[過去ログ] 海未「走れ園田」 (72レス)
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11: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/09(日) 00:31:23.51 ID:ZKVDH3CE0(11/12) AAS
園田は激怒した。

必ず、恋の詩を書かねばならぬと決意した。

園田には恋愛がわからぬ。

園田は、女子高校の学生である。弓を射て、幼馴染の女性と遊んで暮して来た。

ならば知ればいい。これから知ればいい。

「やってやります、見てなさい!」

それを聞いて矢澤は、罪悪感を交えながらも、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。

「私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、煮るなり焼くなり好きにしなさい」

「メロディは無くていいのかしら」

「構いません、愛を語れる詩を書いて、にこが納得すれば私の勝ちです」

「わかったわ、逃げないでよね、期待してるわよ、海未」

矢澤は部室から出て行った、

園田は口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

さあ、園田は追い詰められた。どうしても三日後までに愛を知り、詩を作らなければならない。

矢澤は挑発する素振りをして、本当は臆病な自分をを後押ししてくれた。

感謝せねばならないはずだった。動き出さずにはいられなかった。

園田は、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

園田は、その夜、急ぎに急いで、岐路を駆けた。

家へ帰って、間もなく床に倒れ伏し、園田は呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 2014/11/09(日) 00:33:08.06 ID:ZKVDH3CE0(12/12) AAS
続きます。ちょっと期間あくかも……
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/09(日) 00:56:29.52 ID:Eb7mpUz0O携(1) AAS
前のウヨニキか
結構面白い
14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/09(日) 01:03:27.86 ID:qj5FABv40(1) AAS
どっかで読んだような……いやいや、好きよ
自分のペースで書いてください
15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/09(日) 01:10:38.71 ID:K7SfkQflo(1) AAS
いいね
16: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/09(日) 07:38:11.61 ID:svsQ1eCAO携(1/6) AAS
園田が目を覚ました時、すでに太陽は南中を終え、正午過ぎに傾むていていた。

しまった、寝過ごした。

園田は戦慄したが、嘆いている時間も惜しかった。

今日は休日だ。

先ず、自分の為すべきことを確認した。

愛、あるいは恋を体験、見つける、そしてそれを詩にする。

ここまで考えて園田は一抹の違和感を覚えた。恋と愛の違いである。

園田は手元にあった使い古された辞書を開き、これまで目にも留められなかった語の、相貌を確かめた。
17: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/09(日) 07:39:40.21 ID:svsQ1eCAO携(2/6) AAS
こい 【恋】

@特定の異性に強く惹ひかれ,会いたい,ひとりじめにしたい,一緒になりたいと思う気持ち。

A古くは,異性に限らず,植物・土地・古都・季節・過去の時など,目の前にない対象を慕う心にいう。

成る程、大方予想通り出会った。

両義とも、手に入れることの難きものを求める心である。

それに、ひょっとすると後者の意味においては園田は既に恋を知っていたかもしれない。

だが今回話題になっているのは前者であろう。園田は考えた。

手に入れることが難くとも、恋を知る程度ならば、手に入れる必要まではない。欲しいと思うだけで良いのだ。

だが3日のうちに、易く氷解すべき問いで無いのは明白であった。

園田は、次に愛を知ろうと、ページをめくった。「あい」は辞書の頭の側である。

そこでは、分厚い紙の束の見開きの左右で重量が著しく異なる。

開くのには多少難儀したが、園田は落ち着いてその文字を読んだ。

園田は驚愕した。

嗚呼、これではまるで別物では無いか!
18: ◆pjcAosyDG/fJ [] 2014/11/09(日) 07:41:07.64 ID:svsQ1eCAO携(3/6) AAS
あい 【愛】

