したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ボツSS投下スレ

72IF CODE:上条inギャンブル船:2011/07/30(土) 19:57:50 ID:VUZF4kXo
 がらがらぴしゃーんと鳴り響く雷鳴。
 此方と彼方を結ぶは二本の鉄骨。
 そこがビルの屋上だとわかるのは、彼方のビルまでの距離が広すぎるせいであろう。
 しかし、出てすぐの場所から、ビルの底を見出す事は出来ない。
 そう、これが、これこそが、鉄骨渡りである。
 衛宮士郎が至極当然な感想を漏らす。
「船の中? これが魔法って話か? いやそれ以前に、これを渡れと? 正気……か?」
 何処か揶揄するような顔で利根川は笑う。
「カイジは渡ったがな。どうだ、もう一度やってみるか?」
「ふざけんな! こんなもの! 出来れば二度と見たくなかった!」
 秋山の澪さんは、扉を出るのすら躊躇する始末。
 真宵は訳知り顔でそんな澪の後ろに居る。
「うーむ、正に怪異」
「だ、大丈夫、か、な? その、扉を潜ったら二度と戻って来れないとか……」
「ありえますね」
「ひいいいいいいい!」
 グラハムはビルの下を覗きこみながら呟く。
「ふむ、落ちたら命が無いのはまあ、当然だろうな」
 光秀もまた同じく下を覗きこんでいる。
「高所に相応しく風も強いですね。うっかりバランスを崩す人も、確かにこれなら居るかもしれません」
 二人は、鉄骨の上から下を覗きこんでいた。
 カイジの口が、顎が外れんばかりの勢いで開く。
「おいいいいいいいい! 何さっさと渡りにかかってんだ! そいつは洒落じゃ済まないんだぞ!」
 ものっそい驚いた衣は、鉄骨の端まで走り寄る。
「グラハム!」
「衣、君はそこで待っているんだ。何、すぐに戻るから心配するな」
「し、しかし! 余りに軽佻浮薄過ぎぬか!?」
「並みの人間ならばそうだろう。だが! 私は誰か! そう! グラハム・エーカーにとってと前置きがあるのなら! この程度の困難、フラッグを用いるまでもない雑事であると断言出来よう!」
 恐る恐るだが、澪は扉の中に入り、光秀に向け声をかける。
「あ、危ないですよ。そ、そそそその、えっと、落ちたりしたら……落ちたり……」
 自分で想像して怖くなったらしい。ビルの端から下を見る事すら出来ない澪だ、想像するだけで足の震えが止まらなくなっている。
「ふふふっ、澪さんはお優しいですねぇ。まあ見ていてくださ……いえ、見るのも恐ろしい御様子ですし、扉の内でゆっくりしていて下さい」
「ででででもっ」
「こんな矢も弾も飛んで来ない場所で、倒れる私ではありませんよ」
 心配顔の面々を他所に、光秀もグラハムもすいすいと鉄骨を渡っていく。
「光秀、君も軍属か?」
 下の名前で呼ばれた事に少し驚くも、光秀は笑顔で返す。
「ええ。やはり戦場を知らぬ者の仕掛けでしょうね、これは。修羅場を演出しているようですが、遊戯の域を出ていませんよ」
「まったくだ。しかし光秀、君も随分と戦場が似合いそうだな」
「お嫌いですか? 戦場」
「いや、好ましいと言ったのさ。かの地こそ、男子の本懐、その巣窟。死を賭してこそ、命は輝きを増すものだ」
「素晴らしい、実に素晴らしいですよ……グラハム、そう呼んでも?」
「構わんよ、それが私の名だ。さて、後ろで待つ者をこれ以上やきもきさせるのも何だ。そろそろ本気で行くか?」
「そうですね。はらはらが背なより感じられて、何やらくすぐったい気がする現状も捨てがたいですが、正直、このままでは退屈に過ぎます」
 二人は、鉄骨の上を猛然と走り出した。
 背後より悲鳴やら絶叫やらが聞こえるのが、何とも愉快で二人は笑い出してしまう。
「はははっ! 早いな光秀! 私が追いつけないなどと、一体どんな鍛え方をしてきたんだ!」
「ふふっ、ではこういうのは如何で?」
 後ろで澪が気を失い、残る一同蒼白になってしまったのは、光秀が鉄骨の上を手をつかず前転側転後転を繰り返しながら渡り出したせいだ。
『何してんだああああああああああああ!』
 皆の声がハモる中、光秀の芸当に大笑いしているグラハムと、くるくる回っている光秀は、あっという間に鉄骨を渡り、渡りきった先にある最後の罠、扉を開けた瞬間の気圧差からの突風も、くるりと後ろに宙返りする事で何なくクリアしてしまう。
 常在戦場メンタルを装備した軍人の恐ろしさを、これでもかと思い知らされる一行であった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板