[過去ログ] アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ9 (454レス)
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232: 誓うカミナ ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:31:15 ID:b4pYdb3U(1/11)調 AAS
「あー……つまり、お前は自分で考えられるガンメンみないなモンだってワケか」

E−3、高速道路上に一人の男が胡坐をかいて座っている。
男の名はカミナ。獣人たちに対抗する組織“グレン団”のリーダーにしてガンメン“グレン”のパイロットでもある男。
さて、そのカミナが今現在何をしているかというと、これでもかというほどに眉間にしわを寄せている。
一見何をしているのか分かりづらいが彼は頭を使っていた。近年、稀に見るほどに。

『はい。貴方にとってはその認識が一番近いものと推測します、Mrカミナ』

人影が無いにもかかわらず、カミナとは違う声が響く。
その声の主はカミナの正面に落ちている手のひら大の銀色のプレート。
待機モードに入ったデバイス・クロスミラージュであった。

約1時間前、ギリギリのところで“高町なのは”へと偽装したティアナを倒したカミナ。
だが倒したはずの女の姿は変わるわ、しかもその女の制服はやっぱり自分を襲ったのものと同じだわ、極めつけには板が喋るわで、
『俺にはさっぱりわからねえ!』と混乱の極みに陥った。
一方で事情を説明するクロスミラージュもどう説明したものかと迷っていた。
話しかけては見たものの、ここまで驚かれるとは思っていなかった。
最初に出会ったMr明智が非常に理知的な反応を返してくれたので忘れていたが、この世界に召喚された人間の中には文明レベルが低いものもいるのだ。
そんな相手に対して魔法やデバイス、平行世界や時空管理局など専門用語の飛び交うことを理解させるのは、
四則計算を覚え始めた相手に対し微分方程式を教えるより難しいことであろう。
だがしかしクロスミラージュは決意する
主のため、機動六課のため、目の前の男と意思疎通を図ろう、と。
そして――その結果がこれである。
元々カミナのいた世界は人間の文明レベルがあまり高くない。
それに加えカミナ自身が物事を感覚と直感で理解するタイプであったため、
互いの認識の溝を埋めるため、相当な時間と労力を要したのだった。
233: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:32:35 ID:b4pYdb3U(2/11)調 AAS
(しかしまさか、ここまで苦労するとは……)
意外なところで異文化コミュニケーションの難しさを意外なところで思い知ることとなったクロスミラージュ。
だがデバイスの地道な努力のかいあって、何とかある程度の相互理解を得ることに成功したのであった。

『私のマスターであるティアナ・ランスターと共に時空管理局――人を守るための組織に属していたというわけなのです』
「オイオイ、だったら何でいきなり襲ってきやがった」
『先程までマスターは錯乱状態にありました。恐らくはその原因は……仲間の死なのです』

“仲間の死”――その言葉にカミナの表情が変わる。

『私も先程再会したばかりで詳しい事情は聞けていませんが、
 マスターは眼前で妹のように思っていた少女を殺されたようです。
 その際に恐らくは……ショックを受けて、錯乱してしまったのではないかと推測します』

放送でシモンが死んだと聴かされた時の感情が甦る。
あの時、自分は『シモンを殺したのが自分達を襲ってきた女かもしれない』と思ったときどうしようとした?
時間がある程度たった今なら冷静に思い返せる。
――ああ、俺は確かにあの女を殺そうとした。
結局思いとどまったが、首へと手を懸けるところまでいったのだ。
もしもあの時激情に身を任せていたら、自分も俺も“ああ”なっていたかもしれない。
そう考え、未だに倒れている少女へと憐憫を含んだ視線を向ける。

(あん時いきなり襲ってきた女が目の前でシモンを殺してたとしたら、俺もお前みたいになってたのかもな……
 ……ってオイ、それだとおかしくねえか?)

そう、それだと筋が通らない。
だったら何故、“彼女”はこっちを襲ってきたのだ?

