[過去ログ] 自衛隊がファンタジー世界に召喚されました 44章 (1001レス)
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116: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/03/13(月) 18:23:59 ID:??? AAS
>>111
「ほいやっ!」
気合と共に流れるようなフォームで、必殺の槍が飛翔する。
陸曹の手から離れたそれは放物線を描いて、さっくりとおよそ50メートル程先の椰子の実大の的に突き刺さった。
「ほう、上手いもんだな坂本。」
傍で見物していた尉官は、その見事さに思わず感嘆の声を上げ、拍手した。
陸曹は恐縮しながらも誇らしげに胸を張って、髭面を綻ばせた。
「いやいや、まだまだですわ・・・しかし我々も、思えば遠く来ましたねぇ・・・」
ここは御国を何百里。
元々ドクトリンに組み込まれてはいない長征は、派遣に従事する隊員達に様々な無理を課していた。
銃弾も少なく、糧食も少なく、燃料も少なく、部品も少ない。
餓死者が出るほどではなかったが、様々な要素がぎりぎりの状態で運用されていた。
「おぉい三河、お前防大の時、銃剣道部だったんだろ。手合わせしようや」
「おお、やるか。んじゃな坂本。」
「それでは。」
敬礼をして、陸曹は槍を取りに走り出し、尉官はまた別の尉官と道場へ向かった。
空は貫けるような青空。元の世界の南方のように、ジメジメとはしていないが、うっそうとした森また森。
少しだけ穏やかな、駐屯地の一日であった。
どう見ても旧陸軍です。本当にありがとうございました。
201: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/03/18(土) 20:36:07 ID:??? AAS
退魔効果のある金属を使った小銃弾でゾンビ殲滅とか。
ビジュアル的には銃剣のほうがカコイイですね。
241(1): 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/03/19(日) 22:53:46 ID:??? AAS
乙です。
スピーディーだ・・・三曹カコイイ!
続きに期待しております。頑張ってください。
462(1): 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/03/31(金) 23:13:43 ID:??? AAS
L-90と87式って、どっちが効率的なんでしょうか。
L-90はレーダー車など、六台ほどの車両群でワンセット・・でしたっけ?
87式は74式の車体の流用。
・・・それと、レーダー実装だから、恐ろしく電気食いますね。>>対空車両
使ってる余裕あるんでしょうか。
いっそ高射の主兵装を全部M2対空照尺バージョンに(ry
649(1): 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/04(火) 12:33:23 ID:??? AAS
ところで、エアカバーも何も無いF世界の敵陣なら藍より青き大空に空挺かま
しても大丈夫ですかね?
空挺団の活躍を書きたいんですが、夜間降下だと地味だし・・・
758: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:15:05 ID:??? AAS
乙です。
同期。
うーん、いい響きですな。彼らの活躍も、見てみたいものです。
では自分も氏に触発されまして、
銀輪部隊、続き投下。
759: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:23:19 ID:??? AAS
フエルバは、温暖な森に生息する。外見上は、何の変哲も無い、ただの樹木の様な印象を受けるが、枝分か
れの付け根に捕食用の「口」を持つ、珍しい肉食植物である。
