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宇宙世紀の小説書いてみてるんだけど (1002レス)
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930: ◆tyrQWQQxgU [] 2020/07/23(木) 23:19:12.71 ID:/Z+V/y3V0 スクワイヤ少尉はようやくワーウィック大尉を発見した。辺りには敵味方のMSの残骸が散っており、その中に大尉のマラサイを視認出来た。 「また水色!?」 『ニュンペーだ。最後くらい覚えていくといい』 例の試作機から女の低い声がした。こちらと同じチャンネルに繋いでいるのか。 「大尉!無事ですか!?」 『ん…一応…な。しかし…待ちくたびれたぞ』 返答があるものの、機体を見るからに大丈夫とは思えない。両腕をもがれている上各部の損傷も激しく、これ以上の戦闘は不
可能だろう。 『少し…休ませてくれ…』 「はいはい」 着地し、ニュンペーと名乗った試作機と相対する。かなり消耗している様子だが部位の欠損もなく、大尉に比べれば綺麗なものだ。 「何で同じチャンネル開いてるわけ?」 『まあ、お互いに積もる話も色々とね』 「胡散臭…」 軽く苛立ちを覚えながら、念の為周囲を確認する。動ける敵機はニュンペーだけの様だ。 「あんたさえぶちのめせば良いのね?」 『そうだ。私もお前さえ倒せば全てが終わる』 「別に何も終わんないわよ。何言ってんだか」 ニュンペーにライフルを向ける。よく見ると敵は
何も武装を持っていない。 「丸腰でやる気?」 『心配無用』 そう応えるなり、ニュンペーはこちらに向かってきた。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/930
931: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:19:57.27 ID:/Z+V/y3V0 「!…速い」 瞬時に懐に潜り込まれる。慌てて応戦しようとしたが、敵の方が速い。ライフルを構えていた腕を取られ、あらぬ方向へ曲げられた。MS故に関節の自由度は高いが、それでもかなりの負荷が掛かる。 その上この至近距離では、斬りかかろうにも薙刀ではリーチがあり過ぎる。 「だったら!」 薙刀の下部を切り離し、長柄のビームサーベルに切り替えた。逆手に持ち替え敵に突き立てにかかる。流石に狼狽えたのか、それを躱しながらニュンペーは再び距離を取った。 『…
先程のマラサイの方が骨があったかな』 「大尉は強いよ。でも私も強い」 『2人して手負いも倒せずに?』 そういうニュンペーの手には、ガンダムが持っていたライフルが握られている。腕を取られた時だとこちらが気付くのとほぼ同時に発砲してきた。 「泥棒!」 『盗られる方が悪いね!』 射撃を避けながら距離を保つ。更に敵は、こちらを追いつつ先程切り離した薙刀の片割れも拾い上げる。 「人のものばっかり使って!」 急制動を掛けて身を翻すと、宙返りして敵の頭上を取る。が、いつもより明らかに機体が重い。 「ちい!アポジモーターがど
うこう言ってたねそういや!」 構わずそのまま敵に斬りかかる。 『遅いね』 ニュンペーは斬撃を容易く躱すと、すれ違いざまに斬りつけた。これを躱しきれず、ガンダムは胸から左肩にかけて傷を負う。しかしまだ浅い。 「まだまだぁ!」 着地するやいなや、更に敵へサーベルを見舞う。しかし、どれだけ切り結んでも手応えがない。全て肩透かしの様な感覚すら覚えた。例の学習装置がなせる技か。 『援護が無ければ…ガンダムもこんなものか!』 敵のサーベルによる反撃を腹に受け、一瞬足が止まる。 『死ねッッッ!』 「誰がッッッ!!!」 ニ