「おい、俺は放送より前にもう一人茶色い服を着た女に襲われたんだが、それはどう説明するってんだ?」
『!?』

見るからに動揺する銀の板。
カミナという男は馬鹿ではあるが、決して嘘をつく人間ではない。
それがクロスミラージュが一時間に及ぶ会話で分析したカミナのパーソナリティだ。
つまりもう一人、錯乱したマスター以外にこのゲームに乗ってしまった六課の女性がいる。
いや、良く似た服を着た他人という可能性もまだ捨てきれない。まずは冷静に情報を集めなければ。
そう判断し、クロスミラージュは会話を進める。

『その女性の名前などは聞きましたか?』
「さあな。名前を聞く前にヴィラルって獣人野郎とどっか行っちまったよ。
 外見は――確かこんぐらいの金髪で、耳にこんなわっか付けてやがったな」
『……!』
234: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:33:48 ID:b4pYdb3U(3/11)調 AAS
クロスミラージュはその条件に該当する人間を一人知っている。
この場に唯一召喚されたヴォルケンリッター・湖の騎士シャマル。
勿論、似たような服を着て、似たような格好をしている別人かもしれない。
何か事情があって、背格好の似た人物が服を奪ったのかもしれない。
だが機械としてのクロスミラージュは冷徹に判断を下す。
この戦場でシャマルと似た個体に遭遇する確立はきわめて低い、と。
そして彼女が同様に参加させられた主・八神はやての存命のためにゲームに乗ってしまう可能性を否定し切れなかった。

『……悲しいことですが、このゲームに彼女は乗ってしまったのかもしれません。
 ですが、機動六課のメンバー全体がそうというわけではありません。
 どうか、それだけは信じてください』
「……悪いが俺は自分の目で見たものしか信じねえ。お前がどう言ってもそれだけは譲れねえんだ」

カミナの言っていることも無理はない。
二度も同じ制服の奴に襲われておいて、『人を傷つける組織でない』などとはどう考えても筋の通らない話だ。
いや、それどころかまったく逆の判断をされても無理は無い。
ならばせめてマスターを見逃してもらえるように説得すべきだろう。
そう考えクロスミラージュは電子音声を紡ぎ出そうとする。だが――

「だがな、俺にはお前が嘘をいってるようにも思えねえ」
『!!』

カミナの顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
シモンが信じ、ヨーコが惹かれた男の笑みだ。

「だからとりあえず……ティアナつったか、あの女と暫く行動して、それからお前の言葉がホントかどうか見極める!
 ……それでいいんだろ?」
『……! は、はい!』

――捨てる神あれば拾う神あり
整備課のシャーリーがいつか話していた、高町教官の世界のことわざだ。
Mr明智が最初に出会ったロイ・マスタングや先程までのマスターのようにゲームに乗ってしまった人間も確かにいる。
だがMr明智や目の前のこの青年のようにこんな場所でも“正義”をもって行動する人間も確かにいるのだ。
彼の力を借りればマスターもきっと――

『Mrカミナ。マスターのことを……お願いします』
「おうよ、任せとけ! 後な、その“みすたー”はいらねえ。
 俺はカミナだ! グレン団のリーダーにして」
『了解しました、カミナ!』
235: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:34:52 ID:b4pYdb3U(4/11)調 AAS
***

まだ、まどろみの中にある意識の中で思い出す。

私は“高町なのは”ではなかったのだ。
管理局のエース・オブ・エース。決して負けない、決して道を間違えない強い人。
彼女なら絶対に間違わない――そうやって弱い私はあの人にまで責任を押し付けようとしたのか。
どこまで私は――ティアナ・ランスターという人間は堕ちれば気が済むのか。
どこまで間違いを重ね、道を踏み外すせばいいのだろう。

ああ、そういえばクロスミラージュには酷い事をしてしまった。
さっきは偽者扱いまでしてしまった。そんなはずはないのに、それは私が一番わかっているのに。
まず、クロスミラージュに謝らなきゃ……
そして視線を泳がせた私の元に飛び込んできたのは、

