[過去ログ] 【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】 (1002レス)
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153: (東京都) 2019/03/03(日)23:14 ID:2ctLOhTk0(1/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その1)
カランコロン。
「あら、いらっしゃい」
お店のドアのベルが鳴り、スナック眞緒の店内に眞緒ママの甲高い声が鳴り響く。
入って来た客を見て、愛萌は虫唾が走る。
酔っぱらい客もツケを支払わない客たしかに嫌だが、なんとか許容はできる。
しかし、その客だけは愛萌には受け入れられない。
入って来るなり、「うぃーす、底辺ども、元気かあ」とその客は傍若無人の言動をする。
「なんだ、イケオヤ、『こんな店、もう来ない』って言ってたくせに、また、来たのか」とすでに店内にいた客の一人が応える。
美大生が愛萌のそばまで来て、小声で愛萌に聞く。
省1
154: (東京都) 2019/03/03(日)23:15 ID:2ctLOhTk0(2/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その2)
目を皿のようにして愛萌は驚く。
「ち、ち、ちょっと待ってください、そんな噂、どこから出たんですか?」
「噂も何もイケオヤ本人がそう言ってたよ」
「冗談じゃないですよ、そんなことあり得えませんよ」
「そうか、そうか、安心した」
「安心したって?私が否定する今の今まで信じていたんですか?」
「いやね、あいつがあまりにも自信もって変なこと言うからさ」
「変なことって何ですか?まさか私のことで他にも何か言ってんですか?」
「う〜〜ん、知らないほうがいいよ」
省3
155: (東京都) 2019/03/03(日)23:15 ID:2ctLOhTk0(3/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その3)
テーブル席の一つを指さして、美大生は言う。
「『お前ら、オナニーするとき、愛萌を勝手にオカズにするなよ。愛萌は俺の姪っ子だから、オナペットにするには俺の許可が必要だ』って言ってたよ。
ちょうどいまアイツが飲んでいるあの席で」
「な、な、なんてこと言うんですか!」
「それで、『許可をくれ』と言ったら、どう返すかということを普通思うよね」
「普通、思いませんよ!」
「で、そう言ったら、『俺のツイッターをフォローしろ。それを通じて許可を与える』と答えたね」
「・・・・・・」
「『今フォロワーが9998人いる。お前ら2人が加われば、ちょうど1万人になる』という自慢もしていた」
省6
156: (東京都) 2019/03/03(日)23:16 ID:2ctLOhTk0(4/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その4)
二人のやり取りを聞いていた別の客が口を開く。
「あの人、ここの常連さんっすが、前に会ったことあるんっスが」
「あれ?あんまり見ない顔ですね。このお店初めてですか」と愛萌が訊く。
「ええ、そうっス」
「あの人とどこで会ったんですか」
「コンビニでバイトしているときっスね。全く面識もないのに、いきなり『お前、大学どこだ?』と訊かれたんっスよ。
『慶応ですが…』と答えたら、『学部は?』と言ってきたんで、『総合政策学部です』と答えたら、
『慶応も法学部なら認めてやってもいいが。SFCなんて限りなくFランクに限りなく近い底辺だな』と言ってきたんっスよね。
そこまで人を見下げるということはよっぽどいい大学出てるんっスかね?」
省8
157: (東京都) 2019/03/03(日)23:18 ID:2ctLOhTk0(5/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その5)
美大生はおかしくておかしくてたまらない様子だ。
「ほかにイケオヤのエピソードはない?」と笑いながら慶応ボーイに尋ねる。
「やっすい発泡酒と100円ちょいくらいのつまみでイートインで3時間くらい夜は粘っているのをちょくちょく見かけましたね。」
「『夜は』ということは昼間も来ていたことはあるんですか?」と愛萌が訊く。
「ええ、プリンを食べていたときのことはよく覚えてるっスね」
「え?あんな歳の男の人がプリンなんて食べるんですか。しかもあんな誰からも丸見えのところで!」