ュンペーの振り被った薙刀に、逆手に持ったガンダムの薙刀を合わせる。かなり強引だが、再び薙刀を元の1本に戻した。 『何!?』 敵のドライブが切断され、ビームが消えた斬撃は空振りに終わる。コントロールを奪った薙刀をそのまま敵の肩に突き立てた。 「お返し」 そのまま最大出力でビーム刃を形成する。溢れるメガ粒子で敵の左肩が弾け飛んだ。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/931
932: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:20:44.65 ID:/Z+V/y3V0 『小賢しい真似を…!』 衝撃で体勢を崩しながらも、ニュンペーは苦し紛れに右肩の拡散ビーム砲を放つ。正面からそれを浴びたガンダムは、両腕で身を庇いながらも大きなダメージを被る。 「何なのよ!内蔵武器あったの…?」 敵が後ろへ下がるのを確認すると同時に、モニターがやや乱れる。サブカメラをやられたらしい。 「はあ…あんたやるね。名前は?」 『今更聞いてどうする?』 爆散した自らの左腕からライフルをもぎ取ると、再び発砲してきた。付かず離れずの距離で
敵の射撃を躱す。 「何か武器は…?」 逃げ回りつつ辺りを探すと、友軍が落としたらしいビームライフルを見つけた。その場に転がる様にしてそのライフルを拾うと、膝立ちで狙いを定め敵を撃つ。 『そういえばいつものネモが居ないな!』 「あんたらが落としといてよく言う!」 フジ中尉ほど正確な射撃は出来ない。その上ニュンペーの動きは素早く、コックピット内の補助スコープを使用してもなかなか命中しない。腕の損傷もあり照準がブレる。 「もう!腹立つ!」 スコープを押しのけながら少尉は喚いた。ライフルを携えたまま、こちらから突っ
込む。当たらないなら近づいて撃てばいい。 『どうしたガンダム!!』 近距離の射撃すらニュンペーは躱す。こちらの行動パターンがわかっているかのようだ。 「この子の名前はマンドラゴラ!あんたこそ覚えておきなよ!」 データ頼りな動きをするというのなら、敵の意表を突けばいい。ライフルを持ち直すと、ガンカタの要領でトンファーのようにして敵の腹部を殴った。 『くっ!』 「あら、初めて?優しくしてあげようか?」 右手のトンファーと左手の薙刀。長短を使い分けて敵に間合いを測らせない。まして片腕では捌けるはずもなく、ガンダム
は敵の頭部を薙刀で切り飛ばした。 とはいえ、ビームライフルもそんな使用を前提には作られていない。何発か殴るとすぐに使い物にならなくなった。ねじ曲がったライフルを捨て、両手で薙刀を構え直す。 「これで!」 『舐めんじゃないよッッッ!』 敵が吠えた。また先程の拡散ビーム砲を撃つ。ビームを浴びながらも、薙刀を銃口に突き立てようとした。ビーム刃が敵に触れた時、放たれたメガ粒子が刃のIフィールドで偏光して花火の様に辺りに散らばる。 「くっそ…!」 狼狽えた少尉は思わず下がる。敵はそれを見落とさなかった。右肩にダメージ
を負わせつつも、頭部を掴まれガンダムは押し倒された。両腕の上に脚を乗せる様にして組み敷いてくる。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/932
933: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:21:16.06 ID:/Z+V/y3V0 『撤回するわ…。強いね…あんたも』 「そりゃ…どうも…」 お互いに息を切らしながら睨み合う。こちらを見下すニュンペーのモノアイが赤く光っていた。 『いいね…教えてあげる。私はドラフラ・ウィード少佐』 「…ふん。ゲイル・スクワイヤ少尉よ」 『ゲイル…スクワイヤ?』 ウィード少佐が聞き直した。 『ああ、思い出した。あんたが例の?』 「何よ…」 『あんたの親父さん知ってる。もう死んだって聞いたけど』 衝撃が走る。少尉は全くこの女を知らない。父が死んだ