『Mrカミナ、――お願いします』

さっきまで戦っていた男を頼っているクロスミラージュの姿だった。
その光景を見て、ぼんやりとした頭で理解する。
ああ、そうか――私は見捨てられたのだ。あまりにも頼りなく、不甲斐ないせいで。
なんて無様なんだろう。
目の前でキャロを死なせ、6課のみんなを守るために殺すと決めたのにそれもかなわず。
更にはすべての責任を尊敬するなのはさんに押し付け、そして踏みにじった。
こんな人間……デバイスに見捨てられるのも当然だ。
私に最早クロスミラージュを手にする資格はない。
いや、それどころか6課のみんなとも顔を合わせるわけにはいかない。
一刻も早く、ここから消えてしまいたい。

「おうよ、俺に任せとけ!」
『ありがとうございます、カミナ』

会話の内容は途切れ途切れにしか聞こえないが、どこと無くクロスミラージュも嬉しそうではないか。
その姿を見るのが辛くて視線を逸らす。
その先に広がるのはまるで私の今の心みたいに無機質な灰色の壁。
だけど無限に続くかと思われたその壁に一つだけ、青い世界が広がっている場所があった。

***
236: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:43:14 ID:b4pYdb3U(5/11)調 AAS
「よし、そうと決まれば今後の方針ってやつを話し合うか。
 俺はとにかくシモンとヨーコを探したいんだが……特に目標地点があったわけじゃねえからな」
『シモン? ですがその名前は……』
「前にも言ったろ? 俺は自分の目で見たものしか信じねえってな!」
『……わかりました。私達もあなたに従いましょう。
 人を探すのならば11時までに駅に向かったほうがいいでしょう。
 Mr明智ならばきっと協力してくれるはずで――』

だがその時、爆発音がクロスミラージュの言葉をさえぎった。
大気を震わせる爆音にカミナは手元にあった剣を掴み、周囲を警戒する。

『カミナ、爆発に付随すると思われる魔力を検知しました! この壁の向こう側です!
 距離はそれなりにあるのでこちらを狙ったものではないと思いますが……』

クロスミラージュの警告に視線を向けるとそこには高速道路脇を防護するコンクリート壁が広がっている。
継ぎ目無く視界をふさいでいる上に、それなりの高さがあるため少なくともカミナの周辺では爆発地点を視認出来そうも無い。

「おい、マリョク……ってことは“キドウロッカ”となんか関係があるのか?」
『稀にですが生まれつき魔力をもったものもいるので一概にそうとはいえませんが……可能性は有ります』
「よっしゃ! じゃあまずはそこに向か……って……」

だがそこで立ち上がろうとしたカミナがふらつき、膝を突く。
クロスミラージュはそこでようやく思い出した。
この青年は一見ピンピンしている様に見えるが、あれほど大量の魔力弾を喰らったのだ。
どんな頑丈な人間だろうと無傷などと言うことはありえない。

『……カミナ、どこか安全な場所での休息を推奨します。
 そのままでは先にカミナが参ってしまう』
「何、心配すんな。無理を通して道理を蹴っ飛ばすのがこの俺カミナ様! そしてグレン団の心意――」

言葉を途切れさせるカミナ。
その態度を不審に思ったクロスミラージュが視線の先へ視覚素子を追わせると
そこには――幽鬼の様に脚を進めるティアナの姿があった。
その先にあるのは、かつてヴィラルが持っていた爆弾で作り出した巨大な穴。

『マスター!?』

クロスミラージュの目的語も、動詞すら無い呼びかけ。
だがその声にティアナは虚ろな笑みを返し――空中へと身を躍らせた。
カミナが急いで駆け寄るも、既に少女の身体は海中に没しており、水飛沫の残滓だけが見て取れた。

「ちっ、あの馬鹿野郎! お前、しっかり捕まってろ!」

――下が水なら死にはしねえ!
そう判断したカミナはディパックを引っつかみ、クロスミラージュを首にかけると、後を追うように跳躍、海中へ飛び込んだ。
確かに下が水ならば死にはしないだろう。
だがカミナには誤算があった。彼は――海を知らなかったのだ。

