【Wizardry】ウィザードリィのエロパロ18【総合】 (134レス)
上下前次1-新
1: 名無しさん@ピンキー [sage] 03/29(土)19:57 ID:rBCZYcAH(1/22)
ワードナ率いるヴァンパイア軍団や、ローグ、オークその他のモンスターに凌辱される女冒険者たち。
プリーステス、ウィッチ、サキュバス、獣人などの女モンスターやNPCを凌辱する冒険者たち。
ここはそんな小説を読みたい人、書きたい人のメイルシュトローム。
凌辱・強姦に限らず、だだ甘な和姦や、(警告お断りの上でなら)特殊な属性などもどうぞ。
過去スレその他は、>>2-10辺り。
115: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 08/24(日)18:48 ID:IZDKWqyN(4/6)
くノ一がもう安全だという距離まで離れるのを確認する間、俺の共謀者たちは
ヤケクソでお祭りの演技を続けていた。彼女が本当に立ち去ったことを斥候役の
マイクが宣言すると、演技じゃない本当の歓声が湧き上がった。
それからなし崩し的に飲めや騒げやの突発的な祝賀会に発展し、やっと静かに
なったのは夜も更けきる頃になってだった。なんやかんや世話を焼こうとする
ご近所をなんとか丁重に追い返して、俺はベッドの上で意識朦朧としながら
相変わらずゲロ桶を抱えてぐったりとしていた。ベランの話では毒が抜けるまで、
とにかくどこからでも良いから出し続けることが治療だそうだ。
部屋には同業者連中の手によって大量の水瓶が届けられた。
深夜に差し掛かる頃に、俺の部屋をノックする音が聞こえた。
もうお見舞いはいいよ……頭痛がひどすぎて眠れない。頼む一人にしてくれ。
二回目のノックで、俺は目をかっぴろげた。A Cotの住民がやるようなノックじゃない。
くノ一でもない。なんとか体を起こして、俺はジジイのような足取りでドアに向かった。
ドアを開けると、そこにいたのは宿屋の主人だった。
俺の思考は完全に停止した。
やばい。ばれてた。今死ぬのか俺。
「ブック」
『ぐえぇあ? ぁばい』
「呪文書を用意しろと言ったんだ。あんた、久しぶりの授業の時間だ。
冒険に行ったんだろ、なあ坊や」
忘れてた。そうだったわ。俺、迷宮に潜ったんだったわ。
『ずいまぜん、ばい、ずぐにごびょういじまず』
「声でないのか?」
『ずびばぜん、飲みずぎで』
「困るねえ、あんた。まあいい。簡易寝台の“お客様”だ」
初老の男は『お客様』という言葉をことさら強調した。
「一週間以内なら構わん。講義の場所は覚えてるか?」
『ぐえぇ、ばい』
「賭けてもいい。あんたはきっと二日酔いじゃ済まされないだろう。
木曜のこの時間に講義堂に来い。いいな」
意外なことに初老の男は笑顔を浮かべていた。
『ばい』
宿屋の主人は扉を閉めた。俺はしばらく扉の前で呆然としていた。
俺は夢遊病患者みたいにベッドに戻った。ゲロ桶をベッドの下にそっと蹴りこみ、
俺はベッドに転がった。今日は眠れるはずがないと思っていたのに、目をつぶった
途端に意識がなくなった。
* * *
116: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 08/24(日)18:50 ID:IZDKWqyN(5/6)
それから数日間、俺のまともな記憶は無い。吐いたり下痢したり、
なんだかわからないスープのようなものを飲まされたり、それだけだ。
あの薬が完全に抜けるには、それだけかかった。ベランに言わせれば、
すぐにクレンジングオイルを使わなきゃこんなものじゃ済まなかったそうだ。
頭と金玉と財布がすっからかんになって、俺はようやく本当の正気になる
ことができた。
食事は同業者たちが代わる代わる運んできた。ありがたいより情けない
気持ちでいっぱいだ。二日目になって、俺は運んでくる連中の変化に気がついた。
「マイク?」
俺は一人でスープの盆を運んできたマイクに声をかけた。マイクの手には、
もはや体の一部と化していたあのショートソードがなかった。俺は右手を持ち上げて、
左手の人差しで何度も叩いて見せた。
「おや、今頃気づいたかい旦那」
マイクは自慢げに、指を広げて振ってみせた。掌は一面青黒い痣になっているが、
マイクの右手には何も付いていない。
「あんたのゲロを始末し続けたおかげさ」
マイクは肩に斜めがけに吊るした聖布の包を指さした。間違いない。
布に包まれているがマイクの手に吸い付いていたショートソードだ。
そうか、クレンジングオイルは本来そういう使い方をするもんだった。
「ホリーは感謝していたぜ。トビーやマズルもだ。A Cot中の鑑定士がみんなが
あんたのゲロでじゃぶじゃぶ洗う姿は、変わり種の地獄みたいな絵面だったけど」
俺はその図を想像しようとしたが、脳みそが働かない。むしろ働かなくて良かった。
「ダーは心底喜んでいた。最初に気づいたのはあいつだ。ゲロまみれの手袋をはずしたらずるんって」
マイクは右手で左手の掌をつかんで勢いよく滑らせた。
「気がおかしくなったんじゃないかって心配しちまったぐらいだ。みんなあんたに感謝している」
「俺のおかげじゃない」
「そうだな。あんたは勝手にそう思ってるだけでいい」
「ぐぅ」
急に吐き気が込み上げてきた。すっかり慣れた動きで、俺はベッドの下のゲロ桶を蹴り出して、
かがんだ。マイクは去り際に「返しきれない借りができちまったよ」という言葉を残して、
部屋を出ていった。
スープが冷めきるまで、俺はゲロ桶の前に膝をついて呆然とし続けた。
* * *
117: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 08/24(日)18:52 ID:IZDKWqyN(6/6)
彼女との再開日の前夜は眠ることができなかった。
わかっている。おそらく、あの三人のうちの誰かは確実に俺を殺すためにくノ一には
真実を知らせるはずだ。あるいは本人が自らの手で俺にとどめを刺すつもりだろう。
眠れないまま、俺は横にもならずベットに腰掛けていた。
ここ数日間で体中の水分と栄養はほとんどケツとゲロから流れ出た。身体は重だるく、
脳みそは完全にガラクタに成り下がっている。俺は明け方前にうつらうつらしだした。
よりによって今眠気が来やがった。なんとか朝まで粘るために、俺は椅子に座り、
ぼんやりテーブルを眺めていた。
体を揺すられて、俺は目を覚ました。いつの間にか朝だった。
机に突っ伏したまま寝ていたらしい。横を見るとフラウドがいた。
「大丈夫ですか、先生?」
「起きなさい、お寝坊さん。朝食の時間よ」
正面にはくノ一がいる。二人とも笑顔だ。
あれ、なんだこれ、夢?