主に地表に根を張り、稀に樹木の節目に根付いて成長することもある。主茎の長さは最大で65エルヴェ(
1エルヴェはエルフの、耳の根元から先端までの長さである)、直径は8エルヴェになる個体が発見され
ている。
主食は、森に生息する小、中型の動物である。自在に動く根で獲物を捕らえ、強い酸で満たされた「口」の
中へ持っていき、獲物を溶かして吸収する。「狩り」のやり方は独特で、獲物を二匹捕らえ、片方を捕食し
、片方に操り糸のような細い糸を刺し、操ることで新たな獲物を誘う習性がある。この糸には微弱な魔力が
通っており、少しずつ刺した獲物を蝕み、果てには自己の体の一部としてしまう。
森の中でいなくなった恋人と再会する、というナータ地方の昔話「オリョルの森」は、このフエルバの犠牲
者の目撃談から派生したものではないか、という見方もある。実際何件か、ナータ地方において、子供や老
人がフエルバの犠牲になった事例がある。その事例において、まだ息のある犠牲者に繋がれた糸を断ち切っ
り、犠牲者が途端に死んでしまう、という痛ましい事件があった。断たれた糸に通う魔力が、繋がれた犠牲
者の体に死をもたらす、との見方が有力であるが、原因は不明である。
『魔法植物の分布と生態』J.H.ウェスリントン著
「・・・つまり、切るなと。」
とてつもなく面倒な任務だった。
いつまた動き出すか判らない操られた隊員はそのままにして、本体を八つ裂きにせよ。増援は、無い。
隊員の命がかかっているとはいえ、戦力は少ない。
しかも、迅速に敵を倒しても、隊員がたすかる保証はないのだ。
大田は怒りのメーターが振り切れて、体の力が抜けていくのを感じた。
「・・・了解、任務開始する。通信終わり」
それだけ言うと、大田は受話器を置いた。
「聞けお前ら、これから我々はあの連中を操っていたハエトリグサの化け物をやっつけに行く。」
760: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:24:37 ID:??? AAS
力ない様子を部下に見せるのは、矜持が許さなかった。大田は努めて意気軒昂に、班員皆に伝わる大声で指
令を下す。
「任務にあたって、班を二つに分ける。小平と林はここに残って連中を見張れ。敵襲の可能性は薄いが、何
かあったときは無理をするな。・・・見捨てるのも止むなしだ。」
元々分の悪い任務なのだ。無茶はさせたくなかった。・・・それでも無茶なのだが。
命ぜられた二人は、神妙な顔で、勢いよく返事をした。
「他の三人は、俺と一緒に糸をたどって、討伐だ。・・・敵の習性からして、行方不明の連中が生きている
可能性は、かなり低い。敵を倒すことに集中するんだ。」
「了解!」
「りょ、了解!」
「了解。」
少しどもったのは篠崎だった。強張った顔から怯えが見て取れた。
大田は咎めなかった。任務前に水を注したくなかったし、そんな余裕も無かったのだ。
前進号令と共に、さらに人足の減った銀輪部隊は、操り糸を追って歩き出した。無論、徒歩で。
”大陸”の内陸部、オステン王国の北西には、低い山が連なり、広葉樹林が広がっている。
温暖で住みよい気候であるが、通行が不便なため人の手が余り入っていない地域である。陸上自衛隊は当面
の防衛線としてこの山岳地帯を想定しており、点々と前線基地を創設し、少しづつであるが道路の敷設を行
っている。
この地帯を西に行くと、やがて広大な平原が現れる。オステン王国の街道には山岳地帯を迂回し、南からこ
の平原へ行くルートがあるが、日本はまだこのルートを使わせてもらえない。オステンと正式な国交を結ん
でいないからである。
オステン領に近いこの森に戦線を構築するのも、実はイリーガルすれすれなのであるが。
761: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:27:21 ID:??? AAS
「起伏が激しいな・・・」
そんなことはお構いなしに、大田達は歩いていた。小一時間、すでに糸は道から外れ、まばらな林の中、積
もった腐葉土と草むらの上を走っている。大田は班を先導して、それを辿っていった。