「!!??! ぐぁがばっ!? なん、だ、こりゃ! しょっぺえぇぇえええ!」

口に入った海水の塩辛さに驚きの声を上げるカミナ。

『! まさか海を知らないのですか!?』
「うみ゛!? なんだぞりゃ、がはっあ!」

カミナは生まれてからの17年間を穴倉の中で過ごしてきた。
故に知らなかった。海と言う存在を。
口の中に入った海水の塩辛さ、そして行動を制限する波。
カミナは初めて実感する“海”という存在にパニックを起こしかけていた。
237: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:44:30 ID:b4pYdb3U(6/11)調 AAS
クロスミラージュは焦っていた。
溺死するほとんどの原因がパニックに陥ることだ。
ティアナは心配だが二次災害は最悪のパターンだ。
まずはこの男を落ち着かせないと――!

『手足の力を抜いてください! 早く!』

いきなり手足の力を抜け、と言われて早々出来る人間はいない。
案の定、カミナはより一層強く手足を動かし、さらに海水を飲んでしまう。
だがそれでもクロスミラージュは必死に呼びかける。

『人間の身体は構造上水に浮くようになっています! カミナ、私を信じてください!』

必死なその声に何かを感じ取ったのか、意を決したカミナは思い切って身体の力を抜いた。
――人体の構造上、肺に空気が入っている以上は手足こそ沈むものの口と鼻は確実に水面上に出る。
カミナのように上半身に服を着ていないならなおさらだ。
波のせいで時々水をかぶるものの、呼吸を行う邪魔になるほどのものではない。

『そのままゆっくりと手足を動かしてください』

アドバイス通りに手足を動かすと僅かながら水中を体が移動する。
それを数回繰り返すうち、カミナはコツを掴んだのかそのまま泳ぎ始め、何とか運良く高速道路の橋脚に手を懸けることに成功する。
だが周囲を見回すもそこには少女の姿は無かった。
どうやら湾内はいくつもの水路が合流する故か、流れが入り組んでいる上に速く、既に何処かへ流されてしまったらしい。
しかもカミナたちがいたところは肝心のティアナを見失ってしまったのだ。

「くそっ……どこへ流されちまったんだ……すぐに助けにいかねえと」
『いえ、あなたが溺れてしまっては元も子もありません。
 ……とりあえず陸地に上がっての休息を推奨します』
「無茶は承知だ! 今追いつかねえと……」
『その身体で追いついて、二人して溺れるつもりですか!』

初めて聞く、声を荒げるようなクロスミラージュの声にカミナは言葉を引っ込める。

『流れが速いということは何処かに流れ着いている可能性も高いということです。
 ……そう信じて、今は陸地に上がりましょう』

そうだ、本当に辛いのは自分よりもパートナーを見失ったクロスミラージュなのだ。
例えば自分が身動きできなくなって、目の前でシモンやヨーコと別れざるを得なくなった時に、
さっき出会ったばかりの赤の他人を心配できるだろうか? ――いや、出来ないだろう。
変わらずに無機質に光る銀色の板。だがカミナはそれに歯を食いしばって耐える“漢”の魂を感じた。
それにクロスミラージュの言うとおり、こうしている間にも、意識が飛びそうになっている。
いつも通り道理を蹴っ飛ばそうにも――あまりにも力が足りない。

「……すまねえ」

自分の力不足に奥歯を噛み締める。
だがカミナはただ“くやしい”で終わらせない。
壁があるならば気合で突き抜けるのがグレン団、そしてカミナの生き様だ。
239: 誓うカミナ  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:46:09 ID:b4pYdb3U(7/11)調 AAS
「……もう一度だ」
『え?』
「俺が必ずお前とあの女をもう一度会わせてやる!
 これは――男と男の約束だ!」

カミナの言葉に根拠は無い。
この広い殺戮場で同じ相手に二度再び会える確率は極めて低いといっていい。
だが、クロスミラージュはカミナの瞳に決意の色を見る。
その輝きはかつて、己のマスターが、六課の仲間達が持っていた決意と良く似ていた。
だから信じてみようと思った、この男を。不屈の勇気を持ったこの男を。

