[過去ログ] ★gato動画を楽しむスレ 48匹目★ [無断転載禁止]©2ch.net (1002レス)
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(2): 2016/04/19(火) 11:18:33.65 ID:pmvVqSDy(1/8)調 AAS
気に入った動画は保存推奨! 書き込みはメール欄に半角で sage を入れて下さい

※動画を発見してURLを貼る前に※

動画が削除されてしまう恐れがあるため
RealPlayer 外部リンク:jp.real.com 外部リンク[html]:jp.real.com や
Vid-DL 外部リンク:www.vid-dl.net などで動画をダウンロード保存しておきましょう!

《 注意 》
・ このスレはgato動画を楽しむスレです
火炙り、中毒症状、犬や鷹など他の動物に殺される……gatoを苦しめる手段は問いません
板の趣旨、スレの趣旨をよく理解して書き込んで下さい
・ 削除された動画やエラーの報告はOKですが閲覧方法に関するヒントや質問はNGです
・ 愛誤と仲良く語り合いたい方は他スレでどうぞ
荒らしにレスすると、あなたの書き込みでゴミが2倍、それに荒らしがレスをして・・・
※前スレ
★gato動画を楽しむスレ 47匹目★
2chスレ:cat
876: 2016/04/21(木) 15:54:34.70 ID:RmlyrH2y(1/2)調 AAS
そういや猫って野良でも虐待すると犯罪になっちゃうけど
アライグマって特定外来種だから殺しても良い(?)んだっけ
877: 2016/04/21(木) 15:59:45.66 ID:xeZZ4a7D(3/4)調 AAS
>>871
200度の油かけたい。みんな発狂大喜びなんだろうな〜
878: 2016/04/21(木) 16:10:54.15 ID:SQ+WRE6d(2/2)調 AAS
猫島って小さい島なのに愛誤(外人含む)が殺到して島の人が大迷惑してるんだっけ
マナー悪いヤツばっか来てるらしいしあんなのさっさと保健所呼んで処分すればいいのにね
879
(1): 2016/04/21(木) 16:15:14.40 ID:Eh2WYBUh(1)調 AAS
これ何度見ても好き
動画リンク[YouTube]


こういう感じの猫ちゃんの熱湯モノを見たい
880: 2016/04/21(木) 16:32:28.63 ID:RmlyrH2y(2/2)調 AAS
わざわざ島にまで来るような猫キチなんだし選りすぐりの基地外なんだろうな
島の人マジでかわいそう
881: 2016/04/21(木) 16:39:46.13 ID:trZvTUqJ(1)調 AAS
熱湯gatoは低い唸り声みたいな鳴き方が最高だな
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ ハアッ ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ ハアッ
882: 2016/04/21(木) 16:44:29.09 ID:5DmKRLt4(2/3)調 AAS
>>871
蓋固定して入り口からスチーム送り込みたい
何も聞こえなくなるまで余すことなく音を録音したい
883: 2016/04/21(木) 16:56:14.85 ID:q1EEF9w9(1/24)調 AA×

884: 2016/04/21(木) 16:56:42.97 ID:q1EEF9w9(2/24)調 AA×

885: 2016/04/21(木) 16:56:49.08 ID:q1EEF9w9(3/24)調 AA×

886: 2016/04/21(木) 16:57:13.30 ID:q1EEF9w9(4/24)調 AA×

887: 2016/04/21(木) 16:57:23.90 ID:q1EEF9w9(5/24)調 AA×

888: 2016/04/21(木) 16:57:39.49 ID:q1EEF9w9(6/24)調 AA×

889: 2016/04/21(木) 16:58:05.95 ID:q1EEF9w9(7/24)調 AA×

890: 2016/04/21(木) 16:58:22.77 ID:q1EEF9w9(8/24)調 AA×

891: 2016/04/21(木) 16:58:33.06 ID:q1EEF9w9(9/24)調 AA×

892: 2016/04/21(木) 16:58:33.14 ID:5Cw5E3Bh(1)調 AAS
ニコ動の「箱責めおじさん」「踊り狂う野獣」「ゆでだこ紅くらげBB」全部管理者削除されてるし
猫がネズミくんや鳥さんを食い荒らす虐待動画は放置で、害獣を駆除する正当な動画は削除っておかしいだろそれよぉ!(憤激)
893: 2016/04/21(木) 16:59:02.65 ID:q1EEF9w9(10/24)調 AA×

894: 2016/04/21(木) 16:59:08.87 ID:q1EEF9w9(11/24)調 AA×

895: 2016/04/21(木) 16:59:25.57 ID:q1EEF9w9(12/24)調 AA×

896: 2016/04/21(木) 16:59:31.65 ID:q1EEF9w9(13/24)調 AA×

897: 2016/04/21(木) 16:59:48.98 ID:q1EEF9w9(14/24)調 AA×

898: 2016/04/21(木) 17:00:00.68 ID:q1EEF9w9(15/24)調 AA×

899: 2016/04/21(木) 17:00:17.57 ID:q1EEF9w9(16/24)調 AA×

900: 2016/04/21(木) 17:00:22.82 ID:q1EEF9w9(17/24)調 AA×

901: 2016/04/21(木) 17:01:05.12 ID:q1EEF9w9(18/24)調 AA×

902: 2016/04/21(木) 17:01:13.19 ID:q1EEF9w9(19/24)調 AA×

903: 2016/04/21(木) 17:01:29.85 ID:q1EEF9w9(20/24)調 AA×

904: 2016/04/21(木) 17:01:36.14 ID:q1EEF9w9(21/24)調 AA×

905
(1): 2016/04/21(木) 17:01:53.39 ID:q1EEF9w9(22/24)調 AA×

906: 2016/04/21(木) 17:01:59.12 ID:q1EEF9w9(23/24)調 AA×

907: 2016/04/21(木) 17:02:15.30 ID:q1EEF9w9(24/24)調 AA×

908: 2016/04/21(木) 17:03:44.67 ID:twCSFey2(3/3)調 AAS
何やってんだもっと埋めろやニート
どうせ一人でしか荒らしてねえんだから気合い入れろカス
909: 2016/04/21(木) 17:07:53.11 ID:mDBQbK0N(1)調 AAS
いつものように端末も使えよ
土日フルで荒らし続けたあのバイタリティを見せろ
910: 2016/04/21(木) 17:11:15.63 ID:jRpv+0J0(3/4)調 AAS
ただ連投して荒らしてるだけだからなんか芸がないよね
gatoでももっと楽しませてくれるぞ
911: 2016/04/21(木) 17:13:41.57 ID:xy8a0NaK(2/3)調 AAS
早くこっち埋めろや
それくらいしか人としてやれることないんだからはやくやれ
912
(1): 2016/04/21(木) 17:14:06.52 ID:lxYHo40Y(1/2)調 AAS
カールおじさん5連続ぶっかけが凄すぎる 何回見ても飽きない
年間最優秀どころか、史上最高傑作だわ
913: 2016/04/21(木) 17:14:41.25 ID:sKaZFFA4(1)調 AAS
>>871
便器と汚物
914
(2): 2016/04/21(木) 17:22:20.32 ID:dT6a5ZXR(1)調 AAS
>>912
もうどこかに上がってない?
落としそこねた…
915: 2016/04/21(木) 17:27:41.53 ID:F/4F0Tva(1)調 AAS
勝俣化してる顔面に無慈悲にぶっかけるの最高すぎる
916: 2016/04/21(木) 17:28:28.37 ID:knoImaga(1)調 AAS
流石に遅いな斧にも限定的に挙がってたていどだったし
新アイドルの熱湯gatoを使ってコラとか暇つぶしながら待ってれば近いうちにUPされるでしょ
917: 2016/04/21(木) 17:29:39.20 ID:lxYHo40Y(2/2)調 AAS
>>914
このスレにまだ生きてるURLがある
918
(1): 2016/04/21(木) 17:30:02.80 ID:5DmKRLt4(3/3)調 AAS
>>914
外部リンク:www1.axfc.net
919: 2016/04/21(木) 17:32:24.96 ID:jRpv+0J0(4/4)調 AAS
容赦ない追い打ちが見ていて気持ち良い傑作
早くもGOTYは決まったか?
920: 2016/04/21(木) 17:43:58.65 ID:xy8a0NaK(3/3)調 AAS
>>918
直リンはタブーだぞ
921: 2016/04/21(木) 17:59:33.91 ID:xeZZ4a7D(4/4)調 AAS
>>879
2:13あたりのバカ面が観てて楽しいよなw
後ろから頭引っ張られてて超あはれwwwww
922
(1): 2016/04/21(木) 18:14:55.95 ID:3sWjW47E(1)調 AAS
建てときましたー早いですかね
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2chスレ:cat
923: 2016/04/21(木) 18:17:27.68 ID:VYo18z/i(1)調 AAS
いや、番号で聞かなかった俺が悪かった。
918ありがとう
家に帰ったら見る
924: 2016/04/21(木) 18:17:28.60 ID:WqQQjbrc(1)調 AAS
先こっちな

