今は昔、 (43レス)
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36: 忍法帖【Lv=0,作成中..】 2016/08/28(日)14:59 ID:E67(1/8) AAS
 このことがあつてからも、翁はやはり竹を取つて、その日/\を送つてゐましたが、奇妙なことには、多くの竹を切るうちに節と節との間に、黄金がはひつてゐる竹を見つけることが度々ありました。
それで翁の家は次第に裕福になりました。
 ところで、竹の中から出た子は、育て方がよかつたと見えて、ずん/\大きくなつて、三月ばかりたつうちに一人前の人になりました。
そこで少女にふさはしい髮飾りや衣裳をさせましたが、大事の子ですから、家の奧にかこつて外へは少しも出さずに、いよ/\心を入れて養ひました。
大きくなるにしたがつて少女の顏かたちはます/\麗しくなり、とてもこの世界にないくらゐなばかりか、家の中が隅から隅まで光り輝きました。
翁にはこの子を見るのが何よりの藥で、また何よりの慰みでした。
その間に相變らず竹を取つては、黄金を手に入れましたので、遂には大した身代になつて、家屋敷も大きく構へ、召し使ひなどもたくさん置いて、世間からも敬はれるようになりました。
さて、これまでつい少女の名をつけることを忘れてゐましたが、もう大きくなつて名のないのも變だと氣づいて、いゝ名づけ親を頼んで名をつけて貰ひました。
その名は嫋竹の赫映姫といふのでした。
その頃の習慣にしたがつて、三日の間、大宴會を開いて、近所の人たちや、その他、多くの男女をよんで祝ひました。
37: 忍法帖【Lv=1,グリズリー,Apf】 2016/08/28(日)15:09 ID:E67(2/8) AAS
 この美しい少女の評判が高くなつたので、世間の男たちは妻に貰ひたい、
又見るだけでも見ておきたいと思つて、家の近くに來て、すき間のようなところから覗かうとしましたが、
どうしても姿を見ることが出來ません。
せめて家の人に逢つて、ものをいはうとしても、それさへ取り合つてくれぬ始末で、
人々はいよ/\氣を揉んで騷ぐのでした。
そのうちで、夜も晝もぶっ通しに家の側を離れずに、
どうにかして赫映姫に逢つて志を見せようと思ふ熱心家が五人ありました。
みな位の高い身分の尊い方で、一人は石造皇子、一人は車持皇子、
一人は右大臣阿倍御主人、一人は大納言大伴御行、一人は中納言石上麻呂でありました。
この人たちは思ひ/\に手だてをめぐらして姫を手に入れようとしましたが、
省29
38: 忍法帖【Lv=1,グリズリー,Apf】 2016/08/28(日)15:11 ID:E67(3/8) AAS
 第二番に、車持皇子は、蓬莱の玉の枝を取りに行くといひふらして船出をするにはしましたが、
實は三日目にこっそりと歸つて、かね/″\たくんで置いた通り、上手の玉職人を多く召し寄せて、
ひそかに註文に似た玉の枝を作らせて、姫のところに持つて行きました。
翁も姫もその細工の立派なのに驚いてゐますと、そこへ運わるく玉職人の親方がやつて來て、
千日あまりも骨折つて作つたのに、まだ細工賃を下さるといふ御沙汰がないと、苦情を持ち込みましたので、
まやかしものといふことがわかつて、これも忽ち突っ返され、皇子は大恥をかいて引きさがりました。
39: 忍法帖【Lv=1,グリズリー,Apf】 2016/08/28(日)15:14 ID:E67(4/8) AAS
 第三番の阿倍の右大臣は財産家でしたから、あまり惡ごすくは巧まず、ちょうど、その年に日本に來た唐船に誂へて火鼠の皮衣といふ物を買つて來るように頼みました。
やがて、その商人は、やう/\のことで元は天竺にあつたのを求めたといふ手紙を添へて、皮衣らしいものを送り、前に預つた代金の不足を請求して來ました。
大臣は喜んで品物を見ると、皮衣は紺青色で毛のさきは黄金色をしてゐます。
これならば姫の氣に入るに違ひない、きっと自分は姫のお婿さんになれるだらうなどゝ考へて、大めかしにめかし込んで出かけました。
姫も一時は本物かと思つて内々心配しましたが、火に燒けないはずだから、試して見ようといふので、火をつけさせて見ると、一たまりもなくめら/\と燒けました。
そこで右大臣もすっかり當てが外れました。
40: 忍法帖【Lv=1,グリズリー,Apf】 2016/08/28(日)15:16 ID:E67(5/8) AAS
 四番めの大伴の大納言は、家來どもを集めて嚴命を下し、必ず龍の首の玉を取つて來いといつて、邸内にある絹、綿、錢のありたけを出して路用にさせました。
