[過去ログ] 【艦これ】赤城「……さて、と」提督「昔話を、しようか」 (1002レス)
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820: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:06 ID:WQWBkUhi0(1/29) AAS
………
……



提督の私室


提督「痛たたた……お前だけすまんな」

足柄「ほんとに何やってんのよ……」

一番被弾の少なかった足柄に抱かれて、提督は私室へと運ばれた。
他のメンバーは風呂へと向かった様だ。

提督「それは隼鷹に言え隼鷹に……」

足柄「……もう、艤装付けてなくても、艦娘は丈夫だから落ちた所で大丈夫よ。
人間の方がヤワなんだから……」

提督「でも、落ちたら痛いだろ?」

足柄「そうだけど、そういう問題じゃないわよ」

提督「そういう問題じゃない、とは?」

821: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:07 ID:WQWBkUhi0(2/29) AAS
足柄「……論理的じゃないわ」

提督「……論理的で無いと、そう思うのか?」

足柄「……だから、隼鷹なら落ちても大丈夫ーー」

提督「いや、落ちたら痛いだろう。
だから俺はその痛みを軽減しようとした。何かおかしかったか」

足柄「……じゃあ、非効率的、と言うわ」

提督「感情とは非効率的な性質を持っているんだ。それを排するのは違うな」

足柄「……あたしが言いたいのは、隼鷹が丈夫って事よ。
少しの間痛むだけ、最悪でも入渠で、あなたが腰を痛める必要は無かったわ」

822: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:08 ID:WQWBkUhi0(3/29) AAS
提督「……俺の心配をしてくれるのは嬉しいが……まぁ、なんだ。
あまり艦娘を強度で評価するな」

足柄「……あたしはそんなつもりじゃ……」

提督「わかってる。
ただ、俺が好きじゃなくてな……
お前達は無機物じゃない。
他の人間は、そう思わせたいのかもしれないが……
少なくとも、俺はそうは思わん。
すまんな」

ポンポン、と足柄の頭に手を置く。

まただ、と足柄は思う。
時折この男が言う事。
それは足柄の心を酷く、乱した。
よくわからないままに。

足柄「……なんでそんな甘いのよ」

提督「普通の事だ。お前が『異常』に慣れ過ぎている」

足柄「……」

提督「運んでくれて助かった。
お前も風呂に行ってくれて構わん。
夕方には船でサセン島に戻るぞ」

足柄「……あなたはどうするの?」

提督「痛みはマシになってきている。
杖でもつけば大丈夫さ。
ほら、行ってこい」

足柄「……ん」
823: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:09 ID:WQWBkUhi0(4/29) AAS
………
……



南方基地、脱衣所


足柄(……別に隼鷹をモノ扱いしたかった訳じゃなかったわ)

服を脱ぎながら、考える。

足柄(……そう見えたのかしら。
いや、でも艦娘って丈夫だし……
……あたしは提督の体を心配しただけなんだけどなぁ……
……それだけあたし達が大事にされてるってことよね)

ため息。

足柄(あたし達を兵器じゃないなんて言い切るのは……
少なくとも提督くらいしか、あたしは見たことがない)

服を脱ぎ終え、浴室への扉へ手を掛け。

足柄(あたしはどこへ行っても鉄屑扱いされるのが嫌だった。
それで反抗してトバされた訳だけど……
いざ、兵器じゃ無いと断言されると、なんか、ヘンな感じ。
……何なのかしら、これ)

不完全燃焼な心模様のまま、ガラガラ、と戸を引いた。

824: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:09 ID:WQWBkUhi0(5/29) AAS
隼鷹「……お。足柄」

足柄「……なんで、あんたも入ってんのよ……」

隼鷹「うへへ」

鳳翔「提督は大丈夫でしたか?」

榛名「私達は蛍光液塗れだったので、ご一緒出来ませんでしたが……」

足柄「ヘラヘラしてたわ。心配するだけ損よ損」

雷「あらそう?なら良かったわ」

と、足柄の後ろの扉が開き、18戦隊の面々が入って来た。

金剛「気絶したままの摩耶が重いヨ……コホンッ」

陽炎「こ、腰がなんかヘンよ私は……」

翔鶴「転けないでよ?……あら、皆さん」

足柄「お疲れ様です……
お風呂、お先に頂いてるわ」

翔鶴「お疲れ様でした。大丈夫ですよ」
825: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:10 ID:WQWBkUhi0(6/29) AAS
と。