★gato動画を楽しむスレ 49匹目★ [無断転載禁止]©2ch.net
2chスレ:cat
925: 2016/04/21(木) 18:29:46.40 ID:uO+AAMqg(1)調 AAS
>>922は荒らしが立てたわっちょい付いてないスレから放置でいいぞ
926: 2016/04/21(木) 18:31:57.83 ID:lrYBz/dD(2/2)調 AAS
埋め
927: 2016/04/21(木) 18:47:56.09 ID:1IabGcJo(1)調 AAS
わっちょい付けられるとまずいことがあるのかな
928: 2016/04/21(木) 19:54:41.62 ID:m4CVk/1E(1)調 AAS
>>794
うpはもうできましたかい?
929: 2016/04/21(木) 20:12:04.62 ID:9kKR6oTe(1/2)調 AAS
5連発の猫ちゃんは何歳くらいですかね? あまり大きくないような…
930: 2016/04/21(木) 20:19:35.79 ID:6Fi4FAWX(18/34)調 AA×

931: 2016/04/21(木) 20:28:21.75 ID:swsCEo8v(1)調 AAS
何歳でもいいよ。汚いキジトラだから
932: 2016/04/21(木) 20:47:20.96 ID:6Fi4FAWX(19/34)調 AA×

933: 2016/04/21(木) 20:47:50.56 ID:6Fi4FAWX(20/34)調 AA×

934: 2016/04/21(木) 20:57:26.40 ID:hukRUMdN(1)調 AAS
gato詰め合わせ 斧に2個 パスはいつもの
3654485 3654489
ダウン回数100なのでお早めに
俺が持ってる奴全部つめたけどもしこれ以外にいいのあったらください
935: 2016/04/21(木) 20:59:04.38 ID:6Fi4FAWX(21/34)調 AA×

936: 2016/04/21(木) 20:59:22.89 ID:6Fi4FAWX(22/34)調 AA×

937: 2016/04/21(木) 21:00:14.89 ID:6Fi4FAWX(23/34)調 AA×

938: 2016/04/21(木) 21:00:30.73 ID:6Fi4FAWX(24/34)調 AA×

939: 2016/04/21(木) 21:00:48.77 ID:6Fi4FAWX(25/34)調 AA×

940: 2016/04/21(木) 21:00:56.53 ID:lLlLVuXy(1/48)調 AAS
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当けんとうがつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪どうあくな種族であったそうだ。
この書生というのは時々我々を捕つかまえて煮にて食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
ただ彼の掌てのひらに載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。
掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始みはじめであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。
第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶やかんだ。
その後ご猫にもだいぶ逢あったがこんな片輪かたわには一度も出会でくわした事がない。のみならず顔の真中があまりに突起している。
そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙けむりを吹く。どうも咽むせぽくて実に弱った。
これが人間の飲む煙草たばこというものである事はようやくこの頃知った。
941: 2016/04/21(木) 21:01:06.06 ID:6Fi4FAWX(26/34)調 AA×

942: 2016/04/21(木) 21:01:22.31 ID:6Fi4FAWX(27/34)調 AA×

943: 2016/04/21(木) 21:01:34.72 ID:lLlLVuXy(2/48)調 AAS
 この書生の掌の裏うちでしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。
書生が動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗むやみに眼が廻る。胸が悪くなる。
到底とうてい助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。
 ふと気が付いて見ると書生はいない。たくさんおった兄弟が一疋ぴきも見えぬ。肝心かんじんの母親さえ姿を隠してしまった。
その上今いままでの所とは違って無暗むやみに明るい。眼を明いていられぬくらいだ。
はてな何でも容子ようすがおかしいと、のそのそ這はい出して見ると非常に痛い。吾輩は藁わらの上から急に笹原の中へ棄てられたのである。
944: 2016/04/21(木) 21:01:39.09 ID:6Fi4FAWX(28/34)調 AA×

945: 2016/04/21(木) 21:01:55.35 ID:6Fi4FAWX(29/34)調 AA×

946: 2016/04/21(木) 21:02:11.58 ID:6Fi4FAWX(30/34)調 AA×

947: 2016/04/21(木) 21:02:23.37 ID:lLlLVuXy(3/48)調 AAS
 ようやくの思いで笹原を這い出すと向うに大きな池がある。吾輩は池の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。
別にこれという分別ふんべつも出ない。しばらくして泣いたら書生がまた迎に来てくれるかと考え付いた。
ニャー、ニャーと試みにやって見たが誰も来ない。そのうち池の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減って来た。
泣きたくても声が出ない。仕方がない、何でもよいから食物くいもののある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと池を左ひだりに廻り始めた。
どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに這はって行くとようやくの事で何となく人間臭い所へ出た。
ここへ這入はいったら、どうにかなると思って竹垣の崩くずれた穴から、とある邸内にもぐり込んだ。
縁は不思議なもので、もしこの竹垣が破れていなかったなら、吾輩はついに路傍ろぼうに餓死がししたかも知れんのである。
一樹の蔭とはよく云いったものだ。この垣根の穴は今日こんにちに至るまで吾輩が隣家となりの三毛を訪問する時の通路になっている。
さて邸やしきへは忍び込んだもののこれから先どうして善いいか分らない。
948: 2016/04/21(木) 21:02:28.32 ID:6Fi4FAWX(31/34)調 AA×

949: 2016/04/21(木) 21:02:43.45 ID:6Fi4FAWX(32/34)調 AA×

950: 2016/04/21(木) 21:02:58.00 ID:lLlLVuXy(4/48)調 AAS
そのうちに暗くなる、腹は減る、寒さは寒し、雨が降って来るという始末でもう一刻の猶予ゆうよが出来なくなった。
仕方がないからとにかく明るくて暖かそうな方へ方へとあるいて行く。今から考えるとその時はすでに家の内に這入っておったのだ。
ここで吾輩は彼かの書生以外の人間を再び見るべき機会に遭遇そうぐうしたのである。第一に逢ったのがおさんである。
これは前の書生より一層乱暴な方で吾輩を見るや否やいきなり頸筋くびすじをつかんで表へ抛ほうり出した。
いやこれは駄目だと思ったから眼をねぶって運を天に任せていた。しかしひもじいのと寒いのにはどうしても我慢が出来ん。
吾輩は再びおさんの隙すきを見て台所へ這はい上あがった。すると間もなくまた投げ出された。
吾輩は投げ出されては這い上り、這い上っては投げ出され、何でも同じ事を四五遍繰り返したのを記憶している。
その時におさんと云う者はつくづくいやになった。この間おさんの三馬さんまを偸ぬすんでこの返報をしてやってから、やっと胸の痞つかえが下りた。
951: 2016/04/21(木) 21:02:59.03 ID:6Fi4FAWX(33/34)調 AA×