「あ、あの木の根元に引っかかってますよ」
柏が指差した方向を見ると、確かに、大木の根元へ糸が伸びているのが判った。
大田は、その幹の太さに一瞬唖然となる。幹というより、臼のような太さだった。
林の中で、一際大きく見える大樹。養分を独占しているのか、周囲に樹木が生えていなかった。
しかし大田は特に警戒もせず、糸をたどって樹へと近づいていった。
「・・・?」
最初に「何か」を感じ取ったのは、篠崎だった。
縦隊の三番目にいた彼は、その樹の周囲・・・樹木が他になくて開けている・・・に踏み入った瞬間、全身
に怖気が走るのを感じた。自衛官としては臆病、いや小心者の彼だからこそ、この場に走る「何か」・・・
つまり、殺気を敏感に感じ取ったのだ。
「い、一曹!」
「!?」
声をあげた時にはすでに遅く。
突如視界が炸裂し、土と草が跳ね上がる。足元が崩壊し、四人の縦隊は散り散りに吹き飛ばされた。
「ぐわっ!」
一瞬の浮遊感の後、大田は背中から地面に叩きつけられた。
山の地面は柔らかかったが、背中から胸板へ突き抜ける衝撃に、肺が縮み上がるような感覚を覚えた。
朦朧とする頭を二、三回振り、必死に状況を確認しようと努める。吹き飛ばされた方向を見回すと、茶色く
掘り起こされた地面に、点々と迷彩色が見て取れた。
762: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:28:05 ID:??? AAS
「生きてるか、お前ら!」
咄嗟に叫んだ。
その声に呼応して、三つの人影が、のろのろと動き出す。何とか全員生きていた。
心なしか、泣き声も聞こえた気がした。おそらく篠崎あたりが喚いているのだろう。
「退却だ、とにかく退け!」
89式小銃の金座を「レ」に設定しながら、大田は援護の体制に入る。
大田はこの時、自分達は炸裂魔法の類で攻撃された、と踏んでいた。ならば近くに魔術師が隠れている筈で
ある。牽制のため、照準もつけずに引き金を絞った。
「急げ!あの土手の向こうに隠れろ!」
大木の周辺から死角になっている土手を指差しながら、小銃を乱射する。そこは大田達が糸をたどりながら
やってきた方向で、そこなら敵がいる可能性は薄い、と踏んだからだ。
我先にと土手の向こうへルパンダイブする部下達を少々情けなく思いながら、三十発弾倉が空になるのと同
時に大田も逃げ出した。
「なんだったんだ、今のは・・・」
「敵の襲撃じゃないんですか?」
「それにしちゃ・・・」
土手際から頭だけひょっこり出して、双眼鏡で辺りを見回してみる。
それらしい人影は無く、辺りには鬱蒼とした森と、炸裂による僅かな土ぼこりのみが見えた。
しかし、違う発見はあった。双眼鏡で見ると良くわかる。
たどっていた糸は、あの大木の根元から現れていた。兼ねてよりの目標をついに発見したのだ。
「そうか・・・あの木が・・・」
「どうしました?」
「伊上、擲弾銃であの木を撃て。弾頭はHEATだ!」
763: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:28:44 ID:??? AAS
伊上は一瞬呆けた顔をしたが、一瞬睨みつけると我に返り、すぐに行動を始めた。発射器に擲弾を取り付け
、金座を「タ」に設定した。土手のてっぺんに小銃の被筒を据え、狙いを定める。
パン、と軽い音がして弾頭は銃身を離れ、硝煙が飛び散った。
瞬間、命中する筈の擲弾は、その幹に当たる前に炸裂し、その皮を少しだけ吹き飛ばすのみに留まった。
「な、なにぃ!?」
大田は一瞬、目を疑った。擲弾がその幹に到達する刹那。
炸裂で掘り起こされた地面から、一斉に細い蔓が飛び出し、擲弾を阻んだのだ。
蔓の一本が弾頭を起爆させ、HEAT弾のメタルジェットは幹のはるか手前でその威力を殺された。
「め、面妖な・・・」
大田でさえ、目の前の異様な光景にたじろいだ。
無数の蔓が足元をすくったのを、魔法の炸裂と勘違いしていたのだ。
擲弾の爆煙が晴れると、蔓はその幹に絡みつき、動きを止めた。どうやらこれが元の姿のようだ。
