[過去ログ] 宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど (1002レス)
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619: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:18 ID:gCx9nIPL0(1/10) AAS
なるほどなるほど…。
そしたら今まで通り、こちらに投下していきます。
一人でも多くの方の目に止まる方が僕も嬉しいので!

それじゃ、第2部を始めていきましょう…。
620: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:31 ID:gCx9nIPL0(2/10) AAS
これまでの、そしてこれからのあらすじ。

 ジオンでの敗戦を経験し、アイデンティティを喪失した主人公サム・ワーウィック。
 彼は自らの過去の過ちをティターンズの横行に重ね、エゥーゴの大尉として戦いに再び身を投じる。
 一時的にカラバの部隊と行動を共にする事となった彼は、同じくエゥーゴのベイト・アトリエ中尉やニュータイプ研究所の少女メアリー、そしてカラバの戦友と激戦を潜り抜けていく。
 第1部は、地上におけるティターンズ最大拠点の1つであるニューギニア基地攻略を完遂し、再びアイデンティティを確立した彼が次の戦地へと飛び立ち幕を閉じた。

 続く第2部。月周辺の哨戒任務にあたっていた主人公、ゲイル・スクワイヤ少尉…通称"死にたがりのゲイル"は日々の任務に飽き飽きしていた。
 その部隊に隊長としてある男がやってくる。彼の着任を契機に、エゥーゴ・ティターンズの抗争は彼女らを激動の時代へと巻き込んでいくのであった…。
621: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:35 ID:gCx9nIPL0(3/10) AAS
 好奇心は時として、命を代価に欲するのかもしれない。

 底無しの宇宙に漂う機体の中で、ゲイル・スクワイヤ少尉はぼんやりとした思考を巡らせていた。ヘルメットを放り出すと、ウェーブがかった肩につくほどの黒髪が無重力に揺れる。
 彼女は小柄な身体をシートに埋める様にして、その猫の様な青い目を閉じていた。ずっとこうしていられたらどんなに気楽か。
 薄っすら目を開けて、遠くに映る青い星を眺める。地上ではティターンズの拠点が次々と陥落していた。破竹の勢いで進撃するエゥーゴ・カラバの両軍に、裏で同調する連邦軍の派閥も増え始めているという。
 エゥーゴ所属の彼女にとっては旗色の良い話だが、大局の物事など関心の薄い話でしかなかった。
622: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:36 ID:gCx9nIPL0(4/10) AAS
『…少尉!スクワイヤ少尉!』
「…はい」
 耳障りな通信が入り、気怠く身体を起こす。同僚のフジ中尉だった。とにかく息苦しいほどにお堅い男だ。
『無事か?てっきりやられたものかと。動けるのなら戻れ』
「帰投します」
 スクワイヤ少尉達は月面近くの暗礁区域で偵察の任を帯びていた。このところ近辺でティターンズ艦隊の動きが活発化している為だった。恐らく大規模な作戦が行われると思われる。
 今日もいつもの様に小競り合いになり、少尉が少し被弾したあたりで敵機は宙域を離脱していった。どうせなら落としてくれれば良かったものを。そう呪いながらそのまま漂っていたのだった。