金剛「足柄サン……」

足柄「……!」

金剛が摩耶を肩に抱えたまま、スッと前に出た。
浴室内の空気が緊張する。

見ると摩耶はかなり派手にやられていた。
先日の応接室でのやり取りを見ても、金剛は気が長くは無さそうだ。
今も怒っているのかもしれない。

そう考え、少し身構える足柄に。

金剛は、スッと、手を差し出した。
そして、笑顔で。

金剛「Gratz!見事だったネ!」

足柄もその手を取り。

足柄「ありがと。
ナイスファイト!
ふふ、怒ってるのかと思ったわ」

金剛「Why?ワタシ達は仲間デース!
得るものや悔しさは有っても、憎しみはアリマセン!」
826: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:10 ID:WQWBkUhi0(7/29) AAS
………
……



金剛「最後、負けるとは思わなかったネ〜」

足柄「うふふ、実際運が良かったわ」

金剛「そうカナ?あの魚雷、that was epic!」

足柄「あら、ありがと」

金剛「どういう戦略でアレをー?」

足柄「えっとねーー」

金剛は修復槽に摩耶を突っ込み、自身もそこに浸かりつつ、足柄との談義に花を咲かせていた。

金剛「ワタシも飛行機、飛ばそうカナ。便利?」

足柄「有ればとても役に立つわ。攻撃以外でも、ね」

金剛「うんうん。初撃は完全にしてやられたしネー。
……よし、決めた。ワタシも艦載機を載せるネ!
翔鶴!翔鶴ー!」

翔鶴「はいはい、聞こえていますよ」

金剛「明日……No、今晩、艦載機の使い方を教えて欲しいヨ!」

翔鶴「あら。良いわよ」

金剛「Thanks!鉄はhotな内にシバくに限るネ!」
827: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:11 ID:WQWBkUhi0(8/29) AAS
足柄「だってよ、隼鷹?」

隼鷹「くっ……鳳翔さん!アタシ達は今から訓練だ!」

鳳翔「……はい?」

金剛「What?!……翔鶴、ワタシ達も今からやるネ!」

翔鶴「落ち着きなさい……修復中でしょう」

金剛「Shit!」

足柄「……あなたは、真摯ね」

金剛「そ、そうカナ?」

足柄「ええ」

金剛「あ、アリガト」

金剛(……シンシ……紳士?
私が紳士……?え……?
Shitって言ったばかりよ……?)

日本語が分からず、悶々とする金剛の姿を見て何を勘違いしたのか、足柄は続けた。

足柄「……あなたは……自分を兵器だと思う?」

金剛は暫くキョトンとしてから、微笑んだ。
それを見て、足柄はなんだか慌てる。
828: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:12 ID:WQWBkUhi0(9/29) AAS
足柄「ごめんなさいね、急に。
……あなたが……戦いに対して……とても真面目だから。
少し、不思議で」

金剛「……提督に、何か言われたのネ」

足柄「……んー……直接ってわけでもないけど……
遠からずって所かしら」

金剛「『お前達は兵器じゃ無い』って感じデース?」

足柄「……まぁ、その通りね」

金剛「Fmm……質問を質問で返すようデスが……あなたは自分を兵器だと思うデスカ?」

足柄「……多少は、ね。
意思のある……兵器だと」

金剛「……ナルホド」

足柄「……あそこに隼鷹が居るでしょう」

金剛「ハイ」

足柄「提督、さっき隼鷹のドジをかばって怪我したのよ」

金剛「それは本当デスカ?大丈夫なのデス?」

足柄「ああ、本人はピンピンしてるんだけどね。
ただ、別に隼鷹は艦娘なんだし、それくらい庇わなくても大丈夫って言ったら……『痛いだろ?』って。
艦娘は無機物じゃないってさ」

金剛「……」
829: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:14 ID:WQWBkUhi0(10/29) AAS
足柄「あんたの方が痛いでしょって思うんだけど!」

金剛「Haha You got it!……デモ、提督はそんな人デス」

足柄「そうね……
ただ……」

金剛「……?」

足柄「あたしが兵器じゃ無いなら、なんで戦ってんだろって。
提督が来てから……そんなことが頭の中に生まれてきて……
考えないようにしてたんだけれど……」

金剛「Ah……」

足柄「認めたくないけど、あたしのアイデンティティーは兵器である事なのよ、きっと。
それが嫌で、反抗していたはず、なんだけどなぁ……」

金剛「……」

足柄「ねぇ、金剛さん。
あなた、本当に強いわ。
今回は、私の運が良かっただけ。
沢山訓練積んで、場数も踏んでるわよね。
……だから聞くわ。
あなたは何故、戦うの?って」
830: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:15 ID:WQWBkUhi0(11/29) AAS
金剛「ワタシは……」

