ゆるゆりクトゥルフ [無断転載禁止]©2ch.net (433レス)
上下前次1-新
243: 2016/09/20(火)23:33 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
244: 2016/09/21(水)00:24 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
245: 2016/09/21(水)00:34 AAS
ピッ ピッ ピッ
その音で意識を引き上げられる。
傍らの鳥が短く続けて鳴いている。
聞き覚えのある、声色だった。
「この先に、なにかあるの……?」
ピヨィとひと鳴き。
肯定とみてよさそうだ。
そのままくりくりと身体を頬に押し付けられる。
黒いものに包まれそうだった心が、晴れていくのを感じた。
少し躊躇して、私は壁に触れる。
その感触は以前と変わらないものだった。
じりじりと先へ進むと、爪先になにかがぶつかる。
それはガンッと聞き覚えのない音を立てた。
246: 2016/09/21(水)00:37 AAS
「行き止まり……!?」
慌てて腕を前に伸ばし、すぐに前方のそれに触れる。
冷たく、ざらざらとした感触。
壁や床の感触とは全く違う。
しかし、異質な感触ではなかった。
私はこれに似た感触のものを、
この空間ではない場所で触ったことがある。
破裂しそうな心音。
伸ばした腕を引き、手の臭いを嗅いでみる。
錆びた金属のような、臭い。
(これって…………!)
再び前方の壁をまさぐる。
すると腰のあたりに突起をひとつ発見した。
突起は片手で握ることが出来るほどの大きさだった。
それを左右に軽く捻ってみる。
ガチャガチャという音がした。
(まわ………せる…………?)
ーーーーあぁ、そうだ…………これは…………!
私は突起をひねりながら、それを引いた。
247: 2016/09/21(水)00:38 AAS
クッキーモンスターやらワルツ云々の嗅いてたろ
248: 2016/09/21(水)00:40 AAS
瞬間。
青い光が差し込み、音が流れ込む。
急な光に目を開けていられなくなる。
目を瞑ったまま、私は音の正体を認識した。
激しい、雨音。
ゆっくりと目を開ける。
私の目に映ったのは鬱蒼とした草木。
どうやら、ここは森の中のようだ。
空はオーロラめいた青白い光に照らされ、青い霧が濃く広がっている。
突如、肩の上の鳥が空へと飛び立つ。
「あっ……!」
そこで私は暗闇の中連れ添ったそれの姿を初めて目にする。
小さな身体。
白い羽。
首から後ろへかけての、青い模様。
「待って!!!」
私の呼び声むなしく、
鳥は白い翼をはためかせ、振り返ることもなく空へと消えていった。
249: 2016/09/21(水)00:43 AAS
手に掴んだままだったそれ、ドアノブを離すと、一歩前に踏み出す。
むせかえるような草木の香り。
そのまま激しい雨に打たれる。
身を打つ水の感触は生々しいものだった。
突如、後方からバタンと大きな音がした。
「ヒッ!」
慌てて私は振り返る。
そこで見たもの。
ひとりでに閉じた扉が、少しずつこの場から消えていく姿だった。
私は、それを呆然と見ていることしか出来ない。
250: 2016/09/21(水)00:45 AAS
やがて扉は完全に消失し、そこには一人雨に打たれる私だけが残った。
『もう暗闇の中へと戻ることはできない』
心の中で私はそれを認識した。
空の色が一層明るくなる。
オーロラのような波形がゆらゆらと、不思議な動きをする。
まるで海の揺らめきを見ているかのようだ。
そのうちあまりの明るさに目をあけていられなくなった。
251: 2016/09/21(水)00:48 AAS
ーーー
ーー
ー
「……の………………やの………」
誰かの、声?