『……お願いします、カミナ』
「おう、俺を信じろ!」

そう答えてカミナは陸地に向かって泳ぎだした。
今にも気絶しそうな精神を“約束”の二文字で奮い立たせて。

【E-3/海上/1日目/昼】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(大・気絶一歩手前)
    体力消耗(大)、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
[道具]:支給品一式、ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!(?)、ゲイボルク@Fate/stay night
    クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。
0:とりあえず陸地へ泳ぐ(どの方向へ向かうかは次の書き手さんにお任せします)
1:ティアナを探す
2:ヨーコと一刻も早く合流したい
3:グレンとラガンは誰が持ってんだ?
4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
[備考]
※グレンとラガンも支給品として誰かに支給されているのではないかと思っています。
※ビクトリームをガンメンに似た何かだと認識しています。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
241: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:47:51 ID:b4pYdb3U(8/11)調 AAS
  *   *   *

(な……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!)

剣持勇は呆然としていた。
本に書いてあった文字を何の気なしに読んだ瞬間、ガッシュの口から電撃が放たれ海面を爆発させたのだ。
柩木スザクとの接触によって、自分とは世界から集められたことを理解していたつもりの剣持だったが、
まさか口から電撃をぶっ放す子供がいるとは流石に想定の範囲外であった。
いきなり突きつけられた非現実に剣持は呆然と未だ泡立つ海面を眺めることしか出来ないでいた。

(ウ、ウヌウ……どういうことなのだ、これは!?)

ガッシュ・ベルは困惑していた。
ガッシュの魔本は世界中でただ一人、パートナーである清麿にしか読めないはずのものだ。
だが事実、剣持は本を読み、ザケルは発動した。
本来ならありえない事態に、ガッシュもまた泡立つ海面を眺めるしか出来ないでいた。

「「………………」」

無言のまま、二人の視線が絡み合う。
見知った隣人が一瞬にして正体不明の宇宙人へと変わってしまったような感覚。
互いに微妙な疑心暗鬼の渦の中、その均衡を互いに崩せないまま早10分が経とうとしていた。

――ええい、このままでは埒が明かん!
状況を打破するべく、まず動いたのは剣持のほうであった。
混乱する頭を無理やり動かし、目の前の少年から事情を聞かねばならない
しかし――少なくとも剣持は――口から電撃を出す子供に対して事情聴取を行ったことはない。
『何故、雷を口から撃てるのか?』、『この赤い本は何なのか?』など聴きたいことは沢山有る。
だがその根底にあるのはたった一つの問題だ。
だからストレートにこう訊くしかないだろう。

「……ガッシュ、お前はいったい何者なんだ?」
243: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:49:11 ID:b4pYdb3U(9/11)調 AAS
  *   *   *

そして数10分後、ガッシュの口から語られた物語に剣持は頭を抱えた。

魔界、術、王様を決める戦い……
枢木スザクとの接触によって異世界については認識していたものの、これはまたえらくファンタジーな話だ。
クルクル君のいた世界がSFなら、ガッシュのいた世界はファンタジー寄りらしい。
そしてガッシュが問題としているのは『世界で一人しかいないパートナーしか読めないはずの本が自分にも読めてしまった』ということらしい。
自慢ではないが剣持は現場からの叩き上げで、座学には強くなく簡単な英語でさえ正直なところ自信が無い。
だがこの本に書かれているものは、明らかに日本語で書かれていないのに読めるのだ。
それを何故読めるかと聞かれても答えようが無い。というかむしろ剣持のほうが理由を聞きたいぐらいだ。

これを解決するには文殊様の知恵が必要な気がしたが、人間の身でその域に到達するには一人ほど人数が足りない。
そんな益体のないことを考えていたからかもしれない。彼らの前に知恵を持った3人目が現れたのは。
――ただしそれは剣持が最も会いたくない人物で、文殊様のイメージからはかけ離れた人物だったが。