 彼女は、あまりに退屈な日々にうんざりしていた。いっそ死ねればどんなに楽か。しかし、死んだ先も退屈だったら?もし死が終わりでないとしたら、その先を知るのは死んだ者達だけだ。
 楽観的にみるなら、そこが楽園だから彼らは現世に還らないのかもしれない。
623: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:37 ID:gCx9nIPL0(5/10) AAS
 帰還すると渋々フジ中尉についていきながらブリッジへ向かう。
 スラリと背が高く、姿勢の良いテキパキとした歩き方は彼の性格そのものの様だ。こざっぱりとした短髪の面長で、太ぶちの黒眼鏡からは切れ目が覗いている。
「ローランド・フジ中尉ならびにゲイル・スクワイヤ少尉。只今帰投致しました」
 ブリッジに到着すると、中尉はハキハキと口上を述べた。
「報告ご苦労さん。まあ、大事になったらなったで他の連中がどうにかするさ…。ふあ…俺達はあくまで偵察!ゆるゆるやろうや」
 艦長のファルコン・グレッチ少佐は欠伸をしながら目を擦っている。フジ中尉とは対照的にいい加減な男である。特徴といえば虎髭と飛び出た腹、それからいつも軍帽を深く被っていた。
 この様子だとスクワイヤ少尉達の偵察中も居眠りでもしていたのだろう。
「艦長…!いつも申し上げておりますが」
「ああ、わかってるわかってる。昨夜は深酒しちまってな…。そうカッカするな」
 詰め寄るフジ中尉を手で制するグレッチ艦長。もうこの光景も何度目だろうか。諦めたフジ中尉が肩を落としている。
624: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:38 ID:gCx9nIPL0(6/10) AAS
「しかしなぁ、"死にたがりのゲイルちゃん"よ。わざと被弾するな。メカニックの仕事が増える」
 そう言いながら、グレッチ艦長が眠そうに目を細めながら肩肘をついている。
「…わざとじゃないんですけど」
 スクワイヤ少尉はブリッジの外の眺めに目を逸らしながら小声で答えた。
「うそこけー!お前、ほんとは操縦滅茶苦茶上手いって聞いてるぞおい!」
 急に身を乗り出した艦長がツバを飛ばしながら少尉を指差す。
「何を聞いてそんな事…。買いかぶりですよそんなん…!」
 少尉は両手でツバから身を守る様にして嫌がりながら言い返す。
「いいから気をつけろ!若い女がそんなんでどうする!?世の中楽しい事いっぱいあるぞ!何なら俺が教えてやろうか!」
「はあ…最悪」
省1
625: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:39 ID:gCx9nIPL0(7/10) AAS
「それはそうとしてだな…。お前らにも言っておこう。司令部から伝達があった。人員の補充だそうだ」
 そういうと艦長はタブレット端末をフジ中尉に手渡した。
「お前らの上官だ。MS隊の隊長として配属になった。お前らのお守りはこれからはそいつがやる」
 艦長をよそに、フジ中尉は真剣な眼差しで端末を見つめている。スクワイヤ少尉も覗き見ようとしたが、身長差のせいでまるで見えない。この堅物はその辺りの気遣いは出来ないらしい。
「御仁はいつ頃到着で?」
 結局少尉には見せることなく端末のモニターを消灯した中尉が聞く。
「明日だったかな?よく覚えてねぇな」
「こんな大事な話、何でそんなギリギリになってするんです??と言いますか、いつ来るかも正確に把握してらっしゃらないので??」
 また中尉が怒り始めた。もう好きにやっててくれと思いながら、取り敢えずどんなやつが来るのか想像を膨らましていた。今より状況が良くなるならどんなやつでも構わないが。
626: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:40 ID:gCx9nIPL0(8/10) AAS
「あの…艦長…?」
 オペレーターのグレコ軍曹が消え入る様な声で間に入る。この女性オペレーターはいつも居るのか居ないのかわからない。その位影の薄い女だった。
「どうした?」
 怒る中尉に辟易しながら艦長が聞く。
「その…新しく来られる方が…着艦許可を求めてます…」
「あ、今日だったのか」
 今しがた思い出したかのように素っ頓狂な反応をする艦長。この艦長はこれでよく少佐になったものだ。案の定更に中尉が怒っている。
「嘘でしょう!?もしかしてこの間納入した新型も…」
「そんなのもあったなそういえば!」
「艦長!!!!!」
省1
627: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:41 ID:gCx9nIPL0(9/10) AAS
「失礼」
 飽きずに問答を続けていたところに、見知らぬ男が入ってきた。
「そのまま外で待つ訳にも行きませんでしたので、着艦させて頂きました…。本日より着任致しました、サム・ワーウィック大尉であります」
 物腰の柔らかい、感じのいい男だった。バイザーを外したその顔には大きな火傷の跡がある。
「おお!君か!すまんな、ちょっと取り込んでたものでね。私が艦長のグレッチだ」
 そういってそそくさと椅子から降りると、わざとらしく胸を張って握手をした。新入りには良いところを見せておこうと虚勢を張っているようだが、傍から見れば滑稽も良いところである。
「ほら、お前らも挨拶くらいしろ!…すみませんな、躾がなっておりませんで…」
 よく言う。こうやって世渡りしてきたのかもしれないと思うと、あながちある方面では無能とも言えない。おかげでこちらは大迷惑だが。
「…フジ中尉とスクワイヤ少尉だな。よろしく頼む。よろしければ艦内を案内していただきたいのですが、どちらかお借りしても?」
 ワーウィック大尉がそういうと、ハッとした艦長がまた胸を張る。慣れないことをしている艦長を眺めるのもまた一興かもしれない。
省5
628: ◆tyrQWQQxgU 2019/12/22(日)01:42 ID:gCx9nIPL0(10/10) AAS
「私は馴染めそうかな?この艦は」
 バイザーをかけながら大尉が笑った。確かにこの面子には異質な存在に思える。
「ん…まあ…何とかなるんじゃないですか?…てかそのバイザー、洒落てますね」
「いいだろ?お気に入りだ」
 そういってバイザーから覗く眼差しに何となく安心感を覚えた。これからは幾らか気休めができそうだった。

第2部 1話 漂う
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