ところが家來たちは主人の愚なことを謗り、玉を取りに行くふりをして、めい/\の勝手な方へ出かけたり、自分の家に引き籠つたりしてゐました。
右大臣は待ちかねて、自分でも遠い海に漕ぎ出して、龍を見つけ次第矢先にかけて射落さうと思つてゐるうちに、九州の方へ吹き流されて、烈しい雷雨に打たれ、その後、明石の濱に吹き返され、波風に揉まれて死人のようになつて磯端に倒れてゐました。
やう/\のこと、國の役人の世話で手輿に乘せられて家に着きました。
そこへ家來どもが駈けつけて、お見舞ひを申し上げると、大納言は杏のように赤くなつた眼を開いて、
「龍は雷のようなものと見えた。あれを殺しでもしたら、この方の命はあるまい。お前たちはよく龍を捕らずに來た。うい奴どもぢや」
 とおほめになつて、うちに少々殘つてゐた物を褒美に取らせました。
もちろん姫の難題には怖じ氣を振ひ、「赫映姫の大がたりめ」と叫んで、またと近寄らうともしませんでした。
41: 忍法帖【Lv=1,グリズリー,Apf】 2016/08/28(日)15:22 ID:E67(6/8) AAS
 五番めの石上の中納言は燕の子安貝を獲るのに苦心して、いろ/\と人に相談して見た後、ある下役の男の勸めにつくことにしました。
そこで、自分で籠に乘つて、綱で高い屋の棟にひきあげさせて、燕が卵を産むところをさぐるうちに、ふと平たい物をつかみあてたので、嬉しがつて籠を降す合圖をしたところが、下にゐた人が綱をひきそこなつて、綱がぷっつりと切れて、運わるくも下にあつた鼎の上に落ちて眼を廻しました。
水を飮ませられて漸く正氣になつた時、
「腰は痛むが子安貝は取つたぞ。それ見てくれ」
 といひました。
皆がそれを見ると、子安貝ではなくて燕の古糞でありました。
中納言はそれきり腰も立たず、氣病みも加はつて死んでしまひました。五人のうちであまりものいりもしなかつた代りに、智慧のないざまをして、一番慘い目を見たのがこの人です。
 そのうちに、赫映姫が並ぶものゝないほど美しいといふ噂を、時の帝がお聞きになつて、一人の女官に、
「姫の姿がどのようであるか見て參れ」
 と仰せられました。
省33
42: 忍法帖【Lv=1,グリズリー,Apf】 2016/08/28(日)15:28 ID:E67(7/8) AAS
さうかうするうちに三年ばかりたちました。
その年の春先から、赫映姫は、どうしたわけだか、月のよい晩になると、その月を眺めて悲しむようになりました。
それがだん/\つのつて、七月の十五夜などには泣いてばかりゐました。
翁たちが心配して、月を見ることを止めるようにと諭しましたけれども、
「月を見ずにはゐられませぬ」
 といつて、やはり月の出る時分になると、わざ/\縁先などへ出て歎きます。
翁にはそれが不思議でもあり、心がゝりでもありますので、ある時、そのわけを聞きますと、
「今までに、度々お話しようと思ひましたが、御心配をかけるのもどうかと思つて、打ち明けることが出來ませんでした。
實を申しますと、私はこの國の人間ではありません。
月の都の者でございます。
省23
43: 忍法帖【Lv=1,グリズリー,Apf】 2016/08/28(日)15:31 ID:E67(8/8) AAS
 そのうちに夜もなかばになつたと思ふと、家のあたりが俄にあかるくなつて、滿月の十そう倍ぐらゐの光で、人々の毛孔さへ見えるほどであります。
その時、空から雲に乘つた人々が降りて來て、地面から五尺ばかりの空中に、ずらりと立ち列びました。
「それ來たっ」と、武士たちが得物をとつて立ち向はうとすると、誰もかれも物に魅はれたように戰ふ氣もなくなり、力も出ず、たゞ、ぼんやりとして目をぱち/\させてゐるばかりであります。
そこへ月の人々は空を飛ぶ車を一つ持つて來ました。
その中から頭らしい一人が翁を呼び出して、
「汝翁よ、そちは少しばかりの善いことをしたので、それを助けるために片時の間、姫を下して、たくさんの黄金を儲けさせるようにしてやつたが、今は姫の罪も消えたので迎へに來た。早く返すがよい」
 と叫びます。
翁が少し澁つてゐると、それには構はずに、
「さあ/\姫、こんなきたないところにゐるものではありません」
 といつて、例の車をさし寄せると、不思議にも堅く閉した格子も土藏も自然と開いて、姫の體はする/\と出ました。
省5
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