わたし、わたしは…………。
「綾乃!!」
「え!?」
ハッとして顔を上げる。
そこにあったのは……
「お母さん……?」
心配そうに私の顔を覗き込む、母の姿だった。
慌てて周囲を見渡す。
そこは見慣れた、自宅の玄関だった。
252: 2016/09/21(水)00:51 AAS
「もう、やっと反応した! そんなにずぶ濡れになって……あなた、傘は持って行かなかったの?」
「え?」
母にそう言われ、自分の姿を確認する。
私の服はびっしょりと濡れていた。
まるで長時間雨に打たれたような、ひどい有様だった。
呆れたような口調で母が続ける。
「いいから、お風呂に入っちゃいなさい。着替えは用意しておいてあげるから」
「え、あ……うん……ごめんなさい……」
曖昧に返事をした私は、言われるがまま風呂場へと向かった。
風呂から上がった私は、
母に夕食はいらないと告げ、そのままベッドに潜り込んだ。
253: 2016/09/21(水)00:56 AAS
翌日、カーテンから差し込んだ光で私は目覚めた。
まだ、頭がボーッとする。
(夢、だったの……?)
昨日の出来事を思い出す。
気がついたら私は暗い空間にいて、
そこで鳥と会って、
最後にそこから抜け出して……
そこまで思い出して私は苦笑した。
あまりにも現実味がない。きっと夢だったのだろう。
ふらふらとした足取りでリビングへと向かう。
そこに家族の姿はなく、テーブルには1枚の書き置きがあった。
『用事があるので出掛けます。
キッチンのテーブルの上におにぎりがあるから食べること!
つらかったら今日は寝ていなさい。
母より』
それを読んでから今日が休日だったことを思い出した。
……確かに、体調はあまりよくないようだ。
おとなしく母に従うことにしよう。
254: 2016/09/21(水)00:59 AAS
書き置きを読んだ私はキッチンへ向かった。
テーブルの上にはラップに包まれたおにぎり。
皿の上にちょこんと乗っていた。
ーーーーこれを食べたら寝てしまおう。
そう思いテーブルに近づいた。
瞬間。
それを目にした私は一瞬で意識が覚醒した。
「な、なんで…………!? 嘘でしょ!?」
昨夜、母に預けた鞄の中身だろうか。
テーブルのそこに置かれていたのは携帯電話と買ったばかりの参考書。
と。
見覚えのない、四角い物体。
255: 2016/09/21(水)01:04 AAS
一気に呼吸が荒くなる。
目が、霞む。
震える手でそれに触れると、ひやりとした陶器のような感触。
見覚えのないそれを、私は確かに触った覚えがあった。
手に取ったそれをよく見ると、不自然に小さくへこんでいる部分を見つけた。
爪が、ひっかかりそうだ。
爪を立ててみると四角い物体……『箱』は容易に開いた。
中から出てきたのは、折り畳まれた1枚の紙片。
私はそれを広げる。
そこには緑のインクでびっしりと文字が書かれていた。
日本語だ。
読み、取れる。
読み取れて、しまう。
256: 2016/09/21(水)01:06 AAS
『門の創造』
『空間と』
『空間を』
『繋げる』
『個と』
『個を』
『繋げる』
『門の創造』
私の異常体験は、まだ終わっていない。
257: 2016/09/21(水)01:08 AAS
探索者名:杉浦綾乃
探索結果:生還
クリアボーナス:SAN値+6
クリアボーナス2:SAN値+4(条件:鳥の生存)
クリアボーナス3:SAN値+2(条件:箱を持ったまま生還)
クリアボーナス4:未達成(条件:暗闇に潜んだ神話生物2種の正体を見破る)
取得魔術:『門の創造』(取得中)
取得技能:クトゥルフ神話技能+2
原作
WaKaMuRa
若村(じゃくそん)様制作 『壁の中にいる』
終
258: 2016/09/21(水)01:15 AAS
予定していたプロローグはこれで終わり
誤字脱字申し訳ない
ニコ動のとあるリプレイ動画に多大な影響を受けてます
259: 2016/09/21(水)01:22 AAS
『壁の中にいる』はシナリオ改編がかなり著しいです
画像リンク[jpg]:imgur.com
画像リンク[jpg]:imgur.com
の画像を見てたら書きたくなったというか鳥関連はほぼ全て俺設定ですすみません
意識暗転系シナリオはこれで最後にしようかなと思ってます
思い出したころに続きを書くつもりなのでそのときはまたよろしくお願いします
260: 2016/09/21(水)01:40 AAS
おもしろかった○
261: 2016/09/21(水)02:12 AAS
おつ!おもしろかったよ
262: 2016/09/21(水)02:17 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
263: 2016/09/21(水)02:54 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
264: 2016/09/21(水)06:31 AAS
いあ!いあ!ゆるゆり!