走馬灯って実際に起ったことだけじゃなくて都合の良い妄想も見ることができんの?
ガシャンという音とともに俺を乗せたまま椅子が引かれた。のけぞった俺の両肩に
ずっしりした何かが乗った。
恐怖にかられて横目で見る。
Gloves of Silver、売値30000ゴールド、オーケイ。
「おはよう」
頭上から柔らかい声が振ってきた。あーそうですよねぇ、世の中そんな都合の良いこと
あるわけ無いっすよね、振り向きたくないがもう仕方がない。三人はくノ一の手を汚させず
自分の手で始末するつもりだ。
両手をなにやらちっこい手とシャイアらしき手に引っ張られ俺は椅子から引き剥がされた。
つんのめりながら、俺はテーブルに突っ伏しそうになりうっかり後ろを振り向いた。
三人ともそこにいた。
シャイアとフローレンスさんは笑顔だった。チビだけは前回見たような迷宮と同じ装備で、
フードを目深に被っているせいでわからんが。シャイアは探索用の服じゃなかったし、
妹さんも小手だけで、街を歩くような服装だ。
「ちゃんとベッドで寝ろよ。体に悪いぞ」
「外、天気いい。空気吸うの、体にとてもいい」
二人がテーブルまで来て俺に言った。にこやかで明るい声だ。
あれ? どういうこと? 俺殺されるんじゃなかったの? ひょっとして、ひょっとしてだが、
もしかすると、あの三人に飲ませた媚薬だけは効果が永続的だったのか?
え、うそぉ?! いいの? 俺生きてて良いの?!
ふと正面をみるとくノ一が俺に笑いかけている。いや、違った。妹さんの顔をみて笑っていた。
つまり、これが最終審判だったってことか。なるほど、三人を俺のところにつれてきて確かめたのか。
ハハッ、まじで今日生き延びて良いのか?
「それじゃあ酒場に行きましょう」
くノ一と妹さんが、二人がかりでテーブルに腹ばいになってる俺を起こしてくれた。
ああ、いい。ずっとこうしていたい。いやしかし、本当に大丈夫なのか?
幸せすぎてだんだん不安になってきた。
「ありがとうございます。その、着替えたいので、少しだけ一人にさせてもらえますか」
頭の整理がつかない。これよりマシな服などないが、とにかく一瞬でも一人にしてもらいたくて、
俺は言った。
「酒場でドレスコードなんて気にしちゃいないよ」
シャイアが俺の手を掴んだ。初めてのことだ。シャイアは手袋をしていなかった。
チビが俺の反対の手を握り、妹さんが俺の肩に手を優しく置いた。シャイアは鼻歌すら歌っている。
後ろからは妹さんのハミングまで聞こえてきた。まさか、本当に、信じられないことだが、
あの媚薬はやはり永続効果があるのか。
118: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 08/25(月)05:37 ID:Z3zlQbG+(1/2)
くノ一がフラウドと先に俺の部屋から出たタイミングで、俺は自分の浅はかさを思い知った。
俺は歩き出そうとしたが一歩も動けなかった。三人は俺をその場に押さえつけるために
取り囲んでいただけだった。
俺が全てを理解する前に、シャイアは俺の手の甲の肉が千切れんばかりにつねり上げ、
フローレンスさんが銀の小手で肩甲骨に穴が空きそうなぐらい肩を締め上げ、足の甲を貫通する
勢いでグリーブの鋭い踵が降ってきた。
激痛が走った。立っていられない。俺は力のかぎり叫んだ。が、音が出ない。
痛みでしゃがみたいのに妹さんが肩を引き寄せてしゃがませてくれない。
妹さんに支えられた肩から下は、壊れた操り人形みたいにぶら下がっているだけだ。
しまった、シャイアの鼻歌はブラフだ。妹さんがハミングに偽装したMONTINOを唱えていた。
「心配ない。傷あと、のこさない」
悶絶しそうな痛みがいきなり引いた。チビが入口に向かってスタスタ歩きながら
俺の方を見ずに言った。妹さんは素早く俺の肩を持ち、俺の耳に唇がふれんばかりにところで、
息を吹きかけるように呟いた。
「行くぞ。リーダーを待たせるな」
胃が溶け落ちたかもしれん。もうこの部屋から出たくない。
シャイアは俺に向かって指を立て、シーと音を出した。
「殺しゃしないよ。話があるんだ。逃げるなよ」
両脇をシャイアとフローレンスさんにがっちりと捕まえられて、俺はA Cotの廊下を歩いた。
いつも通りの陰気な雑踏が聞こえる。みんな視線を合わせないように俺を見ていた。
すれ違いざま、そっと様子をうかがった。音が出ないように拍手をしてるやつもいる。
笑って見せたたり、親指を立てるやつもいる。
そうじゃない、そうじゃないんだお前ら……助けて。
119: ここまで [sage] 08/25(月)05:44 ID:Z3zlQbG+(2/2)
SS投下する人は16レスを超えるとスレッドに書き込めなくなります
こんな長文だからかもしれんけど気を付けて
>>101
ダフネ未履修なんで力になれなくてすんません
ところで石鹸エルフについてもう少しくわしく
120: 名無しさん@ピンキー [sage] 09/07(日)21:14 ID:nUf3X3ob(1)
鑑定士の人来てたああああ!!!
ちょっと最初から読み直してくる→→→
121: 名無しさん@ピンキー [sage] 09/24(水)10:34 ID:o8Pj9BWq(1)
鑑定士の続きが読めるとは…もう諦めていたので嬉しいです
本当にありがとうございます
122: ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:04 ID:7sQEeiv4(1/12)
投下します。NGワードは鑑定士またはトリップで回避をお願いします。
123: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:08 ID:7sQEeiv4(2/12)
逃げるチャンスは皆無だった。
酒場へ連行された後、シャイアは「先に個人面談させてよ」と言い、残念なことに
くノ一は快諾した。シャイアは朝食会の席から見えない、壁一枚挟んだ向こうの席に
俺を引っ張っていった。
パーティの席から死角になった途端、シャイアは他所行きの笑顔から突進する
ゴーゴンみたいな面になって、俺を睨みつけながら「座れ」と命令した。俺は素直に従った。
俺たちが座ったのは壁付けの長机席だった。隣同士席についた途端、シャイアは
一言ずつ区切りながら、俺の肩をバシバシ叩いた。
「あやうく、みんな、死ぬとこだったんだぞ!」
「い、あ、大変申し訳ありません、本当にすみません、反省してます」
シャイアは見下したような目で俺を見つめた。
「やっぱ薬盛ったのお前か」
「え? あっ、あっ!」
やっべ。自白しちまった。
「こ、この度のことは本当にすみませ――」
「ばあーか!」
シャイアは俺の頭を叩いた。たいして痛くないがベソかきそうな声で「痛いです」と訴えた。
いやまあ俺が全面的に悪いんだけどな。
「だいたいなんで薬なんて買ったんだよ」
「酒場に売り子がいて……それで」
俺は正直に答えた。
「あれがどんだけ危ない薬かってわかってんの?」
「だ、だって、酒場の銀行相手にセールスしてたから、安全かと」
「そりゃ金持ってるのにいきなり消えても、預金者以外誰も気にしないからさ。
で、どの売り子から買ったんだよ」
俺は息も絶え絶えに、一音ずつ答えた。
「えぇひっ……ひっ、ホビットの……ひっ、頭がまだらに禿げてて……ひっ、凄い太った」
「歯が真っ黄色の中年?」
俺は頷いた。なんだ、あの禿げちび、お前の知り合いか?
