[過去ログ] 宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど (1002レス)
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178: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:15 ID:FTBnsAmn0(1/19) AAS
>>177
地味に高級機ってのがいいですね!
ジムの宿命なのか、その割に強い印象がまるで無いですが…w

ありがとうございます!引き続きお楽しみください!
179: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:17 ID:FTBnsAmn0(2/19) AAS
「待て!!」
 私は力の限り叫んだ。

 アトリエ中尉と共に格納庫へ到着した時、シェクター少尉の機体がSFSもなしに艦を飛び出そうとしていた。
 こちらの制止する声など聞こえるはずもなく、彼はそのまま降下していく。
 随分と走ってきたせいで息も絶え絶え、それでもどうにか整備済みのマラサイの元へ辿り着いたが、固定されたハンガーの解除に手間取る。
 そうこうしている間に少尉の位置情報は途絶え、私はコックピットの中で途方に暮れた。
「あいつ…死に急いでんのかよ全く。何処ぞの大尉と一緒だぜ」
 宛もなく飛び出す訳にいかずコックピットから出てきた私に、ようやく追いついた中尉が呆れた様子で話しかけてきた。
「まずいな。すぐにでも捜索に出るべきなんだが…位置を見失った」
「とりあえず上官殿の指示を仰ぐかね」
省1
180: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:18 ID:FTBnsAmn0(3/19) AAS
「なるほど、ひとあし遅かったか…」
 艦長が唸った。側にいた少佐が怒鳴る。
「2人も付いていながら何故逃した!これで少尉が帰らなければただでは済まんぞ!」
「わかってますよ!すぐに捜索へ出させてはもらえんのですか!?そっちでも位置くらい割り出せるでしょう!?」
 中尉も苛立ちを隠さず声を荒げた。
「すまんが時間はかかる。それに、勢力圏とはいえここをぐるぐる旋回してられるほどの余裕は我々にもなかろうて。まずは補給が必要だ」
 艦長が静かにそういうと、場も静まり返った。
「だからといって…艦の為に飛び出していった少尉を置いていくことも出来んな」
 艦長は答えを出せずにいるようだった。中尉が口を開く。
「そういうことなら、自分が探しに出ます。艦はそのまま拠点に向かってください」
181: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:19 ID:FTBnsAmn0(4/19) AAS
 それを聞いた少佐が溜息をついている。
「少佐が言わんとすることはわかりますよ。俺達の移送だって今回の目的のひとつだって言いたいんでしょ?
 つってもこのまま基地に着いたんじゃ俺も素直にこの艦にさよなら出来ねえ」
「本当にいいのか?場合によっては戻れんぞ?そうなってもすぐには助けは来ないし、拠点入り出来んともなれば本末転倒だ」
 少佐が眉をひそめて言った。
「必ず戻ります」
 そういうと中尉はコックピットを出ていった。私もそれを追う。
「中尉!私もいく!」
「だめだね。2人共降りちまったらこの艦はなんの為に飛んでるかわかんなくなる。それに、死に急ぎを2人も面倒見きれねぇよ」
 歩きながら中尉はメカニックに何やら指示を出し始めた。私は仕方なく中尉を見守ることにした。
182: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:19 ID:FTBnsAmn0(5/19) AAS
 メカニック達がド・ダイ改にベースジャバー用のプロペラントタンクを取り付け、マラサイにも推進剤を追加で装備させていた。
「探索しながらとなると結構な量持っていかなきゃな。戻る分の燃料も要るし。最悪ゲタは乗り捨ててくることになるかも」
 一通りの仕度を手早く済ませ、中尉は白いマラサイに乗り込む。
「俺がいない間、メアリーを頼むぜ大尉」
 私が大きく頷いたのを確認して、中尉は壊れた格納庫のハッチから進路の逆方向へと出撃していった。
183: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:20 ID:FTBnsAmn0(6/19) AAS
「本当に良かったのか、大尉」
 格納庫を訪れたバッカス少佐が声を掛けてきた。
「ああなると何言っても無駄ですからね。それに、あれで中尉は繊細な男なんですよ」
 私は彼という男の事を全て知る訳ではないが、誰より他人を慮ることが出来る人間だと知っていた。
「先の交戦で友軍が落とされた事、それで少尉が気を落としていたこと。スパイを取り逃がしたことや、メアリーが泣いていたこと。
 全部自分のせいだって呵責があるんでしょう。少佐にもスパイにも一発もらってますしね。スパイは2発か」
 少佐が鼻でフンと笑った。
「殴ったのはさておき、大尉も気持ちは同じじゃないのか?」
「中尉曰く、私は死に急いでいる様に見えるそうです。私を行かせなかったのも彼なりの配慮でしょうから、今回は彼の言うことを聞いてやろうと思いまして」
「大尉も優しい男だな」
省4
184: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:21 ID:FTBnsAmn0(7/19) AAS
13話 優しさ

