたらごめんね。もしかして、4月に僕に巻物を送ってくれたのは
塚本さんじゃないかな?」
天満は何も言えなかった。ただただ驚いていた。
「あれ、違ったかな?」
天満はブンブンと音が鳴るほど激しく首を振った。まさか気づいていて
くれたとは思いもしていなかった。そして今あの巻物について言い出すという
ことは、自分が何を言おうとしていたのか判っているということに他ならな
かった。そう考えると天満は急に恐ろしくなった。
「ああ、やっぱりそうなんだ。この前、練習見に来てくれたときに思いついて、
なんとなくそうなのかなって」
277: 04/11/07 00:47 ID:GW0epRa2(1)調 AAS
支援?
278: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:48 ID:Btk0AG0E(11/23)調 AAS
そう言うと烏丸は再び押し黙ってしまった。そして何かを逡巡するように
視線を巡らすと再びゆっくりと口を開いた。
「あれは…嬉しかった。僕のこと引き止めてくれる人、いるなんて思わな
かったから」
変わらぬ無表情に抑揚のない声、それでもそこには滲み出る確かな感情が
あった。
思わず天満は耳を疑った。疑いながらも喜びに身を震わせた。自分の気持ち
は確かに届いていたのだ、そしてそれを嬉しいと言ってくれているのだ。
「だから……、塚本さんが言おうとしてくれたこと、なんとなく、分かる気がするんだ」
そう言う烏丸の表情はどこか苦いものを含んでいた。それは僅かな変化で
しかなかったが烏丸を見続けてきた天満にはそれがわかった。
嬉しいと言ってくれたのに何故?
不安に駆られながらも天満は彼の言葉を待った。
「塚本さんの気持ちは嬉しい。だけど、僕は来年には転校してしまうんだ。
……今度は、引き延ばせないと思う」
それでもいいのかと、烏丸の目が寂しげに問い掛けていた。
それはあまり考えないようにしていたことだった。だが、考えずにはいられ
ないことだった。考えて、それでも止められない想いなのだから、迷いは無い。
「うん…、わかってる。でもあと半年あるよ、それだけあればたくさん想い出が
つくれる。離れ離れになっちゃうのはきっととても悲しいけど、悲しいだけじゃ
ないよ。それでも幸せだったって、私、烏丸クンのおかげで幸せだったって
きっと言えるから……」
一度はもうダメだと思えた。でも、今ならば言える。烏丸クンがチャンスを
くれたのだ。おそらく彼にはそんなつもりはなかっただろう、それでも応えたい
と感じている。だから言おう、目をそらさずに、はっきりと、今度こそ。
279: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:49 ID:Btk0AG0E(12/23)調 AAS
「……だって私、烏丸クンのことが好きだから」
言えた。とうとう好きだと言えたのだ。強い達成感とともに、心が吹き抜ける
ように軽くなっていく。もう隠す必要は無い、もう躊躇うこともない、自分は
彼が好きなのだから。こんなにも人を好きになれるということがどこか誇らしかった。
烏丸は少しだけ目を伏せ、やがてポツリと言った。
「僕も、そんなふうに思えるかな…?」
「思えるよ、きっと思える! 私ガンバルよ、私も、烏丸クンも、幸せに思えるようにって」
天満が力強く応えると、烏丸は顔を上げ真直ぐに天満を見つめた。その瞳には
感情が揺れていた。同じように彼もまた一歩を踏み出そうとしていた。そしてはにかむ
ように少しだけ微笑みながら言った。
「塚本さん」
「はい!」
「たとえ離れることになっても、塚本さんには僕のこと覚えていて貰いたい
って、そう思った」
「だから、こんな僕でよければ、その、付き合ってもらえるかな…」
「はい!」
その途端だった。あっという間に視界が曇り何も見えなかった。こみ上げてきた。