シャイアが急に真顔でテーブルに身を乗り出した。俺の胸ぐらを掴んで、テーブルに
引き寄せ、鳶色の目に俺の顔がはっきり映るくらいに顔を近づけて低い声で話した。
「あんた、ホセから買ったの?」
「名前は知らないんだ」
俺は泣きそうな声で答えた。シャイアの顔色が露骨に悪くなった。
「あんた、あいつの店が何なのか知ってんの?」
かろうじて音が聞こえる音量で、俺は言った。
「あの、あ、アダルトショップ……」
シャイアは片手を離しテーブルにそっと叩きつけて、うんざりしたように首を回した。
「青線、ナンバーワンの、奴隷市」
語気を強めて、シャイアは言った。
「非認可の店だよ、あんたさぁ、わかる? 黒に限りなく近いグレーの店だぞ。違法な
ブツも取り扱ってるし、人も売ってる。歓楽街は宿屋の親父の縄張りだよ。あんたの
様子じゃ、あの鬼畜クソ野郎が宿屋の親父に袖の下いくら流してるか想像できない
だろうね。それであいつは店を城の敷地内に置けてるんだ。あの店のラインナップじゃ、
赤線にクラスチェンジは無理だろうね」
あ、あれれぇ? なんか僕が思ってたより全然危ないお店だったみたい?
え、なに、あいつ店主なの? あの中年が?
なんかやたら偉そうな丁稚だなぁくらいにしか思ってなかったんだけど。
「あぁー……もう。あんたこの街に来て何年だよ。ペニス付いてるくせに“ホセの親切館”
知らないってどういうことだよ。店主直々なんて絶対やばい試薬じゃん。わかってんの?
あたしら新薬の実験台にされたの。ホセはボルタックの元店員さ。昔ちょろまかしが
バレて追い出されたんだけど、ボルタックに詫び入れて、今じゃ大っぴらに捌けないものを
流してもらってるんだ。ホセはボルタックに表向きは勘当絶縁されたことになってるけど、
裏じゃよろしくやってるのさ。公然の秘密だけど、国の認可施設ってのはどんなに薄くても
化粧する必要があんのよ。ボルタックにとっちゃ、ホセは岩に張り付いてる海綿みたいな
やつだ。危なくなったら、剥がして後腐れなく捨てられるようにさ。
まったく、初心者が初っ端からハードな買い物してんじゃないよ」
シャイアは言い終わると、俺のローブをやっと離した。俺はシャイアの顔を見ながら
油の切れた歯車みたいなぎこちない動きで姿勢を戻した。
124: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:11 ID:7sQEeiv4(3/12)
状況がちゃんと飲み込めない。ひょっとして、お、俺はかなり危ない橋渡ってたのか。
大枚はたいて、明らかに非合法の自滅する劇薬をつかまされてたってわけかよ。
「だいたいさあ、なんで窓ぶっ壊すの?」
「だって」
「だってじゃないよ子どもかあんた。前に備品ぶっ壊した君主のフレデリックの
末路知ってる? 馬小屋で半年“公演”してたんだぞ! 多分あんたへの拷問は
あれ超えてくるからね? 五大施設の管理人による本気の拷問だよ?
あんたが耐えられるわけ無いでしょ」
「……すいません」
「ふん、あのまま逃げなきゃ、あんたがリーダーに何回か八つ裂きにされる程度で
済んだのにさ」
あっ、俺が何回か死ぬことは確定だったんだな、ハハハッ。宿屋の親父の拷問は
八つ裂きにされるよりひどいんだな、ハハハハッ……
体中の毛穴が一気に引き締まった。鳥肌と寒気が止まらん。恐怖で狂って笑い出しそう。
そんなに危ない橋渡っちゃったの俺?
「薬もさぁ何でお湯にいれるの? 茶ぁ飲んで酔っ払うやついるかよ。
普通は酒にいれるの! カデ・カシスとか麝香猫亭とかで簡単に買える
もっと安全で弱いやつをさあ」
すんません、無知ですんません、アドバイスありがとうございます。
今度はちゃんと酒で使います、くノ一に。あと店名メモするんで綴り教えてください。
薬の名前と使い方も詳しく教えていただけると助かります。頼むから教えろ。
「どうせ、あんた、リーダーに使うつもりだったんだろ?」
「――――」
俺は何も言えなかった。金魚みたいに口をパクパクさせて俺はアホ面を晒した。
何で俺のトップシークレットを知ってるのこいつ。シャイアはうんざりした顔で
ひろげた掌を拳にした。
「図星かよ」
えっ、カマかけたの? 畜生! また騙された! 俺のトップシークレットがあ!
シャイアは隣で慌てる俺を無視して、組み合わせた手をテーブルに置き壁を向いた。
「それにしてもねぇ、ホセの店の新薬かぁ。そりゃああなるわけだわ。
あれはほんっとに相当なやつだったよ。ここがイカレちまうんだ」
俺の方を振り向きざま、シャイアはこめかみに人差し指を当ててつついてみせた。
「あの薬はそうとうやばいよ。一眠りして目覚めた直後のあたしが訓練場で
検査してたんなら、I.Q.は5ポイントは下がってたんじゃない?」
嘘お?! ほんとにやばい薬じゃん!
何が『副作用は一切なし、オツムと胃袋に優しい一品』だよ。
何一つあってねえ詐欺商品じゃねえか。
シャイアは追撃を繰り出した。
「もし解毒処置が遅れてたら、まぁ会話できるか怪しい“低み”に行けたかもね。
治療はもっと時間かかっただろうさ」
吐きそうになった。人に飲ませていい薬じゃない。ハハハハッ。
俺はもう、こいつや妹さんに一生足向けて寝られん。チビに至っては元のI.Q.が
お察しの通りだ。見るも無残な哀れな姿に変わり果てたんだろうな。ハハハッ。
何やってんだよ俺は。
シャイアが流暢に喋れていることがせめてもの救いだ。高額な医療費積んで
どこぞの名医に診てもらったようだ。くノ一のことだ。仲間のために金は惜しまず
積んだんだろうな。つまり、俺の使った薬の成分もバレたってことか。ハハハッ。
犯人が俺ってバレたら素手で解体されるどころじゃすまないよなあ!