「それで、突然、『このプリンにはコショーが入っているぞ。店長を呼べ』と怒鳴って、大騒ぎしたんっスね」
「おお、それからどうなった?」と美大生は先を聞きたい様子だ。
「店長が出て来て、『それはバニラビーンズです』と言ったら、一瞬は黙りこくりました」
省5
158: (東京都) 2019/03/03(日)23:18 ID:2ctLOhTk0(6/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その6)
イケオヤが座っているテーブルでは他の客がイケオヤをからかっている。
「おい、イケオヤ、100万のアルマーニのスーツだとか600万円するロレックスの腕時計とかを持っていると言ってるくせに、
着用したことなんか一度も見たことねーぞ。だいたいお前が着けているその腕時計は100均で売ってるやつだろ」
「当たり前だ。逆ドレスコードというのがあるんだよ。こんな場末のスナックに来るときには貧乏くさい格好でやって来るのが礼儀っつうもんだ」
「はい、はい、お前の言い訳はいつも同じだな。ったく、お前の話に素面で付き合うのは無理だから、酒がなくなるのが早いな。
お〜〜い、イケオヤの姪っ子の愛萌チャン、水割りつくってくれ」
「姪っ子」という言葉にはらわたが煮えくり返るが、愛萌は冷静を装ってイケオヤに尋ねる。
「私があなたの姪というのはどういうことなんでしょうか?」(続く)
159: (東京都) 2019/03/03(日)23:19 ID:2ctLOhTk0(7/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その7)
「嬉しいだろ。俺と同じ高貴な血が流れているんだぞ。
さる高貴な血筋のご落胤かもしれないっていう希望が湧いてきただろ」
「いや、高貴だとか何とかだとかはどうでもいいです。私があなたの姪だという証拠を挙げてくださいって言ってるんです!」
「それな、俺のツイッターをフォローしろ。そしたら、そこからその真実を教えてやる」
「なんで、あなたのフォローなんかしなくちゃいけないんですか、嫌ですよ」
「どうしてだ?」
まともに相手にするのも馬鹿らしいと考え直して、愛萌は適当に煙に巻く。
「私は、私に100万円をくれた人の中から抽選で100名様だけをフォローすることにしていますので」
「ヒューッヒュー、いいぞ、いいぞ、愛萌チャン」とイケオヤと同席している客がはやし立てる。
省1
160: (東京都) 2019/03/03(日)23:20 ID:2ctLOhTk0(8/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その8)
「眞緒ママ、あの人、出禁にできないんですか?」と愛萌が訊く。
「まあ、まあ、いいじゃない、みんな楽しんでいるんだから」
見たくもないと思いながらも、どうしてもその方向に愛萌の目は向く。
「だからさ、『メリーポピンズ』なんて映画、屁のようなもんだ。
ああいう映画を観に行くやつなって、馬鹿なディッレタントなんだよ。
お前らの頭じゃキューリックなんて観たこともないだろ。キューリックこそが唯一無二の史上最高の映画監督だ」
さっきの慶応ボーイがイケオヤの傍まで行く。
「誰だ、お前?」とイケオヤが言う。
「覚えていないっスか?以前、あなたに学歴を聞かれたモンっスよ。
省2
161: (東京都) 2019/03/03(日)23:21 ID:2ctLOhTk0(9/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その9)
「キューリックのベストテンを教えてくれませんっスかね」と慶応ボーイはイケオヤに尋ねる。
「えーっと、『博士の異常な愛情』だろ。それに『時計仕掛けのオレンジ』だろ。あとは『2001年宇宙の旅』」
「ベストテンと言ったんっスが、後、7つお願いします」
「なんだ、お前は、その挑戦的な態度は!」
「いや、だって、『唯一無二の史上最高』って言ってたんじゃないっスか。
そこまで思い入れが強いのなら、殆ど全てを観ているんっスよね。10個くらい容易く挙げられるでしょ」
「俺は、なあ、字幕付きの映画は観ない主義だから。邦題はその3」つ以外は覚えていない」
「英語の原タイトルでもいいっスよ」
「・・・・・」
省2
162: (東京都) 2019/03/03(日)23:21 ID:2ctLOhTk0(10/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その10)
「うるさい、黙れ、俺は一流の外資で働いていて、明日、取引があるんだ。