265: 2016/09/21(水)06:56 AAS
神話生物2種の正体は何だろ
266: 2016/09/21(水)07:11 AAS
トトロ
267: 2016/09/21(水)14:13 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
268: 2016/09/21(水)17:31 AAS
なも!なも!なもりり!
269: 2016/09/21(水)17:54 AAS
モフ壁はツァトゥグア
周りの壁は無形の落とし子びっしり
270: 2016/09/21(水)17:58 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
271: 2016/09/21(水)19:10 AAS
どうやったら神話生物2種を見破れたんだろ
272: 2016/09/21(水)19:55 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
273: 2016/09/21(水)21:53 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
274: 2016/09/21(水)22:12 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
275: 2016/09/21(水)23:36 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
276: 2016/09/21(水)23:58 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
277: 2016/09/22(木)00:12 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
278: 2016/09/22(木)01:00 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
279: 2016/09/22(木)01:12 AAS
放置せずにやり切るのはえらい
面白かった
280: 2016/09/22(木)07:28 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
281: 2016/09/22(木)17:44 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
282: 2016/09/22(木)17:44 AAS
歳納京子 ゆるゆり 京綾 結京 ねんどろいど なもり 同人
283: 2016/09/22(木)18:27 AAS
面白かったです!
読み応えのあるSS
284: 2016/09/22(木)19:54 AAS
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285: 2016/09/22(木)22:51 AAS
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286: 2016/09/23(金)01:55 AAS
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287: 2016/09/23(金)04:25 AAS
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321: 2016/09/27(火)01:01 AAS
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323: 2016/09/27(火)16:20 AAS
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330: 2016/09/28(水)20:45 AAS
廊下の窓から西日が差し込む。
こんなにも綺麗な夕日はいつぶりだろう。
私はガラにもなく足を止めそれに見入ってしまった。
視線を落とせば、校庭で運動部連中が元気に練習をしている。
このところ雨が続いて満足に練習出来なかった反動だろうか。
その鬱憤を晴らすかのように部員たちは声を張り上げていた。
(健全だなぁ……)
ーーー絶賛青春謳歌中。
帰宅部同然の私の目にはそれが少し眩しく見えた。
陸上部顧問の南野先生から直々に陸上部への勧誘を受けたとき、
なんだかんだ理由を付けて断ったものの、本心ではほんの少し揺れていた。
昔から身体を動かす事は得意だったし、実際入学したばかりの頃に一度、陸上部の見学にも行っている。
なにかが違えば、今ごろ私もあの輪の中に混ざっていたのかもしれない。
といっても、今の生活に不満を感じている訳ではないのだが。
幸い私は気のいい友人に恵まれている。
その友人達と共にモラトリアムを貪るのも、一つの青春だろう。
……物は言い様ではあるけど。
331: 2016/09/28(水)20:52 AAS
新章きた!?
332: 2016/09/28(水)20:52 AAS
(っと、いかんいかん)
こんなところで油を売っている暇はない。
教室では彼女が待っているはずだ。
私は両手に抱えた大量のプリントを持ち直し、再び歩き始めた。
あの奇妙な夢を見てからすでに一ヶ月以上が経つ。
夢に出てきた怪物に突然襲われる!