なんてことしでかしたんだよ俺。
「おかげで助かったようなもんだけどさ。ムーに感謝しろよ」
「はい、ええ? どなた?」
「モルグだよ。リーダーがつけた愛称。あの子大変だったんだぞ?
宿屋の親父は容赦なしだったよ。あたしらマトモじゃなかったから、
あの子ひとりで宿屋の親父に聴取されたんだ。
運が悪けりゃ歓楽街のダンジョン(地下牢)行きだったよ。
避妊も毒抜きもフローへのあんたの命乞いも全部やってくれたんだから」
え、なにあいつ、そんな凄いの? アホのふりしてるだけなの?
そんな脳みそあったら、俺に一言文句でも言えよ。くそったれ。
鉄拳制裁のほうがまだましだ。妹さんにクズの命乞いなんてしてんじゃねえよ。
……ちゃんと覚えてたのかあいつ。
125: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:14 ID:7sQEeiv4(4/12)
「ムーのI.Qポイントは、まぁ、普段はあまり高くないんだ。いつもは会話できる
レベルだけど、時々ほんっとうにひどくなる。本人も努力してるけど、たまに、
低くなりすぎておかしくなるんだ。この街にいるんだからあんたも知ってるでしょ」
ああー……『裏返り』か。人としての体(てい)を保てる以下にまで能力が下がり
切ると、突然逆方向に振り切れるやつだな。この街特有の奇病だ。針金みたいな
ヒョロガリが突然筋肉ダルマになったり、オーク以下の白痴が人知を超えた天才に
なったりする怪奇現象だ。
「正直、今まであたしは“そうなった”ムーのことが苦手だったんだ。
でも、今回ばかりは助かったよ。あんた、あの子に前、会ったそうじゃない?」
俺は口を半開きにしたまま黙っていた。俺の目を見て、同意のサインを受け取った
シャイアは答えた。
「あの子は二年、キースの玩具箱に住んでいた。ああいう薬の最初のモルモットを
やってたんだ。あの子が今みたいになったのもそのせいよ」
なるほどな。熟練の治験経験者ね。そんなのが“裏返った”ら、治療が的確なのも
うなづける。
「もしあんたがリーダーに薬を使ってたら、ムーはあんたを拷問にかけてた。
あたしも手伝ってたと思う。あの人はあたしたち二人にとって大切な先導者なんだ。
裏返ったムーの拷問は怖いぞ。あの子は優しい人の壊し方なんて知らないからな」
俺は黙って、目線を下に落とした。頭の後ろから血の気が引くのを感じた。
「安心して、あの子ももう“処置済み”。もと通りの、まぁ、前よりちょっと悪いくらいかな。
会話はちゃんとできる。神に感謝だよ。初期の応急治療が適切だったから、
ほとんど後遺症は無し。フローは……あぁ、あの子、色々と可哀想な目に合わせ
ちゃったけど、もう元気さ。感謝しろよ。あんたを出会い頭に挽肉にしないよう、
根回し大変だったんだ。でもね、もしフローが許してくれそうになかったら、
あたしもムーもやっぱりあんたを半殺しにしてた。フローには色々話したよ、
今まで黙ってたことも。あの子、他人には乱暴そうに振る舞ってるけど根は
優しい子なんだ」
俺はふらふら頷いた。舌がカラカラに乾いている。口が半開きのままだったことに
今気がついた。どうやらシャイアにはこの面がショックを受け過ぎて何も言えない顔に
見えていたようだ。実際そうだったが。シャイアはしばらく睨みつけていたが、俺の魂が
抜けかけたアホ面を見て無理に明るい口調になった。
「ばかだなあ。あんたほんとにあの薬がなんなのか知らなかったんだろ。
そこまで深刻に思い詰めるなよ。フローのことは、まあ遅かれ早かれだったんだよ。
リーダーには悪いけど、いくら頑張っててもこの街じゃさ。
『舗装道路』しか歩いたことのない典型的な危なっかしい娘(こ)だ。
ある日そいつだけはやめとけってな碌でもない馬の骨に引っ掛けられる。
いつそうなってもおかしくなかったんだ。最初があんたで、良かったんじゃないの?」
なんだ、お前、急にどうした。針の筵でくるんだあとで優しくすんな。新手の拷問か。
碌でもない馬の骨を喜ばせても何も出ねえよ。こんなに自分に腹が立ったのは初めてだ。
クソったれが、俺は一体何をしでかしてくれやがったんだよ、ちょくしょうが。
「あんたは少なくとも、街の外にトンズラこくような腐れ畜生じゃなかったじゃん。
それだけでも大したもんだ。もしムーの治療がなかったってさ、金と時間がありゃ
どうにでもなったよ。この街なら、他所じゃ一生物の傷だって治せるんだ。
時間は掛かるかもしれなかったけど、フローなら金積んで名医をべったり
はりつかせりゃ数週間でなんとかできたさ。一財産かかるかもしれないけど、
そんな金ならいくらで用意してくれるよ、うちのリーダーならさ」
「お前はどうだったんだ?」
口を開く前にシャイアの瞼が痙攣したのを俺は見逃さなかった。コイツ昔のクセが
抜けてねえな。いつものように嘘の軽口を叩こうとしたようだったが、俺の表情を見て
黙りこんだ。俺が本気でキレていたからだ。
冒険者の司教には教区は与えられない。教区を与えられる可能性がある資格保持者と
いう意味しかない。だが司教は上級職に位置づけされている。訓練場の司教候補生には
神学や魔術の授業だけじゃなく、治療師の講義も必修だ。司教が訓練場で受けられる講義
は司祭(Priest)と違い、簡易的な座学だ。あとは迷宮で学べというのがこの国の方針だ。
126: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:17 ID:7sQEeiv4(5/12)
俺は治療師としては駄目学生だった。学徒時代に必死に詰め込んだ知識だって、
回復呪文を覚える前に鑑定士になった俺にとっちゃ無用の長物だ。訓練場で覚えたこと
なんてもうほとんど抜け落ちた。実践で一度も使わなかった知識を覚えていられるほど、
俺には余裕がなかった。それでも俺は元司教だ。
「いいか、嘘は無しだ。マジな話だけしろ。お前は五年か六年、訓練場の独房って
ところじゃなかったのか」
シャイアの肩がビクついた。当てずっぽうだが、当たりか、クソ。図体と飲んだ量からして
そうなるよな。五種族の薬物耐性は教授によって教え方が異なる。俺がたいして覚えて
いない治療師の講義では身長と体格でほとんど決まっていた。計算式も種族別の細かな