「柏、パンツァーファウスト!!」
「はいっ!」
待ってましたとばかりに大声で返答してから、柏はてきぱきとパンツァーファウストの射撃準備にかかった。
「俺たちが注意を引く。合図したら撃て。」
大田は柏と残り、他の二人を土手沿いに大木の側面に回りこませた。
攻撃を阻む蔓をひきつけ、本命のパンツァーファウストをぶつける作戦だった。
手ごろな位置に陣取り、早速伊上と篠崎に射撃を命じる。
伊上はグレネード、篠崎はMINIMIを、照準もそこそこに撃ち始める。
防御にはいった大木の蔓をへし折り、吹き飛ばしていく。蔓は盾のように、篠崎達の正面に集中しつつあっ
た。
それを、大田は好機とみた。
764: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:29:48 ID:??? AAS
「今だ!」
大田が叫ぶ。
しかし、計画通りに行けば発射された筈のパンツァーファウストが放たれることは、無かった。
柏がいるはずの方へ目を向けると、
「いっそーーーう!!」
いつの間にか忍び寄った蔓に足を絡めとられ、逆さ吊りにされた柏が、スリングに結わえたパンツァー
ファウストをぶらぶらさせながら泣き叫んでいた。
「柏ぁ!」
蔦は順調に柏を幹へと持っていく。
枝の分かれ目がバキバキという音と共に裂け、大口をあけて、柏を飲み込む準備を完了させた。
裂けた面の内側は、グロテスクな鮮紅色。ヌラヌラとしていて、生物の粘膜を連想させる色だった。
「柏が食われちゃう!」
篠崎はほとんど恐慌状態だった。
「伊上、枝の分かれ目にグレネード!」
大田は咄嗟に命じた。伊上は何とか照準を合わせ、大田の期待通りの部分に擲弾を打ち込んだ。
捕食に気を取られていたのか、蔦が擲弾を阻むことは無かった。
メタルジェットが裂け目の一部分を焼ききり、爆風で吹き飛ばした。
「う、わああああ!」
柏を掴んでいた蔦が、まるでもだえ苦しむかのように大きく振れる。
不幸にもそのまま投げ飛ばされ、柏は土手の向こう側に転落し、大田達から見えなくなった。
最大の攻撃手段が、戦線離脱してしまった。
765: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:30:32 ID:??? AAS
「一曹、柏が!」
「わかっとる、くっそ!」
悪態をついて大田は小銃を投げ捨て、空手に銃剣を持った。
「一曹!?」
「パンツァーファウストを取りに行く。お前ら、援護しろ!蔓に絡め取られるんじゃないぞ!」
「は、はい!」
それだけ言うと、大田は柏が落ちた土手へと走り出した。
背後では、注意を引くための全力射撃の音だけが聞こえていた。
「ッ!?」
突然右手に反発力がかかる。引っ張られた腕を見ると、手首に蔦が絡み付いていた。無我夢中で銃剣の刃を
当て、力任せに引っ張ると、さしもの丈夫な蔦も削がれるように切り千切れた。
「柏!」
柏の転落した土手には、転がった拍子に腐葉土が掘り起こされ、真新しい地面が真っ直ぐ、点々と顔を出し
ていた。大田がその跡を目で追うと、土手の終わり辺りに泥だらけの迷彩服が倒れていた。
銃剣をしまって駆け寄り、ぐったりとした体を抱き起こす。
「しっかりしろ柏!」
幸い柏には目立った外傷は見られなかった。しかし幾らかの鼻血が、あごを伝って迷彩服の襟を汚していた。
泥と、幾らか血のついた頬を平手で叩いて、意識の確認を行った。
二、三回、大田の平手が往復すると、柏は喉の奥から搾り出すような声を出して、目を開けた。
「い、いっそう・・・」
「大丈夫か、どこか痛むところはあるか?」
「左腕が・・・うぅ・・・」
766: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:31:27 ID:??? AAS
どうやら胸も打ったらしく、柏はヒューヒューと苦しそうに喘ぐ。
大田が少し左腕に触れると、びくりと過敏な反応を催した。よく見ると肘関節から先が、変に捻じ曲がって
いる。
「パンツァーファウストをもらうぞ。」