952: 2016/04/21(木) 21:03:14.04 ID:6Fi4FAWX(34/34)調 AA×

953: 2016/04/21(木) 21:03:33.68 ID:lLlLVuXy(5/48)調 AAS
吾輩が最後につまみ出されようとしたときに、この家うちの主人が騒々しい何だといいながら出て来た。
は吾輩をぶら下げて主人の方へ向けてこの宿やどなしの小猫がいくら出しても出しても御台所おだいどころへ上あがって来て困りますという。
主人は鼻の下の黒い毛を撚ひねりながら吾輩の顔をしばらく眺ながめておったが、やがてそんなら内へ置いてやれといったまま奥へ這入はいってしまった。
主人はあまり口を聞かぬ人と見えた。下女は口惜くやしそうに吾輩を台所へ抛ほうり出した。
かくして吾輩はついにこの家うちを自分の住家すみかと極きめる事にしたのである。
954: 2016/04/21(木) 21:04:05.67 ID:lLlLVuXy(6/48)調 AAS
 吾輩の主人は滅多めったに吾輩と顔を合せる事がない。職業は教師だそうだ。学校から帰ると終日書斎に這入ったぎりほとんど出て来る事がない。
家のものは大変な勉強家だと思っている。当人も勉強家であるかのごとく見せている。しかし実際はうちのものがいうような勤勉家ではない。
吾輩は時々忍び足に彼の書斎を覗のぞいて見るが、彼はよく昼寝ひるねをしている事がある。時々読みかけてある本の上に涎よだれをたらしている。
彼は胃弱で皮膚の色が淡黄色たんこうしょくを帯びて弾力のない不活溌ふかっぱつな徴候をあらわしている。その癖に大飯を食う。
大飯を食った後あとでタカジヤスターゼを飲む。飲んだ後で書物をひろげる。二三ページ読むと眠くなる。涎を本の上へ垂らす。
これが彼の毎夜繰り返す日課である。吾輩は猫ながら時々考える事がある。教師というものは実に楽らくなものだ。人間と生れたら教師となるに限る。
こんなに寝ていて勤まるものなら猫にでも出来ぬ事はないと。
それでも主人に云わせると教師ほどつらいものはないそうで彼は友達が来る度たびに何とかかんとか不平を鳴らしている。
955: 2016/04/21(木) 21:04:53.75 ID:lLlLVuXy(7/48)調 AAS
 吾輩がこの家へ住み込んだ当時は、主人以外のものにははなはだ不人望であった。どこへ行っても跳はね付けられて相手にしてくれ手がなかった。
いかに珍重されなかったかは、今日こんにちに至るまで名前さえつけてくれないのでも分る。
吾輩は仕方がないから、出来得る限り吾輩を入れてくれた主人の傍そばにいる事をつとめた。朝主人が新聞を読むときは必ず彼の膝ひざの上に乗る。
彼が昼寝をするときは必ずその背中せなかに乗る。これはあながち主人が好きという訳ではないが別に構い手がなかったからやむを得んのである。
その後いろいろ経験の上、朝は飯櫃めしびつの上、夜は炬燵こたつの上、天気のよい昼は椽側えんがわへ寝る事とした。
しかし一番心持の好いのは夜よに入いってここのうちの小供の寝床へもぐり込んでいっしょにねる事である。
この小供というのは五つと三つで夜になると二人が一つ床へ入はいって一間ひとまへ寝る。
吾輩はいつでも彼等の中間に己おのれを容いるべき余地を見出みいだしてどうにか、こうにか割り込むのであるが、運悪く小供の一人が眼を醒さますが最後大変な事になる。
956: 2016/04/21(木) 21:05:37.98 ID:lLlLVuXy(8/48)調 AAS
小供は――ことに小さい方が質たちがわるい――猫が来た猫が来たといって夜中でも何でも大きな声で泣き出すのである。
すると例の神経胃弱性の主人は必かならず眼をさまして次の部屋から飛び出してくる。現にせんだってなどは物指ものさしで尻ぺたをひどく叩たたかれた。
 吾輩は人間と同居して彼等を観察すればするほど、彼等は我儘わがままなものだと断言せざるを得ないようになった。
ことに吾輩が時々同衾どうきんする小供のごときに至っては言語同断ごんごどうだんである。
自分の勝手な時は人を逆さにしたり、頭へ袋をかぶせたり、抛ほうり出したり、へっついの中へ押し込んだりする。
しかも吾輩の方で少しでも手出しをしようものなら家内かない総がかりで追い廻して迫害を加える。
この間もちょっと畳で爪を磨といだら細君が非常に怒おこってそれから容易に座敷へ入いれない。
台所の板の間で他ひとが顫ふるえていても一向いっこう平気なものである。
957: 2016/04/21(木) 21:06:43.23 ID:lLlLVuXy(9/48)調 AAS
吾輩の尊敬する筋向すじむこうの白君などは逢あう度毎たびごとに人間ほど不人情なものはないと言っておらるる。
白君は先日玉のような子猫を四疋産うまれたのである。ところがそこの家うちの書生が三日目にそいつを裏の池へ持って行って四疋ながら棄てて来たそうだ。
白君は涙を流してその一部始終を話した上、どうしても我等猫族ねこぞくが親子の愛を完まったくして美しい家族的生活をするには人間と戦ってこれを剿滅そうめつせねばならぬといわれた。
一々もっともの議論と思う。また隣りの三毛みけ君などは人間が所有権という事を解していないといって大おおいに憤慨している。
元来我々同族間では目刺めざしの頭でも鰡ぼらの臍へそでも一番先に見付けたものがこれを食う権利があるものとなっている。
もし相手がこの規約を守らなければ腕力に訴えて善よいくらいのものだ。しかるに彼等人間は毫ごうもこの観念がないと見えて我等が見付けた御馳走は必ず彼等のために掠奪りゃくだつせらるるのである。
彼等はその強力を頼んで正当に吾人が食い得べきものを奪うばってすましている。白君は軍人の家におり三毛君は代言の主人を持っている。
958: 2016/04/21(木) 21:08:13.37 ID:lLlLVuXy(10/48)調 AAS
吾輩は教師の家に住んでいるだけ、こんな事に関すると両君よりもむしろ楽天である。ただその日その日がどうにかこうにか送られればよい。
いくら人間だって、そういつまでも栄える事もあるまい。まあ気を永く猫の時節を待つがよかろう。
 我儘わがままで思い出したからちょっと吾輩の家の主人がこの我儘で失敗した話をしよう。元来この主人は何といって人に勝すぐれて出来る事もないが、何にでもよく手を出したがる。
俳句をやってほととぎすへ投書をしたり、新体詩を明星へ出したり、間違いだらけの英文をかいたり、時によると弓に凝こったり、謡うたいを習ったり、またあるときはヴァイオリンなどをブーブー鳴らしたりするが、
気の毒な事には、どれもこれも物になっておらん。その癖やり出すと胃弱の癖にいやに熱心だ。後架こうかの中で謡をうたって、
近所で後架先生こうかせんせいと渾名あだなをつけられているにも関せず一向いっこう平気なもので、やはりこれは平たいらの宗盛むねもりにて候そうろうを繰返している。
959: 2016/04/21(木) 21:09:12.53 ID:lLlLVuXy(11/48)調 AAS
みんながそら宗盛だと吹き出すくらいである。この主人がどういう考になったものか吾輩の住み込んでから一月ばかり後のちのある月の月給日に、大きな包みを提さげてあわただしく帰って来た。
何を買って来たのかと思うと水彩絵具と毛筆とワットマンという紙で今日から謡や俳句をやめて絵をかく決心と見えた。果して翌日から当分の間というものは毎日毎日書斎で昼寝もしないで絵ばかりかいている。
しかしそのかき上げたものを見ると何をかいたものやら誰にも鑑定がつかない。当人もあまり甘うまくないと思ったものか、ある日その友人で美学とかをやっている人が来た時に下しものような話をしているのを聞いた。
「どうも甘うまくかけないものだね。人のを見ると何でもないようだが自みずから筆をとって見ると今更いまさらのようにむずかしく感ずる」これは主人の述懐じゅっかいである。なるほど詐いつわりのない処だ。
彼の友は金縁の眼鏡越めがねごしに主人の顔を見ながら、「そう初めから上手にはかけないさ、第一室内の想像ばかりで画えがかける訳のものではない。
960: 2016/04/21(木) 21:09:59.19 ID:lLlLVuXy(12/48)調 AAS
昔むかし以太利イタリーの大家アンドレア・デル・サルトが言った事がある。画をかくなら何でも自然その物を写せ。天に星辰せいしんあり。