ネイティブの英語に慣れている俺の耳が、お前の下手くそな発音で狂って、数億ドルの取引に失敗したら、どう責任取るんだ!」
「あなたのさっきの『ディッレタント』という発音がネイティブとも思えないっスね。
それに『ディッレタント』という意味は分かっています?『専門家ではないが芸術を愛する人』という意味っスよ。
『メリーポピンズ』の客層はどう見てもエンタメを求めているだけで、ディッレタントからはかなりずれているっスね。
『馬鹿なディッレタント』というのはキューブリックの映画を金科玉条のように礼賛するような人のことを言うんっスよ」
「何だと、お前、キューブリックがたいしたことないと言うのか!」
「いえ、いえ、優れた映画監督の一人であるとは思っているっスよ。けど唯一無二じゃない。
でも、キューブリックヲタには多いんっスよね。その名前さえ出しておけば、マウンティングできると信じているのが。
省2
163: (東京都) 2019/03/03(日)23:22 ID:2ctLOhTk0(11/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その11)
様子を見ていた美大生は自分の鞄から紙とペンを取り出して、慶応ボーイに受け渡そうとするときに尋ねる。
「dead beatってどういい意味なのかな?」
「スラングなんスけど、人間の屑という意味っス」
愛萌が紙とペンを取り上げる。
「お願いだから止めてね。あの人を言葉でフルボッコにして黙らせるつもりなんだろうけど、そりゃ無理よ」
「え!?負ける気が全くしないんっスけど」
「愛萌チャン、止めるなよ、これから面白くなりそうなんだし」と美大生が言う。
「たしかに負けはしないと思いますが、勝ちもしないですね」
「どういうことっスか?」
省3
164: (東京都) 2019/03/03(日)23:23 ID:2ctLOhTk0(12/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その12)
「そんな面白そうなこともあったのか、その現場にいたかったな。愛萌チャン、続き、続き」と美大生は急かす。
「で、サラリーマンの人は嘲笑しながらそれに応戦しましたね。
『A、B、Cというのは牛一頭から獲れる肉の量で、ようは歩留まりのことというのも知らないのか。
飲食店側では重要だが、客にとっては全く関係ない。
5、4、3、2、1というのはサシの油の量を基本的には表している。
5まで行くと油の量が多すぎて味が台無しになるということで使わない高級店も今は多い。
色や光沢なんかも関係するが、あくまで見た目はどうかということで飲食店側にはアピールポイントになるが、味には関係ない。
A5というのを飲食店側が重宝する間に、いつの間にか直接には関係ない客もその価値観に乗せられているだけ。
西麻布の焼肉高級店に足繁く通うというのもどうせ嘘なんだろうが、仮に本当だとしてもお前はただの馬鹿。
省3
165: (東京都) 2019/03/03(日)23:24 ID:2ctLOhTk0(13/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その13)
「たぶん何も言い返せないだろうなと思って、見てはいけないものを見るようにあの人の顔を私はそっと見ました。
ところが、何の恥じる様子もなく、
『俺が乗っている車はアストンマーチンだぞ、お前のような底辺には一生手が届かんだろ』と唐突に言い始めましたね」
「なんっスか?それ?」
「イケオヤがよく使う手だね、自分に都合が悪くなったら、今までの話の流れを無視して関係ないことを突然言い始めるだな、これが。
羞恥心というものが完全に欠落しているイケオヤの必殺技だな。
その後、リーマンはどう返したの」と美大生が言う。
「一瞬、きょとんとした顔をしましたが、気を取り直して、『アストンマーチンの車種は?価格は?年代は?』とまくし立てました。
そしたら、また、話の流れをぶった切って、関係ないことをあの人はは話し始めました。その後もその繰り返しです、何度も」
省1
166: (東京都) 2019/03/03(日)23:25 ID:2ctLOhTk0(14/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その14)
「サラリーマンの人も『お前のような奴は徹底的にぶちのめさないと気が済まんから、朝までやるぞ』と最初は言ってたんですけど、
眞緒ママや私がもう閉店したいという気持ちを察知して、あきらめて席を立ってお店から出て行きました」
美大生は笑い転げながら言う。
「その後のイケオヤの言動を当ててやろうか。『逃げた』と勝利宣言したんじゃない?」
