[過去ログ] モララーのビデオ棚in801板57 (502レス)
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(5): 板缶 その6 2010/05/03(月) 22:46:12 ID:5Gvd0exD0(1/6)調 AA×

395: 板缶 その6(ホワイトデー) 1/5 2010/05/03(月) 22:47:22 ID:5Gvd0exD0(2/6)調 AAS
閏年でなければ、2月は4週間ぴったりしかない。
2月の14日が日曜日だったということは、・・・つまり翌月の14日も日曜日だということだ。
もちろん、特/命係は休みだった。組織犯/罪対策五/課の奥にぽっかりと開いた戸口はまるで洞窟の暗い入り口のようだったし、壁に掛けられた名札は二枚とも裏返されたままだった。
しかしそろそろ日も暮れようかという時刻、その部屋に灯りがついた。
不思議に思った組対五/課の刑事たちが窓越しに覗き込んでみると、見慣れた姿がそこにはあった。
神部だった。

神部はいつものようにコートを脱ぎ、空いた椅子にばさりと放った。今日はMACを持ってきていなかったので、デスクに座っても少しばかり手持ちぶさただった。
わざわざ休日出勤しなければならない用事など、もとよりなかった。もし隣の課長にでも見とがめられたら、確認したい書類があった、と言い訳するつもりだった。さぞ怪訝な目で見られることだろうが、怪しまれたところで神部は困りもしない。
ブラインドの隙間から、弱い西日が射していた。
神部はそれを見てため息をつき、ポケットから携帯を取り出した。
半時間過ぎてもまだ来ない、伊民からの返信を待っているのだった。

***

神部が伊民を誘って飲みに行ったのは、ちょうど一ヶ月前の夜だった。
あの二時間は楽しかったな、と神部はぼんやり思い返して、頬を緩めた。
汗をかいた生ビールのジョッキ、炭火焼きの焼鳥の香ばしい香りが思い出される。
にっくき「杉/下警/部」について滔々と文句を述べ立てながら、そのビールとタバコを交互に口にしていた伊民の横顔も。
カウンターにぐんにゃりともたれかかってこちらを向いた伊民は、確かに微笑っていた。
・・・しかし、その後のことを思い出すと、神部は自分の頬をひっぱたきたくなってしまうのだった。
なぜ別れ際に、あんなことを言ってしまったのだろうか。
確かにチョコレートは持っていった、バレンタインデーだったからだ。つまらないジョークにかこつけてでも、きっとあの男に押しつけてやろうとは思っていた。
だがまさか、まさかあれほどバカなことを口走ってしまうなどとは思ってもみなかった。
396: 板缶 その6(ホワイトデー)  2/5 2010/05/03(月) 22:48:49 ID:5Gvd0exD0(3/6)調 AAS
酔っぱらっていた、魔が差した、口が滑った、・・・この一ヶ月の間、神戸はいろんな言い訳を考えてみたが、そのどれにも心は慰められなかった。
脳裏に蘇るのは、あの瞬間の自分の声ばかりだ。腹に力の入らない、小さな声だったと思う。

『あなたのことが好きなんです』

よりにもよって、バレンタインの夜にチョコレートを渡したタイミングで、そう言ってしまったのだ!
あのときの浮ついた高揚感を覚えている。そしてその後しばらく経って、やっちまった、と自覚したときの頭から冷水を浴びせられたような気分も。

『あなたのことが好きなんです』

「・・・あー、もうっ!」
神部は勢いよく立ち上がって、頭を振った。
相手の性的許容範囲どころか好みのタイプさえ、さらには現在つきあっている女性がいるのかいないのかすらも訊かずに、あんなことを言ってしまった。
どう控えめに考えても大失態だった。
その後、現場で顔を合わせたときも伊民はこれまでどおりの冷ややかな態度を保っていたが、それこそが神部には拒絶を感じさせた。仮にも一晩酒を酌み交わした相手であれば、すこしは親しげな様子を見せてもよさそうなものではないか?
だが伊民はそんな様子はまったく見せなかった。神部にはそれこそが、伊民の「答え」に思われてしかたがなかった。

だというのにいまも、情けないことには神部は伊民の返事を待っている。
あれからちょうど一月経って、忘れたふりをして誘うにはいい頃合いだと思ったのだ。
今日がホワイトデーだということも頭の隅にはあった。
期待するだけ傷つくに決まっているというのに、千に一つ、万に一つの可能性を捨てきれずに出てきてしまった自分を、神部は嫌いになりそうだった。