チラリと、気絶したままの摩耶や、鳳翔達と話す翔鶴に目をやる。

金剛「艦娘を、ヒトを、守りたい」

足柄「……」

金剛「今、皆が居て、ワタシは幸せデス。
この時間を守りたいんダヨネ」

足柄「……ヒトってのは……ヒト?」

金剛「そうだヨ。
ヒトは……艦娘を嫌う者も多いネ。
でも、今私に酷い事を言うヒトであっても、大切な家族がいて、幸せな時間があって。
ワタシは……皆の、幸せの礎になりたい」

足柄「……幸、せ」

金剛「その為には、強くならなきゃいけないネー。
それが、真面目な理由ダヨ」

足柄「……他の者の、為に?」

金剛「Hahaha!まさか!全部、ワタシのエゴデース」

足柄「……?」
831: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:17 ID:WQWBkUhi0(12/29) AAS
金剛「例えば、皆がやられたら。ワタシは悲しくなるネ。
例え、誰か知らない人が死んでも、ワタシは悲しくなるヨ。
守るのは、失うと、ワタシが、自分が悲しいから。
Loveなんて……結局そんなモノネ。
ワタシはそう思うヨ」

足柄「……」

金剛「足柄、問いへの答えをあげるネ」

足柄「……?」

金剛「ワタシ達は兵器じゃ無い。ワタシ達は人間でも無い。
ワタシ達は、艦娘ダヨ」

足柄「……艦娘」

金剛「……まぁ、それは提督が言ってた事だケド。
あの人はイジワルだからネ!
意味を聞くと、自分で考えろ、と言われマース!」

足柄「なんだか、提督らしいわ」

金剛「……足柄」

足柄「……ん?」

金剛「ワタシは……あなたが少し、羨ましいデス」

足柄「……?」

金剛「提督の元に居られる事デスヨ」

陽炎「えっ……」

今まで金剛の隣で、ずっと黙っていた陽炎が驚きの声を上げた。

陽炎「……ここは嫌なの?」

832: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:17 ID:WQWBkUhi0(13/29) AAS
金剛「まさか!ワタシは皆を愛してマース!勿論……陽炎もネ!」

陽炎「わわっ……抱きつかないで……は、恥ずかしい……」

金剛「太郎さんも、とても優秀デスヨ!自慢の司令デース。
ただ……提督は……特別なのデスヨ。
あの人は……艦娘に考えさせマース」

足柄「……?考えさせる?」

金剛「まさに『何故戦うのか』とかデスヨ」

足柄「……」

金剛「艦娘に『時間』を与えてくれるのは……あの人だけデス。
他の人には、そうする気が無かったり、現状で一杯一杯だったり……
イロイロ難しいのデース。
艦娘の自由時間を増やすと、司令の負担も増えマスから」

足柄「……そうね」

思えば、提督は毎日遅くまで執務をしていた。
足柄はいくつかの基地を転々とした経験が有るが、特に辺境の基地など、司令があそこまで働いている事は無い。
自分達が食堂で雑談をする、そんな時間を作る為に、あの人は一人で仕事をこなしていたのだろうか。

833: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:18 ID:WQWBkUhi0(14/29) AAS
金剛「まぁ、悩むのはしんどいデスが……悩んだからこそ、得られる答えも有りマス」

足柄「……」

金剛「そういう事を経験してから、忙しい前線に来ると……
悩んでいた事がとても懐かしくて……それで、羨ましいのデース」

足柄「……そう」

金剛「提督に、悩みを打ち明けるのも良いと思いマスヨ!
きっと……喜びマス」

足柄「喜ぶ?」

金剛「ハイ!ワタシの時は……喜んでマシタ」

足柄「……変な人ね、提督って」

金剛「そこがイイ!」

足柄「あなたも、変な人」

金剛「What?!」

うふふ、と笑う。

足柄「あ……そうだ。
一つ聞いていいかしら」

金剛「?」

足柄「提督って……
教官の前は……何をしてたの?」
834: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:23 ID:WQWBkUhi0(15/29) AAS
金剛「んー……実はワタシもよく知らないのデース」

