VaMPiRe (212レス)
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(1): 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2011/09/16(金)19:50 ID:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp(1/40) AAS
三作目……でいいのでしょうか、竜野翔太でございます。
いや、ホント色々な面でダメで、削除依頼に出したのが二作…今更新してるものは完結まで持っていこうと思います。
このタイトルは『ヴァンパイア』と読みます。
恋愛系も入りますが、アクション主体になります。
あと、グロ表現もなるべく入れないようにはしますが、もしかしたら入ってしまうかもしれません。
あと、荒らしやチェンメはやめてくださいね。

それでは、次スレから始めます。
アドバイスやコメントなどもあれば書き込んでくださいね。
193: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/16(日)10:04 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(12/31) AAS
 転校生が来るらしい。
 霧澤と真冬の話が『話せば長くなる』もので、説明は時間が長い昼休みまで持ち越しとなった。普段なら『そんな待てないよー』と奏崎は文句を言うところだが、今回は納得してくれたようだ。
 朝のホームルーム直前に来た滝本はどこで情報を手に入れたのか、霧澤達に転校生の報を伝えていた。本当にどこで知ったんだ。
「真冬ちゃんが来てからちょっとしか経ってないのに、もう転校生だってよ。うちの担任簡単に引き受けすぎじゃない?」
「まー、いいじゃんいいじゃん。その子がとんでもない萌え要素の持ち主だったらどうすんのさ」
 お前の頭の中はそれだけか、と思わずツッコミそうになる霧澤だが、いつもどおりの奏崎に安心しているようにも見えた。
 始業のチャイムが鳴り、担任の先生が入ってくる。第一声はやはり転校生のことだ。転校生が美少女だと先生が言うと、男子+ゲクイの歓声が教室に響いた。
 先生の合図に応え転校生が入ってくると、霧澤、真冬、奏崎は言葉を失った。

 入ってきたのは、銀髪ツインテールで右目には眼帯をしている、身長一五〇前後の彼らがよく知る少女だった。
 
省25
194: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/16(日)20:47 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(13/31) AAS
 霧澤は奏崎に全てを話した。
 赤宮真冬が『ヴァンパイア』という存在であること。『ヴァンパイア』は悪魔を討滅する存在であること。悪魔を倒すために自分が真冬に力を与える契血者(バディー)であること。白波涙、茜空九羅々も『ヴァンパイア』であること。朧月昴、汐王寺百合も契血者(バディー)であること。
 一通り説明を終えた霧澤は軽く息を吐いた。じっと話を聞いていた奏崎は腕を組みながら首をただ上下に振るだけだった。頷いてはいるが、自分の話のどれだけ信憑性があるのだろう。
 奏崎は『ふーん』と返事をすると、
「そうだったんだ。そりゃ、私が分からなくても納得できるわ。だって『ヴァンパイア』とか悪魔とかって二次元の中だけだと思ってたもん」
 意外とすんあり納得していた。
 奏崎の早すぎる順応に霧澤は面食らう。
「お、おい!? 信じてくれるのか、お前?」
「だってアンタさ、『全部話す』って言ったじゃん。今のが紛れもない真実なんでしょ? だったら納得するしかないし、そんな疑り深い性格じゃないわよ」
 霧澤の言葉に奏崎はそう返した。
省28
195: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/17(月)06:00 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(14/31) AAS
「でさ、『けーやく』ってどうすればいいわけ? アンタと真冬ちゃんはもうやったんでしょ?」
 奏崎は軽い調子で聞いてきた。
 霧澤と真冬は答えるかどうか迷った。
 現在霧澤と真冬両者の右手の中指には指輪が付いている。それはお互いが契約した証で、これが付いている限りは契約が持続している証拠なのだ(『ヴァンパイア』の存在を知らない者には見えていないが、先程知った奏崎には既に見えている)。故に二人は契約の方法を知ってはいるのだが……、
 言えない。
 霧澤と真冬はそう思っていた。
 奏崎が自分のことを好きだ、ということを知らない霧澤だが、契約の仕方を伝えても大丈夫という保障がどこにもない。
 奏崎の霧澤に対する気持ちを知っている真冬は、契約のためにあんなことをしなきゃならないなんて言えるわけがない。
 契約には、