@対象をかけがえのないものと認め,それに引き付けられる心の動き。また,その気持ちの表れ。

Aキリスト教で,見返りを求めず限りなく深くいつくしむこと。

愛は、その唯一性を認めることから発生する。

ならばその前提として、対象の把握は終えているはずだ。

つまるところ、恋とは違って、愛とは、愛するべき対象が既に自分の側にある、そう考えて良いだろう。

親が、娘に対して注ぐのが、恋では無く、愛である道理を、園田は知った。

それならば、園田は愛を知っていた。

園田は、家族を愛していた。友人を愛していた。世界に対しても愛を感じていた。

然れども、園田が増して驚いたのは、恋という言葉の孕む恐るべき矛盾であつた。

すなわち、こうだ。

或る人が親しき友人、自分の愛すべき友を持っていたとしよう。

この時、愛は所有物への感情である。

ではその友人に対して、或る日、恋心が芽生えるとする。

こういったことは珍しくも無いはずだ。園田も言葉の上だけなら幾度も目撃して来た。
19: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/09(日) 07:41:54.19 ID:svsQ1eCAO携(4/6) AAS
しかしここで問題なのは、恋が「非」所有物への感情ということだ。

愛し、自分の持ちたるものが、或る日突然自分の手を離れてしまい、それを、求める気持ち、恋に変わる。

持っているものが欲しくなる?

これではまるであべこべだ!

園田はわからなくなった。

やはり恋とは難しいものではないか。こんなものを大方の人類が経験していたことを信じられなかった。

恋とは、いわゆる、一目惚れ、なのだろうか?

解決はするが、それを全ての事例に当てはめるのは傲慢が過ぎる。

園田は考えた。考えざるを得なかった。すると一つの光明が見えた。

そうか、捉え方の問題なのだ。

恋の発生は、よく知る、愛する友人に対しての、疑問の発生であろう。

疑問はなんでも良い。

それが起床時間であろうと、朝食の品目であろうと、なんでも構わない。

既知の対象から、未知の情報を引き出したくて堪らなくなる、その情報を求めたくて堪らなくなる。

結果、その人そのものを、既に自分のもので有るのにも関わらず、求めたくなるのだ。

この錯誤こそが恋だ。

恋とは、愛から生まれるのだ。

愛は芽生えぬ!愛という土壌から、芽生えるのは恋だけだ。
20: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/09(日) 07:44:36.83 ID:svsQ1eCAO携(5/6) AAS
恋と愛に対する議論は多くなされて来ただろうし、これからもそうだろう。

これが絶対的解釈とは言えないし、論理の飛躍が無いでもない。

ただ、園田は元来、情緒よりは理屈で動く人間であった。

そのため、正誤は別として、自前のこの結論に至れただけで、心象の霧は晴れた。

人の常として、霊魂の如き未知の対象には畏怖を抱くものだ。

だが相手を知ってしまえば対策のとりようはある。

次に園田は、なにをするべきかを考えた。

新しいものを探す必要はない。

自分がいま持っているもの、愛すべきもの、それをしっかりと観察すれば良いのである。

そこから恋は生まれるはずだ。園田は友人たちに会うことにした。
21: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/09(日) 07:53:23.57 ID:svsQ1eCAO携(6/6) AAS
とりあえずここまで……
22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/09(日) 09:14:55.16 ID:VdDPmfjho(1) AAS
したり
23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/09(日) 09:23:24.46 ID:l4X7v2ht0(1) AAS

海未ちゃん書道もやってたのか、知らな
かった
24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/09(日) 14:28:09.11 ID:MlfwicPgO携(1) AAS
面白い
25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [] 2014/11/09(日) 14:41:02.42 ID:pK7co2iS0(1) AAS
面白い。支援ぬ
26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage] 2014/11/09(日) 18:07:46.78 ID:befGAtHV0(1) AAS
走れと言うか歩けの方がしっくりくるなww
27: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/11(火) 01:58:57.78 ID:DzEFr0wn0(1/6) AAS
園田はここ数年、男性との交流が希薄であった。

振り返れば、幼稚園、小学生あたりには級友との会話も弾んだものであった。

だが、中学に入学したころから、めっきり男性と話す機会は減ってしまった。

別段、男性に対しての恐怖が生まれたでも、特別な意識が生まれたわけでも無かった。

ただ、男女の関係の危険性に、園田は人より早く敏感になった。

園田は、この頃に不埒な異性の交流を何度か噂に聞き始めるようになった。

然る羞恥が同年代で繰り広げられることに、はじめ、園田はぞっとした。

次第に、その類の話しを耳にするたびに、彼女たちに軽蔑の念がふつふつと湧き上がっていった。

中学生など、何ら自らの行動を律することも、贖うこともできない、その意味で無力な赤ん坊に過ぎないではないか。

そのくせ中途半端に頭だけは出来ている。批判することを覚え、やたらに権利を主張する。

園田にとっては、衝動的な恋に身を焦がした彼女たちの姿は、本能が先行した、けだものにしか見えなかった。

恋や愛に耽るには自分たちはまだ若すぎるのである。

それを自覚していない輩が多すぎる。
28: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/11(火) 02:00:03.52 ID:DzEFr0wn0(2/6) AAS
そんなふうに、園田は特定の性に対する感情ではなく、人間そのものの在り方に対しての拘りが強かったのだった。

