浦島 (28レス)
1-

25: 忍法帖【Lv=1,ポイズントード,FrE】 2016/09/02(金)00:33 ID:qrs(3/6) AAS
 二

 まもなく、かめはまた出てきて、
「さあ、こちらへ」
と、浦島を御殿のなかへ案内しました。
たいや、ひらめやかれいや、いろいろのおさかなが、ものめずらしそうな目で見ているなかをとおって、
はいって行きますと、
乙姫さまがおおぜいの腰元をつれて、お迎えに出てきました。
やがて乙姫さまについて、浦島はずんずん奥へとおって行きました。めのうの天井にさんごの柱、廊下にはるりがしきつめてありました。こわごわその上をあるいて行きますと、どこからともなくいいにおいがして、たのしい楽の音がきこえてきました。
 やがて、水晶の壁に、いろいろの宝石をちりばめた大広間にとおりますと、
「浦島さん、ようこそおいでくださいました。
 先日はかめのいのちをお助けくださいまして、まことにありがとうございます。
 なんにもおもてなしはございませんが、どうぞゆっくりおあそびくださいまし」
と、乙姫さまはいって、ていねいにおじぎしました。
やがて、たいをかしらに、かつおだの、ふぐだの、えびだの、
たこだの、大小いろいろのおさかなが、
めずらしいごちそうを山とはこんできて、にぎやかなお酒盛がはじまりました。
きれいな腰元たちは、歌をうたったり踊りをおどったりしました。
浦島はただもう夢のなかで夢を見ているようでした。
 ごちそうがすむと、浦島はまた乙姫さまの案内で、
御殿のなかをのこらず見せてもらいました。
どのおへやも、どのおへやも、めずらしい宝石でかざり立ててありますから
そのうつくしさは、とても口やことばではいえないくらいでした。
ひととおり見てしまうと、乙姫さまは、
「こんどは四季のけしきをお目にかけましょう」
といって、まず、東の戸をおあけになりました。
そこは春のけしきで、いちめん、ぼうっとかすんだなかに、
さくらの花が、うつくしい絵のように咲き乱れていました。
青青としたやなぎの枝が風になびいて、
そのなかで小鳥がないたり、ちょうちょうが舞ったりしていました。
 次に、南の戸をおあけになりました。
そこは夏のけしきで、垣根には白いうの花が咲いて、お庭の木の青葉のなかでは、
せみやひぐらしがないていました。
お池には赤と白のはすの花が咲いて、その葉の上には、水晶の珠のように露がたまっていました。
お池のふちには、きれいなさざ波が立って、おしどりやかもがうかんでいました。
 次に西の戸をおあけになりました。
そこは秋のけしきで花壇のなかには、黄ぎく、白ぎくが咲き乱れて、
ぷんといいかおりを立てました。
むこうを見ると、かっともえ立つようなもみじの林の奥に、白い霧がたちこめていて、
しかのなく声がかなしくきこえました。
 いちばんおしまいに、北の戸をおあけになりました。
そこは冬のけしきで、野には散りのこった枯葉の上に、霜がきらきら光っていました。
山から谷にかけて、雪がまっ白に降り埋んだなかから、柴をたくけむりがほそぼそとあがっていました。
 浦島は何を見ても、おどろきあきれて、目ばかり見はっていました。
そのうちだんだんぼうっとしてきて、お酒に酔った人のようになって、
何もかもわすれてしまいました。
1-
あと 3 レスあります
スレ情報 赤レス抽出 画像レス抽出 歴の未読スレ AAサムネイル

ぬこの手 ぬこTOP 0.163s*