地に露華ろかあり。飛ぶに禽とりあり。走るに獣けものあり。池に金魚あり。枯木こぼくに寒鴉かんああり。自然はこれ一幅の大活画だいかつがなりと。どうだ君も画らしい画をかこうと思うならちと写生をしたら」
「へえアンドレア・デル・サルトがそんな事をいった事があるかい。ちっとも知らなかった。なるほどこりゃもっともだ。実にその通りだ」と主人は無暗むやみに感心している。金縁の裏には嘲あざけるような笑わらいが見えた。
 その翌日吾輩は例のごとく椽側えんがわに出て心持善く昼寝ひるねをしていたら、主人が例になく書斎から出て来て吾輩の後うしろで何かしきりにやっている。
ふと眼が覚さめて何をしているかと一分いちぶばかり細目に眼をあけて見ると、彼は余念もなくアンドレア・デル・サルトを極きめ込んでいる。吾輩はこの有様を見て覚えず失笑するのを禁じ得なかった。
961: 2016/04/21(木) 21:10:53.34 ID:lLlLVuXy(13/48)調 AAS
その翌日吾輩は例のごとく椽側えんがわに出て心持善く昼寝ひるねをしていたら、主人が例になく書斎から出て来て吾輩の後うしろで何かしきりにやっている。
ふと眼が覚さめて何をしているかと一分いちぶばかり細目に眼をあけて見ると、彼は余念もなくアンドレア・デル・サルトを極きめ込んでいる。
吾輩はこの有様を見て覚えず失笑するのを禁じ得なかった。彼は彼の友に揶揄やゆせられたる結果としてまず手初めに吾輩を写生しつつあるのである。
吾輩はすでに十分じゅうぶん寝た。欠伸あくびがしたくてたまらない。しかしせっかく主人が熱心に筆を執とっているのを動いては気の毒だと思って、じっと辛棒しんぼうしておった。
彼は今吾輩の輪廓をかき上げて顔のあたりを色彩いろどっている。吾輩は自白する。吾輩は猫として決して上乗の出来ではない。背といい毛並といい顔の造作といいあえて他の猫に勝まさるとは決して思っておらん。
しかしいくら不器量の吾輩でも、今吾輩の主人に描えがき出されつつあるような妙な姿とは、どうしても思われない。第一色が違う。
962: 2016/04/21(木) 21:12:09.96 ID:lLlLVuXy(14/48)調 AAS
吾輩は波斯産ペルシャさんの猫のごとく黄を含める淡灰色に漆うるしのごとき斑入ふいりの皮膚を有している。これだけは誰が見ても疑うべからざる事実と思う。
しかるに今主人の彩色を見ると、黄でもなければ黒でもない、灰色でもなければ褐色とびいろでもない、さればとてこれらを交ぜた色でもない。
ただ一種の色であるというよりほかに評し方のない色である。その上不思議な事は眼がない。
もっともこれは寝ているところを写生したのだから無理もないが眼らしい所さえ見えないから盲猫めくらだか寝ている猫だか判然しないのである。
吾輩は心中ひそかにいくらアンドレア・デル・サルトでもこれではしようがないと思った。しかしその熱心には感服せざるを得ない。
なるべくなら動かずにおってやりたいと思ったが、さっきから小便が催うしている。身内みうちの筋肉はむずむずする。
最早もはや一分も猶予ゆうよが出来ぬ仕儀しぎとなったから、やむをえず失敬して両足を前へ存分のして、首を低く押し出してあーあと大だいなる欠伸をした。
さてこうなって見ると、もうおとなしくしていても仕方がない。
963: 2016/04/21(木) 21:12:53.48 ID:lLlLVuXy(15/48)調 AAS
どうせ主人の予定は打ぶち壊こわしたのだから、ついでに裏へ行って用を足たそうと思ってのそのそ這い出した。すると主人は失望と怒りを掻かき交ぜたような声をして、座敷の中から「この馬鹿野郎」と怒鳴どなった。
この主人は人を罵ののしるときは必ず馬鹿野郎というのが癖である。ほかに悪口の言いようを知らないのだから仕方がないが、今まで辛棒した人の気も知らないで、無暗むやみに馬鹿野郎呼よばわりは失敬だと思う。
それも平生吾輩が彼の背中せなかへ乗る時に少しは好い顔でもするならこの漫罵まんばも甘んじて受けるが、こっちの便利になる事は何一つ快くしてくれた事もないのに、小便に立ったのを馬鹿野郎とは酷ひどい。
元来人間というものは自己の力量に慢じてみんな増長している。少し人間より強いものが出て来て窘いじめてやらなくてはこの先どこまで増長するか分らない。
964: 2016/04/21(木) 21:13:42.85 ID:lLlLVuXy(16/48)調 AAS
 我儘わがままもこのくらいなら我慢するが吾輩は人間の不徳についてこれよりも数倍悲しむべき報道を耳にした事がある。
 吾輩の家の裏に十坪ばかりの茶園ちゃえんがある。広くはないが瀟洒さっぱりとした心持ち好く日の当あたる所だ。
うちの小供があまり騒いで楽々昼寝の出来ない時や、あまり退屈で腹加減のよくない折などは、吾輩はいつでもここへ出て浩然こうぜんの気を養うのが例である。
ある小春の穏かな日の二時頃であったが、吾輩は昼飯後ちゅうはんご快よく一睡した後のち、運動かたがたこの茶園へと歩ほを運ばした。
茶の木の根を一本一本嗅ぎながら、西側の杉垣のそばまでくると、枯菊を押し倒してその上に大きな猫が前後不覚に寝ている。
彼は吾輩の近づくのも一向いっこう心付かざるごとく、また心付くも無頓着なるごとく、大きな鼾いびきをして長々と体を横よこたえて眠っている。
他ひとの庭内に忍び入りたるものがかくまで平気に睡ねむられるものかと、吾輩は窃ひそかにその大胆なる度胸に驚かざるを得なかった。彼は純粋の黒猫である。
965: 2016/04/21(木) 21:14:28.37 ID:lLlLVuXy(17/48)調 AAS
わずかに午ごを過ぎたる太陽は、透明なる光線を彼の皮膚の上に抛なげかけて、きらきらする柔毛にこげの間より眼に見えぬ炎でも燃もえ出いずるように思われた。
彼は猫中の大王とも云うべきほどの偉大なる体格を有している。吾輩の倍はたしかにある。吾輩は嘆賞の念と、好奇の心に前後を忘れて彼の前に佇立ちょりつして余念もなく眺ながめていると、
静かなる小春の風が、杉垣の上から出たる梧桐ごとうの枝を軽かろく誘ってばらばらと二三枚の葉が枯菊の茂みに落ちた。大王はかっとその真丸まんまるの眼を開いた。今でも記憶している。
その眼は人間の珍重する琥珀こはくというものよりも遥はるかに美しく輝いていた。彼は身動きもしない。双眸そうぼうの奥から射るごとき光を吾輩の矮小わいしょうなる額ひたいの上にあつめて、御めえは一体何だと云った。
大王にしては少々言葉が卑いやしいと思ったが何しろその声の底に犬をも挫ひしぐべき力が籠こもっているので吾輩は少なからず恐れを抱いだいた。
966: 2016/04/21(木) 21:16:00.69 ID:lLlLVuXy(18/48)調 AAS
しかし挨拶あいさつをしないと険呑けんのんだと思ったから「吾輩は猫である。名前はまだない」となるべく平気を装よそおって冷然と答えた。
しかしこの時吾輩の心臓はたしかに平時よりも烈しく鼓動しておった。彼は大おおいに軽蔑けいべつせる調子で「何、猫だ? 猫が聞いてあきれらあ。
全ぜんてえどこに住んでるんだ」随分傍若無人ぼうじゃくぶじんである。「吾輩はここの教師の家うちにいるのだ」「どうせそんな事だろうと思った。
いやに瘠やせてるじゃねえか」と大王だけに気焔きえんを吹きかける。言葉付から察するとどうも良家の猫とも思われない。しかしその膏切あぶらぎって肥満しているところを見ると御馳走を食ってるらしい、豊かに暮しているらしい。
吾輩は「そう云う君は一体誰だい」と聞かざるを得なかった。「己おれあ車屋の黒くろよ」昂然こうぜんたるものだ。車屋の黒はこの近辺で知らぬ者なき乱暴猫である。
しかし車屋だけに強いばかりでちっとも教育がないからあまり誰も交際しない。同盟敬遠主義の的まとになっている奴だ。
吾輩は彼の名を聞いて少々尻こそばゆき感じを起すと同時に、一方では少々軽侮けいぶの念も生じたのである。
967: 2016/04/21(木) 21:16:44.06 ID:lLlLVuXy(19/48)調 AAS
吾輩はまず彼がどのくらい無学であるかを試ためしてみようと思って左さの問答をして見た。
「一体車屋と教師とはどっちがえらいだろう」
「車屋の方が強いに極きまっていらあな。御めえのうちの主人を見ねえ、まるで骨と皮ばかりだぜ」
「君も車屋の猫だけに大分だいぶ強そうだ。車屋にいると御馳走ごちそうが食えると見えるね」