……ということもなく、私はすっかり元の平凡な日常へと戻っていた。
このまま時間が経てば、あの夢はじきに記憶から失われていくのだろう。
………時間が経てば、の話だが。
雨が降ると、私は未だに思い出してしまう。
あの夜の事を。あの夢の事を。
(明日からはまた、雨だっけ……)
六月。
梅雨はまだ始まったばかりだ。
美しい夕日に照らされながら、私は足を進める。
333: 2016/09/28(水)20:58 AAS
教室へ戻ると彼女は一人、席に座って作業に没頭していた。
茜色に染まった教室には私を除けば彼女一人しかいない。
彼女は作業に集中するあまり、私に気づいていないようだ。
少々声を掛けるのが憚られたが、そこまで気を使うほど知らぬ仲でもない。
「ただいま」
一言。
なるべく驚かせないようなトーンでそう言った。
そこで彼女はようやく私に気がついたようだ。
「おかえりなさい」
一言。
振り向いて彼女、杉浦綾乃はそう言った。
334: 2016/09/28(水)21:01 AAS
「これ、ここに置いておくから」
私は手に抱えていたプリントを手近な机の上へと降ろした。
一枚一枚は軽いとは言え、量が量なのでそこそこ疲れた。
そのまま肩をほぐしていると、綾乃から「お疲れ様」と労いの言葉をかけられる。
「ごめんなさいね、手伝ってもらっちゃって」
「いや、これクラスの仕事だろ? 別に気にしなくていいよ」
私がそう言うと、綾乃は小さく笑って「ありがとう」と返した。
なんとなくむず痒くなった私は、綾乃の正面の席からイスを拝借してそこに腰掛けた。
「何か手伝えることがあれば、言ってもらえれば」
「ありがとう。でも大丈夫よ、もうすぐ終わるから」
そう言って再び作業に没頭し始める綾乃。
「そっか」とだけ返して、なんとなくその様子を眺める。
早い。
やはりこの手の作業は手慣れているのだろうなと感じた。
私なら倍の時間は掛かるかもしれない。
335: 2016/09/28(水)21:07 AAS
放課後。
今日はごらく部の活動予定がなかったので早々に帰り支度をしていると、担任から呼び止められた。
正確には私や京子に向けてではなく、綾乃と千歳に向けてだろうが。
担任曰く
・クラス配布用の資料の作成と、倉庫整理の人員がそれぞれ一人ずつ欲しい
・資料作成は要点にマーカーを引いたり資料のホチキス止めをしたり、こまごまとした作業
・倉庫整理はそれぞれのクラスから人を集めて一気に行う、それが終わったら別の配布資料をそれぞれの教室まで持ち帰って欲しい
・おそらく二人それぞれ同じくらいの時間に終わるはず
とのこと。
チラリと担任の机に積まれた資料の山を見た。
とてもじゃないが、私や京子では時間内に終えられる気がしない。
綾乃か千歳が作業をすれば時間内にギリギリ、といったところだろうか。
半ば担任の思惑通りに資料作成は綾乃が受け持つことになった。
続いて「じゃあうちが………」とまで言いかけた千歳を私が制止。
力仕事を千歳にやらせるのはどうにも忍びなかった。
しばしの問答のあと、結局倉庫整理は私が引き受けることとなった。
……京子がいると余計に時間を喰う気がしたので、先に千歳と帰らせた。これはいい判断だったと思う。
336: 2016/09/28(水)21:15 AAS
「最近綾乃ちゃん、元気ないんよ……」
ふと、別れ際に千歳が言った言葉を思い出す。
さっそく作業を開始した綾乃を教室に残し、うだうだ文句を言う京子をあやしながら3人で昇降口まで向かっているとき。
千歳が神妙な面持ちでそう呟いた。
「え、綾乃が? う〜ん……いつも通りに見えたけどなぁ」
腕を組んで首を傾げる京子。
いつも通りの杉浦綾乃、特に気になるようなところはない。
私も京子と同意見だった。
しかし、変わらぬ面持ちで千歳は続ける。
「うん、うちの思い過ごしならええんやけどな。でも、たまにどこか遠くを見て考え事しとるみたいで……」
「それはいつから?」
私がそう促すと千歳は少し考え込む素振りを見せる。
そして、しばしの沈黙の後こう答えた。
「えっと、一ヶ月くらい前かなぁ。ほら、船見さん、前に風邪引いて学校休んだやろ? あの時くらいからやったと思う」
337: 2016/09/28(水)21:22 AAS
「あー! あったあった! みんなで風邪っ引き結衣のお見舞いに行ったときっしょ?」
はしゃぐ京子とは対照的に、私は固まった。
一ヶ月、前?