? 『…何も知らないくせにエゥーゴに居るの?名字まで変えてさ』 「別に…。何か知ってる風だね…」 少尉は奥歯を噛み締めた。ウィード少佐と名乗るこのパイロットは父のことを知っているらしい。 『ヴォロ・アイバニーズ…。時代遅れな特務部隊の隊長だろ?随分前会った時、娘がエゥーゴに居るって言ってたからね。親不孝なやつもいるもんだと思って覚えてたよ』 「嘘…」 父の死を、こんな形で知ることになるとは思ってもみなかった。一瞬、最後に見た父の姿が脳裏をよぎった。 58話 データ http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897
040/933
934: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:21:44.59 ID:/Z+V/y3V0 スクワイヤ少尉は耳を疑った。父がティターンズに居たのか。 「何で…父さんが」 『…は?私が知る筈無いだろ。ニューギニア基地はとっくに陥落してる。あんたらエゥーゴが落としといて何を』 ニューギニア基地はワーウィック大尉が前に居た戦線だ。父が連邦の人間だということは知っていた。恐らくそれなりに高い地位に居たであろうことも。わざわざ母方の姓を名乗って、七光りを隠そうと躍起になっていたところもあった。 しかし、それがティターンズだったとは聞いてい
なかった。この女の言う通りなら、特務部隊故に知らなかったのか。 『…余計なことを話したみたいだね。気にしないで。すぐにあんたもあっちに逝くんだし』 ガンダムから薙刀をもぎ取ると、ビーム刃を掲げた。 『…あんた達はフリードやラムの仇だ。でも、敬意は払う。だから一瞬で終わらせてあげる…それがせめてもの情け』 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/934
935: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:22:37.67 ID:/Z+V/y3V0 「私…何も…知らなかった…」 ニュンペーが薙刀を振り下ろす。荒れたモニターが明るくなった。 「…余計に死ねないじゃない」 フジ中尉から貰った端末のロードが100%を示す。それと同時に表示された言葉は"形影相同"。 「中尉…だから意味わかんないってば」 緊急で左肩の接続を切り離し、ギリギリで薙刀を躱した。残る右腕に乗るニュンペーの脚にしがみつき、そのまま引き倒す。 『何を…!』 形勢を逆転し、跪いたニュンペーの前に立つ。 「私が本当は誰だ
ろうと…」 離した左腕を拾い上げ、再度接続する。過剰な負荷のせいか、接続部から煙が上がった。 「私は…私の魂を信じる」 呼応する様にして、サブカメラが復旧する。煙の中でツインアイが光った。 『大層なことを言っても…何も変わりはしない』 ニュンペーが立ち上がり、こちらに向かってくる。しかし、ガンダムはそれを容易くいなすと脚を払い再び膝をつかせた。 『!?』 「皆…何も知らない癖にさ…知った様な気になる」 てっきり少尉は、ニュンペーのものと同じ様な敵の行動パターンを受け取ったのだと思っていた。 『馬鹿にして!』
立ち上がりながらニュンペーがハイキックを見舞う。しかしガンダムはそれに手を添えると、その蹴りの勢いで逆にニュンペーの体勢を崩させた。 『な…何が起こっている!?』 中尉のくれたデータは敵がどう出るかのデータではなく、自機の特性を活かすにはどうすればいいかというものだった。これまでの戦闘で得た癖の補正や弱点の補強…あくまでも能動的なデータだった。 「私は…全部受け入れることは出来ないかもしれない。でも…」 少尉は頭を空っぽにした。 「いくよ…マンドラゴラ」 今は何も考える必要はない。後で考える事が増えただ
けの事だ。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/935