足柄「……そう」

金剛「質問したことは有るのデスが……
頑なに教えてくれなくって……」

足柄「……」

金剛「ただ……
世の中には知らない方が良い事、知らなくて良い事が有るデス。
提督が話さないのならーー」

足柄「わかってるわ。ほんの好奇心よ。
……んー、逆上せちゃったかも。
そろそろ上がろうかしら。
……色々ありがとね、金剛さん」

金剛「いえいえ!こちらこそ艦載機とか参考になったヨ!アリガトー!」

足柄「じゃ、またね」

金剛「あ、そうデース。
一つだけ確かな道標をあげマース」

足柄「?」

金剛「人間でも、兵器でも、艦娘でも。
深海棲艦は、共通の敵デース」

足柄「……」

金剛「アイデンティティーは変化しマス。
ケド、これは絶対に変わらない、事実デース」

足柄「そう、ね」

金剛「……折角なので、ゆっくり考えるデース」

足柄「……そうするわ。ありがと。
……こんな話が出来る人、居なかったから。
なんというか……助かったわ」

金剛「それは良かったデース!
お互いをあまり知らないからこそ、話せる事もありマスから、ネ」

足柄「そうね……それじゃ、また」

835: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)00:25 ID:WQWBkUhi0(16/29) AAS
ここまで
846: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:19 ID:WQWBkUhi0(17/29) AAS
足柄(何で勝ったのに、こんなにモヤモヤするかなぁ……)ガラガラ……

榛名「あ、足柄さんが出ましたね」

鳳翔「あら……」

雷「逆上せたのかしら?」

隼鷹「ほうほう、んでんで?」

翔鶴「偵察機を飛ばす時は、全機の視界で一枚絵を作るイメージで飛ばすと良いですよ」

隼鷹「一枚絵……ナルホドなぁ」

翔鶴「景色の流れ方が違うと、見落としが発生したりしてややこしいですが……」

隼鷹「ほむほむ」

雷「こっちはこっちで話し込んでるわねぇ……」

鳳翔「交流するのは、良い事です」

金剛「なら、交流しまショウ!」

榛名「こ、金剛さん?!修復は……」

金剛「もう大丈夫デース!」

鳳翔「それは良かったです」

金剛「しっかし榛名は強かったデスネ!」

榛名「そ、そうでしょうか……えへへ」

鳳翔「……摩耶さんと陽炎さんは大丈夫ですか?」

金剛「ンー。傷的な意味では問題nothingなのデスが……
陽炎がすっかり榛名を怖がってしまって……」

847: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:20 ID:WQWBkUhi0(18/29) AAS
榛名「え……?」

雷「そんな心外そうな顔をしなくても……」

榛名「いやぁ……大分手加減したつもりだったのですが……」

陽炎「……あれで、ですか?」

榛名「あら、陽炎さん」

榛名が振り返ると、そこには険しい顔をした陽炎が。

陽炎「もう少し、摩耶への配慮とか、ないんですかっ……」

榛名の目が細められる。

榛名「配慮しましたよ?」

陽炎「摩耶はあんなに血を流してっ!」

金剛「陽炎」

陽炎「だって、やり過ぎじゃないの!私の艤装だってーー」

金剛「陽炎。Cut it out.」

陽炎「でもっ!いくら提督さんの所だからって、勝手が過ぎーー」

ピクリと、榛名の眉が動く。

榛名「あなたを誘う為に……わざと派手に出血するようにと、顔面と胃を狙いましたから。
手心は加えてますってば」

848: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:20 ID:WQWBkUhi0(19/29) AAS
陽炎「誘うって……!
納得がいきません……!
私達は、仲間じゃ、無いんですかっ」

榛名「……はぁ……仲間、ですか」

溜息。

雷「ちょっと榛名……」

榛名「とにかく、艦娘はあの程度では死にません。
修復槽に突っ込めば傷も残らないでしょう」

陽炎「そういう問題じゃーー」

駄々を捏ねるように繰り返す陽炎に、榛名は苛立ったのか。
予備動作無しで陽炎の喉元に手を伸ばした。

決して素早い動作ではない。
だが、誰も反応出来ずに。
榛名の人差し指は、いつの間にか陽炎の喉仏あたりをツンツンと突いていた。

849: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:21 ID:WQWBkUhi0(20/29) AAS
陽炎「ひっ……」