 二人がキスしなければいけないなんて言えるわけがない。
省26
196: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/17(月)10:19 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(15/31) AAS
「……!?」
 突然キスをされた霧澤は、驚きのあまりに目を開いてしまっていた。
 目の前にはかなり近い位置にある目を閉じた奏崎の顔。彼女も彼女で恥ずかしいのか、頬を赤くしている。
 時間はそれほど長くはなかったが、いろいろなことを考える時間があったかのように思えた。ほんの一瞬のような数秒が分や時間単位に思えた。
 奏崎は唇を離すと、真っ直ぐに霧澤を見つめる。
 何か言おうとした霧澤の口に、彼女は人差し指を当てて彼を牽制した。
「(……馬鹿。真冬ちゃんが気付いちゃうでしょ?)」
 言葉を封じられた霧澤は指が口から離れても何を言おうともしなかった。ただその代わりに、何故自分にキスをしたんだろう、と奏崎を見つめるだけだ。
 奏崎は僅かにもじょもじしたような様子で俯き始める。
 霧澤がその様子に気付き問いかける前に、ばっと彼女が急に顔を上げ霧澤の顔を見つめる。
省30
197: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/17(月)10:41 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(16/31) AAS
〜あとがき〜

第四章完結いたしました。竜野翔太です。
四回目のあとがき、何を書いていいのやら。困っています。
何も書かずに終わるのはダメなので、今回のキーキャラクター、薫、九羅々、マモンの三人について。

奏崎薫というキャラは一章とかはほぼメインだったのに対し、二章三章辺りではぐっと登場回数が減ってしまったキャラです。
当初は主人公とヒロインの良き理解者ポジションだったのに、こうも容易くサブキャラ扱い。なんだか可哀想に思えてきました。
かといって今回の話が、出番少ない薫の救済編ではないのでご安心を。
今回の話は今までサブだった薫ちゃんが本格的に本編で活躍しだします。契血者(バディー)も出来ましたし。

茜空九羅々は薫の萌えの欲望を体現したキャラです。
普通の少女などには彼女は近づかない。よって、萌え要素てんこ盛りのツン少女に成り果てたのです。
省13
198: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/21(金)20:07 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(17/31) AAS
第22話「狂気の再来」

 ズガン!! という乾いた銃声が夜の空に木霊する。銃声を鳴らしたのは、前方に銃口を向けて立っている白波涙。彼女の握っている銃からは白い煙が立ち昇っている。
 恐らく悪魔を退治したところなのだろう、彼女は銃を太ももへとしまった。
 それから物足りなそうに前髪をいじくりながら、
「んー、なんか物足りないんだよなぁ。刺激がないっつーかさ」
 白波は特に気にも留めていなかったのか、思い出したように自分の髪に視線を落とす。
 かなり伸びていた。
 通常は肩より短いくらいにしていたのだが、今では胸の辺りにまで横の髪が垂れており、肩から三センチ程度下にまで後ろ髪も伸びている。
 髪の長さに気付いた白波は溜息をつく。
「そろそろ切り時かねー。何でか私って人より髪伸びるの早いんだよね。私は長髪は似合わないんだぜ?」
省32
199: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/22(土)01:26 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(18/31) AAS
「白波が行方不明!?」
 言われたとおり屋上へとやって来た霧澤達は、朧月の発言に思わず大声で叫んでしまった。幸い屋上には他に誰もいなかったので、このことを聞かれていはいないと思う。
 彼の話によると、昨晩に出てきた悪魔を退治しに行ったっきりらしい。白波がそこら辺の弱い悪魔に負けるような『ヴァンパイア』ではないことは誰もが知っている。
 だからこそ、行方不明の原因が分かっていないのだ。
「……白波の奴、どうしたんだ?」
「相手が本気で心配するような冗談や嘘は言わないし……」
 霧澤達も白波が姿を消した理由を考え出す。が、しかしやっぱり思いつかない。
 そこで、皆で昨日白波を見たのはいつが最後か、という話を聴くことにした。
 いの一番に口を開いたのは霧澤だ。
「俺は昨日、白波が赤宮と一緒に買い物に行くって行って、赤宮を連れて行った後から見てないぜ」
省27
200: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/22(土)21:31 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(19/31) AAS
 学校が終わり、霧澤達は駅前で待ち合わせていた朱鷺綾芽と合流する。
 彼女はいつもどおり扇子で口元を隠しており、霧澤を見つけるやいなや彼に思い切り抱きついた。
「キャー、夏樹さーん! お会いしたかったですわ! 電話をなされた時はわたくしと契りを交わすお覚悟を決めたのかと思いましたけど……」
 頬を染めながらそんなことを言う朱鷺の頭部を、すぱーんという効果音が似合いそうな叩き方で、真冬がはたく。
 突然はたかれた朱鷺は大して痛くない頭部を押さえ、口を尖らせながら真冬に文句を言う。
「んもー、何ですの? 話すくらいいいじゃありませんの。貴女はいつも一緒にいるんですし」
「そーいう問題じゃなくて。とにかく離れたら? 暑苦しいでしょ?」
 女二人の醜い言い争いが始まる。
 男の霧澤と朧月は若干引いており、同じ性別である奏崎と茜空でさえも軽く引いている。周りの注目もかなり集めている二人だがヒートアップしてきた二人はそんなことを気にする余裕などない。むしろ注目されているからこそヒートアップしているようにも見える。
 朝の霧澤と茜空の言い合いのような『論点がずれる』論争ではなく、二人の言い合いは『論点は変わっていないが、この世で一番醜い』論争である。
省17
201: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/09/28(金)23:12 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(20/31) AAS
 どうしたもんか。
 霧澤夏樹は夕方に差し掛かる前の人通りが割りと多い街で茫然と考える。
 彼が『どうするか』迷っているのは白波を捜索するための手立てではなく、彼がくじで一緒に行動することになった朱鷺綾芽のことだ。彼女は霧澤と遺書になったことで、幸せそうな表情を浮かべ完全に舞い上がっている。霧澤からしてみれば舞い上がっている理由は不明で、相談どころではない。
(これだったら話し辛いけど、茜空の方がマシだったな……)
 絡みやすさよりもまだ会話になりそうな相手を選ぶ始末だ。それだったら一番都合が良いのは真冬か奏崎であるのだがあくまで、朱鷺綾芽と茜空九羅々という『そこまで親しくない人物』を比べた時の話である。
 彼の苦悩を知る由もない朱鷺も、ただ舞い上がっているだけではない。
 彼女は幸せそうな笑みの裏には、想像しがたいほど深いところまで考えていた。
(……さて、どうしましょうかね)