耐性表もあったが、もう語呂合わせすら覚えていない。
「お前言ったよな? “危うくみんな死ぬところだった”って」
シャイアはうろたえた声で答えた。
「あは、ははっ、えっ言ってた? ああ、そんなのただの」
「冗談だったってか? おい、鑑定士は司教しかなれねえんだよ」
シャイアは唇を閉じて、叱られたように体をすくめた。
人の体積だけを加味すれば、エルフの妹さんは少し効きすぎなくらいに薬を飲んだ。
ホビットのこいつは明らかな過剰摂取だ。致死量飲んだはずのやつが命の灯火が
消える前にオツムだけ先に“裏返った”おかげで、危篤患者も死人もでなかっただけだ。
「俺は腐った畜生野郎だがそのくらいはわかる。ちゃんと認可医には見せたのか?」
シャイアは言葉を選んでゆっくり喋った。
「二人に診てもらった。宿屋の親父が呼んでくれた」
「拮抗薬の投与は」
「ええと大丈夫、多分。あ、フローは間に合ったよ。心配しないで。ほんとに、あの子は
大丈夫だって。医者も後遺症なしって太鼓判押してたし、あ、ええと他にも色々言ってた。
あたしは治療中だったから何があったのかはちゃんと説明できない。素面でもあたしにゃ
わかんなかったさ。でも、ムーがあたしにわかる言葉で話してくれた。洗浄が早かったし、
うーんあぁ、腸の中身で邪魔できたから。とにかく軽症で済んだ。安心して」
「俺が聞いてるのはお前のことだ」
「難しいことはわからないよ」
俺から目をそらしたまま、シャイアは泣きごとのように言った。やっとこのバカは事の
重大さを理解したようだ。盗賊のこいつは司教の俺がどうしてこれほどキレているのか、
今の瞬間まで分からなかったようだ。
「あ、あちこち開いた。全部洗った」
「ここは?」
俺は右手の親指で自分の額を一文字になぞって見せた。シャイアは慌てたように
無言で頭に手を当てた。顎に勝手に力が入った。文字通りのブレインウォッシュかよ。
冗談じゃねえ。何やってんだ俺は。
「たいしたことないよ」
「俺をぶっ殺せ」
「でっきるわけ無いだろ。えっ、うぅ、宿屋の親父だってリーダーにだって、せっかくうまく
隠せたのに」
「なら堀に飛び込んでおさらばするぜ」
「や、やめてよ。ぜ、絶対に寺院から連れ戻すから」
「昔みたいにか? クズのアホが勝手に苦しんで、さぞ楽しいだろうなお前は」
シャイアが苦しそうに首を縦に振った。
「そ、そう、そう、か、からかっただけ。頭切ったなんて、ただの冗談、
あんたビビらせたかっただけさ」
「自白しやがったな。見せろ」
俺は許可を得ないで、シャイアの頭をつかんだ。シャイアはおとなしく頭をつかまれた。
俺は額から頭頂部をくまなく探した。鑑定用のルーペを持ってこなかったことを後悔した。
しばらく栗色の頭をかき分けて、やっとその痕跡を見つけた。
ぞっとした。医療用の見えづらいインクで書かれた日付が見えた。それがなかったら、
シャイアの頭を一周する細い髪の剃り跡に気づけなかった。街で最高の治療師はジッドと
同じくらいだろうと、俺はずっと思い込んでいた。国の認可を受けた治療師の腕は想像を
超えていた。本物は別格だ。いくら眺めても、剃り跡以外に何の傷跡も見えない。
だが医療用のインクは本物だ。確かに処置はされた証拠だ。
「下手な嘘吐きやがって」
俺は手を離した。下を向き続けたシャイアの顔には赤みが差していた。
俺が手を離すと、こいつは黙って髪を結い直した。
127: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:20 ID:7sQEeiv4(6/12)
「薬の特定は?」
「できたからあたし、ここにいる。もうあたしに聞かないで。難しい言葉ばっかりで
なんにもわかんないの。わかったのは手遅れなら手足の麻痺って言葉だけ。
怖くなった。リーダーに捨てられるって。でもほら、動くよ、ちゃんと」
シャイアは掌を見せてひらひらさせた。俺はすぐに財布から銀貨を取り出して渡した。
シャイアの顔は白くなった。俺が指示すると、シャイアは昔と同じようにコインを指に
滑らせた。
俺は注意深く、シャイアのコイントリックを眺めた。両手の指すべてを使って、
端から順にコインが指の波を滑ってゆく。掌を上に向けて最後の小指までコインが
滑ると、昔と同じように素早い動きで空の掌を俺に向けた。
「ほらね」
コインは差し出した俺の掌に戻っていた。俺はキレた声のまま言った。
「中指の上じゃない」
シャイアは明らかにうろたえた声で言った。
「や、やりなおさせて。久しぶりで、あがっちゃって」
「そうか、まあいい」
「お願い、もう一回チャンスを」
「合格」
それだけ言うと、俺は長椅子の上で伸びをした。こいつの手の神経はどうやら
無事らしい。どっと疲れたわクソアマが。青い顔のままシャイアはほっとした声を出した。
「ね、大した事ないって。指さえ無事ならあたしはそれでいいんだ」
上げ幅に対して落下距離でかすぎんだよ。昔っから慰めるの下手すぎだろお前は。
こんなときだけ無理に優しくすんじゃねえ。罪悪感でお前に一生頭上がらなくなっちまう
だろ。今の話がマジならあのチビに特大の借りができちゃったじゃんか。
「あたしだって連帯責任なんだ。あんたに一人で勝手に死なれちゃ困るよ」
シャイアがしおらしい顔のままポツリと言った。
「全部あたしが悪かった」
「んだと、それどういう」
「あたしなんか、六年ぐらい煉瓦塀の独房に閉じ込められたってしょうがないって」
頭おかしいのかこの馬鹿は。そのしゅんとした顔やめろ。いつも通り小馬鹿にしてくれ。
このクソアマが。
俺は殴られるの覚悟で明るい声を出した。
「シケた面しやがって、なーおい。お前が無事なのは残念だが、とりあえず助かって
おめでとさん。六年は長いぞ?」
「六年は長いよ」
シャイアは黙った。気まずい空気が流れていた。何度も、俺の方に体を向けようとして、
俺と目が合わせられないといったようにシャイアは戸惑った動きをしていた。
やっとこいつが言いたいことが分かった。
六年。俺が簡易寝台で腐っていた年月だ。
「リーダーには本当に感謝してる。どうにかしてほしいところはあるけど、
あたしにとっちゃあの人は英雄なんだ。あたしじゃ手も足もでなかったことを
全部やりとげた。あんたを部屋から連れ出すんだって」