やっぱり帰ろうか、と思い始めたとき、デスクに置いた携帯がガタガタと震えだした。

***
397: 板缶 その6(ホワイトデー)  3/5 2010/05/03(月) 22:50:54 ID:5Gvd0exD0(4/6)調 AAS
前回と同じく、伊民が待ち合わせに指定してきたのは警/視庁のエントランスだった。エレベーターを降りてホールへ出てきた伊民に、神部は笑って会釈した。伊民も軽く頭を下げて、それに応えた。
「また急に誘っちゃって、すみません」
心にもない台詞だったが、伊民は律儀に答えた。
「いいえ。前から約束してたところで、行けるかどうかはわかりませんから」
「今日はどこへ行きますか?」
「どこでもけっこうですよ。ただし、勘定は俺持ちです」
「割り勘でいいですよ」
「次は俺が奢ります、と申し上げたはずですがね?」
互いに、なんとなく声が硬いと、神部は思った。やはり伊民は、バレンタインの夜に神部が言ったことを忘れてはいないのだ。

すっかり暗くなった官庁街へ出ると、伊民はさっさと先に立って歩き出した。店はどこでもいいと言ったくせに、神部がどこへ行きたいかと訊くこともせず、勝手に方角を決めて歩いてゆく。神部はおとなしくその背中を見ながらついていった。
伊民の足が向かったのは、やはり有楽町方面だった。歩けば20分はかかるが、地下鉄を乗り継いで行くほどの距離でもない。もしかして前回と同じ焼鳥屋へ行くのかな、と神部が思い始めたころ、伊民が不意に足を止めた。
たまに市民ランナーとすれ違うくらいの、人通りのない歩道の上だった。
「警/部補殿、これはこの前のお返しです」
そう言ってポケットから取り出されたものを見て、神部は目を丸くした。
伊民の大きな手のひらに載っていたのは、小さな紙袋だった。百貨店の小袋だ。リボンはかかっていないが、銀色のシールでちゃんと封がされていた。
「なんです、これ?」
「先月、高そうな菓子をいただきましたんでね。もらいっぱなしってのは気が引けるんですよ」
チョコレート、ではなく、菓子、と伊民は言った。
神部はその意味を考えながら、紙袋を受け取った。中身は布だろうか。やわらかい手触りで、軽い。我知らず心が浮き立ち、口もとが緩むのを抑えきれなかった。
398: 板缶 その6(ホワイトデー)  4/5 2010/05/03(月) 22:55:03 ID:5Gvd0exD0(5/6)調 AAS
「ありがとうございます。いま開けてみていいですか?」
「だめです」
「えっ、どうしてです?」
「たいしたもんじゃないんで、うちに帰ってから開けてください」
「いいじゃないですか。伊民さんが何くれたのか、早く見てみたいですよ」
「・・・どうしてもいま開けるとおっしゃるなら、俺はここで帰ります」
低く、ぴしゃりとはねつけられて、神部は言葉を失った。街灯のもとで見た伊民の顔は険しく、彼が本気で言っているのだということが窺えた。束の間の幸福感が砂のようにさらさらと、神部の指の間をこぼれ落ちていった。
「・・・じゃあ、開けません。だから行きましょう」
「ええ」
今度は神部が前を歩く番だった。余裕を失ってこわばったままの顔を、見られたくなかったのだ。

その背中から、伊民の声が容赦なく追ってきた。
「警部補殿、あとひとつ。・・・この間みたいな冗談は、ごめんこうむりますよ」
神部はそのまま走り出したくなったが、ぐっとこらえた。
喉元に鉛の塊のようなものが急にこみあげてきて、顔がかっと熱くなるのがわかった。

最初から、わかってたことじゃないか。

俯いて歩き出しながら神部は胸の中でそう繰り返し、破裂しそうに騒ぐ心臓が落ち着くのを待った。伊民がくれた紙袋をコートのポケットに突っ込み、後ろを振り返らずに速い歩調で歩いた。いかにも不審すぎる態度だと自分でもわかっていたが、止めようがなかった。
背後から、すこし離れて、伊民の靴音がついてくる。
ゆっくりとした足取りだった。

***
399: 板缶 その6(ホワイトデー)  5/5 2010/05/03(月) 22:56:33 ID:5Gvd0exD0(6/6)調 AA×

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