止まらなかった。涙が先程とは比べ物にならない熱さで頬を焼いた。天満は泣いた。
泣きながら微笑った。全てが喜びでできた何よりも綺麗な笑顔だった。
280: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:50 ID:Btk0AG0E(13/23)調 AAS
一つの恋が終わりを告げた。
播磨は屋上の腕を乗せ手すりに寄りかかりながら、文化祭を楽しむ生徒たちを
遠くに見下ろしていた。
これまでに何度と無く恋の挫折を味わってきた播磨だが、今度ばかりは決定的な
何かが違っていた。胸を満たすのは哀しみよりも、後悔にも似た寂寥感だった。
あれから播磨は結局天満の告白が終わるまでその場から動くことができなかった。
そして彼女が倉庫から出て行くとき、播磨は見てしまった。
誰よりも幸せそうな彼女の顔を。それを見たとき、播磨は不覚にも嬉しく思って
しまったのだ。一時とはいえ打ちのめされていた心の痛みを忘れ、ただ彼女の
幸福を祝福していた自分に気づいてしまった時、播磨の中で何かが終わりを告げた。
それは天満の話を聞いてしまったからかもしれない。天満がどれだけ深く烏丸を
想っていたのか、同じように彼女を想い続けてきた播磨には我が身の如く理解し、
共感できてしまった。
そして、自分の出る幕など無いのだと思い知らされた。
あの幸せそうな天満の表情を思い浮かべる。その姿は今まで見たどんな時より
も美しく心惹かれた。もし、彼女を奪い取るとするならば自分は彼女にあれ以上の
顔をさせることができなければならない。そこまでの自信は到底持てそうに無い。
播磨は手すりに背を預けると、そのままずるずると崩れ座り込んでしまった。
締めつけられそうな喪失感に胸を押さえながら空を見上げる。
せめてしっかりと告白することができていればもう少しマシな終わり方が出来たの
かもしれない。玉砕することもできず、欠片すら彼女に残せぬまま終わってしまった
ことが心残りだった。
浮かべた涙がとうとう溢れ出し頬を伝った。風にさらされた涙は冷たく、一層心を
凍えさせた。
281: FAREWELL, MY LOVELY 04/11/07 00:52 ID:Btk0AG0E(14/23)調 AAS
その時、ガチャリと屋上のドアが開いた。播磨は顔を背け慌てて身を隠そうとする。
「あぁ、ここにいたのね」
しかし間に合わず、さらに声をかけられては今更隠れるわけにもいかない。乱暴に
涙を拭い、恐る恐る振り返ると、何時の間に近づいたのか小柄な少女がすぐ目の前に
立っていた。
「塚本の友達の、え〜〜っと、た、た、た、竹田?」
「高野。ま、いいけど」
呆れたような顔をして晶が言った。
「そ、それでなんか用か?」
播磨が僅かばかりうわずった声で尋ねると、晶は僅かに眉を顰め言った。
「もう、劇の最後の打ち合わせの時間だから」
「それでわざわざ呼びに来たのか?」
「呼びにこなかったら忘れてたでしょう?」
晶が何を言ってるのやらという顔をすると、播磨はバツが悪そうに頬を掻いた。
「あ〜、そりゃ…ワリィ忘れてた」
そう言って慌てて播磨が立ち上がろうとすると、晶は播磨の肩を押さえ再び座らせた。
「……なんだよ?」
「もう少し、落ち着いてからでいいよ」
晶はそう言うと播磨の隣に腰を下ろした。何をするでもなくただ隣に座り、
訝しげな播磨の視線を気にした風も無く晶は無言で空を見上げていた。播磨は
何がどうなっているのかさっぱり理解できず、居心地悪そうに背を丸めていた。
しばらくすると晶は播磨へ向き直り唐突に言った。
「落ち着いた?」
「いや、むしろ気になって仕方ねぇっつうの」
そう、と小さく呟くと晶は再び空を見上げた。播磨は晶の意図するところが
全くわからず、何かを思案するような晶の横顔をただ眺める他なかった。
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