金剛「榛名!」

鳳翔「榛名さん!」

無視して続ける。

榛名「良いですかぁ……?
艦娘なんてのは、喉仏を陥没させただけで戦闘不能になります。
それは締め落とすよりも、遥かに楽なんですよ……?」

陽炎「く、訓練なんだからっ……
そんな、殺すようなっ……」

今度はグリグリと喉仏を押して。

榛名「うふふ。喉仏潰したくらいじゃ死にませんよ?」

陽炎「わかんない、じゃない……」

榛名「わかりますよ。私自身、何度も潰された事がありますから」

陽炎「……っ」

不気味に嗤いながら言う榛名の言葉には、重みがあった。
榛名の人差し指に力が篭る。

榛名「寧ろ、後遺症が残らぬようにと、丁寧に対処した事を感謝してーー」

隼鷹「榛名。
そろそーろ……おイタが過ぎるぜ」

そこで隼鷹が、榛名の人差し指をそっと、しかしがっちりと握った。

榛名「……」

榛名は不満気だが。

鳳翔「ーー提督に、ご迷惑がかかりますよ」

側から見ていた鳳翔のその一言で、矛を収めた。

榛名「……ごめんなさい。
私、もう上がりますね」

850: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:22 ID:WQWBkUhi0(21/29) AAS
鳳翔「……」

去り際に。

榛名「ああ、陽炎さん。重要な事を言い忘れてました」

陽炎「……?」

榛名「強い味方に守って貰う事が、『仲間である』事ですか?」

陽炎「……」

榛名「それは、甘えですよ」

陽炎「……!」

陽炎は、何も言えなかった。

榛名「では」

陽炎「……」

雷「もー……
ウチのポンコツが色々ごめんなさいね……」

雷も謝るが、内容を否定する事はなかった。

851: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:23 ID:WQWBkUhi0(22/29) AAS
金剛(こりゃまた、榛名の思考は足柄とえらい違うわね……)

陽炎「……」

金剛「陽炎」

陽炎「……?」

金剛「悔しければ、強くなるネ」

陽炎「……」

金剛「失敗した事は、あなたがよくわかっているヨネ。
でも、その悔しさは怒りじゃなくて、自分への努力に向けるべきダヨ」

陽炎「……ごめん……なさいっ」ダキッ

金剛「よしよし。
嫌な事は、涙で流しちゃうに限るヨ!」

陽炎「うわぁぁぁ!」

鳳翔「……我々は退散、しましょうか」

隼鷹「んだね。
またね、翔鶴さん」

翔鶴「……はい」

鳳翔(しかし……榛名さん。
提督という単語にとても敏感になっている……
一体何があったのですか?)

何故だか、モヤモヤする。
何だろう、この気持ちは。

852: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:24 ID:WQWBkUhi0(23/29) AAS
………
……



陽炎「えぐっ……えぐっ……」

金剛「……」

翔鶴「……」

摩耶「ん……あ?」

金剛「'morning.」

摩耶「あ……ふ、ろ?
そうか……アタシは……
!え、演習はどうなった?!」

金剛「負けたヨ」

摩耶「……そう、か……
……多分、アタシのせいだよ、な……」

金剛「まぁ、それも一因ネ」

摩耶「ほんと、ごめん……
舐めてたよ」

翔鶴「……だからあれ程言ったのよ。
あの人は……危ないの」

摩耶「……ごめん」

金剛「まぁ、これで学んだデショウ。
あなたの弱さを。ダメなトコロを」

摩耶「……ああ」
853: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:24 ID:WQWBkUhi0(24/29) AAS
金剛「Good. 陽炎もそろそろ泣き止むデース」

陽炎「……グスッ……ハイ……」

金剛「この後ディブリーフがあるから、細かい指摘はしマセン。
ただ、ワタシ達は今回、全員がミスをシマシタ。
そして、全員が死にマシタ。
たとえ擬似的なモノでも」

翔鶴「……」

金剛「敵の実力。こちらのミス。
全てを客観的に受け止め……
この死を……meaningfulなモノにしまショウ」

陽炎「……」

金剛「Now. Let's change before we have to!」

変革しよう。
真に変革が必要になる前に。

翔鶴「……ええ!」

金剛「We gotta carry this fucking defeat on!But……」

ニヤリと。

金剛「Let us have the last laugh, ladies!」

最後に笑うのは、私達だ。
854: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:25 ID:WQWBkUhi0(25/29) AAS
………
……



