浦島 (28レス)
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27: ■忍法帖【Lv=1,ポイズントード,FrE】 2016/09/02(金)00:48 ID:qrs(5/6) AAS
四
浦島は海ばたに立ったまま、しばらくそこらを見まわしました。春の日がぽかぽかあたって、いちめんにかすんだ海の上に、どこからともなく、にぎやかな舟うたがきこえました。それは夢のなかで見たふるさとの浜べの景色とちっともちがったところはありませんでした。
けれどよく見ると、そこらの様子がなんとなくかわっていて、あう人もあう人も、いっこうに見知らない顔ばかりで、むこうでもみょうな顔をして、じろじろ見ながら、ことばもかけずにすまして行ってしまいます。
「おかしなこともあるものだ。
たった三年のあいだに、みんなどこかへ行ってしまうはずはない。
まあ、なんでも早くうちへ行ってみよう」
こうひとりごとをいいながら、浦島はじぶんの家の方角へあるき出しました。
ところが、そことおもうあたりには草やあしがぼうぼうとしげって、家なぞはかげもかたちもありません。
むかし家の立っていたらしいあとさえものこってはいませんでした。
いったい、おとうさんやおかあさんはどうなったのでしょうか。
浦島は、
「ふしぎだ。ふしぎだ」
とくり返しながら、きつねにつままれたような、きょとんとした顔をしていました。
するとそこへ、よぼよぼのおばあさんがひとり、つえにすがってやってきました。浦島はさっそく、
「もしもし、おばあさん、浦島太郎のうちはどこでしょう」
と、声をかけますと、おばあさんはけげんそうに、しょぼしょぼした目で、浦島の顔をながめながら、
「へえ、浦島太郎。そんな人はきいたことがありませんよ」
といいました。浦島はやっきとなって、
「そんなはずはありません。
たしかにこのへんに住んでいたのです」
といいました。
そういわれて、おばあさんは、
「はてね」と、首をかしげながら、つえでせいのびしてしばらくかんがえこんでいましたが、
やがてぽんとひざをたたいて、
「ああ、そうそう、浦島太郎さんというと、あれはもう三百年も前の人ですよ。
なんでも、わたしが子どものじぶんきいた話に、
むかし、むかし、この水の江の浜に、浦島太郎という人があって、
ある日、舟にのってつりに出たまま、帰ってこなくなりました。
たぶんりゅう宮へでも行ったのだろうということです。
なにしろ大昔の話だからね」
こういって、また腰をかがめて、よぼよぼあるいて行ってしまいました。
浦島はびっくりしてしまいました。
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