「何なあにおれなんざ、どこの国へ行ったって食い物に不自由はしねえつもりだ。御めえなんかも茶畠ちゃばたけばかりぐるぐる廻っていねえで、ちっと己おれの後あとへくっ付いて来て見ねえ。一と月とたたねえうちに見違えるように太れるぜ」
「追ってそう願う事にしよう。しかし家うちは教師の方が車屋より大きいのに住んでいるように思われる」
968: 2016/04/21(木) 21:17:36.03 ID:lLlLVuXy(20/48)調 AAS
「箆棒べらぼうめ、うちなんかいくら大きくたって腹の足たしになるもんか」
 彼は大おおいに肝癪かんしゃくに障さわった様子で、寒竹かんちくをそいだような耳をしきりとぴく付かせてあららかに立ち去った。吾輩が車屋の黒と知己ちきになったのはこれからである。
 その後ご吾輩は度々たびたび黒と邂逅かいこうする。邂逅する毎ごとに彼は車屋相当の気焔きえんを吐く。先に吾輩が耳にしたという不徳事件も実は黒から聞いたのである。
 或る日例のごとく吾輩と黒は暖かい茶畠ちゃばたけの中で寝転ねころびながらいろいろ雑談をしていると、彼はいつもの自慢話じまんばなしをさも新しそうに繰り返したあとで、吾輩に向って下しものごとく質問した。
「御めえは今までに鼠を何匹とった事がある」智識は黒よりも余程発達しているつもりだが腕力と勇気とに至っては到底とうてい黒の比較にはならないと覚悟はしていたものの、この問に接したる時は、さすがに極きまりが善よくはなかった。
けれども事実は事実で詐いつわる訳には行かないから、吾輩は「実はとろうとろうと思ってまだ捕とらない」と答えた。
969: 2016/04/21(木) 21:18:24.67 ID:lLlLVuXy(21/48)調 AAS
黒は彼の鼻の先からぴんと突張つっぱっている長い髭ひげをびりびりと震ふるわせて非常に笑った。元来黒は自慢をする丈だけにどこか足りないところがあって、彼の気焔きえんを感心したように咽喉のどをころころ鳴らして謹聴していればはなはだ御ぎょしやすい猫である。
吾輩は彼と近付になってから直すぐにこの呼吸を飲み込んだからこの場合にもなまじい己おのれを弁護してますます形勢をわるくするのも愚ぐである、いっその事彼に自分の手柄話をしゃべらして御茶を濁すに若しくはないと思案を定さだめた。
そこでおとなしく「君などは年が年であるから大分だいぶんとったろう」とそそのかして見た。果然彼は墻壁しょうへきの欠所けっしょに吶喊とっかんして来た。「たんとでもねえが三四十はとったろう」とは得意気なる彼の答であった。
彼はなお語をつづけて「鼠の百や二百は一人でいつでも引き受けるがいたちってえ奴は手に合わねえ。一度いたちに向って酷ひどい目に逢あった」「へえなるほど」と相槌あいづちを打つ。
970: 2016/04/21(木) 21:19:13.56 ID:lLlLVuXy(22/48)調 AAS
黒は大きな眼をぱちつかせて云う。「去年の大掃除の時だ。うちの亭主が石灰いしばいの袋を持って椽えんの下へ這はい込んだら御めえ大きないたちの野郎が面喰めんくらって飛び出したと思いねえ」「ふん」と感心して見せる。
「いたちってけども何鼠の少し大きいぐれえのものだ。こん畜生ちきしょうって気で追っかけてとうとう泥溝どぶの中へ追い込んだと思いねえ」「うまくやったね」と喝采かっさいしてやる。
「ところが御めえいざってえ段になると奴め最後さいごっ屁ぺをこきゃがった。臭くせえの臭くねえのってそれからってえものはいたちを見ると胸が悪くならあ」彼はここに至ってあたかも去年の臭気を今いまなお感ずるごとく前足を揚げて鼻の頭を二三遍なで廻わした。
吾輩も少々気の毒な感じがする。ちっと景気を付けてやろうと思って「しかし鼠なら君に睨にらまれては百年目だろう。君はあまり鼠を捕とるのが名人で鼠ばかり食うものだからそんなに肥って色つやが善いのだろう」
黒の御機嫌をとるためのこの質問は不思議にも反対の結果を呈出ていしゅつした。
971: 2016/04/21(木) 21:20:01.68 ID:lLlLVuXy(23/48)調 AAS
彼は喟然きぜんとして大息たいそくしていう。「考かんげえるとつまらねえ。いくら稼いで鼠をとったって――一てえ人間ほどふてえ奴は世の中にいねえぜ。人のとった鼠をみんな取り上げやがって交番へ持って行きゃあがる。
交番じゃ誰が捕とったか分らねえからそのたんびに五銭ずつくれるじゃねえか。うちの亭主なんか己おれの御蔭でもう壱円五十銭くらい儲もうけていやがる癖に、碌ろくなものを食わせた事もありゃしねえ。
おい人間てものあ体ていの善いい泥棒だぜ」さすが無学の黒もこのくらいの理窟りくつはわかると見えてすこぶる怒おこった容子ようすで背中の毛を逆立さかだてている。
吾輩は少々気味が悪くなったから善い加減にその場を胡魔化ごまかして家うちへ帰った。この時から吾輩は決して鼠をとるまいと決心した。しかし黒の子分になって鼠以外の御馳走を猟あさってあるく事もしなかった。
御馳走を食うよりも寝ていた方が気楽でいい。教師の家うちにいると猫も教師のような性質になると見える。要心しないと今に胃弱になるかも知れない。
972: 2016/04/21(木) 21:20:30.36 ID:Ap1HZG+W(1/2)調 AAS
gato詰め合わせ 斧に2個 パスはいつもの
3654485 3654489
ダウン回数100なのでお早めに
俺が持ってる奴全部つめたけどもしこれ以外にいいのあったらください
973: 2016/04/21(木) 21:20:54.25 ID:lLlLVuXy(24/48)調 AAS
教師といえば吾輩の主人も近頃に至っては到底とうてい水彩画において望のぞみのない事を悟ったものと見えて十二月一日の日記にこんな事をかきつけた。
○○と云う人に今日の会で始めて出逢であった。あの人は大分だいぶ放蕩ほうとうをした人だと云うがなるほど通人つうじんらしい風采ふうさいをしている。
こう云う質たちの人は女に好かれるものだから○○が放蕩をしたと云うよりも放蕩をするべく余儀なくせられたと云うのが適当であろう。あの人の妻君は芸者だそうだ、羨うらやましい事である。
元来放蕩家を悪くいう人の大部分は放蕩をする資格のないものが多い。また放蕩家をもって自任する連中のうちにも、放蕩する資格のないものが多い。
974: 2016/04/21(木) 21:21:22.31 ID:lLlLVuXy(25/48)調 AAS
これらは余儀なくされないのに無理に進んでやるのである。あたかも吾輩の水彩画に於けるがごときもので到底卒業する気づかいはない。しかるにも関せず、自分だけは通人だと思って済すましている。
料理屋の酒を飲んだり待合へ這入はいるから通人となり得るという論が立つなら、吾輩も一廉ひとかどの水彩画家になり得る理窟りくつだ。
吾輩の水彩画のごときはかかない方がましであると同じように、愚昧ぐまいなる通人よりも山出しの大野暮おおやぼの方が遥はるかに上等だ。
975: 2016/04/21(木) 21:21:43.30 ID:lLlLVuXy(26/48)調 AAS
 通人論つうじんろんはちょっと首肯しゅこうしかねる。また芸者の妻君を羨しいなどというところは教師としては口にすべからざる愚劣の考であるが、自己の水彩画における批評眼だけはたしかなものだ。
主人はかくのごとく自知じちの明めいあるにも関せずその自惚心うぬぼれしんはなかなか抜けない。中二日なかふつか置いて十二月四日の日記にこんな事を書いている。
昨夜ゆうべは僕が水彩画をかいて到底物にならんと思って、そこらに抛ほうって置いたのを誰かが立派な額にして欄間らんまに懸かけてくれた夢を見た。さて額になったところを見ると我ながら急に上手になった。
非常に嬉しい。これなら立派なものだと独ひとりで眺め暮らしていると、夜が明けて眼が覚さめてやはり元の通り下手である事が朝日と共に明瞭になってしまった。
976: 2016/04/21(木) 21:22:42.43 ID:lLlLVuXy(27/48)調 AAS
 主人は夢の裡うちまで水彩画の未練を背負しょってあるいていると見える。これでは水彩画家は無論夫子ふうしの所謂いわゆる通人にもなれない質たちだ。
 主人が水彩画を夢に見た翌日例の金縁眼鏡めがねの美学者が久し振りで主人を訪問した。彼は座につくと劈頭へきとう第一に「画えはどうかね」と口を切った。
主人は平気な顔をして「君の忠告に従って写生を力つとめているが、なるほど写生をすると今まで気のつかなかった物の形や、色の精細な変化などがよく分るようだ。西洋では昔むかしから写生を主張した結果今日こんにちのように発達したものと思われる。
