[過去ログ] 【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】 (1002レス)
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36: (空) 2019/01/27(日)00:54 ID:J/QB53Qzx(1) AAS
結構好き
37
(1): (東京都) 2019/01/27(日)23:08 ID:9Phc8t0O0(1/4) AAS
「スナック真緒」は休載して、別のタイトルのものを始めます。
一日に2回程度の投稿で、ゆっくりと進行することになると思います。
「スナック真緒」の第三弾はそれが終わった後で再開します。
38: (東京都) 2019/01/27(日)23:10 ID:9Phc8t0O0(2/4) AAS
エル・エステ(その1)
「女の子だ」と母のお腹をさすりながら父は予言しました。
「芽が出て実が成るという願いを込めて、芽実というのはどうでしょうか?」と母が言うと、
「柿崎芽実か、いい名前だ」と父は仕合せそうに応えました。
それが私の最も古い記憶ですが、母胎の中にいる私がその様子を見られるわけがないので、もちろん刷り込みによるものでしょう。
父はフラワーアーティストでした。
私の生家には屋根裏部屋があり、父は誰も入れず、何か秘密めいたことをしていました。
その疑問を母に尋ねると、誰かを入れると霊力が逃げていき、仕事がはかどらなくなるからだと答えました。
母はいつも一緒に家の中にいて読み書きを教えてくれましたが、不思議と母の記憶はあまりありません。
父の素性は謎のところがあり、過去も知りませんでした。
省1
39: (東京都) 2019/01/27(日)23:12 ID:9Phc8t0O0(3/4) AAS
エル・エステ(その2)
長野県の小さな盆地に私の生家はありました。
四方の山の稜線が世界の限界を知らしめて、小学校の低学年くらいまではその外に世界があることを全く疑わなかったのです。
大きなイヌワシになって空を飛ぶという夢をよく見ました。
山の斜面にぶつかって上昇する風を受けて、羽ばたくことなくぐんぐん舞いあがってあっという間に空高くに昇る。
段々畑は柔らかい緑の絨毯を敷いた階段のようでした。
太陽の光を浴びて輝く池はコンパクトの鑑のようでした。
豆粒ほどになった私の家が眼下に見え、ああいつも私はあそこに住んでいるんだなあと思いました。
イヌワシになれるという力を得た私は喜びに溢れ、どこでも行けるし何でも見渡せると思ったのです。
でも、盆地を囲む山の稜線の外には世界はなく、その外に行こうということを考えたことはありませんでした。(続く)
40: (東京都) 2019/01/27(日)23:15 ID:9Phc8t0O0(4/4) AAS
エル・エステ(その3)
でも、閉じられた世界に住んでいたことで無意識のうちに学べたこともいろいろあります。
山の地形が目印となって日の入りや日の出の位置をはっきりと頭に刻み込むことができ、その位置が季節で違うのを学習しました。
日の出入りの位置が夏至では北にずれ、春分や秋分では真東や真西となり、冬至では南にずれる。
太陽の一日の軌道は半円のリング状となり、その半円リングは地面と垂直ではなく南側に倒れているというのも自然と覚えました。
だから、日の出入りの位置との関係で夏は日が長く冬は日が短くなるということは理解していました。
私の家の庭には一本だけ大きな木があって、年間を通してその木の影を観察したものです。
影が夏は短く冬は長くなるということから、太陽は夏が高く冬が低くなるというのも無意識に体得していました。
また、その木の樹皮に触れ、その下の脈動を感じることで、季節の移り変わりを予感しました。(続く)
41: (庭) 2019/01/28(月)02:14 ID:lSkrlDaLa(1) AAS
>>37
期待していたから残念だけど気長に待ちます
新作期待してます
42: (東京都) 2019/01/28(月)22:43 ID:+KySE6DR0(1/3) AAS
いずれは書くことがなくなって、このスレはフェードアウトするでしょうが。
先細りを避けて、少しでも長く続けようとするために目先を変えるという選択をしました。
それと、あまり期待しないでくださいね、苦し紛れにかなり杜撰なものも書くことになると思うので。
43: (東京都) 2019/01/28(月)22:46 ID:+KySE6DR0(2/3) AAS