936: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:24:02.82 ID:/Z+V/y3V0 『何をやったのか知らないが…!私達の血の結晶が…そんな付け焼き刃に…!』 ニュンペーは腕部のビーム砲を放つ。これまでは内蔵兵装はエネルギー節約で極力使いたくなかったのだろうが、そうも言っていられなくなったらしい。形振り構わなくなったのがわかる。 ビーム砲を躱しつつ、敵の落とした薙刀を取り戻す。 「私に長物は向かない。だから…」 再度薙刀を分割し、二刀流に持ち替えた。 「その付け焼き刃、2本ならどう?」 『戯れるな!』 ニュンペーは脚部のクロ
ーを駆使して接近戦を挑んできた。こちらの捌く2本の刃に、カポエイラの様にタイミングを上手く合わせてくる。 「…いける」 こちらからも敵のリズムに合わせる様にして攻防を繰り広げる。そして、そのリズムを意図的に崩した。斬りかかるその時に一部のアポジモーターを作動させることで、動作スピードを瞬間的に早めたのだ。 その一瞬が敵には捉えられなかった。クローごと右の足首を切り落とす。 『こいつ…!』 体勢を崩しながらもビーム砲を放ってくる。流石に作動しないアポジモーターが増えてきたのか、躱しきれずに右肩のバーニアが撃
ち抜かれる。推進剤による爆発の衝撃で片方の薙刀を落とす。 「ちい…」 『まだ…!まだ終わっちゃいない!!』 ニュンペーは戦意を喪失してはいない。片膝をついた状態でありながら、残る薙刀も片手で抑え込んでくる。流石にガンダムもパワーが落ちてきているのか、敵に掴まれた左手を振り払えない。 『お前も…道連れだ…!』 左マニピュレータの手首を握り潰される。お互いの体勢が崩れつつも、ガンダムは残るスラスターで制御しつつ敵に蹴りを見舞った。 「絶対に嫌だね…」 アポジモーターの稼働率は50%を切っている。今の無茶な制動でもか
なりやられただろう。とはいえひとまず敵の武装は殆ど破壊できた筈だ。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/936
937: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:24:27.86 ID:/Z+V/y3V0 「こなくそ…!」 蹴りの勢いそのままに宙返りし、ガンダムは手首を失った左腕で駄目押しに殴りつける。 『ッッッ…!』 抵抗を試みるニュンペーだが、少尉はもう反撃の隙を与えなかった。半壊した左腕が火花を散らすのも構わず、使えるだけのスラスターを加速させながら両腕で連打を繰り出す。 「あんた達が…!どれだけ…!強かろうが…!」 ひとつ、またひとつとスラスターが死んでいく。上がらなくなる左腕。 「どんなに…!私を…!憎もうが…!」 息も絶え絶えにな
りながら、残る片腕で力の限り殴りつける。倒れそうになるニュンペーに、その時間すら与えない。 「私は…死ねないッッッ!」 振り被った拳で最後の一撃を叩き込む。ようやくニュンペーは、その場に崩れ落ちた。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/937
938: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:24:53.88 ID:/Z+V/y3V0 満身創痍のガンダムは、半壊したニュンペーを見下ろした。立つことすらままならなくなった敵機は、頭を垂れずにいるのが精一杯の様だった。ガンダムは残っていた最後のビームサーベルを右手に持とうとしたが、マニピュレータが言うことを聞かない。 「もう…勝負は着いたよ…」 『ふざけるな!お前達がそれで良くても…私は…!』 ニュンペーがここにひとりで居るということは、他の部隊は全滅したということだろう。母艦が見当たらないのは気掛かりだが、友軍らしい友軍は何
処にもいない。 『私には…!もう…何も残っちゃいない…!!』 苦し紛れに撃たれたビーム砲が頬を掠める。2発目は無かった。エネルギーが底を尽きたのだろう。ニュンペーはだらりと右腕を下げた。 「あんたひとりでどうするっていうのよ」 『例え首1つになろうと…お前らに噛み付いたまま死んでやる…』 少尉は思わず溜息をついた。 「物騒なこと言う割にさ…。結構甘いよね」 『何…?』 少尉は武器を手放した。 「大尉のマラサイだって、トドメを刺したければいつでも刺せた。あたしにしても、うだうだ口上述べなきゃ殺せたんじゃないの?」