園田は人間の尊厳の核心が、その理性にあると堅く信じてたのだ。

感受性も人一倍強かった園田は、この経験から、愛や恋を、肉欲的で卑俗な悪事と捉えはじめていた。

恋は、両親のような、そんな責任のある者同士の関係でなければならない、そう考えていた。

だが同時に、そんな風に極端な考えに走る自分の器量の小ささを恥じる冷静さもあった。

自分だけがこの状況に不満を覚えているのでは?

園田は次第に自分の過激な考えが恐ろしくなっていった。

それゆえ園田は沈黙した。

普遍的な話はさておき、せめて自分だけは清潔でありたかった。

幸い、園田は友に恵まれていた。

古い馴染みの、高坂と南である。

園田は、多かれ少なかれ、彼女たちの共感を得る自信があった。

類が友を呼んだのであろう。

園田は決して主張はしなかったものの、そんな彼女たちと過ごす雰囲気を快く思っていた。

そして共に、園田は女子校に入学した。

自ずと、男性との接触は閉じて行った。

だが今の園田は違った。

園田は今、恋を求めている。

ひとつ、異常なのは、その恋の相手が人間ではないことだった。

園田は明らかに、恋という言葉自体に、恋をしていた。
29: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/11(火) 02:00:44.72 ID:DzEFr0wn0(3/6) AAS
先ず、園田は、東條を訪ねた。

深い理由などなかった。

然れども、誰でも良いなら、隣家の高坂で良いはずだから、何か思う所があったのだろう。

園田が呼び鈴を押すと、すぐにドアが開いた。

「海未ちゃん」

やんわりとした表情がこちらを覗いた。

「急に申し訳ありません、お話ししたいことがあってーー」

「まあまあ、入りよ。ウチも誰かとお話ししたかったところ」

「そうですか、では失礼します」
30: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/11(火) 02:01:36.15 ID:DzEFr0wn0(4/6) AAS
東條は園田に紅茶を振舞った。

キームンという中国の茶らしい。世界三大紅茶の一つだ、と東條は自慢げに云った。

園田はさほど関心なく、相槌を打つ程度で、カップを手に取り、茶を口にした。

香が良く、上品な味だった。外の気温は高いが、熱さも嫌にはならなかった。

東條は、感想が早く聞きたいらしく、園田の一挙一動を体を揺らしながら観察していた。

「美味しいかな、どうかなぁ」

「ええ、美味しいです。……初めて口にした味ですね、なんだか新発見、という感じです。」

本心からの感想であった。

それに、普段はジュースばかりの同級生に振舞われる茶も、一層新鮮であった。

「良かったぁ、実はウチも、誰かにごちそうするのは初めてやから」

「いえ、本当にいいですよ……これ。良かったら少し貰えませんか?」

「ははっ……嬉しいなぁ、ええよ、帰りにね」

東條は、ほっとひと息ついて、微笑んだ。

園田も、ああ、初めが東條で良かったと思い、ほっとした。
31: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/11(火) 02:02:09.21 ID:DzEFr0wn0(5/6) AAS
園田がカップを机に置くと、東條はきゅっと視線を定めた。

「それで、どういう話なん?」

「ズバリ言わせてもらいます、恋の話です」

「ええ、恋」

「そうです、恋の詩を書かねばなりません、そのために恋を知らねばならないのです」

そう云ってから園田はハッとした。

しまった、相談に来たのでは無い!