 彼女は街行く人々の会話に聞き耳を立てていた。
 まずは『耳』からの情報収集だ。
省30
202: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/10/05(金)22:40 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(21/31) AAS
 実のところ、朧月昴はこの上なく困っていた。
 理由は傍らにいる茜空九羅々であるのだが、別に彼は子どもが嫌いというわけではない(背が低いだけで同い年かもしれない)。ただ、彼女がさっきからこちらには見向きもせずに辺りをきょろきょろしている。こちらとコミュニケーションをとる、という考えは彼女の頭に無いようだ。
 朧月自身もそんなに喋る方ではないが、話を振られれば普通に答えるし、会話を続ける努力はしているつもりだ。しかし、ここまで何も話してくれないと気分的に重い。
 『どうやって涙を探そうか』とか『何で姿を消したと思う?』と聞いても『ハン、話かけないでもらえません? 今考え事してるんで』とか鼻で笑いながら一蹴されそうだ。
 しかし、沈黙が続いても嫌なので、朧月は思い切って茜空に問いかける。
「……、どうやって涙を探す?」
「ハン、話しかけないでもらえません? 今考え事してるんで」

 予想通りの言葉で鼻で笑いがら一蹴された。

 彼女は相変わらず朧月を見ずに、辺りをきょろきょろしている。
 どうやら本当に彼と仲良くする気はないようだ。
省38
203: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/10/06(土)10:17 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(22/31) AAS
 予想はしてはいたが、やはり見つからなかった。
 待ち合わせ時刻になってしまい、真冬と奏崎は時間が近くなってきたのに気付き、いち早く引き返していたのだが、
「ありゃ、ちょっと早かったね」
 着いたのは七分前。
 霧澤・朱鷺ペア、朧月・茜空ペアが近づいてくる気配も無く、二人は時間までここでゆっくり待つことにした。
 しかし、二人の間には会話が無い。白波を探している時も、必要な言葉だけを交わしていた。
 だがそれは決して仲が悪いから、とかではなく、

((……話しかけづらいなぁ……))