ウィード少佐は押し黙っていた。 「…結局、復讐なんて柄じゃないんじゃない?あんたのこと…よく知らないけどさ」 『私の大義は…』 少尉は通信を切った。結局この女は殺してほしいのだ。死ぬ理由が欲しいのだろう。スクワイヤ少尉にはそれが痛いほどよく分かった。まるで自らの身を裂く様に。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/938
939: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:25:20.97 ID:/Z+V/y3V0 少尉は死に興味を抱いた。しかし事の本質は違ったのだろうと、今になって思う。現状を打破できない自分自身に言い訳がしたかったのだ。何でもいいから自分の生に意義が欲しかった。そんな気持ちを誤魔化すように、対岸にある死を羨望したのかもしれない。 しかし、そんな自分を救い出してくれたのが…ワーウィック大尉であり、フジ中尉であり、グレッチ艦長だった。 こんな自分に、手を差し伸べてくれた。死への本当の恐怖を知り、傍らに置き、そして実際に我が身を投げ出
す理由すら生まれた。それでも尚生きていたいと願える今の少尉にとって、彼女の声は悲痛に思えた。 きっと自分が多くを得た裏で、彼女は多くを失ったのだ。その幾つかは少尉が奪ったのかもしれない。横凪に腹を裂いたいつぞやのガルバルディを思い出す。 別のガルバルディや青い大きな機体も、ここに居ないということはそういうことだろう。ガブスレイも静かに沈黙している。 彼女は、独りだった。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/939
940: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:25:54.87 ID:/Z+V/y3V0 「私はもう…あんたから何も奪わない」 ひとり呟き、ウィード少佐とニュンペーに背を向けると、ガンダムはよろよろと歩き出した。もし撃てるならば、撃てばいい。彼女にはその資格があるだろう。しかしきっと撃たないだろう。彼女自身が、それを望んでいるようには到底思えなかった。 ただ、その憤りをぶつける相手が欲しかったのだと思う。だから少尉もぶつけられるだけの全てで応えた。それでも、というのなら仕方がないかもしれない。 すると、背後で大きな爆発が起こっ
た。振り返ると、ニュンペーは跡形もなく自爆していた。 「…馬鹿。死ぬことないじゃない」 思わず、少尉の頬に涙が伝う。この戦いで、本当の敵は何処にいたのだろう。少なくとも今の少尉には答えが見つからなかった。 「何か…ここんとこ泣いてばっかり…。大尉…」 機体各部のエラーがモニターを埋め尽くし視界が赤くなっていく中、少尉はマラサイを探した。 59話 形影相同 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/940
941: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:26:48.85 ID:/Z+V/y3V0 「周辺に敵は居ないな!?」 「はい!いつでも出れます!」 グレッチ艦長の呼び掛けに、グレコ軍曹も必死で応えた。彼女もよく頑張ってくれている。 追撃に出たMS隊以外の回収が済み、ワーウィック大尉達を追ってシェルターから出港するところだった。 「しかし…まさか上層部が逃げ出すとはな。敵ながら現場の兵が不憫だ」 傍でロングホーン大佐が腕を組んでいる。敵の襲撃時に彼がMSで出ると言い出した時は必死で止めた。血気盛んな男だとはわかっていたが、まさかここま