目的は友人を深く知ること、それだけなのに、まんまと乗せられてしまった。

対して、そんな画策も無かった東條は、単純に友人の話の内容に唖然として、パチパチと瞬きをしていた。

しばらく、お互いの空気が凍ってしまった。

園田は、恥ずかしさで言葉も出ず、なんとか慣れない作り笑いをした。

東條はそれさえも気味が悪く思った様子で、尚更沈黙を深めてしまった。
32: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/11(火) 02:11:52.86 ID:DzEFr0wn0(6/6) AAS
今日はここまで
33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/11(火) 02:14:36.74 ID:yZ4uaytX0(1) AAS
苗字表記なのが文体と相まって尚更シリアスな笑いを呼ぶ
34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/11(火) 02:47:14.05 ID:0nJWusw2O携(1) AAS
園田って字面だけでだいぶ笑えてくる
35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/11(火) 09:51:55.25 ID:nJeEiqWdO携(1) AAS
文学なのかラブコメなのかシュールギャグなのか……
とりあえず面白い、走る園田に期待
36: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 01:59:55.38 ID:30oXVwbn0(1/9) AAS
嗚呼、これでは共倒れだ。そもそも東條もまた、恋を知らぬ人間ではないか。

園田は初日から自分の計画が画餅に帰したことに肩を落とした。

何事においても、持たざる者同士の議論ほど、滑稽で的を射ぬものもない。

そもそも其処には的すら無く、実践に即さぬ虚言という名の矢で互いを傷つけるに終始するのが常である。

園田は沈黙の破り方を考えあぐねた。

このまま人生相談になっては困る。そんなものはお互いの自己満足に過ぎない。

が、先に口を開いたのは東條であった。

「海未ちゃんが恋を知りたいなんて驚きや……でもごめんな、ウチにもよく分からないんよ」

「ええっと……言いにくいですけど、希が何も分からないのは承知してました」

「ええっ、ウチに相談しに来たと違うん」

「すみません、話には来たんですけど、なんだか順序をまちがえて……
 いや、順序じゃなくて、目的そのものが……
 ああっ、申し訳ない、これでは、もう、だめです、はぁっ」

「一旦落ちつき」

「はぁ、はい」

「紅茶、もう一杯、どうぞ」

「はい、頂きます、すみません」

カップにトクトクとと琥珀色の紅茶が注がれた。

東條の顔は落ち着きを取り戻していた。

園田が空回りしている姿に微笑ましさを覚え、緊張が解けたのだろう。

対して、園田は首をうなだれて視線を下に向け、フローリングの木目を目で追いかけていた。

年輪が刻んだ焦茶の模様をジグザグと目で辿ると、ますます心拍が乱れた。

嗚呼、ばつが悪い。園田は今すぐ玄関に向かって走り出したかった。
37: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:00:30.73 ID:30oXVwbn0(2/9) AAS
「海未ちゃん、下ばっかり向いてないで、顔あげてよ」

「あがりません……」

「何しに来たん、もうっ」

「いいんです、私は駄目な人間です」

「そんなに落ち込まんでも……」

「……少し待ってください、ああ、それにしても面目ないです、家にまで押しかけて、こんな醜態を晒して」

「ふふっ……海未ちゃん、海未ちゃん……」

「何です……」

「ウチ、海未ちゃんに恋しちゃったかもなぁ」

「えっ」

「海未ちゃん、可愛いもん、そりゃ好きになっちゃうわ」

「からかわないでくださいっ、私は真剣なんですっ」

「ほらっ……顔上げてくれた」

「あっ……」

「ふふっ」

「ずるいです、ずるいですよ」

「さっ、海未ちゃんもこっち向いてくれたし……ウチも真剣に聞くから、全部喋って欲しいなぁ」

「そんな、本当に、いいでしょうか。私がこの一日で考えたことです。味も素っ気もないですよ」

「もー、海未ちゃんがなに思ってるんか、ウチも聞きたくてしょうがないの」

「そうですか……ではまず、経緯から……」
38: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:01:12.60 ID:30oXVwbn0(3/9) AAS
こうして、日が落ちるまで、東條宅で会話を続け、それから家に戻った。