結構書き進めているので更に投下しますよ!
185: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:21 ID:FTBnsAmn0(8/19) AAS
 またしくじった。今度こそ上手くいくと思った矢先にこれである。メイは通信機器を組み立てながら自己嫌悪していた。
 間抜けな2人組を再び出し抜いてどうにか脱出まで漕ぎ着けたが、寸でのところで今度は若い男に邪魔された。おまけに一緒に不時着している。そのうち遭遇するだろう。
 周囲を警戒しながら機器を組んでいるが、何故か上手く作動しない。落下の衝撃で壊してしまったのだろうか。
 メイは馬鹿馬鹿しくなって工具を放って寝転んだ。もうどうにでもなれといった気分だった。
「私、何でこんな事してるんだろ」
186: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:22 ID:FTBnsAmn0(9/19) AAS
 一年戦争開戦前、まだ幼かったメイは両親とコロニーに居た。
 父がコロニー公社に勤務していたこともあり、比較的裕福な家庭で何不自由ない暮らしをしていたのだが、戦争が始まって環境は変わってしまった。
 ジオン公国によるコロニー群の占拠に巻き込まれ父は行方知れず。共にコロニーを脱した母も、戦時の混乱の中で離れ離れになってしまった。
 独りになったメイを救ったのは、共に地球へと降り立ったひとりの女性だった。

 彼女はメイと同じく独りだったが、所作は美しくしなやかで、何よりとても強い人だった。
 メイは彼女を姉と慕いながら、時に助け合い、時には喧嘩もしながら一緒に暮らした。
 護身術も姉から教わったのだ。女性が独りで生きていくには必要な事だからと、熱心に鍛えてくれたのを覚えている。
187: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:23 ID:FTBnsAmn0(10/19) AAS
 当時住んでいた地域は連邦の勢力圏で、軍が幅を効かせていた。
 その為住民が理不尽に耐えねばならない事も多々あったのだが、いつも姉は理不尽な要求に屈しなかった。
 よく思わない軍人達がいた事も承知していたが、そんな姉の姿は皆のささやかな反抗の象徴となりつつあった。

 戦争も終わりほどなくして、メイもひとりの女性として自立を考えていたある日の事だ。姉は出掛けたまま、いつまで経っても帰ってこなかった。
 姉がジオン残党と通じていたとして連邦に粛清された事を知ったのはそれから暫くしての事だった。
 そんなものは姉をよく思わないない連中の方便だということもわかりきっていた。
188: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:23 ID:FTBnsAmn0(11/19) AAS
 悔しさと悲しみのあまり、ただ泣いた。何も知らず護られていただけの自分の弱さも許せなかった。
 涙も枯れた頃、メイはひたすら武術に打ち込んだ。姉を忘れる為だったのか、忘れない為だったのか。
 考えるよりも身体が先に動いていたメイにはもうわからなかった。
 月日が流れメイも大人になった。そうしていつしか叩いた門は、連邦の育成機関だった。
 姉を奪った連邦であったが、それは姉が一方で弱かったからだとも思う。姉よりもっと強くならなければ生き延びられない。
 姉は確かに芯のある女性だったが、柔軟になる事ができない人でもあった。それが致命的だったのだ。
 私は違う。この世界で、自分を曲げる痛みにすら耐えられる強さを手に入れるのだと。
189: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:25 ID:FTBnsAmn0(12/19) AAS
 その結果がこれか。すっかり辺りは暗くなり始めていた。相変わらず通信は繋がらない。薄っすらと見える星を見上げていると、前方から物音がした。
「人っ子一人いないな、この辺りは」
 声を聞いたメイはさっと身構える。最後の最後で台無しにしてくれた先程の男が立っていた。メイは無言で相手の出方を伺った。
「大丈夫、何もしないよ。いや、出来ないと言うべきか…。
 バッカス少佐は別格だからさておき、ワーウィック大尉達が1度取り逃がしたくらいだしな。」
 2度だけどね。そう思いながら変わらず構えていると、男は空の拳銃ホルダーをその辺に投げ捨てた。
「銃も苦手なんだ。まだMSの方が自分の行いに実感が湧くよ」
190: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:25 ID:FTBnsAmn0(13/19) AAS
 それ以上は近づこうとせず、その場に座り込んだ。確かに今すぐ何かをしようとしている様には見えなかったが、警戒は解かなかった。
「君名前は?俺はスティレット・シェクター。」
 メイは黙っている。
「まあ喋らないよな普通。俺は喋らないとやってられないから勝手に喋るけどな。…随分と暗くなってきたなぁ」