でとは思っていなかった。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/941
942: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:27:16.04 ID:/Z+V/y3V0 出港した先に広がっていたのは、激しい戦闘の跡だった。残骸ばかりで生存者は見当たらない。 「必死こいて探せ!まだ大尉もゲイルちゃんも戻ってねぇんだ!」 グレコ軍曹達に通信で呼び掛けさせながら、艦長自身も艦橋の窓に貼り付いた。動いている機体があればそれだけでわかるのだが、まるで墓場の様に静まり返っている。 「何処行った…?何処にいるんだよ…」 目頭が熱くなるのを感じながら何度も見渡す。スクワイヤ少尉のことはまるで自分の娘の様に思っていた。大尉
と一緒にいた時は思わず怒ってしまったが、内心今の彼なら任せてもいいと思っていた。その彼も見当たらない。 「状況は!?大尉達はまだ戻ってないんですか!?」 勢いよく扉を開けて入ってきたのはフジ中尉だった。彼も負傷しているように見える。 「わからねぇ…何処にもいないんだよ…」 艦長は帽子を深く被って呟いた。 「そんな筈ないでしょう!?私も出ます!見つからない筈がない!」 フジ中尉は再びブリッジから駆け出していった。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/942
943: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:27:45.99 ID:/Z+V/y3V0 艦長の落とした肩をロングホーン大佐が叩く。 「艦長、そろそろ増援も来る。彼らが来てからの捜索というのは…」 「何言ってんです!?もし今!あいつらが怪我でもして助けを待ってたら!誰が助けるってんですかい!?」 目を見開き、思わず艦長は大佐に怒鳴った。ハッと我に返り血の気が引いた。もうこれで今までのゴマすりも何もかも無に帰った。 「艦長…」 「…も、申し訳…」 ロングホーン大佐の体格の良さが際立って感じる。殴られるのかと思い目を瞑った。が、彼は
踵を返した。 「私もMSで捜索に出る。戦闘ではないぞ…文句はあるまい?」 「へ…?いや、そりゃしかし」 「負傷兵の気持ちも考えず、挙げ句艦長にも怒鳴られてしまった。これでは示しもつくまいよ。なあ?」 「…」 ズレた帽子もそのままに、大佐を見送ることしか出来なかった。 その後も捜索は続いたが、一向に彼らは見つからない。余りに状況が酷く、現場での捜索も難航していた。 『艦長、この辺りの区画には居ないようだ』 ロングホーン大佐もフジ中尉以下動けるパイロットと共に捜索に出て暫く経った。 「そろそろ増援も到着しますな…。
結局見つからずじまいか」 グレッチ艦長も相変わらず艦橋から目視で動きがないか探り続けていたが、成果はない。 「艦長!」 グレコ軍曹が、これまでにないような大声を出した。驚きのあまり、思わず飛び上がる。 「びっくりさせんな!どうした!?」 「それが…」 艦長の方を振り返ったグレコ軍曹が珍しく涙を流している。不吉な予感も感じつつ、彼女の見ていたモニターに駆け寄る。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/943
944: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:28:39.83 ID:/Z+V/y3V0 『おーい』 そこには、見るからにくたびれたスクワイヤ少尉とワーウィック大尉の姿があった。ガンダムのコックピットの中の様だ。 「お前ら…!無事か!今何処だ!?」 『座標を今送ります。大尉を回収するまでは良かったんですけど…いやー、ガンダムがガス欠起こしちゃって。駆動系も言う事聞かないから身動き取れなくなっちゃったんですよ。ってか通信機器も壊れかけ…やっと繋がったけど』 少尉は何でもないことの様に笑う。 「お前…!下手したら置き去りになってたぞ!