園田は寝室でこの日を回想した。

あの後、話は続いた。これ以上の収穫が無いことは承知していたが、単に会話自体が愉しかったのである。

園田は自分の倫理、道徳、観念、あらゆる心境を心血を注ぎ東條に与えた。

東條は真摯に応えた。その返答の一つ一つが園田を感興、籠絡させた。

東條の返答に付随し、園田の興味深い種々の疑問が生命を持ち始めた。

嗚呼、なんと愉しいのだ!園田は感動していた。血が湧き上がっていた。

東條との会話は相互間のコミューンと云うより、むしろ自己の中の思考を清算し、潤滑させる油であった。

東條の的確な反証、肯定、それら全てによって、園田の中の無秩序な斑点が星座と成ってゆく。

自分の持つものが、意味を獲得する!その過程に園田は心から悦楽を覚えた。
39: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:03:01.93 ID:30oXVwbn0(4/9) AAS
だが、哀しいことに生産性はなかった。園田の心内の整理は行えたが、新たな情報は得れなかった。

無益ではなかったが、自分の住む町の裏路地を教えられたようなものである。

園田はもっと遠いところを目指していた。

結局、それも恋を知らぬ者同士の会話から生まれる限界なのである。

海面に映る月を掬い上げるが如き愚行であった。

例え手に入らぬとしても、月を求めるものは空を見上げねばならぬ。

園田は自分の不甲斐無さを噛みしめた。

然れども、全く何も無かった、ということもなかった。

御馳走になった中国茶のキームンだろうか?あれはよかった、と思った。

ふと、園田は自分も茶を淹れてみたくなり、ベッドから立ち上がった。

東條から貰ったパックを鞄から取り出し、台所で湯を沸かし、勝手も分からずいい加減に作ってみた。

しかし、口にすると、御馳走されたものと比べ、ひどく香りが死んでいるのがわかった。

ああ、この、へたくそめ、なんてもったいないことを、と園田は自分を詰った。

今度は上手くやりたい、紅茶の淹れ方を教わりに、いつかもう一度、東條の家を訪れよう。

そう思ってから、園田は、友人に会う理由を欲しがっていたことに気が付き、独り笑った。
40: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:03:35.38 ID:30oXVwbn0(5/9) AAS
寝る前に、園田は今日の事をノートに書きつけた。

恋そのものは見つからなかった。

だが、恋の反例を見つけるという意味では、僅かながらも真相には近づけた、と思った。

 恋は友情ではないようです。

 私の理解では、恋は愛から生まれ、より深い愛を求める感情のはずです。

 でもやっぱり、お互いの立場がすでに固まってしまっている友情とは、すこし違う様な気がします。

 ただ、遠くもありません。些か衝動に欠けているだけで、友情から転じる恋もあるでしょう。

 友情と恋は、どうやら延長線上ではなく、平行線上にあるようです。

 それに、友情を恋にするのは少々もったいなくも思えます。これはこれでかけがえのない関係でしょう。

園田は予め頭の中で何を書くか決めていたわけでもなかった。

ただ、新たな事実に気が付きながら、それを紙に書きつけた。

こういう僥倖があるから、何時も日記をつけるようにしていた。

そして、否定の形から入ったとはいえ、今日は今日で、恋に近づけた気がした。

あながち無駄な日でもなかった。東條に感謝の意を込めて、園田は眠った。
41: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:04:20.49 ID:30oXVwbn0(6/9) AAS
二日目の朝であった。明日までに恋の秘を明かさねばならなかった。

ともかく、時間が押している。園田は次に訪れるべき友人を考えた。

高坂、南の二人は、共に過ごした時間も長く、あまりに親しすぎた。

単純に、彼女たちから新しい何かが見つかる自信が無かった。

そうなると、小泉、星空、西木野、絢瀬。

結局、都合がついたのが小泉だけであった。

何にせよ、園田にとっては自分の埒も無い空論に付き合ってくれる者がいただけで、有り難かった。

彼女の貴重な時間を拝借する事に手を合わせる気持ちで、家を出た。
42: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:05:31.71 ID:30oXVwbn0(7/9) AAS
小泉の希望で、待ち合わせ場所は秋葉原駅、ガンダムカフェと云うところの前だった。