やっと絞り出したシャイアの声は震えていた。涙が流れてないのが不思議なくらいだ。
「ごめんなさい」
「やめろ」
「ほんとうに、全部あたしが悪いんだ」
「なあ」
「いまさらだってのはわかってる」
いまさらか。そのとおりだクソアマ。だからその顔やめてくれ。
どうせ俺はお前が何かしなくっても勝手に転がっていったクズ野郎だよ。
クズのために泣くなよこのバカは。
「ほんとうに、ごめんなさい」
俺にとってあの日以来シャイアの口から初めて聞いた謝罪の言葉だ。そのはずだ。
だがなぜか聞き覚えがあった。こいつが泣きながら何度も何度も。
暗い部屋。
上の住人でたわみきった割れそうな天蓋。
簡易寝台の一段目のベッド。
嗚咽混じりの“ごめんなさい”。
頭の中にふっとなにか光景が映りかけて、すぐに消えた。
128: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:23 ID:7sQEeiv4(7/12)
俺の元いたパーティでは“年功序列”に発言権があるという風習があった。
他の連中がみんな年上だった中、こいつは唯一の、俺より後に生まれたメンバーだった。血の繋がりも無いが、俺にとっちゃ生まれて初めてできた妹分だった。
こいつも俺と似たように考えていたんだろう。同じ釜の飯を食ったってだけのクズを
しつこく気にかけてくれていた。自分の手でうっかり奈落に突き落とした兄貴分に、
ずっと負い目を感じていたんだろうな。
俺は両手を派手に打ち合わせて、シャイアに言った。
「反省会は終了」
泣き出しそうなシャイアも思わず顔を上げた。条件反射だ。昔のパーティの懐かしい
慣習だ。長テーブルでも円卓でも、晩飯でみんなが口に物を詰めながら今日の成果を
ああだこうだ言いまくる。喋り足りなかろうが関係なく、時間でリーダーのデラが手を打つ。
「続きは次の探索で」
残りの台詞を言い終わり、俺の表情が自然と緩んだ。嫌悪感も不快感もわかなかった。
酒場の匂いのせいでか、鼻の奥で懐かしい空気を少し感じた。
六年間の兄妹喧嘩もこれでお終いだ。
「オーケー、今日から対等、貸し借りなしだ。兄妹(きょうだい)、異論は?」
口を綻ばせながらあいつは答えた。
「なし」
シャイアは両手で目を覆い、手の付け根を押し付けた。
「あはは、また頭痛くなっちゃう」
「擦ると目が赤くなるぞ」
「うん」
くしゃくしゃの目で両手の平を見つめて、シャイアは呟いた。
「ハンカチわすれちゃった」
「俺の袖使う?」
俺は片肘をテーブルにつけて、反対の腕を差し出した。あいつはぎょっとしたように
俺を見つめた。もういいぜ、仲直りだ。思う存分兄貴分の袖で鼻をかむがいい。
「あーもー……」
シャイアはすぐに生意気な妹分にふさわしいうんざりした顔になった。
差し出された俺の腕をゆっくり遠ざけながら言った。
「それいつ洗ったの?」
「三日前」
「ふうん? あんたにしちゃマメじゃん」
俺は遠ざけられた腕を押し戻した。
「ゲロついたから」
「きったない!」
シャイアは俺の腕を大げさに弾いた。お互い忍び笑いで顔に手を当てた。
「涙引っ込んだ?」
「おかげさまで」
笑いを殺しながら無理に作った仏頂面でシャイアは答えた。よしよし、それでいい。
お前はそうでなくっちゃな。
「これだけは言っとかないと」
シャイアは椅子の上で体ごと俺に向き直り、今までにないほど凄んで言い放った。
「フローにちゃんと謝って」
俺の顔はひきつった。元気になったと思ったらすぐ急所を刺してきやがったこのアマ。
原因が二十割俺にあるせいで反論できねえよちくしょう……
「その、本当に申し訳ない」
俺はシャイアの小さな背に合わせるように背中を丸めて深々と頭を下げた。
「あたしに謝ってどうすんだよ」
「いやだって、お前にもほんとうに」
俺は背を丸めたままシャイアの顔を見た。シャイアはため息を付いて、組んでいた
腕をほどいて片肘をテーブルに乗せた。
「あたしが何年冒険者やってきたと思う?」
俺はサーシーの顔を思い出した。シャイアの目は冷たかった。
サーシーの言葉が思い出された。
『女主人の同僚たちなら何とも思ってない』
こいつが処女じゃないというのを俺が知っていたのは、なんのことはない。
現場を見たからだ。相手はヒューマンの司教とニンジャだった。二人とも俺より
明らかな格上だ。こいつは司教のブツを笑顔で咥えていた。フェラチオが終わると、
こいつはひっくり返された。こいつの足なら本気を出せば逃げられた。
129: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:27 ID:7sQEeiv4(8/12)
そう思ったが、こいつは無抵抗にあっさりひっくり返された。こいつの悲鳴を背に
俺は部屋に逃げ帰った。自分の身内がレイプされた気分だった。その日の夜に
何食わぬ顔で依頼をしにきたこいつに、俺は罵声を浴びせた。
『あばずれ』と言った俺に、こいつは平気な顔で『そうだよ、だってしょうがないじゃない』と
答えた。その日以来、俺達は罵声でしかやり取りをしなくなった。
今思えばこいつが正しかったんだろう。だからこいつは五体満足で面も綺麗なままで
いられた。サーシーのようにはならなかった。シャイアがくノ一を俺のところに連れて
きだしたのはここ一年かそこらの話だ。それまでこいつは選択を間違えてこなかった。
「今のはごめん。あたしがあんたに言っちゃあ、ただの皮肉――」
「俺も悪かった」
「あーもう、その話は良いって」
「ちゃんと話は最後まで聞けよ」
クソが。相変わらず堪え性がないなコイツ。何年かぶりの謝罪の言葉くらい言わせろ。
このままじゃお前の勝ち逃げじゃねえか。
「あー、なんて言ったら良いかな。その、あれだ、お前も苦労したんだな」
「なんだよ藪から棒に」
「いやあ女で、その顔で、よく生きてたなって」
「は?」
怒気を含んだ声でシャイアが言った。
「あ、いや、その顔でよく何年も冒険者やってましたねって」
「はああ?」
「い、いや、違うんだ、変な顔って意味じゃなくておきれいですねって」
「はああああ?」
シャイアの顔がみるみるうちに顔が赤くなった。
えっ、キレすぎじゃねえかこいつ。あれ? おきれいですねで、なんで怒ってんのこいつ?