 もしも、奏崎が『ヴァンパイア』のことや真冬の正体を知っていなければ、話しづらくなることはないだろう。それまでは普通に話していたのだから。だが、今二人が話しづらくなっている理由は似通っている。
 真冬は『契約のため霧澤とキスしていることを、奏崎は知っている』で奏崎は『真冬に内緒で霧澤とキスしちゃった』ので、お互いに気まずくなっているのだ。それに付け加え、奏崎は一足先に霧澤に告白も済ませてしまっている。余計に気まずい。
省30
204: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/10/08(月)17:28 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(23/31) AAS
 翌日。
 再び白波を探すことにした霧澤達は、今の六人では見つからないだろうと思った霧澤の提案により、もう二人追加することにした。
 だが、いくら人手がいるといっても『ヴァンパイア』とは無関係な滝本美々を巻き込むわけにはいかないので、霧澤はこういう時に手を貸してくれそうな二人に声をかけていたのだ。
 捜索組六人は駅で、その二人と待ち合わせをしていた。
 場所に着くといたのは腰くらいの金髪を持った美女、汐王寺百合と彼女の契血者(バディー)である茨瑠璃の二人だ。
「って、汐王寺さん!? ってことは、あの人も『ヴァンパイア』と関係あるの? もしかして側にいるちっちゃい子? いつからなの!?」
 一番びっくりしたのは奏崎だ。
 無理もない。彼女は汐王寺とは顔見知りなわけなのだから、余計に驚いたのだろう。
「驚いたぜ。まさか奏崎も関わっていたとはな。しかも、契約の相手は夏樹と真冬ちゃんが注意しろって言ってた『ヴァンパイア』か。ま、これで以前ほどの脅威もねーだろ。で、昨日夏樹から電話で聞いてはいたが、もう一回詳しく聞かせてくれ。今回の事件を」

 説明をしたのは白波の契血者(バディー)である朧月だ。
省25
205: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/10/13(土)13:37 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(24/31) AAS
 霧澤は正直、茜空九羅々が苦手だ。
 あまり話したことがなく、何を話せばいいか分からないのも理由の一つだが、彼女とは性格ややり方などが、基本的に自分と一致していないと思う。正直なところ、誰かから一〇個質問されれば、茜空は霧澤と違う答えを言うだろう。それほど仲が良くない、と思える滝元であっても二、三個一致するだろうと霧澤は思っている。
 つまり、自分と何一つ一致しない茜空が、霧澤にとっては意外な天敵である。
 しかも自分から指名しておいて、白波捜索から十分程経過しているにも関わらず、未だに言葉を交わそうとしてくれていない。自分のこと嫌いなんじゃないだろうか、と勘違いしてしまうが、無口なのが彼女にとってデフォルトなのだろう。
 いよいよ気まずくなってきた霧澤は、こちらから話をかけるという手段を取った。
「……なあ、茜空。そろそろ話してくれてもいいんじゃねーの? 何で俺と一緒になったんだよ」
 茜空は視線をこちらに向ける。
 常に無表情だからか、やけに不自然そうに見える。というか視線が怖い。
 彼女は視線を逸らし、溜息をついた後口を開いた。
「では、単刀直入に聞きますけど、貴方は実際どう思ってるんです?」
省20
206: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/11/02(金)23:46 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(25/31) AAS
 茜空から真犯人という可能性が最も高い人物、紫々死暗の名を聞かされた霧澤は、急遽真冬や奏崎に集合場所に戻るように連絡をした。案の定全員が僅かに慌てたような表情をしている。
 それもそうだ。
 いきなり『今すぐ戻ってきてくれ』なんて言われたら緊急事態なのかと焦ってしまう。そんな事を言われて喜んで飛んでくるのはこの中では朱鷺綾芽ただ一人だ。
 霧澤は戻ってきた皆に茜空から聞いたことの全てを話した。前に紫々死暗に身体を斬られた、と話したら奏崎と汐王寺、茨、更には朱鷺までも表情を凍らせ、言葉を失っていたが説明を続けた。
 一通り説明が終わると、珍しく真冬が口を切った。
「夏樹くんやクララちゃんの言うとおり、彼らが関わっている可能性は高いと思う。仮にも『四星殺戮者(アサシン)』と思い切り関わった私から言わせてもらえば、だけど」
 真冬にしては妙にはっきりとした口調で告げた。
 『四星殺戮者(アサシン)』の名前を出すと、朱鷺が思い出したように挙手して発言しだす。
「そういえば、近頃魔界で紫々兄弟の行方が分かってないとか。魔界のレーダーは人間界ではうまく作動しないので、恐らく……」
「つーかそれ、恐らくじゃねーだろ」
省27
207: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/11/03(土)22:18 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(26/31) AAS
 白波涙は目が覚めた。
 といってもはっきりと意識があるわけではない。意識は朦朧としているし、瞳は虚ろなまま薄っすらとただ開いているだけと同じだ。そんな彼女は本能的に辺りを見回してみる。目を開けて数秒後、両腕を後ろで戒められていることに気付き、さらに数秒後にどこか分からない廃屋のようなところにいると判断できた。
 彼女は薄暗い部屋の全体を見ようと頭を動かそうとしたところで、後頭部に激痛が走る。
「……ッ!?」
 その痛みでようやく彼女は全て思い出した。
 深夜に悪魔を退治しに行った事。髪の長さを気にしていたら突然背後から襲われたこと。犯人を見ようとしたがその前に意識が途切れてしまったこと。
 ここまで来てようやく自分は拉致されたのだと理解した。
「……ここは、一体……?」
 彼女がそう呟いたと同時、右手に鉤爪を装着した男が近づいてくる。
 彼は不気味な笑みを浮かべたまま白波に近寄った。
省27
208: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/11/09(金)23:22 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(27/31) AAS
「―――紫々、浪暗―――?」
 どんな敵が攻めてきてもいいように、魔界からかなりの情報を集めていた白波でも紫々兄弟に姉がいるなど初耳だった。
 兄の紫々死暗は暗殺部隊『四星殺戮者(アサシン)』のリーダーであるから、有名なのは分かる。それを裏で仕切っているのが弟の紫々伊暗だ。この話も結構有名になってしまっている。
 それに比べ、姉は表舞台に顔を見せていない。そのためか、認知度が低いのかもしれない。
 彼女はニコッと笑みを浮かべ、きょとんとする白波に、