エル・エステ(その4)
小学校に入学してすぐ後のときのことです。
部屋の中で1枚の絵葉書を私は見つけました。
それは新宿駅南側のタイムズスクエアビルの写真でした。
まだ冬が残り、外は少し肌寒く空は澄み渡っていました。
庭で洗濯物を干している母の元に駆け寄り、「ねえ、これってお家なの?」と尋ねました。
「それはビルというのよ」と母は答えました。
「人が住んでるの?」
「住んでいるものもあるし、その中でお仕事をしていることもあるの」
「なんでこんなに高いの?」
省5
44: (東京都) 2019/01/28(月)22:48 ID:+KySE6DR0(3/3) AAS
エル・エステ(その5)
それまでは盆地の中が全世界で、それより外に世界は存在していませんでした。
母から教えてもらったときに、初めてその外にも世界が出現したのです。
私は東京への興味がかき立てられ、父の過去のイメージがそこに重なりました。
その夜、若い頃の父の写真の載っているアルバムを寝床に持っていき、飽きるほど見ながら眠りにつきました。
イヌワシになって飛びまわる夢をまた見ました。
イヌワシの私が目をやると、東側の山の外は虚無ではなかったのです。
吸い込まれるように東の山の上を突き抜けました。
実際の距離を無視し、そのすぐ裏側が東京でした。
知らない場所に行くという恐怖は全くなく、未知の世界への好奇心で一杯でした。
省2
45: (東京都) 2019/01/29(火)22:10 ID:I8hPi+vH0NIKU(1/2) AAS
エル・エステ(その6)
私が小学一年生のときに、東京から二人のお客さんが来ました。
長野ではもう寒い11月のことでした。
母の同級生とその娘だったのです。
中学の途中で母の同級生は家族で転勤して、それ以来ずっと東京に住んでいたそうです。
娘の七五三の帯解きの儀式を自分の生まれ故郷でやりたいとのことでした。
娘の名前は優佳といいまして、同い歳だったのですぐに打ち解けました。
私と優佳は髪を結いあげてもらい、着物と帯を身につけ一人前の大人っぽい格好で神社にお参りに行きました。
着慣れない着物で少し窮屈でしたが、優佳とのおしゃべりは楽しくあっという間に時間は過ぎました。
最後の仕上げに神社の奥まった部屋で私たちは御祈祷をしてもらいました。(続く)
46
(1): (東京都) 2019/01/29(火)22:10 ID:I8hPi+vH0NIKU(2/2) AAS
エル・エステ(その7)
天井近くにある小さな擦りガラスの窓からわずかな日だけが差し込むだけで、部屋は薄暗く、奥に行くとさらに暗くなっていました。
この頃の私は片時も父のことを考えないということはありませんでしたが、
慣れない着物の違和感と同い歳の優佳が横にいるという嬉しさで父のことは忘れていました。
御祈祷が終わったときにその不在に気づきました。
「あれ?私の大切な日なのになぜパパはいないの?」と傍にいた母に抗議すると、「いるわよ」と母は答えました。
部屋の奥を見ると、暗闇の中に黒い人影が浮かび上がりました。
部屋の奥にまでわずかに届いている淡い光がかろうじて人影の上のほうにだけ当たっていました。
目を凝らすと、それは父でした。(続く)
47: 理佐ちゃんだから好きスレの人(庭) 2019/01/30(水)01:17 ID:Ve/Z1c0ya(1) AAS
>>46
ひらがなではめみたん好きだから興味持って読んでましたが
気づいたら東京都さんの文体とジワリジワリと進む物語の方に惹き付けられてます
48: (東京都) 2019/01/30(水)23:17 ID:XKLoUrlm0(1/4) AAS
柿崎は可愛いですよね。
量産型の可愛さではなく、特徴的な顔立ちなのにあれだけ可愛いというのがとてもレア。
ただ、最初期のセンターやっている頃は、そのルックスは認めつつも、そんなに惹かれてはいなかったかな。
センターを外され、骨折して、挫折を知った後で、表情に陰影と奥行きが出てきて、
ぐっと女性らしくなったような気がします。
49: (東京都) 2019/01/30(水)23:19 ID:XKLoUrlm0(2/4) AAS
お褒めの言葉、ありがとうございます。
以前は書き込み欄に直接書いていたのですが、
2019年からは書いたものをワードに保存して、最低一度は推敲しています。
その上で書き込み欄にコピペするということをやっています。