また全部選択肢間違えちゃった俺? チェストのCALFO鑑識に失敗して、
爆弾箱開けて、呪われたアイテムに触っちまった? あれ、どうしよ、耳まで真っ赤にして
すげぇキレてる。なんでだよ、七年前はもうちょっと可愛げのある返事してたじゃんお前。
今やっと思春期かよこいつ、発育遅すぎだろ。
「いや、ほら、お前もさあ、そのおきれいなお顔だ。年頃だし、なんか気になる男いたら
俺が相談に乗ってやる」
「ばぁーか!」
俺はシャイアに頭を叩かれた。ほんとに痛ぇよ。手加減しろよ。
ちょっとふざけただけじゃん。あっ、さては図星か。ヘヘッ。そういうことか。
そうならしかたねえな。死ぬまでからかってやるわこのアマ。
「俺も一応男としてコメントしてやるからな。兄貴分として」
「あんたの故郷じゃ妹と“ああいうコト”するのが普通なの?」
こいつ……どっからでも急所攻撃繰り出してくんな。ひとが一番気にしてたことを、
このクソアマはさらりと言いやがって。俺は小さく「しません」と答えて頭を下げた。
「すんませんでした。今のは失言でした」
十数秒経って、やっとシャイアが吐き捨てるように俺に言葉をかけた。
「ふっ、ざけないでくれる」
やべえ。やべえよ。ブチギレじゃん。歯無くなるまで顔面殴られるわ俺。
「きんもち悪い。頭あげろよ」
俺は言う通りにした。多分俺はケツの穴の皺みたいな情けない顔をしていたと思う。
「あーもうばっかみたい」
シャイアの顔はまだ赤い。だが俺の謝罪で少しは溜飲が下がったようだ。
「だからさー、ねえ、あー、部屋でのことについてなんだけど」
俺は生唾を飲み込んだ。こいつと二人っきりで面談と聞いて、一番危惧していた議題だ。
本気で嫌そうな顔で、シャイアは言った。
「どうか、あれは忘れて」
丁寧だが、ほぼ命令口調だ。
「はい、必ず」
俺は精いっぱいの誠意のこもった声で答えた。
「ぐれぐれもこのことは絶対バラすなよ、リーダーにも、宿屋にも。
あんたが自白しないかだけが気がかりだったんだ」
「今回に関して悪いのは俺……」
「あんたのこと黙ってたってだけで、あたしらは連座制で処罰対象なんだ。バカ」
「はい」
一言余計だこのバカアマ。まあいい、しおらしいよりキレてるほうがまだマシだ。
130: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:31 ID:7sQEeiv4(9/12)
「それでフローには、はあ、馬鹿みたいだけど、たまたま、偶然、宿屋のルームサービスに
どこかの誰かからお湯に変な薬を混ぜられたって答えてるから」
「それは――」
それはいくらなんでも無理だろ。まだ薬で頭おかしいまんまなんじゃないかこいつ。
酒場でギムレット頼んだら給仕が運んでいる間にオークの小便に変わりましたってくらい
信憑性のない話だぞ。
「じゃなんて言えって? あんた言える? あなたのお姉さんと頭がすっかりイカれる薬
使ってロイヤルスイートのベッドでパーティーしたかったって」
僕の負けです。もうやめて、事実で殴らないで。俺が悪かったって、ほんとうに。
「まあ、そういう事する奴らに心当たりがないわけじゃないから、全くの事実無根とは
言えないんだけど」
「なんだって?」
「この街じゃ生きてるだけで勝手に誰かに恨みを持たれるってこと。敵も作らず
生き抜くのは無理だよ」
俺の返答を待たず、シャイアは指を突きだして言った。
「とにかく、バレたくなけりゃ話し合わせろよ、いいな?」
「すんません……」
「それより、あんたは大丈夫なの?」
「へ? なにが」
シャイアが手を組み合わせて思慮深そうな顔を作った。
「あんたも様子おかしかったよ。ホセの薬、使ったの?」
俺は引きつった顔で横を向いて小さく答えた。
「使い、まし、た」
「どんな強壮剤?」
このアマ、これ以上俺に恥をかかせてえのかクソが。こいつの目を見るに、どうやら
一歩も引きそうにない。肘をついたまま手を振り回して、俺はやっと答えた。
「不能になる薬」
「ふの……えっ、えええんっ!」
俺は慌ててシャイアの口に手を当てた。
「声がでかい」
シャイアは眉を寄せて目を見開いた。俺の手をどけると、両手のひらを俺に
向けて哀れみを込めた目で俺を見つめ、無言で何度も頷いた。しばらくそうした後で、
顔全体で哀悼の意を表し、首を振りながらやっと震え声で言った。
「ごめん。なんて言葉をかけて良いのか」
「間に合った!」
「え、解毒が?」
「そう!」
シャイアは犬に吠えかけられたように椅子の上であとずさりした。
「声がでかいよ。あんた、よく治療師が見つけられたね。誰に見てもらったの?」
「近所の医者。前に俺みたいに引っかかったアホがいたんだってさ」
「聖なる油は使った?」
「ひでえ味だぞアレ」
「ああ、うん、使った、ってことでいいのね。あー、よくその医者、そんなの持ってたね」
「前にかかった銀行が二人いて、そいつらが金に糸目をつけずに融資したんだよ。
それで、仕入れまくったから在庫が残ってたんだと。もったいなくて捨てられなかったってさ」
「よく大盤振る舞いしたね、そいつ。解呪料とれるんだし、とっときゃいいのに」
「そいつの本業は“転送屋”だ」
「ああー……なら無用の長物か。まあ、根っからの善人ってわけじゃなさそうね。
ご近所の困った人たちにでも使えば良いのに」
「あいつはドワーフだ。まあ普通のドワーフよりは、金に頓着無いけどよ。
ビジネスについてはちゃんと線引してる。社割を餌に体に呪物を引っ付けた従業員を
いつも二、三人雇ってた。今の金庫番や荷物持ちだって、何代目か知らねえよ。
金をためたら、格安で呪物を剥がしてやるんだと。俺は知らなかったけど、あいつの
金庫番は簡易寝台で人気の職種らしい。アイツのこと悪く言うなよ。
クソとゲロまみれになりながら俺を治療してくれたんだ。
あんなお人好しのドワーフはいねえよ」
「ふうん。類は友を呼ぶんだ」
「なんか言ったか」
シャイアは正面を向いて首を横に振った。
「なんも。ねえ、あんた、ほんとに無事だったの?」
131: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:32 ID:7sQEeiv4(10/12)
俺は渋い顔で肩をすくめて両手のひらを上にもちあげた。
「多分」
「たぶんって……」
「手遅れだと袋の中のタマがな、レンズ豆みたいにちっぽけに縮んで石みたいに固くなる」
シャイアはぎょっとした顔で俺の股間をそろそろと指差した。
「柔らかいよ。サイズもあるよ。クソが」
俺は股間に手を当てて吠えた。
「えっ、ああ、その、なんか、確信になることとかないの?」
俺は右の手で空気をかき回しながらやけくそ気味に言った。
「勃てば大丈夫だってよ!」
シャイアは口を横に引き絞って、俺の顔と股間を交互に見た。
「一昨日確認したから!」
俺の吠え声に、シャイアは顔を歪めながらいっそう体を引いた。
「うぇっ、ええ……」
「朝勃ちだよ! 生理現象なんだよ! 俺を汚物みたいな目で見んなよ!」
「怒鳴らないでよ。そんな目で見てないって。ああ、良かった、良かったね」
俺は両手で顔を覆った。恥ずかしくて死にそう。ちくしょう、なんで俺はこいつとこんな
会話をしなきゃいけないんだ。全部自分で蒔いた種だけどな! クソが!