 ゴッ!! と拾った警棒のようなステッキで白波の顔面を殴りつける。
「……ッ!?」
 何が起こったのか分からない白波。
 彼女は大きく目を見開いていた。殴られたと気付くのに数秒の時間を有した。
 浪暗は片手で器用に警棒のようなステッキを回しながら、
省30
209: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/11/24(土)22:46 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(28/31) AAS
第23話「狂気粉砕へ」

 白波を攫った犯人が紫々死暗だと判明した日の深夜。真冬はこっそり霧澤の部屋から出て、家からも出る。別に家出というわけではない。彼女は携帯電話で呼び出されていたのだ。場所は朧月病院の屋上。呼び出したのはこの病院の院長の息子である朧月昴だ。
 真冬が屋上へと行くとそこには朧月の他に朱鷺綾芽、茜空九羅々、茨瑠璃の姿があった。茜空と茨は真冬と同じように契血者(バディー)の奏崎を連れて来ていない。
 着いた真冬はとりあえず、契血者(バディー)を連れて来ないように、と念を押した理由を聞いた。
「白波が何処にいるか、それはもう全員分かってる。だが、場所を知った霧澤は動くかも知れねぇ。まずは作戦を立てる。赤宮、お前には奴を制止してほしいんだ」
 え、と朧月の言葉に微かに驚いたような反応を見せる真冬。
 しかしながら、扇子で口元を上品に覆っている朱鷺は、真冬に視線を向けながら反論じみた言葉を放つ。
「別に貴方が危惧しなくても夏樹さんは大丈夫だと思うのですが。夏樹さんもそこまで馬鹿じゃありませんわ。むしろ、こういう時こそ彼はよく考えて行動するんじゃ―――」
「だと良いですけどね」
 朱鷺の言葉を茜空が遮る。
省21
210: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/11/25(日)21:21 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(29/31) AAS
 馬鹿どもの激しい論争が白熱する中、茜空九羅々は一人でさっさと帰っていた。
 理由は馬鹿どもに付き合いきれないと思ったからである。あのままあそこにいては、自分も何らかの流れからあのどうでもいい話に巻き込まれそうな気がした。多分朱鷺あたりが『自分には関係ないと思っていたら大間違いですわよ!』などと言ってきそうな気がした。
 ぶっちゃけると、彼女は霧澤夏樹に対して特別な感情は抱いていない。友達といえばそれまでである。本来ならば嫌ってしまいそうな人格だが、奏崎の友人(片思い中の相手)なら無下に嫌うことも出来ない。だから無理矢理といえば無理矢理、彼に対して好意的に接している。しかし、それも表面的な話であって、彼と二人になれば彼へ敵意を少々向けてしまうし、嫌悪感を少なからず放出する。
 彼女があの場から去った理由はもう一つある。それは奏崎が気になったわけではない。ただ単に一人で考え事をしたかったからだ。
 彼女は暗い夜道をとぼとぼ、という効果音が似合いそうな足取りで進んでいく。時折道の端に立っている街頭の光の眩さに僅かに目を細めたりしながら彼女は家路へと向かう。
「……なんつーか、かなり悠長ですよね、あの人達」
 溜息でもつきそうな口調で茜空がぽつりと呟く。
 オレンジ色の瞳で空を見上げる。眼帯によって隻眼となっている彼女のオレンジ色の瞳には、暗い夜空に浮かぶ星々を映し出していた。きれいだ、と思う。ただ素直に、率直な感想を彼女は抱いた。