「まったく、あなた達は次から次へと問題を起こしてくれますね」

笑みを浮かべながらタラップを一歩一歩優雅に降りる男。
薄暗い船内と違い、今は天高く輝く太陽が彼を照らしているが、彼の持つ闇色の雰囲気は薄まる気がしない。
それは彼を犯罪者という色眼鏡で見ているせいかも知れない。
だが目の前の男――高遠遙一は今までにそれだけのことをやってのけているのだ。
自分には金田一や明智のような頭脳はない。
だからせめて騙されないように、一切友好的な雰囲気は出さずに剣持は口を開いた。

「……貴様、何しに出てきた?」

無駄とは知りつつも凄みを利かせる剣持。
日々凶悪犯罪者達を震え上がらせるそれも、高遠にとってはそよ風同然らしい。
眉一つ動かさずに剣持たちへと近づいてくる。

「“何しに出てきた?”とは奇妙なことを仰いますね。決まっているでしょう?
 謎の爆発が起こってから約30分……危険かどうか分かりかねて様子を見ていましたが、
 二人とも微動だにしないのでこうして痺れを切らせてやってきた……という次第ですよ」

“痺れを切らせた”と言う割りに落ち着いた仕草で二人の顔、
そして数十分前まで泡立っていた海面を見回した後、高遠はゆっくりと口を開く。

「さて……先程何があったのか聞かせていただきましょうか?
 ここで起こったことです……私にも知る権利があると思いますけどね」
244: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:51:00 ID:b4pYdb3U(10/11)調 AAS
*    *    *

「……なるほど。本はパートナーである清麿君以外に読めない”はず。
 しかし何故か剣持警部がそれを読めてしまった、と」

そう言って高遠は笑みを崩さぬまま頷いた。
当初、高遠に情報を渡すことを剣持は渋っていたが、
事態の打開を最優先としたガッシュの説得により結局は押し切られる形となった。
そして先程彼らの身に起こった出来事、ガッシュの出自などについて高遠は的確な質疑を行い、
僅か5分足らずで剣持の20分間と同等の成果を得ることに成功していた。
そしてガッシュが最後に問うたのは彼が最初に抱いた疑問そのものだった。

「とりあえずこの場合、二つほど可能性が考えられますね」

疑問に対し、瞬時に回答の存在を示した高遠とそれに驚きの表情を見せるガッシュ。
だが高遠とも長い付き合いである剣持はそれぐらいは想定の範囲内だったのか憮然とした表情を崩さない。

「そ、それはどんな可能性なのだ高遠!」

焦る気持ちを隠そうともせず、先を急かせるガッシュ。
それに対して高遠はあくまで笑みを崩さないままで、

「ええ、まず一つ目の可能性は……パートナーである高嶺清麿君がすでに死亡している可能性です」

冷酷な一言を平然と口にした。

“死”という単語にガッシュの表情が固まる。
それはガッシュも心のどこかで考えていたことだったからかもしれない。
この世界に来る前にも様々な戦いを潜り抜けてきたガッシュたちであったが、
だが幸運なことに“パートナーが死亡する”という事態に出くわしていない。
それ故に“パートナーが死亡した際のパートナーの変更”というルールも十分ありえることなのだ。

「最後の生き残りを決めるというルール上パートナーは消耗品。
 代替の利くものでなくてはならないでしょう。
 そう考えればそんな機構がついていたとしても不思議ではありません」

しかし高遠はそんなガッシュの心などお構い無しに話を続ける。
相手のことを考えない割り切った、冷酷とも言える視点で。
その様子を見て剣持はどうしようもないほどの怒りを覚える。

「高遠、貴様……!」

怒りを込めた剣持の視線。それに込められた怒気は先ほどの比ではない。
気の弱い人間であれば気絶してしまうほどの憤怒がその視線には込められている。
だが高遠はそれを涼しい顔で受け流し、話を続ける。