俺は顔を覆っている手を無理やり下げられた。シャイアが下から俺の顔を
覗き込んでいた。鳶色の目には猿みたいな俺の顔が映っていた。
「約束して。二度と、薬なんて使わないで」
「すみませんでしたっ」
シャイアは今日イチの強い口調で言った。
「謝るな。約束しろ」
「はい」
「フローにも謝れよ」
「はい」
「あの子には、あんたが薬盛ったなんて絶対に喋んなよ」
「はい」
「それから、もう死ぬなんて言わない」
「はい」
俺はやけくそで答え続けた。シャイアは俺の両手を離した。
俺は情けなく手に顔を埋め直した。
「絶対だぞ。あの子を呼んでくるから。座ってて」
「はい」
シャイアが立ち去った直後に長椅子の上で俺は顔を埋めたまま放心した。
殺されるかと覚悟していたが、なんとか生き延びた。くそほど恥かいたがな。
しょうがねえや、ハハハッ。
……なんかあいつ最後に言ってたな。
あの子を呼んでくる……はい?
気がつくとフローレンスさんが俺の横に座っていた。俺は再び両手で顔を覆った。
勘弁してくれ、まだ心の準備ができてない。
* * *
カウンターの前で、薄めすぎたコアントローを飲みながら、わたしは入口と仲間の
テーブルを見張り続けた。背中に気配がして振り向くと、姉さんが額に手を当てて
こちらに向かってくるところだった。
「いつからそこで盗み聞きしてたの?」
姉さんは手袋で瞼の上を隠しながら私に話しかけた。私は姉さんに、ウィスキー入りの
温かい牛乳を押し付けた。
「さっきまで見張ってたのはムーよ。私は姉さんに飲み物を渡したくて今来たの。
それから盗み聞きはしてない。騒がしくって、壁の向こうの席の音なんて聞き取れないわよ」
「だといいんだけど」
姉さんは受け取った湯気のたつマグを傾けた。
「目、赤いじゃない」
「んー」
姉さんは、私の視線から逃れるように体を背けた。
「お話、できた」
「うん」
132: 鑑定士 ◆RDYlohdf2Q [sage] 09/28(日)11:35 ID:7sQEeiv4(11/12)
姉さんは目を合わせないで、話を続けた。
「昔話とかふざけた話ばっかり。あはは、ごめん。契約のこととか全然話せなかったよ」
「いいのよ」
「戻ろ。フローにも面談させなきゃ。あの子が言い出したんだから、
あの子に頑張ってもらうよ」
「ええそうね」
マグを持ったまま歩き出そうとする姉さんを、私は止めた。
「仲直りはできた?」
「さあ。でももう、普通に話すことはできるみたい。昔みたいに」
「ねえ、ちゃんと言ったの?」
「何が?」
「ちゃんと言ったほうが良いわよ。“あなたはわたしの”」
姉さんは眉をしかめ、人差し指を口の前において無声音をだした。
「言えるかよ」
「ねえ」
姉さんはカウンターにマグを置いて、大きく両腕を振った。
「ふーらーれーたっ。こっちが告白する前に、あいつから一方的に妹あつかいされた。
どう、これで満足?」
「それ、ふられたって言う? 姉さん、あなたがどれだけ尽くしてきたかって、
私が言ってあげようかしら。」
「余計なお世話だね。ヒューマンやエルフの男が小人に養われてたなんて侮辱にしか
なんないよ」
「あの人はそういう人じゃないでしょ」
「いいの。あいつにとってあたしは“同じ釜の飯を食った幼友達”なんだよ。いまさら
立場かえられるか。どうせ巨人と小人じゃ釣り合わないの。しょうがないじゃない」
「あなたもほんとにその言葉好きね」
姉さんは鼻で笑って、カウンターに手を伸ばした。
「初恋なんてそんなものでしょ、あんたも分かってるくせに」
マグを持ち直した姉さんに、私は真剣に切り出した。
「私があの怪物ノームと話をつけてきてもいいのよ」
「やめて。話通じる相手じゃないし、あいつ顔が広いんだ。お友達にあんたの“お兄ちゃん”
だっているしさ。会いたかないでしょ」
私の顔を見た姉さんは、手を打って人差し指をつきだした。
「あんたはそこの鏡でもみてな」
姉さんは言いながら、酒場の壁にある“三人の酔っぱらい”の鏡を指さした。
「人のこと言える立場じゃないだろ。男運はあんたのほうがダントツでひどいだろ」
「姉さん、若気の過ちを蒸し返すのはひどくない?」
「お互い様ね。傍目で見れるから粗が見えんの」
「ええそうね。お互い様。でも、まともな男を探すのはあなたのほうが上だったわ」
「はいはい、ありがと」
私は後ろ手に壁の向こうの席を親指で指した。
「あの人にふられたもの同士、仲良くしましょ」
姉さんは顔からマグを離して、わたしを睨んだ。
「あー、あんたのは、ふられたって言わない」
「ふられたわよ。初対面でいきなり『失せろあばずれ』なんて」
「あいつの仕事中にいきなり顔にキスなんてするからだろ。仕事中は周りがなんも
見えなくなるんだよ、あいつ」
「それでも酷いでしょ? プライド傷つけられたわよ。ヒューマンの男を誘惑して
ふられたのは、あれが初めてだったんだから」
姉さんは肩を揺すって笑いながら言った。
「フローを呼んでくるよ。あんた、ここでずっと見張るんでしょ」
「いいえ、テーブルに戻るわ」
姉さんはおどろいた顔で私を見上げた。
「いいの?」
「彼、この街の人でしょ? いざとなった時の対処ぐらい知ってるでしょう」
私は姉さんと顔を見合わせて、言葉を続けた。
「姉さんの言う通り、過保護にしすぎたわ。あの子も、少しずつ独り立ちさせなきゃ。
帰り道くらい、一人で歩けるようにね」
133: ここまで [sage] 09/28(日)11:48 ID:7sQEeiv4(12/12)
SS書いてると色々わからんことが出てきて困ります
IBM-PC版で属性って悪から善に変化したっけとか
シナリオ4のワードナがやたらとDamien stones持ち歩いている理由とか
1982年のsoftlineでローアダムスが紹介してた
教師・教育者向けのWizardryを使用した継続教育コースの内容とか
ご存じの方、ご一報お願いします。
134: 名無しさん@ピンキー [sage] 09/30(火)23:07 ID:q2tchSDT(1)
暫く鑑定士の続きは当分おあずけだと思っていたのでこれは嬉しいですありがとうございます
シリーズの設定については機種や時期によって差異のある作品あるんですよね…
例えばモンスターも後発に発売されたバージョンだと種類が増えているとか
上下前次1-新書関写板覧索設栞歴
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