「どっちにしろ、遅かれ早かれ紫々は行動に出る。それもこっちが看過できないような。それから動くか、その前に動くか。どっちにしろ今の状態では前者の方になりそうですね」
 彼女は退屈そうに自分の髪をいじりながら言う。
省6
211: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/11/27(火)16:42 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(30/31) AAS
 今は何時だろう?
 目が覚めてから白波が思ったことはそれだった。
 薄暗い廃屋の中。カーテンで閉め切られている窓の光も何も無いこんなところでは時計があっても時刻を確かめることもままならない。しかし、白波は気になっていた。監禁されているとはいえ。人質になっているとはいえ。せめて今が何時なのか、それだけは把握しておきたかった。
 すると薄暗いこの部屋に一人の人物が入ってきた。
 紫々姉弟の長女、紫々浪暗だ。
 長男の紫々死暗曰く、彼女はサディスティックな性格で、身動きが取れない相手を嬲(なぶ)ることが大好きらしい。しかし、意外と乙女的な一面もあるらしく、たまにだが恥ずかしがったり照れたりすることもあるようだ。しかし、会って早々散々殴られた白波にとってはそんな一面はどうでも良かった。あってもなくても、自分への接し方は変わらないのだから。
 真っ直ぐ白波に近づいてきた浪暗は、警棒のようなステッキで自身の肩を軽く叩きながら、
「ただいま午前八時でございまーす。良い子の皆は元気に登校してる頃かな?」
 白波の心を見透かすように時刻を言った。
 あらかじめ時計か何かを見ていたのだろう、若干のズレはあるだろうが大体の時間が把握できれば問題ない。そんなに細かく分や秒を知ったってどうにもならない。
省24
212: 竜野翔太◆sz6.BeWto2 2012/11/30(金)21:13 ID:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp(31/31) AAS
 中々連絡が来ない。
 朱鷺が魔界へと情報を収集に出かけて二日経つが、未だに霧澤にも朧月にも何の情報ももたらされなかった。霧澤達は昼休みに屋上に集まることが習慣だとでもいうように、自然に足が運ばれていった。
 四角形になるように座った後、不安が募ってきた真冬が口を開く。
「……涙ちゃんがいなくなって五日くらい経つけど……、何の進展もないね」
 真冬の言葉に返事は無い。
 全員がどう言えばいいか分からないからだ。何て返せば正解なんだろうか。どう対応すればいいのか。励ました方がいいのか。正解の言葉も、対応の仕方も、励ます方法も思いつかない。いや、正解なんてないし、対応なんてできっこないし、方法なんてあらかじめ用意されてないのかもしれない。
 霧澤は何気なく携帯電話を開くと珍しく汐王寺からメールが届いていた。
 彼女とはフルーレティの一件以降連絡を取り合えるようにしており、メールは常に霧澤からだった。彼女とのメールの回数こそそこまで多くない。だが、今回ばかりは頻繁にするようになっており、大抵自分からメールしない汐王字からメールするなど、彼女も相当不安になっているようだ。
 内容は『進展はあったか?』という女子のメールとしては、可愛らしさが足りない味気の無い内容だ。
 『いいや』とこちらも短く返信すると『そうか。何かあったら連絡頼む』と男子とメールしているような内容のメールが届く。
省17
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