さすがアンドレア・デル・サルトだ」と日記の事はおくびにも出さないで、またアンドレア・デル・サルトに感心する。美学者は笑いながら「実は君、あれは出鱈目でたらめだよ」と頭を掻かく。
「何が」と主人はまだ※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)いつわられた事に気がつかない。「何がって君のしきりに感服しているアンドレア・デル・サルトさ。あれは僕のちょっと捏造ねつぞうした話だ。
君がそんなに真面目まじめに信じようとは思わなかったハハハハ」と大喜悦の体ていである。
977: 2016/04/21(木) 21:23:15.28 ID:lLlLVuXy(28/48)調 AAS
吾輩は椽側でこの対話を聞いて彼の今日の日記にはいかなる事が記しるさるるであろうかと予あらかじめ想像せざるを得なかった。この美学者はこんな好いい加減な事を吹き散らして人を担かつぐのを唯一の楽たのしみにしている男である。
彼はアンドレア・デル・サルト事件が主人の情線じょうせんにいかなる響を伝えたかを毫ごうも顧慮せざるもののごとく得意になって下しものような事を饒舌しゃべった。
「いや時々冗談じょうだんを言うと人が真まに受けるので大おおいに滑稽的こっけいてき美感を挑撥ちょうはつするのは面白い。
せんだってある学生にニコラス・ニックルベーがギボンに忠告して彼の一世の大著述なる仏国革命史を仏語で書くのをやめにして英文で出版させたと言ったら、その学生がまた馬鹿に記憶の善い男で、日本文学会の演説会で真面目に僕の話した通りを繰り返したのは滑稽であった。
ところがその時の傍聴者は約百名ばかりであったが、皆熱心にそれを傾聴しておった。それからまだ面白い話がある。せんだって或る文学者のいる席でハリソンの歴史小説セオファーノの話はなしが出たから僕はあれは歴史小説の中うちで白眉はくびである。
978: 2016/04/21(木) 21:24:03.25 ID:lLlLVuXy(29/48)調 AAS
ことに女主人公が死ぬところは鬼気きき人を襲うようだと評したら、僕の向うに坐っている知らんと云った事のない先生が、そうそうあすこは実に名文だといった。
それで僕はこの男もやはり僕同様この小説を読んでおらないという事を知った」神経胃弱性の主人は眼を丸くして問いかけた。
「そんな出鱈目でたらめをいってもし相手が読んでいたらどうするつもりだ」あたかも人を欺あざむくのは差支さしつかえない、ただ化ばけの皮かわがあらわれた時は困るじゃないかと感じたもののごとくである。美学者は少しも動じない。
「なにその時ときゃ別の本と間違えたとか何とか云うばかりさ」と云ってけらけら笑っている。この美学者は金縁の眼鏡は掛けているがその性質が車屋の黒に似たところがある。
主人は黙って日の出を輪に吹いて吾輩にはそんな勇気はないと云わんばかりの顔をしている。
979: 2016/04/21(木) 21:24:22.38 ID:lLlLVuXy(30/48)調 AAS
美学者はそれだから画えをかいても駄目だという目付で「しかし冗談じょうだんは冗談だが画というものは実際むずかしいものだよ、レオナルド・ダ・ヴィンチは門下生に寺院の壁のしみを写せと教えた事があるそうだ。
なるほど雪隠せついんなどに這入はいって雨の漏る壁を余念なく眺めていると、なかなかうまい模様画が自然に出来ているぜ。君注意して写生して見給えきっと面白いものが出来るから」「また欺だますのだろう」「いえこれだけはたしかだよ。
実際奇警な語じゃないか、ダ・ヴィンチでもいいそうな事だあね」「なるほど奇警には相違ないな」と主人は半分降参をした。しかし彼はまだ雪隠で写生はせぬようだ。
980: 2016/04/21(木) 21:24:56.62 ID:lLlLVuXy(31/48)調 AAS
 車屋の黒はその後ご跛びっこになった。彼の光沢ある毛は漸々だんだん色が褪さめて抜けて来る。吾輩が琥珀こはくよりも美しいと評した彼の眼には眼脂めやにが一杯たまっている。ことに著るしく吾輩の注意を惹ひいたのは彼の元気の消沈とその体格の悪くなった事である。
吾輩が例の茶園ちゃえんで彼に逢った最後の日、どうだと云って尋ねたら「いたちの最後屁さいごっぺと肴屋さかなやの天秤棒てんびんぼうには懲々こりごりだ」といった。
 赤松の間に二三段の紅こうを綴った紅葉こうようは昔むかしの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁はなびらをこぼした紅白こうはくの山茶花さざんかも残りなく落ち尽した。
三間半の南向の椽側に冬の日脚が早く傾いて木枯こがらしの吹かない日はほとんど稀まれになってから吾輩の昼寝の時間も狭せばめられたような気がする。
981: 2016/04/21(木) 21:25:17.94 ID:lLlLVuXy(32/48)調 AAS
 主人は毎日学校へ行く。帰ると書斎へ立て籠こもる。人が来ると、教師が厭いやだ厭だという。水彩画も滅多にかかない。タカジヤスターゼも功能がないといってやめてしまった。小供は感心に休まないで幼稚園へかよう。
帰ると唱歌を歌って、毬まりをついて、時々吾輩を尻尾しっぽでぶら下げる。
 吾輩は御馳走ごちそうも食わないから別段肥ふとりもしないが、まずまず健康で跛びっこにもならずにその日その日を暮している。鼠は決して取らない。おさんは未いまだに嫌きらいである。
名前はまだつけてくれないが、欲をいっても際限がないから生涯しょうがいこの教師の家うちで無名の猫で終るつもりだ。
982: 2016/04/21(木) 21:26:05.08 ID:lLlLVuXy(33/48)調 AAS
 吾輩は新年来多少有名になったので、猫ながらちょっと鼻が高く感ぜらるるのはありがたい。
 元朝早々主人の許もとへ一枚の絵端書えはがきが来た。これは彼の交友某画家からの年始状であるが、上部を赤、下部を深緑ふかみどりで塗って、その真中に一の動物が蹲踞うずくまっているところをパステルで書いてある。
主人は例の書斎でこの絵を、横から見たり、竪たてから眺めたりして、うまい色だなという。すでに一応感服したものだから、もうやめにするかと思うとやはり横から見たり、竪から見たりしている。からだを拗ねじ向けたり、
手を延ばして年寄が三世相さんぜそうを見るようにしたり、または窓の方へむいて鼻の先まで持って来たりして見ている。
早くやめてくれないと膝ひざが揺れて険呑けんのんでたまらない。ようやくの事で動揺があまり劇はげしくなくなったと思ったら、小さな声で一体何をかいたのだろうと云いう。主人は絵端書の色には感服したが、
かいてある動物の正体が分らぬので、さっきから苦心をしたものと見える。
983: 2016/04/21(木) 21:27:13.99 ID:lLlLVuXy(34/48)調 AAS
そんな分らぬ絵端書かと思いながら、寝ていた眼を上品に半なかば開いて、落ちつき払って見ると紛まぎれもない、自分の肖像だ。
主人のようにアンドレア・デル・サルトを極きめ込んだものでもあるまいが、画家だけに形体も色彩もちゃんと整って出来ている。誰が見たって猫に相違ない。
少し眼識のあるものなら、猫の中うちでも他ほかの猫じゃない吾輩である事が判然とわかるように立派に描かいてある。このくらい明瞭な事を分らずにかくまで苦心するかと思うと、少し人間が気の毒になる。
出来る事ならその絵が吾輩であると云う事を知らしてやりたい。吾輩であると云う事はよし分らないにしても、せめて猫であるという事だけは分らしてやりたい。
しかし人間というものは到底とうてい吾輩猫属ねこぞくの言語を解し得るくらいに天の恵めぐみに浴しておらん動物であるから、残念ながらそのままにしておいた。
984: 2016/04/21(木) 21:27:54.07 ID:lLlLVuXy(35/48)調 AAS
 ちょっと読者に断っておきたいが、元来人間が何ぞというと猫々と、事もなげに軽侮の口調をもって吾輩を評価する癖があるははなはだよくない。人間の糟かすから牛と馬が出来て、牛と馬の糞から猫が製造されたごとく考えるのは、
自分の無智に心付かんで高慢な顔をする教師などにはありがちの事でもあろうが、はたから見てあまり見っともいい者じゃない。いくら猫だって、そう粗末簡便には出来ぬ。よそ目には一列一体、平等無差別、どの猫も自家固有の特色などはないようであるが、