?」 涙と鼻水が止まらない。生きていてくれて良かった。 『うわっ、ちょっと、艦長汚い…』 「何とでも言え!…ああ…良かった…良かった…」 ひと目を憚らずに泣きじゃくった。他のクルー達も鼻をすすったり笑い合ったりしている。 「艦長、ポイントを確認しました!」 グレコ軍曹が元気に言う。 「おう!軍曹、その調子で頼むぜ!…大佐、そこから向かえますか?」 『無論だ。もう少しそこで待っているがいい』 身体中の力が抜けた艦長は、思わず尻餅をついた。やっと、コンペイトウを巡る長い戦いが終わったのだ。 http://medaka.5ch.net
/test/read.cgi/x3/1563897040/944
945: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:29:08.88 ID:/Z+V/y3V0 ボロボロのガンダムを回収し、時同じくして到着した増援の艦隊と合流する。もう少し早く来てくれれば救えた命もあっただろう。しかし、これでもロングホーン大佐が手回ししてくれた結果だ。本来ならもっと遅れていたと考えれば、これで手を打つより他無かった。 現場の後処理は到着した部隊に任せて、アイリッシュの面々には暫しの休養が言い渡された。合流部隊との擦り合わせがあるロングホーン大佐を拠点に残し、アイリッシュはコンペイトウの別ドックへと回った。 最後
のシェルター攻防戦でかなりの損傷を負ったこの艦も、そろそろ修繕しなければならない。 「ここは任せる」 ブリッジをクルー達に預けると、艦長は医務室へと小走りで向かった。 「あ、艦長」 スクワイヤ少尉の気が抜けた声がした方を見ると、ベッドに寝ているパイロット達を見つけた。暇そうに欠伸をする少尉と、本を読んでいた様子のフジ中尉。大尉が1番重症な様で今も眠っているが、後の2人も安静にしていなければならないと聞いている。 「やっと顔を出せた。お前ら大丈夫か?」 「大丈夫に見えます?」 「少なくともゲイルちゃんは大丈夫そう
だな」 そう言われて少尉が露骨にぶすくれる。艦長にとっては、いつものやり取りを出来ることが何より嬉しかった。 「大尉も気が張っていた様で…ぐっすり寝てますよ」 中尉が微笑む。彼がいなければスクワイヤ少尉はガンダムの元まで辿り着けなかったと聞いていた。中尉のネモは別部隊が今頃回収してくれていることだろう。 「そういう中尉も安静にしてねぇと駄目だろ?本なんか読んでねぇで寝てろ」 「これはまた酷い言い草ですね。せめて頭くらいは動かしていないと」 「動かし過ぎだろうよ、中尉の場合は」 艦長は苦笑いした。やれやれとい
った様子で中尉は本を閉じた。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/945
946: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:29:34.91 ID:/Z+V/y3V0 「…艦長ですか」 大尉が目を覚ました。 「おお、騒がしかったか?すまんな」 「いえいえ、十分に寝ました」 「お前らはほんと落ち着きがねぇな。こんな時くらいゆっくりしてりゃ良いのによ」 「艦長が1番煩いでしょ、どう考えても」 「何だと?」 少尉に噛み付くと、別の患者を世話していた医師が口元に指を立てた。艦長は申し訳なくなってシュンとした。 「…ほら、怒られた」 少尉が意地悪く笑う。 「そんなことよりよ、お前らにとりあえず報告をと思ってな」 艦長は
少尉のベッドに腰掛けた。 「今回の作戦でコンペイトウが完全に落ちたぜ。俺たちの勝ちだ。…何だ?喜べよ」 3人とも浮かない顔をしている。 「…勝ったのは良いんですけど。私達…何と戦ってるんだろうなって思っちゃって」 「まあ…そうだよなぁ」 少尉の言葉は、今までよりも重く感じた。実際に彼女らは向かってくる敵と命のやり取りを重ねて、敵を殺す実感を伴いながら常に前線にいたのだ。 掛ける言葉が見つからず、艦長は白い天井を仰いだ。 60話 天井 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/946
947: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:30:23.01 ID:/Z+V/y3V0 スクワイヤ少尉は自室で目を覚ました。比較的軽傷だった彼女とフジ中尉はワーウィック大尉よりひと足早く回復後、暫しの休息を許されていた。ベッドから起き上がり、のそのそと着替える。昨夜に聞いたコンペイトウの近況を思い出していた。 コンペイトウ制圧後、エゥーゴの部隊は戦闘で半壊した基地の整備を進めていた。基地に残されていた少数の捕虜を受け入れつつ、拠点の調査や捕虜の証言などで基地の役割の全容が見えてきていた。 ロングホーン大佐達の読み通り、ティ