暫く後……
夕刻前、南方基地、港


太郎「提督さん!」

提督「……おお、太郎くん。忙しいところ、見送りさせてすまないな」

船へと向かっていたサセン隊が振り返ると、そこには18戦隊の面々。

太郎「いえいえ……それよりも、腰は大丈夫ですか?」

提督「大丈夫だ。すまんな……万が一クレーンに異常が見つかったらサセン島宛で請求してくれ」

太郎「いえいえ、それには及びません。修理も可能ですし」

提督「そうか……おい、お前たち。
最後に挨拶しておいたらどうだ」

足柄「そうね」


金剛「足柄ー!これ以降は……二度とやられまセーン!
覚悟しておくネ!」

足柄「上等よ。何度来ても返り討ちにしてあげるわ!」


北上「じゃーねー隼鷹っち。
実況スキル上げといてね。
次はアタシと大井っちが演習に出るから、サ」

隼鷹「おおん?!アタシも出るぜ?!」

北上「うはは!そいつぁ楽しみだ!」

大井「そうね、ほんとに」


翔鶴「鳳翔さん。あなたの操縦、見事でした。
でも、次は……負けませんよ」

鳳翔「あら、うふふ。
では、次も……負けませんよ」


そうして、艦娘同士が別れを惜しむ中、提督と太郎は何やら深刻そうな顔をして二、三言葉を交わしていた。

ワイワイとしていたのも、束の間。
船の方から、出港準備完了の合図が出た。
855: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:25 ID:WQWBkUhi0(26/29) AAS
提督「そろそろ行かねば……」

太郎「提督さん……」

提督「……昨日も言ったが……
まぁ、一応、頼む」

太郎「…………はい」

提督「うむ。達者でなーー
おい、お前たち!そろそろ時間だ!」

何やら煮え切らない様子の太郎を残し、提督は船へと進んでいく。

そして、全員が船に乗り込む直前。
それまでずっと黙っていた陽炎が叫んだ。

陽炎「……榛名さん!」

榛名「……」

言葉は返さずに、冷たい視線で陽炎を一瞥する。
が、陽炎はそれに構わず、続ける。

陽炎「……私は、私は強くなるわ!
あなたを打ち倒して見せるんだから!」

北上「ヒュー!大きく出たねぇ」

大井「もう……」

陽炎のその叫びに対し、榛名はニコリともせずに。

榛名「また、会いましょう」

と、一言だけ。

そうして、サセン隊は南方基地を去った。
856: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:26 ID:WQWBkUhi0(27/29) AAS
………
……



帰路、船の航行中、甲板


隼鷹「うっす。夕日がきれいだねぇ」

提督「……ああ、お前か。
……そうだな。綺麗だな」

隼鷹「ん。腰大丈夫?」

提督「大丈夫だ。……それより、他はどうした?」

隼鷹「皆、寝てるよ。疲れてるみたい。榛名は起きてたけど、1人は残っとかないとね……」

提督「そうか……」

隼鷹「ね、最後、太郎さんと怖い顔してたけど、何話してたのさ」

提督「……ああ、アレは……まぁ、戦術の話さ」

隼鷹「ふーん……あ、戦術と言えば!」

提督「ん?」

隼鷹「何で、演習で、最初に北上したの?
やっぱり不利になったじゃん。
最初から南に居れば、もう少し楽だったんじゃ無いの?」

提督「ああ、それか」

隼鷹「アタシの頭じゃ、理由がわかんなかったよー」

857: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:33 ID:WQWBkUhi0(28/29) AAS
提督「皆、『船』の概念にとらわれ過ぎだ。
お前たちは艦娘だぞ。
お前の二本の足は何の為にある?」

隼鷹「何って……そりゃ、歩く為だけど……
……え?まさか……敵が島の北を徒歩で渡る、と?」

提督「それは大変な不意打ちになる。
だから、それを警戒しての事だ。
島には木々が茂っているからな。
空からでは小柄な敵が見えなくなるのさ」

隼鷹「待ち構えるって事?」

提督「正確には、空母の艦載機を何往復もさせる事で、なんとか木々を吹き飛ばして敵を炙り出すのが目的だ。
それをするには、島の近くに空母が居ないと効率が悪い。
ただでさえ発見が難しいからな」

隼鷹「な、成る程?」

提督「北から上陸し、西へ抜けるのが向こうからすると、最も安定したルートだった。
北に出れると攻撃側は非常に有利だったからな。
それで艦隊を北へ向かわせた訳だ」

隼鷹「へぇ……
……でもまぁ、普通考えないよね、上陸なんて……」

その応答に提督は、フッと笑って。

提督「どうかな。
俺が攻めなら、そうしたさ」
858: ◆hsyiOEw8Kw [saga] 2015/06/15(月)23:34 ID:WQWBkUhi0(29/29) AAS
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