猫の社会に這入はいって見るとなかなか複雑なもので十人十色といろという人間界の語ことばはそのままここにも応用が出来るのである。目付でも、鼻付でも、毛並でも、足並でも、みんな違う。
髯ひげの張り具合から耳の立ち按排あんばい、尻尾しっぽの垂れ加減に至るまで同じものは一つもない。器量、不器量、好き嫌い、粋無粋すいぶすいの数かずを悉つくして千差万別と云っても差支えないくらいである。
985: 2016/04/21(木) 21:28:33.01 ID:lLlLVuXy(36/48)調 AAS
そのように判然たる区別が存しているにもかかわらず、人間の眼はただ向上とか何とかいって、空ばかり見ているものだから、吾輩の性質は無論相貌そうぼうの末を識別する事すら到底出来ぬのは気の毒だ。
同類相求むとは昔むかしからある語ことばだそうだがその通り、餅屋もちやは餅屋、猫は猫で、猫の事ならやはり猫でなくては分らぬ。いくら人間が発達したってこればかりは駄目である。
いわんや実際をいうと彼等が自みずから信じているごとくえらくも何ともないのだからなおさらむずかしい。
またいわんや同情に乏しい吾輩の主人のごときは、相互を残りなく解するというが愛の第一義であるということすら分らない男なのだから仕方がない。彼は性の悪い牡蠣かきのごとく書斎に吸い付いて、かつて外界に向って口を開ひらいた事がない。
それで自分だけはすこぶる達観したような面構つらがまえをしているのはちょっとおかしい。達観しない証拠には現に吾輩の肖像が眼の前にあるのに少しも悟った様子もなく今年は征露の第二年目だから大方熊の画えだろうなどと気の知れぬことをいってすましているのでもわかる。
986
(1): 2016/04/21(木) 21:28:36.53 ID:9kKR6oTe(2/2)調 AAS
こういうのって著作権侵害に当たらないですか?
70年くらいで消滅しているんでしたっけ。
987: 2016/04/21(木) 21:29:13.54 ID:lLlLVuXy(37/48)調 AAS
 吾輩が主人の膝ひざの上で眼をねむりながらかく考えていると、やがて下女が第二の絵端書えはがきを持って来た。見ると活版で舶来の猫が四五疋ひきずらりと行列してペンを握ったり書物を開いたり勉強をしている。
その内の一疋は席を離れて机の角で西洋の猫じゃ猫じゃを躍おどっている。その上に日本の墨で「吾輩は猫である」と黒々とかいて、右の側わきに書を読むや躍おどるや猫の春一日はるひとひという俳句さえ認したためられてある。
これは主人の旧門下生より来たので誰が見たって一見して意味がわかるはずであるのに、迂濶うかつな主人はまだ悟らないと見えて不思議そうに首を捻ひねって、はてな今年は猫の年かなと独言ひとりごとを言った。
吾輩がこれほど有名になったのを未まだ気が着かずにいると見える。
988: 2016/04/21(木) 21:30:22.92 ID:lLlLVuXy(38/48)調 AAS
 ところへ下女がまた第三の端書を持ってくる。今度は絵端書ではない。恭賀新年とかいて、傍かたわらに乍恐縮きょうしゅくながらかの猫へも宜よろしく御伝声ごでんせい奉願上候ねがいあげたてまつりそろとある。
いかに迂遠うえんな主人でもこう明らさまに書いてあれば分るものと見えてようやく気が付いたようにフンと言いながら吾輩の顔を見た。その眼付が今までとは違って多少尊敬の意を含んでいるように思われた。
今まで世間から存在を認められなかった主人が急に一個の新面目しんめんぼくを施こしたのも、全く吾輩の御蔭だと思えばこのくらいの眼付は至当だろうと考える。
989: 2016/04/21(木) 21:30:48.79 ID:iQZGnrCh(1)調 AAS
LlLVuXy
荒らし報告済み
990: 2016/04/21(木) 21:30:58.89 ID:lLlLVuXy(39/48)調 AAS
 おりから門の格子こうしがチリン、チリン、チリリリリンと鳴る。大方来客であろう、来客なら下女が取次に出る。吾輩は肴屋さかなやの梅公がくる時のほかは出ない事に極きめているのだから、平気で、もとのごとく主人の膝に坐っておった。
すると主人は高利貸にでも飛び込まれたように不安な顔付をして玄関の方を見る。何でも年賀の客を受けて酒の相手をするのが厭らしい。人間もこのくらい偏屈へんくつになれば申し分はない。
そんなら早くから外出でもすればよいのにそれほどの勇気も無い。いよいよ牡蠣の根性こんじょうをあらわしている。しばらくすると下女が来て寒月かんげつさんがおいでになりましたという。
この寒月という男はやはり主人の旧門下生であったそうだが、今では学校を卒業して、何でも主人より立派になっているという話はなしである。この男がどういう訳か、よく主人の所へ遊びに来る。
来ると自分を恋おもっている女が有りそうな、無さそうな、世の中が面白そうな、つまらなそうな、凄すごいような艶つやっぽいような文句ばかり並べては帰る。
991: 2016/04/21(木) 21:31:29.79 ID:lLlLVuXy(40/48)調 AAS
主人のようなしなびかけた人間を求めて、わざわざこんな話しをしに来るのからして合点がてんが行かぬが、あの牡蠣的かきてき主人がそんな談話を聞いて時々相槌あいづちを打つのはなお面白い。
「しばらく御無沙汰をしました。実は去年の暮から大おおいに活動しているものですから、出でよう出ようと思っても、ついこの方角へ足が向かないので」と羽織の紐ひもをひねくりながら謎なぞ見たような事をいう。
「どっちの方角へ足が向くかね」と主人は真面目な顔をして、黒木綿くろもめんの紋付羽織の袖口そでぐちを引張る。この羽織は木綿でゆきが短かい、下からべんべら者が左右へ五分くらいずつはみ出している。
「エヘヘヘ少し違った方角で」と寒月君が笑う。見ると今日は前歯が一枚欠けている。「君歯をどうかしたかね」と主人は問題を転じた。
992: 2016/04/21(木) 21:32:19.62 ID:lLlLVuXy(41/48)調 AAS
「ええ実はある所で椎茸しいたけを食いましてね」「何を食ったって?」「その、少し椎茸を食ったんで。椎茸の傘かさを前歯で噛み切ろうとしたらぼろりと歯が欠けましたよ」
「椎茸で前歯がかけるなんざ、何だか爺々臭じじいくさいね。俳句にはなるかも知れないが、恋にはならんようだな」と平手で吾輩の頭を軽かろく叩く。
「ああその猫が例のですか、なかなか肥ってるじゃありませんか、それなら車屋の黒にだって負けそうもありませんね、立派なものだ」と寒月君は大おおいに吾輩を賞ほめる。「近頃大分だいぶ大きくなったのさ」と自慢そうに頭をぽかぽかなぐる。
賞められたのは得意であるが頭が少々痛い。「一昨夜もちょいと合奏会をやりましてね」と寒月君はまた話しをもとへ戻す。「どこで」「どこでもそりゃ御聞きにならんでもよいでしょう。ヴァイオリンが三挺ちょうとピヤノの伴奏でなかなか面白かったです。
ヴァイオリンも三挺くらいになると下手でも聞かれるものですね。
993: 2016/04/21(木) 21:32:56.29 ID:lLlLVuXy(42/48)調 AAS
二人は女で私わたしがその中へまじりましたが、自分でも善く弾ひけたと思いました」「ふん、そしてその女というのは何者かね」と主人は羨うらやましそうに問いかける。
元来主人は平常枯木寒巌こぼくかんがんのような顔付はしているものの実のところは決して婦人に冷淡な方ではない、かつて西洋の或る小説を読んだら、その中にある一人物が出て来て、それが大抵の婦人には必ずちょっと惚ほれる。
勘定をして見ると往来を通る婦人の七割弱には恋着れんちゃくするという事が諷刺的ふうしてきに書いてあったのを見て、これは真理だと感心したくらいな男である。
そんな浮気な男が何故なぜ牡蠣的生涯を送っているかと云うのは吾輩猫などには到底とうてい分らない。或人は失恋のためだとも云うし、或人は胃弱のせいだとも云うし、また或人は金がなくて臆病な性質たちだからだとも云う。
どっちにしたって明治の歴史に関係するほどな人物でもないのだから構わない。しかし寒月君の女連おんなづれを羨まし気げに尋ねた事だけは事実である。
994: 2016/04/21(木) 21:35:23.20 ID:lLlLVuXy(43/48)調 AAS
>>986
すでに消滅しているみたいです、全編青空文庫で公開されています