ターンズは大量破壊兵器…コロニーレーザーの建造に着手していた。コンペイトウはその資源の加工・中継なども担っていた様だ。しかし既に粗方の作業は終えていたらしく、拠点としての役目を一定終えた後だったことが伺える。 「んー…」 背伸びをして制服の皺を伸ばす。休息と急に言われても何をしたら良いかわからない少尉は、とりあえずブリッジへと向かった。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/947
948: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:30:47.14 ID:/Z+V/y3V0 「おう!お前らは休んでて良いんだぞ?」 腕組みしたままグレッチ艦長が振り返った。 「そんな事言われても、こんな場所じゃバカンスって気分でも無いし。…少し痩せました?」 「おっ、そうかな?」 艦長が少し嬉しそうに腹をさする。多分飲酒の量が減っているのだろう。酔っている暇もなかったか、酔えなくて飲むのを辞めたのか。 「まあ…まだ飛び出てますけどね、そのお腹」 「お前とは胃袋が違うんだ、胃袋が」 艦長はそういってさすっていた腹をポンと叩いてみせた。
「ま…後で教えようと思ってたんだがな。…キリマンジャロ、落としたみたいだぜ」 「へえ。じゃあ地上の大きな拠点はひと通り攻略出来たんですね…」 「ダカールの議会がまだ残ってる。軍事施設の掃討はカラバに任せられる規模になってきたみたいだけどな」 少し前まではティターンズの天下だった地球も、勢力図が大きく塗り替えられてきた。ジャブロー攻略に始まり、それこそニューギニア基地の攻略も大きな転機になったはずだ。 「…艦長」 「どうした?」 「ニューギニア基地攻略の話…いや、私の知りたい事…何か知ってます?」 「…」 艦長
が押し黙った。心当たりのある様子に見えた。 「私…」 「…あー…疲れた!軍曹、ちょっと久々にサボってくるわ」 「え、でもロングホーン大佐が…」 グレコ軍曹がおどおどと慌てる。 「適当に話合わせといてくれ!…付き合えやゲイルちゃん」 呆れているグレコ軍曹に苦笑いしてみせつつ、少尉は黙って艦長についていった。 http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/948
949: ◆tyrQWQQxgU [sage] 2020/07/23(木) 23:31:17.88 ID:/Z+V/y3V0 艦長の自室前までやってきた。 「お前、俺の部屋来るの初めてだなそういや」 そう言いながら扉を開けた艦長は、どうぞといった風に手で部屋へと促した。 「へー、意外と片付いてるもんですね」 少尉が部屋へ足を踏み入れると、小綺麗な空間が広がっていた。見るからに高そうなオーディオやウィスキーのボトルが目に入る。月面でのゴタゴタの中で積み込んだと思うと、力の入れる場所を幾らか間違えている気もしないではないが。 「まあ適当に座れ。…水でいいか?」 「コー
ラとかないんですか?」 「オーケー、水でいいな」 「聞く意味ありました?」 「生憎切らしててな」 近くにあったスツールに腰掛けつつ、艦長からコップを受け取る。 「で、ニューギニア基地の話だっけか。俺も当然現場にいた訳じゃないが…何故今更そんな事を気にしてるんだ?」 横並びにグレッチ艦長も腰掛けた。 「…私、まどろっこしいいい方は性に合いません。その…艦長ならヴォロ・アイバニーズのこと…」 「何処で聞いた?」 珍しく艦長の反応は早かった。声もいつもより幾らか落ち着いて聞こえる。 「コンペイトウで…成り行きですよ」
「成り行き…まあ、そういうこともあるのかね」 立ち上がった艦長は、自分のグラスを注いだ。 「…ここから先、お互いに隠しっこは無しだぜ」 片手にグラスを持ち、片手で少尉を指差しながら艦長が眉をひそめた。水を口に運びながら、少尉は次の言葉を待つ。 「一年戦争終盤だったかな。ゲイルちゃんの親父さんには世話になった事があってな…。あれはそれこそコンペイトウ、いやソロモンで前線にいた時の話だ」 61話 成り行き http://medaka.5ch.net/test/read.cgi/x3/1563897040/949
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