50: (東京都) 2019/01/30(水)23:21 ID:XKLoUrlm0(3/4) AAS
エル・エステ(その8)
父が存在することを私が欲したとき、暗闇の中から父が現れたのはただの偶然でしたが、世界の秘密を知ったような気になりました。
あの頃はもちろん今でもうまく言語化できないと思うのですが・・・。
私が意識を向けた人や物で私の世界は構成されています。
でも、それ以外の人や物もとうぜん存在しています。
私の生まれた盆地と同じようなもので、私の世界の果てにも稜線があります。
太陽が山の稜線から出てくるように、私が意識したときにだけ人や物は私の世界の稜線から飛び出してくるかのようです。
逆に言えば、意識しなければ、稜線から飛び出してくることはないということです。
わりと早くから一人部屋で私は寝ていたのですが、寝静まったときには、その部屋は外から隔絶されていて、
夜中に目を覚まし、何かのはずみで意図せずドアを開けたときには、外には何もないのではないかという変な妄想もよくしました。
省1
51: (東京都) 2019/01/30(水)23:22 ID:XKLoUrlm0(4/4) AAS
エル・エステ(その9)
他にも変なことをよく考えました。
私の世界に一度も飛び出してこず興味関心も抱かせない人や物は私にとっては何なのか?ということです。
それらは存在していないことと同じです。
だから客観的な存在というものが信じられないのです。
私との関連の下に働きかけてくれる人や物だけが確かな真実だと今でも思っています。
ただし、見えるものだけでなく私の想像によっても私の世界はつくられています。
空を眺めていると、天候や時間だけではなく、目には見えない存在を私は感じ取っていました。
昼に照らしてくれるてくれる太陽や夜に美しく輝く星々の規則正しい動きの現前をもって、
宇宙を計画し創造し秩序づけた神様の存在を想像していたのです。
省3
52: (東京都) 2019/01/31(木)22:33 ID:4GIjnQXs0(1/2) AAS
エル・エステ(その10)
さて、お参りが終わった後に、家では親戚や近所の方も集まっていて、信州そばやお焼きが並んだ盛大な食事会が行われました。
「コゴミはないの?優佳に食べさせてあげたい」と私が言うと、「あれは春にしか採れないの」と母は答えました。
食事会が終わった後、私の部屋で優佳と一緒に寝ました。
東京のことを優佳に尋ねました。
優佳はとても頭がよく、何でも知っていて、手際よく教えてくれました。
恵比寿ガーデンプレイスや東京タワーやレインボーブリッジの美しいイルミネーションの話が特に印象的でした。
優佳の話を聞いているうちに私の世界の中の東京がより広がりよりデコレーションされていきました。
昼間の七五三の儀式でとても疲れていたのですが、眠りたくはありませんでした。
口で確認したわけではなかったのですが、優佳もそう考えているのが伝わりました。
省1
53: (東京都) 2019/01/31(木)22:34 ID:4GIjnQXs0(2/2) AAS
エル・エステ(その11)
「ここはもう冬だね。なんで冬は寒いんだろうね」という優佳の一言で、私は上半身を起こしました。
一つは冬のほうが日照時間は短いということで、もう一つは冬の太陽のほうが高度は低いためだと得意げに話しました。
「でも、お日様が低いとどうして寒くなるの?」と優佳は尋ねました。
勉強机の上にあったペンライトとペンを取り出し、優佳の掌を上にして、直径5ミリくらいの円をペンでそこに描きました。
ペンライトの光を真上から当ててからちょっとだけ傾けました。
「ほらこれが夏のお日様。まだ光は濃ゆいでしょ」
それから大きく傾けました。
「これが冬のお日様。光が薄くなったでしょ。この円がここの盆地。盆地の大きさは変わらないけど当たる光は弱くなった」
「なるほど」と、賢い優佳は一瞬で理解しました。
省1
54: 理佐ちゃんだから好きスレの人(庭) 2019/02/01(金)01:27 ID:74PnkGQ4a(1) AAS
なんだか不気味な民間伝承をよんでるような独特の感じが癖になりますね
55: (東京都) 2019/02/01(金)22:39 ID:UjtEtK7k0(1/3) AAS
不気味さも民間伝承風も今のところは意図してはいないのですが、
「独特の感じ」とか「癖になる」かと言ってもらえるのは嬉しいですね。
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