大田は冷静に、しかしどこか義憤を帯びた声で言った。
彼の肩に絡んだスリングをはずし、幾らか泥が付着した黒い重火器を担ぐ。
それから柏の頭を上げ、胸元を緩めて呼吸しやすいようにした。
「気は確かにあるな?」
「はい」
「苦しくないか?」
「はい・・・」
その返事をもらうと、大田は早速、土手をあがっていった。
班長の後姿に、柏は少しだけ、ぼんやりと感激を覚えた。
「一曹だ、パンツァーファウストを持ってる!」
篠崎が、射撃の手を止めて、側面の土手からひょっこり現れた大田を指差した。
「撃つつもりだ、援護射撃!」
何とかかんとか自分を絡めとろうとする蔦と格闘していた伊上も、無理やり射撃姿勢にはいった。
二人は敵を引き付けるべく、猛然と引き金を絞る。
「人間様に逆らうとどうなるか、見せてやるぞ・・・」
大田は努めて冷静を保とうとしたが、無理だった。柏の惨状を見て、怒りを抑えられなくなっていた。
視野が狭まり、照準具と大木の幹しか見ていなかった。
無論、死角から迫る蔦など、見えようはずも無い。
767: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:32:07 ID:??? AAS
「なぁぁぁ!?」
大田も柏と同じような状態になってしまった。
何とかパンツァーファウストを取りこぼさずにはすんだが、大ピンチだ。
今度こそ逃がすまい、と、再び大木・・・肉食植物フエルバが大口を空けた。
「伊上、もう一回撃てよ!」
「今再装填してるんだ!」
運悪く、ライフルグレネードによる援護が遅れ、大田は「大口」の中身がはっきり見える距離まで吊られて
しまった。
その時、大田は見た。
奇妙な液体が蠢く、怪物の口内、そこに浮かぶ三つの塊。
外形をすっかりなくしてもなお、それは人間と判断できた。鉄帽と、すでに棒のようになった小銃も見える。
無我夢中でパンツァーファウストを担ぐ。逆さ吊りだから、ほとんど背負うような構えだった。
自由な足を開き、バックブラストに配慮した。
「くらえや!」
バム、という音の後に、轟然と爆発が起きた。
口内に吸い込まれるように飛び込んだ対戦車ロケットは、その体内で暴れまわり、内側から幹を破壊した。
液体や幹の破片が飛び散り、大田もあおりを食らって吹き飛ぶ。
脳が揺すぶられ、大田の意識はだんだんと薄れていく。
故郷の家族が脳裏に浮かび、やがてヴェールを纏うように、ぼんやりと消えていった。
「・・・そう、いっそう・・・」
768: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:32:39 ID:??? AAS
声が聞こえる。
だるい。まぶたを開くのも重労働だ。
「しっかりしてください一曹。目を開けてくださいよ。」
やっと開いた、薄ぼけた視界に、鉄帽が三つ写った。
「・・・生きてる」
「運が良かった。吹っ飛ばされた時は駄目かと思った。」
「木に引っかかったおかげで、重症を負わずにすんだんです。」
体を動かすことに挑戦する。ぴりぴりと痛みが走るが、どうってことはなかった。
上体を起こすと、一瞬くらりと眩暈をもよおす。見回すと、三人ともボロボロ。柏は、折れた左腕を、即席
の三角巾で吊っていた。
「大丈夫ですか、無理はせずに」
「いや、大丈夫だ。敵はやったな?」
「はい、バラバラです。周辺に敵影もありません。」
「・・・遺体はどうだ?」
「・・・確かに三人、確保しました。・・・顔は判別できませんでしたが」
全員、顔色が悪い。何とか体裁の取れるよう、現場処理をやったのだろうか。
何ともいえない、後味の悪い空気が漂っていた。
任務には成功したが、銀輪部隊は大打撃を被っている。
皆、これ以上何もしたくなかった。することもなかった。早くここを立ち去りたかった。
「・・・帰るか。」
「一曹、動けますか?外傷は軽そうですが・・・」
「どうってこと無い。操られてた連中がどうなっとるか、早く知りたい」
「わかりました」
「現場の座標を記録しておく。篠崎、距離を測れ。伊上、方角みてろ。」