背中にひやりと冷たいものが走る。
一ヶ月前、私があの夢を見た夜。
それと同じ時期から綾乃の様子がおかしい。千歳はそう言う。
これは偶然なのか、それとも。
「うん。せやから、船見さん……」
「……わかった。それとなく綾乃に聞いてみるよ」
私で力になれるかどうかは分からないけど、小さくそう付け加えて言った。
それを聞いた千歳はいくらか安心した様な表情になる。
……千歳も随分悩んでいたのだと、この時ようやく気がついた。
友人二人の変化を悟れなかった自分が情けない。
京子に耳打ちして、千歳のフォローは京子に任せることにした。
この時ばかりは無駄に自信に満ちたサムズアップが頼もしく見えた。
二人を見送り、
私は重い足取りで指定された倉庫へと向かった。
338: 2016/09/28(水)21:23 AAS
おっ続きが来てる
339: 2016/09/28(水)21:26 AAS
夕暮れに染まった教室。
私は黙々と作業を続ける綾乃を見ていた。
「それとなく聞いてみる」とは言ってみたものの、どう切り出せばいいものか。
目の前の彼女はやはり普段と変わらぬ様子に見えた。
校庭で運動部が練習する声。
チラリと窓の外を見る。
カチカチと教室内の時計の針が進む音。
チラリと時計を見る。
なにをやっているんだ、私は。
しばし無為な葛藤を続けていると、
やがて綾乃はペンを置き、そのまま小さく伸びをした。
「ふぅ、お待たせ船見さん。これで全部終わったわ」
「あ、ああ。うん、お疲れ様」
少し上擦ったような間抜けな声を出してしまった。
きょとんとした顔で「大丈夫?」と綾乃。
ーーー逆に心配させてどうする!
私はそれに曖昧に返事をした。
恥じらいから赤くなった頬が熱い。
340: 2016/09/28(水)21:31 AAS
「最後に二つの資料を先生の机に置いておけばいいんですって」
綾乃が言うにはこのあと職員会議があるらしく、担任には報告せずそのまま帰ってもいいらしい。
そんないい加減でいいのか?と聞いてみると、どうやら以前にもこういう事があったのだという。
そういえば去年綾乃のクラスを担当していたのもあの先生だという事を思い出した。
……なんだかなぁ。
苦笑する綾乃に向かって言う。
「ああ、じゃあ私が運ぶよ」
「ううん、半分持つわ」
そう言って綾乃は先程まで作成していた資料をテキパキとまとめだした。
……結局、綾乃ばかりが働いていたような気がする。
なら、せめて重い方は私が持とう。
そう思って席を立ったのと同時に、音が鳴り響いた。
341: 2016/09/28(水)21:34 AAS
窓の外を見やる。
それは17時の訪れを知らせる街のチャイムだった。
やけにタイミング良く鳴ったそれに、気持ちが悪いような、妙な感覚を覚える。
つい聴き入ってしまっていると、ふいに前方からバサバサバサと、紙が擦れる音。
それにつられて私も前を向く。
「綾乃……?」
床と机の上には先程まで綾乃がまとめていた資料が散らばっていた。
そして。
なにかを手に抱えたような体勢のまま、硬直する綾乃。
「ッ!? 綾乃!」
慌てて側まで駆け寄る。
綾乃は顔を伏せ、身体を小さく震わせていた。
342: 2016/09/28(水)21:38 AAS
「おい! どうした綾乃! 綾乃!!」
必死に声を掛け、肩を揺する。
ーーー何があった!? 原因は!?
しばらく私の呼び掛けに反応を示さなかった綾乃だったが、
突然ハッとしたような表情を浮かべたあと、ゆっくりと私の方を向いた。
「あ…………船見、さん……?」
その顔は真っ青で、額には汗が滲んでいた。
綾乃が意識を取り戻した事に、私はひとまず安堵した。
……やはり千歳は凄い。
綾乃のことを、よく分かっている。
私は綾乃の肩に手を置いたまま、目を真っ直ぐに見て言った。
「単刀直入に言うよ。綾乃……『なにがあった』の?」
部活の音も。時計の音も。
その時の私には聞こえていなかった。
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