園田は雑踏は好まなかったが、友人の希望とあらば断わるほどのものでもない。

時間のはずだが小泉はいなかった。刻限に疎い性格でもないはずだったので不審に思った。

園田が視線を回すと、少し遠くに黄色のパーカーを着た小泉が見つかった。

小泉の目の前には屈強な、筋骨隆々とした男性が、ひとり、ふたりいた。

小泉は腕を曲げたり回したり、カクカクと動き、彼らに対して奇怪な動きをしていた。

園田が見るに、明らかに、その姿は恐怖に震えていた。

この輩!園田は怒髪衝天し、気が付くと小泉の方に向けて走り出していた。

小泉を抱えるように男たちの前に躍り出て、鋭い目を向けた。

「花陽、大丈夫ですか、どうしました!」

「あっ!海未ちゃん、助けてよぉ……」

「なんと、殿方がよってたかって、こんな女性を!恥を知りなさい!」

「ええっ……なんか違うよ、海未ちゃん、英語できる?」

「えっ」

「えっと、英語……」

「どういうことですか」

「この人たち、道に迷ってるみたいだけど、英語で話しかけてくるからわかんないの、うわぁん」

「ははっ……左様ですか」
43: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:06:47.64 ID:30oXVwbn0(8/9) AAS
園田は昨日に続き、又もや醜態を晒した己を恥じた。

園田は近頃、どうも自分で思っていたより自分は冷静な人間でないのでは、と考えるようになっていた。

そうすると、過去の振る舞いを回顧して、ますます慙愧に堪えなくなるのであった。これではほんとうの馬鹿ではないか!

さて、園田がぽかんとしている内に、二人の外国人は怒鳴られたことに怯えてどこかに消えてしまった。

嗚呼、異邦人たちよ、誠に申し訳ない。

私という卑俗な人間を目の当たりにしても、どうか日本を嫌いにならないで頂きたい。

園田は心の中で必死に陳謝した。念のため「I'm sorry」とも心の中で呟いた。

小泉は感謝の旨を述べたが、それもこの上傷口に塩を擦り込まれる思いだった。
44: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/13(木) 02:14:09.37 ID:30oXVwbn0(9/9) AAS
今回はここまで
45
(1): VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/13(木) 02:23:00.36 ID:NV91PEd4O携(1) AAS


小泉と言われてもピンとこねーんだ
46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/13(木) 08:20:05.26 ID:/A8yRhGQo(1) AAS
>>45
泉ピン子かと
47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/13(木) 11:25:51.06 ID:bQL1EMHyO携(1) AAS
めっちゃ乙
48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2014/11/13(木) 12:01:50.63 ID:GZq60CBfO携(1) AAS
園田ちょっと走った!
49: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/18(火) 02:14:46.48 ID:0bPObFrQ0(1/12) AAS
「どうして今日は秋葉原なんです」

園田は尋ねた。

「今日はもともと一人で来るはずだったの、でも海未ちゃんが声かけてくれたから、一緒に行こうかなぁって」

「成程、つまり、私は実は花陽を誘ったのではなく、花陽に誘われたんですね」

「ええっ、そうなるのかなぁ」

「いえ、すみません、どっちでも構いませんね。さぁ、今日は楽しみましょう」

「そうだね、うん」

園田はひとまず安堵した。

先ほどは取り乱したが、小泉と二人でいる限りはとりわけ難事は起こるまい、と。
50: ◆pjcAosyDG/fJ [saga] 2014/11/18(火) 02:16:15.72 ID:0bPObFrQ0(2/12) AAS
園田は小泉の横、正確にはやや斜め後ろに位置しながら、道路を闊歩した。

人波は、氾濫した川の如く横断歩道で堰き止められ、頭上のランプが青に切り替わると決壊したように溢れ出し、再び動き出した。

秋葉原と云う町は、或る種では狂瀾怒濤の町。ここでは全てが溶質として受容され、溶融し、それ自体が溶媒となる。

だが、或る種では平穏な桃源洞裡。この町では秩序を定めるのが法ではなく、訪れる人々の目的意識によるものであろう。

群衆は無秩序に見える。然れども、彼らは確かに、何かを渇望し、そのために此処を訪れている。その意味で彼らは結束しているのだ。

玉石混交というより、此処は大きな掃き溜めだ。虐げられた文化たちの埋め立て地。だからこそ此処は夢の島でもあるのだ。

園田は、たとえそれが恋という無形物であろうと、「何か」を求めるには、ここ程相応しい町もないのでは、と合点した。
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