「ですがこの可能性は低いでしょうね」

先ほどまでの持論をあっさりと取り下げる高遠。
その言葉に歯を食いしばり下を向いていたガッシュの顔が上を向く。

「考えても見てください。これが本来のルールだった場合、
 ガッシュ君とは明らかに違う世界の剣持警部がパートナーに選ばれるのはおかしい。
 まさかここから脱出した後、ガッシュ君たちの世界に剣持警部が行くわけにもいかないでしょう。
 ですからこの場合はもう一つの可能性――螺旋王とやらの小細工の可能性のほうが高いと思われます。
 まずはこの名簿を見ていただけますか?
 気付かれているかもしれませんが名簿の中にはフルネームがかかれた者とそうでないものがあるんですよ」
245: 疑う剣持  ◆DNdG5hiFT6 2007/11/26(月) 07:52:07 ID:b4pYdb3U(11/11)調 AAS
高遠の指差す先にあるのはその“ファミリーネームが無い名前”の数々であった。
“ヴィラル”から始まり“ランサー”まで、既に高遠が出会ったキールを除く24名。

「恐らくこの内の少なくとも一体はガッシュ君と同じ魔物でしょう
 ガッシュ君の話の通りならば、もしパートナーが死亡した場合、魔界の子供達は呪文を使えず一気に弱者へと成り下がる……
 それは恐らく螺旋王の本意ではない……
 だから本のルールを捻じ曲げ、誰でもパートナーになれるようにした……というところでしょうか。
 ガッシュ君、その本を貸していただけますか?」

マジシャンである高遠は予想も付かない手段でこちらを欺く。
故に剣持は高遠に物を渡すことに危機感を覚えたが、止める暇も無くガッシュから本が手渡される。
――よっぽど結論を聞きたいのであろう。
そんなガッシュの心情を考えるとそれを止めるわけにも行かず、
高遠が本を受け取り、次々とページに目を通して行くのを注意深く見ているしかなかった。

「……お前も読めるのか?」
「いえ、残念ながら。どうやら本を読むには何らかの条件があるようですね。
 そして剣持警部はそのお眼鏡にかなった、ということのようです。
 今のところ、推理できるのはその程度でしょうか」

推理はこれで終わり、とでも言いたげに本を閉じ、ガッシュに返す。
ガッシュはそんな高遠を子供特有のきらきらとしたまなざしで見上げる。

「オオ……すごいぞ高遠! オヌシ、清麿と同じぐらい頭がいいのだな!」
「おや、それは光栄ですね」

笑顔になり高遠を褒めるガッシュと先ほどまでと変わらぬ笑みでそれに答える高遠。
だがその一方で剣持は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
それは推理するその様子が皮肉にも自分の味方であり、彼の敵であるはずの“名探偵”そのものだったからだ。
いつもとキャストが逆転してしまったかのような関係に苛立ちが強まる。
その場所には頼りになるあの少年か、それか口を開けば嫌味が出るあの男にいて欲しい場所なのだから。
そんな剣持の心理を知ってか知らずか、高遠は何処か芝居がかった仕草で視線を海面にずらすと大きくため息をついた。

「しかし――これは少々まずいことになりましたね」

高遠の呟きにガッシュは首をかしげる。

「ウヌウ? 一体何がまずいのだ?」
「考えてもみてください。私は今までここを訪れた数名に“船を反主催の拠点とする”と言っているのですよ?
 その近くで爆発が起これば……どう考えます?」
「「あ……」」

高遠がアレンビーたちに託した情報を踏まえたうえで、豪華客船付近での爆発を見たものが考えることは2つ。
『船がゲームに乗ったものの襲撃を受けた』、もしくは『船に呼ばれたこと自体が罠だった』の二種類だ。

「襲撃と思われるならともかく、罠と思われるのは私としても不本意ですからね。
 今からこの船を確実に目視できる範囲――そうですね、E-3ブロックを一回りしてみようかと思います」

さも当然のように船から出て行くことを宣言した高遠の前に剣持は立ち塞がる。

「ちょっと待て! お前みたいな凶悪犯罪者をむざむざ一人にすると思ってるのか!」
「では同行しますか? ええ、剣持警部ほどの腕があればこちらとしても歓迎ですよ。
 剣持警部が遭遇したような、殺人遊戯に乗った輩が襲って来る可能性がありますからね」
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