769: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:34:22 ID:??? AAS
全員無言で、今や本体をバラバラにされ、すでに役割を果たさない操り糸をたどって、大田達は撤収した。
辺りは静かで、そこら中に飛び散った破片と、爆発のあとの消し炭と、諸々の肉片以外、激戦を証明するも
のはなかった。
一言もなく歩き続け、何とか操られた隊員達との遭遇地点にたどり着いた。
測距などをやっていたので時間がかかり、辺りは薄暗い夜の帳が落ち始めていた。
「・・・すみませんでした、我々が不甲斐ないばかりに」
「情報がなきゃ、俺たちだってああなっていた、気に病むな・・・」
比較的早期に本体を破壊できたおかげで、操られていた三人の隊員は正気を取り戻していた。
時を追うごとに、フエルバは操る対象を侵食する。もっと時間がたっていたら、あるいは彼らはあの植物の
虜となってしまっていたかもしれない。それを食い止めたのは、間違いなく大田達の勲功であった。
しかし、大田は憂鬱な気持ちだった。
彼らに「戦死公報」を届けなければならなかったからだ。
「うぅ・・・」
上司を助けることもかなわず、あまつさえ敵に操られて友軍に発砲したのだ。処分は覚悟している。
彼らは口々にそう言った。
「班長、通信はいりました。任務ご苦労、帰還せよ、と。」
「さ、撤収だ。最後尾は伊上。先頭は林。自転車は使えん。どうせ戦死確認でバッタが来る。」
遂に自転車をも打ち棄てた銀輪部隊は、星の瞬き始めた東へと向かって撤収を始めた。
大田はふと疑問に思う。あれがこの世界の日常なのだろうか、と。アレは自然現象なのだろうか、と。
技術や科学で上を行く日本であるが、落とし穴はいくらでも存在するのだ。今日の様な。
自転車で落とし穴にはまりたくはないな、と思った。
770: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:34:54 ID:??? AAS
言葉代わりに 日の丸振って
呼べば答える マライ人
椰子の木陰の休止も済めば
さらば征こうぞ 戦線へ
走れ 走れ 走れ
走れ日の丸銀輪部隊・・・
駐屯地で流行の歌が、耳の裏側で響いていた。
終
772: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/08(土) 20:38:26 ID:??? AAS
第三話終了。
最終投稿が2月16日・・・遅筆過ぎて涙が出ますな。
スレもまたいでしまいましたが、何とか終わりました。
「走れ日の丸銀輪部隊」は軽快な雰囲気の歌なので、あまりこんな湿っぽい話にはあいませんね・・・
834: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/09(日) 22:29:53 ID:??? AAS
なんだか元1だおー氏のSS、色々感想が出ていますが。
「ある一人の視点」としては非常に良い作品だと思います。
末端と上層の考えなんて、違ってナンボですよね。
続きが読んでみたいです。彼らがどのように抗うするのか。
・・・しかしこれだと「同期の桜」じゃなくて「青年日本の歌」ですな(汗
836: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/09(日) 22:51:04 ID:??? AAS
最近の「丸」でも言及されてましたね。>ライフルグレネード
89式はやわだから、擲弾の射撃には適さない、とも。
そこまで歩兵火器にこだわる理由はやはり「軍の主兵は歩兵にあり」という考えからでしょうか?
970: 銀輪 ◆2LyZBX0jcM 2006/04/21(金) 17:06:15 ID:??? AAS
一連のレスで日本軍と自衛隊の邂逅モノの火葬戦記が読みたくなった。
そこにF世界。うわ、ごった煮もよさそうだ。
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