寒月君は面白そうに口取くちとりの蒲鉾かまぼこを箸で挟んで半分前歯で食い切った。吾輩はまた欠けはせぬかと心配したが今度は大丈夫であった。「なに二人とも去さる所の令嬢ですよ、御存じの方かたじゃありません」と余所余所よそよそしい返事をする。
「ナール」と主人は引張ったが「ほど」を略して考えている。寒月君はもう善いい加減な時分だと思ったものか「どうも好い天気ですな、御閑おひまならごいっしょに散歩でもしましょうか、旅順が落ちたので市中は大変な景気ですよ」と促うながして見る。
主人は旅順の陥落より女連おんなづれの身元を聞きたいと云う顔で、しばらく考え込んでいたがようやく決心をしたものと見えて「それじゃ出るとしよう」と思い切って立つ。
995: 2016/04/21(木) 21:35:45.48 ID:lLlLVuXy(44/48)調 AAS
やはり黒木綿の紋付羽織に、兄の紀念かたみとかいう二十年来着古きふるした結城紬ゆうきつむぎの綿入を着たままである。いくら結城紬が丈夫だって、こう着つづけではたまらない。
所々が薄くなって日に透かして見ると裏からつぎを当てた針の目が見える。主人の服装には師走しわすも正月もない。ふだん着も余所よそゆきもない。出るときは懐手ふところでをしてぶらりと出る。
ほかに着る物がないからか、有っても面倒だから着換えないのか、吾輩には分らぬ。ただしこれだけは失恋のためとも思われない。
996: 2016/04/21(木) 21:36:29.59 ID:lLlLVuXy(45/48)調 AAS
 両人ふたりが出て行ったあとで、吾輩はちょっと失敬して寒月君の食い切った蒲鉾かまぼこの残りを頂戴ちょうだいした。吾輩もこの頃では普通一般の猫ではない。まず桃川如燕ももかわじょえん以後の猫か、グレーの金魚を偸ぬすんだ猫くらいの資格は充分あると思う。
車屋の黒などは固もとより眼中にない。蒲鉾の一切ひときれくらい頂戴したって人からかれこれ云われる事もなかろう。それにこの人目を忍んで間食かんしょくをするという癖は、何も吾等猫族に限った事ではない。
うちの御三おさんなどはよく細君の留守中に餅菓子などを失敬しては頂戴し、頂戴しては失敬している。御三ばかりじゃない現に上品な仕付しつけを受けつつあると細君から吹聴ふいちょうせられている小児こどもですらこの傾向がある。
四五日前のことであったが、二人の小供が馬鹿に早くから眼を覚まして、まだ主人夫婦の寝ている間に対むかい合うて食卓に着いた。
彼等は毎朝主人の食う麺麭パンの幾分に、砂糖をつけて食うのが例であるが、この日はちょうど砂糖壺さとうつぼが卓たくの上に置かれて匙さじさえ添えてあった。
997: 2016/04/21(木) 21:37:38.47 ID:lLlLVuXy(46/48)調 AAS
いつものように砂糖を分配してくれるものがないので、大きい方がやがて壺の中から一匙ひとさじの砂糖をすくい出して自分の皿の上へあけた。すると小さいのが姉のした通り同分量の砂糖を同方法で自分の皿の上にあけた。
少しばらく両人りょうにんは睨にらみ合っていたが、大きいのがまた匙をとって一杯をわが皿の上に加えた。小さいのもすぐ匙をとってわが分量を姉と同一にした。すると姉がまた一杯すくった。
妹も負けずに一杯を附加した。姉がまた壺へ手を懸ける、妹がまた匙をとる。見ている間まに一杯一杯一杯と重なって、ついには両人ふたりの皿には山盛の砂糖が堆うずたかくなって、
壺の中には一匙の砂糖も余っておらんようになったとき、主人が寝ぼけ眼まなこを擦こすりながら寝室を出て来てせっかくしゃくい出した砂糖を元のごとく壺の中へ入れてしまった。
こんなところを見ると、人間は利己主義から割り出した公平という念は猫より優まさっているかも知れぬが、智慧ちえはかえって猫より劣っているようだ。
998: 2016/04/21(木) 21:38:09.53 ID:lLlLVuXy(47/48)調 AAS
そんなに山盛にしないうちに早く甞なめてしまえばいいにと思ったが、例のごとく、吾輩の言う事などは通じないのだから、気の毒ながら御櫃おはちの上から黙って見物していた。
 寒月君と出掛けた主人はどこをどう歩行あるいたものか、その晩遅く帰って来て、翌日食卓に就ついたのは九時頃であった。例の御櫃の上から拝見していると、主人はだまって雑煮ぞうにを食っている。
代えては食い、代えては食う。餅の切れは小さいが、何でも六切むきれか七切ななきれ食って、最後の一切れを椀の中へ残して、もうよそうと箸はしを置いた。
他人がそんな我儘わがままをすると、なかなか承知しないのであるが、主人の威光を振り廻わして得意なる彼は、濁った汁の中に焦こげ爛ただれた餅の死骸を見て平気ですましている。
妻君が袋戸ふくろどの奥からタカジヤスターゼを出して卓の上に置くと、主人は「それは利きかないから飲まん」という。
999: 2016/04/21(木) 21:38:37.01 ID:lLlLVuXy(48/48)調 AAS
「でもあなた澱粉質でんぷんしつのものには大変功能があるそうですから、召し上ったらいいでしょう」と飲ませたがる。「澱粉だろうが何だろうが駄目だよ」と頑固がんこに出る。「あなたはほんとに厭あきっぽい」と細君が独言ひとりごとのようにいう。
「厭きっぽいのじゃない薬が利かんのだ」「それだってせんだってじゅうは大変によく利くよく利くとおっしゃって毎日毎日上ったじゃありませんか」「こないだうちは利いたのだよ、この頃は利かないのだよ」と対句ついくのような返事をする。
「そんなに飲んだり止やめたりしちゃ、いくら功能のある薬でも利く気遣きづかいはありません、もう少し辛防しんぼうがよくなくっちゃあ胃弱なんぞはほかの病気たあ違って直らないわねえ」とお盆を持って控えた御三おさんを顧みる。
「それは本当のところでございます。もう少し召し上ってご覧にならないと、とても善よい薬か悪い薬かわかりますまい」と御三は一も二もなく細君の肩を持つ。
1000: 2016/04/21(木) 21:38:47.25 ID:Ap1HZG+W(2/2)調 AAS
gato
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このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
life time: 2日 10時間 20分 14秒
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