 スティレットは空を見上げていた。整った顔立ちだったが、どことなく影のある表情をしていた。
「その機械見るに、お仲間を呼んだんだろ?なかなか来ないみたいだけど。
 俺はとりあえず君を連れて帰らないといけないんだが、それも難しそうだしどうしたもんかな。俺の方も迎えが来そうな気配はないし」
 嘘ではなさそうだ。来るならもう来ているだろう。
191: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:26 ID:FTBnsAmn0(14/19) AAS
「…これ、壊れてるのよ」
 観念した。どうせこのままでは何をどうすることもできない。
「ほんと?ちょっと見てもいいかな」
 スティレットはそういうとメイの側に来た。一歩引いて通信機の方へ促す。
「あー、これは…」
 ブツブツ言いながら機器を弄っている。後ろから見ながら、あまりに無防備な姿に呆れた。
 メイがスティレットに何かしたところでこの機器が壊れている以上どうにもならないのだが、とはいえ敵同士の筈だった。
「…うーん、確かに壊れてるね。このチップが動作してないみたい。
 ネモに使われているもので代替がきくと思うから持ってくるよ。どうせ俺の方も応答ないまんまだしね」
 スティレットは苦笑いしながら駆けていった。
192: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:27 ID:FTBnsAmn0(15/19) AAS
 スティレットが去ると、また空を見上げた。人間がいない場所というのは本当に静かなものだ。
 ティターンズが環境破壊に加担している様な噂があるが、正直いってあまり興味はない。大なり小なり戦争にはそういう面もあるだろう。
 しかしそれでも、宇宙で生まれたメイには地球の自然というのは心安らぐ空間であることもまた確かだった。
 ありのままの姿で居続けるのは、如何に星といえども難しいのだろうかとぼんやり考えていた。
193: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:27 ID:FTBnsAmn0(16/19) AAS
「これこれ!このチップ入れれば動くよきっと!」
 スティレットが息を切らしながら戻ってきた。
「変わったやつとか言われない?一応言っとくけど私達敵同士でしょ?」
「そりゃわかってるよ。いや、変わり者のくだりじゃなくて…」
「仮にこれが直ったとして、私は仲間に通信を送るわ。そうなればあなたを放っておくわけにはいかなくなる。
 隠れてても全然いいけど、あなたも迎えが来ないんでしょ?どうするのよ」
「いや、多分何か理由があって応答が無いだけだと思う。もうじき来てくれるような予感がするんだよね」
「ほんと呆れた。その予感とやらが外れてて、もし誰も来なかったら?」
「その時は、そういう運命を俺が選択したってことさ」
 不思議な男だった。そうも思い切りよく考えられるものなのか。
194: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:28 ID:FTBnsAmn0(17/19) AAS
「…よし。どうかな」
 スティレットが通信機を起動すると、まるで何事もなかったかのように作動した。
「よっしゃ!…機械いじりが昔から好きでね。ハイスクールも工学を学んでたからこのくらいは出来るよ」
 スティレットは鼻をこすりながら子供みたいに喜んでいた。どうぞというように、彼は通信機を使うようメイに促した。
「…ありがと」
 笑みをこちらに向けた後、スティレットは察する様にその場を離れた。

 無事通信に成功したメイは、詳細報告は後にしてとにかく回収を頼んだ。
 敵の勢力圏にも関わらず比較的安易に通信は繋がり、警戒されている地域ではなかったのだろうか、簡単に事は済みそうだった。
195: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:28 ID:FTBnsAmn0(18/19) AAS
「もう大丈夫、回収部隊が来るわ。ほんとに一緒には行かないの?」
 水辺で佇んでいたスティレットの元へ行った。夜の海は一層静かだ。
 波の音と風の音だけがないまぜになって、世界の果てがあるならこんな場所かもしれないと思った。暫く2人で並んで景色を眺めていた。
「…一緒には行けない。君にも、俺にも、為すべきことがあるだろ」
 遠い目をしたスティレットは、先程までの彼とは別人の様に映った。
「友人が、こないだの出撃で帰らなかったんだ。残った仲間の為にも戻らないと。きっと心配してる」
 メイの方を見ると少しだけ微笑んだ。
「あなたのおかげで無事帰れる。次会うときは…」
「撃たないでくれよ?いや、投げるのも勘弁してほしい」
 そういって、また子供の様に無邪気に笑った。不思議な男だ。メイも思わず笑みが溢れる。
196: ◆tyrQWQQxgU 2019/08/05(月)23:29 ID:FTBnsAmn0(19/19) AAS
 そうこうしているとジェットの音と共に少し空が白んだ。
「帰れよ。帰るまでが潜入だ」
 スティレットはそういうと、茂みの方へ駆け出した。
「…名前!私はメイ!メイ・ワン!」
 聞こえたのか、彼は大きく手を振ってそのまま消えていった。どうか彼にも迎えが来ますように。そう願いながら、メイは光と音の方へ向かった。

14話 ありのままの姿で
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