「当たりです」
「なるほど、止められた訳がわかったっス。俺も今日はもう帰りますね」
「うん、うん、それがいいですよ」と愛萌は慶応ボーイを見送る。(続く)
167: (東京都) 2019/03/03(日)23:25 ID:2ctLOhTk0(15/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その15)
イケオヤが奇声を発する。
「おい、さっきの奴はどこ行ったんだ」
「お帰りになられましたけど」と愛萌が答える。
「そうか、そうか、俺に怖気づいて逃げていったんだな」とイケオヤは満足そうだ。
「それは良かったですね」と愛萌が無表情で言う。
「馬鹿を一匹で期待したので、今日は俺も帰るとするか。では、底辺ども、アディオス!」と言って、イケオヤは店を出て行く。
愛萌はほっとする。
しかし、「また、いらしてね」という眞緒ママの言葉を聞き、自分の耳を疑う。
すぐその後に、「あら、いらっしゃい」の眞緒ママの甲高い声が鳴り響く。
省2
168: (東京都) 2019/03/03(日)23:26 ID:2ctLOhTk0(16/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その16)
また面倒なことになりそうだと思って愛萌はそっと離れようとするが、呼び止められる。
「おい、オメー、ここをさっき出て行ったのはイケオヤじゃねえのか?」
「え?あの人を知っているんですか?」と愛萌が驚く。
「知ってるも何もアイツと同じところに住んでいるよ」
「たしか南青山の高級マンションでしたよね」と美大生が皮肉交じりに言う。
「馬鹿言え、そんなことあるか。自慢じゃないけど、風呂なし便所と流しが共同の築50年の木造アパートの四畳半だ。
まあ、済めば都というけどな、ガッハッハッハ」(続く)
169: (東京都) 2019/03/03(日)23:27 ID:2ctLOhTk0(17/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その17)
イケオヤが出て行ってほっとしたのか、愛萌にどっと疲れがやって来る。
「どうしたんだ?オメー、辛気臭い顔しやがって」
「愛萌チャンはイケオヤが大嫌いなんだ」と美大生が代わりに答える。
「まあ、そう言うなって。アイツにだって、優しく良識的なところもあるんだぜ」
「え?そうなの?」と美大生が興味津々で尋ねる。
「朝早いときで住んでいるアパートの前だった。アイツが彼女と別れる現場に出くわした。
泣きながら、何度も、『ゴメンね、ゴメンね』と言ってた」
「え?あんな人に彼女なんているんですか?しかも、そういう状況ということはあの人のほうが振ったんですか?」と愛萌は驚く。
「まあ、人から捨てられた彼女を拾って自分のものにしたんだけどな」
省2
170: (東京都) 2019/03/03(日)23:28 ID:2ctLOhTk0(18/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その18)
話が全く見えず、愛萌はきょとんとしている。
しばし、考え込んでいた美大生が、突然、大声で笑い出しながら言う。
「なるほど、なるほど、その“彼女”というのは『愛のお人形』ということか!」
「うひゃ、うひゃ、『愛のお人形』か。そりゃ、またオツな言い回しだな」
愛萌には二人のやり取りが何のことか分からない。
美大生は腹がよじれるほど笑っていて、かろうじて声を振り絞る。
「でも、なんで、その“彼女”が他の人から捨てられたというのが分かった?」
「そりゃ、まあ、オメー、あれよ、拾ったのも同じ場所だったんだな。
でも、俺は良識がないから、生ゴミの日だったんだな」
省3
171: (東京都) 2019/03/03(日)23:28 ID:2ctLOhTk0(19/19) AAS
スナック眞緒物語♯5(その19)
二人から離れ、眞緒ママのところまで行き、愛萌は抗議する。
「なんで、さっき、あの人の帰り際に、『また、いらしてね』なんて言ったんですか?」
「ここは誰でも受け入れるスナックよ。お客様は大切よ」
「でも、あの人、自分の姪だと私のことを吹聴してるんですよ!」
「そんなに気にすることかしら。誰も信じちゃいないわ」
「あの人が来るとお店の雰囲気が悪くなりません?」
「楽しんでる人もいるじゃない」
「楽しんでる?あの人を馬鹿にして嗤っているだけですよ」
「それが楽しんでるってことじゃない」
省12
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